プルルルル・・・
電話の受話器を耳に当てて、呟く美少年。碇シンジ。
『シンジィ、
こんな事してないでそのミサトさんって人を待った方がいいんじゃねぇか?』
シンジの頭の中に響く少し騒がしい声。
『リュウガの言うとおりだ。しばらく様子を見た方がいい。』
今度は冷静で少し低い声が・・
『そうだよねぇ、アタシもそう思う。』
続いて、女の子の声がシンジの頭に響いた。
「・・そうだね。なんか危なそうだし、シェルターにでも行こうかな?」
『好きにすればいいさ。』
『ゼンって、シンちゃんに任せっきりよねぇ。』
『お前はどうなんだ?マホ。』
『アタシはゼンよりマシだもん。』
「あのさぁ、あまり喧嘩しないでよ。・・響くから。」
『・・すまん。』
『ごめんね、シンちゃん。』
・・もう、お分かりだろう。
そう、シンジは『多重人格者』なのだ。
14歳で本人格、素直で優しく、少し影がある、黒髪に黒眼、
秘めた力を持つシンジ。
同じく14歳で元気物、銀髪で灰色の眼を持ち、瞬発力が凄いリュウガ。
23歳で冷静で仲間以外には冷徹な性格、蒼い髪、黒眼で、
鋭い五感の持ち主、ゼン。
そして、15歳で唯一の女の子、茶髪で茶眼を持つ、超能力者のマホ。
・・の4つの人格である。
しかも、ただの多重人格ではなく、肉体も変化するのだ。
シンジはシンジだが、人格がリュウガになると肉体もリュウガになるのだ。
・・つまり、
人格がマホになれば女の体になると言うちょっと大変な特異体質なのだ。
それもこれも、悪いのはゲンドウである。
ゲンドウがシンジを捨てた精神ショックのせいで人格が増えてしまったらしい。
もっとも、親切な夫婦に拾われてからはまともな生活ができていたのだが・・
ゲンドウがシンジに『来い』と言う、
かなりシンプルな手紙を送ってきたからなのだ。
『しっかし、何年もほったらかしにしておいていきなり『来い』はねぇよな。』
『本当・・シンちゃんも、大変ねぇ。』
「ハハハ・・。」
『・・おい、何か来るぞ。』
「えっ?」
ゼンが何かの音に気付く。
キィィィィィィン・・
ビルの影から現れる戦闘機。
『・・ここって、内戦の真っ只中だっけ?』
『・・ううん。日本のはずだけど。・・気のせいだよ、うん。』
ドカーーン!
戦闘機の一機が破壊され、破壊した張本人:サキエルが姿を現す。
「・・じゃあ、あれは?」
『・・シンジ・・。』
ゼンの声が響く。
「な・・何?」
ヒュゥゥゥゥゥ・・
落ちてくる戦闘機。
『『逃げろーー!!!!!』』
リュウガとゼンがシンジに叫ぶ。
「ウワーーーーー!?」
慌てて逃げたため、間一髪難を逃れるシンジ。
「ハァ、ハァ・・。」
『ど、どうするのよ!?』
『俺に聞くな!!』
『・・来る。』
『今度はなんだ!?』
『・・車の音だ。』
「車って・・今度は、戦車!?」
『いや・・普通の乗用車だ。』
キキーーー!!・・ガチャッ
「早く乗って!」
車の中の女性がシンジに手を差し伸べる。
「ミ・・か、葛城さん?」
「早く!!」
「は、はい。」
『うわ〜、強引。』
シンジが車に乗った瞬間。
キーーー!!ブゥゥゥゥゥン!
一目散に走り出す車。
「ハァ・・ハァ・・大丈夫、シンジ君?」
「ええ・・助かりました。葛城さん。」
「ミサト・・でいいわよ。よろしくね、碇シンジ君。」
「はい。」
シンジはミサトに笑顔を見せる。
少しドキッっとするミサト。
『・・出た、シンちゃんの女殺しの笑み。』
マホ曰く、シンジの笑顔を見た女性は高い確率でドキッとするらしい。
「じ、じゃあ、飛ばすからしっかり捕まってて。」
「えっ?」
ブゥゥゥゥゥゥン!!
「ウワッ!?」

