アスカを訪ねて三千里


第15話「柵(しがらみ)



「はぁ……」 
私は引っ越しのどさくさで出すのを忘れていた義父様と義母様の小荷物が入った段ボール
を開けて、義父様や義母様に置き場所を聞きながら整理していた。
転校の手続きをしたのだが、丁度修学旅行の時期だそうで、学校に登校する必要が無いので
こうして昨日から日がな一日時間を潰しているのだが、ふと シンジについて書かれた綾波
レイと言う女性からの手紙の内容を思い浮かべては手が止まってしまうのだ。

窓の外には夕陽が奇麗な夕焼けを空に描いていた。
「はぁ……」 私はため息をひとつ吐いて作業を続けた。

「これは……」 私は17歳ぐらいの女性の顔写真が納められた小さい額を見つけて、
段ボール箱の中から取り出した。
もしかして、この女性が死んだと言う義父様と義母様の娘さんなのだろうか……
私はそんな事を考えながらつい、まじまじと写真を見ていた。
端正な顔立ちと少し寂しそうな瞳が印象的な女性だった。
どことなく、私と顔立ちが似ているようなそんな気がした。

「あら、アスカちゃん どうしたの?」
私は写真を見ながら物思いにふけっていたので、義母様に後ろから声をかけられるまで
義母様がこの部屋に来た事に気づかなかったのだ。

「義母様……この写真はどこにしまったらいいの?」
私は写真を差し出して、できるだけの笑顔を作って振り向きながら問いかけた。

「見当たらないと思ったらその箱に入ってたの……」
義母様は私から受けとった額縁入りの写真を受けとって、少し表情を変えた。

「ねぇ アスカちゃん……最近悩んでるみたいだけど、嫌な事は嫌って言ってね……
あの人はあなたに死んだ娘をだぶらせて見てるのよ……縁談の話だって早すぎるのは
解ってるんだけど……死んだ娘は結婚式を控えた三日前に事故で死んでしまったのよ
だから、アスカちゃんには早く結婚して幸せになって欲しいって思いこんでるのよ。」

「義母様……実は私には「ををアスカ こんな所にいたのか 早く着替えておいで」
義母様にシンジの事を話そうとした矢先に義父様が飛びこんで来たので、
私は次の機会に話す事を心に決めて笑顔で答えた。
「はい……義父様」


「厚着して来て良かったわね 思ってたより寒かったわ」
義母様はコートを脱いでたたみながらレストランのサンプルを見ていた。
「暖かいものにした方がいいな 帰る時に冷えるから」
義父様は私にコートを一枚着せかけてくれたので、相当寒かった筈だが平気そうだった。
「これ……ありがとうございました」 私はコートを脱いで軽くたたんで義父様に渡した。

「ん? 帰る時にも着るだろう?」
「いえ……そんなに寒く無かったですから……」
「アスカちゃん この人に遠慮なんかいらないのよ それにこの人は北国育ち……
この街が故郷だから寒いのは平気なのよ ね」 義母様は私の頭を撫でながら言った。
「そういう事なんだよ さ、早く座らないと席が無くなるぞ」
私は義父様に連れられてレストランの中に入っていった。

「んー混んでるなぁ」
 私は義父様と義母様と一緒にレストランの中で席を探したが、
空席は見つからなかった。

「おい 圭一郎じゃ無いか」
その時、さっき通り過ぎた一番大きいテーブルの方から義父様を呼ぶ声が聞こえた。
「三島 久しぶりだな……来てたのか そういや、まだおまえの家に行って無いから
実際逢うのは17年ぶりか……」
一番広いテーブルの奥の方にいた恰幅の良い老紳士が義父様の知人らしくて、
義父様は笑みを浮かべて近づいて行った。

「そうだな……いつも電話か手紙だからな 丁度いいじゃ無いか 座れよ」
「それもそうだな……じゃお邪魔するよ」

「あの方が診療所を作ってあの人をこっちに呼び戻した人のようね」
義母様は小声で私に耳打ちした。

「神凪の家内です この度はいろいろとご尽力下さったそうで……」
義母様は頭を下げてひとこと言ってから私を伴って席についた。

席についた時、老紳士の影で見えなかったが、
窓際に一人の青年が座っているのに気づいた。

「その子がアスカちゃんか お前の話以上に可愛いじゃ無いか
我が子可愛さの身贔屓かと思ったのは間違いだったな」
老紳士は笑みを絶やさずに私に話しかけて来た。

「アスカです よろしくお願いします」 私は席を立って挨拶をした。

「おい……おまえも挨拶せんか バカ者」 老紳士は肘で隣の青年を突っついた。
「……三島藤一(トウイチ)です……」
私達が近づいて来た時から窓の外ばかりを見ていたようで、慌てて振り向いて返事をした。

