アスカを訪ねて三千里

第12話「彷徨



「シンジ……どうしてるのかな……」 私は蒼い小袋に入れたシンジの宝物だったビー玉を
左の胸のポケットに入れて、右手で服の上から握っていた。

「アスカちゃん まだみたいよ」義母様が車の助手席で考え事をしている私に声をかけた。
「船で三日もかかるなんて……北海道って遠いんですのね義母様」 私は後部座席に乗りこ
んで来た義母様に声をかけた。 右手に握ったビー玉は離さずに……
「そうね 酔い止めは買っておいたけど……アスカちゃんは船に酔う方なの?」
「大きい船は初めてなんです……」 そう……修学旅行には一度も行けなかったから……
「しかしあの人もこんな時にトイレから出て来ないなんてねぇ……もう4時半になるわよ」
 義母様は苦笑しながら、主のいない運転席を見ていた。
引っ越しのトラックも小雨で何かの模様を描いているかのようなフロントガラスの向うに
歪んで見えていた。 まるでシンジと私を引き離す悪魔の使いかのように……

「やぁ、すまんすまん」 義父様が傘も刺さずに走って来て、運転席に乗り込んだ。

結局シンジの事を言い出せなかった弱い私……シンジ……ごめんね

ワイパーが作動し、フラクタルな模様を描き出していた雨粒達は、
かきよせられて一つの大きな水溜まりのようになって……そして流れ落ちた。




「えーと、今度こそ間違って無いよね……」 僕はペンペンと共に小雨の降る○○市を歩い
ていた。 来る途中人に道を訪ねたのだが、一度目は市民病院への道を教えられ、
二度目は県立病院への道を教えられたのだ……さすがにおかしいと思って本屋で地図を立ち
読みして、やっと目的の町立病院が解ったのだ。

「ここかな……」 僕は町立病院の裏手にあった職員住宅への門の所まで来ていた。
「ペンペン……ようやく……辿りついたよ……もう ペンペンに無理はさせないからね」
僕はペンペンの頭のとさかに似たものを撫でてあげた。
気持ちがいいのか、ペンペンはされるがままにしていて、喉を鳴らしていた。

その時、車の音がして、僕は振り向いた。
職員用の通用門から中型のトラックが走り出て来たのだ。
門のせいで僕の姿は死角になっていたのか、思い切り出て来たので、水たまりの水が僕の
顔にかかったのだ。
「うわっ」 僕は肩にかけていた鞄を降ろして屈み込んで目を拭いていた。

背後に再び車の音がしていたが、今度はゆっくり出て来たのか、水は跳ねなかったようだ。

「ふぅ……酷い目にあったな……けど いいや」 僕は顔を拭いて頭を上げた。

20M程先の信号で、一台の車が左折しようとしているのが目に入った。

僕は胸の鼓動の高鳴りを感じた。

「アスカ!」 僕はきょとんとしているペンペンをよそに、茶色のセダンに向かっ
て全力疾走した。

車が左折する時に助手席に座っていたのは確かにアスカだった。

僕はさっきアスカを乗せた車が左折した信号を回って茶色のセダンを見失わないように、
必死で追いかけた。 だが、車はスピードを上げてあっと言う間に僕の視界から消え去って
しまっていた。

僕は電柱にもたれて、荒い息をなんとかおさめようとしていた。

「クェッ」 心配したのか、ペンペンが僕の側まで歩いて来て一声鳴いた。

「大丈夫だよ……きっとどこかに買い物に出かけたんだよ……多分 だから待ってれば戻っ
て来るさ……」 僕は自分にそう言い聞かせながらペンペンと一緒に門まで歩いて帰った。

「ここか……」僕は父さんに貰った紙に書いてあった職員用住宅の28号の前に来ていた。

「表で待たせて貰おうよ ペンペン」
僕は雨に濡れないように膝をかかえて軒先に座り込んだ。

「ここにアスカが住んでいるのか……アスカ……僕 ここまで来たんだよ……」
僕は歩きづめだったこの数日の疲れか、少し眠たくなっていた。
少し強くなって来た雨音も今の僕には心地よい子守り歌のようだった……

「おい ここか……」 「ああ 間違い無い……28号 ここだ」
「まったく一日でリフォームしろだなんて無茶言うぜ……こんな雨なのによ」
「何でも次の住人が明日にでも引っ越して来るらしいぜ……」
「さっさと終わらせて一杯やろうぜ……」「そういやボトルもう無いぜ どうするよ」
「ん? なんだ……このガキとペンギンは」

