新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第9話 水曜日−その3−


「セイヤッ!」

俺は、母さんめがけて蹴りを入れた。後ろからは、アサミが気配を殺して同じように母さ
んめがけて鋭い蹴りをいれようとしていた。だが…。

「フンッ!」

母さんは右手で俺の蹴りを払い、左手でアサミの蹴りを払い、難なくかわしてしまった。

「チッ!」

俺は舌打ちした。アサミと何度も打ち合わせて、何度も練習した連携技が、母さんには全
く通じないんだ。俺が大声で母さんの注意を引き、そこに生じるであろう僅かな隙を狙っ
てアサミが攻撃を仕掛けたのだが、母さんにはお見通しだったらしい。

だが、俺はもう一度試してみた。

「トリャーッ!」

今度は、アサミは違う角度から攻撃をした。だが、今度も同じように簡単にかわされてし
まった。だが、今度はかわされた後にもう一度攻撃を仕掛ける。それも、声を出さずに。

「ハアッ!」

だが、母さんは俺とアサミの同時攻撃を軽々とかわす。でも俺達はあきらめない。母さん
の隙を誘うため、連続攻撃を仕掛ける。

右足で蹴りを入れ、それをかわされたら、右足が着地すると同時に左足で蹴りを入れる。
それもかわされるが、足を払われた反動を利用して、右手刀をたたき込む。

こうして、攻撃をかわされたら、かわされた反動を利用してさらに攻撃を仕掛けるんだ。
しかも、俺とアサミは常に母さんの前後から常に同時攻撃を仕掛ける。俺とアサミが母さ
んを倒すために考えついた方法がこれだった。

前後又は左右の違う方向からの同時攻撃。これが2対1で戦う時に最も有利な攻撃方法だ
と俺達は思ったんだ。

時代劇を良く見ると、主人公が大勢の敵と戦う場合、敵は必ずと言っていいほど同時攻撃
をしてこない。一人がやられたら次の人間が攻撃するパターンが多いんだ。

ある時、俺はそのことに気付いたんだ。それはおそらく、同時攻撃を防ぐ演技がすごく難
しいからやらないんだろう。だが、演技でも難しいのなら、実戦ではさらに困難だろう、
俺はそう思ったんだ。

だから、俺とアサミは何度も練習して、息の合った動きをしながら上手く同時連続攻撃を
仕掛けているんだが、母さんには全然通じない。

「ハッ!」

気合と共に、母さんのパンチが俺の目の前に飛んできたため、俺は素早く後ろに下がった。
だが、これが大失敗だった。

「きゃあっ!」

1対1なら、母さんには歯が立たない。だから、母さんは俺と距離をとって、アサミに襲
いかかったんだ。アサミは簡単にやられた。

「くっそうっ!」

俺は再度蹴りを放ったが、これが大失敗だった。アサミが後ろにいないから、母さんは両
手を俺に使うことが出きるようになっていたんだ。俺の蹴りを左手でさばき、右手が物凄
い勢いで俺の腹に打ち込まれた。

「ぐおぷっ!」

おそらく、俺の体は数十センチは宙に浮いていただろう。母さんのパンチは物凄い威力だ。
あまりの痛さに、俺は目に涙を浮かべる。息も出来ないほど苦しい。そして、俺の意識は
遠くなっていった。

***

「アサト、大丈夫?ねえ、アサト。」

何か、遠くから声が聞こえるような気がする。あれ?蒼い瞳が4つ見える。それに、母さ
んの金髪も。

「アサト、しっかりしなさいよ。大丈夫?ねえ、アサト。」

ふう。何とか目が見えるようになった。母さんとアサミが、俺のことを心配そうに見てい
る。ちくしょう、まだ腹が物凄く痛いや。でも、俺は男だから情けないことは言えない。
いつものように、強がりを言う。

「あっ、ああ。大丈夫だ。問題ない…。」

俺は力なく答えた。どうやら俺は、今まで気を失っていたらしい。ちっ、情けねえな。

「ごめんね、アサト。少しは手加減したんだけど、モロにみぞおちに入っちゃったようね。」

おいおい、母さん。手加減してあの威力かよ。そりゃあないだろう。最低でも、俺の渾身
の力を込めたパンチの2倍の威力はあったよな、あれは。

「でも、嬉しいわ。アサトもアサミも強くなったわねえ。二人の息はぴったりだったし、
これなら滅多な人には負けないわね。」

そう言いながら、母さんはニコニコしている。そうだよな、相手が母さんだから負けちゃ
ったけど、普通の人間だったら絶対にかわせないほどの息の合った連続攻撃だったよな、
今のは。

