・・とある遺跡 記憶の遺跡
「コイツは・・。」
『あぁ。エルゥの建造物だな。』
『・・古い割には、まだ機能は生きているようだ。』
入り口の魔物達を倒し、中に入る少年と白虎と紫狼の守護獣。
少年は腰の後ろに大小大きさの異なる二本の黒いダガーを差していた。
ピッ・・
少年がモニターのボタンを押すと、画面に文字が現れた。
「『汝が記憶の相続人ならば、その名を記せ』・・か。」
『ようはパスワードをこのキーボードで打てって事だろ?』
『・・で、そのパスワードは?』
・・・・。
『セ・ツ・ナと。』
「俺の名前で打つな!フェン!」
少年:セツナがツッこんだ時には白虎:フェンガロンは既に打ち終わっていた。
(なぜ、虎が文字を打てるかは・・守護獣なので知識が豊富という事で・・。)
・・・・。
『・・何も起きない。』
『チェッ・・やっぱりか。』
「何か起きた後じゃ・・。」
ゴゴゴゴゴゴ・・
突然、揺れ出す。
・・フッ
今度は床が幻だったかのように消え去った。
「遅いっつぅのぉぉぉぉぉ・・。」
セツナの声がどんどん遠ざかっていった。
『・・行くか。』
『ウム。』
フェンガロンと紫狼:ルシエドもその穴に飛び込んだ。

WILD・EVA 〜ワイルド・エヴァ〜
プロローグU 神速剣士と竜使い

・・翡翠 セツナ・・
シンジの親友であり、三大強国の一つ『守』の国ジオフロントの第一王子である。
渡り鳥と亡き精霊妃:メノウの間に産まれたが、セツナには王位の継承権がなかった。
それはジオフロントの王位継承の証:涙のかけらに認められなかったからである。
涙のかけらとは、翡翠家に伝わる魔力の結晶体で最強の守護獣を召喚する鍵なのである。
しかし、涙のかけらを受け入れる程の魔力をセツナは持ち合わせていなかった。
元々、王位に興味がなかったセツナはそのまま守護獣を連れて、渡り鳥として城出した。
父方の一族には神行法(アクセラレイター)と呼ばれる神速移動術が受け継がれている。
一族の遺伝:灰眼に秘められた術で、発動すると一時的に周囲がスローモーションの様に
見え、その状態で移動すると相手には瞬間移動した様に見えるのだ。
セツナが使う剣技『早撃ち』は『神行法』を利用した神速の抜刀術である。そして・・
セツナの持つデスブリンガーは、闇属性であれば自在に操る事ができる魔神器である。
主の意思で形を変える事ができるが、主に選ばれなかった者は触れた瞬間に死を迎える。
ラングレーで厳重に封印されていたが、シンジと共に遊びにきていたセツナによって、
偶然封印が解けた上に、セツナが主に選ばれた為に、ラングレー中は大騒ぎになった。
剣の魔力に惹かれた魔物に襲われたセツナはデスブリンガーの『闇の護障壁』に守られ、
『神行法』に覚醒、そのまま魔物をデスブリンガーで撃退してしまったのだ。
ラングレーの英雄妃:惣流キョウコはそのままセツナにデスブリンガーを託した。
デスブリンガーは今、セツナが最も得意とする二本のダガーに形を変えている。
『早撃ち』『神行法』『デスブリンガー』・・この三つがセツナの最大の武器である。
『風』のフェンガロンと『欲望』のルシエドを連れたセツナは今日も冒険を続ける。

「・・ハァ・・死ぬかと思った。」
穴に落ちたセツナはあの後、大岩、崩れる床、矢、迫る壁などのトラップを突破した。
『けどさ・・何にもないよな、この部屋。』
フェンガロンの言うとおり、周りには何もなかった。
『・・このパターンだと。』
「このパターンだと?」
ガコンッ
床が開く。
『・・やはり、こうなったか。』
「『早く言えぇぇぇぇぇぇ・・・。』」
今度はフェンガロンも一緒に穴へ落っこちた。
『・・。』
ルシエドもそれを追いかけて、穴に飛び込んだ。

