Evangelion Remember 14外伝のそのまた番外編(マダマニアウサさん公認)

着ぐるみレイちゃん大行進!2

さかぐち周太郎




○月@日

・・・うきゃ!きけけけけけけ!!うけ!うけけけけけけ!!(以下判読不能)




こうして、知らず知らずの内、悪気なしに数々の悪事を重ねまくった綾波レイにも、とうとう年貢の納め時がやって来た。



不思議な事に、あれから1度もアスカとシンジはミサトカレーから逃亡した事を責めなかった。次の日からは、もう普通通りに会話していたくらいだ。

それに加えて、ここ数日の悪事に対しても全く糾弾されなかった。肉じゃがから逃げ出しても御咎め無し。ラーメン屋で食い逃げをしても御咎め無し。

顔を合わしたらどんな事を言われるかと思ってビクビクしていたのだが、心配に反してアスカもシンジも眩しいくらいの笑顔で接してくれた。

そんな訳で、本日、葛城家へ食事に招待された時も、特別に警戒心は抱かなかった。着ぐるみのまま椅子に座って料理の出るのを待っている。

その時、レイはいつもと違う違和感を覚えた。

「?」

アスカもシンジもリビングで椅子に腰掛けているのだ。普通だったらどちらか、あるいは2人で料理を作ると言うのがパターンだった。おまけに2人とも、くっくっくっと気味の悪い笑い方をしている。不思議に思ってレイは尋ねた。

「今日の料理は誰が作ってくれるの?」

くっくっくっと邪悪な笑いを浮かべたシンジがその問いに答えた。

「ミサトさんだよ。くっくっくっ。」

キョトンとした表情を浮かべるレイ。この時になってもレイはまだ、(ミサトさんって料理ができたのかしら・・・?)などと呑気な事を考えていた。

「それで、一体何の料理を作っているの?」

シンジと同じく、くっくっくっと悪魔の如き微笑を浮かたアスカがレイの疑問に答えた。答えるのが嬉しっくってしょうがないと言った感じだ。

「カレーよっ!」

そう言われても、まだレイはキョトンとしていた。

(ミサトさんが料理をすると、そんなに面白いのかしら?カレーの何が面白いのかしら?ミサトさんのカレー・・・。ミサトさんの・・・カレー・・・。ミサトさんの作ったカレえええーーーーーーーーーっっっ!???)

瞬間、レイはいつもの様に着ぐるみの頭部を被って逃亡しようとした。

かぽっ!

「がおーーーーーー・・・???」

異変が起こった。床から足が、椅子からお尻が、そして椅子自体が床から離れないのだ。ピクリとも立つ事が出来ない。

「くっくっくっ。無駄よ、レイ。椅子と床にはEVAの装甲を張り合わせる特殊接着剤を塗っておいたわ。いくら足掻いても無駄よ無駄ぁ〜。でも恐怖に身悶えるアンタを見るってのも一興かもねぇぇ・・・。くひひひひひひっ!!」

待ち焦がれた復讐の刻が近づいた為か、アスカは顔に狂喜の表情を浮かべ、口から涎までたらしている。

「長かった・・・。長かったよぉ〜。この刻が来るのをどれほど心待ちにしたことか・・・。あのミサトさんのスペシャルカレーを食べなければならない絶望感・・・。口にカレーが入ってきた時の嘔吐感・・・。そして、胃に到達した時に感じる生命の危機・・・。レイもあれを味わうんだねぇ〜。えへへへへへへっ!!」

シンジの方も完全におかしくなってしまった様だ。

なかなか凄惨な光景ではあるが、アスカとシンジが特別残酷な訳でも、特別レイを苛めている訳でもない。ミサトカレーの報復イベントで、この様な光景が展開されるのは別に珍しい事でもなんでも無いのだ。

「お待たせ〜!」

ついに最終兵器、葛城ミサトが姿を現した。その手にはしっかりとカレーの入った鍋が握られている。

「こないだはレイだけ食べれなかったから、悪い事したかなーと思って気になってたのよぉ。だから今日のカレーは、特に念入りに気合いを込めて1週間煮込んだ上に、考えられる限りのブレンドを駆使した、私のカレーの最高峰を体験してもらうわ!」

パカッ!

鍋の蓋が開け放たれ、その中から究極のミサトカレーたる、

“ミサトカレー・オメガ”がその姿を現した。

途端に、コンフォート17の全棟で気分が悪くなったと訴える者が続出し、多くの救急車が駆けつける騒ぎが起こった。

それもそのはず。このミサトカレーオメガは、存在そのものが周囲1キロに存在する生物の精神に深刻な悪影響を与え、その味は食べた者の自我の崩壊を起こさせてLCL化させるほどの威力を秘めている。

作ったミサトは免疫が出来上がっており、また、アスカとシンジは完全にトチ狂って無敵モードに突入しているので、この環境汚染物質の影響を全く受けないが、レイはそうはいかない。今の所はW型プラグスーツの精神防壁機能で、なんとか精神汚染せずにすんでいるが、口に入れられれば一巻の終わりである。

レイは生を求めて必死に、「私、お腹が一杯なんです!私、お腹が痛いんです!!私、お肉とカレーはダメなんです!!!私、とにかくダメなんです!!!!」と、次々に拒絶の言葉を言おうとするのだが、口から出るのは、

「がおーーー!がおーーー!!がおーーー!!!がおーーー!!!!」

と言った叫び声ばかり。その間にも恐怖の対象が間近に接近して来る。

「レイたらよっぽど嬉しいのね〜。これくらい喜んでもられば、作り甲斐があるってもんよね〜。」

なんとか拒絶の信号を伝えるべく、首を横へ回転さそうと試みるが、意志に反して首を縦に振ってしまい、一層ミサトを悦ばせてしまう。

「そんなに喜んでくれるなんて、おねーさんは嬉しいわ〜。」

見ればアスカが、外部からW型プラグ・スーツを遠隔操作出来るコントローラーを操作している。これではリトルの頭部を外す事を含めて、体の自由は奪われてしまったと言っていい。

