空港に着いた時、僕はその場で綾波さんと別れを告げた。

そして、僕はついにアスカがいる地 北海道に辿りついた。

思えば長い道のりであった……僕だけの力では到底辿りつけなかったであろう。
僕はこれまで支えてくれた皆の事を思い出しつつ、財布からメモを取り出し、
空港の公衆電話から、アスカの家に電話をかけた。

TRRRR 数度の呼び出し音の後、誰かが受話器を取ったので、
僕は緊張を必死で押さえながら口を開いた。
「あの……初めまして……僕 碇シンジって言います」


アスカを訪ねて三千里

第22話「



「君がシンジ君かね…………アスカから幼なじみだと聞いているよ」
私は前にアスカが話してくれた時の事を思い出して話を続けた。

「あの……アスカは……そちらに……」
電話の向こうの少年はおどおどとした様子で語りかけて来た。
何故そんなにおどおどしているのか、私には良く理解出来なかった。

「あ……娘は今 学校に行っているが……」

「そうですか……そういえばまだお昼でしたね……」


「ところで、君は学校に行って無いのかね? まだ学校の時間だと思うが……」
私はこれから昼食と言う時に電話が入った事もあり、つい焦れてしまっていた。

「あ……僕 学校行って無いんです……去年の12月までは行ってたんですが」
少し逡巡した後、かなり声のトーンが小さくなった声で電話の向こうの少年は呟いた。


「確か、娘と同い年の筈だが……中学三年生では無いのかね……」

電話の向こうの少年の語り口が段々小さく弱くなって来た為、
私は彼になにかあると思わざるを得なかった。


「アスカがいなくなってから……僕も一度里親にひきとられたんですが…………」
彼の言葉は説明になっておらず、私は内心苛つきはじめていた。
何か後ろめたい事でもあるのだろう……

「ところで、アスカに何の用なのかね その事を聞いていなかったんだが」

「その……孤児院にいた時、アスカと約束していたんです……」

「どっちかが引き取られたらもう一方もその家に引き取って貰う約束でもしたのかね?」
前、アスカが口にした事を私は思い出していた。

「そんな! そうじゃ無くて……その 将来の約束をしたんです
いつかきっと……一緒になろうと……」
その言葉を聞いた時、初めて私は先日アスカが言っていた言葉の真意を理解した。
三島家の事が無ければ……認めても……いいのだが……

「婚約でもしたと言うのかね?」 私は少々意地悪な問いかけをしてしまった。

「いえ……去年のクリスマスの夜に……約束しただけです」

「アスカがその約束をしておきながら、少しして私の養女になる事を決意したのかね?
少し話がおかしく無いかね? 君」

「アスカは今、婚約を控えた大事な時期なんだ……君の気持ちもわからんでも無いが、
私の元に養女として来たからには私の娘だ……娘の幸福を願う私が、
義務教育も満足に行っても無い、どこの馬の骨やらわからん君に娘をやる事は出来ん!」

これは……嘘では無い……婚約の打診は来ている……それにアスカの事を考えたら……
それにすでに…………その事を言うのも酷では無いか……

「一度だけ……一度だけでも会わせて貰えませんか?」
電話の向こうでは涙を堪えているのか、シンジとか言う少年は振るえる声でそう言った。

「婚約を控えたアスカを動揺させる事ぐらいわかるだろう……」
「僕……去年のクリスマスから……アスカに会う為……ずっと旅をして来たんです……
一目…… 一目だけでも 許しては……貰えませんか?」

