「ねえ、シンジ、プール行こう」

「え?」

いつもの事ながらアスカは突拍子もない事を言い出す。

「ど、どうして」

「暑いからよ!」

 

夏の…

 

そんなことで僕は今、市営のプールにいる。

もちろんアスカが一度言い出したら聞かないからだ。

ちなみにアスカはまだ水着に着替中である。

ここ数ヶ月で『女の子の着替えは時間がかかる』ということを身をもって知らなければどうしたんだろう?と思っていたかもしれない。

でも困ったな…

「お待たせ、シンジ」

どうやらアスカの着替えも終わったようだ。

ちなみに今日は青が基調のセパレーツである。

(か、かわいい…)

「???どうしたのぼ〜っとして?」

「え!?い、いや、前の水着と違うなあと思って」

まさか見とれていたなどと言えるはずも無い。

言ったが最後、「バカ!変態!エッチ!」などと言われるのは目に見えている。

僕も多少は学習したんだから…

「ふ〜ん。本当は見とれていたんじゃないの?」

アスカがニヤニヤしながらそう言う。

す、するどい。

僕は照れ隠しのため「そんなわけないだろ!」なんて言ったけど、自分でも顔が赤くなっているのがわかるんだから、説得力無いだろうなあ…

「ま、そういう事にしておいてあげるわよ。ほら、泳ぎましょ!」

アスカにしては珍しく、これ以上の追求はしないようだ

しかし…

困った…本当に困った…

でも、このままにはして置けないだろうし…

やっぱり言うしかない…

「ね、ねえアスカ…」

「なに?」

「あの、今ここに至ってこんなことを言うのは非常に申し訳無いと深く反省はしているんですが…」

「???だからなによ」

「人間というものはやはり得手不得手というものがありましてやはりこれはいかんともしがたく…」

「なにわけわかんないこといってんのよ。はっきり言いなさいよ!」

「…つまり…僕泳げないんだよ」

ガクッとうなだれるアスカ。そうだろうなあ…

「あああんたねえ、そういう事は早く言いなさいよ」

「いや、言おうとは思ったんだけど…」

「ホントにもう…で、どの程度なの?」

「…水に顔つけられる程度…」

「あんたねえ、保育園児より悪いじゃない。しょうがないわねえ」

そう言ってアスカは僕の方に手を差し出す。

「えっ?」

「特訓よ、特訓!あんたには今日中に泳げるようになってもらうからね!」

アスカ、その顔ちょっと怖いよ…

うう、今日中に泳げなかったらどうなるのかなあ…

 

 

「ほら、もっと足を強く動かして!」

そんなわけでアスカに手をひかれてバタ足の練習中。

でも周りの人も笑ってるし…ちょっと恥ずかしいなあ…

「ね、ねえアスカ。ちょっと恥ずかしいんだけど…」

「なんか言った!?」

「いえ、なんでも無いです」

ううう、いつにも増して怖いよぉ

「大体ねえ、このあたしが教えてあげてんのよ!もっと感謝しなさい!」

感謝ねえ…

う〜ん、でも考えてみればこんな美少女(黙っていればだけど)にマンツーマンで教えてもらえるんだからラッキーなのかな?

そうだ、きっとそうなんだ…そういう事にしておこう(僕の精神衛生のためにも)

「うん。ありがとう、アスカ」

僕はニッコリ笑いながらそう言う。

あれ?アスカ顔が赤くなったような?

「ああああんたねえ…」

え?怒ってる?しまった。僕何か間違えたんだろうか?

「あの…アスカ…僕何か変なこと言った…かな?」

我ながら情けないけどなんで怒ってるかわからない。

「な・ん・で・も・な・い・わ・よ!!」

そう言って横を向くアスカ。

良かった。どうやら最悪の事態は避けられたようだ。

いつもならあやまるくせに…シンジのくせに、シンジのくせに、何でシンジなんかに…

 

アスカが何かつぶやいているようだけどよく聞こえない。

そういえばもうかなり泳いでるな。

「ねえ、アスカ。ちょっと休憩しない?」

僕がそう言うとアスカははっとしたようにこっちを向く。

何か今日のアスカ変だな?

「え、な、なに?」

「だから休憩しないかなって…」

「あ、ああ、そうね。もちろんシンジのおごりよ」

「え〜そんなあ…」

まあいつものことなんだけどね。

 

 

「アスカは何がいいの?」

「あたしレモンフラッペ」

「じゃあ買ってくるね」

まあ、アスカは座ったまま動く気もなさそうだし…

でも何か僕って下僕みたいだよなぁ…

 

 

買い物から戻ってくると何人かの男がアスカに声をかけているところだった。

僕に気がつくと立ち去っていったけど、何も捨て台詞に『あんなののどこが』なんて言わなくてもいいだろうに…

まあ、自分でもそう思うけどね。

「はい、アスカ」

「遅いわよ、まったく。変なのばっかりよってきたじゃない」

「アスカもてるからねえ」

自分で言いながらも、なぜか胸がちくりと痛む。

あれ?どうしたんだろう、僕?

アスカはそんな僕の様子には気づかなかったようだ。

「何よ、あんなのうわべだけしか見てないじゃない。そんなのうれしくなんてないわよ」

(中身知ってたら寄ってこないよ…)

「何か言った、シンジ?」

「な、なんでもないよ(うわぁ、地獄耳)」

「ほら、少し休んだらまた特訓よ」

「うへえ…」

 

 

結局特訓はその後2時間ほど続き、なんとか10メートル程度泳げるようにはなった。

まあアスカに言わせると『講師が良かったからよ!』とのことだけど、少しは僕の努力も認めてほしい…無理だよね。

 

 

そんな事で帰り道。

アスカは一言も話さない。

ど、どうしたんだろう?