僕は誰かの話し声で目を覚ました。

「あの……帰って来るのを待っているんです……」
僕は玄関で座りこんでるのを不審がられたと思ったので、慌てて説明した。

「はぁ? 誰が帰って来るんだって?」 作業服を着ている男の人は首を傾げて言った。
「この家に住んでいる、惣流アスカです」 僕は立ち上がって、玄関に掲げている名札を
指差した。 名札には、神凪圭一郎 千恵子 アスカと書かれていた。
「この家に住んでた人を訪ねて来たのか……今日引っ越していったよ」
「それよりどいてくれないかな……早く作業しないと間に合わないんだよ」
もう一人の作業服姿の男は僕を押しのけて、中に入ろうとした。
「あの……どこに引っ越していったんですか?」
僕は手にしようとした幸せが掌から零れ落ちていった事を感じていた。
「知らねぇよ なんでも寒い所だそうだぜ……」
作業服の男は玄関の名札を外して足元に落とした。
「よし、夜までにはあらかた片づけるぞ」作業服の二人は靴を脱いで玄関に上がっていった

「アスカ……」 僕は水たまりに落ちた名札を拾い上げて、服の端で拭いた。
「クェッ」 ペンペンの慰めも、今の僕には届かなかった……


病院の事務局で引越先を聞く事を思い立って、僕は立ち上がった。
「いくよ……ペンペン」 僕はアスカの家の名札を鞄に入れて、
アスカがついさっきまで暮していたであろう家を後にした。



「どうして教えて貰えないんですか!」
僕は事務局の小窓の向うにいる事務員にくってかかった。
「何しろ規則ですからねぇ……市民IDも持っていないような相手に教える訳には……」
事務員は眉をひそめて、すでに三度目の台詞を口にした。

セカンドインパクト以降、医師の不足は慢性化していて、無医村どころか無医町や無医市
まである所がある程なので、医師を拉致まがいの行為で引っ張って来て、診療所に無理やり
住まわせる事件が後を断たないと言うのも理由の一つだと聞いたんだけど……

「……せめてこの街の市民IDを持つ人間の保証が無いと教えられません。  さぁ今日は
窓口はもう終わりなんだ……帰らないと警備員を呼ぶよ」
事務員は僕に背を向けながら言った。

「この街の市民ID……」 僕は絶望感に駆られながら病院を後にした。
すでに夕闇が街を覆っている中。僕はペンペンと行くあても無く歩いていた。

僕はとある公園で足を止めた。
夜霧に包まれた公衆電話が目に入ったのだ。
セカンドインパクトで通信インフラの殆どが破壊され、現在電話が通じるのは、
インフラを整えた街の中だけであり、繋ぐ事の出来る他の街は僅かだった。

だが、僕の住んでいた教会はあの街で数えるぐらいしか無い電話のある場所だったのだ……
僕は神父様が言っていた言葉を思い出して、電話をかける為に小銭を取り出してボックスに
入ったが、市民カードを入れないと作動しないタイプである事に気づいて、呆然とした。
この街で市民カードを持たない者は、何も出来ないのだ……

「そういえば、あの動物病院はこの地区内だったような……」
僕はボックスの中の電話張をめくった。 もっともインフラが整えられてるこの街でも、
100人程度しか加入者がいない為、すぐに見つける事が出来た。
「あった……赤木動物病院」 僕は一縷の望みを見いだした。

「25000円……ペンペンの治療代を借りたままだったんだ……取り敢えず返さないと」
僕は鞄の中にある色紙の枚数を思い出した。 「色つきにすれば何とか稼げるかも」
僕は明日からこの公園で似顔絵を始める事を決意して、ペンペンと共に濡れて無い芝生を
探して横たわった。 今日は夕飯を食べて無かった事にも気づかずに……

そして、翌日…… 日もまだ開けきらぬ内に僕は起き上がって公園の水飲み場で顔を洗い、
朝露で濡れたベンチを古新聞で拭いて、商売道具を取り出した。 そんな僕を通りがかる
通勤途中の会社員や学生が見ていたが、公園の中には入って来なかった。

「ここは人通りもあるし……3日ぐらいで稼げるかな……」
僕は見本のアスカの絵を描いた色紙をベンチに立てかけて客を待った。

公園の時計は10時をさしていた。
「そういえば、お腹空いたな……何か買って来るから、ペンペンは留守番しててよ」
僕は公園の噴水で遊んでいるペンペンに声をかけて、公園を出た。

何とか現金で売って貰えるお店を見つけて、僕は公園に戻って来た。

「このペンギン どうしたのかしらねぇ……」
「飼い主がいるんでしょう? まさかこのペンギンが絵を描く訳も無いでしょうし」
すると、幼子を抱いた主婦が二人、ペンペンを見入っていた。

