綾波さんの義父さんは、偽りの家族である、レイさんの事をそこまで案じている事を知り、
僕は少し重苦しかった胸が軽くなったように感じた。
僕は椅子から立ち上がりながら思いを巡らせた。

お互いがお互いを必要としているのなら……偽りの家族でもいいかも知れないと……



アスカを訪ねて三千里

第10話「父と子



あれから二ヶ月の時が流れた……

「なんか、こういうの久しぶりだなぁ……」
僕は公園のベンチに座って似顔絵屋を開く準備をしていた。
綾波社長に提案した二日後には本決まりになったようで、ここで似顔絵を描いていた僕は綾
波社長が回した車に乗せられて、以来二ヶ月は綾波さんと綾波社長の手伝いをしていたのだ

すったもんだはあったものの、綾波さんの孤児グループ 総勢52人の内、
年齢にして中学生以上の子供36人が清掃会社”綾波クリンリネス”に入社する事になった
残りの18人は、社内での掃除道具の手入れや洗濯要員としてアルバイトとして参加する事に
なり、一人の欠落も無く 全員が綾波クリンリネスに加わったのだ。
今日は綾波社長が、入社する孤児達の正当な権利を取り戻す為に、
NERVに行く事になったので、今日は久しぶりに休みを貰ったので、
こうして店開きをしているのだ。

公園に来る前に郵便局から現金書き留めを孤児院に匿名で送った事もあり、
僕の心はこの青空のようにすがすがとしていた。
綾波社長から貰った二ヶ月間の給料と、似顔絵で稼いだお金の殆どを送ったのだ。
だから懐の中には僅かしか残って無かったが、このお金でエミコちゃんに何かおみやげを
買って帰ろうと僕は思っていた。

「今日はいい天気だな……アスカ……君もこの青空を見上げてるのかな……」
僕は膝の上に板と紙を置いて、空を見上げながら呟いた。


「ふぅ……お腹が空いたなぁ」 昼前になってばたばたと5人程お客が来たので、
すでに時計は一時を指していた。 僕は昼食を摂る為に近くのパン屋に向かっていた。

僕はパンを買い求めて、パンと牛乳の入った袋を手に公園に戻ろうとしていた。

「あれ、あのおじいさん……」 公園の入り口に入ろうとした時に、
見覚えのあるおじいさんが、いつものベンチの前で立っているのが見えた。
前に死んだお孫さんの絵を描いてあげたおじいさんに間違い無い……

僕は小走りで公園の中に入って行こうとした……だが

「碇……シンジ君だね」 黒い背広を身に纏った精悍な顔つきの男が二人、
僕の前に立ちふさがって言った。

「ええ……そうですが」 僕は二人の顔を交互に見ながら言った。
綾波さんのボディーガードでも無いし、前に来たヤクザでも無い……
僕は見覚えの無い二人を見て、嫌な予感が身体を包みはじめていた。

「我々はNERVの者だ……御同行願えるかな……」
二人とも背広の中に右腕を突っ込んだまま、一人が口を開いた。

「な、何で僕が……」 僕はNERVに連行されるような事をした覚えは……

「あっ……」 僕は綾波社長に ミサトさんのファイルから得たNERVの機密の一部らしき
情報を喋ったのを思い出して、顔から血の気が引いて行くのを感じた。

綾波社長が僕を売ったのだろうか…… 僕は一昨日の夜に綾波社長とレイさんに誘われて、
綾波家で夕食を共にした時の事を思い出した。 優しそうな笑みを浮かべた綾波社長……
終始機嫌が良く、喜んでいたレイさん…… それらはもう砕けてしまったのだろうか