いつもならうるさいくらいに喋り続けるのに?

やっぱり今日のアスカはちょっといつもと違う。

「ね、ねえ、アスカ」

「なによ?」

「どこか具合でも悪いの?」

「ハア?なんでよ?」

「いや、いつもと何か違うから…具合でも悪いのかな…なんて…」

あ、ヤバイ、本当に機嫌悪くなってきたみたい。

ど、どうしよう。謝った方がいいかな?

でもまた内罰的って言われるかも…

大体今日はなんで怒ってるんだろう?

僕悪いことしたかな?

う〜ん…やっぱりあれかな?僕みたいなのを連れてて恥ずかしかったのかな?

うん、きっとそうだ!それしか思いつかない!

「アスカ、ゴメンね」

「なにが?」

アスカがきょとんとしている。

あれ、違ったのかな?でもそれしかないよね?

「だから…僕みたいなのと一緒で、迷惑だったろうと思った…んだ…けど…」

うわあ、最悪だ。逆鱗に触れたみたいだ。

「あんたバカァ?あたしがいつそんな事言ったってのよ!!」

「え?で、でもプールでもみんなに笑われてたし…確かに僕とアスカじゃつりあい取れてないし…」

自分で言ってて悲しくなってきたな…

「あんたねえ…まわりに何言われたって関係ないでしょ!それに誰と一緒にいたって、本人が良ければそれでいいじゃない!」

「でも…僕みたいなのじゃアスカに迷惑かかるし…」

あ、涙が出てきた。

情けないな…やっぱり僕はダメな人間なんだ…

不意にグイッと襟元をつかまれる。

 

バシンッ!

 

どうやらアスカにたたかれたようだ。

仕方ないよね、こんな男じゃ…って、えええ!?

僕の唇に触れる感触…

これって…アスカ?

 

「あ、アスカ…」

自分でも声が震えてるのがわかる。

「黙って…」

「う、うん」

 

沈黙が二人を包む…

10秒…20秒…

 

そっとアスカが僕から離れる…

「ア、アスカ…あの…」

困ったな…何話せばいいかわかんないや…

「暑さの…せいなんだから…」

「え?」

「暑さのせいでちょっとおかしくなったのよ!あんたもすぐ忘れなさい!」

いつものアスカに戻ったようだ。うれしいような、悲しいような…

「う、うん」

こういう時は素直に従うに限る。

「それでいいのよ。それとね、シンジ…」

「な、なに?」

「人を好きになるなんて理由は無いのよ…どうしようもないんだから…」

「そうだね…」

今はアスカの言ってることがなんとなくわかるような気がする。

「いい、すぐ忘れるのよ!この暑さがいけないんだから!」

アスカが顔を赤くしてそう言う。

わかっているよ…アスカ…だから今だけは…

僕はアスカと手をつなぐ。

アスカも最初はビクッと反応したけど、振りほどくようなことはしなかった。

「さあ、帰ろう、アスカ」

「そ、そうね、おなかも空いたし…」

「そうだね、今日は何にしようか?」

「う〜ん、ハンバーグ!」

「またぁ?アスカも好きだねえ…」

「何よ!文句あるの!」

「いいえ、ありませんよ。姫」

「うむ。ならばよろしい」

 

 

きっとそれは夏の日の魔術だったのかもしれない…

でも、明日も続くことを信じて…

 

END

 

 

あとがき

 

どうも、作者です。

なぜか急に短編が書きたくなって作ってしまいました。

まあ、プロット考えるのに30分しかかけてないので、内容については大目に見てね(^^;;

題名は田中芳樹先生の作品からつけちゃいました。<いいのかな?

ファンの人、怒らないでね

ではでは


マナ:おっちーさん、投稿ありがとうございましたぁ。

アスカ:まったく、泳げないなんて思わなかったわ。

マナ:なにも、バタ足から教えなくても・・・。

アスカ:ぜんぜん泳げないんだもん、仕方無いでしょっ!

マナ:あれじゃ、シンジ・・・きっと恥かしいわよ。

アスカ:泳げるようになったんだから、いいじゃない。

マナ:わたしだったら、もっと手取り足取り・・・やさしく教えてあげたのになぁ。

アスカ:そっか・・・手取り腰取り・・・その手もあったか・・・。

マナ:手取り足取りっ!

アスカ:え? そうだっけ?

マナ:まぁいいわ。シンジも泳げるようになったことだし、今度一緒にプール行こっと。

アスカ:なんですってーっ! そんなこと許さないわよっ!

マナ:この間、水着買ったから、使わないと勿体無いでしょ。

アスカ:アンタ1人で行けばいいでしょっ!

マナ:そんな寂しいことしたくないわよ。

アスカ:なら、ペンペンとでも行けばいいでしょっ!

マナ:わかった・・・。

アスカ:わかればよろしい。

マナ:じゃ、ペンペンと行くから、シンジに連れて来て貰おっと。

アスカ:最初っから、そうすればいいのよ。・・・・ん?
作者"おっちー"様へのメール/小説の感想はこちら。
ochiai@d2.dion.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system