僕はミサトさんの車に手を振りながら、心はすでにアスカを連れてここに戻って来る事を
描いていた。 友人だと言ってアスカに紹介出来る友もいる……家族の一員として、
迎えてくれるミサトさん達もいる……お世話になった人だと、綾波社長とレイさんも紹介
出来る……父さんを紹介する事も……きっと出来るだろう……待ってて アスカ!

僕はミサトさんの去っていった方向に背を向けて、アスカの待つ未来の自分の幸せの為に、
一歩 ……また一歩……アスカとの再会を信じて足を進めた。


           【アスカを訪ねて三千里
                −第二部−

第11話「



「しまったなぁ どこかで傘を買っておけば良かった……」
僕は降りしきる雨の元、国道添いのパン屋の軒先で雨宿りしていた。
アスカのいる○○県まではまだ遠い…… 孤児院に送金した事や、
旅をするのに必要な物をいくつか買ったせいもあり、
あれから3日経った今となっては所持金は2千円を割っていた。

「仕方無い ここで食べさせて貰うか」 僕は立ったまま買ったばかりのパンの袋を開けて
一番安かったパンの耳を齧りはじめた……もっともそれだけじゃ栄養失調になるので、
あんこ入りの揚げパンを一個買ってあるが、それは最後の楽しみにとっておくつもりだ。

パンの耳をほぼ食べおえる頃には、雨は小雨になって来ていた。
「さて……本日のメインディッシュを頂くとするかな」 僕は大好物の揚げパンを紙袋か
ら取り出した。

「クエッ」 僕は奇声のようなものが聞こえたので顔を上げると、全身の羽根を雨で濡らし
た一匹のペンギンが僕を見ていた。
「ペンギン? 飼われてたのかな……」
僕はペンギンの胸に付けられているプレートに目をやった。
「PEN2? ペンペンって呼ぶのかな?」 僕がプレートを読む為近づいた。

「クエッッ」 あっと言う間にペンギンが僕が左手に持っていた揚げパンを奪ったのだ。
「何するんだよっ 最後の楽しみにとっておいたのにっ」 僕はトンビに油揚げならぬ、
ペンギンに揚げパンを攫われて、憤慨していた。

ペンギンはあんこの入った揚げパンと言う、到底ペンギン向けの食べ物とは思えないものを
余程お腹が空いていたのか、あっと言う間に飲み込んでしまった。

「クエッ クエッ」 ペンギンは更に哀願するかのように二度泣いた。

「もっとくれって言うの? 困ったなぁ 飼い主がいない野良ペンギンなのかな……」
僕はぶつぶつ言いながらも袋の中に残っていた最後のパンの耳ふた切れを差し出した。

ペンギン……いやペンペンと呼ぶべきかな……ペンペンは小さく鳴き声を上げながら、
パンの耳を食べていた。

「あ、雨が上がってる……そろそろ行くか」 僕はペンペンの事を意識して無視しようとして
パン屋の軒先から出て、国道添いの歩道を歩き始めた。

活気のあった第三新東京市と比べて、これまで通って来た他の町は活気が無く、似顔絵を頼
む人も少なく、頼んだ人も高価な色紙で無く安い紙だった為、収入は途絶えたようなものだ。
とにかくアスカに会うまでは支出を押さえなければいけない……ペンギンにかかわりあって
いる余裕など僕には無いのだ……

だが……ペタペタと言う足音が後ろから聞こえて来た時、僕は逃げられなかった事を悟った。


あれから二時間……ペンペンは僕について歩いていた。
ペンペンにも行く当ては無いのだろうか……エサをくれた僕について行けば生き延びられる
と野生のカンで感じたのだろうか……