・・数分後 カートレイン
「そうよ・・ええ、彼の安全を最優先・・分かってるわよ。」
「(・・大変みたいだね。ミサトさん。)」
『この姉ちゃん、何モンだ?』
『さあ?』
「あっ、シンジ君。これ見といて。」
ミサトはシンジにパンフレットの様な物を渡す。
『・・NERV・・?』
『ネルフだな。』
さすが最年長のゼン。
「ネルフですか?」
「そうよ、あなたのお父さんが居る場所よ。」
「・・。」
「お父さん、苦手。」
「・・はい。」
ジオフロントが見えてきた。
「凄い、ジオフロントだ!」
『へぇ〜、これが。』
『ほぅ、なかなか見事だな。』
『広いねぇ。』
「これが、私達の秘密基地ネルフ本部。世界再建の要・・人類の砦となる所よ。」

・・ネルフ本部
「・・ミサトさん。」
「な〜に?」
「まだですか?」
「うっ・・も、もうちょっとよ。」
「(・・迷ったんだね。)」
『迷ったな。』
『ああ、迷ったな。』
『うん。』
ピーン
エレベーターから金髪の女性が出て来た。
「呆れた、まだこんな所に居たの?ミサト。」
「ゴミン、リツコ。」
「ふぅ・・例の男の子ね?」
「そう、マルドゥックが選び出したサードチルドレンのシンジ君よ。」
「技術一課、赤木リツコよ。」
「碇シンジです。よろしくお願いします、赤木さん。」
「私の事はリツコでいいわ。」
「はい、リツコさん。」
この後、リツコに連れられ真っ暗な部屋に連れてこられる。

・・ケイジ
「真っ暗ですね。」
ガチャンッ
照明が付き、目の前にロボットの顔が現れる。
「人の造り出した究極の凡用決戦兵器人造人間エヴェンゲリオン。
その初号機よ。」
「これが・・父さんの仕事なんですか?」
・・そうだ・・
上から男の声が聞こえ、シンジが見上げると、
管制室らしき部屋に男の人影があった。
「久しぶりだな。」
「・・そうだね、父さん。」
『この髭ジジイがシンジの・・。』
『似ていないな。』
『きっと、お母さん似なのよ、シンちゃんは。』
「・・出撃。」
「出撃!?でも零号機は・・まさか、初号機を?でも、パイロットが。」
「今、届いたわ。」
「・・マジ?」
ミサトがシンジを見る。
「シンジ君、貴方が乗るのよ。」
「えっ!?」
『マジかよ!?』
『無謀だ!』
『シンちゃんを殺す気なの!?』
「・・父さん、コレに乗せるために僕を呼んだの?」
「そうだ。」
「どうして、僕なの?」
「お前でなければいけないからだ。」
「無理だよ・・できるわけないよ!」
「乗るなら早くしろ・・でなければ帰れ!」
「!!??」
「・・冬月、レイを起こせ。」
『いいのか?』
「かまわん、生きているなら問題ない。」
「・・分かった。」

・・数分後
レイを乗せたストレッチャーがやってきた次の瞬間。
ドカーーーン!
「奴め、ここに気がついたか。」
ガシャン
「キャッ。」
ストレッチャーが倒れる。
しかも、上から照明が・・
『マズイ!シンジ、代わるぞ!!』
「えっ?・・ウワッ!?」
シンジの髪が銀色に変化し、眼も灰色に変わった。
「し、シンジ君!?」
「疾(しっ)!」
シュンッ・・
シンジと入れ替わったリュウガが姿を消した。
ガシャーーーン!!
「レイ!?」
待っていた煙が、消えていく。
「ふ〜〜、危なかったぜ。」
煙の先には、リュウガがレイを抱きしめていた。
「大丈夫か?」
「・・誰?」
「俺はリュウガ。・・まっ、無事みたいだし、OKかな。」
「あ、貴方はいったい・・シンジ君は?」
「いるよ・・ここにな。」
髪の色が黒くなる。
「・・ミサトさん、リツコさん。」
「な、何?」
「気が変わりました。・・こんな傷付いた子を行かせるくらいなら、僕が行きます。」
「分かったわ。・・じゃあこっちへ。」
シンジはリツコに連れられ、エントリプラグに向かう。

