-------------------------------------------------------------------------

雨 in  第3新東京市

by  しろくま
-------------------------------------------------------------------------



「あっちゃー、降ってきちゃったわねー」

たまごやきをくわえ、窓によりかかりながら栗色の髪の少女…… 惣流・アスカ・ラ
ングレーはそう呟いた。

「ねえヒカリー 傘持ってきた―?」

アスカは自分の親友である洞木 ヒカリに尋ねた。

「持ってきてるけど… 私、今週は週番なのよ。」

「うそー 今日はネルフに行かなきゃいけないのよね。 どうしよう……」

使徒をすべて倒してしまった現在、ネルフとエヴァは世界平和の象徴としてそのまま
残されていた。 もっともエヴァは世界を威圧するために残されたと言っても良いか
もしれない。

「碇くんは? 持って来てないの?」

「あいつがそんなに気がきくわけないじゃん」

(相合傘ってのもいいけどねぇ。 でも、今時小学生でもやらないわよ……)



「やっぱり止まないわねえ」

アスカは昇降口で途方にくれていた。 昼に降り出した雨は16時になりさらに強く
なっている。

「ヒカリは遅くなるって言ってたし、やっぱシンジに頼るしかないのかなあ」

溜め息をつきながら自分の同居人であり、そして意中の人でもある碇 シンジの下足
箱を覗き込んだ。

まだ校内にいるようだ。

授業終了から15分が経過し、ほとんどの生徒が帰ってしまった。 大雨洪水警報並
びに暴風警報が発令されたため、クラブ活動も中止されている。

「まったくどこほっつき歩いてんのよ! あのバカは!」
(アタシが相合傘で帰れるかなって期待して待って………

「それって僕のこと?」

都合良くシンジが現れる。 思考ループに陥りかけてたアスカはびっくりしてその声
の主、碇 シンジのほうに振り返った。

「お、お、お、遅かったわね!」

「ああ、ごめんね」

(やったー(ハァト) これでシンジと相合傘で帰れるー いやーん)←?

「そうだ、アスカ。 今朝、傘持っていかなかっただろ?」

(そうよ! だからアンタの傘に入れてよね んでもって相合傘よ♪ 相合傘♪)

「はいこれ」

(へ?)

シンジが差し出した物はアスカの赤い折り畳み傘だった。

アスカの思考回路がショートする。

「今朝、行がけに目に付いたんだ。 余計なお世話だったかもしれないけど持ってき
ちゃった」

がらがらがら

アスカは自分の計画が崩れる音が聞こえたような気がした。

(あー! このバカシンジ! 余計なコトするんじゃないわよ! 相合傘どうしてく
れんのよー!(ToT) 畜生! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやるって シ
ンジを殺してどうすんのよアタシはー! それじゃ意味無いじゃない! ううー)

アスカの思考はシンジへの恨みと自己嫌悪で今度こそループしていた。

「それでさ、一つお願いがあるんだけど… 聞いてくれるかな……?」

「何よっ!!!」

アスカは複雑な心境の為、不機嫌さを隠すことが出来なかった。

「じつはさ、トウジとケンスケも傘忘れちゃったんだ。 トウジは委員長の傘に入れ
てもらうことになったんだけど、ケンスケはどうしようもないから僕の傘を貸し
ちゃったんだ。 だから、その…………」

アスカはシンジの言わんとすることを瞬時にして見抜いた。

(やったー これでシンジと相合傘で帰れるぅ♪)

と、内心小躍りしながらも不機嫌さを装いながら意地悪く言った。

「で、何が言いたいのかなァ シンジくーん?」

どうしても相手から告白されたいというプライドの高いアスカの思考。

「いや…… それは、その………」

「はっきり言いなさいよ!」

はっきりしないシンジに少し苛立ちをおぼえるアスカ。

「ア、アスカの傘にいっしょに…… いれて欲しいんだけど………」

アスカは「待ってました!」 とばかりに不機嫌さをキープしながら答える。もちろ
んシンジは真っ赤になってうつむいている。

「しょうがないわねえ。 アンタはお人よし過ぎるのよ! 今回は仕方ないから入れ
てあげるけど…… 次は無いわよ!」

(わーい♪ 相合傘だ―! すきっぷ♪ すきっぷ♪ らん♪らん♪らんー♪)

表面上、不機嫌を装っていたためか、アスカの内なるモノはバクハツしてしまったよ
うだ。

二人は仲むつまじく帰路についた。

ちなみに、これがヒカリの心遣い&計画だったことに二人が気づくことは無かった。
そして彼らを一つの影が追っていたことも………



続く

















続き


(シンジと相合傘♪ シンジと相合傘♪ シンジとあいあいぎゃ)

かぷっ

(あいた! 舌噛んじゃった! でもシンジと相合傘♪)

どうやって心の中で舌を噛むのだろう…… そんなことは置いといてアスカの心の中
は降伏もとい幸福の2文字に支配されていた。

「それにしてもこう雨が酷いと気分もブルーになっちゃうわねえ。」

「そうかなあ?」

「そうよ! それともアンタ雨降りが好きなの?」

「うん。 好きだよ?」

「珍しいわね…… 雨がスキなんて。 どっこも出かけられないのよ?」

「まあそうだけど…… 風の音が好きなんだ。 あと雨が雨戸に当る音とか。 木が
ゆれる音とか……」

「……なんか危ない趣味ね…………」

「そうかなあ。 ゾクゾクって来ない?」

「アンタ… ほんとに危なくない? 実はサドとか」

「そこまで言わなくても……… でも、洗濯物が干せないしなぁ。 雨には好きなと
ころと嫌いなところがあるってことかなあ」

「そうかもね……… って、なにやってるのよアンタ!」

ちらっとシンジの方を見ると左半身がずぶ濡れだった。 一方、アスカはほとんど濡
れていない。 この状況では相合傘と言うよりはシンジがアスカに傘を着せていると
言った方が正しいかもしれない。

「え、どうかしたの?」

「アンタずぶ濡れじゃないの! 傘にほとんど入ってないじゃない!」

「でも、アスカが濡れちゃうでしょ? それにこの土砂降りじゃ傘を着なくてもあん
まりかわらないよ」

(うううううっ アンタは本当にやさしいのね……)

先程までシンジと相合傘しているということで有頂天になっていたアスカは自分が恥
ずかしくなった。


ぎゅううううううんん!!!

