新世紀エヴァンゲリオン 蒼い瞳のツインズ


第1部 アサトの1週間


第14話 金曜日−その2−


 今日の授業も何事も無く過ぎていった。そして、帰りに小学校に寄って、妹達を連れて
4人で家に帰るんだ。俺はいつものように、ミカの友達がまとわりつかないよう小学校の
外で待ち、妹達はアサミが迎えに行った。そうしたら…。

「アサト!お久しぶりっ!元気してるっ?」

声より先に俺の背中がバシッと鳴り、結構痛い思いをした。俺を背後から叩くような真似
は、俺を知ってる奴なら普通は恐ろしくて出来ないはず。だから、こんなことをする人は
限られている。おそらく…。

「こんにちは、お久しぶりです。」

思った通り、そこには妹ミカの友達、霧島レイナのおばさんが立っていたため、俺は軽く
会釈をしながらあいさつした。明朗快活、スポーツ万能、容姿端麗で、レイナ自慢の母親
なんだ。茶髪のショートヘア、細くやや下がった眉、大きくて優しげな瞳が印象的な人で、
小さくて可愛らしい唇に加え、常に明るくハキハキとした態度、それでいて親しみやすく
優しい雰囲気などから、誰からも人気がある。

「なあに、こんなところでこそこそしちゃって。レイナがね、アサトに会いたいって、い
つも言ってるのよ。たまには会って、遊んであげなよ。」

「は、はい。そのうちに。」

俺は愛想笑いをしながら、あいまいに答えた。俺は母さんと男を取り合った一件を知るま
では、この女子大生と言ってもいいくらい若く美しいこのおばさんのことをかなり気に入
っていた。今思うと、恋をしていたのかもしれない。

だが、例の一件を知ってからは、そんな感情は吹き飛んでしまった。母さんを害する人、
害した人は、どんなに良い人だろうと俺の敵だからだ。それ以来、俺はこのおばさんを避
けていたのだが、今日は運悪く出会ってしまったわけだ。正直言って、あんまり会いたく
なかったんだけど、会ってしまったのはしょうがない。当たり障りの無いようにするしか
ないな。

「なによおっ。昔は何でも言うことを聞いてくれたのに、最近、アサトは冷たいわねえ。
中学生になったからかなあ。マナちゃんは、とっても悲しいなあ。」

「す、すみません。」

俺は頭を下げた。この場合、おばさんは何も悪くない。それなのに俺が一方的に、かつ急
に避けるようになったんだ。もしかしたら、おばさんを嫌な気持ちにさせたのかもしれな
い。ちょっと心が痛んだ。

「ううん、いいのよ。ごめんね、ちょっとからかっただけなんだ。大きくなると、おばさ
んなんか相手にしてもつまらないもんね。それはいいんだけど、娘のレイナとは仲良くし
てやって欲しいな。ねっ、お願い。」

そうして、にっこり笑う。う〜ん、やっぱりこのおばさんは可愛い。笑うと特に可愛い。
俺の母さんとは違った、優しげな笑顔だ。普通の男なら、これでイチコロなんだろうな。

「はい、分かりました。でも、ミカの友達はみんな平等にしないとうるさくて。」

ごめん、おばさん。これは嘘なんだけど、他におばさんのことを傷つけないような嘘が思
いつかないんだ。俺は、心の中でおばさんに謝った。そんな俺の気持ちなど分かろうはず
がなく、おばさんはにっこりと笑った。

「はははっ、確かにそうね。色男は辛いわね。じゃあ、頼んだわよ。」

こうして、おばさんは風のように去って行った。俺は、心が少しチクリと痛んだ。


「アサト!」

おっと、ちょっと物思いにふけっていたら、いつの間にか近寄ってきたミライが俺に抱き
ついてきた。ミカやアサミも姿を現した。ミカはあきれたような顔をしている。いつもの
風景だ。

「さあ、家に帰ろうぜ。」

「うん、いいよ。ねえねえ、アサト。ちょっと聞いてよ。ミキがさあ…。」

早速ミライは機関銃のようにしゃべり始める。それに俺が色々突っ込みを入れ、ミカも隙
あらば口を挟んでくる。アサミは無口だが、俺達が言い合うのを見て、ニコニコしている。
そんな風にして俺達兄妹は帰っていく。

***

「「こんにちは〜。おじゃましま〜す。」」

家に帰った後、俺とアサミはショウの家に遊びに来た。ショウの家と言っても、同じマン
ションの階が違うだけなんだけどな。来た理由はもちろん、例の碇シンジが出る映画を見
るためだ。すると、ショウの声が聞こえてきた。

