リアルバウトエヴァンゲリオン          第四話「妹」                        〜ゲンドウにお仕置きを、再び〜
 シンジ達はレイの病室の前に来ていた。リツコは、レイにどんな顔をして会っていいの か分からないと言って、外で待つことにした。  中に入ると、レイは読書中のようだ。  レイは暇さえあれば本を読んでいる。実用書から小説まで、ジャンルに関係なく。いわ ゆる、乱読家という奴だ。  そして今読んでいるのは――『○えよ剣』 (なんで○○遼太郎なんだろう…)  そんな疑問をおくびにも出さず、シンジとユイは話し掛ける。 「こんにちは、綾波さん」 「寝てなくて大丈夫?」 「……あなた達、誰?」  顔を上げて返事をするレイ。サングラスをかけたシンジの顔が、誰かと重なる。 「僕はシンジ、碇シンジ。初号機のパイロット…確か、サードチルドレンだっけ」 「碇…?」 「そう。碇ゲンドウは僕の父親だよ」 「私は碇ユイ。ゲンドウの妻です」 「……何か用?」  突き放すような口調で言うレイ。分かっていたこととは言え、少し挫けそうになるシン ジ。 「い…いや、同じパイロット同士仲良くしようと…」 「命令があればそうするわ」 「命令?誰の?」  レイに問いかけるユイ。 「碇司令の。命令は絶対だって、司令は言ってたわ」  レイの言葉に、沸々と怒りゲージがたまっていくのを感じるシンジとユイ。 (父さん…って、何を考えてるんだ僕は!?お仕置きならもう済んだじゃないか) 「それで、あの人から他に何か言われなかった?」  シンジが葛藤している横で、なんとか平静を保ったユイがレイに訊ねる。 「それは命令なの?」 「いいえ、命令じゃないわ。お願いしてるの」 「だから、嫌なら答えなくていいけど…」  ユイの言葉にシンジが続ける。 (この人達が悲しい顔をすると、心が痛い……どうして?) 「嫌……じゃない」 「ありがとう」  レイの話に耳を傾ける2人。ゲンドウがレイにどういう風に接していたか、2人はよく知っ ている。知っていて、あえて聞いたのだ。シンジの知っている過去の世界と、少しでも違っ ていることを祈って。しかし、その期待は裏切られる結果になってしまった。 「私は司令の命令を聞くだけの人形。だから、私が死んでも代わりがいる。私がいなくなっ ても……」  パンッ!!  レイの言葉を遮り、ユイがレイの頬をぶった。  驚いた顔をして、自分の頬に手をあてるレイ。 「死んでもいいとか、そんな悲しいことを言わないで…」 「でも……私には何も無い……」  一転してレイの手を取り、慈愛に満ちた顔になるユイ。 「何も無いならつくればいいじゃない。あなたの命は、あなたのもの。綾波レイという人間は、 あなた1人しかいないのよ」 「で…でも私は……」 「私と使徒の遺伝子で造られたクローンなんでしょ?」  ユイにズバリ核心をつかれ、目を見開くレイ。 「でも…そんなことは関係ないわ。クローンであれ何であれ、私の遺伝子を持っているあなた は私の娘なんだから」  ユイの言葉に、心が満たされていくレイ。 「あなたが私のお母さん?」 「そう。そして、ここにいるシンジも……って、シンジ?」  うずくまって、頭を抱えながら何やらブツブツと呟いているシンジに声をかけるユイ。 「……え?なに?母さん」  顔を上げ、シンジが返事をする。 「全く……。まぁいいわ。あなたもシンジも私にとって大切な家族なの。あなた達2人は兄弟 ということになるわね」 「兄弟?」 「ええ。シンジの方が先に生まれたから、シンジはあなたのお兄さんになるわね」  ユイがそう言うと、レイはシンジに顔を向けた。 「……あなたが私のにいやなの?」 「そうだよ……って、にいや?」 「……それとも、あにチャマなの?」 