レイはアスカに救いを求めて、視線に、「お願い、許してぇ、ぷりーず」ってな感情を込めるが、復讐に猛り狂う夜叉そのもののアスカには全く通用しなかった。

(さあ、レイ〜。よ〜く味わって食べるのよ〜。ミサトさんのカレーを食べなくちゃいけな時は、3人揃ってって言うのが私達の間で決めたルールだったんだからね〜。罰はちゃ〜んと受けてもらうわよ〜。)

アスカに助けてもらう事が無理だと判断すると、今度はシンジをウルウルした瞳で見つめる。小さい頃、よくこうやってシンジに甘えると、必ずと言っていいほど希望をかなえてくれたものだ。

が、着ぐるみを着込んでいる状態では効果は全くと言っていいほど無く、しかもアスカが刺すような視線でシンジを牽制している為、少しはグラッと来た様だったが、この計画もあえなく失敗に終わった。

(僕が逃げ出した時には2人に財布の中身がカラッポになるまで奢り続けたし、アスカが逃げた時は1週間ずっと2人の荷物を持ってもらったんだし、それに後で2人ともミサトさんの作った鍋いっぱいのカレーを食べきったんだよ〜。レイだけをえこひいきにする訳にはいかないんだよ〜。さあ、僕とアスカが味わった地獄を、たーっぷりと堪能してね〜。)

「レイ〜。コッチ向いてね〜。」

ミサトのその声に反射的に振り向いてしまった刹那、リトル・ゴジラの口にミサトカレーが装填されたスプーンが突っ込まれた。

「●□▲○★▽■☆◎っっっっ!!!!」

正体不明の叫び声が響き渡り、綾波リトルは活動を停止した。






○月□日

うっうっうっ・・・。アスカもシンジ君も酷いわ。なにもミサトさんのカレーを食べさせなくてもいいじゃない・・・。おかげで3日ほど寝込んでしまったわ。おまけにリトルの着ぐるみをこれ以上使っちゃダメだ、捨てた方がいいなんて・・・。しくしく。でも、この着ぐるみは捨てられないの。映画であんなにカワイかったんだもの。ところがところが、それ所じゃない事が起こってしまったの。呪い・・・。そう、これは呪いなの・・・。




その朝、とりあえずLCL化は免れたレイはベッドから起き上がると、顔を洗う為に洗面所へと向かった。

鏡の前に立ち、



ぎゅぎゅ・・・

(?)

W型プラグスーツの頭部は、特定の角度にネジると簡単に開くようになっている。

だが、どうしたことなのか、今朝に限っては捻れど捻れども、一向に開く気配がないのである。

ぎゅ〜

(???)

幾ら力を込めて開けようとしても、

(ううう・・・。と、取れない。リトルの頭が取れないの〜。)

鏡に写るリトルの顔が完全に変形するほど力を加えるのだが、ビクともしないのだ。

首に当たる部分から体を入れて余分な空気を抜き、体にフィットさせるプラグスーツであるだけに、頭部が取れない事には外に出る事が出来ない。

朝食をとるのも忘れて必死に頭部を取ろうとするのだが、いたずらに時間が過ぎて行くばかりで成果はあがらない。

それどころか、心の奥底から得体の知れない恐怖感が込み上げて来る

(怖い・・・。とっても怖いの・・・。あ、もうこんな時間・・・。もう完全に遅刻だわ。みんなから怒られて袋叩きにされるに違いない・・・。いけない、朝食を食べてないわ。きっと餓死してしまう・・・。ああ!冷蔵庫の蓋が閉まっている・・・!とっても怖いわ・・・。)

何を見ても怖い怖い。些細な事でも異常なまでに不安を掻き立てられ、病的に心配になってしまう。そう、丁度ミサトカレーを目の前にした時のように。

そうこうしている内に、授業が始まりそうになっても出て来ないレイを心配して、アスカから電話がかかって来た。

『ちょっと、レイ!アンタ、いつになったら学校に来るつもりなの!?もうすぐ授業が始まるわよ!』

取り合えず、この状況を説明しようと、レイは懸命に喋った。

(ええっと、その・・・。リトルの頭が取れなくて・・・。)

「がおーがおーがおー。」

『リトルの頭は取って喋りなさい!なに言ってんのか全然わからないわよ!』

(だから、その頭が取れないの・・・。)

「がおーがおーがおー。」

『だからリトルの頭は取って喋れって言ってんのよ!・・・そうか。アンタ、こないだのカレーの一件の事を、まだ根に持ってるのね!ミサトさんのカレーを食べなかったペナルティに関しては、過ぎた事はスッパリさっぱり奇麗に忘れるって言う決まりを忘れたのぉ!?いいわ!この私がその根性を叩き直して、きっちりキッパリ学校へ連れて行ってあげるから覚悟しなさい!今からそっちへ行くから、逃げないで待ってなさいよ!』

ピッ!ぷーぷーぷー・・・

(アスカが怒ってる・・・。アスカが怒ってる・・・。と、とにかく逃げなくちゃ・・・。)

先のミサトカレーの一件もあるので、今度も何をされるか分かったものではない。先程から感じる得体の知れない恐怖感がさらに膨れ上がり、大急ぎで玄関へ走って行く。

ぺたぺたぺた

がちゃ!

「アンタ、いま逃げようとしたわねっ!!」

(わあっ!)

