2015年、すでに……
緩慢な絶滅の道たる少子化傾向に歯止めをかけるため、
超法規的とも言える法案を実施した日本政府ではあったが、
そうして結婚した後の離婚もまた多く、
子供を一人も産まずに離婚するケースが増え、
このままでは法案が意味を為さなくなろうとした時、
日本に住むほぼ全ての結婚している男女がありがた迷惑だと叫んだ
法案がついに衆議院・参議院共に可決された。


2015

作:尾崎貞夫

その二 「寅さん」

「ねぇシンジ お茶でも飲まない?」
アスカは段ボール箱から出した本を本箱に並べる手を止めた。

「そうだね けど、ガスが通るのは明日からだと思うけど」
シンジはテレビの配線を終えて立ち上がった。

「そんな事もあろうかと思って、持って来てるのよ」
アスカは旅行用鞄の中からポットを取り出して言った。

「じゃティーカップを探さなきゃね どの箱に入ってたかな」
シンジは満面の笑みを絶やさずに答えた。

「2つだけ出してもう洗ってるのよ」
アスカは洗い場の乾燥機の中からティーセット二組を取り出した。

「さすが、手際がいいねぇ 奥さん(ハァト)」

「もう やだぁシンジったら(ハァト)」

ロ○ットによりアスカの恋心が発覚してから二ヶ月……
無事結婚式も終え、長男ではあるもののゲンドウといきなり同居ではアスカが可哀想
だとのユイの考えで二人は新居となったマンションへの引っ越しの真っ最中であった

今の二人の間に挟まれたららぶらぶ光線であっと言う間に照り焼きになってしまうだろう
実際シンジとアスカが結婚する事で、アスカを羨むばかりか口さがない事を言う人も
少なからずいたが(曰く玉の輿)、今の二人にはそんな声など雑音以下であった。

仕事の上でも家庭を持って一人前になったとの事でシンジは専務に昇格し
(代表権はまだ無し)アスカも平取となって碇産業の役員となった。
順風満帆の二人の旅立ちではあったが、二人には不安な点も少なからずあった。
カルチャーショックと言うかデ・カルチャーと言うか、正月の雑煮にあんこを入れる
某地域に嫁いだ人は大変だなと言うか(わけわからん)
二人にはこれから消化していかないといけない課題が山のようにあった。


「ふぅ 美味しいね」 シンジはアスカが用意した紅茶を飲んでうっとりとした声で呟いた。
「これ、義父様に貰った紅茶なのよ……」 二人のなれそめどころか結婚の運びとなった
原因までゲンドウに知られているからである……

「父さんには何から何まで面倒みて貰ったよ……これまでは放任って感じだったのに」
このマンションも碇産業がオーナーであり、若い二人に憚って両隣が空いて
いる部屋をわざわざゲンドウが用意したと言う笑えない逸話もついているのだが……
多分両隣と真上・真下に入居する事は当分無いであろう……

「来週の日曜にはヒカリと鈴原さんが来るから、それまでには何とかしないとね」
アスカは半日かかって整理した室内を見て言った。
「さすがに僕は休めないけど、せっかく父さんが二週間の休みをくれたんだから、
ゆっくりアスカが気に入るようにしていけばいいよ 重いものは夜僕が持つからさ」

「私はシンジの意見も尊重したいんだから、出来るだけ早く帰って来てね?
 シンジがくつろげる部屋にしたいんだから……」
「うん……だけど……僕はアスカがここにいるだけで安心出来ると思うんだ……」
「シンジ……」
「愛してるよ アスカ」
素面でこんなもの書いてると余計悲しくなってくる(笑)

そして某釣りバカ日記ならゴシック体二文字で表現される行為に二人は没頭しはじめた。
まだ片づけ半分しか終わって無いのに……
もしミサトがこの世界に入れば「いいじゃ無いの わっかいんだからさ〜」
と言うであろう(お約束)

そして10日の月日が流れた……

ピンポーンピンポーン 少し遅れてもう一回……ピンポーン
これは二人の決めた合図……

アスカはエプロンをつけたまま玄関に走っていった。
二人の間を分かつ鋼鉄の扉の鍵を開けアスカはシンジの胸に飛び込んだ。

「シンジっ おかえりっ」
「ただいま……アスカ 愛してるよ」
シンジは少し恥ずかしそうにしながらもアスカを受け止めた。

自分の家なんだから自分で鍵を開けて入ればいいだろう と誰しも思うだろうが、
シンジの帰りをアスカが待ち、アスカが扉を開ける これは儀式なのだ……
アスカももう5日もすれば同じ職場で働く訳であるし、このようなシチュエーションは
滅多に無い事が予想されている為、アスカは妥協を許さなかった。

