「――先日襲撃されました教会には日本中の教会から集められた献金が集められ
ており、明朝それがヴァチカンに送られる予定でした。犯人はそれを狙ったもの
と思われますが――」

 別に視るでもなしに聞いていたニュースを報じていたテレビが突然消える。シ
ンジが後ろを向くとそこにはリモコンを持ったマナが立っていた。

「……マナか。」

「何テレビつけっぱなしにしてるのよ、電気代かかって仕方ないじゃない。私達
は定職に就いてる訳じゃないんだからこういった無駄遣いは厳禁だ、ってあれほ
ど言ってるでしょ。一緒にすんでる私の身にもなってよ。」

 マナの言葉が示す通り、シンジとマナは一緒に住んでいる。とはいってもマナ
が一方的に「相棒なんだから一緒に住んでた方が好都合でしょ」と言って住み着
いている、といった方が正しいのかもしれないが。

「ああ…悪い。」

 そこまで言った所でマナが持っていた封筒に気付く。

「それは?」

「リツコさんの所に行って来たのよ。お仕事。」

「……依頼主は?」

 シンジがそう聞くとマナはにっこり笑って封筒を振りながら答えた。

「ヴァチカン。」







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          The Assassin Pre Story

                




                            By瀬戸宮 雷太
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「テレビでも言ってたけどね、ヴァチカンに運ぶ予定だった献金が狙われたのよ。
ちょうどそこにいた神父、シスター、一般人、合わせて15人が殺されて、ドル
換算で260万ドル近い金が奪われたわ。あ、そこ左。」

「随分と派手にやったな……で、犯人の目星は?」

 車を運転しながらシンジが問う。 

「これ見て。どうやらただのどこにでもいる強盗って訳じゃあ無さそうね。次の
次の角を右。」

 マナが封筒から数枚の写真を取り出してシンジに渡す。シンジはそれを受け取
って一瞥すると笑みをうかべる。

「なるほど……確かにただのどこにでもいる強盗じゃないな。」

「そう。ただのどこにでもいるテロリストね。」

 そこには赤いペンキで描かれた五芒星と、ロシア語で書かれた文章が写されて
いた。

「『世界同時革命万歳、民衆に真の解放を!!』か……」

 書かれた言葉の意味を口にしたシンジにマナが言う。

「宗教はガンだと頭っから信じてる連中だからね、教会を襲って信者を皆殺しに
して、献金を奪う事なんて連中からしてみればせいぜいガンの摘出手術位にしか
感じないって事よ。」

