リアルバウトエヴァンゲリオン 第伍話「転校」(前編)
 シンジが第三新東京市に来て、3週間が経った。  その間シンジは、戦闘訓練やエヴァの実験をつつがなくこなしていた。  シンジにとって見れば、今までやってきたことなのでさほど苦にはならなかっ た。  もっとも、そんなこと知るよしもないネルフ職員(リツコ、冬月、ゲンドウ、 ユイは除く)にとっては、シンジのはじきだすデータは驚愕以外の何者でもな かった。  今日は戦闘訓練の日。保安諜報部の人達を交えての模擬戦が行われる。学 校が早く終わったのか、レイも見学に来ていた。  戦闘訓練が始まった。しかし―― 「あのォ〜〜……」  30分も経たないうちに、次々と倒されていく保安諜報部の面々。ただ1人 無傷で立っているシンジが非常に申し訳なさそうに口を開いた。 「………大丈夫ですか?」  返事が無い、ただの屍のようだ。いや、よく聞くとかすかにうめき声がする。 どうやら生きてはいるようだ。しかし、何人かは利き腕と足首、顎を砕かれて しまっている。たとえ回復しても、この仕事はやっていけないだろう。日常生 活にも、支障をきたすかもしれない。 「…………」  シンジと諜報部員達との格闘――というよりはシンジが一方的にボコにした―― を見ていたミサト達は声も出ない。だがその一方で、ミサトはシンジの強さに納 得がいくようだ。  少し困ったような顔をしながら、ミサトはシンジに近づいた。 「シンジ君…、もう少し手加減してくれないと、訓練にならないでしょ?」 「かなり手加減したつもりなんですけど……」 「……あれで?」  そう言ってミサトは、シンジに半殺しにされた保安諜報部員に目をやる。                    「まぁ、一応生きてる……っていうか、死んでないって言った方が正しい かしら。とにかく、あれじゃあ、人間としてはスクラップよ?」  おそらく、顎を砕かれた連中のことを言ってるのだろう。 「すみません。あの人達の顔を見てたら、なんだか無性に半殺しにしたくなっちゃっ て…」 「…………」  あまりといえばあまりの言い分に、ミサトは何も言えなかった。  シンジによって再起不能にされた諜報部員達は、全員病院へと運ばれた。また、 匿名のタレコミによって彼らが全員ネルフに敵対する組織のスパイであることが 判明し、赤木リツコ博士の研究室――通称『マッドのお部屋』へと連行され、そ の後の消息は誰も知らない――というのは、ただの余談である。 「まぁ、ウチの諜報部相手に手加減してあれだけの戦闘を繰り広げるなんて、さ すがは裏新宿無敗の男にして、無限城で不吉の象徴として恐れられた、ブラック キャットだけのことはあるわね」  ミサトの一言に、シンジは片方の眉をわずかに上げた。 「……知ってたんですか」 「思い出したのよ。裏新宿に、『ブラックキャット』と呼ばれ恐れられている1 人の少年がいるって話を…。最初は単なる都市伝説程度にしか聞いてなかったん だけど、まさかシンジ君だったなんて3週間前のジャッカルとのやりとりまで思 いもよらなかったけど」 「あの頃の話は、あんまりしたくないんですよ……」  そう言ったシンジの顔がわずかに曇る。 「あたしだって、話したくないことを無理に聞く気は無いわ。ただ、裏新宿で 無敵といわれた男と戦ってみたいのよ」  そういってミサトは構える。 「……本気ですか?」 「本気もホンキ。本気と書いて『マジ』と読みなさい」  言っても無駄と悟ったのか、シンジも構える。                「……分かりました。ちょうどレイにも、<神威の拳>の技を教えようと思っ ていたとことですから……」 「し…シンジ君、<神威の拳>はちょっち……」 「大丈夫ですよ。『遠当て』系の技は使いませんから」  『遠当て』――いわゆる気功波を使わないと宣言したシンジは、深く長い 独特のリズムで呼吸を繰り返す。シンジの体内で<神気>の火種が生まれ、 たちまち全身に広がっていく。