新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第4話 火曜日−その1−


「おはよ〜。」
「おはようございます。」

いつものように日課のランニングと格闘技の訓練を終えて,妹達を小学校に送り届けてか
ら,俺とアサミは中学校に登校した。そして,クラスに入ってから皆にあいさつしたんだ。
すると,ショウが寄ってきた。

「おい,アサト。お前,今日も行くよな。」

「ああ,もちろんだ。」

さて,ここで解説が必要になるだろう。俺とショウは毎週火曜日と木曜日にボランティア
で保育士をしているんだ。ショウは,今日も行くかどうかの確認をしたって訳さ。

えっ,何で俺とショウがそんなことをしているのかって。話すと長くなるんだが,まあい
いや,話しちゃえ。ちょっと長いけど,聞いてくれ。だが,一部推測で話している部分が
あるから,100%信用することのないようにしてほしい。

20世紀の最後の年にセカンドインパクトがあり,その時とその後の混乱期に,多くの人
命と多くの財産が失われ,その影響は今でも続いているんだ。保育園についてもそれが言
える。

セカンドインパクトの後,多くの保育園が無くなった。施設自体が災害で壊れたりしたこ
ともあったようだが,それは少数派で,経営が続かなくなったんだ。実はそれまでの保育
園は,一度役所から委託料をもらうと,余程のことが無い限り毎年安定した委託料がもら
えたんだ。その委託料で保育園の経費を全部賄えて,経営的にも楽だったらしい。

ところが,セカンドインパクトのせいで,税金は集まらないわ,出費は増えるはで,国の
財政が火の車になったらしいんだ。それは何とか復興した後も事態は変わらず,保育園に
対する委託料がばっさりと削られたんだ。確か,セカンドインパクト前の半分以下にされ
たんだと聞いたことがある。

それまでは,保育園で一番出費が多いのが人件費で,支出総額の7割から8割を占めてい
たんだ。それが収入が半分以下になったら,とてもじゃないがやっていけない。そこで多
くの保育園がつぶれたんだ。

だけど,一部の保育園は生き残った。どうしたかって。一番出費の多い人件費を削ったん
だ。でも,人数を減らすと事故に直結しかねないから,頭数は揃えることにしたんだ。

で,多くの保育園がどうしたかっていうと,短時間労働者,いわゆるパートやアルバイト
の比率を一気に引き上げたんだ。そういう保育園は,確かに人数は揃っているけど,しょ
っちゅう人は入れ代わるし,保育に熱心な人はいないし,保育の質はかなり低い。園長と
主任さんだけで頑張っているという感じなんだ。

それでも,保育は頭数が第一だから,例えば1歳児6人を保育に熱心な保育士が1人見る
よりも,素人3人が見た方が断然良いんだ。だから,セカンドインパクトから後は,この
方法が主流になっている。

でも,やっぱりこういう状況を改善したいって思う人が出てきて,別の方法が考え出され
たんだ。そこで誕生したのが保育士のボランティアなのさ。今ではこの方法を採用する保
育園が3割近くになっているらしい。

つまり,保育ボランティアを確保して,浮いた人件費を常勤の保育士の比率を上げるのに
使う。それで,ボランティアに頼るところが大きくなっている。午前中は専業主婦のボラ
ンティア,午後は学生のボランティアが主流のようだ。

学生のボランティアは,大学生や高校生が主流だが,大抵は私立の学校とタイアップして
やっている。ボランティアをやっていると,就職や推薦に有利になっているらしい。俺達
が行っている保育園みたいに,公立の学校と組んでいる保育園は珍しい方だと思う。

そんな背景があって,俺達は週に何回か学校が終わってから保育園に行って,夕方までの
間保育ボランティアをするんだ。子供と一緒に遊んだり,赤ちゃんのオムツを取り替えた
りと,色々なことをやるんだ。最初は億劫だったが,最近では子供達のことが好きになり,
結構行くのが楽しみになっているんだ。

俺が顔を出すと,『アサトお兄ちゃん!』って言いながら,子供達が凄い勢いで群がって
くるんだ。最初のうちはびっくりしたけど,今では俺の方が楽しみにしている。

でも,俺が保育園に行くのには,他に大きな理由がある。それは母さんの命令だからだ。
俺がいつも行っている西仙石原保育園は,社会福祉法人第3新東京福祉会が経営している
んだが,俺の母さんがそこの理事長をしているんだ。

だから,俺にやらせようという訳なんだが,俺も最初は嫌がった。だって,保育園は女の
人ばかりだ。トイレや更衣室にしたって,男用なんて無いんだぜ。しかも,理由が理由だ。
俺が来れば,俺目当てに来る女子中学生の保育ボランティアが増えるだろうっていう計算
だったらしいんだ。だから俺は嫌だって言ったんだ。