「…………」  何やら嫌な予感がシンジは、レイが今まで読んでいた本を見てみた。 (……やっぱり…)  シンジの予感は見事的中、彼女の読んでいた本のなかに、シ○ター○○ンセスの小説を何冊か 発見した。 「あのさ……、この本は誰から……?」 「碇司令が『特にお薦めだ』と言って渡してくれたわ、あにぃ」 (あのクソ親父……)  碇シンジ14歳、実の父親に殺意を抱いた瞬間であった。 「………できれば、『お兄ちゃん』って呼んでもらえるかな」 「そう、あなたは○憐ちゃんのファンなのね…」 「いや、そうじゃなくて……」  などというほほえましい(?)兄弟の会話が続く中、ユイが口をはさむ。 「ほらほら、漫才はそれくらいにして」 「あ…そうだったね。あのさ、あやな……へぶっ!!」 ドバキャッ!!!  シンジが言い終える前に、ユイの左ストレートがシンジを捉えた。  さすがのシンジも、これには反応できず吹っ飛ばされる。  ギュルルルルルル………、グシャッ!!  きりもみ――というよりは容姿が判別できないほどの高速回転――をしながら壁に頭から突っ込 んでいくシンジ。  シュルルル………、ゴキャッ!!  壁にめり込んだ後も何度か回転を続けた後、ようやく停止した。何やら怪しげな音がしたが、気 にしないでおこう。 「あらあら、だめよシンジ。病室で超級覇王電影弾なんか使っちゃ」 「お兄ちゃん、すごい」  何やら的外れなことを言ってる2人。シンジは壁にめり込んだまま、ピクリとも動かない。嫌な 予感がした2人は、オロオロしはじめ、終いには『南無阿弥陀仏』などと念仏を唱え始めた。と、 その時――  ボコッ!!!  そんな音と共に、シンジが壁から頭を出す。頭を振ると、何やら赤い液体が飛び散っているが、 見なかったことにしよう。 「く…首が1cmくらい縮んだ気がする……。ひどいよ母さん!!」 「あなたが自分の妹に他人行儀なのがいけないのよ」  シンジの文句をさらりとうけながすユイ。ユイの言う事ももっともなので、シンジもこれ以上は 何も言わない。 「それもそうだね。じゃあ、レイ、ちょっと腕を出して」 「何をするの?」 「大丈夫。心配しないで」  そう言ってシンジは、レイの左腕をとり、自分の<龍気>を送り込む。しばらくするとベットの 反対側の回り込み、今度は右腕から<龍気>を送り込む。次にレイをベットに寝かせ、胸の上あた りに手をかざし、体の隅々にまで<龍気>を行き渡らせた。 「これでよしっと。レイ、腕を動かしてみて」  シンジに言われた通り、レイは腕を動かしてみる。すると、さっきまであんなに痛かったのが嘘 のように動く。 「一体、何をしたの?」 「ああ、レイの体に<神気>を送り込んで、治癒能力を高めたんだ」 「<神気>?」 「そう。僕が学んだ武術、<神威の拳>で利用される、目に見えない霊的なエネルギーさ」  シンジの言葉にレイは少し考え込む。が、やがて意を決したかのように顔を上げた。 「それ……私にもできる?」 「え?レイ、<神威の拳>を学びたいの?う〜〜ん……」 「………ダメ?」  シンジの一言に、ウル目に上目遣い、さらに小首をかしげレイは問う。はっきりいって、これでオ チナイ男はいない。  ……っていうか、どこでこんな高等テクニックを覚えたんだか…… 「まぁ、別にかまわないけど……」 「ありがとう、お兄ちゃん」  淡々と言うレイ。しかしシンジは、その声の中に、嬉しそうな響きが混ざっていたのを聞き逃さな かった。  レイが着替えを終え、病室から出てくるのを待っているシンジ。  しばらくすると、レイとユイが出てきた。3人が病室を後にしようとした時、外で待っていたリツ コに出くわした。 「………レイ……」 「………赤木博士……」  2人の間を沈黙が支配する。成り行きを心配しオロオロしているユイとは対照的に、シンジは落ち 着いたものだ。 