そしてシンジは黄金色の<龍気>に包まれた。 もっとも、その光景が見えるのは、霊的視覚を備えたレイだけだが…。他の 者はシンジの体から、ものすごい威圧感を感じていた。 「シンジ君が<龍気>を解放しているのね?」 「…はい、赤木博士」  いつの間にやら隣に来ていたリツコの質問に、レイは答える。プライベー トな時は『リツコさん』と呼んでいるのだが、こう言う場では、未だ『赤木 博士』と呼んでいる。 「どういう状態なのか、ちょっと描いてもらえるかしら?」  リツコはレイにスケッチブックを渡す。レイは、それを受け取り、かなり 簡単に、だが顔だけは250%ほど美化され、オーラのようなモノに包まれ たシンジの絵を描いた。  これを見て、 「おお、スー○ーサ○ヤ人だ!」  とか、 「いや、髪は逆立ってないから、これは聖○気だ!!」  とか、中には、 「ちがいますよ。これはコ○モを燃焼させてるんですよね?先輩」  とか言ってる女性職員までいた。他にも、『バ○ル○ーラだ!』だの、 『ハイ○ー○ードだっつーの!』だの、『界○拳だって言ってんじゃん!』 だのと、かってに盛り上がっている。この光景を見てレイは思った。 (この人達の言ってる意味が分からない……。そう、これが○タクと言う 人種なのね…)  ……君も予備軍みたいなもんでしょうが…。 「違うわ。私はヲ○クじゃない。スペシャリストよ」  明後日の方向に向かって、何故かカメラ目線で、返事をした。 「誰と話してるの?レイ?」 「…何でもありません」 「そう?なら、いいけど…」  リツコとレイの漫才はさておき、シンジと対峙するミサトは、シンジの放 つ<龍気>のプレッシャーに耐えながら、攻撃の機会を窺っていた。 (さあて、どう攻めようかしら……)  しびれを切らしたのか、ミサトがシンジに向かって行く。シンジの足を刈 るかのようなスライディング、シンジはそれを、ふわりを跳躍してかわす。  ミサトは反撃に備え、横っ飛びに転がり、素早く身を起こした。 「……あら!?」  シンジの姿が、視界から消えていた。  トントンッ  誰かがミサトの背中を叩いた。ミサトは振り向きざまに裏拳を放つが、手 応えも、そこに居たであろう人影の無い。 「神気をぶつけるだけが、<神威の拳>じゃないですよ」  すぐ後ろで声がした。今度は振り向かずに肘打ちを放つが、やはり手応え は無い。直後、周囲に風が渦巻いたかと思うと、ミサトの正面にシンジが唐 突に姿を現した。 「僕の動きが見えましたか?これは<旋駆け>と言う特殊な歩法です。これ をやるには、十分な量の神気の蓄積が必要なんです」 「手品みたいに出たり消えたりしてないで、ちょっとくらい攻撃してないと、 意味ないでしょ!?」 「それじゃあ、遠慮なく……」  シンジは、右手に<龍気>を収束させる。シンジの右手が黄金色に輝きだす。 この光景を見たら、間違いなくこう言うだろう――『シ○イ○○グ・フ○ン○ー』と。 「僕のこの手が光って唸る!あなたを倒せと輝き叫ぶ!」 「シンジ君、何言ってるの?」 「気にしないでください」  ミサトのツッコミはとりあえず無視し、シンジは<旋駆け>で彼女の左側に 回り込む。そして、右手をミサトのわき腹に密着させた状態から、適度に威力 を抑えた発勁を叩き込む。 「シャァァァァァイニング……もとい、<龍勁掌>(弱)!!」  ズンッ!!  ハンマーか何かで殴られたかのような衝撃がミサトに襲い掛かる。そして、 ミサトは、その場に崩れ落ちた。 「ミサトさん、大丈夫ですか?」 「…………」  ミサトは完全に気を失っていた。 「すいません、ミサトさんを医務室まで運んでもらえますか?」  シンジはとりあえず近くにいた職員にそう言うと、レイのもとへ歩み寄った。 「それじゃあレイ、始めようか?」 「わかったわ、お兄ちゃん」  そう答えるレイだったが、表情が心なしか暗い。もっとも、それを見極める ことができるのは、シンジとユイ、リツコぐらいのものだろうが。 「どうしたの?