「アスカに気づかれないようになら…………約束を守れるか?」

「はい……守ります」 電話の向こうの彼の顔をもし見る事が出来たら……
こんな惨い事は言えないだろう……

私はそれ以上は堪え切れず電話を切ってしまった。


私は心を鬼にして、娘の為に嘘をついてしまった……
アスカが知れば軽蔑するやも知れん……だが今度こそは……幸せにしてやりたいんだ……

私はアスカに死んだ娘を重ねているだけかも知れん……
そうとわかっていながらも……そうせずにはいられないのだ……
そんな私を妻は遠い目で見つめていた。



その後……私はアスカが帰って来るのを待って、
夕食の後、三島トウイチとの婚約の件を切り出す事にした。


「アスカ……話があるんだ……」
私は昼の電話の件は頭の片隅に意図的に追いやって話を始めた。

「はい なんですか? 義父様」
アスカはテレビを見ていたが、テレビを消して私の方に振り向いた。

「アスカ……今日三島家から正式にトウイチ君とアスカの婚約について打診があった」
私がそうアスカに告げると、アスカは一瞬の内に青ざめた……
先日の事を私に知られたせいだろか……


「まだ15歳だし、今すぐと言う訳では無いが……あんな事があった今となっては、

そのような形にしないと、トウイチ君の将来を閉ざしてしまう事になる……

無論、おまえの幸せが第一ではあるが……どうかね?」
妻は黙って私の横顔を見つめていた……妻の言わんとする事もわからんでは無いが……

「前に言っていた……シンジとは連絡がまだつかないんでしょうか」
アスカのその一言が私の良心を串刺しにした……だが……だが……

「孤児院に連絡してはいるが、一向に行方が掴めないそうだ……」
雑務に追われていて、まだ連絡をしていなかった事も思い出したが、
私は嘘を突き通す事にした。

「もうすこしの間……結論を遅らせる事は……出来ませんか? お父さん」
普段は気丈なアスカが今にも泣きそうな目で訴えかけて来たので、
私はつい昼間の少年の事を思い出したが、もう……後戻りは出来ないのだ……

「おまえの誕生日までには決めて貰う……それでいいな」
今日は10月28日……二ヶ月もあれば……それに…………

「わかりました」 アスカは決意したのか、私の眼を見据えて言った。

「だが、世間体もある……会って欲しいと言う要望があれば出来るだけ受けてやりたまえ」
これまで三島家に何度も行っていた事を近隣で知らぬ者はいない……
急に行かなくなると、詮索したがる者もいるやもしれん……

「……わかりました 義父様」
アスカがどんな思いでそう答えたのか……想像する気力すら私には残ってはいなかった。



その頃……第三新東京市では……

「ペンペンたーん ペンペンたーん 遊びましょ」
幼稚園から帰って来たばかりのエミコは靴を脱ぐのももどかしそうに靴を脱ぎ捨て、
居間の方に走って行った。

ペンペンが葛城家に居着いてもう一週間を越えようとしていた。

シンジの思惑通り、ペンペンはエミコのいい遊び相手になっていた。
だが、葛城家に来て二日程は誰も近づけようとはせず翼を広げて威嚇すらしていた。

シンジに置いていかれた事にショックを受けていたのであろうか……

だが、エミコも兄と慕うシンジと離れ、
寂しい思いをしていると言う点では一人と一羽は同じであった……
その為か三日目にはエミコの手からエサを食べるようになっていた

「あれ、ペンペンたんいないなぁ」 エミコは居間に入って周りを見渡したが、
寝場所にしている古毛布の上にはペンペンはいなかった。

「エミコ……ただいまは?」
今日は弁護士の仕事が入っているのか、スーツ姿でノートパソコンのキーを叩いている
加持リョウジが、娘をたしなめた。

「えへ……ただいまぁ ねぇペンペンたんは?」
エミコは挨拶もそこそこにペンペンの行方を訪ねた。

「ペンペンなら多分二階のベランダだな」 リョウジは上を指差して言った。

「またでしゅか?」 エミコは少し寂しそうな顔をして二階への階段を見つめた。

「そっとしといてやれ……気が済んだら降りて来るだろう……」

ペンペンはここ最近夕暮れが近づく度、
ベランダに出て北東の空を悲しげに見つめているのだ……

「ペンペンは賢いんだな……だからシンジ君がいない事が……」
娘の心情も考えてリョウジは途中で言葉を濁した。

「そうそう、今日は鈴原のおにいちゃんと相田のお兄ちゃんが来るぞ」
リョウジはノートパソコンを畳んで言った。

「シンジおにいちゃんのお友達だもんね なら私もお友達みたいなものよね」
NERVとの折衝等や今後の事で、リョウジが弁護士として協力する事になったので、
以前一度来た事があったのだ。