「ギャオオッ!!」

いきなり目の前にアスカが現れた為に、仰天したレイは仰向けにひっくり返ってしまう。

アスカ以外にもシンジとマナが付いて来ていた。

(学校にいたんじゃなかったの?何でここにいるの?それに学校はどうするの?欠席になっちゃうわよ。)

「そんな細かい事は気にしなくてもいーわ!それより、レイ!いいかげんその頭を取って喋りなさいよ!」

(だから頭が取れないの・・・。)

説明するのだが、鳴き声が出るだけで全く要領を得ない。

「あーもう!静かにしてよね!今すぐ、その頭を引っこ抜いてやるわ!」

そう言ってリトルの頭部を抱え込んで捻じるが、少しも開く気配が無い。

「んんん・・・!あれ?コレ、なんで開かないの?」

「貸してみて。僕がやって見るよ。・・・あれ?ホントだ、ビクともしないや。」」

代わりにシンジが開けようとするが、やっぱり開かない。

特注W型プラグスーツの遠隔操作用リモコンで頭部を開けようともしてみたが、やっぱり駄目だった。

「あっ!」

突如、マナが声をあげた。

「ちょうど良い所にチェーンソーがっ!これを使いましょう!」

部屋の隅を見れば、何故かそこにはチェーンソーが置いてある。

ぶおおおーーーん!ぎゃぎゃぎゃっ!!ばりばりばりばりばりばりッッ!!

手始めに近くにあった冷蔵庫を真っ二つにしてその威力を確かめる。

「うっくっくっ・・・。さあ、レイちゃーん。大人しく首を出しなさい。すぐに切ってあげるから・・・。」

前にシッポで張り飛ばされた事を、よほど根に持っているらしい。

レイはすっ飛んで逃げて、ベッドに潜り込んでガタガタ震え出してしまった。

「くっくっくっ。そーゆーのを『頭隠して尻隠さず』ってゆーのよぉ・・・。」

成る程、シーツを被っているのは頭の部分のみで、リトルのお尻は丸出しになっている。

「マナ・・・。幾らなんでも、それはやり過ぎじゃあないかな・・・。」

「こう言う時は作った本人に事情を聞くのが一番ね。リツコさんの所へ行きましょう。」

「えー?チェーンソー使いたかったのにぃ・・・。」

しぶしぶチェーンソーを手放すマナ。危うい所で綾波リトルの首は切断を免れた。



「どうやら原因はミサトの作ったカレーのようね。いいえ、絶対にミサトのカレーが原因だわ。考えてみたら、検査をするまでもなかったわね。いいえ、この場合は考える必要すら無いわ。」

検査を終えた綾波リトルを前にして、リツコはそう感想を述べた。

あれから「改造はイヤ・・・。」と言うレイを、3人がかりでここまで引きずって来て検査を受けさせたのだ。

「でさ〜。具体的には何がどうなって故障しちゃったのよ〜。」

騒ぎを聞きつけて出張って来たミサトが、他人事のように澄ました顔つきでリツコに尋ねた。

リツコが端末を叩くと、画面にW型プラグスーツの断面図が表示される。頭の部分に何か機械のような物が入っている。

「この特別仕様のW型プラグスーツの頭部には、使用者の脳神経と密接にリンクしている擬似AIシステムを内蔵した回路が搭載されているわ。使用者の思考を翻訳してリトル・ゴジラの動作へと変換する、一種の翻訳機のような働きもしていて、頭部を被ると声や動作がリトルそっくりになるのはその為なのよ。このAIはレイが危険な状態に遭遇すると、それを感知して頭部をロックする機能があるわ。どうやらミサトカレーを食べた際に、レイの神経が受けた衝撃を読み取ったAIが、核攻撃を受けた際に発動する最高に厳重なロックをかけてしまったらしいの。こうなるとEVAに頭を引っ張ってもらっても開ける事は出来ないわ。」

「ミサトさんのカレーって核兵器なみに危険だそうだよ〜。怖いよね〜、アスカ〜。」

「そうよね〜、シンジ〜。ミサトさんのカレーはやっぱり危険なのよね〜。」

葛城家の生態系を脅かすミサトカレーを抹殺するべく、アスカとシンジはそれとなくミサトに注意を促してみる。

「なっはっはっ!ちょーっち今回は失敗しちゃったよーね〜♪」

反省の色、まるで無し。2人はガックリと肩を落とした。今後もミサトカレーは葛城家の食卓を彩る事だろう。

「そんなんじゃ駄目よ、2人とも。面と向かって、直接に、ハッキリと、大声で、『ミサトさんのカレーは人間の食べれる物じゃありません!ほんっっっっっとーにマズイんです!二度と作らないで下さい!どうしても作りたいんだったら、使徒にでも食べさせて下さい。』って言わなきゃ。」

「・・・リツコさん、あれ見ても言う勇気ありますか?」

シンジが指差す部屋の隅では、「みんな私のカレーの材料になりたいようね。ヒヒヒ。」などとブツブツつぶやきながら「しゃーこしゃーこ」と気味の悪い音を立てて包丁を研いでいるミサトの姿があった。

「・・・無いわね。」

「でも、リツコさん。とっくの昔に危険は去ったんだから、もうそろそろ頭が開いてもいいんじゃない?」

「それはね・・・。」

アスカの質問を受けてリツコがさらに端末を操作する。

画面に写るW型プラグスーツの頭部が拡大し、さらに余分な部分を消し去って回路図だけを表示させる。その一部分は、故障を示す赤色の点滅をしていた。

「AIには外界から受けた経験をレイに伝える役割もあるんだけれど、ミサトのカレーを食べた事によって生じた過度の衝撃がこの部分の働きを狂わせてしまい、外の世界=ミサトカレーと言う図式を作り上げてしまった様なの。今のレイにとっては、世界中の全ての物がミサトカレーと同じ存在に見えている。だから、いつまで経ってもロックが解除されないのよ。」

「外の世界が全部ミサトさんのカレーに見える・・・。なんて恐ろしい事なの・・・。」

アスカがヨロヨロと後ずさりをした。慌ててシンジとマナが後ろから支える。

「解決策は2つあるわ。1つは物理的にW型プラグスーツを取り外してしまうと言う方法。この方法が1番手っ取り早いけど、W型プラグスーツは完全に使い物にならなくなるわ。もう1つは外界に対するレイの不信感を、何らかの形で取り除く事よ。でも、これだと時間がかかるから、いつの事になるやら分からないわ。」

