アンタ、バカァ!?(アスカ語・超絶感嘆詞)

汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン弐号機の専属操縦者、惣流アスカ・ラングレー嬢が、相手を罵倒する時に使用する十八番の言葉。相手に対し、ヒジョーに大きなな精神的ダメージを与える事が可能である。主に、同僚パイロットの碇シンジ君に対して使われる。






バカシンジ!(アスカ語・固有名詞)

アスカがシンジくんを呼ぶ時によく使う呼び名。「アスカ様専用下僕」としての、シンジ君の立場を、ひと言で表した名言である。



田編書店「LAS辞苑・第2版」より









「アンタ、バカァ!?お風呂の温度が1℃も高いじゃないの!アタシの美肌を火傷させる気なのぉ?」

「アンタ、バカァ!?アタシの大好物のハンバーグを焦がしたりて、どーすんのよ!」

「アンタ、バカァ!?テレビのチャンネル権を持とうなんて、100年早いのよ!」

「アンタ、バカァ!?アタシは中学校程度の勉強なんか、とーくの昔にマスターしてんのよ!と、ゆーワケで、国語の宿題やっといてね。」

「アンタ、バカァ!?だからバカシンジなのよ!バッカバッカバッカ〜!」

こんな具合で、シンジ君はアスカに始終バカにされ、イジメられ続けてきた。

アスカがドイツから日本にやって来て、葛城家での同居生活がスタートして以来、シンジは何度この「アンタ、バカァ!?」を拝聴したか知れない。

ちょーっとでも気に入らない事があると、「アンタ、バカァ!?」。

物事が自分の思い通りに行かなくても、「アンタ、バカァ!?」。

EVAの操縦でミスでもしようものなら、それこそすぐに、「アンタ、バカァ!?」。

自分にミスがあっても、ムチャクチャ強引に、「アンタ、バカァ!?」。

何がなんでも、「アンタ、バカァ!?」。

なのである。

加えて、呼びかける時は必ず「バカシンジ!」だ。

呼ばれる方は、たまったものではないだろう。自分の名前の前に、接頭語か枕詞のように毎度毎度「バカ」が付いているのを笑って済ませれる人は、決して多数派では無いと思う。

そんなこんなで、シンジの周囲には、絶えず「バカ」と言う単語が氾濫していた。



そして現在、シンジとアスカの2人は、第3東京市の地底深く、国際連合特務機関、NERV本部の中を、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンを格納しているゲージへと向かって移動していた。

「ふあ〜。こんな早朝からEVAの搭乗実験だなんて、リツコのヤツ、何を考えてるんだか。眠たくって、しょーが無いわ。」

プラグスーツに身を包んだアスカが、アクビを隠し切れず、大きな口を開けている。

昨夜、無理矢理にシンジを引っ張り出して、遅くまでテレビゲームに興じていたのが原因だ。

「だ、だからボクが早く寝た方がいいって言ったのに、全然、聞いてくれないんだから・・・。」

アスカの少し後ろをついて歩いているシンジが、ビクビクしながらも不平を漏らす。

それを耳にしたアスカの目尻が、ギリギリと釣り上がった。

「アンタ、バカァ!?アンタの日々の疲れを癒すため、このアタシ自らがゲームの相手をしてやったんでしょーが!今日のシンクロテストで成績が悪かったら、アンタのせいだからね!覚えてなさいよ!バカバカバカっ!」

「ううう・・・。もういいよ・・・。」

ダッ!

「あっ!シンジっ!」

止める間も無い。とても悲しそうな表情を浮かべて、シンジは走り去ってしまう。

「なによ・・・。ちょっとバカにしたくらいで、そんなに怒る事ないじゃない・・・。」

シンジの後ろ姿を写すアスカの瞳には、寂しげな色が漂っている。

自我むき出しのバカ攻撃を加えてもアスカの相手をしているのは、世界広しと言えども、シンジ1人だけだろう。

ま、よーするにアスカは、そんなシンジに構って欲しいのだ。

しかし、シンジは周知の通り、極めつけの、にぶちん鈍感キング。

そんなアスカの心の内を知るはずも無く、「怒られちゃった」、「またバカにされた」、「愛想を尽かされたよぉ〜」と、お得意の泥沼思考にハマっていく。

ピー!ピー!

プラグ内にシンクロ率低下を知らせる警告音が鳴り響く。

『シンジ君、シンクロ率が5パーセント落ちたわ。集中してちょうだい。』

「は、はい!すみません・・・。」

シンクロ状態を管制室でモニターしている金髪黒眉毛の技術部主任、赤木リツコから注意が入った。

殺人的な家事による日頃からの肉体的な疲れと、アスカの罵倒攻撃で蓄積した精神的疲労で、心身が摩耗し切っているシンジは、この時、ややノイローゼ気味だった。

『アンタ、バカァ!?集中力が足りないから、んなミスをすんのよ!アンタってホントーに、どーしようもないバカね!』

シンジのミスを知ったアスカから、早速、ありがたーい通信が入った。

シンジは外見通りの繊細少年。連日連夜のバカ攻撃が原因で精神的に窒息しかかっており、唯でさえ神経を使うEVAの搭乗実験をしている時に、このバカ攻撃は非常に堪えた。

(バカ、ばか、馬鹿・・・。ボクってバカぁ?わーい、バカなんだぁ。)

半ばショート気味の頭の中では、「バカ」と言う言葉が無限にループし始めた。

アンタ、バカァ!?バカァ!?バカァ!?バカァ!?バカァバカァバカァバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバ・・・

「う〜ん、ぶくぶくぶく・・・。」

エントリープラグの中で目を回し、気を失ってしまうシンジ。

ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!