人間の欲とは際限の無いものらしく、極地に住んでいたペンギンを、可愛いからといって
常温で住む事の出来る品種に作り替えてペットショップで売られていると言う事を僕は以
前 聞いた事があった。 このペンペンもその口だろう……飽きられた子供に捨てられた
のだろうか……
「僕について来ても、エサをやれる訳じゃ無いよ……ついて行くならお金を持ってる人に
ついて行けばいいのに……」 僕はつい人間と話すのと同じようにペンペンに話しかけた。
ペンペンは僕の顔をじっと見て、再び何も無かったかのように歩きはじめた。
「変なヤツだなぁ 僕の言葉が解るのかな」 僕は苦笑して言った。

太陽が西の空で紅く輝いている頃……
「この辺りは再開発が遅れてるみたいだなぁ」
僕は国道の周りは田園風景が広がっている町を歩いていた。

「あっ奇麗な川だなぁ……顔でも洗うかな……行くよ ペンペン」
僕はペンペンと共に国道を離れて土手に向かって歩いていった。

「んー気持ちいい……」 僕は冷たい川の水で顔を洗った。
「あれ、ペンペンがいない……」 僕はさっきまで川岸にいたペンペンの姿を目で追った。
「泳いでるのかな……まぁペンギンだから溺れる心配は無いか……」
僕が川面を見ながら呟いていると、突然水面からペンペンが飛び出して来た。

「気持ちいいかい?ペンペン」 僕は苦笑しながらペンペンが陸に上がるのを見ていた。

「クゥェッ」 ペンペンは口に咥えていたのか、魚を川岸に置いた。
「おっペンペン 魚取れるんだ 凄い凄い」 僕はピチピチ跳ねている魚が逃げないように、
持っていたビニール袋に入れた。

10度ペンペンは川と川岸を往復し、僕でも食べられそうな鮎などの魚や、
ペンペンが一口で飲み込めそうな魚を合計10匹もの成果をあげていた。

「凄いんだね……ペンペン」 僕は水に濡れたペンペンの頭を撫でてあげた。
「クェッ」 ペンペンは誇らしげにひと鳴きした。
どうやら自分のエサは自給出来るから、心配するなと言う意味なのだろうか……
それまでと変わらぬ鳴き声なのに、僕は何故か理解する事が出来た。

「もうすぐ日が暮れるね……今日はあったかいし、ここの芝生で寝ようかな……」

日が暮れた川岸で、僕とペンペンは野営をしていた。 野営とは言ってもテントも寝袋
も何も無く、芝生がベットだったが、これまでのような一人旅では無く、ペンペンがい
るだけで、なんとなく心強く感じていた。 ペンペンも自給自足出来るのに僕について
来るのは、やはり孤独が堪えがたいからだろうか……
僕は非常食として買っていた、鶏肉のケチャップソースの缶詰を食べていた。
この辺りに店が無かったからだ……ペンペンにも一応薦めてみたものの、
首を横に振って拒否した。 さすがに同類を食べるのは気が引けるのだろうか……
一日に必要な塩分を取る為に買っておいた食卓塩で、ペンペンが今日食べる分以外の
魚は内臓を捨てて塩で揉んでおいた。 3日持てばいい方だろうが何もしないよりはいい

周囲は暗闇に閉ざされ、僕は芝生に寝転がっていた。
「孤児院のみんな……元気にしてるかな……アスカ……もうすぐ会えるから……うっ」
僕は一度家族の暖かみを知ってしまったせいか、ほんの3日間の孤独な旅で、
寂寥感を感じて、つい涙を堪えて声を上げてしまった。

「クェ……」 ペンペンがまるでオレがいるじゃ無いかと言わんばかりに、一声泣いた。
「おまえ……僕の気持ちが解るんだね……ペンペン……これからも友達でいてよ」
僕はペンペンを抱き寄せて、ペンペンと一緒に眠りについた。

三日後……

「お腹空いたね……」
僕は公園のベンチでお腹を空かして、動く元気も無く座り込んでいた。
現金はついに底を尽き、なんとかしてこの天気のいい日に稼がないと、旅を続ける事は
難しかった。 ペンペンのエサも、今朝の分で無くなってしまい、
あれから魚のいる川が無かった為、ペンペンもお腹を空かしているのか、地面の上に寝転
がってごろごろしていた。