「クェ」 その時、階段を降りてきたペンペンがエミコを見つけて一声鳴いた。

「ペンペンたーん ただいま ねぇお魚あげてもいい?」
エミコは父リョウジの顔を見上げて懇願した。

「んーそうだなぁ……」
娘をじらす為リョウジは笑みを押し殺しながら考え事のふりをしていた。


ピンポーン
その時チャイムの音が鳴り響いた。

「あ、鈴原と相田のお兄ちゃんかな」 
エミコは玄関にとてとてと走って行き、ロックを解除した。

「誰? お姉ちゃん」 エミコの前に立っていたのは霧島マナであった。


「へぇ シンジ君の同級生か」
リョウジはお茶を飲みながらマナと相対していた。

「シンジの情報持ってると思って、綾波レイって人に会いに来たんだけど……
仙台とやらに出かけた後でして、途方にくれてた処に ここがシンジ君の家だって
聞いて訪ねて来たんです」
マナは出されたお茶の湯のみをくるくる回しながら言った。 どうやら猫舌のようだ。

「その、アスカさんの住所は分かってるんで、私も後を追ってみようと思いまして……
だけど、まだ冬休みじゃ無いんで、遠くの親戚に不幸があったって学校に嘘ついて
休みを取ったんですよ」 マナは照れ臭そうに語った。

「シンジお兄ちゃんの処に行くの?」
ペンペンを抱いたままリョウジの隣に座っていたエミコが口を開いた。

「んー厳密にはシンジ君が行こうとしている処かな」

「お願い ペンペンたんを連れていってあげて……シンジおにいちゃんのいる処に……
私じゃ駄目なの……ペンペンたんの事大好きだから……そうさせてあげたいの」
エミコは本心では手放したく無いのか、ペンペンを抱きしめたままマナに懇願した。

「この温泉ペンギンはシンジ君が連れてた、いわば旅の仲間なんです。
仙台に行く時、私の家に人づてで預けていったんですが、
ここ最近寂しそうにシンジ君のいる東北の方向をじっと見ているんですよ……利口な子です」
すでにリョウジはペンペンを家族の一員と認めていたようだ……

「わかりました……私が責任を持ってアスカさんの家まで届けるわ」
マナはペンペンを抱きしめるエミコを優しそうに見て返事をした。




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オンライン確認  ICQUIN:7169444
クリックすれば尾崎のICQに今すぐメッセージを送る事が出来ます(onlineなら)
onlineの時に上のフォームで感想を送ればすぐ返事が届くかも(^^;
シンジと圭一郎の話を書いた次の日 散髪屋に行った時有線でダ・カーポの”結婚するって本当ですか”
と言う歌が流れ、シンジの心境に重ね合わせている内にいつしか散髪されながら泣いてました(^^;
CDを持ってる人は流しながら読めば三倍泣けるかも(笑)

どうもありがとうございました!


第22話 終わり

第23話 に続く!


マナ:久しぶりにわたしが登場したわっ!

アスカ:前回のコメントでは、これが言いたかったのね。

マナ:だって、久しぶりの登場で嬉しくて。

アスカ:それより、義父様・・・なんてことを・・・。

マナ:不器用だけど、アスカのことを考えて下さってるのよ。

アスカ:でも、これでシンジが諦めて帰っちゃったらどうするのよっ!

マナ:大丈夫よっ。

アスカ:何が大丈夫なのよっ!

マナ:その時は、シンジはわたしが引き取るから。

アスカ:違うでしょーがーーーーーっ!

マナ:それより・・・シンジのことだから、諦めきれずに・・・。

アスカ:うっ!

マナ:それだけは・・・。

アスカ:なんとかしなくちゃ、なんとかしなくちゃっ!
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