たちまち異状を知らせる警報が実験室内に響き渡る。

「パルス逆流!信号、受けつけません!」

「シンクロ率、急激に上昇しています!100・・・、200・・・、300・・・、止まりません!」

「こちらのコントロールにも影響が出始めています!」

備え付けられている端末の画面は、全て、『バ』と『カ』の2文字に埋め尽くされてしまっている。

モニター室がパニックになっているその頃、アスカは自分のエントリープラグから抜け出し、シンジの乗る初号機へと向かっていた。

(まったく、も〜う!ちょっとバカにしたくらいで、イジけてんじゃないわよ!でも、もしこれでシンジの身に何かあったら・・・。)

エントリープラグへの乗降タラップを駆け上がり、EVAの首の後ろ辺りにある非常パネルを開いて、プラグ排出のコードを素早く打ち込む。

ゴウンッ!ウイイイーン

プラグが排出されると、ノブを回して扉を開け、薄暗い内部に飛び込んだ。

「シンジっ!大丈夫なの!?ねえってばっ!!・・・シンジ?」

シートに腰掛けているシンジの姿を見たアスカは驚愕した。

「シ、シンジなの?」

碇シンジは、

「あお?」

カバになっていた。









アンタ、カバァ?

さかぐち周太郎









「・・・各種の記録を調査した結果わかった事は、過度のストレスによる神経への負担が、EVAとのシンクロの際に暴走を引き起こした様ね。」

バカシンジならぬ、カバ・シンジを前に、頭痛を起こしたリツコが眉間を押さえながら解説する。

最近、EVAの搭乗実験をする度に、何かトラブルが発生する。

EVAに盆踊りをさせて格納庫の床をブチ抜いたり、第3東京市内でEVAを使って鬼ごっこをした挙げ句、多くの施設を壊滅させたり。

アスカとシンジの御陰で、NERVの各セクションは、謝罪、弁明、もみ消しに大忙しだ。

本日に至っては、シンジのカバ化である。頭痛くらい起きても無理は無い。

その頭痛の種が、いつもの痴話喧嘩を目の前で繰り広げている。

「ホントーにアンタって、変な事だけは器用ね。それをチョットは他の所に使いなさいよ。」

「あ、あお。」

「これからはバカシンジじゃなくって、カバシンジって呼ばないといけないわね〜。部屋もアタシに明け渡してもらって、リビングの隅っこに小屋でも作ったげるから、そこに入っていてもらおっかな〜?」

「あお・・・。」

「それから、お小遣いなんかも要らないだろうから、ぜーんぶアタシが・・・。シンジ?どうしたの?」

うつむいて動かなくなってしまったカバシンジを下から覗き込んだアスカの瞳が驚きで丸くなる。

見ればシンジは、つぶらな瞳に涙を一杯溜めているではないか。

「あわわっ。泣かない泣かない。お願いだから泣かないで〜、シンジ〜。ホントは今言ったみたいなコトなんて、ちーっとも思ってないから。ね?ね?」

頭を撫でてやったり、飴を出して舐めさせたりと、アスカは大慌てでシンジを慰める。

アスカに慰められ、機嫌を直したシンジはニッコリと微笑んだ。

さて、そのシンジだが・・・。

女の子と見まごう程だったシンジの痩身は、既に跡形も無い。

スラリと細く長かった手足は短く丸々と、折れそうにクビレていた腰はボリューム満点に、スベスベでツヤツヤだった脚はカバ的な短くドッシリしたものに変わっている。

体が丸々するのとは反対に、足が短くなってしまったのも手伝って、身長はかなり縮んでしまった。以前はアスカよりも少し低めだった背の高さは、今では頭2つ分程低くなってしまっている。

そして、皮膚のカラーリングは、肌色から灰色へと変わっていた。

辛うじてシンジの面影を留めているのは、頭の上に乗っかったナスのヘタの如き黒髪と、優しげな光をたたえるツブラな瞳だけだ。

元々着ていた服は、サイズが全く合わなくなってしまったので、今は腰にバスタオルだけを巻いている。

「それで、リツコ。まさかシンジは、ず〜っと、このままなの?」

「心配しないでも、まるっきりカバになっちゃった訳じゃ無いわ。あくまでも、シンジ君のイメージした範囲での変身よ。精神も内臓も人間の時のままよ。放っておけば、そのうち元の姿に戻るから、心配しないでもいいわ。」