ああ 親の愛…… 今にして思えば両隣に人が住んでたらこんな事は出来まい……
ここまでやるとはさすがのゲンドウも思わなかったであろうが……

「今日の晩ご飯は何かな?」 シンジはわくわくとしながらネクタイを解いた。
「んー シンジの大好きなロールキャベツっ 赤ワインもちょっぴり入れちゃったの」
アスカは舌をちょろっと出して悪戯っ子のような表情で言った。
「本当? こりゃご飯三杯はいけるかも……」
シンジは結婚前に一度食べたロールキャベツの味を思い出して口の中を唾で溢れさせた。

「沢山たべて精をつけて貰わないとねっ(ハァト)」
書いててだんだん悲しくなって来た

そして、洞木ヒカリと鈴原トウジが遊びにやって来る日曜日……
シンジ達の新居の最寄りの駅でトウジは時計を見ながらヒカリを待っていた。
シンジ達の結婚式で アスカの友人として出席したヒカリとシンジの友人として出席した
トウジではあったが、おたがい一目惚れ状態で、もし結婚式場にロ○ットがいたら、
おそらくその日の内に入籍を済ませる羽目になったであろう。

「あ、鈴原さん お待たせ 電車混んじゃって」
普段での会社での服装とは違い、派手では無いもののヒカリらしい普段着を着ていた。

「いや、そんなに待ってへんから……」トウジは額の汗を拭いながら答えた。
二人は挨拶を交わしてからどちらからとも無く歩きはじめた。

「私一人でアスカ達の所に行くのは当てられそうで荷が重かったのよ」
男性と二人きりで歩いているのが少してれくさいのかハンドバックについているアクセサリー
を所在なさげにいじりながらヒカリが話しかけた。

「わしもな……あの奥手だったシンジがこの歳で結婚なんて驚いたから、
 どんな顔して会ったらいいんだろうって思ってな……
 結婚式ではそれほど意識しなかったんだけどな……」
「確かシンジさんとは中学・高校の同級生ですよね」
「ああ 高三の時は別のクラスだったけどな……」
そうこうしている内にシンジ達のマンションのホールまで辿りついたので、
二人は少し緊張しつつも階段を上がった。

「そ、それじゃ」
トウジが代表してインターホンを押す事になり、トウジは汗ばんだ頬を掌で被った。

ピンポーン インターホンが鳴り響き30秒程して、中から元気な声と共に扉が開いた。

「はーい!x2」
「ぺぺぺ ペアルック!?」 トウジは出てきたシンジとアスカの姿に息を飲んだ。
二人の出で立ちは麻地のポロシャツ(色ちがい)に紺色のジーンズをはいていたのだ。
「お……仲がよろしい事で」 ヒカリも何と突っ込めばいいのか窮していた。
「あら、二人とも固まっちゃった…… どうしたの?ヒカリ」
「トウジ 何やってるんだよ 上がってよ」
「ああ」
「ええ」
二人はようやくデ・カルチャー状態から抜けたのか 靴を脱いで室内に入った。

「うわ……べったべたやな」
玄関先には結婚式の時に作られたシンジとアスカの写真入りの絵皿が飾られており、
トウジは早くも毒気にあてられた。

その後シンジとアスカに室内の見学をさせられ、ヒカリもくらっと来るような光景が
所々に見受けられた。

「結婚すると……皆こうなっちゃうのかな……」
ラブラブ光線出しまくりの二人を見てヒカリはそっと呟いた。

「人によるんちゃうかな……」 ヒカリの呟きが聞こえたのかトウジも答えた。

二人はアスカの淹れた紅茶を飲んで初めて気を落ち着かせた。

「まだちょっと恥ずかしいんだけどね……トウジ達以外の人だと中に入れたく無いかも」
二週間の間にアスカが構築した、誰が見ても新婚さんな部屋を見て恥ずかしいと
思う冷静をシンジはかろうじて残っていた。

「ねぇ テーブルの上のこのオブジェクト何?」
ヒカリがテーブルに据えつけられている 男性の胸像をに気づいた。

「ああ、それ? 法案とかで必ず置いておかなくちゃいけないんだよ」
「一度も作動した事無いから、よくわからないのよ」

「法案って……ああ あの器械なの……初めて見た」
ヒカリは帽子をかぶった男性の胸像を見つめて言った。

「何やよくわからんけど……これだけは言えるわ 
 良くも悪くもここはシンジとアスカさんだけの世界やわ」
トウジは誉め言葉と取ってもいいのか迷うコメントを残して碇家を去った。

トウジとヒカリが帰り数日たち、アスカも仕事に復帰してから二週間……

「ふぅ 専務になったのに相変わらず父さんのサポートが多いな」
夜の9時過ぎ……疲れ果てて帰って来たシンジはインターホンを三度鳴らした……

「あれ?アスカいないのかな……トイレにでも入ってるのかも……」
シンジはアスカが扉を開けてくれるのを待っていた

すると背後から足音が聞こえて来た。

「あ、シンジおかえりぃ 今日は朝ご飯セットするの忘れちゃって お弁当なの」
アスカは出来合いのお弁当の入った袋を持ち上げて言った。

「今日も遅くまで仕事してたのかい?」
シンジはアスカが仕事を続けると言うのを許可した事を少し後悔した。

「そうなのよ 安武さんちっとも使えないから彼女の分までやってたの……」
取締役になった為、以前の業務を後任に引き継ぐ事になっているのだが、
それが難航している為、二倍の仕事を抱え込む羽目になっていたのだ。

