「あ、私だけど 今日お客さん連れて行くから御馳走の用意してね 何か足りない物ある?
鶏肉と卵と牛肉ね わかったわ」 ミサトは夫であるリョウジに電話で連絡を取っていた。
「あ。何か忘れてる 思うたら、ケンスケの事忘れとったわ」
「どうせ通り道だから遅くなるけど拾って行くって電話しておくわ」
レイは懐から携帯端末を取り出して言った。
カヲルにとっては激動の半日と言ってよく、未だ カヲルは戸惑っていた。
だが、シンジの友達だと言うだけで何の疑いも無く受け入れてくれるミサトや
レイ・トウジ達にカヲルは言い表しようの無い安心感を感じていた。


アスカを訪ねて三千里
外伝「遠い約束」 中


「ふぅ……昨日は飲み過ぎたわぁ……頭痛い 私 午前中は使い物にならないかも」
日向マコトが書類を手にミサトの執務室に入ると、ミサトは机の上に突っ伏したまま顔も
上げずに呻き声を漏らした。

「調書はまだですが資料は出揃いました まず使用した銃ですがSIGザウエルP230に
SIG社純正のサイレンサーをセットし、弾丸はホローポイント弾です 凶悪ですね」

「ホローポイントか……要はダムダム弾よね 国際法で厳しく制限されてて所持しているだけ
でヤバい弾丸をわざわざ使うって事は他に用意無かったのか…… プロじゃ無いわね
テロリストか猛獣相手にしか使わない弾でティーンエイジを狙うのはやりすぎよね」」
ふつふつと湧いて来た怒りの為か、ミサトは二日酔いで呆けていた頭を覚醒させた。

「製造番号から見て、恐らくセカンドインパクト後のどさくさに紛れて何者かが入手していた
ようです 過去のライフリングマークの記録を調べましたが二丁ともに使用されていません」

「さすがに銃の持ち主が指紋を残す筈は無いけど……どう?」
日向マコトが持って来た資料に眼を通しながらミサトは問いかけた。

「犯人二人の指紋と途中で銃を奪った綾波レイさんの指紋しか残されていません。
当然 その場に残された薬莢 マガジンに残された弾丸の全てをチェックしています」

「綾波クリンリネスの社長を狙った件といい、セカンドインパクト直後のごたごたから、
恐らくは入手にかなりの金額を要した銃を確保していた辺り、動機は怨恨かしらね……」
暗に第三新東京市で権力を持っている一部の企業体の事を暗喩してミサトは呟いた。

「我々のスポンサーの中に犯行を教唆した者がいなければいいのですが……失言でした」
孤児の救済より、ライフラインの確保やインフラの整備を進めさせ自分達の利益に繋がる
事しかさせないように政策をリードし、多くの犠牲者の涙をよそに成長して来た一部の企業
その企業が元孤児を大量に使い、世論を変えつつある綾波クリンリネスに敏感に反応した
のはほぼ事実でありながらも、治安を守るべく活動しているNERVの資金源の一部も
そうした企業である為に、日向は最後に口を濁したのだ。

「銃器不法所持にキッドナップに殺人未遂と来れば、実行犯はもとより示唆した者も確実に
塀の内側に落とせるわね……けど実行犯がどれだけ情報を持っている事やら……
日向君……相手は国際法を破った悪党よ 死なせなければ問題無いから自白剤をうちなさい
あるいは自白剤を打つと言う事を示して薬無しで自白させなさい 私は裏取りの指揮に廻る
から、お願いね」 そう言って葛城ミサトは紅い制服を身に付けて立ち上がった。」

「うっ……さすがにクラっと来るわね」
ミサトはこめかみに手を当てて辛そうに部屋を出ていった。


「ん……今何時だろう……」
陽の光が差し込みカヲルの目蓋に燦々と降り注ぎカヲルは眼を覚ました
「11時半か……良く寝たなぁ」 昨夜は0時過ぎまで歓迎パーティーで騒いでいた為、
シンジが昔使っていたこの部屋で横になったのは1時頃であった。
ぶどうジュースだからと最後の方で無理やり飲まされたワインのせいか少し起きる時に
ふらついたが、ベッドに腰をかけている内に落ち着いて来た。

 寝間着の用意など無かったので下着姿のまま寝ていたカヲルはベッドの脇に脱いでいた
服に袖を通そした。

「あの……おはようございます」 11時半でおはようは無いのだが他に何とも言い様が無い
ので、カヲルは恐る恐る居間に入っていった。

「やぁ よく眠れたようだね」 昨日紹介された加持弁護士がフライパン片手に焼き飯を作り
ながら返事した。

「ちょっと早いけど、朝飯喰って無いから腹減っただろう 座って待っていてくれよ」
もう皿に盛るだけなのは見て分かったのでカヲルは素直に席についた。

「大盛りだが、若いんだからそれぐらい喰えるだろう」
そう言って大皿をカヲルの前に加持は置いて言った
「いただきます」 香ばしい匂いがする焼き飯にスプーンを付けてカヲルは食べはじめた。