「じゃあ、早く切ってしまった方が良いんじゃないかな?」

シンジの発言にマナも同調する。

「どっちかって言うと、早いとこ怖がるのを止めてあげた方がいいんじゃない?」

「ダメよ!首を切っちゃったらレイが大切にしている着ぐるみが使えなくなっちゃうじゃない。」

2人の言葉を受けてアスカが反論した。

ぎゃーぎゃーぎゃー

議論百出するも結論は出ず。

「レイ、あなたはどっちの方法がいい?」

リツコにそう聞かれたレイの頭の中は、完全にパニックを起こしていた。

(怖いのはイヤ・・・。でも改造もイヤなの・・・。この着ぐるみも壊したくない・・・。)

「このままだと、一生その着ぐるみを着て生活する事になるのよ。」

そう言われても頭を抱えてガタガタ震えているだけだ。

「このままじゃ埒があかないわね。ミサト、悪いけどレイをそこの手術台の上に乗せて。」

「えー?やーよ。私、しんどいのヤだもん。」

「力仕事は得意でしょう?やってくれなかったら、ここで油を売ってる事を司令達に報告するわよ。」

「しゃーないわね・・・。」

ぐわしっ

ミサトは綾波リトルの胴を抱え込むと、肩に乗っけて運び出す。

じたばたじたばた

「ちょっと、レイ!暴れちゃ駄目でしょう!」

レイが激しく抵抗する為に、なかなか台の上に乗せる事が出来ない。

「台の上に乗せてくれさえすれば、後は機械が自動的に拘束してくれるわ。そうなったら、もうコッチのモンよ・・・。うひ・・・。うひひひ・・・。」

その危険な笑いに、レイの心にミサトカレーの恐怖が蘇る。

(カレーはイヤ・・・。カレーはイヤ。カレーは・・・いやあああああーーーっっ!!)

ぺし!ぺし!

シッポパンチが炸裂し、三十路コンビは見事に弾き飛ばされてしまった。リツコは実験器具の山に放り込まれ、ミサトは何かの液体の入った水槽に飛び込んだ。さらにミサトの巻き添えを食ったマナが、ミサトとは別の水槽に放り込まれてしまった。

「いけない!アスカ!シンジくん!急いでミサトとマナちゃんを水槽から引きずり出して!」

試験管やらビーカーが頭に突き刺さったリツコの必死の叫びに、アスカとシンジは手分けして別々の水槽にはまったミサトとマナを引きずり出した。

ずぶ濡れのミサトに駆け寄ったリツコが血相を変えて問いただす。

「ミサト!マナちゃん!水槽の水を飲んだの!?どうなの!?」

「う〜ん。飲んじゃった〜。」

「飲んじゃいました〜。」

目を回しているミサトの返答を聞いたリツコは、頭を抱えてヨロヨロと後ずさりをする。

「どうしたの、リツコさん!?この水槽の水、毒か何かだったんですか!?」

「ま、まさか、半漁人になったりするんじゃ・・・。」

アスカとシンジの問いかけに、リツコはゆっくりと首を左右に振った。

「いいえ・・・。毒ではないわ。でも、ミサトにとってもマナちゃんにとっても、半漁人にでもなった方がマシな症状が現れる薬なのよ・・・。」

「半漁人の方がマシ・・・。」

「い、一体、何が起こるんだろう・・・。」

リツコが生み出す発明品の恐ろしさを知るアスカとシンジが冷や汗を流していると、ミサトの容貌が変化し始めた。胸のボリュームはダウンし、丁度、40台後半くらいの容貌になった所で変化は止まった。

「わ、私、一体どーなっちゃったのぉ??」

「し、知らない方がいいと思うわ、ミサトさん。」

「ぼ、僕もそう思います。」

アスカとシンジが顔を引き攣らせていると、リツコがご丁寧にも鏡を差し出した。

「はい、ミサト。これで確認するといいわ。」

鏡の中の自分の姿をまじまじと見ていたミサトの表情が、見る見る歪み出した。

「オ、オ、オバさんはイヤアアアアアアーーーーーーッッ!!!!」

ミサト、精神崩壊。

「クックックッ。何時も何時も私の事を三十路、三十路ってバカにするから罰を受けたのよ。この水槽の中身は、実験で誤って出来てしまった『老け薬DX』なのよ。本来は若返りの薬を研究していたんだけれど、失敗して老け薬になってしま・・・。」

「ぎやあーーーーーーっ!!」

リツコの解説が終わりきらない内に、今度はやたらめったら太い声が聞こえて来た。

「何よゴレーーーーーーーーーっっ!!!!」

悲鳴をあげるマナは、胸は無くなり、喉仏は出て、肩幅は広くなり、顎には髭まで生え、加えて足が臭くなっている。おまけにスネも腕も脇も、全身が毛むくじゃらだ。

「ジンジぃー!どーじよぉー!わだぢ、オドコになっぢゃっだよーっ!」

マナの場合、“男の子”になったのであれば存分に救いがあったのだが、行き過ぎてしまって“男”になってしまったのが運の尽き。そんな姿で中学の女子の制服を着ているもんだから、全くもって非常な完璧に本当のアレだ。

「ねえ!何どが言っでよ、ジンジぃ!」

「そ、そーだね・・・。なんてゆーか、あのその・・・。」

野太い声で迫って来るマナオに対し、冷や汗を後頭部に貼り付けながら後退するシンジ。

まさかこの状況で笑顔を浮かべて爽やかに、「男らしくなったね!」とか、「たくましくて良い感じだね!」とか、「本来の姿に戻って良かったね!」とか言う訳にもいかないだろう。