「まぁ入ろうよ」 シンジは少しがっかりしながらも自分と同じように仕事で疲れた
アスカの事を思って笑顔を見せた。

「うわっ 僕おかか大嫌いなんだよ」
シンジは弁当の蓋を開けるや否や悲鳴を上げた。

「え?そうだったの? ごめんね今度から気をつけるから」

「そっちも同じメニューか……別にアレルギーじゃ無いから食べれるよ……食べれるけど」
シンジはぶつぶつ言いながらのり弁をぱくついた。

(私だって働きたくて働いてるんじゃ無いのよ……シンジが継ぐ会社だから協力したいのに)
アスカは少し複雑な気持ちでのり弁を食べていた。

仕事が忙しくなるのに比例して、二人の間の緊張感は高まっていった。
何しろ、まだまともに夫婦喧嘩をした事が無いのだ……

そんなある日 シンジが風呂に入ろうとしたら中は冷水状態だったので、
ついにシンジに火がついた。

「アスカぁ お風呂水だったよ! 風邪引いちゃうよ」
シンジはあまりの寒さにアスカに怒鳴り散らして温水器の温度を上げた。

「そんなの自分で確かめてから入ればいいじゃ無い」
売り言葉に買い言葉 アスカもここ最近の忙しさのせいで苛立っていたのだ。

その時である……

「奥さん それをいっちゃあおしめぇよ」
テーブルに設置されていたオブジェクトが二人の気まずい空気を検出して、
夫婦の口喧嘩→犬も喰わない夫婦喧嘩→離婚 へと進むのを断ち切る為に調停に入ったのだ

「旦那さんも疲れてるのはわかるけど、奥さんだって仕事してるんだからさ
 やっぱりいたわりあってこそ夫婦なんだよ」
シンジとアスカが初めての事態で真っ白になっている中、オブジェクトは仲裁を続けた。

その後も小競り合いが続いたが、夫婦喧嘩阻止機”寅さん”のおかげで表面上は
何とも無いように見えた。


この日も何が理由だか二人とも忘れるような事で二時間近くも口をきこうとはしなかった。
シンジは何も無かったかのように新聞を読んでいるが、寂しげに肩が震えていた。
一緒になってしまえば全ての問題にかたがつくと思っていたのだろう

「で……私に仕事して欲しく無い訳? そりゃ私だって毎日シンジを迎えてお料理作って
待っていたいわよ…… けど、こんな私にも責任ってものがあるのよ」
その緊張感に堪え切れずアスカが激昂した。

「アスカと一緒に会社を支えるのは僕にとっても生きがいだよ……
だけど家庭を犠牲にしたくないんだよ……」

「じゃ私はどうすればいいのよ……教えてよ」 アスカはついに張り詰めていた糸が切れた
のか、しくしくと涙を流しながら言った。

「どうすればいいかなんて……僕の方が知りたいよっ」
シンジは為すすべもなく苛立った。

そして、再び寅さんの眼が輝き活動を開始した……いや、開始しようとした。


「こんなものがあるから……こんなものがあるから二人で話し合って解決出来ないのよ」
アスカはテーブルに作りつけになっている寅さんから電池を抜いて床に叩きつけた。

「アスカ……ごめん……僕達は半人前だって事を忘れてた……
夫婦は二人で一人前なんだよね……僕もその器械に甘えて結論を先延ばしにしてたんだよ…」

「シンジっ」
「アスカっ」
二人は何も言わずにお互いを抱きしめあった。


二人はようやく自分の本当に安らげる場所を手探りで見つけ出したようである。




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どうもありがとうございました!


その二 終わり

その三 に多分続きません これで終わり(予定)


アスカ:やっぱり、こういうラブラブな話っていいわねぇ。(*^^*)

マナ:なによっ! 最後喧嘩してた癖にっ!(ー。ー)

アスカ:でもでも、見て見て。寅さんがいなくたって、ちゃーんと仲直りしたのよぉぉっ!(*^^*)

マナ:なによっ! ご飯の支度も碌にしない癖にっ!(ー。ー)

アスカ:だから、2人で一人前なのよ。アタシの足らない所は、シンジが補ってくれるわっ!(*^^*)

マナ:どーせ、また喧嘩するわよっ! 寅さん動かなくしちゃったから、その時はもうおしまいよっ!(ー。ー)

アスカ:夫婦喧嘩の仲裁は寅さんじゃないのよぉ。

マナ:じゃ、何よっ!(ー。ー)

アスカ:愛よぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!(*^^*)

マナ:もーーーっ! こんなノロケ小説いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!(TOT)

アスカ:うぅーーん。もっと書いてぇぇぇぇっ!(*^^*)
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