レイ」  リツコが心配そうに声をかける。シンジも心配そうだ。 「……何でもありません」  レイはそう言うと、シンジに伴われてフロアの中央に向かう。 「いいかい、僕のやる通りにやるんだよ」  シンジが神気練法の呼吸を開始する。レイもシンジに倣う。やがて、2人の体 から<神気>が放出され始める。シンジの<龍気>が黄金色なのに対し、レイの< 神気>は青白い色をしている。シンジの龍気を太陽の輝きに例えるなら、レイの神 気は水の煌きと言ったところか。 「それじゃあ、行くよ」  シンジの<旋駆け>の歩法をレイが真似る。2人とも、普段の3倍近い機動力を 発揮しながら、フロア中を駆け回っている。本来、<旋駆け>を行うには、十分な 神気の量と圧縮が必要なのだが、シンジはレイに、神気の飛ばし方などを教えると 同時に、普段から神気練法の呼吸をやるよう言っておいたのが功を奏したのだろう。  再び2人はフロア中央に立っている。 「よし、これで<神威の拳>の基本はみんな教えたよ。どうしたの?」  うつむいているレイを見て、シンジは声をかける。 「……どうして?」 「……え?」 「どうして、私とお兄ちゃんの神気の色がちがうの?」  そう、さっきからレイの表情が暗かったのはこのためだったのだ。 「どういうこと?シンジ君」  いつの間にやら復活し、医務室から戻って来たミサトがシンジに問いかける。リツ コは無言でシンジの方を見ている。 「う〜〜〜ん……」  顎に手を当て、シンジは考える。フロアの左右を行ったり来たり、時おり空中浮遊 なんかをしたりしながら考えている。やがて、結論がでたかのようにポンと手を叩い て言った。 「そうか、『属性』の違いだ!!」 「「「属性?」」」  全員が異口同音に聞き返す。 「ええ。<神威の拳>には属性というものがあって……って、言ってませんでしたっ け?」  全員首を横に振る。 「僕も詳しいことは知りませんが、仙術気功闘法<神威の拳>は、中華思想の八卦に なぞらえて、『天・月・雷・山・風・火・水・地』の8種類に大別されるんです。単 純に当てはめると、レイはおそらく『水』の属性だと思いますよ」 「それじゃあ、シンジ君の属性は?」 「さあ?」 「さあって、そんなことも知らずに闘ってたの?」  さすがのミサトも呆れ顔になった。 「だから詳しいことは知らないって言ったでしょ。属性といったって、おおよその 性質をあらわしたものにすぎないんですから」  全員、とりあえず頷いてみる。シンジがさらに続けた。 「<神威の拳>の優劣に属性は関係ありません。神気の量、そして何より、密度が それを決定するんです」 「どういうこと?」  ミサトが問いかける。 「分かりやすく例えると、バケツ1杯分の水をかけられるのと、同じバケツ1杯分 の氷の塊をぶつけられるのとでは、どっちがより痛いかということです」  あまりにも分かりやすい例えだったので、皆一様に『なるほど』だのとうなずい ている。  シンジの『<神威の拳>講座』の終了と同時に、今日の訓練は終了した。 「シンジ君、いくら攻撃していいって言っても、本気出さなくてもいいでしょ!? まだわき腹痛いじゃない!?」  碇家の夕食時、ミサトが開口一番に言った。今日の訓練のことを言ってるらしい。 「いやだなぁ、本気だったら、あの時点でミサトさんの内臓は口からはみ出してま すよ」  にっこりと答えるシンジとは対照的に、青い顔になるレイ、ユイ、ミサト。はっ きり言って、食事時にする会話ではない。 「そ……そう。ところで、話は変わるけど、シンジ君、あなたあの時宙に浮いて なかった?」 「ええ、浮いてましたよ」 「何であんなことができるの?」 「近所にインドのヨガマスターが住んでいたんで、その人にコツを教えてもらっ たんです」 「シンジ君……あなたの地元って一体……」 「気にしちゃダメです」 「そ……そうね…」  ゲンナリしたようにミサトは言った。だが、彼女は本来の用事を思い出したか のように言った。 