「で、依頼主からの要求は?」

「これ。」

 マナが封筒から紙を取り出して手渡す。シンジがそれをみるとそこには

Search and Destroi

とだけ書いてあった。
 サーチアンドデストロイ
「見敵必殺…皆殺しにしろ、って事か……。」

「目には目をってトコかしら。それにしてもヴァチカンの聖書っていつの間にか
ハンムラビ法典に変わってたのね、全然知らなかった。」

 シンジがポツリと呟いた言葉にマナがおどけたように言う。

「あくまで上層部だけだ。末端の連中はまだ健気に「右の頬を打たれたら……」
を信じてる。」

 シンジはそう言った所で車を止めた。車から降りて眼前に建っている高級ホテ
ルを見上げる。

「ここか――」

「人様からかっぱらったお金で高級ホテルに泊まる、なんかムカツクわね。」

 そう言ってマナが歩き出すが、数歩歩いた所でシンジの方を振り返る。

「さっきの「右の頬を……」だけど、私もアレ、信じてるのよ。」

「?」

「ちょっとアレンジしてあるけどね。『右の頬を打たれたら、その頭を撃ち抜け』
って。」


















 シンジ達が入っていったホテルの一室――

「では、もう一度確認を。」

 部屋の中には数人の男と一人の女がいた。一人座っている女の前には一人の痩
せぎすの男が座っている。

「ノリンコS86後装突撃銃50丁、AK−47突撃小銃120丁、トカレフT
T33自動拳銃200丁、そしてC4プラスティック爆薬150キロに電気信管
300個。」

 男達をまとめているらしい女は右手でナイフを弄びながらそれを聞いている。

「しめて257万2760ドル45セント。まったく……戦争でも起こす気です
かね?」

「あなたにそれを言う義務は無いでしょう?で、売るの?売らないの?」

「いえいえ、売りましょう。お金さえ頂けば誰にでもお売りしますよ。」

 軽く両手を上げ、小さく首を振ってそう言うと男はゆっくりと立ち上がった。

「OK、これで商談成立だ!!」

 眼鏡の奥から交渉相手をまるで値踏みするかのように見渡す。

「私はアンタ達の素性も細かいコトも一切知らない。品物はこっちに運ばせてい
るから、それを確認して金を振り込んでくれた時点でアンタ達との関係はそれま
でだ。」

 そのままドアに近づいてドアノブを捻るが、ふと思い出したように呟いた。

「そういえばこの前教会が襲撃されて多額の献金が奪われた、って聞いたけど…」

「……細かいコトはナシなんじゃなかったの?」

「――そうだな!金とお客は私の神様だからな、それでは。」

 そう言ってニヤリと笑うと男は部屋を後にした。





 部屋を出た男がエレベーターの前に立つと丁度チャイムが鳴り、中からシンジ
とマナが顔を出す。シンジとすれ違う時に男が小さく「903号室」と呟いた。

「中には拳銃を持った男が6人、女が1人。この女がボスだろう……ナイフ使い
だ。」

「御苦労。」

 そう言い合って男が中に入り、『開』のボタンを押しながらシンジ達の方を向
く。

「それではこの度は我々マルドゥック商会を御利用いただき誠にありがとうござ
いました。我々は武器・弾薬・情報をより高くお買いあげになられるお客様に優
先的にお取り引きさせて頂いております。」

 男が口上を上げながらボタンから指を離し、徐々に扉が閉まっていく。

「では又の御利用をお待ちしております。」

 言い終わると同時に扉が閉まる。しばらく続いた沈黙を破るかのように

「さてと、始めましょうか。」

と言ったマナの手には小さな鞄があった。




「――信用できるのか?」

 煙草をくわえ、紫煙を吐き出しながら男の1人が女に言う。

「なにが?」

「奴の事だよ。」

「金を払ってる間はわりと、ね。それにもしアイツがタレ込んだとしても警察に
は何もできやしないわよ。」

「確かにな。」

「で、輸送ルートは?」

「三日後に港に船を用意してある。穀物の輸送船としてあるからそれに積み込め
ば問題ない。」

 その時入口からノックが聞こえた。その瞬間全員に緊張が走る。男の一人が銃
を抜いてドアに近づき、ドアに背中を付けて叫ぶように声を上げる。

「誰だ!」

「あっす、すみません!あ、あのう……お客様宛に御荷物が届いていらっしゃい
ますが……。」

「荷物?誰からだ。」

「それが送り主の欄には『M』としか書かれておらず……非常に大荷物なのでひ
とまずお客様の確認を、と思いまして……。」

 男がレンズを覗き込むと、そこには茶色の髪をした一人のドアガールが立って
いた。まだ新米なのか多少オドオドしている彼女を見て男は安堵の溜息をつくと、
他の男達に顔を向けた。

「心配するな、ドアガールだ。奴からの荷物が届いたらしい、さすがに早いな。」

 そう言ってドアを開けようとする。

「馬鹿!開けるなァ!!」

 女の制止の声も間に合わず、男はノブを捻る。それと同時に轟音が鳴り響き、
男の額に穴が穿たれた。男がゆっくりと崩れ落ちると同時にドアが蹴り飛ばされ、
一組の男と女が部屋に飛び込んできた。男達は銃を抜こうとするが、突然のこと
に数秒対処が遅れる。

「遅い。」

 シンジがそう呟くと同時に手にしていたグロック17が火を噴いた。銃声とマ
ズルフラッシュの閃光が繰り返される度に次々と男達が倒れていく。

「2…3…4…5。」

 そう数えて奥に踏み込む。ソファーにうつ伏せに倒れていた死体の前に立った
瞬間、突然死体が跳ね上がってシンジにぶつかり、その陰からナイフを手にした
女が飛びかかってきた。銃を使いづらい距離にまで接近され、防戦一方に追い込
まれる。突き出されたナイフを銃身で受け止めるが、運悪く床の血溜まりに足を
滑らせて転倒してしまう。

「死ねェ!」

 女が笑みを浮かべながら振り上げたナイフが銃声と共に弾き飛ばされた。弾の
飛んできた方向を見ると、そこにはコルトパイソン4インチを構えたドアガール
姿のマナが立っている。

「コイツは私が殺る!シンジはもう一人を!!」

「ガキがァ!ナマ言ってんじゃないよ!!」

 そう叫ぶと女はシンジの腹を踏みつけ、袖口からもう一本ナイフを取り出てマ
ナに飛びかかる。シンジは女が自分に背を向けているのを見て射殺しようとする
が、生き残りの男の銃撃に邪魔される。小さく舌打ちをして断念すると、先にこ
の男を殺すことに専念する事にした。