「美味しいです! こんな美味しい焼き飯初めてです……僕も料理するんですけど、
こんな風には出来ないです」 カヲルは少し興奮して話した。

「そうかい 俺も結婚するまではろくに料理とかしなかったんだけど、娘が産まれたのと、
女房が特佐なんかに昇進したんで俺が料理するしか無くなってな……作った料理を娘のエミコ
が旨そうに食べてくれてな……それから料理が趣味になったんだよ」
加持は相好を崩して言った。 こと一人娘のエミコの事になると敏腕弁護士には見えないのだ。
「あ、そうだ レイちゃんや鈴原君達は仕事の予定があるそうだから、詳しい事情聴取の為に
午後からNERVに来てくれって女房が言っていたぞ…俺も当番弁護士だから今回の事件の実行犯
の弁護に当る事になってな NERVに行く用事があるんだ 弁護する為の情報と称して、
いろいろ聞き出そうと思っているんだよ……最終的には裁判の前に解任されると思うがな」

「そうなんですか…… 分かりました」
「じゃ10分ぐらいしたら出るから、そのつもりでいてくれ」
さすがにポロシャツで行く訳にもいかないので加持は背広に着替えに行った。
カヲルにはさして用意する物も無かった為、流しに皿を入れて洗う事にした。

加持が着替えて出てきた頃には食器乾燥機に入れてスイッチを入れていた。

15分程でNERV本部の警察権執行担当である 保安課にカヲルは連れて来られた。

「あ、葛城特佐は今食事中なので5分ぐらい遅れるそうです」
加持弁護士とカヲルが保安課の葛城特佐の執務室に入ると日向マコトが書類から
顔を上げて言った。

「そうか じゃ俺は容疑者に接見して来るから後は頼んだよ」
「分かりました 連絡しておきます」

「じゃ、カヲル君だったね こちらでどうぞ」 カヲルは応接室に通された。

「いやぁごめんごめん遅くなっちゃったわね」
約束の時間を2分程過ぎた頃、ミサトが走り込んで来た。
「いえ……」 
「どう よく眠れた?」
「はい 11時半まで寝入ってました」
「そう……あんな事のあったばかりだから心配してたけど、大丈夫みたいね」

「昨日話した事以外でまだ何か必用なんでしょうか?」
「昨日は動転してたでしょうし、一日経って落ち着いたら何か思い出すかも知れない
と思ってね……」

「そういえば……昨日は言い忘れてたんですが、彼等が”女以外なら殺してもいい”
と言ってました……目的はレイさんの拉致みたいです……」

「そう……手段を選ばなかった訳ね……他には何か無い?」

「鈴原さんが押さえつけていた黒服の男のイントネーションが広島弁ぽかった気がします」
「取り調べでは標準語を喋っていたけど……動転していてなまりが出たのかもね……
 犯人の特定がしやすくなるかも。」

その後も事件の事と葛城家での事を交えて質問され、30分程した頃、ドアをノックする者
がいた。 「俺だ……入っていいかな」
「あら、もう顔合わせ終わったの?」
「一通り吐いたぞ……奴らも示唆した人の情報は持って無かったけど、これだけ情報が揃って
たら、何とかなるだろう」
「何よ 尋問でもしたの? 自白剤使おうと思って碇指令に申請書出したばかりなのに……」
「いや……ちょっとな……」 そう言って加持さんは実行犯二人とのやりとりを教えてくれた。
 厳重な警戒が施された留置所の中の面会室に、
手錠と腰縄を付けられた犯人二人が連れて来られた。

「当番弁護士の加持だ……君たち二人の弁護をする事になった」
「…………それで?」
「君たちの弁護で少しでも減刑をする為には全ての情報を知っておく必用があるんでな
ま、減刑と言っても死刑が無期懲役になるぐらいしか出来んが……」
加持はいきなり一発脅しをかました。

「な、何で俺達が死刑になるんねや 誘拐の未遂と銃器不法所持だけで死刑になるかいや」
犯人の一人 犯人Aは激昂して言った。

「なぁ……もう少し現実を認めようや……それに殺人未遂が加わるし、誘拐しようとしたのは
15歳〜17歳の子供だぞ? それにお前たちが所持していた銃にセットされていた弾丸は、
ホローポイント弾って言って国際法上で禁止されてて戦争でも使ったらいけないと言う弾丸
なんだぞ? これで殺人の意図が無かったってのは無理があるやろ……死刑と言われても
無理が無いと思うがね」

