リアルバウトエヴァンゲリオン           第弐話「シンジのチカラ」
 少し時間を戻そう。ケイジ内では、初号機の発進準備が進められている。その間にシン ジは、初号機に取り込まれた母、碇ユイに会いに行った。 『……さん。…あ…さん。母さん!!』  シンジは、初号機の中にいた女性に声をかけた。振り向いた彼女の顔は、髪の色や目の 色以外、先ほど医務室に運ばれたレイと瓜二つだった。間違いない、ユイだ。 『え…?あなた、一体……。まさか…!?』 『はい。あなたの息子、碇シンジです』  シンジの答えに、驚き目を見開くユイ。それはそうだろう。もう二度と会うことのでき ないと思っていた息子に、巡り会えたのだから。 『あなた、本当に…?でも、言われてみればかすかに面影が…。ああ、こんなにおおきく なって…』 『10年ぶりだね、母さん』  抱き合って、再会を喜ぶ2人。感動的なシーンなのだが、いかんせん、精神体(?)な せいか、2人とも裸のため、ちょっとHっぽい。(^_^;) 『でも、シンジはどうやってここへ?』 『そ…それは…』  言うのを躊躇っていたシンジだが、やがて、意を決したように続けた。 『母さん、実は僕、サードインパクトが起こった未来からやって来たんだ』 『え?シンジ、それはどういう…』 『母さん、信じられないのも無理はないけど、これは事実なんだ!!なぜ僕が未来からやっ てきて、そして何をしようとしているのか、すべて話すよ。話すっていうより、送るって 言ってほうが適切かな』  そう言ってシンジは、自分の記憶を、ユイに送った。ユイが受け取ったシンジの記憶、 それはまさしく、地獄と言うべきものだった。すべてを見終わったユイの目には、涙がう かんでいた。 『シンジ…ごめんなさい…ごめんなさい…』 『母さんが謝ることないよ。悪いのはゼーレの連中だし。それに…父さんだって、母さん が戻ってくれば、計画を中止してくれると思うし』  そう言ってユイを慰めるシンジ。 『私を戻す?どうやって?』 『今すぐには無理だけど、地上の使徒を片付けたら、すぐにサルベージしてあげるよ』 『ありがとう、シンジ。ところで……』  喜んでいたユイだが、急に口を閉ざした。この時シンジは、背筋になにやら薄ら寒いも のを感じたという。 『ゲンドウさんが、赤木ナオコさんと浮気してたっていうのは、ほんとなの?』 『ゑ?』 『それだけじゃなく、娘のリツコちゃんにまで手を出してたっていうのは?』 『い…いや…そ…それは…』 『どうなの!?はっきり答えなさい!!』 『………本当です…』  ユイの剣幕に、思わずうなずくシンジ。 『そう…分かったわ。ずうぇぇぇぇったいに戻って、お仕置きしてやるううぅぅ!!』 『母さん、それなら、僕に名案が…』  そう言って、ユイに耳打ちするシンジ。ゲンドウをかばうつもりは毛頭無いらしい。  そんなことより、さっきみたく、送れば簡単じゃないのか? 『何言ってるんです!!これが風情ってものなんです!!』 『そうよ。そんなことも分からないなんて…無様ね…』  ……はぁ、さいですか。 『ね?母さん?名案でしょ?(ニヤリ)』 『ええ、とってもいいアイディアだわ(ニヤリ)』  そう言って、ゲンドウ顔負けのニヤリ笑いをする2人。  傍から見ると、まるで悪魔である。 『シンジ、発進準備が整ったみたいよ』 『分かった。じゃあ、僕、行くね』 『ええ、気をつけてね』 『うん!!』  そしてシンジは、自分の体に戻った。  ネルフ本部、発令所。オペレーター席に座っている眼鏡の男――日向マコトは、さきほ どミサトから要請された、避難民の再調査を行っていた。 「葛城さん。さきほど頼まれた再調査なんですが…」 「で?どうだったの?日向君」 「はい。5番ゲートのちょうど真後ろのビルの下に、逃げ遅れた女の子がいるみたいです」 「なんですって!?青葉君!!」  ミサトは、隣の長髪のオペレーター――青葉シゲルを呼ぶ。 「すぐに保安部の人間を救助に向かわせて!」 「わかりました」  青葉はすぐに保安部に要請をかける。 「しかし…保安部員が現場に到着して、救助を終えるまで、5分はかかりますよ」 「それまでシンジ君がもってくれればいいけど…」  ミサトの顔がわずかに曇る。しかし、そんな心配は全くの杞憂であったことを、彼女は 思い知ることになる。 <シンジ君。とりあえず今は、歩くことだけ考えて>  ミサトから通信が入る。 「ミサトさん。逃げ遅れた人は?」 <今、保安部の人間を向かわせたから、心配しないで> (よかった。これでトウジは、だいじょうだ)  ミサトの答えに、ほっと胸をなでおろすシンジ。そして意識を、目の前の敵に集中させ る。 「それじゃあ、行きますか」  そう呟くとシンジは、初号機を動かし始めた。