「ようしっ、アタシも次からは本気を出しても大丈夫のようね。」

「あ、あの、母さん。本気って、どういうこと?」

アサミが尋ねたら、母さんは笑って言った。

「見てよ、このリストバンドに、ソックス、その他もろもろ。合わせるとね、アタシの体
重と同じくらいあるのよ。次からは、これを少し減らせそうね。」

「か、母さんは、そんな状態で私達と戦っていたの?」

アサミの顔が真っ青になる。アサミは、俺と違って母さんの体重を知っているんだっけ。
そんなに重いのか、母さんは?今度、アサミに聞いてみよう。

「それとも、足を使ってもいいかしら。今までは、アンタ達を相手にした時は、攻撃に足
を使っていないのよ。気付いてたわよね?」

アサミはぶるぶると首を横に振った。

しかし、本気を出した母さんは、一体どれだけ強いんだ。俺は、心底母さんに聞きたくな
った。

『母さん、あなたは本当に人間ですか?』

***

「「ただいま〜。」」

1時間後、ミカコとミライが帰ってきた。その頃には、俺は完全に復活していた。

「ミカコ、ミライ。ちょっと遅いぞ。あと、30分したら外食だからな。分かってるな?」

「「は〜い。」」

まったく、こいつらは返事だけはいいんだから。そうそう、毎週水曜日に我が家は外食す
ることになっているんだ。それは、水曜日に母さんが早く帰ってきて、俺達に稽古をつけ
てくれるんだが、当然ながら夕食に一家全員が揃うことが多くなるからだ。

その席で1週間の出来事をお互いに言い合うんだ。と言っても、普段は家にいない母さん
に対して、自分達の自慢話を言い合う場になっている。たまに、母さん達大人からも話が
あるが、たいていはミカコとミライがしゃべりまくるんだ。

当然ながら、今日も二人が主役になった。

***

「ねえねえ、お母さん。今度の日曜日は、絶対に応援に来てよね。」

ミライが目を輝かせて母さんを見た。母さんは、笑って答えた。

「ええ、分かったわ。絶対に応援に行くわ。ミカコもミライも出るんでしょ。何があって
も行くわよ。」

「絶対に来てよね、お母さん。」

そう言いながら、ミライは嬉しそうに笑った。そう、今度の日曜日には、第42回神奈川
県少女サッカー春季大会があるんだ。それに、ミカコやミライが出場することになってい
る。俺達の住んでいる第3新東京市は神奈川県内にあるから、当然この大会に出場する資
格がある。

この大会は、1982年から続いている。回数の計算が合わないのは、セカンドインパク
ト後の空白期間があるからなんだ。この大会には、神奈川県内の少女サッカーチームが例
年約30チームくらい参加しているそうだ。

1次リーグ、2次リーグを経て、4チームによる決勝トーナメントが行われるんだが、残
念ながら、ミライ達のチームは2次リーグに進んだことはない。いわゆる、弱小チームっ
ていう奴らしい。

俺も、昨年は何度か応援に行ったが、ミライのチームが得点したことを見たことが無い。
それに対して、相手には常に10点以上得点されていた。だが、言い訳になるかもしれな
いが、決してミライ達が下手だという訳じゃない。その原因はメンバー不足なんだ。

ミライ達のチームは、結成されてからの年数が浅く、高学年のメンバーも少ない。何せ、
3年生のミライがスタメンだったっていうんだから、その辺は推して知るべしだ。

それに対して、他のチームは6年生を中心としたメンバーに、数人の5年生が加わってい
るところが多いんだ。4年生だって、滅多なことじゃスタメンに選ばれない。それが、3
年生がスタメンに選ばれるんだ。層の薄さが分かるだろう。

えっ、ミライが物凄く上手いからじゃないかって?残念ながらそうじゃない。他のチーム
には控え選手が数人待機していたが、ミライのチームにはいなかった。そう、ミライが出
なかったら、1人少ない状態で戦うことになる。実際に、風邪でメンバーが1人休んで戦
った時があったが、35対0っていう、とんでもない負け方をしていたっけ。

当然ながら、去年の試合には母さんを呼んでいない。ミライだって、負けると分かってい
る試合を母さんには見てほしくないっていう訳だ。でも、何で今回は母さんに来てもらい
たいかというと、今年は勝てる見込みがあるからなんだ。2次リーグ進出も夢ではないら
しい。

それは何でかって?まあ、理由はまた今度にな。



つづく

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あとがき


 アサトは、アサミと二人がかりでも母さんにかないません。アサトの母は、明朗快活、
スポーツ万能、容姿端麗、頭脳明晰で、格闘技の腕も抜群。その条件に該当するエヴァの
キャラは限られています。果たして、その正体は?ポイントは、瞳の色でしょう。直ぐに
答えが頭に浮かんだ人、多分それは正解でしょう。


written by red-x


マナ:ちょっとは、子供に手加減してあげたら?

アスカ:アタシに勝とうなんて、100年早いのよっ!

マナ:なに、調子に乗ってるのよ?

アスカ:アンタだって、一撃でやっつけちゃうんだからっ! とりゃーーーーーーーーっ!!!

マナ:火炎放射器で応戦よぉぉっ! ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

アスカ:ぎゃーーーーーーーーーっ!!! 兵器使うなんて、反則じゃないーーーーーっ!

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