とにかく、このまま抱き着かれでもしたら、サバ折りを極められて背骨をヘシ折られる事は必定なので、シンジはリツコに話題を振った。

「こ、こ、こっちの水槽には何が入っていたんですか?」

「試作品の『スーパ性別転換剤』よ。あらゆる動物の性別を一瞬で変更するスグレものよ。女性的な要素が少ない女の子だと死ぬほどムサい男に、男性的な要素が少ない男の子だと可憐な美少女に変身するわ。シンジ君も試してみる?きっと美少女になれるわよ。」

「いえ、遠慮しときます・・・。」

「ぞうよーっ!ぞれよーっ!」

いきなりマナが背後からシンジを羽交い締めにした。

「ジンジも女の子のになれば問題無いわ!さあ、水槽の水を飲んでぢょうだい!」

「や、やめて〜!」

シンジは悲鳴をあげながらマナに引きずられて行く。マナの表情は獲物の小動物を見つけた肉食中のそれであり、目をギラつかせ、口からは涎までたらしている

「ざあ、ジンジぃ〜。女の子になっだら、だーっぶりどガワイがっであげるがらね〜。」

「い、いやあーーーっっ!!」

少女になった自分が、ヒゲ面のマナに襲われるオゾマシイ光景を想像したシンジは悲鳴をあげて抵抗した。が、マナオの馬鹿力にかなう筈も無く、水槽の水面はもう目の前である。

「やめんかーっ!」

どげしっ!

アスカの飛び蹴りがマナの後頭部に炸裂し、シンジは水を飲むすんでの所で助かった。

「本物の茶髪オカマになったクセに、調子に乗ってるんじゃないわよーっ!」

げしげしっ!ザッパーーーン

怒りのおさまらないアスカは、気絶して目を回しているマナを水槽の中へ蹴り込んでしまった。アスカの手には『狂暴茶髪御用達・狂暴性全開薬』と銘打たれた怪しげな小瓶が握られている。どうやらジュースと間違ってリツコの作った薬を飲んでしまったようだ。

「シンジをカワイがるのは、アタシの役目だってーの!」

「ア、アスカ〜?」

「あわあわあわ。な、な、な、何でもないの!」

照れ隠しの為か、アスカは盛大に水を飲んでしまったマナの足を掴むと、水槽の中から乱暴に引きずり出した。

「わあ・・・。」

「げっ・・・!」

シンジが感嘆し、アスカが絶句したのも無理はない。水槽からサルベージされたマナは、絶世の美少女に変身していたのだ。

「な、な、な、何てカワイイ、いや奇麗な女の子・・・。」

「・・・(ぶちっ!!)。」

どげしっ!!どげしっっ!!どっぽーーーん!!

怒り全開のアスカにお尻を蹴っとばされたマナは、三度、水槽の中に転落した。再び浮いて来た時には、それこそ北京原人と変わらぬ風貌に変化してしまっていた。

「ああ、もったいない・・・。」

「しんじぃ〜。何か言ったかしら〜。」

口から赤い舌をヘビのように出すアスカが、半睨みでシンジを威嚇する。

「い、いえ、何でもありません・・・。」

「ちょっと、ちょっと。遊ぶのはそのくらいにしておきなさい。」

いい加減に止めないと何所までエスカレートするか分かったもんじゃないと思ったリツコが止めに入った。

「リツコさん、レイの事なんですけれど、これからどうしたらいいんですか?」

頭に噛み付くアスカをそのままに、どくどくと血を流しながらシンジが尋ねた。

「そうね・・・。おそらく、ミサトカレーの衝撃に匹敵するくらいの出来事をレイが経験すれば、ショックで回路の働きが正常に戻るはずだわ。でもW型プラグスーツのロックを解くには、レイ自身が外に出たいと言う意志を持たなければならないのよ。ただ、こういう事は狙って出来る事じゃないから、レイが心を開くように陰日なた無く見守ってあげながら、諦めないで何度も何度もトライし続けるしかないわ。」






○月×日

人体改造研究所から逃げ出してから1週間・・・。あれから人目を避けて、当ても無く街をさ迷ったわ。ご飯を食べようと思って食堂に入ったら店の人がみんな逃げ出しちゃうし、酔っ払いのオジサンに人生相談を受けたり、駅のベンチで寝ていてお巡りさんに追いかけられたり、何だか無茶苦茶な毎日だったわ・・・。夜はガードレール下で一夜を明かしたの。うっうっうっ・・・しくしくしく・・・。お腹も空いて夜の冷え込みがとっても応えたわ。このプラグスーツ、やっぱり捨てた方がいいのかしら・・・?いいえダメ・・・。それに、何所かできっと役に立つはずだから・・・。




「おら、チビ!カネ持ってんだろうが!さっさと出しやがれ!」

そんな声が聞こえて来たのは、着ぐるみを着てションボリと街外れを歩いている時だった。

声のする方に行って見ると、小学生くらいの男の子がバイクに乗った数人の高校生達にからまれていた。

「オレのバイクにキズしてくれた落とし前、どう着けてくれんだよぉ!」

「ご、ごめんなさい・・・。」

消え入りそうな震える声で誤る男の子を小突き回している。近くにサッカーボールが落ちている所を見ると、これが何かの弾みでバイクに当たってしまったのだろう。

この辺りはNERVの兵装ビルが多くある地域で、昼間と言えでも人影は殆ど無い。男の子に助けが現れる可能性は、まずゼロと言っていいだろう。

涙を流して謝る男の子を、高校生達は執拗にいたぶり続けている。

この光景を見た時、レイの脳裏にあの映画の一場面が蘇って来た。数人の男に絡まれるレナを見たリトル・ゴジラが、周囲の制止を振り切って彼女を助けるシーンをである。

(怖い・・・。とっても怖いの・・・。でもあの子はもっと怖い筈なの。それに今の私はリトル・ゴジラ。助けなきゃいけないの・・・!)

