※これは全くのオリジナルな設定です。
  使徒、エヴァ、ネルフ、セカンドインパクトその他もろもろは存在しません。



『あの夏の日』 前編

暑かった一日が終わり、夏の太陽はいま沈もうとしている。 私は、割り切れない思いを抱えたまま名も知らない川べりを歩いていた。 数カ月前、私は14才で大学を卒業した。これからはママと一緒の研究室に入って、ロ ボット工学の研究者になる予定だ。これはママの長年の願いだったし、卒業した晩はす ごく喜んでくれて、めずらしく早く帰ってきてささやかなお祝いをしてくれた。 でも、と私は思う。私は研究者になりたくて10才で大学に入り、周囲の奇異の目にさら されながら勉強してきた訳じゃない。 ・・・私は、ただ、ママに喜んでほしかっただけ。そして、その目的は達した。 だけど、今のあたしの胸には漠然とした不安が広がっている。 (ママはあたしが好きなんじゃなくて、あたしのこの頭脳が、天才と呼ばれる才能が好き なんだろうか・・・?) ママは、小さい頃から私に英才教育を施してきた。私を一流の科学者にするために。自 分の娘を天才にする事、それがママの夢だったらしい。 ・・・だから、私のパパにはすごくIQの高い人を選んだ。精子バンクで、ね。 期待通り、私のIQはすごく高いものになった。ママはそれが嬉しかったかも知れない。 でも、そのせいでわたしにはともだちができなかった。同年代の子供たちの、年相応の 子供らしさに、私はうまくあわせられなかったから。だから、私はわざと居丈高に振る 舞った。そうすれば、周りから浮いている自分をごまかすことができたから。 ・・・ママは言ってた。 「アスカちゃん、あなたは特別な子なんだから。気にすることないのよ」 私は、従った。 だから、私にとってママは唯一の友達であり、教師であり、母親だった。 その愛情は暖かいけれど、もし、その愛情が私自身にではなく私の資質に向かっている のだとしたら・・・ そんな考えが最近になって私を苦しめる。結論も出ないまま、誰に相談することもでき ず、決して明けない夜の闇を彷徨っているような気持ちだ。
私は、独り
だから、私はママにお願いして一年間の時間を貰った。もちろん勉強は続けているけ ど、研究室に入るのを一年間延期させて貰ったのだ。 「私も、ちょっと遊んでみたいの」 ママには、そういってある。ママもこれまでの詰め込み教育を心のどこかで後ろめたく 思っているのか、勉強を怠けないことを条件にそれを許してくれた。 ・・・それから私は、毎日この川べりを歩きながら自分のことを考え続けた。自分の価 値、自分の存在意義のことを・・・。 だけど、考えれば考える程分からなくなる。大学で学んだ知識など、何の訳にも立たな かった。・・・やっぱり、私は自分の才能とママだけのために生きているんだろうか? その時。私の耳に、穏やかで、それでいて力強い、どこか懐かしい響きが聞こえてき た。 (これは・・・?) 音のするほうに目を向けると、沈みかけた太陽を背景に誰かが大きな楽器を奏でるシル エットが見えた。 (あれは、チェロ) 人影のほうは後ろ姿しか見えない。だけど、白いカッターシャツと青いジーパンはそれ が男性―その線の細さからして、たぶん同じ年くらいの少年―であることを示してい た。 (誰だろう?) 私は興味を引かれた。近づいてみることにする。 距離が3m位になったところで彼が気づいた。チェロを大切そうに傍らにおいて、こちら を振りむく。 「・・・君、誰?」 どこか気弱そうな、整った中性的な顔立ち。華奢な手足。背の高さからして私と同じ位 の年なんだろうけど、男の子にしては細すぎる。病人なんだろうか?こちらを戸惑いの表 情を浮かべながら見ている。 「あんたばかぁ〜?人に名前を聞くなら自分から名のりなさいよねっ!」 ・・・また、やっちゃった。これが私に友達の出来ない理由。理解されないのが嫌で、 拒絶されるのが怖くて、私はこうやって他人との距離を保つ。だからいつも、私と会っ た人は不快そうな表情を浮かべた。特に、男の人は。 でも。彼は不快そうな表情を見せなかった。それどころか、軽く微笑みながらこう返事 してくれたのだ。 「それもそうだね・・・。僕は碇シンジ。この近くの第壱中学校に通ってる。事情が あって、ほとんど行ってないけどね。見たところ君も同じ位の年みたいだけど、やっぱ り中学生?」 私は戸惑った。こんな反応を返してきた人はこれまでに誰もいなかったから。動揺を隠 すために、私はさらに虚勢を張った。 「はんっ!あたしをそこらの14才と一緒にするんじゃないわよ!!!あたしは今年大学を卒 業した天才少女、惣流・アスカ・ラングレーっ!!!私と知りあえたことを幸運に思いなさ いよ!!!」 彼―シンジは目を見開いた。 「す、すごいんだね、惣流さんって。その年で大学を・・・。はは、劣等生の僕には想 像もできないや。」 言ってる私でさえ不快になるような言葉にも、シンジは顔をしかめはしなかった。彼の 素直な態度には、皮肉・嫉妬・羨望などこれまで私に向けられてきた感情が全く感じら れない。