・・『守』の国ジオフロント
三大強国の一角であり、セツナの故郷である。
守護獣が初めて生み出された国であり、守護獣を育成する『ファーム』が多数存在する。
三大強国には各国の王妃達が召喚した高位守護獣の加護を受けている。
ネルフの王妃、聖賢妃ユイは『聖』の守護獣イオニ・パウアーを
ラングレーの王妃、英雄妃キョウコは『剣』の守護獣エクイテスを
今は亡きジオフロントの王妃、精霊妃メノウは『城』の守護獣ゼルテュークスを
それぞれ召喚した。
メノウが亡くなった後もゼルテュークスは契約の元にジオフロントを守護している。
そのジオフロントで、大変な事態が発生していた。
セツナの弟で王位継承者の翡翠 ルリが魔族にさらわれてしまったのだ。
精霊妃メノウの弟で現国王である翡翠 サンゴはセツナにこの事を知らせるよう命じたが、
大臣達はその指示をしていなかった。
城から追い出したセツナに今更救いを求められないと思ったからである。
「・・たく、ジジイ共は何考えてるんだか。」
会議をしている大臣達を遠くの窓から眺める七人の騎士達
彼らはジオフロント親衛騎士団『フェンリルナイツ』である。
『フェンリルナイツ』は武具にちなんだ通り名を持ち、いつも国の平和を守っていた。
たった今愚痴を言ったのは、新参者の『篭手』の騎士ギャレットである。
「ギャレットの言うとおりだ。ココはセツナ様に知らせたほうが良い。」
「しかし、誰が王子に知らせに行く?我等はココを離れるわけには・・。」
「俺が行く。この中では俺が一番の新参者だからな。抜けてもあんまり変わらないだろ?」
「それは違うぞ、ギャレット。」
ギャレットの意見を否定したのは騎士団の紅一点である『剣』の騎士エルミナだった。
「お前に剣を教えたのはアタシだ。変わらないわけがないだろうが。」
「じゃあ、誰が行くんだ?」
「アタシに心当たりがある。」
「心当たり?」
「生駒 響さ。」
「響君ですか?」
「ああ。奴はアタシ達と変わらぬ実力を持っている上にセツナ様とも親しかったからな。」
「フム、確かに『フェンリルナイツ』に次ぐ実力をもつ響なら問題はないだろう。」
隻眼の騎士団長『鎧』の騎士コルドバードもその意見に賛成した。
「今頃、修練場で鍛錬している頃はずだから、アタシが話してくるよ。」
「俺も行くぜ。」
エルミナとギャレットは修練場へ向かった。

・・修練場
ビュンッ!ビュンッ!
「ハッ!ダァァァ!!」
修練場でたった一人で修行している少年がいた。
彼の名は生駒 響(いこま ひびき)
ネルフの総騎士団長の父とドラゴンマスターだった母を持つ竜騎士の少年である。
父:轟はネルフ襲撃事件の際、最前線で活躍したネルフ騎士団一の剣の使い手である。
ユイや他の騎士からの信頼が厚く、シンジやセツナの師でもある。
今は亡き母:静は竜の使役に関してはファルガイア 一と言われていた女性で、
人に懐かないはずのドラゴン種族を従え、空を舞う姿から『天竜姫』の異名を持っていた。
騎士の家系である父方の血を濃く受け継いだものの、母の血のおかげで魔力をもっていた。
響の持つ『シグルド』は『竜殺し』の異名をもつ生駒家に伝わる剣であると同時に
母の形見である『竜笛』を組み込んだ『竜殺し』と『竜呼び』の二つの名を持っていた。
母方の血の魔力のおかげで響もまた、守護獣をその身に宿していた。
響の守護獣は『魔』の守護獣ドラス・ドラムである。
ドラス・ドラムは闇属性の守護獣だが、デスブリンガーとは異なる闇の力を持っていた。
守護獣を持たずに無敗を誇る『フェンリルナイツ』に憧れ、今日も修行していた。
「オーイ!響ィ!!」
「ハァ・・ハァ・・ん?ギャレットさん、エルミナさんまで。」
剣を振る腕を休め、響はギャレット達の方を振り向いた。
「何か用ですか?」
「お前に任務だ。」
「任務?」
「セツナ様にルリ様が誘拐された事を知らせ、ルリ王子を救出してほしい。」
「それってセツナさんと合流しろって事ですか?」
「そういう事。」
「・・いいですよ。俺も久々にセツナさんに会いたいし。」
「OK。セツナ様は今、記憶の遺跡にいるそうだ。」
「分かりました。・・じゃあ、今から行って来ますね。」
ギュルッ・・
響の剣『シグルド』の柄が音を立てて伸び、柄の部分が笛の様になった。
「(飛竜・・招来。)」
〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜♪
バサッ、バサッ、バサッ・・
不思議な音色に誘われて、一頭の飛竜が響の前に降り立った。
「相変わらずとはいえ、どうも慣れねぇな。」
いつもの癖で身構えてしまったギャレットは頭を掻く。
トッ・・シュルッ
響は飛竜に乗り、手綱を竜に巻いた。
「それじゃ、行って来ます!」
ブワァァァァァァァ!
竜の羽ばたきで周りの草花が揺れる。
風で目を瞑ったギャレット達が目を開けた時には、飛竜は空の彼方へ飛び去っていた。