「ふ〜ん。じゃあ、カバの縫いぐるみか何かを被っていると思えばいいんだ。」

そう言いながら、アスカはシンジの体のアチコチをペタペタ触りまくっている。

「シンジ〜、バンザイしてみて〜。」

短くなった両手を持ってバンザイ。

「結構、お腹は柔らかいわね。」

ぽこーんと出たお腹を、なでなで。

「わおっ!耳が回転するのね。カワイイ〜。」

くるくる回転する耳を見て、ぱちぱち手を叩く。

さっきから、ず〜っとアスカはシンジを使って遊んでいる。

確かに良く見てみると、カバの妖精の様にも見えて、結構ラブリーかも。

「随分と楽しそうね、アスカ。」

「そそそ、そんなワケないじゃない!ななな、なに言ってんのよ、リツコ!」

フニャニャンと締まりの無い顔での弁明なので、まるで説得力が無い。

「アタシ、ちーっとも楽しくなんかないわよぉ。」

そのセリフを聞いたリツコの目に、危険な光りが灯る。

「そう。楽しくないの。じゃあ、シンジ君が居なくなっても、全然困らないわよね?」

「え?」

「あお?」

瞳の輝きが怪しさを増し、口には隠し切れない程の邪悪な笑みが広がり始めた。

「しばらくの間、シンジ君を私に預けてくれないかしら。お礼はタップリするわ。」

「ダメ!」

間髪を入れず、アスカが即答した。NERVのMADにシンジを渡す気など、さらさら無い。

が、リツコは諦めない。瞳の危険な色をさらに強くし、カバシンジにニジリ寄って行く。

「いいじゃない。こんなに貴重な研究材料・・・、じゃなかった。珍しい検体・・・、でもないわね。楽しい標本・・・、なんて事は、ちっとも思ってないのよ。」

シンジはアスカの後ろに隠れてブルブル震えながら、彼女の腕に、しがみ付いていた。

そんなシンジをアスカは、しっかりと抱きかかえて安心させてやる。

「リツコ。アンタの本心は、よおおおーーーっっっく分かったわ。シンジをアンタの実験材料にする気なんて、アタシにはコレぽっちも無いから!じゃあね!」

言うやアスカはシンジの真ん丸な手を握って、部屋から出て行ってしまった。






で、2人は自宅である葛城家が入っているマンション、コンフォート17に帰って来た。

学校が開くまでに時間があったので、家に帰って朝食をとる事にしたのだ。

台所では、シンジに代わってアスカが朝食を作っている。

「はあ〜。こうなる前に、シンジに料理の仕方を教わっとけば良かったわね〜。」

後悔、先に立たず。

この家の家事を取り仕切るシンジがカバ化してしまった以上、アスカが慣れない包丁をとって朝食と弁当の準備をする以外に道はない。

保護者、兼、上司のアル中三十路女性、葛城ミサトは、ビール樽に頭を突っ込んだまま眠っていて、行動不能だ。

第一、ミサトに料理を任せたら最後、葛城家で生きているものは1人も居なくなってしまうだろう。

「いただきま〜す」

「あお。」

「んご〜。ずぴ〜。」

ポロリ、ポロリ、ポロリ・・・

「あお・・・。」

先程からシンジは箸を使うのに悪戦苦闘している。太い指を上手く使えず、思うように箸で食べ物をつかめない。

どうして良いか分からず途方に暮れたシンジは、瞳をウルウルさせて、すがり付くような眼差しでアスカを見る。

「ど、どうしたの、シンジ?」

「あお〜。」

「た、食べれないの?」

「あお。」

突如、ビール樽に漬かって眠っていたはずのミサトが再起動した。

「アスカ〜。愛しのシンちゃんが、お困りよ〜ん。助けてあげたら〜?おねーさんが、ちゃーんと見ててあげるわよ〜。げへへへっ!」

覗き見根性丸出しで目をギラつかせるミサト。

いくら本人が否定しようとも、ミサトは日々、キング・オブ・三十路への階段を上っている。

「ウッサイわよ、ミサト!しょ、しょーがないわね!食べさせたげるから、早く口に開けなさいよ!ち、遅刻したら、アタシが困るんだから!」

乱暴に言いながらも、チョッピリ頬が赤くなる。

(うう・・・。あんなにイタイケな光を放つ瞳に見つめられたら、放っておく事なんて出来ないわよ〜。)

あ〜んと大きく開けられたカバ・シンジの口へ、食事を入れてやる。

「どう?美味しい?」

「あおっ。」

にっこりしてアスカに答える。

(うっ!コ、コイツの笑顔って、カバになっちゃっても犯罪的だわ。)

ますます顔が赤くなるのを感じながら、アスカは食事を口に運んでやるのだった。



さてさて、人にもよるが、もう一つの朝の重大イベントが朝食後には待っている。

「ところで、アスカ。シンちゃんのトイレの世話は誰がするの?」

「え?」

「いくら中身がシンちゃんだからって、あの手の短さじゃあ、お尻は拭けないわよ。」

「げげげっっ!!」

確かに、シンジの腕の長さは、体に比べてかなり短く、お尻を拭くのは、まず不可能だろう。

そんなやり取りをしている内に、カバシンジが苦しそうに手でお腹を押さえて転がり始めた。

「ちょ、ちょっと、シンジっ!!まさかトイレに行きたいんじゃないでしょうね!!!?」

カバは草食動物の優しげな瞳をウルウルさせて、アスカに助けを求めている。

「あらぁん?アスカ、シンちゃんの世話をするのが嫌なの?んじゃ、代わりに私がやってあげるわねん♪」

ミサトはシンジの足を掴むと、トイレに向かって引きずり始めた。

「さあさあ♪シンちゃんの世話はぜーんぶまとめて、このミサトおねーさまがしてあげるわよん♪」

嬉々としてカバ化したシンジを引っ張り続けるミサト。げに恐ろしきは三十路目前のショタコンパワーだ。

「あお〜!あお〜!」

シンジは声を振り絞ってアスカに助けを求める。

これを翻訳すれば、「わ〜ん!アスカ、助けてよ〜!ミサトさんみたいなオバサンにお尻を拭かれるのなんて嫌だよ〜!絶対にアスカの方がいいよ〜!」と言った具合になるだろうか。

無論、カバ語をミサトに解読されたが最後、焼き肉ならぬカバ肉にされてしまうだろう。

「だああっ!シンジが嫌がってんじゃないの!放しなさいよ!」

強引にシンジを奪って便座の上に座らせ、扉を閉じた。

バタンッ!

