新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第5話 火曜日−その2−


「さあて,ショウ,行こうぜ。アサミとサキも来いよ。」

「ああ,行こうぜ。」

「私は良いわよ。」

「ワタシもOKだよ。さあ,行こう!」

学校が終わったら,俺とショウ,サキは保育園だ。えっ,何でアサミも行くのかって。そ
うそう,言い忘れていたけど,アサミも妹達と一緒にボランティアをするんだ。但し,保
育園じゃなくて,第3新東京福祉会−母さんが理事長なんだ。−が経営する,別の施設の
ボランティアなんだ。

第3新東京福祉会っていうのは,保育園以外にも,乳児院とか児童養護施設とかを経営し
ているんだけど,そっちの方のボランティアなんだ。えっ,それってどんな施設かって?
そんなことも知らないのか。まあ,普通はそうだろうな。じゃあ,簡単に説明しよう。

『乳児院は、乳児(保健上その他の理由により特に必要のある場合には、おおむね2歳未
満の幼児を含む。)を入院させて、これを養育することを目的とする施設とする。』  

『児童養護施設は、乳児を除いて、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上
養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的
とする施設とする。』

まあ,こんなもんかな。実は俺も良く分からないから,本からの丸写しなんだけどな。要
は事情があって,保護者がいない,或いは保護者を頼れない子供達を預かる施設っていう
ことなんだ。

俺が行く保育園の敷地に隣接して,これらの施設があるんだが,アサミ達は,そっちの方
へ行くんだ。ミカコとミライもアサミと一緒なんだ。だから俺達は小学校へ寄るんだ。

***

「おまえは生意気なんだよっ!」

「そうだ,そうだ!」

「うるせえ!」

俺達が歩いていると,俺と同じ中学生らしき野郎どもが口げんかをしていた。今にも殴り
合いのケンカを始めそうな雰囲気だったが,俺は無視して行くことにした。

えっ,2対1なんて卑怯じゃないかって。そんなの知ったことか。嫌なら逃げればいいん
だ。それに,負けるのが嫌なら自分を鍛えれば良い。1の方が可愛い女の子なら話は別だ
が,野郎を助ける趣味はない。だが…。

「へん,お前なんか,孤児院の子のくせに生意気だ!」

「そうだ,生意気なんだよ!」

そう,そいつらは,言ってはいけないことを言ってしまった。俺が振り返って見ると,言
われた方の男は涙を流しながら二人に向かって行ったが,反対に殴り返されて地面に熱い
キスをしていた。

「へん,ざまあみろ!」

「いいザマだぜ。孤児院の子らしいぜ。」

二人組はせせら笑っている。それを聞いて,俺はブチ切れた。

「てめえら,覚悟しなっ!」

俺は二人組に殴りかかっていった。

「ドカッ!」

「バキッ!」

たった2発でケリは付いた。二人とも真っ青な顔をして倒れ伏した。俺は片方の奴の後頭
部を靴の裏でぐりぐりしながらこう言ってやったんだ。

「お前ら,もう一度孤児院なんて言ってみろ。二度と口を聞けないようにしてやるぞっ!
俺は壱中のアサトだ。お前らみたいな馬鹿で人間のクズ野郎は,天が許しても俺が許さん。
いいなっ!」

二人は涙を流しながら頷いた。しばらくはこれに懲りて,同じことはしないだろう。もう
一度同じことを言うのを見たら,今度こそ足腰立たない位に殴ってやるんだ。だが,俺は
念には念をいれた。

「いいかっ!この日本には,孤児院なんか無いんだ。半世紀以上前にはあったかもしれな
いが,もう無いんだよ。そんなことも知らないのか,この大馬鹿野郎どもがっ。お前らみ
たいな下司どもが考えた名前なんだろうが,そんな人の心の傷に塩を塗ったくるような名
前なんか,とっくに消えたんだよ。今時孤児院なんて言葉を使うのは,無知で無教養な奴
だけなんだよ。分かったら,もうその言葉は使うなっ!」

俺は二人が頷くのを見て,足をどけた。二人組は,泣きながら去って行った。こう言って
おけば,少しでも知能のある奴は同じことを言わないだろう。人間,馬鹿にされるのは嫌
なはずだから,ああ言っておけば少しは効果があるのさ。

ふと気付くと,やられていた奴が俺に頭を下げて礼を言ってきたが,『あんな馬鹿どもの
言うことは気にするな。』と言っておいた。そいつは,もう一度深々と頭を下げてから去
って行った。

***

「もう,アサトったら乱暴者なんだから。」

騒ぎが収まると,サキがあきれて言った。

「うるせえ,俺の勝手だろう。」

俺は少しむくれたが,アサミの言葉で少し気が晴れた。

「ねえ,サキは誤解してるよ。アサトは,人の心を傷付ける人を許せないんだよ。だから
怒ったんだよ。それは分かってあげなよ。」

「ふ〜ん,そうかあ。」

そう,俺は人の心を平気で傷付ける奴は許せない。良く母さんが言っているが,人は他人
の心の傷は見えないんだ。だから平気で傷つけるし,見えないからこそ,際限無く傷つけ
ることがあるんだ。

さっきもそうだ。言った方は軽い気持ちかもしれないが,言われた方は物凄いショックな
んだぜ。例えば事故で足が無くなったらショックだよな。それなのに『足無しのくせに』
なんて言われたら,さらに強いショックを受けると思うんだ。そんなことを言うなんて,
人間のクズだよな。あいつらは,それと同じことをしたんだぜ。そんなの許せるかよ。

それに,孤児院なんて人を馬鹿にした言葉だ。人の不幸をさらに際立たせるような嫌な言
葉だ。足を無くした人を『足無院』に入れようなんて,どこの馬鹿が考えるんだ。そんな
ことを考える奴は頭がおかしいと思われるだろう。孤児になった子供を孤児院に入れるこ
とだって,同じことなんだ。何故そんなことが分からないんだろう。

半世紀以上も前のことだが,その馬鹿さ加減に気付いたせいなのか,孤児院なんて名前の
施設は日本からは消え去ったはずなのに,未だに頭のおかしい奴はその言葉を好んで使う。
少し頭を働かせれば,その言葉がどれだけ人の心を傷つけるのか位分かるだろうに。なの
に人を傷つけるのを好む奴や無知無教養の輩はまだまだ多いんだ。だから,俺はそんな奴
らを少しでも減らそうとしているんだ。

もっとも,母さん公認のケンカが出来るっていうのも大きな理由だがな。今みたいな事情
で俺がケンカをしても,母さんは決して怒らないんだ。相手の親が怒鳴り込んで来ても。
母さんは逆に怒鳴り返してくれるんだ。正直言うとそういう理由もあるんだ。

えっ,誰だよ。そっちの方が大きな理由だろうなんて言う奴は。そんなことはないぞ。俺
は本当に頭にくるからやってるんだ。多分…。


「あっ,早く行かないと遅れちゃうよ。」

アサミの言葉に,俺達は慌てて駆け出した。


つづく

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written by red-x


マナ:孤児院とかって、苛めるのはさすがにやめて欲しいわね。

アスカ:差別・・・ていうより、人として駄目ね。

マナ:今回のことに懲りて、あの子達もこんなことしないだろうけど。

アスカ:あぁいう連中は、痛い目みないとわかんないのよね。

マナ:それにしても、アサトくんも乱暴じゃない? まるで誰かみたい。

アスカ:誰のことよ。(ーー)

マナ:すぐ、暴力で解決する女の子を知ってるのよねぇ。

アスカ:ムムム。(ーー)

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