呆然としていた僕の腕を黒服の男二人は左右から掴んで連行しようとし始めていた。

その時、車のタイヤが軋む音が道路の方から鳴り響いて来た。

「碇君っ」車が止まるや否や助手席のドアを開けて、レイさんが飛び出して来た。


「碇君をどこに連れて行こうとするの!」 レイさんは黒服の男たちのものらしい車との間
に立ちふさがって言った。

「NERVの公務です 民間人は引っ込んでいて貰いたい」黒服の男は表情も変えずに答えた。




「警察権の発動だと言うのなら、未成年を保護者の立ち会いも無しに連行するつもりなの?」
NERVは孤児相手には警察権の発動も許可されている組織だと言う事を僕は知らなかったので
綾波さんの言葉を聞いて少し驚いていた。
それより何より、レイさんがこうして駆けつけてくれた事が、僕には嬉しかった。
綾波社長が僕を売ったと言う訳では無いだろうから……

「彼はNERVの職員の家族として登録されている 職員の家族にも守秘義務がある事からも、
彼を連行する事を、未成年という理由だけでは止める事は出来ない」
黒服の男は綾波さんの前に立って眉一つ動かさず冷ややかに答えた。

「邪魔はなさらないで頂きたい……」
もう一人の黒服の男が僕を車の方に連れて行こうとしていた。

「待ちなさい!」NERVの制服を着たミサトさんが道路から僕達の方に向かって走って来た。

「これは、加持……いえ、葛城特佐ではありませんか……何の御用ですかな……」
綾波さんの前に立っている黒服の男が唇の縁に笑みを浮かべながら言った。

「シンジ君を離しなさい! 副司令から一日の猶予を取りつけたのよ」
ミサトさんは紅いNERVのカードを差し出した。

「ふむ……我々情報部は六分儀司令の直轄部門ですから、冬月副司令の命令には従う必要は
無いんですが……取り敢えず確認させて頂きましょう」 黒服の男は内ポケットから携帯端
末を取り出して、ミサトさんのカードを通していた。

「ふむ……A2級の指令書ですな……では、明日の朝 加持邱にお迎えに行きます」
黒服の男はミサトさんにカードを返して言った。

「加持特佐殿……もし、彼が逃亡すれば あなたも罪に問われる事をお忘れ無く……」
僕の腕を押さえていた黒服の男は僕の手を離しながら皮肉そうな笑みを浮かべて言った。

「行くぞ……」 黒服の男 二人はNERVの公用車らしい黒塗りの車に乗って立ち去った。

「乱暴されなかった?シンジ君」 ミサトさんは僕に駆け寄って来て言った。
僕のせいでミサトさんにまで迷惑をかけてしまったのに、ミサトさんはこれまでと変わらぬ
態度で僕と接してくれている事を思うと、僕の心の中は申し分け無さと嬉しさと悲しさが、
渦巻いていた

「碇君……」 そんな僕の気持ちを察したのか、レイさんが僕の手をそっと握ってくれた。


あの後、僕は綾波さんの乗って来た車に乗り、
ミサトさんの車を伴って綾波社長の家に向かっていた。
僕の絵の道具は誰かが回収にいってくれたそうだ。

だが、今日の連行は間逃れたとは言え明日以降の自分がどうなるのか、僕の心は不安に包ま
れていた。 不安を感じた時の癖で僕の右手は小刻みに震え 開いたり閉じたりしていた。

「レイさん……」 右の席に座っていたレイさんが僕の震えている右手を包むかのように、
両手で優しく握ってくれたので、僕は少し落ちつきを取り戻す事が出来た。

「あなたは……私が守るから……」
レイさんは僕の手を握りながら、自分自身に言い聞かせるかのように囁いた。

僕とレイさんを乗せた車は綾波家の駐車場へと向かっていた。

「初めまして 職場の方では葛城ミサトと名乗っておりますが、加持ミサトと申します。」
「まぁ、どうぞおかけ下さい」
ミサトさんは綾波家の応接室で僕達と綾波社長と共にテーブルを囲んでいた。

「加持弁護士の事は良く存じていますよ……加持弁護士には、私のグループの専属弁護士に
なって欲しかったのだが、4年程前に断られましてね」 綾波社長は笑みを浮かべて言った。

