・・クラン修道院 前
「おっきぃ〜〜・・。」
上を見上げ、口を開けて呆然とする茶髪が混ざった金髪の女の子
「そりゃあね。ファルガイア全土でもこんなに大きな修道院はないよわ。」
「懐かしいわぁ。私、中退しちゃったけど、皆元気かしら。」
その後ろには二人の少女が立っていた。
一人は女の子に似ていて、腰に二丁の拳銃を差した少女。
もう一人はおさげの黒髪で、少しソバカスがある杖を持った少女。
「ねぇ、ヒカリ。ついでにさ。シンジやセツナの事も聞きましょうよ。」
「アッ!お姉ちゃん、ナイス♪」
「・・そうね。聞いてみましょう。」
そういう形の会話をしながら、三人の少女は修道院へ入っていった。

WILD・EVA 〜ワイルド・エヴァ〜
プロローグV 三人の少女が行く

・・惣流 アスカ・・
三大強国の一角『武』の国ラングレーの第一皇女である。
皇女でありながら、城下町で遊びまわる活発な皇女で、
少し短気な一面があるが、明るい性格や王妃にも劣らない美しさで民に大人気だった。
毎日届くラブレターや贈り物を一見する事も無く守護獣の炎で灰にしている。
それもそのはず、アスカが愛しているのはただ一人、婚約者のシンジだけなのだ。
初めて会った時は冴えないと馬鹿にしていたが、次第にシンジの優しさに惚れていった。
そして会ってから一年後、カンペキにベタ惚れとなった。
アスカは二丁拳銃のレプリカARMを自在に操り、複数の敵との戦闘を得意としている。
レプリカARMとはオリジナルARMを元に造られた、いわば模造品のARMである。
オリジナルは古代竜の骨でできていると言われているが、レプリカは完全な機械なのだ。
普通、レプリカでは鉄弾を使うのだが、アスカのシャドゥビュレットは魔力弾を使う。
これはアスカのARMが壊れたオリジナルとレプリカを混合させて造られたからである。
そして、アスカの守護獣は『勇気』のジャスティーンと『火』のムァ・ガルド。
ジャスティーンは獅子の顔を持つ騎士の守護獣でゼファーやルシエドと同じく、
感情を司る守護獣で守護獣の中では最高位に位置するガーディアンロードの一体。
ムァ・ガルドはシンジのもう一体の守護獣『水』を司るシトゥルダークや
セツナのフェンガロン同様、四大元素を司る守護獣である。(もう一体は行方不明)
現在はシンジを探す為に、妹のミライと親友のヒカリと共に旅をしている。

・・惣流 ミライ・・
アスカの妹であり、ラングレーの第二皇女
ミライはファルガイアでも数千万人に一人と言われている超能力者(エスパー)である。
まだ幼かった彼女はその力を恐れ、自分の部屋から出ようとしなかったのだが・・
遊びにきたシンジとセツナについて来たルリと出会った事からミライの生活は変わった。
常人外れの魔力をもつルリは自分と似た様な境遇のミライを放っておけなかったのだ。
最初はルリが来ても隠れていたが、次第に打ち解け合い、いつの間にか仲良くなっていた。
そこで王妃キョウコと当時まだ生きていたメノウの策略でミライとルリは婚約者になった。
ミライが首に下げているオカリナは『巨人のオカリナ』と呼ばれる魔法のオカリナである。
『巨人のオカリナ』はジオフロントの秘宝で二つ存在するゴーレムを操る力を持っている。
ゴーレムとは、千年前に人とエルゥが創りだした八体の人工守護獣の事である。
ミライのオカリナは『無』『火』『氷』『雷』のゴーレムを・・
もう一つはルリが持っており、『魔』『地』『風』『海』のゴーレムを操る事ができる。
現在ゴーレムはリリティアを含めて、七体まで見つけられている。
見つかっていないのはミライのオカリナで呼べる『無』のゴーレムだけなのである。
そしてミライの武器は昆虫型のデバイス:ビットと呼ばれるミライに従う兵器である。
これは突撃型のエスペランザと補助型のバスティスの二種類がいる。
ミライの守護獣はガーディアンロードの一体『愛』を司る守護獣ラフティーナと
四大元素の守護獣に劣らない『雷』を司る守護獣ヌァ・シャックスの二体である。
ルリが誘拐された話を聞き、アスカにむりやりついて来て、冒険の旅に出かけたのだった。