「18歳だったよな……私が○○市に転勤になった時はまだ奥さんのお腹の中だったが」
義父様が声をかけたにも関らず、その青年は外ばかりを気にしていた。

「まったくこいつにも困ったもんだ……勉強もせず絵ばかり描きおって
6歳の時 母親が死んで以来、私が過保護に育てすぎたのかも知れんがね……」

「おまえだって若い頃はおやじさんに”三島家をおまえの代で潰すぐらいなら私が潰す”
だなんて言われてた放蕩息子だったじゃ無いか……時間が解決してくれるさ」

「あの頃を引き合いに出されちゃ辛い所だな おっとようやく来たか……」
メニューと水を持ったウエイトレスが現れたので、老紳士は話を中断した。

「まだ故郷に錦を飾った記念をして無かったな 私達と同じものを3つだ」
そう言って老紳士はメニューを引き取らせた。

「悪いな 診療所の件でも世話になりっぱなしなのに」
「おまえには借が沢山あるからな……遊び歩いてた学生時代……おまえにノートを
借りて移させて貰ったり、嫌がるおまえに代返をして貰ったり……あれが無ければ
俺は大学を卒業出来なかったんだからな……」

「おっと言うのを忘れてた どうせ料理が遅れてるんだから私たちの分と一緒に
出してくれよ」 思い出したかのように老紳士はウエイトレスに声をかけた。

その話の間も青年は窓の外を見てばかりで、私に関心を示そうともしなかった。
だが、義父様の恩人の息子だと言う事を考えて私は声をかけてみた。

「ねぇ……さっきから外を見てるけど……絵を描いてるって聴いたけど、風景画なの?」

「……別に風景画に限った訳じゃ……」 
少ししてから返事が帰って来たが、あいかわらず窓の外から視線を外さなかった。
外を見ていたのはスケッチでも構図の練習でも無く、単なる人見知りのせいのようだった

私は少しカチンと来たが、義父様に迷惑をかける訳にはいかないので、
テーブルの下の右手を握り締めた。

「トウイチ!せっかく、おまえの花嫁候補のアスカちゃんが声をかけてくれてるのに……」
老紳士は肘で突っつきながら呟いた。

勝手に決められただけで、まだ候補なんかにもして欲しく無いのに……

「えっ この子が……本当なの?パパ」
急に振り向いた三島トウイチの顔は緩みきっていた。

どうやら、全然人の話を聴いて無かったようね……
私は呆れ返りながらも、先程までの寡黙さをあっさりと脱ぎ捨てた三島トウイチに
恋愛感情はおろか、友達にもなりたく無いと言うレッテルを心の中で貼ってやった。

「これトウイチ!…………まったく見ての通りのバカ息子でして……
これまでもお見合いめいた事をさせた事が何度かあったんですが、
振り向いたのはアスカちゃんが初めてなんですよ……全く面食いと言うか……
この身の程知らずが! 三島家の財産が無ければ誰にも見向きもされない事を忘れるな」
老紳士も段々紳士と言う化けの皮が剥がれて来ていた。

「まぁまぁ そう興奮せずに……若いと言う事は後になってみれば赤面するような事で
あっても、その一瞬はかけがえの無いものですから……」
義父様があまりフォローにならないフォローをしていた。
どうやら、初めてまともに話をした三島トウイチに義父様も驚いてるみたい……

私はレストランで食事をすると言うから、義父様と義母様にシンジの事を打ち明けるいい
チャンスだと思ってたのに、こんな事になるなんて……ついてないわ

「私が紹介した学校への転校の手配は済んでるだろう? まだ登校出来ないのかね」
「手続きは出来たし、転校の為の学力テストも最高記録を更新したぐらいだから、
問題無いんだが、今 修学旅行の真っ最中で登校しても人がいないそうなんだよ」
義父様が少し誇らしげに私をちらっと見ながら言った。

「まぁ田舎ではあるがこの辺りでは一番の学校だ……きっとアスカちゃんにも気にいって
貰えるだろう……けど、転校の為に勉強が後れるのが気になるな……登校はいつからだ?」