「今回の碇シンジ君へのNERVの警察権の発動は、私にも責任があるんですよ……」
綾波社長は笑顔を一変させ、苦渋を浮かべた。

「お父様……それはどういう事でしょう……」 レイさんは綾波社長を見詰めて言った。
「うむ……今日 私がNERVに交渉の為に行ったのは知ってるな……NERVの司令の六分儀君
と話していたんだが……以前シンジ君が少し教えてくれたNERVの機密の事に触れてしまった
のだよ……その話の時に……シンジ君を当社に迎えた事も一緒に話したんだが、これまでの
旧交も多少はあり、気心は知れている六分儀君が急に態度を硬化させてな……どこかに電話
をかけはじめたので、私はミスを犯してしまった事に気づいて、トイレに行って携帯フォン
でレイに連絡したんだよ……結局、今回の交渉では彼から譲歩を引き出す事は出来なんだ。」

「シンジ君……あなたが何故NERVの機密を知ってたの?」
ミサトさんは少し動転しているのか声を震わせて僕に問いかけた。

「あれは……ミサトさんが僕にIDカードをくれた日の事です……」
僕はあの日の事を思い出しながら話を始めた。
癖なのか、両手の指を組んでテーブルの上に乗せてしまっていた。

「ミサトさんにIDカードを受けとった後、ミサトさんが落とした資料の中に……
僕に関する情報や素行を書きこんで行くべき用紙があったんです……
ミサトさんには名前ぐらいしか言って無いのに、あの紅いカードには僕の情報が入ってると
聞いた事もあり、その日の夜はあまり眠れませんでした……
僕は夜中の二時頃にトイレに行こうとしてたんですが、ミサトさんの仕事部屋に電気が付い
ているのに気づきました。 ミサトさんはどうやらシャワーを浴びている様子だったので、
僕は昼間気になった資料を見てみたんです……丁度その日の分の僕のレポートを書いた直後
だったのか、バインダーを開くと、すぐに発見出来ました。 そのレポートには……ミサト
さんの筆跡で、その日の僕に関する情報が書かれていました。 また、今後の計画の所に…
…僕を使ってレイさんをおびき出して、レイさんの孤児グループの孤児全員を捕まえる計画
が書かれていました。

僕は真っ青になってしまい、資料を元どおりにしようとした時、一枚の紙がバインダーから
剥がれたんです。 重要な書類だと言う事を示す印鑑が大量に押されており、僕は元に戻そう
と思ったんですが、その文書の中に今後の孤児対策について書かれていたんです……」

ここまで話した段階で、ミサトさんが身体を震わせている事に気づいたが、
僕は先を続ける事にした。

「その文書の内容を要約すると……第三新東京市だけでなく、全国の孤児についても、
とある計画を推し進めようとしている事が解りました……第三新東京市はテストケースに
過ぎなかったんです……その計画とは……保護を嫌う孤児や中学を卒業後、受入れ先の無い
孤児達を第三新東京市の地下にある広大な施設に集めて、戦闘訓練を積ませ……そして、
傭兵として紛争の絶えない世界各国に配備する事だったんです……普通の兵士にはさせられ
ないような、地雷を抱いての戦車への攻撃等……孤児の人権どころか人間の尊厳までもを、
踏みにじるような計画でした……その計画には孤児の洗脳も含まれていたんです。」
僕は全てを話して少し肩の荷が降りたように感じた。

ミサトさんは顔を蒼白にしたまま、唇を噛み締めているようだったが、何も口にはしなかった
いや、口にする資格が無いと思いこんでいるのかも知れない……

レイさんも顔を強ばらせていた。

「孤児がちゃんと働ける事を世に示す事になる、今度の私達の”綾波クリンリネス”の創設
は、NERVにとって邪魔でしか無いと言う訳か……だから主要人物であるシンジ君を……」
綾波社長は手を振るわせて言った。

「御主人様……お電話です」 綾波家の執事が入って来て、綾波社長にそっと告げた。
「ふむ……誰からだ」 「NERVの六分儀司令だそうです」 「ふむ……」
綾波社長はコードレス受話器を受けとった。