「弾の事まで知るかいや 渡されたハジキ使うただけや」
犯人Bが激昂して叫んだが、それだけで示唆した犯人がいた事を示してしまった。

「ほう……渡された銃ねぇ……おまえらは単なる実行犯で他に示唆した奴がいるんだな……」

「阿呆 オマエ何ゆうてんねや」 犯人Aが肘で犯人Bをどついて言った。

「こうなったら全部喋って貰おうか? おまえらに指示した犯人を吐きでもしたら、
減刑で、生きてる内に刑務所から出れる可能性も増えるしな……」

「うう…………」犯人AとBはうなる事しか出来なかった。

「あ、当然だけど今までの会話は全部記録されてるから充分証拠になるぞ?」

「……分かりましたけど、俺らは仲介して来たヤクザしか知らんのですわ」


「とまぁこういう訳で犯人に所謂(いわゆる)ゲロさせたって訳だよ」
加持は少し誇らしげに言った。

「あんた刑事か検事になった方が良かったんじゃ無い?」

「あと、奴らにコンタクトして来る人が必ずいるから、証人を殺さない為にも
厳重に警備させるべきだな……俺が真犯人なら今日にでも一人留置所に刺客を
差し向けるけどな……」

「連絡して来るわ ちょっと待ってね」 そう言ってミサトさんは応接間を出ていった。


「凄いですね……加持さん」 カヲルは心服したのか眼を輝かせて言った。
「真犯人が弁護士を用意出来ないから、そこにつけ込んだのさ……今週俺が当番だった事を
奴らは恨む事になるだろうな……」

「あからさまに怪しい容疑者がいるわ……これまで尻尾一つ見せなかった窃盗犯なんだけど、
犯行に失敗してブザーが鳴ってるのに、何故か逃げ出さなかったそうよ」

「恐らく実行犯の顔を知らないだろうから、屈強な職員二人を実行犯のいた部屋に移して、
実行犯を別の部屋に移して、コンタクトをして来た所を押さえれば示唆した犯人の情報が
掴めるかもな……」

「そう言うと思って手配したわよ」 ミサトは笑みを浮かべて言った。

「カヲル君も重要な証人だし、今ここから帰らせるのはマズイな……
夜まで待ってミサトと帰宅する方がいいかも知れんな
俺はエミコを迎えにいってから帰るよ」

「レイちゃんには3交代でガード付けてるけど……さすがにもう接触は無いと信じたいわ
今日の所は私と帰りましょう リフレッシュルームとかプールもあるからゆっくり
待っていてくれる?」

「分かりました」 カヲルは素直に頷いて言った。

そして4時間後の6時半にカヲルはミサトの車で帰宅する事になった。

第三新東京市の中心部はイルミネーションの光で溢れていて、カヲルには目映く思えた。

「あ、ちょっと寄って行く所があるから」
そう言って葛城はハンドルを切り横道に入り、立体駐車場に車を進入させた」

立体駐車場の一番上に車を止めたミサトはカヲルを連れてショッピングセンターに歩いていった。

カヲルが連れていかれたのはカジュアル服コーナーであった。

「裁判には証人として出る事になるし、ちゃんとした服を用意しておかないとね
それと寝間着と普段着も必用よね」
そう言ってミサトは店員を呼び、カヲルを採寸して貰い服を次々と選んでいった。

レジに大量の服が詰まれ、レジに金額が次々表示されているのを見て、カヲルは内心
いたたまれなくなっていた。

「子供はそんな事気にしないのっ」 ミサトはカヲルの様子に気づいたのか、ウインク
をして言った。

「夕食はリョウジが作ってくれてると思うから、急ぎましょ?」
二人で手分けして荷物を抱えて立体駐車場に戻る時、ミサトは笑みを浮かべていった。

カヲルはこの時、シンジが家族と言って憚らない関係だと言っていたのを思い出していた。




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どうもありがとうございました!


外伝1 中 終わり

外伝1 下 若しくは外伝1中その二(謎) に続く!


マナ:だんだん犯人のことがわかってきたわ。

アスカ:やっぱ、ファーストって恨まれるキャラなのね。

マナ:違うでしょっ! 時代を変えようとしたら、どうしても反発があるのよ。きっと。

アスカ:先駆者や、天才はいつの時代も苦労するか・・・。アタシにもわかるわ。

マナ:あなたは、関係ないでしょ・・・。

アスカ:天才よっ! アタシはっ。

マナ:なんか聞こえたような・・・無視してっと。渚くん、だんだん打ち解けてきたんじゃない?

アスカ:よく寝れるってのは、安心してるからよ。やっぱ。

マナ:じゃー、アスカはいっつも安心して寝坊するのね。

アスカ:シンジが起こしてくれるから、寝坊しないわよっ!

マナ:あなたのことなんか聞いてないわ。渚くん、服も買って貰って・・・このまま幸せになれたらいいけど。

アスカ:ちゅーして起こしてくれるんだから。

マナ:なんですってーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!(ーー#
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