「って、こんな世間話をしに来たんじゃないわ。シンジ君、あなたには明日から、 レイの通う学校に転校してもらいます」  シンジは返事をする前に、疑問に思っていたことを口にした。 「それは構わないんですけど……何でわざわざ夕食時に家に来て話すんですか?」 「べ……別にいいじゃない、大勢で食べればご飯も美味しいわよ」 「そうだったんですか。僕はてっきり『台所が壊滅的なまでに散らかってて、ご 飯が食べられないから、晩飯をたかりに来た』のだと思ってましたよ」  シンジはいけしゃあしゃあと言った。どうやら図星だったらしく、ミサトは『 シンちゃんいじめるぅ』などと言って塩鮭をつついている。 「それで?クラスはどこになるんですか?」 「2−A、レイと同じクラスよ」  未だいじけているミサトのかわりにユイが答えた。レイはレイで、『お兄ちゃ んと一緒……』などと言いながら頬を赤らめている。 「はい、これが勉強道具一式よ」  なんとか立ち直ったミサトから、学生カバンを受け取る。開けてみると中には ノートパソコンが入っている。 「それじゃあ、今日はもう遅いから、早くお風呂に入って寝なさい」 「は〜い」 「…はい」  おのおの返事をして、レイは風呂場へ、シンジは玄関へ向かった。日課にして いる鍛錬をしに近くの公園に行くためだ。 「ほらほら、ミサトちゃんもいつまでも飲んでないで」  そう言ってユイは、ミサトの襟首を掴むと、ズルズルと引きずっていった。  公園につくと、シンジは鍛錬を開始した。  鋭い踏み込みからの突き、体をかわしての肘打ち、跳躍からの回し蹴り地面す れすれまで身を屈めての足払い―― 止まった状態から繰り出される技は1つもなく、どれも一連の動きの中に組み 込まれたものだった。  鍛錬を終え気息を整えてから、シンジが不意に空を見上げた。 「………?」  首をかしげ、シンジは家路についた。  翌朝、シンジは目を覚ますと、朝食の用意に取り掛かる。レイを起こし、朝食 を食べ始める。ちなみに、ユイはとっくに起きてテーブルに座っていたりなんか した。  朝食を食べ終わり、学校に行く時間になった。シンジはミサトを起こしに行く。 レイはシンジを待っている。  自分のIDを使い、ミサトの部屋に入る。 (どうやったらここまで散らかすことができるんだろう…)  頭をよぎった疑問はさておき、シンジはミサトの寝室へ向かった。引き戸を開 けると布団で寝てるというよりも、ゴミに埋もれているという表現が適切ではな いかというミサトの姿があった。 「ミサトさん。起きてください、ミサトさん」  ゴミを掻き分けシンジはミサトを起こす。しかし、起きる気配は全く無い。 「仕方ない……」  シンジはカバンをまさぐり何かを取り出し頭上に掲げた。 「ピカピカ〜ン!ヘッドホン&マ〜イ〜ク〜〜」  ドラ○もんのひみつ道具風に紹介すると、シンジはミサトを起こさないように ヘッドホンを取り付け、マイクとヘッドホンをステレオに接続し、音量を最大に した。そして大きく息を吸い込み…… 「……起きろ」  ボソッと言った。その声は何倍にも増幅されミサトの耳に届く。 「$%&!#%@#%*?」  あまりの大音量に、ミサトは一旦は飛び上がったものの、再び布団に沈んだ。 「しょうがない、料理だけ置いていくか……」  気絶したミサトを捨て置いて、シンジは学校へ向かった。初日から遅刻じゃか なりヤバイって感じなのだ。 「……はぁ〜〜」 「どうしたの?お兄ちゃん」  登校途中、いきなり盛大に嘆息するシンジにレイが声をかけた。 「え!?な、何でもないよ」 「そう…」 (諜報部の人達、もう少しうまく気配を隠さないと……これじゃあバレバレだっ て…)  一応、諜報部員達の名誉のために言っておくが、彼らは気配を悟られるような ドジはしない。シンジの感覚が常人離れしているのだ。  レイと喋りながら――というよりは、シンジが一方的に話し、レイがそれを聞 いている――歩いていると、前方で1人の女子生徒が如何にも不良でござい、と いった風体の少年3人に囲まれていた。 