「あー可愛い〜ペンギンさんだぁ〜」
小学校低学年らしき女の子が走って来て、あっと言う間にペンペンを抱き上げていた。
ペンペンも悪い気はしないのか、可愛い鳴き声を上げていた。
「いやぁ〜すみませんねぇ この子ったら止めても聞かなくて」
母親らしき人が小走りで向かって来て、僕に頭を下げた。
「僕が飼ってるって訳でも無いんですが、ついて来ちゃって……いいですから、気が済むま
で遊ばせてあげたらどうですか?」 僕は苦笑しながら、返事をした。

「そうですか? 最近家ではふさぎがちなんで、こんな機嫌のいいこの子見るの久しぶり
なんですよ」 母親は少し憔悴したような顔をしていた。

僕はベンチを指差して腰かけるように促した。
「それじゃ、お言葉に甘えまして……」
母親はベンチに座って我が子とペンペンが楽しく遊んでいるのを見ていた。

僕はペンペンと戯れるその子の笑顔を描いてみたくなって、母親に解らないように手元を隠
して、スケッチを初めていた。
屈託なく笑う女の子と、一緒に戯れるペンペン 僕は夢中になってスケッチしていた。

「あの……」 女の子の母親がいきなり僕の方を覗きこんで声をかけて来たので、
僕は慌てて手元を隠しながら返事をした。

「もしかして、似顔絵屋をされてるんですか?」 「ええ……絵の修行と生活の為に……」
僕は苦笑しながら答えた。

「宜しかったら、お金を出しますので、仕事として描いて貰えませんでしょうか……主人に
も、あの子がこんなに楽しそうにしている所を見せたいんです」
女の子の母親はペンペンと遊ぶ女の子を遠い目で見ながら言った。

「いいですよ……色紙だと少し割高になりますけど、いい記念になりますよ」
僕は鞄の中から色紙を一枚取り出して言った。
「じゃ、お願いします」 女の子の母親は律義にも頭を下げて言った。

僕は一番安い紙にスケッチしていたラフを元に色紙に丁寧に写していった。
女の子の笑顔……それを最も引き立たせる構図で僕は描いていった。
15分後……いつしかノッて色鉛筆まで使って仕上げた色紙は我ながらいい出来だった。

「これでどうでしょうか」 僕は書き上げた色紙を手渡した。
「うわぁ 本当にお上手ですねぇ この子の笑顔をいつでも見る事が出来ますし、この子も
この絵を見たら楽しかった今日の事を思い出すでしょう きっと宝物にしますよ」
女の子の母親がかなり喜んでくれたので、僕は嬉しかった。

「あの……おいくらでしょうか」 女の子の母親は財布を出しながら言った。
「色紙込みで3000円になります」 僕はおずおずと答えた。
勝手にスケッチを初めて、結局仕事にしてしまった事が負い目だったのだ。
「じゃ、これ……本当にありがとうございました」
女の子の母親は僕に5千円札をちり紙にくるんで手渡してくれた。

「ちょっと待って下さいね」 僕は鞄を開けてお釣りを出そうとしていた。
もっとも鞄を開けても払うお釣りなど一銭もありはしなかったが……
「お釣りは結構ですわ お釣りのお金であのペンギンに美味しいエサでも買ってあげて下さ
い」 女の子の母親はさっきの僕の言葉を覚えていたのか、笑みを浮かべて言った。

「ありがとうございます……頂きます」 僕は好意は素直に受ける事にして頭を下げた。

「ほら、ユミちゃん ピアノのレッスンに遅れるわよ」 女の子の母親は立ち上がって、
女の子に呼びかけた。
「それじゃ、ペンギンさん またね!」 女の子は何度も振り向いてペンペンと僕に手を
振っていた。

