※これは全くのオリジナルな設定です。
  使徒、エヴァ、ネルフ、セカンドインパクトその他もろもろは存在しません。



『あの夏の日』 中編

旅人 それからというもの、私は毎日あの川に出かけるようになった。 一応約束の時間は4時という事になってたけど、私もシンジもいつも30分前にはそこにい て、チェロの演奏や会話を楽しんでいた。 私は、初めて自分の事を話せる人に出会った。それは、シンジも同じだったらしい。私 たちは、自分達の事やその日あった事のような他愛もない事を日が暮れるまで語り合っ た。まるで、これまでの14年間の全てを吐き出そうとするかのように。 シンジと夢について話した事があった。私は、 「ママのようなかっこいい科学者になる事よ!」 なんて胸を張って見せた。・・・そう、私はママとの間の事についてだけはシンジにも 話すことができなかった。彼は、私がママを心底尊敬し憧れていると思っている。もち ろん、それは嘘じゃない。でも、今私の心の中にある疑問―私の存在理由そのものを脅 かすような疑問は、たとえシンジであっても話す事はできなかった。多分そのことを話 した途端、その事を口にした途端、私は・・・。 シンジは言った。 「やっぱりすごいな、アスカは。僕はまだ自分の夢なんて分かりもしないのに。」 ・・・私はそんなシンジがうらやましかった。素直で、きれいで、穏やかで・・・、私 と正反対の少年。私が決して手に入れられないものをあふれる程に持っているひと。 そんなある日の事。その日は月に一度だけの、ママとの夕食が食べられる日だった。休 みを取ったママが私のために料理を作ってくれるのだ。私はいつもこの日が待ち遠し かった。もちろん、今も。 午前中は勉強を見て貰い、一緒に昼食をとった。昼食の支度は私の役目だ。そしてママ はいつもそれをおいしそうに食べ、ほめてくれる。 午後になってしばらくしてママが夕食の支度を始めた時に私は時計を見た。 時計の針は午後3時をさしていた。川にいく時間―シンジと逢える時間だ。 「ママ、あたしちょっと散歩に行ってくるね。」 そしたらママがゆっくりと返事をした。 「待ちなさいアスカ。」 「・・・なに?」 「今日は研究所の人が来るの。あなたに会いにね。」 私は耳を疑った。今日は、ママと私との月に一度の団欒の日のはずだ。それなのに、仕 事先の人が来るなんて。しかも 「あたし、に?」 「そう。あなた、来年の春にはその人の下で私の研究の手伝いをして貰う事になるか ら。今のうちに会わせておこうと思ってね。」 「で、でも、今日は用事が・・・」 「アスカちゃん。あなたにとってこれ以上大切な用事はないでしょう?これからのあなた の研究人生を左右する事なのよ。何があるのか知らないけれど、それ以外の事なんてく だら・・・」 私の中で、何かが切れた。 私は無言のまま玄関に行き、靴を履いた。ママが慌てて飛んでくる。 「何してるの!ママの言ってる事が分からないわけじゃないでしょう!?」 私はドアを開いた。 「アスカちゃん!!!」 私は駆け出した。込み上げてくるものをごまかすかのように、全速力で。 ママの声はもう聞こえなかった。・・・おいかけてきて、くれなかった・・・ 川のそばではシンジがもう準備を終えていた。私に気がつくといつもの優しい笑顔を向 けてくれたけど、すぐにその顔は心配そうな表情に変わった。 「どうしたの?なにか、すごく・・・!?」 私の目に光る涙を見て、シンジが声を詰まらせる。私はシンジの顔を見た事で、心のた がが外れた。 「う、シン、ジ、グスッ、あ、あた、し・・・」 さっきの事が、今までの事が、私の心を圧迫する。それに押しつぶされたみたいに私は 膝を折った。 ・・・さむい・・・こわい・・・いや・・・もう、いや・・・ その時。私を暖かいものが包み込んだ。 (・・・?) 濡れた目をおそるおそる開けてみると、すぐ目の前に白いカッターシャツの胸ポケット が見えた。 (あった、かい) 思ったより広い胸。ほのかな石けんの匂い。そして、何よりも、温かな体温。 (シンジ・・・) 「いいよ、アスカ。僕はここにいるから。好きなだけ、好きなだけ泣きなよ・・・」 私はもう泣かなかった。生まれたばかりの子猫のように、温かで心地よいシンジの胸に しがみつく。目を閉じて、その確かな鼓動を、自分の全身で感じていた。 いつまでも、いつまでも・・・ 「落ち着いた?」 私は顔を上げた。シンジの顔がほんの数センチ前にある。目が会った瞬間、私は急に恥 ずかしくなって目をそらした。シンジも、今の状況にようやく気づいたのか、耳まで 真っ赤になっている。 「あ、ありがとう、シンジ・・・」 シンジがゆっくりと手を離す。私は離れていくぬくもりを名残惜しく思った。 「と、ところでどうしたの、アスカ?あ、いや、べべつに話したくないならいいんだけど ・・・」 どもりながら一生懸命に言う彼の様子が嬉しくて、私は頬がさらに熱くなるのを感じ た。 「・・・ううん。聞いて貰いたい。シンジに。」 私は全てを打ち明けた。 自分の不安を。 疑問を。 苦悩を。 全てを言い終った時、シンジがどんな顔をしてるかが怖くて、私は顔を上げられなかっ た。 (私の弱さを知って、あんたはどう思うの?これまで自分を偽っていた私をどう思うの? 知りたい。でも、知りたくない。私は・・・) 「・・・アスカ」 自分でも、体がビクッと震えたのが分かる。それでも、私は思い切って顔を上げた。 いつもの、シンジがいた。全てを包み込んでほのかに微笑むシンジが。 「家に帰りなよ。」 「え?」 「家に帰って、今僕に言った事をお母さんにぶつけてみるんだ。そうすれば、きっと全 てがうまくいくさ。」 「で、でも・・・」 「だいじょうぶ。アスカは自分で考えている程孤独じゃない。アスカのお母さんは、君 を君として愛してるよ。ただ、ちょっとすれ違ってしまっただけ。勇気があれば、ま た、並んで歩きだせるよ、ぜったい・・・」 シンジの言葉が、胸にしみとおる。私はゆっくりとうなずいて、踵を返した。 家は、明かりがついてなかった。深呼吸を一つして、ドアを開ける。中から疲れ切った ようなママの声が響いた。 「アスカ?」 私は真っ直ぐにリビングに向かった。ママがぼんやりとテーブルについている。 私に視線を向ける。驚愕。疑惑。そして、恐怖の色・・・ 「アス」 「ママ、聞いてほしい事があるの」 ママの言葉をさえぎって、私は話し始めた。 「・・・たの。それでね、ママは」 私は自分を励まそうと両手を強く握り締めた。ママは私の話を食いいるように聞いてい る。ともすれば震えだしそうな唇を必死で押さえ、言葉をつなぐ。 「ママは、私じゃなくて、私の頭脳を、才能を必要としているだけなのかな、て。私 じゃなくても、他の誰でもいいのかな、なん」 私の頬を、熱いものが走った。痛みよりも驚きで私は目を見開く。 ママが荒い息をつきながら私を見据えていた。ママが私に手を上げた事などこれまでな かった。いや、それどころか怒ったママを見る事自体初めてかもしれない。私を叱る 時、ママはいつも冷静に、理知的にあやまちを指摘するだけだった。こんなに激しい感 情を見せた事なんて・・・。 「そんなわけ、ないじゃない」 ママが震える声で言った。目は私を見据えたままだ。 「・・・え?なに、マ」 「そんなわけないじゃないっ!!!」 ママの両目から涙がこぼれだした。戸惑う私を荒々しく抱き寄せる。 「あなたを愛していない?才能だけが必要?そんなわけないっ!あなたは、あなたは私のた だ一人の娘。他の誰でもない、私のアスカ」 「・・・まま・・・」 「私には、あなたが必要なの。私の心を満たしてくれる、あなたが。例えあなたが研究 の道に進まなくても、アスカはアスカよ。私の、たい、せつな・・・」 「ママッッッ!!!!!!」 私もママを抱き締めた。私の髪を撫でながら、ママが呟き続ける。 「ごめん、ごめんね、アスカ。あなたの気持ちに気づいてあげられなくて。私の理想だ けを押しつけて。一人で、悩ませて。辛かったろうにね。悲しかったろうにね・・・」 私は、泣いた。幼児のように声をはり上げて泣いた。 ・・・でも、それはさっきの身の切られるような涙じゃない。 私もママも落ち着いた頃、ママはぐしゃぐしゃになった顔で私に笑いかけた。 「ご飯の支度、まだなのよ。何か食べに行こうか?」 私も笑い返した。きっと私の顔もひどいものだろう。 「豪華なところにしてね、ママ。今日は新しい出発の日なんだから。」 「任しといて!・・・でも、お化粧しなくちゃね。こんな顔じゃ、外歩けないわ。」 私たちは顔を見合わせて大きな声で笑った。

