『アスカ』

シンジっ、アンタ何してんのよ。

『アスカ』

ちょっと、何処行くのよ。

『アスカ』

ちょっ・・・待ちなさいよっ。

『アスカ』

まって!シンジっ、まってぇ!

『アスカ』

置いてかないでっ!アタシもっ・・・・・

 

 

いつもここから....

第九話

“待ち人、きたる”

 

 

ガバっ

「ハァ、ハァ・・・・・」

彼女は額を拭った。腕には汗がびっしょりとまとわりつく。

「いやな夢・・・・・みた・・・・・」

辺りを見回す。

暗い部屋。人の気配はもちろん無い。

自分一人だけ・・・・・・一人。

その感覚が、アスカにはたまらなく苦しい。

自分の肩を抱く。震えを抑えるように。

 

「ただいま〜」

「おかえりっ!シン・・・・ジ・・・・」

慌てて玄関に出てきたアスカに、明らかに失望の色が浮かぶ。

「アスカ・・・・・・シンちゃんは、もう・・・・・」

目を逸らせて、そう言うミサト。彼女も責任を感じていない訳ではない。

 

そんなミサトに笑顔を作る。

「ミサト、シンジは帰ってくるわよ。約束したもん。きっと・・・・・・・」

「そうね。いつかきっと・・・・・・」

いつか・・・・・だが、ミサトもアスカも確信があったわけではない。不安がないわけでもない。

それは、たった一つの心の支え・・・・・・約束。

 

 

初号機ゲージ

コアを露出させたままの紫の巨人。

その前に二人の男が佇んでいた。

何かを待っているのか、その二人は、ただ立ちすくんでいる。

その時、巨人のコアが青白く輝き始めた。

「きたぞ!碇」

「ああ・・・・」

やがて、その強くなった光の中から、一人の少年が顔を出す。

「シンジ・・・・」

ゆっくりとコアから出てくるその少年の腕には、一人の女性が抱えられている。

「ユイ!!」

「ユイ君!!」

プラグスーツを着た少年が、ブリッジの上に立った瞬間、突然倒れてしまった。

慌てて駆け寄るゲンドウ。

「急いで医療班を初号機ゲージへ向かわせろ!このことはトップシークレットだ。MAGIから記録を削除しろ!」

冬月は緊急回線で指示を飛ばしている。

 

駆けつけた医療チームによって、シンジとユイはネルフ内の病院へと運ばれた。

ただ、このことは最高機密とされ、ネルフのトップ二人以外に真相を知ることは出来なかった。

 

「シンジ、帰って・・・・・くるよね・・・・・」

月明かりに照らされたベッドの上で、アスカは枕を抱えながら呟いた。

 

 

翌日・・・・・

抜けるような青空。快晴。

とある田舎道に、不自然に立っている電話ボックス。

男は受話器を下ろすと、出てきたカードを手に取る。

「最後の仕事か。まるで血の色だな」

 

ネルフ病院内のとある病室に、ゲンドウの姿があった。

108号室。その病室には二つのベッドが並べられており、少年と女性が寝ている。

「父さん・・・・・」

「シンジ、これはどういう事だ」

「こういう事だよ。・・・・・これで、計画は終わり・・・・・だろ?」

「ああ、私にはもう計画を進める意味が無くなった。今まで、すまなかったな。シンジ」

頭を下げるゲンドウ。シンジは見たことのない父親の姿に、内心驚いている。

「いいよ・・・・。そのかわり、今度は僕の計画に付き合ってもらおう」

「計画だと?」

「うん、後で話すよ。それより、冬月副指令は?」

「ああ、拉致された。犯人は判っているがな」

「そう・・・・・」

シンジは起きあがると、ベッドから降りた。

「後は僕がやる。父さんは母さんの側にいてあげなよ」

「ああ・・・・」

その返事を聞くと、シンジは病室を出て、長い廊下を歩いていった。

 

カシュッ

暗い部屋に光が射す。

冬月は眩しさに目を細めた。

「・・・・・・君か」

「ごぶさたです。外の見張りには、しばらく眠ってもらいました」

「この行動は君の命取りになるぞ」

「真実に近づきたいだけなんです。僕の中のね」

そして冬月は、ネルフ諜報部によって保護された。

 