「クエッ(サカナ・サカナ)」 ペンペンはさっきの会話を聞いていたのか、まるで正当
な報酬を受けとるかのような顔つきで僕に催促をした。

「解ってるよ ペンペン けど良かったなぁ……お金が底を突いてたから助かったよ」

僕はペンペンと共に、その公園を離れた。 一人と一匹の食糧を購う為に……


その頃……

「義父様 持っていくご本はこれで全部なの?」
アスカはダンボール箱に詰められた本を引っ越し業者に渡しながら、振り向いて声をかけた。
「ああ ここはもういいから、義母さんの所に行ってやってくれないか」
アスカの義父は両手に医学雑誌を抱えて階段を降りて来て言った。
「わかりました」アスカは手をぱんぱんと叩いて玄関を出て行こうとしていた。
「急な事でアスカにも迷惑をかけたね」 白い総髪をかきあげながらアスカの義父は言った。
「義父様 迷惑だなんて、水臭い事言わないで言わないで下さいね」
アスカは顔だけを台所の入り口から出して言った。
「アスカ……ありがとう」 アスカの義父は皺だらけの満面の笑みを浮かべて言った。
「それじゃ4時出発の予定通りで大丈夫ですか?」 引っ越し業者が帽子を正して言った。
「ええ、お願いします いや、急に北海道の個人診療所を格安で買い受ける事になりまして、
おたくにも迷惑かけましたね」 アスカの義父は缶ジュースを差し出して言った。


そして、三日後……

「ふぅ……やっと○○県か……」 僕は流れ落ちる汗を立ち止まって拭いながら言った。
ここ二日間は天気も良く、そこそこ稼ぐ事が出来たので、なんとか糊口をしのげていた。

「クエッ」 ペンペンも疲れたのか、足をもぞもぞさせていた。
「ちょっとペンペン その足見せてよ」 ペンペンが足をもぞもぞさせていた場所に
血が付いているのを見て、僕はペンペンを慌てて担ぎ上げた。

「クゥエッ」 ペンペンは僕の手から逃げようとしたが、僕はペンペンの足と言うか……
ヒレの裏の一部が擦り切れて血が滲んでいるのを確認出来た。
どうやら舗装状態の良くないアスファルトを4日間も歩き続けたのが原因らしい。

「ごめんよ……ペンペン あれからずっと歩いて来たんだもんな」 僕は暴れるペンペンを
抱きかかえたまま、道端に座り込んだ。

ミサトさんと別れてから、旅に必要なものを買った時に、医療用のものを買ったのを思い出
して、僕は鞄から取り出した。 「包帯と絆創膏だけか……塗り薬でも買えば良かったな」
僕はせめてこれ以上出血しないように包帯を巻いてやる事にした。
だが、足のヒレが大きい為に、なかなか思うように巻けず苦労していた。

その時、国道を走っていた車がタイヤを軋ませて停車した。
ドアを開けて出て来たのは、金髪に黒い眉の違和感バリバリの姿をした白衣の女性だった。

「珍しい……イワトビオンセンペンギンね……」
すたすたと歩いて来た白衣の女性はペンペンをしげしげと覗きこんで言った。

「あの……お医者様ですか」 僕は一縷の望みを持って問いかけた。
白衣を着て外に出る人間など医者以外にはあまりいないのだが、僕は確認したかったのだ。

「車を見れば解るでしょ……」 白衣の女性は人間には興味があまり無いのか無表情な顔
をして顎をしゃくった。

「赤木動物病院……」 僕は白衣の女性が乗っていた車に描かれたロゴを読んでいた。

「このままにしておいたら、間違いなく化膿するわね……手当てをして抗生物質を打つ必要
があるわ……退院した猫を届けた帰りだから、乗せていってあげるけど?」

「あの……2500円しか無いんですが、治療出来ますでしょうか……」
僕は財布の中身を思い出して言った。
白衣の女性は黒い眉をぴくりと動かしたが、何も言わなかった。
「あの……足らなかったら働いて返しますので……見て貰えないでしょうか……」
僕は白衣の女性に頭を下げて言った。
「人手は足りてるわよ……」 「いえ、僕 似顔絵を描いてるんです きっと払いますから」
僕は必死になって頼みこんだ。