「体の具合はどう?」 「……問題ありません」 「そう。シンジ君に直してもらったのね」  そう言いながらリツコはレイに近づいていく。リツコの腕がレイに伸びてきた。思わず身を硬くす るレイ。しかし――  ギュッ……  リツコは優しくレイを抱きしめていた。 「レイ……、今までごめんなさい…」 「……赤木博士…?」  いきなりの謝罪の言葉に途惑うレイ。しかし、リツコは続ける。 「今まであなたにはひどいことをしてきたわ。でも、これからは自由よ。もうダミーの実験も中止す るから……」 「赤木……博士…」 「いまさらこんなこと言う資格は無いのかもしれないけど、昔みたいに、あたしのことを『リツコさ ん』って呼んでくれないかしら?」 「はい……リツコ……さん」  戸惑いながらも、レイは言った。これは、リツコの謝罪を受け入れたを言うことだ。 「ありがとう、レイ…」  レイの言葉に涙を流すリツコ。その光景にユイも思わずもらい泣きしている。シンジにいたっては、 視線をはずしていた。泣き顔を見られたくないのだろう。 (あ…頭がクラクラする…)  ………訂正。先ほどのダメージが今ごろ効いてきたようだ。  さて、そんな3人をモニター越しに見つめる2つの影。ここは病院のモニター室。レイの様子を監 視をしていた、諜報部員――藤井と徳原の2人。何やら話し込んでいる。 「いや〜〜、生身で超級覇王電影弾ができる人間ってホントにいたんっスね」 「…………」 「それにしても、ファーストチルドレンと、サードチルドレンが兄弟だったてのは驚きっスね、徳さ ん」 「…………」  藤井の言葉に、徳原――通称『徳さん』は答えない。 「徳さん?どうしたんスか?徳さん」 「……ぐ」 「ぐ?」 「ぐもォ―――――!!!!」  そんな声を上げて、徳原は大泣きしていた。どうでもいいが、なぜ泣き声が『ぐもォー』なんだ? 「離れ離れになった兄弟が、長い時を経て再会する。泣ける話じゃないか……」 (そうだった。徳さんって……)  そう、この徳原という男、大の感動屋で有名なのだ。この手のテレビ番組があると、必ず1回は泣 く。そして藤井は、そんな先輩に好感をもっていた。  「徳さん……」  徳原の顔を見ながら、藤井は静かに言った、。 「……競馬新聞片手に持って、赤ペン耳に挟んでそんなこと言っても、全然説得力ないですよ」  徳原のもう1つの顔、それは、いつも大穴ばかりを狙う生粋のギャンブラー。最後の直線で見せる 彼の顔は、まさに悪魔のそれだという。  ………閑話休題。  シンジ達4人は、ミサトの待つ食堂へ向かっていた。食堂へ行く途中、遠くの方で戦闘を行ってい るらしい音が聞こえた。銃声や悲鳴、怒号などが聞こえてくる。  (この気配は……!!)  以前感じたことのある気配を察したシンジは、その気配の元へ走って行った。シンジの後を追う3 人。 「…………!!」  たどり着いた時、シンジは思わず息をのんだ。そこには、バラバラに切り刻まれた保安部員の死体 が転がっていた。 「どうしたの!?シンジ」 「来ちゃダメだ!!!」  追いついてきたユイ達に強い口調でシンジは言った。 「一体何が……ひぃっ!!」  シンジの肩越しに惨状を見たユイが、短く悲鳴をあげる。リツコは、レイに見せまいと背中でかばっ ている。そしてシンジは、この惨状を作り出した張本人を睨みつけていた。  その男は、現場の中央に佇んでいた。黒い帽子に黒いズボン、そして、この暑いのに黒いロングコー トを羽織っていた。手には、鈍く光るメスが4本握られていた。 「クス……」  男を薄く笑うと、シンジに向かってきた。 「母さん、さがって!!」  そう言うとシンジは男に向かって行く。  ゴシャァァァッ!!  一瞬の交差の後、2人は背中合わせで立っている。 