「似顔絵屋なんですけど、どうでしょうか……」 僕は後ろからおそるおそる声をかけた。

「あらまぁ、あなた中学生ぐらいじゃ無いの?」
「この街で中学生に露天の商売の許可証を与える訳無いでしょ 若く見えるだけよね」

「許可証がいるんですか?」 僕はこれまで一度もそんな街が無かったので驚いていた。
「許可証無しにこんな所で、お金取って似顔絵なんかやってると捕まっちゃうわよ」
「そうよ てっきり風景画を書こうとしてるのかと思ったんだけど……」

「この街の事、良く知らないみたいだけど、市民IDは持ってるのかしら?」
「いえ……まだ交付されてません」 交付される予定など無いのだが、僕はそう答えた。

「お話にならないわね……行きましょ 奥様」
「そうですわね……この子のおしめも変えないといけないし……」

二人の主婦が去って行くのを僕は呆然として見詰めていた。

30分後 僕は荷物をまとめてペンペンと共に道を歩いていた…… この街を出る為に。

「昼過ぎまでにはこの街を出る事が出来るかな……」
僕は連日歩きづめで少し痛む太股をさすりながら呟いた。
ペンペンも疲れているのか歩くスピードが遅かった。

来る時にはアスカに会えると言う高揚感が身体を突き動かして来たけれど……
「クェッ」

僕は来るときには一度も纏わせた事の無い失意の念と共にのろのろとした動きでこの街を
出ようとしていた。

左右を住宅に挟まれた狭い道を歩いている時……


どけどけどけ どかんかーい

僕は後ろから叫び声とガラガラと言う音と共に誰かが
走って来た事に気づいて、慌ててペンペンを抱えて道の脇に避けようとしたが、リヤカー
と共に狭い通路に突っ込んで来た少年にぶつかって転んでしまった。

「いたた……ペンペンは大丈夫みたいだな……」 僕は腕に抱いたペンペンを見て言った。

「アホ! はようどかんかい!」 ぶつかった同い年ぐらいの少年は起き上がるなり叫んだ

「何事なの?」 僕は訳も解らず混乱していたので、少年に問いただした。
「そんな悠長な事ゆうてる暇があるかい! 追われとるんじゃ!」
少年は横転しかかっているリヤカーに蹴りを一発入れて本来の体勢に戻した。

断続的に甲高い笛の音が後ろの方から鳴り響き、僕は振り向いた。
「もう逃げられないぞ! ガキども!」 腰に警棒を刺している警備員のような大人が、
笛を口から離して怒鳴った。

「ガキども? 僕も含まれてるの?」 僕は混乱してしまっていた。
「おまえ、そんな身なりだけど市民ID持ってるのか?」 先程の少年がリアカーの棒を
掴んで言った。 「持って無いんだ……」 「それなら逃げた方がいいぞ! ついて来い!」

リアカーと共に走り始めた少年の後を追って僕はペンペンを抱いたまま駆け出した。
「待てぇ〜い」 警備員も僕達の後を追って走りはじめていた。
銭形警部じゃ無いよ

3分程走っただろうか……
僕はペンペンを抱えている事もあり、スピードが落ちて来ていた。
「をい そのペンギンリアカーに乗せろ……面倒臭い おまえも乗れや」
少年は曲がり角でリアカーを急停車させて言った。
「ありがとう!」 僕はまずペンペンをリアカーに乗せてから自分も飛び乗った。

「しっかり掴んどけよ」 少年は振り向いて言った。
「うん!」 僕はリヤカーの枠を掴んで答えた。
「うおっしゃー」 少年は奇声を上げてリアカーを走らせた。

少年が3分もリヤカーを走らせる頃には、警備員は見えなくなっていた。
「俺達のアジトはもうすぐだ……どうやら助かったようだな……」
「訳が解らないけど、助かったよ ありがとう」
「俺は鈴原トウジだ おまえの名前は?」
トウジと名乗った少年は振り向いて人懐こい笑みを浮かべた。
「ま……まえ」 僕は声が震えてしまっていた。
「前田?」 トウジは怪訝そうな顔をして聞き返した。
「違う!前を見て!」 僕は行く手を遮るように二人の警備員が立っているのを教えた。

「もうアジトは目の前なのに……」 トウジはリヤカーを急停車させてリアカーを180度
回頭しようとしていた。
「ダメだよ 後ろにも二人!」
僕は念の為に後ろを振り向くと二人の警備員がいたので、慌てて警告した。