「ねぇいいじゃん、ガッコなんかフケて俺らとどっか行こうよ〜」 「や…やめてください。大声出しますよ!!」  女子生徒はあくまで抵抗する。 「出したかったら、出してもいいんだぜ。もっとも、助けが来るとも思えねぇが なぁ」  3人組の1人が言った。確かにこの光景を見ている人間はたくさんいるのだが、 誰1人救いの手を差し伸べようとはせず、厄介事には関わりたくない、とばかりに 足早に去っていく。 「どうするの、お兄ちゃん?」 「どうするったって……放っておくわけにも行かないし…」  そう言ってシンジは、おもむろに歩きだす。3人組の横を通り抜ける際、1人に ぶつかってしまう。 「っとぉ!?」  ぶつかられた少年が思わず尻餅をついた。シンジがそのまま立ち去ろうとするの を見て、あらあらしい口調で呼び止める。 「おいクソガキィ!!ちょっと待てや、コラァ!!」  かなりインチキくさい関西弁で呼び止められたシンジは、足を止め、ゆっくりと 振り返った。 「てめえ、人にぶつかっといてアイサツもなしかよ……」 「調子コイてんじゃねえぞ、コラ」  チンピラの決まり文句を吐きながら凄んでくる。シンジは、女子生徒に声をかけ ようとしたが…… 「君、早く逃げ……って、もう行っちゃったか」  女子生徒はさっさと現場から走り去っていた。 「ま、いいか。レイ、先に行っててよ」 「お兄ちゃん、大丈夫?」 「大丈夫、大丈夫。だからさ……」  そう言ってシンジは、レイに先に行くよう促す。レイも渋々承諾し、先を急ぐ。 だが、それでもシンジが心配なのか、時々振り返る。シンジは心配するなとばかり に手を振っている。  レイの姿が完全に見えなくなった頃、シンジは改めて男達の方を見る。 「女を逃がして、ナイト気取りか?ええ、コラァ!」 「カッコつけてんじゃねえぞ、コラ!」 「別にカッコつけるつもりは毛頭ないですよ。ただ、朝っぱらから女の子にはちょっ と刺激が強すぎるシーンが展開されるかもしれなかったんで、先に行ってもらっただ けです」  シンジは平然と言い放つ。男達はその態度がますます気に食わない。 「っにコイツ?コラァ」 「……やるわけ?…るわけ」  男達は戦闘体制にはいる。 「一応念のためにお聞きしますけど、僕をどうする気ですか?」 「ぶっタタかせろ、コラ」 「カネ出せよ、コラ」  何故か語尾に必ずコラをつけ、顔を反らし思いっきりメンチを切りながら、男達が 答える。 「……もう少し気の利いた台詞が吐けないんですか」  予想通りの反応に加え、あまりにも安直な答えに、シンジはため息をつく。 「ッメてんじゃねえぞ、コラァ!!」  3人組の1人が妙に様になっているフォームから、右フックを放つ。恐らく、ボクシ ング部くずれなのだろう。  ヒョイッ  シンジは最小限の動きでそれをかわし近づくと、男の顔に右の掌を押し当てた。  パンッ!!  男は一瞬棒立ちになった後、朽ち木のように前のめりに倒れた。うつ伏せになった顔 の下から、真っ赤な鮮血が広がっていく。 「おい………、マジ……?」  残りの2人は、男が冗談でやっているものだと思っていた。傍から見ればただ顔をな でただけのように見えたのだ。 「………おい」  周りの温度が2、3度下がりそうなくらい冷たい声でシンジが言った。 「…10秒やる。こいつを連れてさっさと消えろ」  凄まじい殺気を放つシンジを見て、チンピラ2人は目の前の少年が、見た目通りの生 き物ではないことに気付いた。 「ふ、フザケンな!!ここまでやられておとなしく引き下がれるか!!」  自分の命の心配をするより、プライドと心中する道を選んだチンピラがシンジに向かっ て行った。手には大ぶりのアーミーナイフが握られている。  シンジは難なくその攻撃をかわすと、塀の上に立った。 「よ〜〜くわかったよ…」  さらに冷たい声でシンジは言う。 「あんた達全員、入院希望なんだね……」  サングラスの奥の金色の瞳が妖しく輝く。