・・洞木 ヒカリ・・
アスカの親友であり、十七歳にしてラングレー城のメイド長を任されている。
幼い頃に親を亡くし、クラン修道院の院長:シスターマリーに拾われた孤児の少女で、
真面目な性格や一生懸命皆をまとめる姿から『委員長』というあだ名があった。
ある日、ラングレーの女王キョウコがアスカを連れて恩師であるマリーに会いに来た。
その時にアスカとヒカリは仲良くなり、そのままキョウコが引き取る事になったのだ。
ある日、アスカの婚約者であるシンジが親友のセツナを連れて遊びに来た事があった。
シンジの事はアスカから毎日の様に聞かされていたので、すぐ分かる事ができた。
しかし、ヒカリにとってはセツナの明るい表情の方が印象に残った。
カチカチになったヒカリをアスカがサポートし、セツナもまたヒカリの事が印象に残った。
次第に二人の距離は短くなり、10歳のなる頃には既に公認の仲になっていた。
その翌年、セツナは旅立ってしまったが、ヒカリはラングレーに残った。
アスカ曰く『一緒に行くより、待ってる方が妻らしい』だそうだ。
その後、ルリがさらわれた事を知ったミライやアスカが旅立ち事を決意し、ヒカリもまた
キョウコの頼みで、二人のお目付け役(喧嘩の仲介役)として旅に同行する事になった。
ヒカリの持つ聖杖エーテルフローズンという杖は、持ち主の魔力を攻撃力に変換したり、
逆に敵の魔力を吸い取る事もできる魔法を使う者にとってはまさに理想の杖である。
ヒカリは『光』の守護獣ステア・ロウと『命』の守護獣オードリュークを身に秘めている。
ステア・ロウは甲虫の姿をした守護獣で体に埋め込まれた宝玉から強力な光線を放つ。
一角獣の姿をしたオードリュークは守護獣の中でも珍しい、回復タイプの守護獣である。
二人のお転婆王女と共に苦労の絶えない少女の旅が始まったのだった。

・・クラン修道院
ロクな情報がない三人組はヒカリの育ったクラン修道院にやって来た。
修道院の生徒であるペレイラは小鳥の守護獣を何羽も従えており、世界中に飛ばしている。
そして、あらゆる情報を手持ちのノートに書いているのだ。
「ヒカリ!」
「ヒカリじゃない!」
「あっ、委員長!」
修道院の生徒がヒカリ達に気付いた。
「皆!」
ヒカリが生徒達に近づく。
「へぇ、やっぱりヒカリって人気あったんだ。」
「お姉ちゃんは自分勝手すぎるもんね。」
「何か言ったかしら?」
グリグリグリグリグリ・・
「イタタタタタ!痛いよ!!」
「五月蝿いわね!アンタが余計な事言うからでしょ!」
「何よ年増!」
「何よガキ!」
「・・。」
ヒカリは何やらブツブツと唱えている。
「ヒカリ?」
「スプレッド!!」
バシュシュシュシュシュシュ!
ヒカリは二人に無属性魔法:スプレッドを放った。
「いい加減にしなさい!」
「「・・ハイ。」」
「あっ、そうだ。ねぇ、ペレイラは何処にいるの?」
「あ・・。」
生徒達が静まる。
「どうかしたの?」
「ヒカリ・・実はね。」


「ペレイラが行方不明!?」
「えぇ、昨日から姿が見えないのよ。」
「そんな・・どうして。」
「それは・・。」
「開かずの間が開いたからよ。」
「!?」
ヒカリが振り向くと、少し年老いたシスターが立っていた。
「シスターマリー!!」
ガバッ!
ヒカリはシスターマリーに抱きついた。
「お久しぶりですね、ヒカリさん。」
「はい・・お元気そうでなによりです。・・ところで。」
「ペレイラの事ですね?・・あなたは開かずの間の事を覚えていますか?」
「はい。術で封印されて絶対に入れない部屋ですよね?」
「・・その部屋が最近になって、開いたのです。」
「それって、封印が何かの形で解けたって事ですか?」
「はい。私達は生徒達に近づかないように言ったのですが・・。」
「噂好きのペレイラはその注意を聞かずに、その部屋に入ったのですね?」
「えぇ。」
「そこに何かあるのかな?」
「あら?そちらは・・。」
「お久しぶりです、シスター。」
「アスカ姫、お久しぶりです。では、そちらはミライ姫ですね?」
「はい。ミライ、こちらはママの先生だったシスターマリーよ。」
「ママの先生?・・はじめまして、惣流 ミライです。」
「はじめましてミライ姫。先程、部屋に何かあるかお聞きしましたね?」
「はい。」
「あそこには火の精霊ネルガルが封印された書があるのです。」
「ネルガル・・ですか?」
「精霊ではありますが、その能力は守護獣の力すら封じると言われています。」
「でも、ペレイラはそこにいるんですよね?」
「ええ。」
「なら決まりね。アタシ達もそこに行くわよ。」
「お姉ちゃんなら言うと思った。」
「アンタはどうする、ヒカリ?」
「・・もちろん行くわ。ペレイラがいるんですもの。委員長として放っておけないわ。」
「貴方達・・。」
「シスター、行ってきます!」
「・・分かりました。では、これを持って行ってください。」
シスターマリーはヒカリに赤い宝玉が付いた杖を渡した。
「ティンダースタッフですね?」
「何なの、その杖。」
「言い伝えだと部屋の奥はダンジョンになってるの。火属性のこの杖は必要なのよ。」
「どうして?」
「行ってみれば分かると思うわ。」