じゃーーーーーーーーー・・・

カラカラカラ

じゃーーーーーーーーー・・・

バタンッ!

再び扉が開くと、そこにはスッキリした表情で安堵の笑みを浮かべるカバ少年と、顔を真っ赤にした少女がいましたとさ。






アスカはシンジの手を引っ張って登校中だ。

2本足で歩くのが辛そうなシンジを見かねて、カバンを持ってやったり手を貸してやったりと大忙しのアスカ。まるで、シンジの“お姉さん”の様だ。

外見が“碇シンジ”ではなく、“カバの着ぐるみ状態”なので、変に意識する事も無い。

身長が頭2つ分低くなった事も手伝って、弟が新しく出来た様な感じだ。

普段なら意識してしまって出来ないような事でも、どんどんやってしまう。

「カバン、重いでしょう?持ったげるわ。」

「あ、あお?」

「なによ。アタシが持つて言ったら、そんなの変?貸しなさいよ。」

「あお♪」

「シンジ、歩きにくくない?」

「あお。」

「歩くスピード速かったら言うのよ。」

「あお。」

そうこうしている内に学校に到着。

(な、なんだ、惣流の連れている、あのカバは?)

(まさかペット?でも、なんか人間みたいだぞ?)

(新手の使徒かなんかか?)

服を着て2足歩行するカバと、少女のツーショットに、周囲は騒然となる。

アスカは、そんな周囲の騒ぎには全く取り合わず、自分の教室である2ーAの扉を開けた。

「おっはよー!」

「あお。」

「おはよう、アスカ。・・・??」

挨拶を返したクラスの委員長、洞木ヒカリが、アスカの後ろに控えている謎のカバを見て、驚いた表情になる。

「アスカ、後ろにいるのは、誰?」

「ああ、コイツはシンジよ。」

「ええ!?碇君なの!?」

「あおっ。」

たちまち騒然となる2ーA。

集まって来たクラスメート達に、アスカは、これまでの経緯を手短に語って聞かせる。

「まあ、そんなワケだから、シンジの面倒見るために、当分の間、シンジの隣に席替えするわ。じゃ、シンジ、いこっか。」

「あお。」

シンジの隣の座っている生徒に、アスカが事情を話して席を替わっている間に、シンジの親友にして遅刻の常習者であるジャージ男、鈴原トウジと、盗撮密売男、相田ケンスケの2バカが教室へと入ってきた。

「うわっ!センセ、そのカッコ、どないしたんや!?」

「これは貴重な光景だね。ぜひとも記録しないと。」

そう言ってシンジの体を触ろうとしたり、写真を撮ろうとしたり。

「コラ!ジャージバカ!気安くシンジに触ろうとするなっ!手ぇ触れたら死刑よっ!相田も、誰に断って写真なんか撮ろうとしてんのよっ!盗撮して売ったりしたら、承知しないわよ!」