私はますます戸惑い、理由のない焦りさえ感じていた。 「と、ところでっ!あんた、何でこんなところでチェロなんか弾いてんのよ?」 「僕が今いるところは、静かにしてなくちゃいけなくてさ。こいつを弾けるような場所 じゃないんだ。だから気兼ねなく思いっきり弾ける場所を捜してたんだけど、やっと今 日になってここを見つけたってわけなんだよ。」 「ふぅーん、そうなんだ」 言ってから私は愕然とした。この私が、同年代の男の子と普通に会話しているのだ。こ れまで、私と話そうなんて子はいなかった。誰もが私の態度に腹を立て、すぐに私の前 からいなくなるのが常だったのに・・・ 「君が、家族以外で僕のチェロを聞いた初めての人なんだけど・・・どうだった?」 彼の澄んだ瞳にかすかに不安の色が浮かぶ。そのすがるような視線に、私は何となく頬 が上気するのを感じた。わざと吐き捨てるように言ってみる。 「わ、悪くは、ないわね」 「本当!?よかった・・・、ありがと」 彼の瞳から不安の色が消え、これまでで最大級の笑顔が浮かんだ。それはこの世のもの とは思えない程暖かく、そして純粋だった。 それにみとれていた私は、ある決心をした。 「あ、あんた、これからここでチェロを弾くの?」 「え?あ、うん。雨さえ降らなければ、毎日でもここで弾こうと思ってるけど。」 私はこれまでの人生、拒絶を恐れ人を遠ざけてきた14年間で、初めて自分から人にはた らきかけた。今持ってる自分の精一杯の勇気で。 「な、ならアタシが聞いてあげてもいいわよ。」 「・・・え・・・」 「い、今休暇中だから毎日暇だし。退屈しのぎにあんたの演奏を聴いてやってもいいっ て・・・」 「ありがとうっっっ!!!」 突然、シンジが私の両手を握ってきた。・・・彼の手から伝わってくる暖かいぬくもり に、私の思考はしばらく凍りついてしまった。 数秒後、私は何とか声を出した。 「て、手を・・・」 シンジは今になってやっと私の手を握り締めていることにきづいたらしい。真っ赤に なって手を離す。 「ゴ、ゴメン・・・」 「べ、別にいいわよ。それよりあんた、絶対ここに来なさいよ!?このアタシを待たせる ことは許さないからね!」 照れ隠しに、私はいつもの居丈高な態度をとった。周りの人を嫌がらせてきたこの態度 にも、シンジは穏やかな笑顔を返してくる。 「分かってるよ。君は僕の演奏を聴いてくれるんだから・・・。そうだね、じゃあ、毎 日4時に、ここで。」 立ち上がり、チェロをケースにしまう。椅子を小さく折りたたみ、小脇に抱える。 その何気ない動作にも、私にはシンジの優しさが見え隠れしているように思えた。 「じゃ、また明日ね、惣流さん。」 軽く手を振ってシンジが帰ろうとする。私は、自分でも真っ赤になっていることが分 かったけど、勇気を振り絞ってその背中に向かって叫んだ。 「こらっ!馬鹿シンジッ!!!あ、あんたには特別にあたしを名前で呼ぶ事を許して上げる わ!!!光栄に思うのね!」 顔がさらに赤くなっているのが分かる。 それを隠すように、私は自分の家のほうに駆け出した。 「分かったよ・・・、アスカ」 という親しみのこもったつぶやきを背にして。 その夜。私はこれまでに感じたことのない感情に戸惑っていた。 (碇、シンジ・・・何で、あいつはわたしに腹を立てないのかな?何で、あいつはわたし に優しいのかな?何で・・・) でも、悪い気分じゃなかった。初めての、ママ以外の人との親しい会話。 (明日、4時だったわよね・・・?) ベッドから窓の外を見る。空には雲が出ているらしく、星の数もかなり少なかった。 (雨が降りませんように・・・) わたしはそう願ってから目を閉じた。すぐに眠りが訪れる。 ・・・これが、わたしとシンジとの出会いであり わたしの『夏』の始まりだった・・・ 続けさせていただける、かな? 【あとがき】 こんにちは、旅人です。二度目・・・の投稿になりますね。 こりもせず駄作を投稿させて頂きました。 「へたくそ」「やめろ」 何でも結構ですので感想貰えたら・・・何て、すいません。傲慢でしたね。 一応、前後編の2部になる予定です。良かったら、後編も見て下さいね。 それでは・・・。


アスカ:これから、毎日4時にシンジと会えるのよぉ。

マナ:そんなに聴きたいんなら、どうして『聴きたい』って言えないのかしら?

アスカ:アタシは、聴いてやんのよっ! 当然でしょっ!

マナ:そんなこと言ってるから、同年代の友達ができないのよ。

アスカ:いいのよぉ。シンジがいるもーん。

マナ:じゃ、シンジがいなくなったらどうするのよ?

アスカ:そんなことないもーん。

マナ:それがあるのよねぇ。

アスカ:なんでよっ!

マナ:あら? 天才少女なんでしょ? それくらいわからないの?

アスカ:まさか、留学するとかっ?

マナ:ぶっぶー。マナちゃんと、恋人同士になるからでしたーーーっ!(*^^*

アスカ:はい。却下。(ーー
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