「わかったわ……乗りなさい」 白衣の女性はまたもや顎をしゃくって言った。
「ありがとうございます!」 僕はペンペンを左手に抱いて鞄を右手に持って車に乗った。

5分程走ると、車は小さい建物の前に止まった。

「失礼……します」 僕は白衣の女性の後をついて室内に入った。

にゃぁ〜お にゃーにゃー ぐぅるるにゃーお みーみー

中に入った途端、僕は大勢の猫の鳴き声に迎えられた。

「ひっ」 同時に鳴かれたものだから、僕は驚いて危うくペンペンを取り落とす所だった。
白衣の女性が電気を付けると、周りには20匹以上の猫が山のように積まれたカゴから顔
を覗かせていた。

「猫……ばっかり」 僕は異様な光景に驚いてつい思った事を口走ってしまった。

「猫専門って訳じゃ無いから安心しなさい」 「す、すみません」
白衣の女性は診察台の前に立って手招きしながら言ったので、
僕は慌てて診察台にペンペンを降ろした。

白衣の女性がペンペンを診察し始めたので、僕は食い入るようにその様子を見ていた。
「人間は邪魔よ! それにあんた、臭いわよ」 白衣の女性は急に振り向いて言った。
「す、すみません」 「事情は知らないけど、もしかして着たきりスズメなの? 雨に濡れ
たり乾いたりで、服がまだら模様になりかかってるわよ! まだ時間がかかるから、そこの
道添いを5分も歩けば、ランドリーサービスもある銭湯があるからそこに行って来なさい!」
白衣の女性は潔癖症なのか、産毛を立たせて嫌悪感を顕にして言った。
「わ、わかりました!」 僕は慌てて動物病院を飛び出して、指差された方向に走った。

僕は脱いだ服を指定の袋に入れて番台の人に手渡した。
料金を聞いてみたが、入浴料金を含めても1500円で収まるそうなので、
僕は安心して、久しぶりの湯に漬かっていた。

「カヲル君……元気にしてるかな……」 僕は天井を見ながら呟いた。

30分後 僕は洗われてカラっと乾いた服に袖を通して、動物病院に向かっていた。

「ペンペンの様子はどうでしょうか……」 椅子に腰かけている白衣の女性に問いかけた。
「よっぽど疲れてたのか、治療してる最中に寝入っちゃってそのまま寝てるわよ」
白衣の女性は腕を組んで言った。
「この子にどんな事させたの?言いなさい……さもないと動物愛護協会に訴えるわよ」
僕は白衣の女性に睨まれてしまい、全てを話す事になった。
「呆れた……3日間以上も人間の歩くスピードに合せて歩かせたですって? 解る?あなた
が一歩歩く間にこの子は3歩歩いてるのよ……この子は歩くのには向いてないこの足であな
たの三倍以上も歩いて来たのよ!」 白衣の女性は黒い眉をつり上げて言った。
「ご、ごめんなさい……」 僕は自分が至らなかったせいでペンペンにこんな目を合せてし
まった事に今さらながら気がついた。

「それと、この子の治療代は2万5千円よ……動物には保険が効かないから……」
「2万5千円ですか……きっと……払いますから」 僕は手を握り締めて答えた。

「この子を連れて旅をするなんて無理もいい所よ……私が飼い主を探してあげるから、この
子を預けていったらどう? 勿論治療代は新しい飼い主に引取料として貰うから……」
白衣の女性は、少し表情を和らげて言った。

