わかった・・・・・

やっと、わかったよ。

僕は、逃げ出したかったんだ。

この世界から・・・・・・

罪の意識から・・・・・

気付いたんだ。罪を償うには、裁かれるしかない。

だから.....

 

 

 

いつもここから....

第七話

“あなたの居場所は何処ですか?”

 

 

「はぁー」

アスカは、今日何度目かのため息をついた。

マンションが近づく。

周りには誰もいない。

一人だけ・・・・・・

 

 『アスカのせいじゃないわよ』

不意に思い出すその言葉。

三号機に乗っていたフォースチルドレンの事を聞いたのは、戦闘が終わってからだった。

親友の想い人。

命に別状はないが、二週間の入院。

今日は、学校に行きたくなかった。どの面下げて、彼女に会えばいいかわからなかった。

頭を下げるアスカに、彼女が言ったその一言。

それだけでも、溜息を吐くには十分だった。

 

エレベーターに乗り込む。

 

「まったく、あの馬鹿!なにやってんのかしら・・・・」

シンジの失踪から一週間。

まったく足取りが掴めないと、諜報部に悪態をつきながら言っていたミサトを思い出す。

(まったく・・・・心配してやってんのに)

ミサトは、使徒の処理とシンジの捜索で、最近は帰ってこない方が多い。

「早く帰ってきなさいよね」

そう言いながら鍵を開け、中に入る。

 

「ただいま〜」

最初戸惑ったこの言葉も、今では自然と口から出る。

「あ、おかえり。アスカ」

(何が『おかえり』よ。あたしがこんな思いしてんのに!)

「アスカぁ、今日の晩御飯なにがいい?」

「ん〜、はんばーぐ」

部屋に入り、鞄を投げ捨てると、制服のままベッドに倒れ込む。

(まったく、何が晩御飯よ。そんな暇があるならさっさと帰って・・・・・・・・・え?)

 

ドタドタドタ・・・・ガラッ

「ん?どうしたの、アスカ」

エプロンを着けたシンジが、台所から顔を出した。

いや、出したのが間違いだったかもしれない。

「このぉ〜・・・・・バカぁ!

「ゲフッ・・・・」

一瞬、世界を狙えるようなハイキックが、シンジの顔面に突き刺さった。

 

 

「むーーー」

アスカは夕食を食べている。

別に珍しいことではない。

が、その顔は、不機嫌度120%である。

そして何故かシンジの隣に座っていた。

「ハァー・・・・・・ね、アスカぁ、そろそろ機嫌なおしてよ」

「むーーーー!」

唸ってはいるが、口に運ぶ箸の動きは止まることはない。

「そろそろお風呂入れないと・・・・・」

そう言って立ち上がろうとすると、何故か腰が上がらない。

その理由は、シンジの裾をアスカがガッチリ握っているからである。

 ガタッ

観念したように、シンジも椅子に座り直す。

(どうしたもんかな・・・・)

シンジがアスカ対策の考案に夢中になっている間に、アスカは食事を終えようとしていた。

 

 

「ねぇ」

食後のお茶をすすりながら、キッチンで洗い物をしているシンジの背中に話し掛ける。

「なに?アスカ」

「・・・・・どこ行ってたのよ、アンタ」

アスカは、一週間もどこに行っていたのかということを聞いていなかった。

自分をほったらかして・・・・・・

殴り付けたくなる衝動を、必死に押さえながら、それでもいい加減なことを言えば殴ってやろうと心に決めていた。

 

「う〜ん、そうだね・・・・・・散歩、かな」

「・・・・は?」

「ぶらぶら歩いて、友達にあって、空を眺めて・・・・・・芦ノ湖、綺麗だったよ。今度一緒に行かない?」

「アンタ、一週間もそんな事してたの?」

「うん」

怒りを通り越して、呆れた・・・・・

「・・・・・アンタらしいわ」

「でも、ゆっくり考え事ができたよ」

シンジは、お皿を片付けると手を拭きながら、アスカの正面の椅子に座る。

「僕は、ここに居てもいいのかな・・・・・とか」

悲しい笑みを浮かべる。

「なによ・・・・・それ・・・・・」

アスカは、心に広がる不安を拭い去ることができなかった。

 

その後、帰ってきたミサトが、シンジに気付いて大騒ぎになったのは言うまでもない。

 

 

翌日、シンジは見慣れたネルフの廊下を一人歩いていた。

シンジが帰ってきたため、急遽ハーモニクステストが行われることになった。

そこで、アスカとレイと三人でネルフに来たのだが、さっき更衣室の前で二人と別れてきたのだ。

数えるほどしか来たことのない司令室の前で、シンジの足は止まった。

プシュー

扉が開くと、鋭い視線が突き刺さる。

「シンジか・・・・・今日は赤木博士の所でテストのはずだが・・・・・」

「その前に、話があるんだ。父さん」

「おまえに話すことなど無い。出て行け!」

何故か不機嫌・・・・・いや、いつもこんな調子だが・・・・・・

「碇、まあ良いではないか。話くらい」

横から冬月副指令が口を出す。

 