「確か、来週の初めだから、あと4日後だったよな アスカ」
義父様が首を捻りながら私に問いかけて来た……食前酒でもう酔ってるみたいね

「おおそうだ 家にトウイチの家庭教師を臨時でやって貰ってる人が今週末まで
滞在する事になってるんだよ かなり優秀な人らしいから、アスカちゃんにとっても
悪い話じゃ無いと思うがね……」

老紳士がそう告げた時に私は少し嫌な予感がしたのだが……

「そりゃ好都合だ 成績が良くてもブランクがあっては調子を取り戻すのに時間がかかる
かもしれないからなぁ……じゃ、お願いするよ すまんな 三島」
嘘……私の意向などお構い無しに決めちゃった……
けど、義父様に悪意が無いのが解りすぎる程解ってるから…………怒れないのよねぇ

「じゃ、明日からでも早速来なさい お待ちしてるよ アスカちゃん
おっとようやくオードブルが来たようだ それじゃ食事にしよう」

「何もかも面倒見て貰って悪いな……」
「いいんだよ 俺とお前の仲じゃ無いか だからもう言うな」
二人のやりとりを見ていたが、脱力感が身体を支配していたので、もうどうでも良かった。

「う゛ 見てる」
三島トウイチが少し頬を染めてガラスに移った私の姿を見つめていた……


最も参加したくない類の晩餐会は終わり、私は義父様のコートを着せて貰って外に出た。

今からでも遅くない……一言言っておかなきゃ……
私は宵の明星を見上げながら決意した。

「あの……義父様 実は私……約束した人がいるんです……」
同じように夜空を見上げている義父様に私は小声で話しかけた。

「え?初耳だな…… どういう約束だい?」
義父様は目線を私の方にずらして言った。


「僕達、二人ともかぞくいないから……おとなになったら、きっとかぞくになろうね」
「うん……しんじ 約束だよ」



「ねぇ……私達……家族になる約束したけど……良く考えてみたら……
どうやったら家族になれるのかしら……兄弟は無理よね……
二人とも同じ人にでも引き取って貰わないと……家族になんてなれないんじゃ無い?」

「もう一つの方法の事を言ってるの? アスカ……」
「べ……別にそういう意味じゃ……」

「アスカと家族になれるんなら何でもするよ そうだね20歳になったら結婚しよう」
「家族になる為に結婚するの?」

「違うよ……アスカの事が……好きだから……いや、アスカが嫌だって言うなら……」
「嫌なんて言って無い……お願い……きっといつか……私を貰いに来てね……」


「その……身寄りの無い子供同士だった碇シンジって同い年の子と……
小さい頃……お互い家族になる約束をしたんです ずっと一緒にいようねって……」
私はシンジと交わした二度の約束を思い出し、涙を堪えながら義父様に説明した。

「そうか……そういえば神父様がいつも一緒にいる男の子がいるって言ってたな
すまなかった……きっと不安な思いをさせてしまったんだろうね……解った……
その子を私達の息子にしようじゃ無いか!それならいつまでも家族のままでいられる
じゃ無いか!」 涙を流しながらそう答える義父様の姿を見て、私はひきつった。

義父様にもってまわった言い方はダメだって知ってたけど…いくらなんでも!

義父様のバカ〜〜〜

私の心の叫びは広大なこの北海道の大地に霧散していった。




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どうもありがとうございました!



アスカ:バカ〜〜〜!!!

マナ:い、いきなり何よ・・・。

アスカ:なんなのよ、これはぁぁぁぁ!!!

マナ:シンジと家族になれるんだってね。よかったね。

アスカ:せっかく、勇気を振り絞って言ったのに・・・バカ〜〜〜!!!

マナ:何が不満なのよ? シンジとの約束も守れるし願ったり叶ったりでしょ。

アスカ:アンタ・・・殺されたいようね。

マナ:ん? ということは、わたしもアスカと将来家族になるのかぁ。どっちがお姉さんになるんだろう? はははははっ!

アスカ:殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!

マナ:はっ! 殺気・・・。

アスカ:今のアタシに、その手の冗談は通じないのよっ! 死ねっ!!

マナ:いやーーーーーーーー助けてっ!!

アスカ:やかましいっ!

マナ:だって、アスカがちゃんと説明しないから悪いんでしょーー。どこかの誰かも「ぼくの気持ちを裏切ったな!」って読み終わって叫んだらしいし・・・。

アスカ:あったりまえでしょーーーがっ!!
作者"尾崎貞夫"様へのメール/小説の感想はこちら。
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第16話【発見】に続く!

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