「そうか……そういえば神父様がいつも一緒にいる男の子がいるって言ってたな
すまなかった……きっと不安な思いをさせてしまったんだろうね……解った……
その子を私達の息子にしようじゃ無いか!それならいつまでも家族のままでいられる
じゃ無いか!」 涙を流しながらそう答える義父様の姿を見て、私はひきつった。
義父様にもってまわった言い方はダメだって知ってたけど…いくらなんでも!

義父様のバカ〜〜〜
私の心の叫びは広大なこの北海道の大地に霧散していった。


【アスカを訪ねて三千里】

第17話「嫉妬


あれからもう三日……孤児院経由で手配をしてくれているとの事なので、
私はいつかシンジに会えるものと信じていた。

私は学校から帰り私服に着替え、窓際の椅子で休息していた。

「アスカや そろそろ 家庭教師の時間だよ」
お父様のその一言が私の気を重くさせるのだ……


「じゃ行って来ます」 私は用意していた鞄をさげて居間を出た。
あの趣味の悪い三島家に行くと言うだけで気力が半減し、
更に気味の悪い三島トウイチと一緒に勉強すると言う事で、
せっかくの、某大学の客員教授までしていると言う家庭教師の授業も
ありがたみが半減どころか、4分の1ぐらいに感じるのだ……

ああ 今日も三島家の屋根が見えて来た…… ふぅ


「いらっしゃいまぁせ アスカお嬢様ぁ」 玄関を叩くとすぐさま執事長が現れ、
私を邸内に招いてくれた。

彼はまだいい……この趣味の悪い三島邱に毒されずに自分の職分を守っている……
ラテン系の顔つきと発音のおかしい日本語もさほど気にはならない……

この陽気なイタリア人がどうしてこの北の地まで来たのか、
どうして三島家の執事長(長とは言っても使用人は 料理人と清掃が1人づつ)
を勤めているのか、いつか聞いてみたいと思いつつ、私は憂鬱な気分を忘れる為、
おさげにした彼の後ろ髪を見つめていた

「お飲み物は紅茶でよろしいですか? 後で持って参ります」
そう言って、執事長のジョセフはゲストルームの扉の前で私に背を向けた。

このゲストルームに客員教授をしている私達の家庭教師が滞在しているのだが……

私は息を飲んでドアを二度叩いた。

「どうぞ」 その声が聞こえて来ないのを願ったがそうはいかないようだ……

「うわ……」
私は部屋に入った途端 覚悟してたとは言え、その部屋の趣味の悪さにあてられた。

左右非対称に設置されているシャンデリア……片側はイタリア調 もう片側は
英国風のシャンデリア……双方共に存在感は並では無く、
まるでシャンデリア同士が覇を競っているかのようなその部屋に私は嫌々足を進めた。

「時間通りですね では、始めましょう」
三島トウイチもすでに隣の席についていたので、私は泣きたい気分を押さえて
席についてノートを広げた。

「それでは、今日は微分と積分のおさらいです」
日本人ばなれした白い肌はいい……細面な顔もスタイルも80点をあげてもいい……
髪にも気を使っているのかサラサラした髪が風に揺れている……
物腰もさわやかだけども、この家庭教師には致命的な欠陥があった。

顎が二つに割れているのだ……昔何度も再放送されたテレビアニメに出てくる刑事のように
全てをこの顎が台なしにしてしまっているのだ……だがまぁ、家庭教師としては一流だ。
時折笑いを誘うと言う事以外は……
私は彼の授業を受けなければいけない大学生の事を思い、
今日で終わりなのだからと思い、時折ひくひくする唇を強引に押さえつけていた。

こうして二時間程の最後の授業を受け終えた頃には、
私は心身共に疲労の極みに達していた。

「アスカさん あなたとても飲み込みがいいですね 綿が水を吸うように
知識を吸収してしまう…… 一を聞いて十を知るとはこの事です
まだ中学生なのに、今私の大学を受験しても通るでしょう」

「はぁ……」

「大学を受験する時は是非、私のいる大学に来て下さいね」

「こ……光栄です」 私は唇をひくひくさせながら言った。
光栄ではあるが、遠慮申し上げたいと言うのが心境である
もっとも、あの顎を何とかして貰えるのなら考えてもいい。

だが、こうしてこの家庭教師が私を誉める度に、三島トウイチが暗い眼をする……
彼の暗い視線を感じると、背中に寒気を感じるのだ。
最後だし……彼の希望をかなえてあげてもいいかな……
私はそう思うようになっていた。

私と三島トウイチはゲストルームを辞した。

その途端 三島トウイチは前から言い続けていた言葉を放った
「お願いします……僕の絵のモデルになって下さい!」

「……時間あまり無いんだけど、一時間ぐらいで終わるかしら?
私がそう言うと、トウイチは眼を輝かせた。


私は彼の後をついて、二階に上がった
彼は早足で自分の部屋の前まで行き、扉を開いた。

「うわぁ……」 中に入るとそこらじゅうに書きかけの絵や、
完成された絵が並べられていて、テレビン油の臭いが少し鼻をついた。
10畳はあろうかと言う部屋だが、絵にその三分の一は占拠されているだろう。

「絵が本当に好きなんですね……」 私はそう言いながら、シンジの事を思い出していた。

「じゃ、そこに座って」 私は彼の言うままにこぶりなソファーに腰を降ろした。

いつの間にかデッサンを始めたようだが、私はシンジとの思い出にふけっていた。

ふと、トウイチを見ると高そうな絵の具を無造作に並べていたり、
少しだけ描いて反故にした高そうな紙を見るにつけ、
シンジがいつも似顔絵を描いてくれたチラシの裏面を思い出してしまうのだ。