「なんや、惣流。いつにも増して、独占欲まる出しやな。」

「写真くらい、別に良いじゃないか。」

「ねわんですって?アタシの言う事が聞けないってーの?」

「さ、さいなら。」

「しゃ、写真撮るの止めます。はい。」

アスカの眉が釣り上がったので、身の危険を感じた2人はサッサと退散した。

そして邪魔物が去った途端、アスカの表情が、ふにゃんと柔らかくなる。

「シンジ〜。アンタが直るまでの間、アタシがノートをとってあげるからね〜。」

「あお♪」

「苦しくなったり気分が悪くなったら、すぐアタシに言うのよ〜。保健室まで、おんぶしてってあげるからね〜。」

「あお♪」

ニコニコするシンジを見て、ますます表情を緩めるアスカ。お姉さんモード全開だ。

「なんや、惣流の奴?気色悪いくらい、シンジに親切やのー。昨日まで、ケンカばっかりしとったのになー。」

「ほんと、うらやましい限りだね。なんで急に変わったんだろう?」

シンジに世話を焼くアスカの姿を、2バカをはじめ、クラスメート達はボケ〜っと眺めていた。






1時間目、数学。

「では、この式の解答を前に出て、黒板に書いてくれ。長いめの解答になるから、上の方に板書してくれ。えー、じゃあ、碇・・・にはキツイな。」

見ればシンジは、横に引っ越したアスカにノートをとって貰っている。

自分でノートを取ろうとしただが、箸を持てない手では字を書く事もままならず、目の前の端末を使おうにも、丸くて太い指ではキーをひとつひとつ押す事も出来ない。

「よし、鈴原に相田。友情の証に、碇の代わりに前へ出てきて板書しろ。」

「なんでワイらが・・・。」

「イヤ〜ンなカンジ。」



2時間目、国語。

「じゃあ、次の段落から読んでもらうね。碇君。」

「あお。」

「・・・無理みたいね。」

カバ語で文章を読んでもらっても仕方ない。

「じゃあ、鈴原君、相田君。碇君との友情の証に、代わりに読んであげてね。」

「またワシらかいな〜。カンベンしてえな〜。」

「イヤ〜ンなカンジ。」



3時間目、音楽。

「鈴原君、相田君。友情の証に、碇君の代わりに前に出てきて歌ってね。」

「さっきから、こんなんばっかりや〜。」

「イヤ〜んなカンジ。」



4時間目、美術。

「鈴原に相田。友情の証に、碇の作品を作ってやれ。勿論、自分たちの作品も、ちゃんと作るんだぞ。」

「ワシら、コレばっかりやんけ〜。」

「イヤ〜ンなカンジ。」






「コラぁ!シンジ!なんでワイらばっかりが当てられらなアカンねん!おかげで睡眠時間が減ってもて、美容と健康に悪いやんけ!この落とし前、どないつけてくれるんじゃ!」

「そうだ!授業中と言う、オレの貴重な商売時間の邪魔をしやがって!おかげで盗撮写真の売れ行きが40パーセントも落ち込んだんだぞ!弁償してくれ!」

「あお・・・。」

午前中の授業が終わるや否や、シンジは凄い剣幕の2バカから詰め寄られる事になってしまった。

「まあ、長い付き合いやし、今回の所は、お好み焼きとタコ焼きとタイ焼きとカキ氷で勘弁したるわ。」

「惣流のプライベートの写真を渡してくれるなら、オレも今回の損失は目をつぶってやってもいいぜ。」

「あ、あお〜!」

いずれにしても、シンジが飲めるような条件ではない。シンジがカバになってしまい喋れないのをいい事に、無理難題を吹っかける2バカ。

んが、彼らの優位も長くは続かなかった。

「ちょっと、アンタ達!なに、シンジをイジメてんのよ!」

タカっていたトウジとケンスケを突き飛ばし、シンジに駆け寄るアスカ。

「あお〜。」

感激の余り、ヒシっとアスカに抱き着くシンジ。

「よしよし。このアタシが来たからには、もう何も心配する事は無いわよ。」

胸にシンジの頭を抱きかかえ、ナデナデと撫で回す。

「さ〜て、シンジに手ぇ出した以上、覚悟は出来てるんでしょうね。」

アスカは指をバキバキ言わしながら、ゆっくりと2バカに近づいていく。

「な、なんや、惣流。ボーリョクはイカンで、ボーリョクは。」

「そ、そーだぞ。ボーリョクはイケナイぞ、ボーリョクは。」

「ぼーりょく?シンジをイジメるヤツには、例えシンジの親友のアンタ達でも、そんな生ぬるい手段で済ますつもりはないわよ。シンジ、悪いんだけど、ちょーっとの間、屋上に行っててくれる?」

「あお?」

「ああ、心配しなくても、ちゃーんと話し合いで解決するから。アタシは一切、手を出さないと誓うわ。ささ、早く行って。」

ニコニコ顔でカバシンジの背中を押し、教室の外へ出す。

「ヒカリ〜。悪いんだけどさあ、昼休みの裏庭の掃除当番、今から行ってやっておいてくれない?」

「え?で、でも、今日は当番の日じゃないはずよ。それに、お弁当も食べてないし・・・。」

「行ってくれるわよねえええ。」

「は、はいっ!」

ずずーんと迫るアスカの剣幕に、ヒカリは脱兎の如く教室から飛び出て行った。

「クックックッ・・・。これで止めに入る人間は誰もいなくなったわねぇ・・・。」

そう。アスカの2大ブレーキであるシンジとヒカリがいなくなった以上、2ーAはアスカ様の天下である。

その事実に、2バカは愚か、2ーA全体が恐怖に包まれた。

「鈴原!相田!お前らのせいだぞ!」

「そーだ!責任とって、お前らだけ死んでくれ!」

「ナンマンダブ、ナンマンダブ・・・。」

とばっちりで被害を受ける事の少なくないクラスメート達は、早々に2人をアスカの方へ突き出す。

それを尻目にアスカはポケットから電話を取り出すと、外部スピーカをオンにして、ボタンをプッシュした。

プルルル・・・ガチャ!

『はい。赤木です。』

「ああ、リツコ?今朝、アンタ、シンジを見て実験材料が欲しいとか何とか言ってたわよね。ここに叩き殺しても死なないくらいイキの良いのが2人ほどいるんだけど、いらない?」

『ホ、ホントに!?も、もちろん要るわっ!』

「急がないと逃げちゃうわよ。あ、それとアタシへの謝礼は、第3東京ランドの予約チッケット2枚ね。」

『わかったわっ!今すぐ人をやって取りに行かせるわ!それから、お礼の方はMAGIを使って何とかしておくから、心配しないで。じゃあ。』

ピッ!

「と、ゆーワケよ。頑張って、リツコの実験の相手をしなさいね♪」

「い、嫌やーっ!金髪ババアの実験材料になるんは、死んでも嫌やー!」

「金髪バーサンの実験に付き合うくらいなら、ミサトさんのカレーを鍋ごと食べる方がマシだ〜!」

ピッ!

「リツコ、今の聞いたかしら?」

『クックックッ・・・。その子達、いい度胸してるみたいね・・・。可哀相だから、かるーい実験で見逃してあげるつもりだったけど、そうと聞いたら笑って済ますわけにはいかないわ。この私が、持てる技術の全てを投じた究極の実験に付き合ってもらう事にしましょう。ゾクゾクするわね〜。』

電話の向こうであっても、リツコの血管がブチブチに切れている事が良く分かる。

「「う、うわーっ!」」

死にもの狂いで逃亡を開始する2バカ。しかし、彼らの逃走は、教室の扉を開けるまでの、僅か数メートルで終わりを告げる。

ガラッ!