・・エントリープラグ前
「ここに入って。」
「はい。」
「・・ところで、さっきのリュウガって子はいったい・・。」
「それは後で話します。・・それと。」
「何?」
「後で父さんと話す時間をください。」
「・・分かったわ。」

・・エントリープラグ
「・・ふぅ、ここまではうまくいったね。」
『まあな。』
「ありがとう、リュウガ。綾波を助けてくれて。」
『気にするな。・・俺はあの子が気にいっただけだ。』
『あっ♪リュウガ、あの子に惚れたんだぁ。』
『そうだ、悪いか?』
『そ、そこまであっさり言われると突っ込みようが・・。』
「まあまあ。」
これでお分かりだろう。
シンジは知っている・・すべてを。
ただ、前回の世界の記憶が戻ったのは、手紙を見てからだが・・。
「それじゃ、行こう。」
『『オウ!!』』
『ええ!』
シンジはシンクロをし始める。

・・ネルフ
「シンクロ開始しました。」
「シンクロ率・・嘘!?」
「どうしたの?」
「シンクロ率、79.7%」
「なんですって!?」
「いけるわ。・・よろしいですか?司令。」
「もちろんだ。使徒を倒さないかぎり、我々に明日は無い。」
「いいのか?碇。」
「・・。」
「(シンジ君、死なないでよ。)発進!!」

・・地上
ガシャンッ!!
サキエルの前にエヴァ初号機が現れる。
『シンジ君、いい?』
「・・はい。」
『行くわよ。エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!!』
ガチッ
安全装置が解除された。
『シンジ君、まずは歩く事をイメージして。』
「はい。」
初号機は一歩、歩く。
「つまり、イメージした通りに動くんですね?」
「まっ、そんな所ね。」
「・・武器は無いんですか?」
「左肩にあるナイフを使って。」
「分かりました。」
走り出す初号機。
『シンジ君!?』
ガンッ
「イタッ!?ミサトさん、前に壁みたいなものが・・。
(やっぱり、ATフィールド。)」
『それはATフィールド、一種のバリアみたいなものよ。』
「そうですか・・なら!」
バチチチチ・・
初号機もATフィールドを出し、中和・侵食していった。
ガコンッ
ナイフを取り出す初号機。
「もらった!!」
ザクッ!!
コアを貫く。
『サキエルよ・・。』
『往生際が悪いぜ!』
『いいかげんに・・。』
「倒れろーーー!!」
パキィィン!
コアが割れて、そのまま動かなくなった。
第三使徒サキエル・・撃破。

・・ネルフ
「パターン青、消滅しました。」
「お疲れ様、シンジ君。」
『これから、どうすればいいですか?』
「さっきの場所に戻ってちょうだい。」
『分かりました。』
「・・シンジ君。」
『なんですか?リツコさん。』
「司令の許可がとれたわ。・・ただ、話せるのは四日くらい後だけど。」
『そうですか・・分かりました。』