・・記憶の遺跡 深部
「ソラッ!」
バキッ!
セツナは箱をスイッチに投げつけた。
ヴゥゥゥゥゥゥン!
四つのスイッチの中央にあったモニュメントがクリスタル型の転送装置に変わった。
『・・ホログラムか。』
「この先に何があるんだろうな?」
『やっぱ財宝か♪』
「百聞は一見にしかず。とにかく行ってみようぜ。」
セツナが転送装置に触れようとした瞬間、
『セツナ!上だ!』
「チッ。」
ズーーーーーーーン!
セツナが転送装置から離れた瞬間、巨大な蜘蛛の魔物が現れた。
『・・アトラクナクアか。』
『苦労してクリアしたご褒美がこれ!?責任者出て来ーーい!』
「いや、千年前の建物だから、責任者出てきたら嫌だ。」
『・・くるぞ。』
キシャァァァァァァ!
ブシャァァァァァァァ!
アトラクナクアは口から糸を吐き出した。
『セツナ!奴の糸は触れただけでも猛毒だぜ!』
「知ってるさ。・・だから。」
セツナは大きい方のデスブリンガーを抜く。
「まずは防ぐ!」
ガッ!
セツナはデスブリンガーを地面に突き刺した。
「『闇の護障壁』!」
ヒュォォォォォォォォォォ!!
セツナ達の周りを黒い竜巻状の魔力が覆う。
ビシュンッ・・ビッ・・ブシュッ
護障壁に触れた糸は一瞬で蒸発した。
「今度はこっちの番だな。」
『まずは俺からだ!』
フッ・・
フェンガロンは風の流れに乗って移動した。
ズバッ!
次の瞬間、アトラクナクアはフェンガロンの爪牙で斬りつけられた。
キシャァァァァァァァ!
アトラクナクアはズタズタに引き裂かれたが、怯まなかった。
『・・ブラックレネゲイド!』
オォォォォォォォォォ!!
ヒュンヒュンヒュヒュンヒュンヒュンヒュン
ルシエドが咆哮すると、アトラクナクアの上に時空の穴が現れ、無数の剣が降り注いだ。
ドドドドドドドドドド!!
その剣がアトラクナクアに突き刺さった。
『・・主。』
「オウ!」
セツナは小さい方のデスブリンガーを抜いて、十字に構えた。
「・・。」
セツナは両目を閉じ、精神を集中させた。
カッ・・シュゥゥゥゥゥゥゥ
開かれたセツナの両目に呪印が宿り、護障壁とは少し違うオーラがセツナの周りを覆う。
ブシャァァァァァァァ!
動けないアトラクナクアが、口から糸を吐き出した。
「今の俺には・・無意味だ!」
セツナはスローモーションになった糸の隙間をすり抜けた。
「・・アクセルスマッシュ!」
ズバババババババババ!!
目に見えない程の連続斬撃でアトラクナクアはバラバラになり、消滅した。
「・・フゥ。」
両目の呪印が消えた。
「これで邪魔者は消えたな。」
『行こうぜ!』
『・・ウム。』
パァァァァァァァァ・・
セツナが転送装置に触れると、転送装置が光輝き、そのまま転送された。

・・記憶の遺跡 付近上空
バサッ、バサッ、バサッ・・
飛竜に乗った響が記憶の遺跡の近くまで来ていた。
「頑張ってくれ、もうすぐ記憶の遺跡だ。」
・・マスター・・
飛竜の隣に響の守護獣ドラス・ドラムが現れた。
「どうした?」
『遺跡の上空に時空の亀裂が生じました。・・魔族の手下です。』
「!?・・急ぐぞ、ドラス!」
『了解。』
響は記憶の遺跡に急いだ。