警備員達は少しづつ近づいて包囲の輪を縮めて来ていた。
「なんでこんな事に……」
警備員の持つ警棒が鈍色に光っているのを見て、僕は恐怖で震えていた。

「トウジ! あれをやるぞ!」 突然 どこからともなく声が響いて来た。
「おい、目を閉じろ!」 トウジは僕に小声で呟いた。
「う、うん」 僕はペンペンを庇うように身体で包んでから目を閉じた。

次の瞬間、まぶたを閉じていても眩しい程の光が辺りを包んでいた。

「よっしゃ 一気に行くぜ!」 トウジはリヤカーを急発進させた。

「おらおら邪魔だ!」 トウジは目が眩んでいる警備員を跳ねとばして、血路を開いた。

「このガキ!」 後ろから来ていた警備員の一人が、もう回復したのか後を追って来ていた。

「go to hell」 次の瞬間塀の上に膝を立ててバズーカのようなものをかまえた、
眼鏡をかけた少年が目に入った。 その少年が引き金を引くと、カプセルのようなものが
打ち出され、警備員の胸に当ってカプセルが割れ、内容物が付着した。

「臭ぇっ 何だこりゃ」 胸に茶色いものが付着した警備員は鼻をつまんでいた。

「さすがは俺の作ったネコフン・バズ!命中率が高いぜ」
眼鏡の少年はバズーカを一撫でしてから、塀からリヤカーの上に飛び移って来た。

「すまんな ケンスケ!」 トウジは振り向いて 飛び乗って来た少年に話しかけた。

「挟み撃ちとはね……奴等もようやく頭を使いはじめたって事か……」
ケンスケと呼ばれた少年はバズーカを大事そうに抱えてリヤカーの荷台の上に座り込んだ。

「さっきの人達は何なの? 君たちは何故終われてるの?」
僕は脹れ上がって来た疑問を解消する為に二人に話しかけた。

「ま、詳しい事はアジトに着いてからや」 そう言ってトウジはリヤカーの速度を上げた。

彼等のアジトはアスカの住む○○市に隣接する○X市の広い公園の一角にあった……
来た方向とは逆になったが、仕方の無い事だ……

恐らく昼御飯らしい芋をアルミホイルでくるんで、トウジとケンスケはてきぱきと落ち葉
や木の小枝で作った焚き火に放り込んでいた。
ペンペンは疲れたのか芝生の上でいつしか眠っていた。

「しかしペンギンまで連れてどうしてこんな街まで来たんだ?」
ケンスケが焚き火の方を見ながら問いかけて来た。
「あ、ペンペンって言うんだけど途中で知り合ったんだ……僕にとっては大事な仲間だよ」
僕は芝生の上で寝ているペンペンを見ながら答えた。
「市民IDも無しにあの街うろついてたら、いつか捕まるからおまえは行かん方がええ」
トウジはナイフで木の枝を何かに加工していたが、手を止めて言った。

「うん……でも僕はもう一度あの街に行かないといけないんだ……
知らない所に引っ越していったアスカの行き先を調べる為に……」
僕は気力までもが萎えてきていたのだが、このドタバタのせいで落ち込んでいた事すらも
忘れており、アスカを探す気力を取り戻そうとしていた。

「芋が焼けるまでまだ時間がある事やし……ゆっくり話でも聞くか?ケンスケ
「そうだな……俺達が協力出来る事もあるかも知れないしな……これも何かの縁だよ」

「ありがとう……」
僕は二人にぽつりぽつりとこれまでの事とアスカの行方を探している事を説明した。

トウジとケンスケは僕の話を聞きながら何度も頷いていた。
特に病院での話と似顔絵をしようとした時の話で…… そして、いつの間にかトウジと
ケンスケもアスカの行方を突き止める為に頭を捻ってくれていた。
「ほんま根性ババ色やであの街の役人は……市民ID市民IDちゅーてうるさいんや」
「町立病院って言ってもあの街がこの県の中心だから、ホストコンピュータは同じなんだよ
だから、データの参照とかには制限があるから、あまり参照したく無いんだろうね……
町立病院にあるパソコンは単なるクライアントでデータは全部ホストにあるんだしね……」

「おっと芋が焼けたぞ……食いながら考えようか」
ケンスケは殆ど燃え尽きた焚き火の中からアルミホイルを手袋をして取り出して来た。
「ほれ、食えよ 腹が減っては戦が出来ぬって言うやろ」
トウジは僕に焼きいもを一つ放ってくれた。

「ありがとう……」 僕はまだ熱い焼きいもの皮を手で剥いでかぶりついた。
「クエッ」 匂いに釣られたのか、ペンペンが起き出して来て僕を見上げていた。
「ほら、ペンペン 熱いから気をつけてね」僕は焼きいもを千切ってペンペンの前に置いた
ペンペンは器用にくちばしでつついて焼きいもを食べていた。