・・開かずの間
「何、これ?」
部屋の中には何も無く、壁には絵文字の様なものが刻まれていた。
「これが奥に行く為の手掛かりなの。」
「これって、涙?」
「涙を落とせって事かな?」
「じゃあ、簡単ね♪」
ポカッ!
「痛ッ!?」
アスカはミライの頭を叩いた。
「何するのよ、お姉ちゃん!」
ミライの目尻に涙が浮かぶ。
「これでいい?」
アスカはミライの涙を拭い、その涙を壁の絵に当てた。
パァァァァァァ・・

・・封印図書館
「何なのよ!いきなり光って!・・ってココは何処?」
「封印図書館、修道院の皆はそう呼んでいるわ。」
「確かに本はいっぱいあるけど・・これじゃあ、まるでダンジョンじゃない。」
「だから封印されて、封印図書館っていうのよ。」
「へぇ・・どうかした、ミラ・・。」
ドカッ!
アスカに顔面にデバイス:エスペランザが体当たりした。
「イッタ〜〜・・何すんのよ!」
「最初にやったのはお姉ちゃんでしょ!これでチャラよ。」
「・・しょうがないわねぇ。・・で、これからどうするの、ヒカリ。」
「各部屋にある燭台に火を付けながら進むの。火を付ける事で扉があく仕組みよ。」
「なるほどねぇ。じゃあ、アタシがムァ・ガルドで・・。」
「ストップ!」
「な、何よ。」
「ココではこのティンダースタッフじゃないといけないの。他の火だと罠が発動するわ。」
「罠?どういう罠なの?ヒカリお姉ちゃん。」
「火が具現化してモンスターになるの。守護獣の火なんて使ったら・・。」
「どうなるの?」
「下手すれば、ココに封印されているネルガル以上のモンスターが現れるわよ。」
「そ、そう。」
「燭台の焼け跡から見て、ペレイラが進んだのはかなり前みたい。急ぎましょう。」
「そうね。」

・・数時間後
「この先にネルガルが封印された部屋があるの。」
「ここはどうするのよ?燭台なんてどこにもないわよ。」
「扉も、今までと違うよ。・・なんか、パスワードを入れるみたい。」
「たぶん、この部屋のどれかの本にヒントがあると思うわ。」
「どれかって・・この部屋の全部!?」
アスカ達がいる部屋は封印図書館で一番大きく、本はおそらく一万部以上あるだろう。
「とにかく読んでみて、パスワードだと思ったら、入力してみましょう。」
「そうね。」
「これかな?」
ピッポッパッ・・
ミライはあるキーワードを入力してみた。
ピンポ〜〜〜ン♪
一発で当たった。
「ミ、ミライ!?何って入れたのよ?」
「『ガーディアンブレード』って。」
「それって、確か千年前に大地を切り裂いて砂漠に変えた奴よね?」
「古文書には元はエルゥの男が世界を守護するために創った剣って言われているの。」
ギィィィィィィ・・
扉が音を立てて開いた。

・・最深部
「ペレイラ!?」
そこには壁に寄りかかって気絶した少女:ペレイラがいた。
「ペレイラ!ペレイラ!!」
「う・・。」
ペレイラが目を覚ました。
「・・ヒカリ。」
「良かったぁ・・。大丈夫?」
「うん・・アタシ、ネルガルに捕まって。」
「そのネルガルは?」
「アタシの魔力を吸い取ってその本に。」
「なら、今のうちに燃やしちゃえばいいのね?」
「駄目!火属性のネルガルの本を燃やしたら、逆に強くなっちゃう!」
「・・なら。」
シュピィィィィィン!
アスカの銃の銃口から魔力の刃が飛び出し、本を真っ二つにした。
哀れ、ネルガルの出番無しで終わった。