「綾波です……ええ……そうですか……しかし、それは……解りました 代わります」
綾波社長は保留にしたコードレス受話器を手に振り向いた。

「シンジ君……六分儀司令が君と話したいそうだ」

「僕……ですか……解りました」 僕は六分儀と言う名字に覚えがあるような気がしていた
所に、この電話だったので、少し動揺していた。

「はい……碇シンジです」 僕は唾を飲んで受話器を取り、保留を解除した

「ひさしぶりだな……シンジ」 僕は忘れようも無いその声を聞き、身体が震えた。
「生きてたの?父さん!」 僕は受話器を握り締めて言った。
「シンジ……今すぐ出頭すれば……第三新東京市からおまえを追放する代わりに、
申請された52人の孤児にIDカードを与え、市民として登録してやる……」
「父さんがNERVの司令なの? 父さんがあんなひどい計画を進めてるの?」
僕は父と再会出来るのは嬉しかったが、あの悪魔の計画に父さんが荷担しているのが、
許せなかった。

「ああそうだ……」 まるで感情と言うものを感じさせない声で父さんは答えた。

「……僕を捨ててまでしないといけなかった仕事が、そんな酷い仕事なの?」
「……52人の孤児の人権を回復したいのなら来い……葛城特佐の同行を許す。」
「解ったよ……父さん」 僕はこれまで何度も父さんと会いたいと思ったのに、
いざそうなってみると、腹立たしさしか感じないのが悲しかった。
「葛城特佐に代われ……」 僕は保留ボタンを押してミサトさんに手渡した。

「碇シンジの了承は取った……今すぐ連行したまえ……尚、手錠の必要は無い……」
父さんの独特な声がミサトさんが持つ受話器からかすかに聞こえていた。
「解りました……失礼します」 ミサトさんは蒼白な顔で受話器を執事に返した。

「やはり……君は六分儀君の息子だったのかね……」 綾波社長が僕を見て言った。
「そうみたいですね……そういえば、父の結婚前の名字は六分儀でした……今まで忘れてい
たんですけど……綾波社長 52人の孤児全員に市民としてIDカードを至急するそうです」

「息子だと言うだけで、そんな譲歩が引き出せる訳が無い……何か約束させられたんじゃ無
いのかね」 「お父様……それはどういう事ですの?」
レイさんはまだ事態を良く理解出来て無いようで、きょとんとしていた。

「綾波社長……レイさん……本当にお世話になりました。 ミサトさん……行きましょう」
僕は二人に事情を話して頭を下げてから、ミサトさんの方を向いた。

「本当に……本当にそれでいいのね」 ミサトさんは手を握り締めて言った。
「これ以上……ミサトさんやその家族に迷惑をかける訳にはいきませんから……」
僕がミサトさんの資料を盗み見したとは言っても書類の管理の手落ちで追求される事は、
ほぼ間違い無いだろう……僕は本心からその言葉を紡いだ。

「バカ!」 乾いた音がしたと思ったら僕の左頬はミサトさんに張られていた。

「ミサト……さん」 僕は訳が解らず、涙をぼろぼろ流しているミサトさんを見詰めた。

「迷惑をかけたですって? あなた私達の事を何だと思ってたのよ! 私達は本当にあなた
を家族として認めて迎えた筈よ…… 家族の起こしたトラブルを迷惑だなんて思う人はいな
いわよ! 今度……そんな事を言ったら許さないから…… リョウジもエミコも……シンジ
君の事を思う気持ちは変わらない筈よ」

「ご……ごめんなさい……」
僕はミサトさんの事を今の今まで本当に理解していなかった事を実感した。

「私達は家族なんだから……もし六分儀司令が妙な事しようとしたら私は内部告発するし、
リョウジだってきっと弁護士として、あなたを助けてくれる筈よ……だから……だから……」
ぼろぼろと涙を零しつづけるミサトさんを見ていて、僕は本当の家族の愛と言うものを、
ようやく知ったように感じた。

「アスカに出会う事が出来たら……アスカを連れて……ミサトさん達に会わせたいです……
これが僕の家族だよって……」
僕は涙を堪えようともせずに、ミサトさんに僕の魂から湧きいでる言葉を伝えた。