「鈴原トウジ、相田ケンスケだな?」

「我々はNERV保安部の者だ。チルドレン保護法に基づき、お前たちを逮捕する。」

「なお、お前たちには、赤木博士から引き渡し要求が出ている。この場合、誠に気の毒だが、取り調べ等の正当な手続きは一切行わない事になっている。・・・我々も命が惜しいのでね。」

扉の向こうで待ち構えていた屈強な保安部の職員が、あっと言う間に2人を連れ去ってしまう。

入れ違いに、何も知らないシンジがポテポテと歩いて教室に入って来た。

「あお?」

「あ、シンジ。もういいから入って来て。お昼にしましょう。」

「・・・?あお?」

「ああ、2バカね。さっき連絡があって、アイツ達は急遽、新しいチルドレンに選抜されて、ヨーロッパに行くそうよ。むこう10年くらいは帰って来ないらしいわ。もう会う事も無いかも知れないから、シンジによろしくって言ってたわね。」

「あお?」

シンジは何か変だぞ首をかしげはしたものの、「ま、いっか。」と余り気にせず、鈴原、相田の両名の事は頭から追い出し、アスカとのハッピーなランチタイムを満喫することにした。

「シンジ〜。次は何が食べたい〜?」

「あおっ。」

「そう、卵焼きが食べたいの〜。はい、あ〜んして〜。」

ぱくっ!

「あお!」

「そう、そんなに美味しいの。明日も作ってあげるからね〜。」

「あおっ。」



さて、この事があってから数日後のことだが、第3東京市立動物園に、新しい動物がやって来て話題になる。

黄色と黒の縦縞がプリントされたハッピを身にまとい、同じ色のメガホンをふるってテレビの野球観戦を楽しむ金糸猿と、人間の女の子を盗撮するナマケモノの2頭だ。

この2頭は、アスカやシンジが動物園に来ると、悲壮な泣き声で助けを求める・・・らしい。






5、6時間目、体育。

本日の体育は水泳だ。それも、めでたく2時間とも自由時間になっている。

シンジは体を動かす事が、余り得意でなく、体育は苦手科目だ。

苦手とする体育の中でも、特に苦手なのが水泳だった。

オマケにセカンドインパクト以降、四季の無くなった日本では、水泳は夏だけのものではなく、年中行事の1つになっていた。

シンジにとっては1年中、苦痛にさいなまれるわけで、全くメーワクな話だ。

「「「「「「おお〜!!」」」」」」

プールサイドに陣取っている男子生徒の間から、どよめきが起こった。

彼らの視線は、第一中学のアイドル、惣流アスカ・ラングレーの水着姿に注がれて・・・いるわけではない。その視線の先にいるのは、碇シンジ君である。

別にアブナイ意志を持った視線ではない。

ま、以前ならば、そう言った視線もシンジ君は少なからず浴びていましたが。

それは兎も角、運動全般が苦手なシンジは、ご多分に漏れず、水泳も大の苦手。ビート板を持っていてさえ溺れてしまうと言う徹底ぶり。

それが・・・。

バシャバシャバシャ

「あお〜。」

水面から顔だけ出して、けっこう快適そうに泳いでいるのだ。速度も割と速い。

カバ化した事で、泳ぐ能力まで身に付けてしまったのだろうか?

「ちょっと、シンジ!アンタ、ホントに泳げるようになったの?」

カナヅチのシンジが泳ぎ回っている。その事実に、生徒全員が驚愕して動きを止める中、シンジの身を案じたアスカが、泳いで側に寄って行く。

「わわ!ホントだ。泳げるようになったのね。」

犬掻きのような泳ぎ方だが、全くリキみが無い。見ようによっては、なんとも優雅だ。

「あお。」

シンジの真ん丸な手が、アスカの手を引っ張った。

「え?一緒に泳ぐの?」

「あおっ。」

「め、珍しいわね。アンタが積極的になるなんて。」

アスカはルンルン気分で、シンジに手を引かれながら泳ぎ始める。

「あ、いいこと思いついた。シンジ!アンタの背中に乗せなさいよ!」

言うやアスカは、シンジの体に飛びついて、その背中にまたがった。

(碇のヤツ、惣流を背中に乗せてるぞ。)

(くそ〜。な、なんてうらやましい格好なんだ!)

(あ、背中に抱き着いてる。)