「明日、使徒が来るから」

 

「「!」」

 

シンジのいきなりの言葉に、ネルフのトップ二人は数秒固まっていた。

「何を言ってるんだい?シンジ君」

少年の言っていることが分からない、と言った様子で、冬月は尋ねた。

だが、その少年の目は嘘を言っているような目ではない。確信を持っている。

長年、多くの人間を騙し、そして騙されてきた二人には、そのことが分かったようだった。

「明日、使徒が来ます・・・・・・」

「何故、貴様にそんなことが分かる」

「だけど出撃は・・・・・」

「答えろ!シンジ」

ゲンドウは、組んでいた腕を外し、立ち上がった。その目は、まだシンジを睨み続けている。

シンジは一度肩をすくめる。

「・・・・強いて言えば、人が使徒を倒そうとするから・・・・・かな」

真っ直ぐゲンドウの目を見て答えた。

その瞳には、前のおどおどした感じはない。

だが、それでも父親は、実の息子に疑惑の視線をなげかけていた。

少しの間睨み合って、ゲンドウは側にある受話器を取りボタンを押す。

「赤木博士、今日の実験は終了だ。チルドレンを帰らせろ。ああ、問題ない。それから、明日は全員、本部待機だ。

 エヴァも出撃準備を整えておけ。そうだ・・・・・以上だ」

視線をシンジの方に戻す。

「ありがとう、父さん」

シンジは、かすかに微笑んだ。

「だけど、使徒は問題ないんだ」

「なに?」

ゲンドウと冬月は、もう一度眉をひそめる。

「これからが肝心なんだ・・・・・一度しか言わないからよく聞いて」

・・・・

・・・

・・

「シンジ君、何故そんなことを・・・・・」

「言っただろ、父さん。計画は、止めてみせる」

「わかった。だが、我々はお前を完全に信用したわけではない」

「うん、そのうち分かるよ。僕が今生きている意味がね」

そう言い残し、シンジは司令室を後にする。

そして呆然とする二人が残された。

「いいのか、碇」

「・・・明日になればわかる」

 

 

「ただいま〜」

「おっそーい!」

時計は12時半。遅いという訳でもないが、アスカは自分が暇なのが気にくわないのだろう。

「まったく、テスト始めたと思ったら、帰れですって!しかも、明日は本部待機〜? バカにしてるわよ!」

「ああ、そのこと・・・・・」

キッチンで二人分の昼食を準備しながら、アスカの愚痴を聞く。

彼女がご機嫌斜めの時は度々こういう事があるので、シンジも慣れたモノだ。

「そ〜いえば、アンタは何処いってたわけ?リツコもミサトもツノをはやしてたわよ」

「あ・・・あ〜、ちょっと父さんにね。話があってさ」

「へー、珍しいわね。明日は使徒が来るんじゃない?」

冗談混じりに言ったアスカの言葉に、思わず吹き出す。

「ははは、そうかもね。明日あたり来そうだよね。」

「な、なによアンタ・・・・今日、変よ!?」

「い、いや・・・・・何でもないよ。」

 

笑い終わると、今度は真剣な表情になったシンジが、アスカの正面に座る。

「ね、アスカ。僕、明日から一ヶ月ほど帰ってこれないから・・・・・・・」

「な!なによそれー!!どういうことっ!?」

「ちょっと、やらなくちゃならない事があるんだ」

「なによっ!ネルフで会えるんでしょ?」

「ううん、たぶん会えないよ。でも、きっと帰ってくるから・・・・・だから心配しないでね」

「フンっ!アンタの心配なんかしないわよ。何処にでも勝手に行っちゃえばっ!!」

アスカは、俯いたまま部屋に駆け込む。

勢いよく襖を閉めると、その場に座り込んだ。

(なによ、バカバカバカ、バカシンジ・・・・・・)

 

少女の消えたそのドアを、シンジは悲しそうな笑顔で見つめていた。

 

 

 

次の日・・・・・

アスカはシンジと一言も口をきかなかった。

起きてからも、ネルフへ行くときも・・・・・

 

ネルフへ着くと、警報が鳴り響く。

警報が鳴るのは、使徒が来たとき・・・・・・二人は駆けだす。

 

急いでプラグスーツに着替えた後、ゲージにいく途中、シンジはアスカの腕を掴んで立ち止まった。

「アンタっ、何やってんのよ。さっさと行くわよ!」

「アスカ・・・・・昨日言ったこと覚えてる?」

「はあ?使徒がきてんのよ。そんなのナシに決まってるわよ」

いやに落ち着いているシンジと、それを焦って怒鳴りつけるアスカ。だが、その顔は少し嬉しそうだ・・・・・・

「これ・・・・預かってて」

シンジは、いつも着けている十字架を首から外すと、アスカに手渡した。

「きっと、帰ってくるから・・・・・」

そう、それは”前のアスカ”からの贈り物。表には”ASUKA”そして裏には”KYOKO”と書いてある。

アスカはそれを受け取ると、俯いたまま、わなわなと震えだした。

そして・・・・・・

 