初号機は、シンジの意思に呼応するよう に、滑るような歩法で、使徒との間合いをいっきに詰める。そして、右ストレートを放っ た。  ボギィッ!!  軽く30メートル近く吹っ飛ばされる使徒。後ろのマンションに激突し、跳ね返ったと ころに追い討ちをかけるかのような蹴りを放つ初号機。マンションにめり込んだ使徒に初 号機は、さらに無数の拳の連打を浴びせ掛け、仕上げとばかりに、サマーソルト・キック を放つ。マンションごと、吹っ飛ばされる使徒。  発令所は静まり返っていた。動くかどうかも怪しかった自分達の所有兵器が、動くばか りか、圧倒的な力を見せ付けていたのだから。しかも、乗っているのは、何の訓練もうけ ていないただの少年(と、思っている)なのだ。こんな操縦はできるはずが無い。誰しも が思っていた。初号機は、『暴走』したのだと――。 「マヤ!?初号機の状況は!!?」 「え…?あ、はい!シンクログラフ、パルス共に正常値、パイロットの制御下にあります」  リツコの言葉に我に返ったマヤは、状況を報告する。その驚愕の事実に、ざわめき立つ 一同。 「彼が…シンジ君が戦ってるってこと?」 「そうなるわね……」  ミサトの問いに、そっけなく答えるリツコ。彼女自身、まだ現実を直視できないでいた。 (彼は……一体……)  リツコの脳裏に、そんな疑問が起こる。諜報部から届いた、シンジの経歴に関するファ イルが不完全なものだったからだ。4歳から、12歳までの記録が無いのだ。わかってい ることといえば、12歳から、14歳までの、ごく最近の経歴だけだ。その間に、格闘術 の手ほどきを受けていたかもしれないが、初号機の動きは、2年やそこらでできるもので はなかった。あきらかに実戦、それも、かなりの修羅場をくぐり抜けた者の動きだ。 「マヤ、ATフィールドは?」  リツコは、疑問を頭から追い出し、マヤに話し掛ける。 「目標、初号機とも、無展開」 「あれじゃあ、無理ないか…」 「初号機はともかく、使徒はね…」  リツコの言葉に、ミサトが続く。 「葛城一尉。保安部より、少女の救出が完了したとの通信が入ってます」  青葉が報告する。  ミサトは、このことをシンジに知らせるべく、通信を入れる。 <シンジ君、聞こえる?>  いったん使徒から間合いを取っていたシンジに、通信が入る。 「はい。何ですか」 <女の子の救出、完了したわよ> 「じゃあ、本気で行っていいんですね?」 <え…?それってどういう…>  プツンッ!  ミサトが言い終える前に、一方的に通信を切るシンジ。正面に目をやると、使徒が起き 上がっていた。そして、さっきのお返しとばかりに、目から怪光線を発射するが、初号機 に難なく避けられてしまう。 「さてと、そろそろ潰すか…」  1人呟くシンジ。  一方的に通信を切られたミサトは、何もしゃべらない。リツコは、シンジの態度に気を 悪くしたと思い、ミサトを見るが、彼女の顔を見て目を見開いた。ミサトの顔が真っ青だっ たためだ。 「ミサト?どうしたの?」 「シンジ君、本気でやるって…」 「そ…それって、まさか…」  ミサトの言葉に、愕然とするリツコ。あれだけの猛攻をしていながら、今までシンジは 本気を出していないということになる。 「彼って一体…」 「それは後で考えましょ。今は、使徒殲滅が最優先よ」 「そ…そうね」  ミサトの言葉にうなずくリツコ。モニターには、まさに最後の決着をつけようとする、 初号機と使徒の姿がうつっている。  使徒と対峙する初号機。あれだけの攻撃を受けたにもかかわらず、使徒に決定的なダメー ジを負った様子は無い。シンジは、通信回線を開く。 「リツコさん、あいつの弱点ってわかります?」 <え?ああ、多分、胸の光球だと思うわ> 「分かりました」  光球を破壊するべく、使徒に突っ込むシンジ。しかし、使徒も予想していたように、八 角形のバリアーのようなもので初号機の行く手を阻む。 「リツコさん、これって何ですか?」 <それは、ATフィールドと呼ばれる、一種のバリアーのようなものよ。エヴァでも理論 上使えるはずだけど…> 「そうですか…」  そういうとシンジは、リズムをとりながら、鋭い息吹の声を上げる。 「初号機、シンクロ率上昇!!」 「顎部拘束具を引きちぎりました!!」 「まさか…暴走!?」  マヤと日向の報告に、発令所は緊迫した空気に包まれる。しかし、マヤは否定する。 「いえ、パイロットの制御下にあります。」  ほっとする一同。モニターの初号機は、なにやら、リズムを取りながら呼吸しているよ うにも見える。  シンジは、右手に意識を集中させる。初号機の右手に、紅い光――ATフィールドが収 束していく。 <初号機、ATフィールドを展開!!右手に収束しています!!> <何てこと…。彼は、ATフィールドを自在に操れるの……>  マヤの報告に愕然とするリツコ。