でも,母さんに命令されて,結局やる破目になったんだ。そう,俺は母さんの言うことに
は逆らえないんだ。

でも,一つだけ条件をつけさせてもらった。それがショウなんだ。俺も1人では嫌だから,
ショウを巻き込むことにしたんだ。母さんとショウの母親は,昔一緒に住んでいたらしい
んだが,今も仲が良いらしく,そっち経由でショウを落したんだ。母親には弱いのは,俺
だけじゃないんだぜ。

で,結局母さんの目論見は大当たりで,俺が保育ボランティアをやることが知れ渡ると,
近隣の女子中学生から,物凄い数の申し込みがあったらしいんだ。これにはさすがの俺も
驚いたけどな。おかげで園長先生は大喜びさ。もちろん,母さんもだ。

もっとも,ボランティアが終わった後に,ボランティア仲間に,必ず近くのファミレスに
連れ込まれるのには閉口したが,これも母さんが付き合ってやれって言うからしょうがな
い。まあ,俺が無理やり誘い込んだショウが喜んで付いてくるから,良しとするか。それ
に,俺も女の子と一緒にいるのが嫌な訳じゃない。そこで俺とショウは,女子中学生相手
に愛想を振りまく訳だ。

ここで重要なのは,妹達がいないということだ。変な話しだが,何か監視の目が無くなっ
たような,そんな錯覚に陥ることがあるんだ。ちょっと考えすぎかな。でも,アサミ達が
いると,何となく女の子に気軽に声をかけられないのも事実だ。特にミライなんか,ジト
目で睨むからな。

そんなことを考えていたら,サキが声をかけてきた。

「おい,アサト。今日はワタシも行くからね。行く時は声かけてね。」

そう,その保育園には,サキやシノブも行ってるんだ。二人とも俺のことが好きだから…
じゃあないんだ。信じられないけど,母さんが送り込んだんだ。俺が妹達の目が届かない
ところで,何か変なことをしやしないかと,気になっているらしいんだ。

なんでも,二人とも母さんから直接頼まれたらしい。『アサトが女の子に変なことをしな
いように見張ってて欲しいの。』なんて言われたらしいんだ。

えっ,何でサキやシノブが母さんから頼まれたのかって。実は,ショウの母さんと同じで,
サキの母さんは,俺の母さんと一緒に住んでいたことがあるらしいんだ。だから,サキの
母さんと俺の母さんは今でも仲が良い。

それだけじゃなくて,サキのお父さんも俺の母さんと仲が良いんだ。俺の母さんは,サキ
のお父さんに色々と世話になったらしい。だから,うちとサキの家とは,家族ぐるみの付
き合いをしている。それで,自然と俺の母さんとサキは仲が良くなったんだ。

それに比べると,シノブの家とは付き合いがやや薄いが,シノブのお父さんと俺の母さん
は結構仲がいい。俺の母さんは,何か困ったことがあると,良くシノブのお父さんに頼ん
でいる。で,シノブのお父さんは人が良いのか,母さんに何か弱みを握られているのか,
無理難題をいつも笑顔で引き受けてくれている。

だから,シノブのお父さん経由でシノブに頼んだんだと思う。シノブは親の言うことを良
く聞くいい子だから,断れなかったのだろう。

話はそれるが,シノブのお父さんは,ショウのお父さんと仲がいい。親友っていうのだろ
うか。良く2人で飲みにいっているらしい。

それに加えて,シノブの母さんはというと,ショウの母さんと凄く仲が良い。そんな訳で,
シノブの家とショウの家は家族ぐるみの付き合いをしている。

でも,ショウの母さんとサキの母さんも親友らしいんだ。かなり性格も印象も違うし,い
つも仲が良さそうにしていないのに,大人達は2人を昔からの親友だって言っている。う
〜ん,大人の世界って,良く分からないや。

でも,母さんの横やりのせいで,俺の考えていた明るい未来は遠のきそうだ。えっ,明る
い未来って何なのかって?もちろん,彼女のいる,彼女とイチャイチャ出来る,そしても
っと良いことが出来る未来っていうことさ。でも,当分駄目っぽいな。トホホホホ…。

俺はちょっとだけ悲しかった。


つづく

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

大人達の人間関係

アサトの母 − ショウの母,サキの母,サキの父,シノブの父と仲が良い。
ショウの母 − サキの母は親友。アサトの母,シノブの母と仲が良い。
サキの母  − ショウの母は親友。アサトの母,シノブの父と仲が良い。
シノブの母 − ショウの母と仲が良い。

ショウの父 − シノブの父は親友。
サキの父  − アサトの母と仲が良い。
シノブの父 − ショウの父とは親友。アサトの母からいつも無理難題を押しつけられる。


written by red-x


マナ:保育士のボランティアですって、偉いわねぇ。

アスカ:保育士って結構大変なのよ。意外と。

マナ:いろいろ準備とかいるしね。

アスカ:でも、子供が好きって素敵なことよ。

マナ:ただ。お母さんの思惑が、・・・あれでいのかしら?

アスカ:保母さんが増えるように、考えてるのよ。

マナ:打算的だわ。まるで、アスカみたい。

アスカ:なにを言うのよ。

inserted by FC2 system