「クス…、お久しぶりですね?碇シンジ君……」  ピシュッ…  男はそう言って振り返る。左頬には、血がにじんでいる。  「……あなたにだけは会いたくなかったですよ、赤屍蔵人あかばねくろうどさん」  ピッ…  そう言って振り返るシンジの頬にも、血がにじんでいる。 「だいたい、運び屋のあなたが、こんなところで何してるんです?」 「君宛に手紙を届けて欲しいを言う依頼がありまして……」 「一体誰から?」 「南雲慶一郎さんです」 「そうですか……」 「どうぞ」  赤屍から手紙を受け取るシンジ。 「それで、ギャラはいくらだったんですか?」 「仕事のついででいいと言っていたので頂いていませんが、そのかわり、『あなたに会ったら、戦ってい い』とお墨付きを頂きました」 「いやだって言っても、聞いてくれませんよね…」  そうボヤきながら、赤屍との間合いを取るシンジ。レイ達は固唾を飲んで見守っている。  ス…  赤屍が右手を広げると、そこから無数のメスが飛び出し、渦を描くようにシンジを取り囲んでいく。 「<赤い暴風ブラッディ・ハリケーン>」  赤屍が言うと同時に、すべてのメスがシンジに向かって襲い掛かってきた。  ドォォォォン!!  メスの着弾によって煙が上がる。シンジはそれを隠れ蓑にして、赤屍の背後をとる。 「くらえっ!!!」  シンジは人差し指に集中させていた龍気弾を赤屍に向かって発射した。しかし、赤屍は難なくかわす。本 来<神気>は目に見えないのだが、赤屍クラスの人間になると、見えずとも、本能でかわしてしまうのだろ う。  シンジもそんなことは分かっているので、龍気弾はあくまで見せ技として使い、かわしたところに必殺の <蛇咬スネーク・バイト>を放つ。  赤屍もこれは避け切れず、5メートルほど吹っ飛ばされる。しかし、自ら後ろに飛ぶことにより、ダメー ジを最小限に抑えた。  シンジはさらに追い討ちをかけるべく向かって行く。赤屍もこれは読んでいたのか、メスを投げナイフの ように投げてきた。  シンジは3本飛んできたうち2本は弾き飛ばしたが、1本だけ対処し切れず胸元をかすめた。しかし、そ んなことお構いなしにシンジはラッシュをかける。  ズサァァァア…   激しい攻防の後、再び間合いを取る2人。 「クス…。もう少し楽しみたいところですが、そろそろ終わりにしましょうか……」  赤屍がそう言うと、あたりに散乱していたメスが、彼のもとに集まりだした。 「<赤い奔流ブラッディ・ストリーム>」  ゴァァァァァァアア……  無数のメスは激流となり、シンジに襲い掛かる。  ド………  シンジもかわしきれず、メスの餌食になってしまった。 「おやおや、あっけないですねぇ……」  溜息交じりに赤屍が呟いたその時―― 『あっけなくて悪かったですね……』  なんと、先ほどメスで蜂の巣にされ、絶命したはずのシンジが、ゾンビの如く甦って来た。それだけでは ない。赤屍に斬殺された保安部員達までもがバラバラにされたままの姿で蠢いていた。まさにバイオハザー ドの世界そのものである。 「な………」  さすがの赤屍も、これには驚いた。しかしすぐに我に帰ると、ゾンビ達に攻撃を開始する。  だが、彼らは生ける屍。いくら赤屍が切り刻もうとも、すぐ甦って来る。  ゾンビ達が赤屍に襲い掛かろうとしたその時――― 「―――ジャスト、1分だ」  パアァァァァァアアン  ガラスの砕けるような音と共に、景色が変わる。赤屍が声のした方へ目をやると、シンジが何食わぬ顔で 立っている。メスが刺さった後など1つも無い。 「悪夢ユメは見れました?」  シンジがしてやったりという顔をして言った。 「なるほど……。邪眼ですか……」  どうやら赤屍にも合点がいったようだ。そう、シンジは赤屍が技を繰り出す前に、邪眼をかけていたのだ。 