「シンジ君!」 僕は苦しい程にミサトさんに抱擁されてしまったが、まるで母に抱かれたか
のような安堵感を感じていた。

「レイ……残念だったな……」 綾波社長が軽くレイさんの肩に手を置いて言った。
「いいの……碇君が作ってくれた綾波クリンリネスが、私にはあるもの……」

「ミサトさん……今すぐ出頭しろって父さん……いや六分儀さんが言ってたんだ……」
「……ごめんなさいね 取り乱して手を上げちゃうなんて……」
「いいんです……僕……家族に叱って貰ったの初めてなんです……とても嬉しかったです」

「それじゃ、行きましょう……シンジ君」 「ハイっ」 「ダメよ 胸を張らなきゃ……」
僕達は駐車場の所で綾波親子と別れて車に乗り込もうとしていた。

「シンジ……これ!」 その時、ケンジ君が僕の商売道具も入っている鞄を手に走って来た。
「ケンジ君……ありがとう」 僕は鞄を受けとって、礼を言った。
「それと、シンジを探しているおじいさんがいたから、綾波の社長に今 会って貰ってる」
「また、連絡するよ……それじゃ…… あっそうだ……これ ケンジ君にあげるよ……」
僕は鞄の中から、以前にコウジ君がベンチで昼寝している姿を描いた色紙を手渡した。
「シンジ……ありがとう……」 「ちょっと急いでるんだ……それじゃ、またね」

僕はケンジ君に別れを告げ、ミサトさんは車を出した。

車は15分程でNERVに到着していたが、
NERVに到着してからも10分程 車の中で時間が経っていた。

車を降りてさらに5分程経ってやっと僕達は目的の場所に到着した。

ミサトさんがカードを挿入し瞳を近づけた後10回程数字キーを叩くとドアは静かに開いた。

「良く来たな……シンジ」
紅い床には、なにやら紋様が描かれており、無気味だったが、僕は足を踏み入れた。
かなり遠くに父さんが座っている机が見えた。 父さんの後ろに、60代らしき人が立って
いるのが見えた。 「あの方が冬月副司令よ」 ミサトさんがそっと耳打ちしてくれた。

「碇シンジ 出頭しました」
僕は父さんと冬月副司令の前に背筋を伸ばして胸を張って立って言った。

「電話で話した通りだ……おまえの罪状は機密漏洩だ……だが、漏らした相手が一人と言う
事もあり、二年間の第三新東京市においてのID剥奪、及び追放だ……もっとも機密漏洩が
表沙汰になってはNERVの権威は地に落ちるし、おまえが未成年でもある事から、この事は記
録には残らない……その代わりNERVは綾波クリンリネスに何ら干渉しない……それで、異議
無いな……シンジ」

「碇……いや六分儀……シンジ君にきちんと説明してあげればいいだろう……上部組織への、
建前があるから、追放と言う事にしたと言う事を……」 後ろに立っていた冬月副司令が、
堪え兼ねたのか口を挟んだ。

「あ……もしかしてお母さんの葬式の時に来ていた大学の先生ですか?」
僕はこの老人に抱き上げて貰った記憶を思い出した。
「覚えていてくれたかね……あの時4歳だったのに……君は利発な子だったからね」
冬月は顔を崩して言った。

「冬月先生……まだ話は終わってはいない」 父さんはしかめっつらのまま答えた。

「ま、古い言葉を借りれば、江戸所払いって所かな……二年後には大手を振って戻れるんだ。
それでも何の処置もしないと、六分儀が突き上げを受けるもんでね……上部組織が送り込ん
だ情報部の人間は早速、シンジ君を確保に行くし……もっとも命令書を出したのは確かに、
六分儀だがね……この組織にもいろいろあるんだよ」 冬月さんは父さんの不興を買うのを
承知で僕にいろいろと教えてくれた。

「要は、あの悪魔の計画を知る僕がここにいる事が邪魔なんでしょう……二年って言いました
よね……と言う事は二年の間に計画を実行するんですか!」 僕は父さんに向かって言った。