・・ケイジ
シャワーを浴びたシンジがミサト、リツコに呼ばれた。
「改めて聞くわ。あのリュウガって子は何者なの?」
「リュウガは・・僕の人格の一つです。」
「人格?」
「僕は多重人格者なんです。」
「た、多重人格!?」
「・・それで、貴方とリュウガ君の他に誰が居るの?」
「人格は僕の他に、同い年のリュウガ、23歳のゼン、
15歳で女の子のマホの四人です。」
「ねえ、最後に女の子って言わなかった?」
「えっ?ええ、言いましたよ。」
「ミサト、変な想像は無しよ。
・・大体、シンジ君は男の子なんだから区別がつかないわ。」
「つきますよ。」
「「・・えっ?」」
シンジの髪が茶髪になる。
同時に胸などが膨らんでいき、女性の体になっていった。
「にんにちは♪アタシがマホです♪」
「・・こ、こんちには。」
「ミサト、言葉が変よ。」
「今ので分かったと思うけど、人格が変わると体格も変わるのよ。」
「おもしろいわね。」
「・・言っときますけど、解剖etcは嫌ですよ。」
「・・(ギクッ)」
「マホちゃん、シンジ君に戻ってくれる?」
「は〜い。」
茶髪が黒髪になり、体格も戻っていった。
「シンジ君?」
「はい。」
「これからどうするの?」
「少し時間もらえますか?これからも戦っていけるか少し考えたいので・・。」
「いいわよ。」
「・・あの、さっきの子は?」
「レイ?病院よ。」
「・・行っていいですか?」
「いいわよ。ミサト、案内してあげて。」
「え〜〜。」
「少しは役に立ちなさい。戦闘中、何もしなかったじゃない。」
「うっ・・分かったわよ。」

・・病院
「すいません、ミサトさん。」
「気にしないで。レイの部屋はあそこよ。アタシはフロントにいるから。」
「分かりました。・・でも、行くのは僕じゃないですよ。」
シンジの髪が銀髪になる。
「リュウガ君ね?」
「こんちはっす。」
「・・さっ、いってらっさい。」
「ウィ〜〜ッス。」

・・レイの病室
「よっ。」
「・・。」
「忘れちまったかな?」
「・・いいえ。」
「そりゃ良かった。改めてっと・・俺はリュウガだ。
サードチルドレン碇シンジの人格の一つ。」
「・・?」
「分からないよな、やっぱり。・・まっ、よろしくな。」
「・・碇シンジ?」
「(遅ッ。)ああ、髭爺・・じゃなかった、碇司令の息子さ。」
「・・そう。」
「なあ、お前はヒトになりたいか?」
「!!」
レイは意外な言葉に驚く。
「・・知ってるの?」
「知ってるぜ・・お前が碇ユイのクローンであり、リリスの魂を持ってる事を・・。」
「・・。」
「もう一度聞くぜ。ヒトになりたいか?」
「・・私は・・。」
「強制はしない。ゆっくり考えてくれ。・・それとこれだけは覚えていてくれ。」
「?」
「俺は・・いや、俺達はお前の味方・・仲間だ。」
「仲・・間?」
「そう、お前は絆を求めている。・・これもまた絆の一つだ。」
「・・。」
「じゃあな、また来るよ。」
「・・うに?」
「ん?」
「・・本当に来てくれる?」
「ああ、来るよ。」
「・・ありがとう。・・リュウガ・・君。」
レイの顔が少し赤く染まる。
「・・いいさ。仲間だろ?」
「・・うん。」
「でも・・この事はみんなには秘密な♪」
リュウガは人差し指を唇に付け、悪戯っぽい笑顔をしながら病室を出て行った。
「(ありがとう・・初めての言葉・・あの人にも言った事がないのに・・。)」
・・でも・・温かい。

・・病院内 廊下
既にシンジに戻っていた。
『シンジ、お前のお袋さんのサルベージどうする?』
「もちろんやるよ。」
『でも、そしたら初号機動かないよね。』
『バ〜カ。そのために『アレ』あるんだろうが。』
『あっ、そうか。』
「ところで、『アレ』は誰がどれに乗るんだっけ?」
『お前が『シリウス』、俺が『アルタイル』、ゼンが『レグルス』で・・。』
『アタシが『アクエリアス』だよね?』
『そうだ。』
「・・そろそろ行こう。ミサトさん待ってるよ。」
『そうだな。』
シンジはミサトの居るフロントへ歩いていった。


アスカ:体の形が変わる多重人格って・・・怪しいわねぇ。

マナ:みんなで話ができるって、楽しそうじゃない?

アスカ:完全に別人に変身できるんだから、便利っていやー便利だけどさ。

マナ:おかげで、使徒もあっさり倒せたしさ。

アスカ:それは、多重人格とあまり関係ないような・・・。

マナ:綾波さんとも仲良くなれたし。

アスカ:うーん。変な展開にならなきゃいいけど。(ーー;
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