「しかし……ツメが甘いですね。邪眼の使い方次第では、私を倒すチャンスだったのに…」 「僕の邪眼は、殺しの道具じゃないですよ。それに……」 「それに?」 「時間稼ぎにはちょうどいいでしょ」  シンジが言うのとほぼ同時に、異変を聞きつけた牛…もとい、ミサトと他の保安部員が駆けつけた。 「なるほど……」  赤屍がしきりにうなずく。ミサト達は、銃を構え警戒している。しかし、誰一人、引き金を引ける者 はいない。ピクリとでも動いたら、バラバラにされる……。それほどの殺気を赤屍は放っていた。 「どうします?このまま帰った方がいいと思いますけど」 「そうですね……。私も十分楽しめましたし……、そろそろお暇しますか。」  シンジの提案に赤屍はうなずき、クルリと背を向ける。しかし、途中で立ち止まって、 「次に会うときには、もう少し私を楽しませてくださいね?ブラックキャット?」  そう言い残し、赤屍は闇の中へ消えて行った。 「はっ!!こうしちゃいらんないわ。日向……「待ってくださいミサトさん!!」  ミサトが連絡をしようとすると、シンジが横から遮った。 「どうして止めるの?」  ミサトには、シンジの行動が理解できなかった。 「彼を追いかけても、無駄に犠牲者が増えるだけです…」 「うちの諜報部は一流の人間ばかりよ。あんな侵入者1人に遅れをとることなんて……」 「相手が『ドクタージャッカル』でも…ですか?」  シンジの一言にミサトは真っ青になる。保安部員達も、動揺を隠せない。 「知ってるの?ミサト」  リツコが問う。しかし、ミサトは青い顔のまま答えない。  ミサトの代わりにシンジが答えた。 「赤屍蔵人……通称『ドクタージャッカル』。依頼を受ければどんなものでも運ぶ『運び屋』業界でも最低 最悪の嫌われ者です」 「どういうこと?」 「彼の趣味に問題があるんです」  そう言ってシンジは、転がっている死体に目をやる。 「趣味?」  リツコがおうむ返しに問う。 「ええ。殺しが趣味なんだそうです」 「そんな……、まさか……」  口では否定しつつも、リツコは先ほどの赤屍の顔を思い出していた。 「所詮は裏家業、仕事の最中、敵と殺し合うようなこともあるでしょう。それがいいか悪いかは別にして…」  そこまで言ってシンジは口をつぐむ。彼には分かっていた。ここに転がっている保安部員達は全員赤屍より 明らかに格下であることが。言ってみれば、『殺す必要の無いレベル』の相手なのだ。それを赤屍は殺した。  シンジは湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。 「ジャッカルは……運ぶために殺すんじゃないんです…。殺すために運んでるんです……」  静かな口調でシンジは言う。だか、その口調がかえって彼の怒りを引き立てていた。 「で…でも、あのドクタージャッカル相手に、互角に渡り合うなんてシンジ君もやるわねぇ」  なんとか我に帰ったミサトが、青い顔のままフォローする。 「運が良かっただけですよ。実際、ミサトさん達がくるのが後1分遅かったらヤバかったですけど…」  ツゥ………  シンジの右腕から血が流れている。それだけではない。よく見ると、体中いたるところに小さな切り傷があっ た。それを見たレイが心配そうに駆け寄る。 「お兄ちゃん、大丈夫?」 「ああ、大丈夫だよ。レイ」  そう言ってシンジは、レイの頭をなでる。 「レイとシンジ君って兄弟だったの?」  意外な事実を知ったミサトはリツコに問う。 「ええ、そうよ」 「なんで教えてくれなかったのよ……」 「ごめんなさい。忘れてたの」 「…………」  あまりにも身も蓋も無い理由(この理由自体嘘なのだが…)に、ミサトは開いた口がふさがらなかった。 「シンジ、本当に大丈夫なの?」  ユイも心配そうに声をかける。 