「葛城君……彼は何を言っているのかね……」 冬月さんはきょとんとした顔で言った。
「D−265計画のようです……もう破棄された計画でしたので、レベルが下がったので、
家のシュレッダーにかけるつもりで持ち帰った計画書を、シンジ君が見たようです。」

「シンジ君……私達を信用して……胸を張れないような仕事はしないって誓うから……」
ミサトさんは、僕の顔を覗きこんで言った。 その瞳には何の曇りも感じられなかった。

「ああ……六分儀が暴走しても、私もいるし 葛城君もいる……安心したまえ」
冬月さんも笑みを浮かべて言った。

「じゃ、父さん達は孤児をどうするつもりだったの?」 僕は疑問を解明すべく口を開いた。
「実はな……孤児達に下水道の管理や修理……早く言えばパイプ詰まりだな……を直させる、
市の嘱託職員として迎える計画が、一番のメインだったんだ……」

「それを息子のシンジ君に、もっといい方法を見つけられたから、拗ねてるんだよ」


「餞別だ……くれてやるから、どこへなりとも行け!」 父さんは一人だけ悪者にされたせ
いか、少し怒っているようだった。 だがそんな父さんに僕は親しみを感じた。

僕は父さんに餞別だと言われて手渡されたメモを見た。
”○○県○○市大字○○町58 ○○町立病院 職員住宅28号”

「これ、何ですか……」 僕は見覚えの無い地名を見て頭を捻っていた。

「アスカ君の住所だよ……」 いつまで経っても父さんが説明しそうに無かったせいか、
冬月さんが笑みを浮かべて言った。




僕はミサトさんの車に乗せられて、第三新東京市の外れ……アスカがいる県の方角の、国道
添いに降ろして貰う事になった。

「みんなにお別れをあまり言えなかったわね……」
ミサトさんは道の脇に車を置いて言った。

「いいんです……また会えますから……アスカを連れて……きっと戻って来ます」


僕はミサトさんの車に手を振りながら、心はすでにアスカを連れてここに戻って来る事を
描いていた。 友人だと言ってアスカに紹介出来る友もいる……家族の一員として、
迎えてくれるミサトさん達もいる……お世話になった人だと、綾波社長とレイさんも紹介
出来る……父さんを紹介する事も……きっと出来るだろう……待ってて アスカ!

僕はミサトさんの去っていった方向に背を向けて、アスカの待つ未来の自分の幸せの為に、
一歩 ……また一歩……アスカとの再会を信じて足を進めた。



                  −第一部 完−


BGM. 悲しみのDestiny (OVA AREA88 Ending Theme )




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どうもありがとうございました!



マナ:尾崎さん、第一部完結ご苦労さまでした。

アスカ:かなりの大作になってきたわねぇ。

マナ:孤児の子供達を戦闘員として戦場へ送り込むって聞いた時は、びっくりしたわ。

アスカ:アタシもよ。どうなることかと思ったわ。

マナ:実際はそんなことにならない様だけど、それでもシンジのお父さんってなんか恐いわね。

アスカ:自分の息子のことくらい、もっと素直にかわいがってあげたらいいのに。

マナ:シンジを第三新東京市から追い出しちゃうし。

アスカ:ま、おかげでアタシを探すことに専念できていいけど。再会の日は近いわ〜。

マナ:アマイわね!

アスカ:何が?

マナ:よくわかんない。

アスカ:何よそれ!

マナ:本当によくわかんないのよ。

アスカ:フン! シンジとアタシの再会がくやしいんでしょー。

マナ:違うわよ!

アスカ:第一部が完結したことだし、第二部からは幸せいっぱいのラブロマンスが・・・。(ぼ〜)

マナ:あなた・・・本当にそうなると思ってるわけ?

アスカ:・・・・・・・・。だって・・・。

マナ:次回からは新展開だから、さらに大きなハンカチを準備しておかなくちゃ。

アスカ:やっぱり、ハンカチがいるのかしら・・・。
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
uraniwa@ps.inforyoma.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。


第11話】に続く!

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