びしゃぁ!!!

「うひゃあ!」

80q/hを超えるような猛スピードで走ってきた青い車がシンジに水を引っ掛ける。

「ちょっと、シンジ大丈夫!? 何すんのよ!!!!」

すでに車は走り去った後だった。

「大丈夫だよ、アスカ」

よく考えるとアスカは右側の歩道を歩いている。そしてシンジはアスカの左にいる。
アスカを少しでも安全な場所を歩かせようと努力しているのがよくわかった。なるべ
くアスカが濡れないようにと傘の角度にまで注意している。

(…………………………バカ。 あんたほんとにやさしすぎるよ……………)




「あれ? シンジ、肩濡れてるじゃない」

今、気づいたように声をかける。

「風がきついからね」

言い訳にならない言い訳をするシンジ。

「風邪引いちゃうわよ」

「だいじょうぶだよ」

「あんたに風邪ひかれるとアタシが困るのよ!」

そう言ってシンジの右腕に抱きつく。

「こうすればアンタも傘には入れるでしょ?」

恥ずかしいのでそっぽを向いて話すアスカ。 その顔は真っ赤になっていた。

「ア、アスカー。 恥ずかしいよぉ……………」

同じように真っ赤になっているシンジ。

「なんか文句あるの!?」

照れ隠しにそう言い放つアスカ。

「わかったよ」


わずかな時間だったが至福のときを過ごす二人。

「このままずーとシンジと一緒にいられたらいいなぁ」

「何か言った?」

「ううん。 何にも」

「そう。 僕もそう思うよ」

「え?」

「何でも無いよ」

「教えてよ―」

「お相子だよ」

「ずるーい」





















<おまけ>

さて、こちらは黒い影こと相田 ケンスケさんです。 シンジ君とアスカちゃんの幸
せそうな写真を涙を流しながら沢山撮っていらっしゃいます。

(ふっふっ、これであいつらを脅してやる!俺を怒らせたことを後悔しやがれ!
シンジには…… 写真とネガをぼったくってやる! アスカには…… 写真販売の許
可を出させるか……)

かなり悪巧みしてますねえ。 おや? 何でしょうか? 黒塗りの車がいち・にい・
さん………5台は来ましたねぇ。 どうしたんでしょう

あれ? ケンスケさん囲まれちゃいましたよ。

「な、なんのご用でしょうか?」

かなりびびってますねえ

「我々はネルフ保安諜報部の者だ。 相田ケンスケだな?」

「は、はい!」

「先程、チルドレン二人を盗撮したカメラ、及びネガを徴収しに来た。」

「え、どうしてですか!?」

確かに二人に…… 特にアスカちゃんにばれた半殺しですからねえ
ケンスケさんにとっては死活問題ですねえ

「シークレットだ。 教えるわけにはいかない」

「でも………」

「もちろん代金の方はネルフで払う。」

わ、すごいすごい! 札束ですよ札束!

「わお」

「100万用意した。 これで譲っていただけるかな。」

こくこくこく

ケンスケさん… 思いっきり首を縦に振りまくってますよ
確かに人間誰でも、札束目の当たりにしたらああなりますね

でも、何に使うんでしょうね? あの写真………




<おまけ その弐>

数十分後……

「どうやら回収できたようだな」

「ああ」

「写真とネガに100万か…… 無駄遣いではないのか?」

「問題無い」

「葛城君の作戦、ちょっと酷くないか?」

「作戦は成功し、状況は好転した」

「それにしても相手はセカンドチルドレンのようだな……」

「その通りだ」

「ということは賭けは私の勝ちということだな」

「グッ…… 『コト』は計画よりも早く進む。 それで十分だ」

「そうだな。 ところで葛城君たちがその写真を焼き増ししてほしいそうだ」

「一枚100円だ」

「せこいぞ 碇」

「何事にも金はかかる。 それよりも冬月」

「どうした碇?」

「賭けはまだ終わってないぞ。シンジは優柔不断だからな」

「………お前の子だな」

「……………(にやり)」


終わり


マナ:しろくまさん、投稿ありがとう。

アスカ:シンジと相合傘〜。

マナ:中学生にもなって、そんなことで喜ばないでよね。

アスカ:あら、なーに?

マナ:なによ?

アスカ:実は、羨ましいんでしょぉ。

マナ:違うわよーだ。フン。

アスカ:無理しちゃって。

マナ:だいたい、シンジがぼとぼとになってるじゃないの。

アスカ:そうなのよねぇ。アタシを濡らさない様にシンジったら・・・。(*^^*)

マナ:はぁ・・・。重傷ね。

アスカ:なによーー。羨ましいの?

マナ:あー、もぉ、うるさーーい。

アスカ:やっぱり、羨ましいんだ。

マナ:いいもん。碇司令をうまく丸め込んで・・・(ぼそぼそ)

アスカ:ちょっと、何たくらんでるのよっ!(ーー;;;
作者"しろくま"様へのメール/小説の感想はこちら。
s-kondo@pop12.odn.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system