「大丈夫だって。ほとんど気功術で止血したし、小さい傷は……」  言うなりシンジは、ポケットから瞬間接着剤を取り出すと、それを使ってあれよあれよという間に傷をふさい でいった。 「……プラモじゃないんだから……」  そんなユイのツッコミをシンジは気にする様子も無い。 「さてと。ミサト、ここはあたし達が処理しておくから、シンジ君達を送ってくれるかしら?」 「わかったわ。後よろしく」  ミサトに促され、シンジ達は駐車場へ向かった。  4人を見送るリツコ。しかし、彼女の脳裏に、あることが引っかかっていた。 (あの男……)  そう、赤屍がシンジに最後にいったセリフが気になっていたのだ。 (確かにシンジ君のことを『ブラックキャット』って呼んでたわ……。どういう意味かしら……)  ここは第3新東京市郊外の公園。ミサトが夕食の買出しの後、『ちょっち寄り道する』と言ってやってきたのだ。  シンジとミサトが、車から降りる。ちなみに、ユイとレイの2人は、後部座席で仲良く白目をむいて気絶してい る。ミサトの運転は、少々刺激が強かったようだ。 「何も無い街ですね……」  シンジが呟く。 「そろそろ時間ね」  腕時計に目をやり、ミサトが呟く。  ウウウウゥゥゥウゥウウ……  警報と共に、地面からビルが生えてきた。その光景をシンジは黙ってみている。すべてのビルが生え終わった頃、 ミサトが口を開いた。 「使徒迎撃用要塞都市――第3新東京市。あたし達の街よ――」  ミサトはシンジの方を向いて続ける。 「そして――あなたが守った街よ」  ミサトの言葉に、シンジは首を横に振る。 「僕1人が守ったわけじゃありません。ネルフのみんなが守った、いえ、これからも守っていく街ですよ」 「そうね……」  2人は車に戻っていった。   シンジ達はコンフォート17マンションに到着した。隣人の歓迎パーティーを開くと言うので、荷物を 置いたらミサトの部屋に行くことになった。シンジ達3人は、自分達の部屋の前にやってきた。ユイ、シ ンジの順で入って行き、その後にレイが続こうとしたら、シンジが止めた。 「レイ、かえったら、『ただいま』っていうんだよ」  レイは戸惑いながらも玄関に入り、小さな声で「ただいま」といった。 「おかえりなさい」  シンジが満面の笑みを浮かべてレイを迎える。かつて、自分がミサトにされた時のように…  シンジ達は、ミサトの部屋にやってきた。上がるとそこは、『ユメの無い夢の島』状態だった。 「ちょ〜っち散らかってるけど、気にしないでね」 「これのどこがちょっちなんですか!?」  シンジがすかさずツッコむ。 「汚いにもほどがあるわよ!!」  ユイが追い討ちをかける。 「……腐海の森」  レイがトドメをさした。ミサトが隅でいじけているが、放っておこう。  ささやかな歓迎パーティーが行われた。最初、ミサトが『あたしが作る』と言ったのだが、イソイソと冷 凍食品の袋を開け始めたので、それを見たシンジが、『……僕が作ります』といって、ミサトを台所から追 い出した。  シンジの料理はすこぶる好評だった。ミサトなんか、『うまいぞー』と言って、口から透過光を吐いてい た。まるで○皇様だ。レイも、ポツリと『……美味しい』と言った。ちなみに、今回の料理には肉は一切使 われていない。レイに対する配慮からだ。だが、シンジはそのうちレイの肉嫌いを何とかしようと思ってい る。  食事も終わり、まったりとした時間が流れる。シンジは台所で後片付けをしている。これくらい、ミサト にやらせればいいのだが、彼曰く―― 「放っといたら、いつまでたってもしないでしょ?」 ということらしい。  後片付けからシンジが戻ると、ミサトが不意に口を開いた。 「そういえばシンジ君」 「なんですか?ミサトさん」 「サングラス外してるけど、大丈夫なの?」  