エヴァでも理論上使えることは伝えていたが、まさか いきなり自由自在に使えるとは思っても見なかったからだ。 「<龍勁掌>!!」  初号機は、ATフィールドを纏った掌打を光の壁に叩きつける。  パリィィィンッ!!  ガラスの砕けるような音と共に、使徒のATフィールドは砕かれた。最後の悪あがきか、 使徒は、初号機を近づけまいと、光のパイルを繰り出す。しかし、ことごとく初号機にか わされ、両腕をへし折られてしまう。 「自爆されると厄介だから、そろそろ消えてもらうよ」  初号機は、使徒を上空へ投げ飛ばした。そして、半身になると両手を腰だめにかまえた。  分かりやすい例えでいうと、<カ○ハ○波>のかまえである。 <初号機、さらに協力なATフィールドを展開!!両手に収束していきます!!>  マヤの報告を聞いている者は誰もいなかった。  シンジは、初号機の両手に<力>が集まっていくのを感じた。そして、その<力>をいっ きに解放する。 「<天覇龍凰拳>!!」  初号機が突き出した両手から、巨大なATフィールド弾(以下、ATF弾)が放たれる。  ATF弾は、まっすぐ使徒に向かって飛んでいく。上空で身動きのとれない使徒は、な す術もなく、紅い光の包まれた。ATF弾が通過した後には、何も無かった。使徒は、ど うやら、ATF弾を食らって蒸発したようだ。 「も…目標……消滅」  マヤが報告するが、誰も答えない。いまだ、起こったことが理解できないでいるためだ。 「碇…初号機のあの力はなんだ…」 「…………」  冬月の問いに、ゲンドウは答えない、いや、答えられないと言うべきか。自分のシナリ オ通り、心の弱い人間に育ったと思っていたシンジ。しかし、自分の意志でエヴァに乗る と言い、さらに、使徒に勝てしまった。これでは、『シンジをパニックに陥らせ、初号機 を暴走させてゼーレから予算をふんだくる』という自分のシナリオが狂ってしまう。だか ら、混乱しているのだろう。 (シンジの奴…私のサングラスが邪眼対策だと…?ふっ笑わせるな。これは…『ダンディ な男』の必須アイテムだ…)  ………。失礼、全く関係ないことを考えていたようだ。こんな男が総司令官で、本当に 大丈夫なのだろうか……  沈黙が支配していた発令所に、マヤの悲鳴にも似た叫びが木霊する。 「初号機のシンクロ率、なおも上昇中!!」  その報告に、やっと現実世界に帰ってくる一同。あまりに圧倒的な初号機の戦闘のため 失念していたが、その間も、シンクロ率は上昇していたのだ。  現在にシンクロ率――350%。 「パイロットのシンクロを、全面カット!!」 「だめです!!信号、受け付けません!!!」  にわかに慌しくなる発令所。こんなことは今まで無かった。いや、正確には一度あったが、 誰も知らないだけだ。ただ、リツコ、冬月、ゲンドウの3人を除いて。 (彼を…取り込もうとしているの…?) 「碇……早過ぎるのではないか?」 「…………」  何も答えないゲンドウ。この男に何を聞いても無駄だろう。 「シンジ君!!!」  ミサトの悲鳴が、発令所に響き渡る。  初号機のシンクロ率は、400%を越えていた。                                  to be continued…
  あとがき すんません!!2話で、ユイさんが還ってくるといっておきながら、できませんでした。m(__)m シンジ君の強さを書くことばっかり考えていたので、話が長くなってしまいました。 しかも、戦闘シーン、へっぽこだし……。 次の話では、必ずユイさんを帰還させます。あと、シンジ君の過去が少しでも描ければ、と考えています。 一応この作品は、『逆行物』に分類されると思いますが、作者自身、あまり深く考えて書いていないので(笑) 『強いシンジ君が主人公の、本編再構成』というノリで楽しんでいただけたら、と思います。


マナ:ユイさん、かなり怒ってるわよ?

アスカ:そりゃぁねぇ。あれは、アタシでも怒るわ。

マナ:いったい、母子で何するつもりなのかしら?

アスカ:多少はお仕置きされた方がいいのよ。

マナ:女の敵だもんねっ。いよいよ戦闘だったけど、こっちは余裕みたいね。

アスカ:シンジが強いから、アタシ達も楽できるそうだわ。

マナ:ぐーたらしてたら太るわよ?

アスカ:バカ言ってんじゃないわよ。じゃ、アタシのスカート履いてみなさいよ。

マナ:そーんなの余裕に決まって・・・むっ!? な、なんでっ!?(@@)

アスカ:アンタこそ、太ったわね。(ーー)

マナ:いやーーーっ! サウナに行ってくるっ!

アスカ:行っちゃった。これ、ファーストのスカートだったのよねぇ。ほんとは。(^^v
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