「なんでアンタがっ、これ持ってんのよっ!!」

 

乾いた音が辺りに響いく。

そして、アスカは駆けていってた。

その青い瞳から、光る滴を零しながら・・・・・

 

シンジは、紅くなった頬を触りもせず、来た道を戻っていく。

 

 

 

「エヴァ弐号機、起動しました。」

「第二拘束具除去。発進準備完了」

慌ただしい発令所で、ミサトとリツコが険しい表情でモニターを見つめていた。

「アスカ、またシンクロ率が落ちてるわね。シンジ君は帰ってきたっていうのに・・・・・」

「そのシンジ君は、何処でなにをしているわけ?」

「どうするの? もう使徒はそこまで来てるのよ」

モニターには、使徒の十字の爆炎で、破壊される都市が映っている。

「仕方ない・・・・・弐号機、出撃!」

火花を散らせて、打ち出される弐号機・・・・・

 

 

そのころ、シンジは司令室にいた。

「やっぱり来たね・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

いつものポーズで手を組んだまま、ゲンドウは答える。

「それじゃ、行くよ。計画どおりに」

「ああ、問題ない」

シンジは司令室を飛び出し、初号機ゲージに急ぐ。

ゲンドウは立ち上がると、発令所に向かった。

 

 

弐号機は両手に武器を持ち、次々と使徒に打ち込んでいった。

だが、使徒は悠然と向かってくる。

「ATフィールドは中和しているはずなのに・・・・・」

次々と武器を持ち替えて、使徒に打ち込む。

「なんでやられないのよ!」

そのとき、使徒の両腕から伸びた白い帯が、弐号機の肩を貫く。

「ーーーーーーッ!!」

アスカの両腕に激痛が走る。

『シンクロカット!早くっ!』

ミサトの指示により、弐号機は活動を停止する。

その直後、両腕を切り落とされた弐号機の頭が、使徒の攻撃により吹き飛ばされる。

「・・・・しんじ」

アスカは呟いた。電源の落ちたプラグに、彼女の声が響く・・・・・・

 

 

「アスカは?」

「パイロット、無事です。生きています」

ホッと溜息を吐くミサト。だが、状況が好転したわけではない。

使徒は、確実にネルフ本部・・・・つまりここへ向かってきている。

 

「初号機を出せ!」

振り向くと、いつの間にか指令席にゲンドウは座っていた。

「初号機、出撃だ」

「はっ」

ミサトが指示を出す。

シンジの乗る初号機は、使徒の正面に打ち出された。

 

 

初号機のプラグ内でシンジは、崩れ落ちた弐号機とその側に浮かぶ使徒を睨み付けていた。

『シンジ君?』

ミサトが心配そうに声をかけてくる。プラグ内でのシンジの表情は丸見えなのだ。

「ミサトさん、アスカは?」

『大丈夫よ、生きているわ』

「そうですか・・・・・じゃあ、いきます。」

一つ安堵の息をもらすと、スッと目を閉じた。

(さあ、いこう。初号機・・・・母さん・・・・・)

初号機の目が、輝いた。

 

 

発令所・・・・

「シンクロ率上昇中」

手元のモニターを見ていたマヤが、声を上げる。

「200を突破!210・・・・230・・・・260・・・・・」

「まさか、暴走!?」

リツコの表情が、みるみる強張っていく。

「シンクロ率400で安定!」

 

 

そして・・・・

使徒を倒し、初号機の宴が始まった。

 

初号機・・・・エヴァは目覚めた。

 

今はLCLに溶けてしまった、少年の計画通りに

 

時計の針は、動き出した・・・・・・・

 

 

第七話 終

 

 

後書き

どうもSHINです。

なんだこりゃ?(いかりや風) と自分でも読み返していて分かります。

う〜ん、レイちゃんが出てきませんね。

自分の無計画さを、ちょっぴり反省・・・・・<(_ _)>

意見、感想、お願いします。僕にヒントをくれ〜〜〜〜!<作者だろ!!


アスカ:シンジ、わかってるのに出撃したのね。

マナ:やっぱり、アスカは負けたのね。

アスカ:やかましぃっ!

マナ:ちゃんと、サルベージされたらいいけどねぇ。

アスカ:成功するに決まってるでしょっ!

マナ:わからないわよぉ。全くTVと同じ展開ってわけじゃないしぃ。

アスカ:大丈夫よっ! シンジの計画通りって書いてあるじゃない。

マナ:きっと、アスカをこってんぱんに振って、マナちゃんと結ばれる計画ね。(^^v

アスカ:どこをどう読んだら、そういう結論になるのよっ!

マナ:他にどんな計画が・・・?

アスカ:はぁ〜。この非常時に、アンタつくづく平和ねぇ。

マナ:いやぁ〜。それほどでも。(^^;

アスカ:はぁ〜。
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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