サードインパクトから、早くも1年が経過した。
街の灯り、笑い声。
何事も無く繰り返されていく日常。
そんな日々が、戻ってきていた。
ただ、セカンドインパクト以来、全く変わってしまった季節。
それは戻らない。
日本は未だに常夏だった。
Snow Snow Snow
Written by sakushi
「ただいま」
ここはコンフォート17マンションの一室。
家主・・・・ではないのだが、実質的に家事を取り仕切っている少年が、帰宅した。
「やっぱり家は涼しいなあ」
そう言いながら、服で汗を拭く。
と、家の中から少女の声が聞こえた。
「何よ、そんなに暑そうな声出して」
「仕方ないだろ、暑いんだから」
少女の非難に対して、少年は少し言い返した。
が、少女・・・・アスカはそんなことでは引き下がらない。
「日本には、『心頭滅却すれば火もまた涼し』ってことわざがあるでしょ」
少年・・・・シンジは納得できないと言う表情で、さらに言い返す。
「これだけ部屋にクーラー付けておいて、全然説得力無いんだけど・・・」
「うるさいわね。男は細かいことをぐちゃぐちゃ言うんじゃないの。大体アタシは日本人じゃないんだから、日本のことわざに縛られる必要は無いのよ」
分かったような分からないような理屈だが、そういうことにしておこう。
シンジもあきらめが混じった表情でため息をつく。
いつものことなので、シンジも慣れてしまったのだろうか。
「そういえばアスカ、なんか最近国語の成績も上がってるみたいだね。今も新しくことわざとか覚えてたみたいだし」
それを聞いて、すこし嬉しそうな顔をするが、すぐに平常心に戻そうとするアスカ。
「あったりまえじゃない。アタシに不可能は無いのよ。古文?漢文?そんなものすでにアタシの敵じゃないわ」
さすがはアスカ様である。国語が苦手な某SS書きとはレベルが違います。
「でもさ、古文とか読んでも今の日本と全然違うのよね」
アスカはちょっと愚痴をこぼす。
「へえ・・・・例えば?」
「そうね、まずみんながすぐ泣くのよ。ちょっと感動しただけで、大の大人がなっさけないの」
「そういえば、そうだよね。みんな涙もろかったのかな?」
「まあ、それはいいわよ。でもそれよりも、もっと困るのは昔の日本には四季があったことよ」
「うん。僕も季節ってよく分からないや」
シンジもセカンドインパクト後に生まれた世代であるので、一度も四季を味わったことが無い。
彼の感想も仕方の無いことだろう。
「問題は『季語』なのよ。本を見たら全部書いてあるけど、全然イメージがわかないんだもん。つまんない」
「仕方ないよ、アスカ。だって今の日本は、年がら年中暑いんだからさ」
「そうよね・・・・って、ちょっと待ちなさいよ」
「ん?僕なんか変なこと言った?」
「あんた、もしかして夏しか知らないの?」
「うん。そうだけど・・・・」
「じゃあ、雪なんて・・・・」
「見たこと無いよ」
当然のように答えるシンジ。
シンジの年代で雪を見た人間は、日本にはほとんどいない。
雪を見るには海外に行かなければならないが、そこまで経済的に余裕のある人間もいないであろうし、わざわざ雪のあるようなところに行こうとする人間も少ないだろう。
少しがっかりした表情のアスカを見て、シンジはふと聞いてみた。
「アスカは雪を見たことあるの?」
「あるわよ」
「そうなんだ・・・・ドイツは・・・雪が降るんだ・・・・」
「降るどころじゃないわよ。ここは常夏だけど、ドイツは一年中冬なんだから」
そこで二人の間に、いったん沈黙が訪れた。
セカンドインパクトによる気候の変化。
それは当然、日本だけにとどまらなかった。
ただ、気候が変化してから大して年数が経っていないので、未だどの地域がどのような気候であるか分からないところも多い。
その中で、日本やドイツなどの主要な都市は、だいぶはっきり分かってきていた。
もっとも、学校で教わるほどにはなっていないので、シンジが知らないのも無理なからぬことだ。
沈黙を破るように、シンジが口を開いた。
「綺麗?」
シンジの意外な言葉に、少し驚いてアスカは聞き返した。
「えっ?・・・・何が?」
「何って・・・雪だよ」
「ああ・・・雪ね。あんまり綺麗って感じたこと無かったわね・・・」
「そうなんだ・・・」
「うん・・・そう。冷たくって、悲しくって」
シンジは、哀しそうに話すアスカを、見つめていた。
「でもね、雪は一つだけいいことがあるの」
アスカの意外な言葉に、少し興味をそそられて、シンジは身を乗り出した。
「なに?」
「えっとね、クリスマスにはサンタクロースがそりに乗って来てくれるの」
先ほどの、言葉に出来ない哀しさを打ち消すようにアスカは言った。
「雪がないと、サンタさんは来てくれないんだって、ずっと思ってたのよ」
そこでアスカは、いったん話をとめて外を見た。
外には青々とした広葉樹が茂っている。
「だけど雪が積もってても、ママがいないと、サンタさんは来なかったの」
「そう・・・なんだ・・・」
ふと思い出したようにアスカは聞いた。
「シンジはサンタクロースって信じてた?」
「ううん。僕は一度もクリスマスプレゼント貰ったことないから」
「あっ・・・ごめん」
「いいよ別に」
親がいない人間が多い世代。クリスマスプレゼントを貰ったことのある人間は、それこそ数えるほどだ。
だが、シンジの場合は親がいて、経済的に苦しいわけでもないのに貰っていない。
しかし、その境遇に対して今更どうこう言うつもりはないらしいシンジを見て、アスカは一つ名案を思いついた。
「じゃあ、今年のクリスマスはお互いにプレゼントしない?」
「どういうこと?アスカはずっと『プレゼント買って』って言ってたじゃないか。それと、どう違うのさ」
ちょっとあきれた様に首を横に振り、アスカは答えた。
「そうじゃないの。お互いが目の前でクリスマスプレゼントあげても面白くないでしょ」
「僕はそれでもいいんだけど・・・・というよりアスカは僕にプレゼントくれるつもりなのかな?」
「いいから聞きなさい。夜中に、相手に気付かれない様にして、相手の枕元にプレゼントを置くの。何を貰ったかは次の日までお楽しみ」
「ふ〜ん。じゃあ、気付かれちゃったらどうするの?」
「そうねえ・・・罰金として、相手にお年玉っていうのはどう?」
「僕はそれでもいいよ」
「じゃ、決まりね。シンジからお年玉ももらえるのね」
「まだ、アスカに気付かれるって決まったわけじゃ・・・・」
「あんたがアタシに気付かれずに枕元に立てるなんて思ったら大間違いよ」
「はあ・・・」
ちょっと気が重くなったシンジ。
だが、実際は爆睡していたため、アスカは全く気付かなかった。
そして、自分がプレゼントを置くときにはうっかり転んで大きな音を出してしまった。
アスカのへっぽこが治る日は遠い・・・・・
後書きなど
sakushiです。あれれ〜?作品を書く気は無かったのになあ・・・・
いつの間にやら完成してますねえ・・・・これは今年の七不思議に入るかもしれない・・・・(笑)
さてさて、これはさすがに今年最後の作品でしょう。
来年は・・・・また気まぐれです。
いつになるやら分かりません。案外すぐかもしれないし、何ヶ月も書かないかもしれません。
どうなることやら。
それでは、メリークリスマス。そして良いお年を。
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