そう、今シンジはサングラスを外しているのだ。 「ええ、ジャッカルに使ったので、ちょうど弾切れです」 「ふ〜ん。じゃあ、2回めは誰に使ったの?」 「リツコさんです。なんか、自分の目で確かめないと信じられないとか言ってたんで…」  テキトーなことを言うシンジ。それでもミサトは、リツコならありえると納得した。 「それで、どんな幻を見せたの?」 「……本人に聞いてみてください」  お茶を濁すシンジ。厄介事があると、すぐ他人任せにするあたりはゲンドウにそっくりだ。 「それじゃあ、僕達そろそろ帰りますね」  そう言ってシンジは席を立つ。ユイとレイは先に帰ったようだ。 「おやすみなさい、ミサトさん」  そういってシンジが葛城邸を後にしようとする。しかし、ミサトに呼び止められた。 「シンジ君」 「なんですか?」 「ウチの鍵、シンジ君達のIDでも開くようになってるから」  シンジはこのセリフを次のように解釈した。 「………食事を作れってことですか?」 「や……、やぁねぇ。そういう意味じゃないわよ」  ミサトの言葉にシンジはホッとする。何やらドモッていたのは気にならなかったらしい。次の言葉を聞くまでは… 「時々起こしに来てくれればいいから♪」 (……同じことじゃないか)  シンジはこの言葉を飲み込むと、たった一言、 「………分かりました」 と、疲れた口調で言った。  部屋では、レイとユイが話をしていた。 「どうだったレイ?大人数での食事は?」 「……よく分からない。でも…」 「でも?」 「心が……温かい」 「それは、『楽しい』と言うことなのよ」 「楽しい……?」 「そうよ。ゲンドウさんは、教えてくれなかったの?」 「…………」コク  レイが黙ってうなずく。この時、ユイの脳裏に『離婚』の2文字がよぎった。 (何……?この感じ…?背筋が寒い……。そう、これが『怖い』ってことなのね……)  レイはこの日、『恐怖』という感情も手に入れた(^^; 「レイ、もうあの人の言うことは聞かなくていいわ」 「どうして?」  レイの疑問ももっともだ。昨日まで信じていた人間をいきなり信じるなと言うほうが無理な話であ る。 ユイは、レイの肩を抱きながら続ける。 「あなたは、あの人との絆を守るために頑張ってきたでしょ?だけど、あの人はあなたに何をしてく れたのかしら?」  ユイの言葉にレイは考え込む。ゲンドウは自分を見てくれていると思っていた。だが、実際は違っ た。自分を通してユイを見ていたのだ。そんなことは初めから分かっていた。だけど、自分を見て欲 しくて、どんなことにも耐えられた。ゲンドウはそんな自分のために、何かしてくれただろうか? 「ほ、ほらレイ、疲れたでしょ?お風呂に入ってきなさい」  どんどん暗くなっていくレイの顔を見て、ユイはとりあえずレイを風呂場へ向かわせた。レイがちょ うど入浴し始めた頃、シンジが戻って来た。 「ただいまぁ……って、どうしたの?母さん」  明らかに疲れた表情を浮かべているユイに、シンジは心配そうに声をかけた。 「大丈夫。ちょっと自分の旦那の甲斐性の無さに呆れてただけだから……」 「そ…、そう」  ものすごい陰気なオーラを発しながら振り返るユイにシンジは少しひいた。 「そういえば、南雲先生からの手紙って、なんなんだろう」  そう言ってシンジは、ポケットにしまったままになっていた手紙を取り出した。手紙には、流麗な筆 記体で、一編の詩が書かれていた。和訳したタイトルは――『道』 (先生……、なんでわざわざ英訳してるんですか…)  かつて、あるプロレスラーが感銘を受け、シンジ自身も、この詩をいたく気に入っていた。しかし、わ ざわざ英訳してある意図がさっぱり分からなかったが。 「あ……、お兄ちゃん、お帰りなさい……」 「ああ、ただいま……って、レイィィィィィ!!」  