覚悟を決めて物陰から飛び出ると、全速力で走って行って男の子と高校生達との間に割り込んだ。

「がおーーー!」

「な、なんだコイツ!??」

突然のリトルの出現に慌てふためく高校生達。が、常識的に考えて、使徒はともかくリトル・ゴジラが現実にいるはずもないので、すぐにショックから立ち直った。

「ケッ!ビビるこったねぇ!ただの被りモンだ!」

「こいつから片付けちまえ!」

殴る蹴るの暴行を受ける着ぐるみレイだったが、リツコの作ったW型プラグスーツの特殊な素材が衝撃を殆ど吸収してしまって痛みなどは無かった。痛くなければ冷静に考える余地も生まれる。レイはこの状況を脱出する方法を思案した。

(危険な状況に遭遇したら役に立つ物があるって、赤木博士が何か言っていたはず。ええっと・・・。)

レイの着ている特殊仕様のW型プラグスーツは、危険な状況に陥った時に特定のキーワードを喋ると、リツコが趣味で付けた様々な機能が作動するように設計されている。

(確か、『火炎放射』って・・・。)

ゴオオオーーーッ!!

着ぐるみの中でそう言った途端、リトルの目が赤く光って口から炎が飛び出した。

「うわああっっ!!」

「アチアチアチ!!」

ゴオオオーーーッ!!

炎の舌に追いまくられ、あたふたと逃げ惑う高校生達。

(ええっと他にも何かあったはず・・・。『プラズマ光線』だったかしら?)

ピシャアアアァァァーーーッッ!!

今度は白い雷撃が口から飛び出した。

ピシャアアアッ!!ピシャアアアァァァーーーッッ!!

アスファルトを黒く焦がし、ブロック塀を粉砕し、電柱を切断する。

だが、綾波リトルの快進撃も長くは続かなかった。

ぷっすん

そんな音がした途端、口から出ていた電撃が消え去ってしまった。慌てて炎を出そうとして見るものの、ウンともスンとも言わない。さすがはリツコお手製の品。肝心かなめな所でものの見事に故障してしまった。

「この野郎・・・。よくも脅かしてくれたな!」

「ブッ殺してやるっ!!」

着ぐるみの故障に気が付いた高校生達が、レイを包囲して刃物を抜いた。

頑丈な素材で出来ているものの、刃物で刺されれば流石にどうなるか分からない。

それでもレイは男の子を背後に庇い続ける。

(まだ何か武器があったはず・・・。赤木博士が最後の手段に使うようにって・・・。そうだ!『助けて、お父さん!』)

ゴーーーーーー・・・

足元から地中を何かが高速で移動するような音が聞こえ始め、その音は次第に大きくなってくる。

続いて真横にある兵装ビルの警告灯が点滅を始め、地中の振動がその内部を駆け上がった。

一瞬の静寂の後、ビルのシャッターが開いた。

ズズーーーン・・・ズズーーーン・・・

地響きを立て、建物の内部からゆっくりと巨大な生物が姿を現す。

肩口から突き出た結晶のような突起、額に生えた角、これぞ正しくスペース・ゴ○ラ。

グオオオーーーン!!(あんた達っ!!ウチのレイちゃんになんてコトすんのよっっ!!)

顎部ジョイントを外して咆哮するEVA壱号機、改めスペース・ゴジ○。

この少し前、壱号機のコアにいるユイは、『NERV総司令、六分儀ゲンドウ氏を直撃!再婚相手は作戦部長を勤めるK三佐か?』なる見出の番組を回線を通じて見て、我が兄の節操の無さに呆れ果て、NERV中の回線を全てオープンにしてゲンドウを糾弾した。

ちなみに弐号機内部にいるゲンドウの妻にしてアスカの母親キョウコは、この番組を見てショックのあまり、「そうなの・・・。やっぱり私よりも若い子の方がいいのね・・・。アスカちゃん、いっしょに家出しましょう。」などと言い出して自閉症モードに突入してしまった。現在、弐号機はゲージのすみっこで膝を抱えてブツブツつぶやいている。

全職員注目の壮絶な兄妹ゲンカの最中にレイからの危険信号を受信し、慌てて壱号機をW型装備を着込んで駆けつけたのだった。

レイに危害を加えようとしていた高校生達は、W型装備の壱号機の威容に腰を抜かしてしまう。

「バケモンだーーーっっ!!」

「逃げろーーーっっ!!」

停めてあったバイクで逃げようと一目散に逃げて行く。

ギャオオオーーーッッ!!!!(だぁーれがバケモンよおおぉぉっっ!!!!)

どしゃあああっっ!!

ユイゴジラによる怒りの超重量踏み付け攻撃が炸裂し、逃走用のバイクの群れは一撃で跡形も無く粉砕された。

程無く保安部が到着し、不埒者の一行は簀巻きにされて連行された。彼らは『チルドレンに対する殺人未遂罪』と言う重罪に処せられるか、赤木人体改造研究所に収容されるか、いすれかの道を歩む事になるだろう・・・。

(ユイおばさん・・・。ユイおばさん!!)

レイはスペース・ゴジラの着ぐるみを装備した壱号機に駆け寄って行き、その足にしっかりと抱き着いた。

(レイちゃん。しばらく見ない内に強い子になったわね。)

(そんな事ない・・・。映画の真似をしただけだもの・・・。)

親子怪獣は共通の言語で会話しあった。

(それに、この着ぐるみを着るようになってから、おかしな事ばかり起こるようになってしまって・・・。シンジ君やみんなにも怒られてばかりなの・・・。)

(大丈夫よ。みんな、あなたの事を心配して、ずっと見ているわ。もうすぐ何もかも良くなるから安心しなさい。)