・・クラン修道院
「なるほどねぇ、ジオフロントの王子様がさらわれたのは知っているわ。」
「それで、ルリ王子が捕まってる場所を教えてほしいの。」
「いいわ。ちょっと待ってね。」
パラパラパラ・・
ペレイラはノートのページを捲った。
「・・あった!ルリ王子は霊峰ゼノム山よ。」
「ゼノム山・・結構、遠いわね。」
「それと、シンジ王子とセツナ王子も別々だけどゼノム山に向かってるわ。」
「シンジ(セツナ君)も!?」
「うん。セツナ王子の方は誰か他の子と一緒みたい。」
「きっと響ね。アイツ、セツナと仲良かったし。」
「それじゃあ、今からゼノム山に・・。」
ゴゴゴゴゴゴ・・
辺りが揺れ出した。
「キャッ!?」
「な、何?」
ドーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
中庭の地面が砕け、その穴から巨大な魔物が現れた。
「あれは!?」
『フフフフ・・ついに、ついに地上に出られたぞ。』
「何ということでしょう・・。」
「シスター?」
「あれこそがネルガル。火星霊の書に封印された精霊獣です。」
「エッ!?でも、書は真っ二つに・・。」
「お姉ちゃん、もしかしてそれがまずかったんじゃあ・・。」
「あ・・。」
「・・アスカ。」
「分かってるわよ。」
チャッ・・
アスカは銃を抜いた。
「ここで引いたら、ママに殺されるわ。惣流 アスカ、行くわよ!」
「しょうがないよねぇ。・・パスティス!エスペランザ!」
ブゥン、ブゥン
ミライの左右に二体のデバイスが浮かぶ。
「皆は離れてて。」
「ヒカリはどうするの?」
「私だって、伊達にラングレーのメイド長をしてないわ。アスカとだって渡りあえるわ。」
ヒカリも愛用の杖を握る。
「行くわよ、ムァ・ガルド!」
「ヌァ・シャックス!」
「ステア・ロウ!」
アスカの後ろに四枚の翼をもつ赤い竜が
ミライの後ろに胴体に三対の角があるライオンが
ヒカリの後ろに体中に宝玉が埋め込まれた巨大な甲虫が出現した。
『貴様等、召喚術士か!』
「召喚術士?」
「昔は守護獣を召喚できる人は少なかったの。召喚できる人の事を召喚術士と言うのよ。」
「・・まっ、いいわ。ムァ・ガルド!アンタの焔でアイツの炎を飲み込んじゃいなさい!」
『了解したわ。』
「シャックス!お姉ちゃんのムァ・ガルドに遅れを取らないでよ!」
『へ〜い。』
「ステア・ロウ。頑張ってね。」
『了解しているよ、ヒカリ。』
『戯けた事を!』
ネルガルは炎を吐き出した。
『貴公如きの炎では私の焔を飲み込む事などできないわよ!』
シュゥゥゥゥゥ・・ブワァァァァァァァァァ!!
ムァ・ガルドは深呼吸した後、ネルガル以上の炎:『焔』を吐き出した。
『バ、バカナ!?』
「ミライちゃん!」
「ウン!シャックス!」
「ステア・ロウ!」
『『了解!』』
バジジジジジジ・・
シュィィィィィィィ・・
ヌァ・シャックスはバチバチと帯電し、ステア・ロウは宝玉に光を集めた。
『レイジハンマー!!』
『アウゴエイデス!!』
バーーーーーーーーーーー!!
ヌァ・シャックスの口から強力な電撃砲が吐き出された。
ステア・ロウも宝玉から純白のレーザーを放った。
『グワァァァァァァァァァァ!?』
ネルガルは二体の攻撃に飲み込まれた。
『バ、馬鹿な・・折角・・出てこられたのに・・ギャァァァァァァ・・』
ネルガルは塵の様に崩れ去った。
「炎でアタシに勝とうなんて一億年かかっても無理よ!」
「・・さすが、キョウコさんの娘ですね。ヒカリさんもお見事です。」
「ありがとうございます。」
「お姉ちゃん!早くゼノムって所に行こうよ!」
「分かったわよ。それではシスター、失礼します。」
「私も行きます。アンジェ師にもよろしく伝えて下さい。」
「えぇ、気をつけて。」
「ムァ・ガルド、このままゼノム山までアタシ達を連れてって。」
『了解。』
こうして、アスカ達三人もゼノム山に向かうのだった。

・・ゼノム山 魔族軍前線基地
魔族の長:マザーの第一の封印が安置された霊峰である。
しかし、魔族の襲撃で最初の封印は解け、魔族達はココに前線基地を建てたのだった。
「まさか、霊峰にマザーの封印があったなんて。」
腕を縛られながらも、走る少年。
「早くシンジさんやセツナ兄さんに伝えなきゃ。」
セツナと同じ灰眼の少年は基地の中を駆けるのだった。


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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
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