もう、独りじゃない

次の日、シンジにこの事を報告しようとして私は川に急いでいた。ママにシンジの事を 話したら、 「その子に感謝しなくちゃね・・・。アスカちゃん、今度家に連れてきなさい。私も、 その子を見てみたいわ」 「将来の息子、をね・・・」 だって。私はママの言葉を思い出して一人赤くなった。 (シンジ、喜んでくれるかな?家においで、っていったらどんな顔するだろ) 目的地が見えてきた。足を速める。 その時聞こえてきたのは、いつもと違う音だった。 後編へ、続く 【あとがき】 はぁ、やっぱり伸びてしまった。 私はいつもこうやってストーリーが長くなってしまうんです。 文章を簡潔にまとめることができないって、物書きとして認められませんよね。 ああ、俺って文才ないなぁ・・・ 後編は二つ考えたんですが、両方とも捨てがたいので同時に送りたいと思います。 私にとっては、どっちもifにできない結末なんです。 少々時間がかかるかもしれませんが、(誰も待ってないかもしれませんが) 頑張って書きますので、どうか両方とも読んで下さいね。 それでは。 P.S たくさんの感想のメールありがとうございます! とっても励みになりますので、できたら今回もよろしくお願いします。 ↑ 図々しい事この上無し(爆)


マナ:いいお母さんじゃない。あんなにいいお母さんを疑っちゃいけないわ。

アスカ:もういいのっ。シンジのお陰で全てが上手く行ったわっ!

マナ:よかったじゃない。

アスカ:ママも、シンジに会ってくれるっていうから、今度からうちで会えるかもぉ。(*^^*

マナ:家の中でぇ? そんなの駄目っ! 駄目、駄目っ!

アスカ:どうしてよぉ。

マナ:アスカが何するかわかんないからよっ。(ーー

アスカ:でも、最後の引きが気になるわねぇ。音が違うとか、なんとか・・・。

マナ:あら? 天才少女なんでしょ? それくらいわからないの?

アスカ:まさか、違う人が来てるとか?

マナ:ぶっぶー。マナちゃんと、ラブラブで演奏してるからでしたーーーっ!(*^^*

アスカ:はい。前編のコメントに続き、今回も却下。(ーー
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