「おお、上がれよ。何が飲みたい?」

「俺は、りんごジュースを頼む。」
「私は、オレンジジュースがいいな。」

「分かった。直ぐに出すから、俺の部屋に行って適当に座ってろよ。」

「ああ。言われなくてもそうするさ。」

俺は家に上がるとずんずんと入って行った。勝手知ったる他人の家だから、いくら広いと
はいえ、迷うことはない。そうしてショウの部屋に入ると、先客がいた。ショウのお姉さ
んのミコ姉こと、ミコトさんだ。

「あ、ミコ姉。こんにちは。」
「こんにちは。」

「アサト君、アサミちゃん、こんにちは。遠慮せずに座ってね。」

俺とアサミですかさずあいさつすると、ミコ姉はにっこり笑ってあいさつを返した。ミコ
姉は、お母さん似と言われている。もちろん美人だけど、理知的な雰囲気を持っている。
実は、俺も少しあこがれていたりする。でも、ミコ姉はハヤトのことが好きなようだけど。

「はい、お言葉に甘えて。」
「失礼します。」

俺とアサミは、ミコ姉と座卓の向かい合わせになる位置に座った。それから直ぐにショウ
がジュースを持ってきたんで、ありがたくいただき、みんなでわいわい言いながら碇シン
ジについて分かったことを言い合おうと思ったんだけど、聞いてみたら誰も目ぼしい情報
を持っていなかったんだ。

そのうち、ハヤトとサキの兄妹がやって来て、少し遅れてマサトとシノブの兄妹がやって
来た。みんな同じマンションだから、こういう時は集まるのが早くて便利だ。

「ようし、みんな揃ったな。じゃあ、早速だけど映画を見よう。」

ショウは、最近買った50インチのプラズマテレビのスイッチを入れ、プレーヤーにDI
SKを入れた。そして、少しの間をおいて映画が始まった。



最初に南極に赤い光が広がり、その中からいく筋かの光る羽が生えてくる。ごく短い時間
だが、光る巨人が映される。これは一体なんなんだろう。CGらしいが、かなりリアルな
感じの映像だ。

そして、『テロップ』が流れる。

『セカンドインパクト。それは,第1の使徒アダムと第2の使徒リリスから人類を守るた
め、引き起こされた災害。だが、人類を影で操る謎の組織「ゼーレ」は、真実を包み隠し、
巨大隕石が原因だと発表し、世間を欺こうとした。』というテロップが流れる。

海に漂うカプセルが映る。

『南極にいて唯一助かった少女、葛城ミサトは、後に使徒から人類を守るために結成され
た国連所属の非公開組織「ネルフ」の司令となる。』というテロップが流れる。

「げっ。母さんと同じ名前じゃん。」
サキの小さな声が漏れた。

そして、カプセルからはサキによく似た美少女が現れる。こんなにサキに似てるなんて、
あの美少女は、本当にサキのおばさんかもしれない。

『そして、将来彼女の部下に、人類を救う救世主、惣流・アスカ・ラングレーが作戦部長
として迎えられる。』というテロップが流れる。

「ええっ、ま、まさかっ!」
今度はアサミが驚きの声をあげる。

はははっ。そうだよな、ま、まさかな。だが、俺の背中に冷たいものが流れる。

場面は一転し、壱中の制服を着た、アサミと生き写しのスーパー美少女が大写しになった。
そして、その少女の背後から、金色に輝くタイトルが浮かび上がった。

『救世主アスカ −使徒&ゼーレVSエヴァンゲリオン−』というタイトルだ。。

こ、これは…。間違いない、主演女優は中学生の頃の母さんじゃないか。俺は、驚きのあ
まり、言葉を失ってしまった。


つづく

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あとがき

 ようやく、皆さんお待ちかねのアスカの名前が登場しました。しかも、アサトやアサミ
達の母であることが明らかになりました。さて、次回は映画の中だけですが、シンジが登
場します。もちろん、シンジ以外のお馴染みキャラもちらりとですが多数出演予定です。
マナは映画には出ていないので、今回先に出番を作った次第です。

 なお、この話は、「Hunt Eva」さんに掲載中の、蒼い瞳のフィアンセS(シンジが主人
公、全80話、LASに近い。)の未来の話です。時間がありましたら、そちらの方もお
読みいただけると、この話が理解しやすいと思います。

おわび

 アサトの妹の名前は、ミカコからミカに変更しました。

written by red-x
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