「ところで、君たちはどうして追われてたの?」
僕は焼きいもの最後の一片を口に放り込みながら言った。

「あの街で商売してるからさ……昔からあの街に住んでたんだけど、市長が変わってから
市民IDなんて制度が出来て、堂々と商売出来なくなったんだけど、稼がなきゃ生きて行け
ないだろ? だからこうして逃げ回りながら商売してるんだよ」
ケンスケが眼鏡の縁を手で押し上げながら言った。
「何を売ってるの? まさかヤバイもの?」
僕は逃げ回りながら売っていると言うのを聞いて、少し驚いていた。

「おまえが今食うたその芋とか野菜とか鶏肉を売ってるんや……郊外の農家から仕入てな。
この街では食糧は配給なんだ……けど普通の量じゃ足りないけど、余所へ密かに買い出しな
んかに行ったのがばれると、市民IDを奪われるから、元々市民IDを持って無い俺達が顧
客の為に危ない橋を渡って来たんや……」 トウジは胸を張って答えた。

「けど、捕まったらヤバイのは同じじゃ無いの? 良くこれまで無事だったんだね」
僕は今日の逃避行の事を思い出して言った。
「今日みたいな事は珍しいんだ……普段はこの俺がシステムに侵入して巡回ルートを調べて
警備員の巡回がいないコースの顧客に配達してたんだけど、子供が熱を出して、栄養のある
ものをどうしても食べさせたいって人がいたから、危ない橋を渡ったんだよ……」
ケンスケは背中のリュックサックからノートタイプのパソコンを取り出して言った。

「へぇ……パソコンかぁ 久しぶりだなぁ」僕は中学校に通っていた時の事を思い出した。

「現金じゃ無くて、物物交換したいって人がいたから代金の代わりに貰ったんだよ」
ケンスケはノートパソコンを撫で回しながら言った。

「それ以来仕入は俺に任せっぱなしで、日がな一日パソコンやってるもんな」
トウジは苦笑しながら、今にもノートパソコンに頬ずりでもしそうなケンスケを見ていた。

「でも、どうしてこんな街で商売するの? これまでいろんな街を通って来たけど、
電話かけるのにも市民IDが必要だったり、似顔絵屋やるのに許可なんて要らなかったよ」
僕はもう一つの疑問点を口に出した。

「どんなに住みにくくても……ここは俺達の街なんだ……」
「そうやな……出稼ぎに行ったきり帰って来ない親父が、ここで待ってればいつか戻って来る
んじゃ無いかって言うのもあってな……コイツも似たような状況なんだ……」
トウジは少し寂しそうな笑みを見せた。

セカンドインパクトの後でも孤児になった人がいると言う事を僕は再確認した。

そして 信じる事……それが何より大事だと言う事も……
アスカ……僕はもうくじけないよ……どんなに遠くにいても……きっと君の元に行くよ




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どうもありがとうございました!


第12話 終わり


マナ:お芋食べたいわね。

アスカ:こんな時に何言ってるのよ。やっと、シンジが来てくれたのに、またすれ違い・・・。

マナ:やっぱり、シンジ間に合わなかったわね。

アスカ:やっぱりって何よ! やっぱりって!

マナ:あなたも、シンジに水を引っ掛けて走り去るなんて、ひどいことするわね。

アスカ:あれは、アタシがやったんじゃ無いわよ。

マナ:ほとんど真横を通り過ぎて行ったってのに、気付かないなんて・・・。

アスカ:あの時は、ちょっと考え事してたのよ。

マナ:ところで、あなたどこへ引っ越したの?

アスカ:え? どうして、そんなこと聞くのよ。

マナ:シンジに教えてあげようと思って。

アスカ:ほんと? アンタにしては気が利いてるじゃない。えっとねぇ。XXX市xxx町xxx・・・。

マナ:わかったわ。シンジに教えてあげなくっちゃ。

アスカ:おねがいねー。しっかり住所を間違えずに言うのよーー。

マナ:ん? 住所なんか教えないわよ。

アスカ:は?

マナ:アタシが直々にあなたの家まで、案内してあげるの。一緒に旅しながら。

アスカ:ちょっと待てーーー!!(−−

マナ:どうしたの?

アスカ:その旅間に、誘惑してしまおうなんて考えてるんじゃ無いでしょうね!

マナ:あっ、さすがアスカ。ばれた?

アスカ:まったく・・・。
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
uraniwa@ps.inforyoma.or.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。


第13話探求】に続く!

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