・・記憶の遺跡 最深部
「・・。」
『・・。』
『・・。』
セツナ達を千年前までファルガイアにいた亜人族:エルゥの映像を見終わっていた。
「リリティア・・。」
『ゴーレムだ!』
「ああ。ルリが操るルシファア、ベリアル、リヴァイアサンにセト。」
『それにミライが操るディアブロにバルバトス。』
『・・これで七体。』
『この端末はリリティアの眠る場所の地図みたいだな。』
「ラングレーの北の山に、ゴーレムの眠る棺があるって事か。」
『だったら、リリティア持って、ジオフロントに戻ろうぜ。』
「そうだな。ここ二年、全然帰ってなかったし・・。行ってみようぜ。」
『オウ!』
『うむ。』
ドカーーーーーーーーーーーーーーン!!
「な、なんだ!?」
壁が爆発し、穴から謎の生物が現れた。
「なんだ、コイツ。」
『今までに見た事のないタイプだ。』
現れたのは黒い体に骨の様な物が浮かんでおり、腹部に赤い珠を持つ魔物だった。
『・・なんか、目クリクリしてるな。』
「ああいう目の奴とはやりにくいんだよなぁ・・。」
カッ!
「『『!?』』」
ドカーーーーン!
魔物の目が輝いた瞬間、とっさに回避し、後ろの装置が破壊された。
「衝撃波か!」
『野郎!』
ブワァァァァァァァァ!
ガキンッ!
フェンガロンが吐き出した風のブレスを八角形の様なバリアで防いだ。
『チッ、厄介だな。』
ダッ・・
魔物(?)は突進してくる。
ギュンッ!
「オワッ!?」
魔物(?)の右手から魔力の棒の様な物が伸びた。
「衝撃波に槍か。・・おもしれぇ。」
『・・ん?何か聞こえないか?』
「?」
ズズ〜〜ン・・
ズズーーン・・
ズドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「ドワァッ!?」
また壁が爆発した。
「新手!?」
・・ゲホッ、ゲホッ・・やりすぎたか。・・
「ん?」
煙から現れたのは・・
「響!」
「あっ、セツナさん。ようやく見つけた。」
そう、響だった。
「どうしてお前が。」
「説明は後。とりあえず、コイツを片付けちまいましょう。」
「・・同感だ!」
カッ!
ドカーーーーン!
「おっと!」
今度は簡単に回避した。
「行くぜ!」
「はい!」
セツナは抜刀の構えを取り、響は魔物(?)に突っ込む。
「走れ!電光石火!」
バシュゥゥゥゥゥゥン!
セツナは地を這う衝撃波を放った。
バキーーーーーーーン!!
今度はバリアを完全に破壊した。
「斬・・奸!」
ズバババババ!
アクセルスマッシュには劣るが、それでも目に見えない程の斬撃で切り裂いた。
『・・。』
カッ・・ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
魔物(?)は十字架の火柱を上げて、爆発した。
『響。それ、親父さんの技だろ?』
「連撃系は苦手なんだよ。」
「・・ところで、響。どうしたんだよ?ジオフロントにいたはずだろ?」
「アッ!そうだ、忘れてた!セツナさん、緊急事態なんっすよ!」
「ど、どうした?」
「ルリ君・・じゃない、ルリ王子が魔族にさらわれたんですよ!」
「ナッ!?」
『!?』
『ハァ!?』
「ルリがさらわれたってどういう事だ!フェンリルナイツや城の騎士は何してたんだ!」
「魔族がジオフロントに来て、戦ってる隙に・・。」
・・マスター達を責めないで頂きたい・・
ヒュゥゥゥゥン・・
響の影からドラス・ドラムが現れた。
「ドラス・ドラム。」
『マスターやフェンリルナイツは懸命に戦っていた。大臣達がだらしなかったのです。』
「・・チッ、あの頭デッカチの役立たずが。・・で、ルリが何処か分かったのか?」
「ゼノム山って言ってました。」
「ゼノム・・あぁ、あの霊峰か。」
「知ってるんっすか?」
「こう見えても、南以外の地方ならほとんど行ったからな。」
『しかし、ココからだとエルゥのほこらは少し遠いが・・。』
「俺が呼んだ飛竜がいるから問題ないさ。」
「よし。じゃあ、行こうぜ。霊峰ゼノム山によ!」
「『オーーーーーーーー!!』」
『『・・。』』
声をあげる響とフェンガロン。
賛成だが、とりあえず沈黙するルシエドとドラス・ドラム。
こうして、少年二人、守護獣三体は霊峰ゼノム山へ向かった。

・・西 ラングレー北
ガシャン・・ガシャン・・
「偶然よね、まさかあの地震でゴーレムが目覚めるなんて。」
「この子、リリティアって言うんだって。」
復活したゴーレム:リリティアの肩に乗る美少女姉妹
「ヒカリ。アンタが通ってたクラン修道院ってこの辺り?」
「もう少しよ。」
「でも、ヒカリお姉ちゃんがあそこで学んでたなんて知らなかったなぁ。」
「そこにいるベレイラは守護獣の鳥達を使って噂を集めてるから・・。」
「ルリ君の居場所も分かるよね?」
「えぇ、きっと。」
「よぉし、待っててねルリ君!行けぇ、リリティアァ!」
ギュィィィィィィィン!
リリティアの脚部から魔力が吹き出し、その勢いでリリティアは加速した。


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