言い終わるとスペース・ユイ様は再び兵装ビルの中に姿を消した。

「リトルぅ、リトルぅ!ありがとう、ありがとう!」

レイは自分にすがり付く男の子を抱き上げると、その頭を優しく撫でてやった。

家まで送ってやろうと子供の手を引いて歩いている途中、レイは自分の心から訳の分からない恐怖心が消えている事に気づいた。






△月+日(土)曇り

しくしく。最近、みんなが口を利いてくれないの。話し掛けてもどことなく余所よそしいし、ユイおばさんはああ言っていたけど本当なのかしら?やっぱりこのプラグスーツ、捨てなければいけないのかしら?しくしく・・・。何でも怖くなるような事は無くなってよかったけれど、とっても寂しいの・・・。あれ?誰か来たみたい・・・。




ピンポーン、ピンポーン、

ドアの呼び鈴が鳴っている。

こんな時間に誰だろうか?レイは書きかけの日記をそのままにして立ち上がった。

ピンポーン、ピポ、ピポ、ピポ、ピポ、ピポ、ピポ

誰も出ない事に苛立ったのか、訪問者が呼び鈴を連打し出す。

(止めた方がいいと思う・・・。)

ピポ!ピポ!ピポ!ピポ!ピポ!ピポ!バリバリバリッッ!!!・・・ドサ

大きなスパーク音の後、ドアの外で人の倒れる音がした。

チェーンを掛けた後、鍵を解き、ドアを細めに開ける。依然ならばチェーンは愚か鍵すらかけていなかったのだが、アスカ達の指導の下、こう言った常識的な行動も違和感無くこなせるようになった。

「だから止めときなさいって言ったのに・・・。マナって本当にバカなんだから。」

ドアの外にはアスカとシンジ、そしてその足元に全身、黒焦げになったマナがピクリとも動かずに倒れている。ショーットカットの茶髪も黒焦げアフロになってしまっている。

ここ最近、疎遠な感じがしていたアスカ達の突然の訪問にレイは戸惑った。チェーンを外してドアを大きく開ける。

(どうしたの?)

そう言おうとしても出るのは鳴き声だけ。

「がお?」

「ああ、無理に喋んなくてもいいって、いいって。

アスカは返事も聞かずに着ぐるみレイの背中を押して部屋の中へと入って来る。

「じゃ、お邪魔します。」

シンジはマナを引きずってアスカの後を追う。

その後から、階段で待っていた

「邪魔するで〜。なんやぁ、なーんにもあらへんのー。」

「ここが綾波の部屋か。写真撮らなきゃ。」

「こら!鈴原も相田君も行儀が悪いわよ!」

「綾波さん、お邪魔するわね。」

トウジ、ケンスケ、ヒカリにエリカが入場する。

「おっじゃましま〜す!悪いけど、今日はカレーは無しよんっ!」

「今晩は、レイ。お邪魔させて頂くわ。」

「レイちゃん、こんばんわ。」

「よっ。上がらせてもらうよ。」

次に入ってきたのは、ミサト、リツコ、マヤ、加持らNERVの職員達。

レイの部屋は訪問客で溢れ帰ってしまった。

(みんな、一体どうしたの?)

そう言おうとした矢先、

「レイー!お誕生日、おめでとう!」

ポン!ポン!ポン!

アスカの声と共に、クラッカーが色とりどりの紙ふぶきを宙に舞わした。

「レイだけ誕生日が決まってなかったから、みんなで相談してシンジのお母さんと同じ日に決めたのよ。こういう事は当日まで秘密にしといて、急に押しかけた方がビックリするだろうと思って、みんなと今まで黙ってたのよ。はい!コレ私から。大事にしてね。」

そう言って、アスカは包装紙に包まれた小箱を手渡した。開けてみると、細かな銀細工を施したブローチだった。

「前にレイがリツコさんの所から逃げ出した時、みんなで手分けして街中探してやっと見つけたと思ったら、刃物を持った連中に囲まれてるんだもの。びっくりしちゃったよ。僕とアスカが出て行こうとしたら母さんが来ちゃって、もっと驚いたけどね。これからは無茶しちゃ駄目だよ、レイ。これは僕から。」

シンジが差し出したのは、上品なデザインの食器セットだった。

(みんな探してくれてたんだ・・・。私を・・・。)

暖かな何かで満たされるのを感じながら、レイは贈り物を受け取った。

続いてミサトが進み出た。

「私からは香水セットね。ここぞって言う時に使うといいわ。あ、ここぞって言う時ってのはね、好きな男の子と今日は一晩中いっしょに居るって言うよーな時のことで、そん時に用意する物は(ぴーっ!)と(どかーん!)と(ばきゅーん!)ってトコで、あと、(ずどーん!)なんかも持っていると便利よ。それからそれから・・・。」

げし!

このまま喋らせ続けると何を言い出すかわからないと思ったリツコが、嬉々として喋り続けるミサトの後頭部に肘打ちを入れて沈黙させた。

現にレイはシンジの方へ熱い視線を注いでいる。もっとも、着ぐるみのままなので、余り色っぽくなかったが。

「あなた、未成年に一体なにを吹き込んでいるの?さて・・・、残念なんだけど、私の贈り物はまだ渡す事が出来ないの。手続きや何やで、今日やっと出発できる事になったのよ。じゃあ、そう言う訳で私は南極に行って来るわ。お土産を楽しみにしてなさい。」

リツコは言うなり開いていた窓から飛び出して行った。だが、この部屋はかなり上の階に位置している。

ガシャーン!バリバリバリ!どどーん!