「今時神だの宗教だの!そんなモノ国家と人民を食い潰すガンだ!!いまだに神
なんぞを信じている狂信者の犬共が!」

 幾つかのフェイントを織り交ぜて、急所を狙った突きを放つ。

「今時神の一つも信じられないなんてね!同情するよ!いまだに時代遅れのコミ
ュニズムなんかにすがりついてるカビ臭ェ革命オタクがさァ!!」

 それをしゃがんでかわし、同時に放たれた蹴りを受け流して後ろに回り込む。

「黙れ!!」

 振り向きざまに放った女の肘ががマナの右頬に突き刺さる。。吹き飛ばされた
マナの銃を踏みつけ、女がサディスティックな笑みを浮かべながらナイフを突き
つけるた。

「カビ臭くて悪かったねェ……それじゃあ犬は犬らしく殺してあげるよ!」

 そう言ってナイフを振り下ろそうとした女の右手の甲に銃声と共に銃弾がめり
込む。激痛にナイフを取り落とし、聞こえてきた「……6」という声に思わず女
は右に目を向けた。

 そこに立っていたのは銃口をこちらに向けたシンジだった。その足下には先程
まで彼の相手をしていた男が額を打ち抜かれて転がっている。額の穴に焦げ目が
ある所を見ると、零距離射撃で男の額を打ち抜いた弾丸が貫通して女の手に当た
ったのだろう。

 それが命取りだった。女が取り落としたナイフをマナが拾っていたのだ。マナ
がそれを振り抜くと、女の両の瞳を繋げるようにして赤い線が引かれ、次の瞬間
その線から鮮血が吹き出す。マナがシンジの方を向くと、シンジは無表情に呟い
た。

「……さっきの礼だ。」

「ありがと。」

 マナはシンジに短く礼を言うと、口内の血を吐き出して女が踏みつけていた自
分の銃を拾い上げる。それから両目を潰された激痛と暗闇の恐怖に絶叫しながら
のたうち回る女の髪を後ろから鷲掴みにし、

「そんなにコミュニズムが好きならいくらでも唱わせてあげるわよ。」

と言って後頭部に銃口を押し当てる。

「地獄の亡者相手に……だけどね。」

 その言葉を終えると同時に銃声が室内に響いた。

「……7。」

















「――昨晩〇〇ホテルで発見された男女の射殺死体はその後の調べにより先日の
教会襲撃事件の犯人グループであることが分かりました。警察は強奪した上納金
の分配を不満とした仲間の犯行であるとして捜査を続けています。尚、同じ日に
女子職員の制服が一着盗まれていることから――」

「シンジー、ご飯だよ。」

 マナの声にベッドに寝そべりながらラジオを聴いていたシンジが後ろを向くと、
そこにはこの前のドアガールの衣装を着て料理が盛られた皿を手にしたマナが立
っていた。

「……何やってるんだ?」

「いやあの時脱ぐのも面倒だからって持って来ちゃったんだけど……結構似合う
と思わない?」

 と言って見せつけるかのようにクルリと一回転する。シンジはそれを見て溜息
を一つつくと、

「……知るか。」

とだけ呟いた。










<終>
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瀬戸宮雷太です。このSSはタイトルにもある通りK.Kさんの「The As
sassin」の外伝として書かせていただきました(ちゃんと許可は頂いてい
ます)。K.Kさんと比べるとはるかにヘッポコな内容なのは自覚しているので
勘弁して下さい。内容としてはマナがまだシンジの相棒をやっていた頃の話です。
シンジとマナが一緒に仕事してた時ってこういう風なのかなぁ…なんて思ったり
して。しかしなんかシンジが生活無能者みたいだな。ぐうたらっぽいし。あとマ
ナのキャラもなんかおかしいな…凶悪すぎるぞ、特に後半。よかったら感想下さ
い。それでは。


マナ:なんかわたし怖いけど・・・でもいいわこの作品。

アスカ:アタシがいないじゃないのよっ!(ーー)

マナ:邪魔な娘が1人いないだけで、こんなに素的な話になるなんて、不思議よねぇ。

アスカ:アタシがいないじゃないのよっ!(ーー)

マナ:シンジともいい感じじゃない?

アスカ:時間が経ったらアタシが登場するから、アンタ用済みよっ!

マナ:そうだっ。ここから話を分岐して、わたしとシンジがくっつくって外伝は?

アスカ:勝手に話を変えるんじゃないわよっ!(ーー)

マナ:だってほら、こんなにいい雰囲気なんだもん。

アスカ:そんなこと許すもんですかっ!

マナ:登場もしてないんだから、ちょっと黙っててよ。

アスカ:ムキーーーーーーーー!!!!(ーー#

マナ:あぁー。1度、これが言ってみたかったのよねぇ。(^^v
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