まるで、獲物を前にした獣のように……  塀から飛び降りたシンジは、ナイフを持ったチンピラの向こう脛を蹴った。体勢を崩 した男の顔をつかむと、そのまま後頭部を壁に叩きつける。 ゴスッ!!  男は後頭部から血を流し、先ほどの男同様、地面に倒れこんだ。 「ひ…ひいいいいいいいいいい!!」  残りの1人が悲鳴を上げて逃げ出した。しかし、数メートルも行かないうちにシンジに 追いつかれ、シンジに長い茶髪を後ろからわしづかみにされた。  シンジは、男の髪をつかんだまま、首切り投げの要領で放り投げた。そして、地面にう つ伏せになった男の髪を再びつかむと、顔面をアスファルトの地面に何度も叩きつけた。  最後の1人がピクリとも動かなくなると、シンジはようやく手を離し学校へと向かった。 途中でサラリーマン風の男――実は諜報部員――とすれ違った。 「あまり目立った行動は……」 「以後気をつけます。でも…見てたんなら手伝ってくれても良かったのに…」  一体何を手伝えと言うのか……男の脳裏にそんな考えがよぎったが、とりあえずそれは 横に置いといて、男は続ける。 「それはともかく…、その格好で学校に行かれては困ります。これを…」  そう言って男が取り出したのは、半そでのカッターシャツ、シンジの学校の制服だった。 よく見ると、シンジは所々返り血を浴びていた。 「いろいろすみません。後のこと、よろしくお願いします」  着替えて礼を言うとシンジは、大急ぎで学校に向かった。死体(一応生きてる……はず) の処理に頭を痛める諜報部員を残して……。  走りながらシンジは、神気練法の呼吸を開始した。授業開始まで後およそ5分。普通に走っ ていたらまず間に合わない。そう、普通に走っていたら……。  シンジは神速歩法<旋駆け>を発動した。その速さは昨日の比ではなく、音速の域にまで 達しようとしていた。これなら遅刻の心配はなさそうだ。例え、その衝撃波が周りの住宅の ガラスを割り、たまたま近くを通りかかった野良犬や、バーコード頭のオッサンを跳ね飛ば したとしても、である。                         to be continued……
あとがき  ……サブタイトルに『転校』とあるのに、シンジ君が学校についてない……。  これは、書いてる最中に前後編になることが発覚し、これ以上先を書いて区切ったとしても 中途半端になると判断し、シンジ君が学校へ向かうシーンで区切らせてもらいました。  次こそは、トウジとケンスケ、ヒカリ達が登場するでしょう。  さて、今回シンジ君の若干デンジャラスな面が出てきましたが、彼は見境無く暴力をふるうよ うな乱暴者ではありません。抑えるべきところはちゃんと抑えますが、ただ…逆に抑えなくてい いところは本当にどうでもいいと考えているらしく、極端な話、『命に別状さえ無ければOK』 と考えております。  アスカさん、マナさん、こんなシンジ君は好きですか?


アスカ:モチ、こんなシンジも好きに決まってるじゃん。属性は愛よっ!

マナ:何、おばかなこと言ってんのよ。綾波さんの属性は水かぁ。似合ってるわね。

アスカ:アタシだったら、神秘的な月かな。

マナ:似合わな過ぎる。(ーー; 綾波さんならともかく。

アスカ:なんでよぉ。月の女神みたいで、かーいいじゃない。

マナ:アスカは、火か猿ね。

アスカ:猿なんて属性、どこにも出てないでしょうがっ!(ーー#

マナ:シンジはなんだろう? 自分で知らないって言ってるけど・・・。

アスカ:シンジの色は決まってんじゃん。

マナ:天か雷かぁ。うーん、風なんかも似合いそうね。

アスカ:ぶぶーー。

マナ:なんでよ? じゃぁ、なに?

アスカ:シンジは、もっちろん、アスカちゃん色でしたぁっ!

マナ:・・・・・・。やっぱり、おばか。(ーー)
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