「うわー!何だ!?身投げか!?」

「救急車だ!救急車を呼べーっ!!」

たちまち下の方が騒然としだした。

「ああ〜ん!せんぷぁい、ステキです〜。一生、憑いて行きます〜。と、言う訳で、レイちゃn。これ、プレゼントのパジャマね。じゃ!」

言い残して、マヤはリツコを追って出て行った。

そんな光景に加持は肩をすくめて見せる。

「やれやれ。リっちゃんもマヤちゃんも相変わらずだな。俺からはグラスセットだ。それからこれは、司令と副司令が連名で送る花束だ。大事にしてやってくれ。」

続いてヒカリとマナが大きな包みを抱えて進み出た。

「私とマナは共同でプレゼントするわ。」

「はい!ヒカリと私とで一緒に作ったリトルの縫いぐるみ!大切にしてね!」

中から出て来たのは1メートル位の大きさをした、リトル・ゴジラの縫いぐるみだった。

「ワイからはラーメンセットや!好き嫌いの多い綾波でも、これやったらナンボでも食えるやろ!」

そう言ってトウジは担いできたダンボールを床に下ろした。

「オレは特技を生かして写真を贈るよ。一番奇麗に撮れてたヤツを引き伸ばしたんだ。」

ケンスケが差し出したのは、シンプルなデザインの額に収められたレイの写真だった。

「次は私ね。最初は、今私が着ているような服でもあげようかなって思ったんだけど、綾波さんにはまだ早過ぎるから、無難なところで図書券を贈らせてもらうわ。たくさん本を読んで素敵な女性になってね。」

エリカの言葉を聞き、トウジとケンスケは、エリカのような露出度120%の服装をしているレイの姿を想像し、よからぬ妄想を抱く。

「じょ、女王様や!綾波女王様や〜!?」

「売れる!こいつは売れるぞおおおぉぉぉっっ!!」

バキッ!ドカッ!ベキッ!ボキッ!

じゃーじメンと盗撮メガネは、女性達の手で一瞬にして葬り去られた。

全員がプレゼントを渡し終えるまで、レイは身じろぎ一つしなかった。

レイの様子のおかしい事に気付いて、アスカが声をかける。

「?レイ?どうしたの?」

うっく・・・しくしく・・・

着ぐるみは小さな手で顔を覆い、俯いてしまった。低い鳴咽が着ぐるみの中から聞こえて来る。

着ぐるみの中でレイが泣いているのは明らかだった。

「ど、どうしたの?何か気に入らなかった?」

「どこか体の調子でも悪いの?」

慌ててアスカとシンジが駆け寄り、下から覗き込むようにしてレイを見る。

リトルの頭部が左右に振られた。

(違うの・・・。違うの・・・。)

ただもう嬉しくて嬉しくて、ひとこと感謝の言葉が言いたかった。怪獣の鳴き声しかでなくても、それでも自分の気持ちを伝えたかった。

今まさに声が出そうになった、その時、

カポッ!

「みんなありがとう・・・!」

その頬は涙に濡れていた。






その日、南極の調査から帰って来たリツコは、数ヶ月におよぶサバイバル生活で伸び放題の髪と荒れ放題のお肌をほったらかしにしたまま、レイのマンションを訪ねていた。レイは制服姿でリツコを出迎えた。

「それにしても、どうしてあの時にリトルの頭が取れたんでしょうか・・・?」

「多分、男の子を助けた事、みんなに自分の誕生を祝福されて事時のショックで故障していたAIが正常に戻って、さらに感謝の気持ちを伝えたいと言うレイの気持ちがロックを解除したんでしょうね。」

「そうだったんですか・・・。」

「ところで、レイ。1人暮らしは寂しくない?」

「少し・・・。」

その返事に得たりと身を乗り出したリツコは、包帯少女レイもかくやと思うほど全身包帯だらけだった。片腕片足にはギブスをはめている。

何でも、シベリア狼の群れ追い回されて食料を失い、ペンギンに突っつき回されて10円ハゲを作り、オットセイにダイビングアタックをカマされて片手片足をへし折られ、白熊に襲われて頭を強打され記憶喪失となり、最後に国際犯罪組織に狙われてクレパスに落下し、全身打撲を負ってこうなったのだそうだ。

セカンドインパクト以降の南極大陸は、巨大ミステリーゾーンとなってしまった様だ。

「ミサトの家にいるペンペンみたいな感じの家族がいたら寂しくないと思うんだけど、どうかしら?」

「そうかも知れませんね・・・。」

上々なレイの反応に、リツコは満足した様に頷く。

「実は渡し損なった誕生日プレゼントの代わりに南極から面白い動物を連れて来たんだけど、一緒に住んでみる気はない?」

「え・・・?」

「いいわよ、リトル!入って来てちょうだい!」

階下からドスドスと軽い振動が伝わって来る。そしてその音が部屋の前で止まるとノブが回され、ぎこちなくドアが開けられた。

がおーーーーーー!

「あ・・・!」

真紅の瞳が喜びに輝いた。

 

 

着ぐるみレイちゃん大行進!2  終劇


マナ:うがーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!(▼▼#

アスカ:いきなりわめかないでよ。

マナ:書斎を焼いたはずなのにっ!!!!!(▼▼#

アスカ:だって、前回一緒に貰ってた作品だもの。

マナ:予備がまだあったのかーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!(▼▼#

アスカ:そんなに、叫ばないでよ。耳が痛いわ。(^^;

マナ:ぺっ! ぺっ! ぺっ! 北京原人とまで言われて黙ってられるかぁぁぁぁぁっ!!!!(▼▼#

アスカ:ぶわはははははははははっ! 北京原人っ! わははははははははははっ!(^O^)

マナ:笑ったーっ!!!?(▼▼#

アスカ:い、いえ・・・。(ーー;;;

マナ:話によると、マダマニアウサ経由で投稿が来たらしいじゃないっ!

アスカ:そ、そうだけど・・・。

マナ:さかぐち周太郎邸、マダマニアウサ邸。木っ端微塵にしてくれるーーーーーーーっ!!!!!(▼▼#

アスカ:やめなさいって・・・。あまり暴れると、マナが狂暴だって思われるわよ?(@@)

マナ:うっ・・・じゃ、じゃぁ。わかったわよっ!!!(▼▼#

アスカ:ほっ。

マナ:諜報部員の人に、さかぐち周太郎を拉致して貰うわっ!!!! フフフフフフフフフ。(▼▼#

アスカ:も、もっと危険な妖気が・・・。逃げ延びれるかしら?
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