「この子が寝入ってる内に、そっと出て行きなさい……それがあなたの為でもあり、この子
の為でもあるのよ……」 僕はその言葉に、逡巡したものの頷いた。

「ペンペンを……宜しくお願いします……優しい……優しい飼い主を探してあげて下さい」
僕は頭を下げて言った。

僕は足音を立てないように動物病院を出た。

後ろ髪を引かれる思いで、僕は歩きはじめた。

また、今日から一人旅だ……だ、大丈夫だよ……出発した時も僕は一人だったじゃ無いか……
僕は自分にそう言い聞かせながら、歩き続けた。

「優しい飼い主に、毎日エサを貰って可愛がって貰う方が……いいんだ……」
僕は滲みはじめた涙を手の甲で拭いていった。

最初は無理をしてでも胸を張って歩いていたが、段々と下を向いて無気力に歩いている自分
に気がついた。



ペタ

「ごめんよ……ペンペン……」

ペタペタ

「きっといい飼い主に……うっ」 僕は涙がこらえきれなくなって立ち止まった。

「クェッ」

僕は背後から聞き慣れたペンペンの鳴き声が聞こえたような気がした。
「幻聴まで聞こえるなんて……」だが、つい振り向いてしまう自分が情けなかった。

「ペンペン!」
僕の目の前には、ペンペンが上を向いて僕を見あげていた。
ペンペンは足に布でペンペンの足に合せて丈夫な布を縫い合わせて作った靴下のようなも
のを履いていた。 足首に巻いている紐を解けば脱げるようになっているようだ。

クエッ」 心なしかペンペンの表情を見ていると、置いていった事を責めている
かのように感じられた。

「ごめんよ……ペンペンも僕の家族だよね……黙って置いて行こうとして……ごめん」
僕はペンペンを抱き上げて涙を流しながらペンペンの背中を撫でながら言った。

「何だろ……これ」 ペンペンの首輪の後ろには小さいビニール袋が括りつけられていた。
ビニール袋を開けると、ペンペンの足に塗る膏薬らしき瓶と手紙が入っていた。
僕は手紙を広げてみた。
「この膏薬は薬局で見せたら買えるから、無くなったら補充して毎日3回塗ってあげる事……
それとお金は出世払いで許してあげる……人間と動物にも絆が芽生える事を私は嬉しく思いま
す……その子を大事にしてやりなさい」 僕は涙を堪えて手紙を読み終えた。

「ペンペン……一緒に付いてきてくれるかい?」 僕は恐る恐るペンペンに問いかけた。
クェェッ

こうして、一人と一匹は再び旅を始める事になった……
より強く……より深く絆を確かめあいながら……




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どうもありがとうございました!



マナ:いよいよ第二部スタートね。

アスカ:全話で感じてた嫌な予感が、やっぱり的中してしまったわ・・・。

マナ:北海道へ行くんだってね。

アスカ:よりによって、なんでそんな遠い所へ行くことになったのよ。

マナ:北海道に行ったことを知ったシンジは、わたしの元に帰ってくるのね。

アスカ:そんなわけないでしょ!

マナ:あなたはシンジに苦労ばかりかけてるから、わたしにまかせてくれたらいいわ。

アスカ:アタシが苦労かけてるわけじゃないわよ。成り行き上そうなってしまってるのよ。

マナ:はぁ、ようやくたどりついたシンジの落胆する顔を想像すると、胸がはちきれそうだわ。

アスカ:アンタ、はちきれるほど胸ないでしょ・・・。(ボソッ)

マナ:な、なんてこと言うのよ!

アスカ:あら? 聞こえたかしら? それより、リツコの2万5千円は、頭にきたわね!

マナ:まったく・・・話をそらしたわね。表にはださないけど、赤木博士の思いやりには目頭が熱くなったわ。

アスカ:当然よ! あそこでふんだくってたら死刑よ!

マナ:薬ももらったし、シンジも旅を再開できたしいいじゃない。

アスカ:アタシが北海道へ行く前に間に合うかしら。

マナ:あなたのその楽観的な希望が、この話で当たったことあった?

アスカ:うっ・・・ない・・・。

マナ:この先どうなることやら・・・。

アスカ:ううううぅぅぅぅ・・・シンジぃぃぃ・・・。
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
uraniwa@ps.inforyoma.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。


第12話彷徨」に続く!

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