2人だけのラブラブ空間と化したプール内へ入って行く勇気のある者も現れない。

今や、この場所は、シンジとアスカが2人だけで独占してしまっていた。

「シンジ〜、次は潜水よ!そーれ、行っけーっ!」

掛け声と共にシンジは水の中へ深く潜った。

まことに器用な事に、アスカを背中に乗せたまま、クルクルと回転しながら水中を進んでいく。

「ぷは。ふー、目が回るかと思ったわ。」

「あお?」

「だいじょーぶよ!とっても楽しかったわ。水の中で回転するのって面白いわね。」

なんとなく、シンジの喋る言葉が分かるようになって来たようだ。

「よ〜し。今度は横回転よ〜!」

こうして、背中にアスカを乗せたシンジは、ちょっぴり顔を赤らめながら、授業終了まで、す〜いすいと快適にプールの中を泳ぐ事が出来たのだった。






学校も終わり、マンション、コンフォート17にある自宅に2人は帰っていた。

シンジが食事の支度が出来なくなってしまったので、当分はアスカが料理をする事になった。

「よっしっ!完成っと。シンジー。そろそろ晩ご飯よー。」

アスカは晩ご飯を食べるため、自室にいるシンジに呼びかける。

しーん

「しんじー?」

しーん

アスカが呼びかけて、シンジが返事をしなかった事など、これまでに一度も無かった。

眠ってしまったのだろうかと思い、シンジの部屋の襖を開けた。



「きゃーっ!」



「ん〜?なにかしら?アスカの悲鳴が聞こえたような気が・・・。」

本日、夜勤明けで爆睡中だったミサトが身を起こすと同時に、部屋の襖が乱暴に開けられた。

「ミミミ、ミサトっ!シンジが・・・、シンジがああっっ!!」

血の気が完全に引いて、表情を引きつらせていたアスカだが、次の瞬間、わっと泣き出した。

「どうしたの、アスカ!しっかりしなさい!」

今や完全に目が覚めてしまったミサトは、慌ててアスカの元へ駆け寄る。

「シンジが自殺しちゃったのよ!体中、血まみれになって倒れてんのよぉ!」

「えええっっ!??」

「気にしてないようなフリして、やっぱり悩んでたのよ!なのに・・・、なのにアタシってば、なんにも気づいてあげれなくて、1人でハシャいで・・・。うわあああーん!」

ミサトの胸で泣きじゃくるアスカ。

と、その時。

「あおーーーーーーっっ!!」

ばたばたばた

全身、血ダルマのカバ・シンジが廊下を走って来た。

アスカとミサトを発見すると、カバ語と奇妙なジェスチャーを駆使して対話を試みる。

「あお!おああ!?うあ!おあ!?・・・おあ?おああ??」

これを翻訳すれば、

「ミサトさん!ボク、なんで体中が真っ赤なんですか!?ねえ、アスカ!どうしてだか知らない!?・・・あれ?アスカ、なんで泣いてるの??」

となる。



『・・・と、言う訳で、カバって体が乾いたら死んじゃうらしいの。シンジ君がこの事を知っていた場合、何らかの変化が体に現れるかもしれないから、決して驚かないように。いいわね?アスカ?」

「もう手後れよ!ビックリして心臓が止まるかと思ったわよ!そう言う事は、もっと早くに言いなさいよね!」

あの後、すぐにリツコから電話が掛かってきて、カバ化現象はシンジのイメージが元になっている以上、知っている情報によって、何らかの変化が体に起る可能性がある旨を連絡してきた。

既にビックリ仰天した後のアスカは、すっかりオカンムリ状態と言うワケだ。

「で、どうすればいいのよ。このまま学校へ行ったら、女の子なんか引き付けを起こしちゃうわよ。」

『まあ、シンジ君の場合は、垢みたいなものだから、お風呂でキレイに洗ってあげなさい。』

「お、お風呂??も、もしかして、アタシが洗うの??」

『そうよ。体の隅々まで洗ってあげなさい。何かあったら連絡して。じゃあね。』

事も無げにそう告げると、電話は切れてしまった。

アスカは受話器を持ったまま固まってしまっている。

(アタシがシンジをお風呂に入れる。アタシ、シンジ、オフロ。アタシ、シンジ、オフロ・・・。)
「アスカ〜?リツコ、なんて言ってたの〜?」

「あお?」

ミサトとシンジが、硬直しているアスカを不思議そうに見つめる。

「ななな、何でもないの!あ、洗えばオッケーだって。命に別状はないそうだから、取り敢えず晩ご飯にしましょう!」

食事中、ご飯をカバシンジの口に入れてやりながらも、アスカの頭の中では、先程の電話の内容がグルグルと回り続ける。

(カバの裸を見るくらい、何てコトないじゃない!動物園で裸じゃないカバなんて居ないんだし。・・・でも、外見はカバみたいでも、中身はシンジなのよね。え〜ん。どうしたらいいのよ〜。)

思い悩んでいる内にも、食事はどんどん進んでおり、気が付けば、もうシンジに食べさせるものは、ほとんど残っていない。

(えーい、考えるだけ面倒だわ!トイレの世話までしたんだし、お風呂の世話くらい何でもないわよ!)