加持は、巨大な換気扇の前に立っていた。

やがて何かに気付き、微笑む。

「よう、遅かったじゃないか」

乾いた銃声が辺りに響いた。

 

 

「ミサト・・・・」

机の上に突っ伏して泣き続けるミサトに、アスカは声を掛けた。

「どうしたの?」

「ア、アスカ〜・・・うっ・・・加持が・・・・・・アイツ・・・・・・うっ・・・・・・死んじゃった・・・・」

留守電を聞いたミサト。彼女にはそれが何を意味するのか、いやなほど分かっている。

「うそっ!」

「うっく・・・・・うっ・・・・・」

「そんな・・・・・そんな・・・・・」

アスカも泣き出した。

「シンジ・・・・うっ・・・・えぐっ・・・・加持さん・・・・」

このままほっておけば、二人は朝まで泣き続けただろう。

 

だが神様はそれを許さなかった。

玄関のチャイムの音が、キッチンまで響く。

アスカはゆっくりと立ち上がり、玄関へと向かう。

そして扉を開けたところで、彼女は固まった。

「あ、アスカ。ごめん、カギ無くしちゃって・・・・」

そこには、夢にまで見た、待ち望んだ少年の笑顔があった。

「あの・・・・アスカ?」

「シン・・・・・ジ〜!!」

アスカはシンジに抱きつくと、胸に顔を埋めて泣いた。

「アンタ・・・・・何処行ってたのよ〜。うぐっ・・・・心配したんだからっ」

「ごめん、アスカ・・・・ごめんね」

シンジは、腕の中で震えるアスカの髪をそっと撫でる。

「でもっ・・・・・加持さんが・・・・・・」

「ん?俺が?」

「そう、加持さん・・・・死んじゃった」

「死んでしまったのかい?俺は・・・・」

「うん。ミサト泣いてるから・・・・・加持さん慰めてあげて・・・・・」

「ああ、わかった」

シンジとアスカを残し、加持はリビングへ向かう。

少しの間泣き続けていたアスカだったが、へ?という表情でシンジの胸から顔を離し上目使いでシンジを見上げる。

可愛い・・・・・とシンジは思った。

「わっぷっ・・・・・」

もう一度、アスカを抱きしめる。

アスカはゆっくりと目を閉じ、微笑んだ。

 

そのころ奥では、加持が生きたまま地獄を体験していたことは、言うまでもない・・・・・・・

 

そして、お決まりの大宴会が始まった。

 

悲しみと不安に満たされていたマンションの一室に、笑顔が戻った。

 

だが、楽しい時間は長く続かないことを、少年は知っている。

 

だからこそ楽しむのだ。

 

わずかに残された最後の時間を・・・・・・・・

 

第九話 終

 

〜あとがき〜 ふ〜、一息。SHINです。
結局、九話まできちゃいました。
残りの使徒は後二匹です。さてさて、どうなるでしょう?
分かった方はメールを送ろう。分からない人はメールを送ろう。(爆)
突然ですが次回予告・・・・ミサトさんお願いします。
 『やっと帰ってきたシンジ!だが、そこへマナの魔の手が忍び寄る。
  ちょっと素直になったアスカは、シンジを手込めに出来るのか!!
  レイと一つになろうとする使徒に、リツコはミサトの料理を用意!
  次回 “せめて、料理らしく  この次も、サービス、サービスぅ!』
(↑嘘です。)


マナ:シンジ、無事に帰ってこれて良かったわね。

アスカ:ユイさんを連れて帰る為に、頑張ってたのね。

マナ:これで、碇指令もめでたしめでたしね。

アスカ:珍しく、かなりびっくりしてたみたいだけど・・・。

マナ:よく言うわよ。1番大騒ぎしてたの、アスカじゃない。

アスカ:ミサトには負けるわ。

マナ:2人して1つ屋根の下、何してんだか。

アスカ:これで補完計画もなくなったわけだし、1つ解決ね。

マナ:まだゼーレがいるわよ?

アスカ:シンジの奴、どうするつもりなのかしら・・・。
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