シンジが驚いたのも無理は無い。レイは裸のまま出てきたのだ。ユイはユイで固まっている。 (そういえば、このころのレイって、一般常識とか皆無だったからなぁ…って、そうじゃなくて) 「レ、レ、レ、レイ。ふ、服を着なさい!!」  「どうして?」 「どうしてって、人前で裸になってはいけないの」  ユイは慌ててレイに上着を着させる。 「もう遅いから寝なさい」 「…はい」  ユイの言う事を素直に聞いて、レイは寝室へと消えて行った。 「……シンジ」  レイが寝室に行ったのを見届けて、ユイはシンジの方を向いた。心なしか目が据わっている気もするが 気にしないでおこう。 「な…何?母さん」  先ほど以上のオーラに少しビビリながらも、シンジは何とか口を開いた。 「…おしおき追加」   「ゑ?」  シンジは思わず聞き返していた。言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。  ユイが同じ言葉を繰り返した 「い…、今すぐに?」  ユイは首を縦に振った。 「で…でも、もう<アイアンメイデンの刑>の執行で十分じゃ…」  無駄とは思いつつ異を唱えてみる。もっとも、これはゲンドウをかばう為ではなく、単に面倒くさいから なのだが。                    ・・・ 「シンジ……。あなたは父さんと母さん、どっちの味方なの?」  ガンを飛ばしながら詰め寄ってくるユイに、シンジが逆らえるはずは無かった。 「………はい」  弱々しく返事をすると、シンジは夜の街へ消えて行った。  翌朝、<アイアンメイデンの刑>から解放され、入院していたはずのゲンドウが、なぜか半殺しのうえ、 病院の屋上からピアノ線で逆さ吊りにされた状態で発見された。  救助されたゲンドウは、うわ言で『痛いよ、やめてよ、ドラ○もん……』などと、意味不明の言葉を呟い ていたと言う。  ちなみに、シンジの部屋から、有名なマンガに登場する青い猫のキャラクターを模したお面が発見された――と いうのはただの余談である。                                    to be continued… 
 あとがき    皆さん、お久しぶりです。覚えてますか?  第四話、やっと完成しました。1ヵ月以上おまたせしたのは、『データがとんだ』とか、『ウイルスに感染した』 とか、『嫌がらせのメールが届いた』からというわけではなく、単なるネタ切れだったからです(爆)  そもそも、この作品を書き始めた動機自体、『シンジが墓穴を掘る様を書きたい』というのだったため、参話で そのシーンを書いてしまって、そこから先を書く気力がなかなか沸いてきませんでした。  今回は、レイとリツコの補完に挑戦したわけですが、かなりいい加減です。  それにしても、一体誰なんでしょうねぇ、ゲンドウに<吊られた男ハングドマンの刑>(いま命名) を執行した謎の青猫男は……(バレバレだって)  次回、シンジ君はようやく学校へ行きます(多分)。さてどうなることやら……


マナ:邪眼って結構怖いわね。

アスカ:あれじゃ冷静に考えることができなくなるわね。

マナ:使いようによっては洗脳まで、できちゃいそう。

アスカ:アタシも邪眼っての覚えたいな。

マナ:何に使うのよ。

アスカ:ウフフフフフ。(*^^*)

マナ:なーんか良からぬこと考えてるみたいだけど、たぶんシンジには効果ないんじゃない?

アスカ:それもそうね。(ーー)

マナ:それより、葛城さんを邪眼で清潔で几帳面な人にできないのかしら?

アスカ:ミサトの為に、そんなめんどいことしたくないわよ。(ーー)
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