「いいよ 凄くいい表情してる これで今度のコンテストは……」
トウイチは夢中になって筆を走らせていた。


次の日の夜……

「ところでアスカや 確か昨日で家庭教師は終わりだったと思うが……」
夕食を食べおえた義父様が湯のみを手にして言った。

「家庭教師は昨日で終わったんですけど……絵のモデルを頼まれまして……」
私は昨日の事を思い出した。


            *           *          *

一時間程経過して、同じ体勢でいるのが辛くなった頃、
ようやくトウイチが筆を置いた。

「終わりましたの?」 私は開放感を悟られないように苦心して答えた。

「今日の分はね」 三島トウイチは表情も変えずに答えた

「あの……一時間で終わるんじゃ……」
私は疑問をトウイチにぶつけた。

「うん 今日の分……デッサンは一時間で終わったよ あとの工程でモデルがいて欲しい
のは一日1時間で7回ぐらいかな……」 トウイチは嬉しそうに答えた。

「そんなにかかるの!?」 私はつい地を出してしまっていた。

「来月に開催されるコンテストに出品するんだよ 今回の大会はルーベンス杯だったかな
前に佳作までいった事あるけど、今度は入賞したいんだよ 協力してくれるよね?」
眼を輝かせながら絵の事を語るトウイチに私は一瞬シンジを見てしまい、頷いたのだった。


            *           *          * 

と、言う訳なの 義父さま」 私は昨日の事をダイジェストで義父様に伝えた。

「そうだったのかい そりゃいい事だよ 協力してあげなさい」
義父様はにこにことした顔で即座に答えた。
私としては反対して貰いたかったのに……ま、仕方無いか……


そして、絵のモデルを初めて三日目の事である……

「お疲れさま 今、ジョセフに何か飲み物持ってこさせるから」
トウイチはそう言って部屋を出ていった。

「ふぅ……ところでどんな風に描かれてるのかしら……まだ見せて貰って無いから
気になるのよねぇ……」 私はさりげなくキャンパスが見える窓際に移動した。

まだ色は塗られてはいなかったが、描かれていたその表情は私の胸を打った。
「私……こんな表情してたのかしら……」
私は鞄の中からいつも持ち歩いているシンジが描いてくれた私の絵を取り出した。

シンジが描いてくれた私は無邪気な笑みを浮かべていたが、
トウジの絵のような表情を浮かべてはいなかった……

「あ……シンジの事思い浮かべてたんだわ……」 私はようやくその理由に思い至った
シンジに絵を描いて貰った時は、シンジと別れる事になる事など想像すらしていなかった
ので、このような表情だったのだが、今はシンジとの別離の後にシンジを思いこの表情
を無意識にしてしまった事に私は気づいた。

「おまたせ 暖かいカフェオレでいいよね」
その時、突然トウイチが室内に入って来た。

「まだ完成して無いから見ちゃダメって言ったのに……」
トウイチは一瞬すねたような表情を見せたが、私が興味を示したのが嬉しいのか、
すぐに笑顔を取り戻して近づいて来た。

「その絵……何?」 トウイチは目ざとくも私が比較する為に取り出していた、
シンジが描いてくれた私の絵を見つけた。

「ちょっと見せてくれる?」 私の返事も待たずトウイチは私の手から絵を奪った。

トウイチはまじまじとシンジが描いてくれた絵を見つめていた。

少しして、トウイチは自分が描いた絵とシンジが描いた絵を見比べ始めた。


「ねぇ……これ 誰が描いた絵なの? アスカさん」
ようやく比較を終えたのか、トウイチは鼻息も荒く私に近づいて来た。

「あの……施設にいた時に、同い年の幼なじみに……」

「凄く粗削りで基本とか分かって無いみたいだけど……この絵は凄いよ!」

「本当? そう言ってくれて嬉しいわ」 私はシンジの絵が誉められた事が嬉しく、
これまでシンジにしか見せた事の無い満面の笑みを浮かべた。

「それだ! 君のその笑顔……この絵を描いた人は君の笑顔を……いつも……
……すまないけど……今日は帰ってくれないか……」
トウイチは 絵筆を握りながら私の方を見ようともせずに言った。

「え?」 私は彼の豹変に驚いていた。
これまで彼がここまで感情を見せた事が無かったのだ。

「あの……さっきの絵を返して貰えます?」
私は彼に話しかけた。

「ごめん……これ少し借りるよ」

これで話は終わりとばかりに、私が何度話しかけても、それ以降は無視された。

私は不吉な何かを感じつつ、三島邱を後にした。




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どうもありがとうございました!


第17話 終わり

第18話 に続く!


アスカ:はぁ・・・アイツんとこ行くと疲れるのよねぇ。

マナ:あなたねぇ・・・。(ーー#

アスカ:なによっ。

マナ:よりによって、どうしてシンジの絵を渡すのよっ。

アスカ:だって、仕方無いでしょっ。

マナ:あの絵を何に使われるかわからないじゃないっ!

アスカ:むぅ・・・。

マナ:これで、シンジが不幸になったら、あなたのせいよっ!

アスカ:だ、だいじょうぶよっ。きっと・・・。

マナ:まったく・・・。それより、次回も大変らしいわよ。

アスカ:うっ。また、アタシが悲劇のヒロインに?

マナ:あなたは、しばらく出てこずに自室で反省してるのっ。まったく、シンジの絵を渡すなんてっ! ブツブツ。

アスカ:うぅぅ・・・。
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