決心のついたアスカは、食事が終わるやシンジの方を向いて、

「シンジ!今日、アタシがアンタをオフロに入れてあげるわ!ちょおおーーーっと待ってなさい!」

と告げ、自分の部屋へ飛び込んだ。

しばらく部屋の中でゴソゴソ音がした後に部屋のフスマが開くと、大きなダボダボのTシャツを着たアスカが立っていた。



ご〜し、ご〜し、ご〜し

飛び散るシャボンや水シブキもなんのその。アスカは一心にシンジの体を洗っている。

あんまり一生懸命にやり過ぎて、シンジの体が巨大な泡で包まれているくらいだ。

「次は脇の下を洗うわよ。ちょっと手を上げて。」

言われてシンジは、短い両手をピョコっとバンザイ。

「ま、色々と大変だけど、髪の毛を洗うのは楽でいいかもね。」

体を洗い終わり、続いてチョッぴり広めのデコの上に乗っかる、ナスのヘタの様な髪の毛をワシャワシャと洗う。

「ほーれ、ほーれ。マッサージ、マッサージ。・・・?シンジ?」

いつの間にか、シンジが静かになってしまった事に気が付いたアスカが、シンジの顔を覗き込むと、

「ウッウッウッ・・・。」

カバシンジが小刻みにその体からだを揺らし、つぶらで小さな瞳から、ポロポロと涙をこぼしているではないか。

「ど、どうしちゃったの、シンジ!?何か苦しいの?どこか痛かったの?」

ふるふる

必死に首を振って否定する。

一生懸命、身振り手振りで伝えようとするのだが、上手く伝わらない。

辺りを見回したシンジは、椅子から立ち上がって、背伸びをして手を伸ばし、蒸気で湿った窓ガラスに不器用な字を書いた。


と・て・も・う・れ・し・い


それを見たアスカの表情が、何とも言えない感じになる。

「・・・そう。・・・さ、風邪ひくといけないから、湯につかりなさいよ。」

手を貸してやり、シンジを湯船につからせる。

お湯の中で気持ち良さそうに目を細めるシンジ。

そんなシンジの頭を、アスカは優しく、優しく、なでてやったるのだった。



風呂から上がってテレビを見る。

しばらくすると、眠くなって来たのか、アスカもシンジもアクビをし出した。

「ふああ〜・・・。何か眠くなって来たわね。もう寝よっか、シンジ?」

「あお。」

「じゃあ、歯みがきに行こ。」

「あおっ。」

カバの口はデッカイので、シンジの短い手では奥歯まで歯ブラシが届かない。なので、アスカが洗ってやるしか方法が無い。

「ささ、お〜きく口を開けなさいよ〜。」

「あお〜。」

しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか・・・

「よしっ、おっけいっ!んじゃ、口をススぐわよ。」

「あお。」

がらがらがら・・・

「さーて。これで後は寝るだけね・・・っと。そうだ、もう1回、口を開けてよ。」

「あお。あ〜。」

開いたシンジの口に指を入れ、歯茎を手で押してマッサージしてやる。

以前にシンジと2人で動物園に行った時、カバの飼育員がそうしているのを見たことがあった。その時のカバの表情が余りに気持ち良さそうだったので覚えていたのだ。

目の前のシンジも目を細め、耳をくるくる回して気持ち良さそうにしている。

「気持ちいい?」

アスカの問いかけに、カバシンジは、うんうんと頷いて見せる。

「さーて、それじゃ寝よっか。今日はアンタのベッドで、2人いっしょに寝るからね。」

「おあっ!」

「こーら、逃げるなっ。夜中に何かあったら困るでしょう。大人しくしてなさい。」

そう言われては、シンジも大人しくせざるを得ない。

多少窮屈になるが、2人してベットに潜り込み、アスカはシンジの体に布団をかけてやる。

「苦しくない?」

「あお。」

「電気消すわよ。」

「あお。」

「じゃ、おやすみ〜。」

「あお〜。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・しんじぃ〜?起きてる?」

「あおっ。」

「いっつも、バカバカって言って、ホントにゴメンね。」

「あお。」

「でも、シンジに言ってるバカは、他の所で言ってるバカとは、ぜんぜん意味が違うから。」

「あお。」

「それと、明日からもアタシが面倒見てあげるから、な〜んにも心配しなくていいからね。安心して、ゆっくり休みなさいよ。」

「あお・・・。」

「ほーら、泣かないの。じゃあ、今度こそ、ホントにおやすみ〜。」

「あお。」

可憐な少女とカバ少年は、寄り添いながら夢の国へと旅立っていった。









 





アンタ、バカァ!?(アスカ語・超絶感嘆詞)

EVA弐号機パイロット、惣流アスカ・ラングレー嬢が、相手を罵倒する時に使用する十八番の言葉。相手に対し、ヒジョーに大きなな精神的ダメージを与える事が可能である。主に、同僚パイロットの碇シンジ君に対して使われ、この場合、照れ隠しとして多用されている。






カバシンジ(アスカ語・変身固有名詞)

碇シンジくんが惣流アスカ嬢に「バカシンジ!」と呼ばれ続けたのが原因で、カバに変身してしまった状態を指す。シンジくんがこの状態になると、アスカ嬢は「男の子」、「ライバル」と言った彼への意識が希薄になるので、素直に振る舞う事が出来る。結果、2人の間が急速に親密になる現象が確認されている。






バカシンジ(アスカ語・特別固有名詞)

アスカ嬢がシンジくんを呼ぶ時によく使う呼び名。「アスカ様専用下僕」としての、シンジくんの立場を、ひと言で表した名言。加えて、アスカ嬢のシンジくんに対する特別に深い愛情を感じさせる名文句でもある。



田編書店「LAS辞苑・第3版」より









あとがき

あとがき 目指せ、らぶこめっ!と言うワケで書いた今回のSS、いかがだったでしょうか?楽しんで頂ければ幸いです。
この、『アンタ、カバァ?』は、現在、私が書いているもののボツ原稿を寄せ集め、再構成したものに、新しい場面を追加して出来たものです。ボツが1作分溜まっても本来の作品が完成しない私って一体・・・?あははは・・・・。
最後になりましたが、読んでくださって、本当に有り難うございました。では、失礼します。


マナ:アスカのせいで、シンジがカバになっちゃったじゃないっ!

アスカ:でも、コロコロしてて可愛いのよねぇ。(*^^*)

マナ:うっ・・・。そうかも。

アスカ:丸いおててを触ると、気持ちいいのよねぇ。(*^^*)

マナ:あーん。わたしも触ってみたーいっ!(^O^/

アスカ:ダ・メ・よ。カバシンジは、アタシのものなんだから。(^^v

マナ:ちょっとだけ。ね。(^^)

アスカ:カバシンジの上に乗ってプール。面白いのよねぇ。(*^^*)

マナ:あーん。わたしも乗ってみたーいっ!(^O^/

アスカ:ダ・メ・よ。カバシンジは、アタシのものなんだから。(^^v

マナ:ちょっとだけ。ね。(^^)

アスカ:体洗ってあげると、喜んでくれるよのねぇ。(*^^*)

マナ:あーん。わたしも洗ってあげたーいっ!(^O^/

アスカ:ダ・メ・よ。カバシンジは、アタシのものなんだから。(^^v

マナ:ちょっとだけ。ね。(^^)

アスカ:婚約発表したら、『あおっ』しか言えないから、なすがままだったのよねぇ。(*^^*)

マナ:ちょーっと待ったーーーーーーーーーーーーーっ!(ーー#
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