※これは全くのオリジナルな設定です。
  使徒、エヴァ、ネルフ、セカンドインパクトその他もろもろは存在しません。



『あの夏の日』 後編〜ふたりで〜

それはシンジの出せるような音じゃなかった。 シンジが下手ってわけじゃない。彼の演奏だって、とても14歳とは思えないほど洗練さ れている。そこらの楽団の中に混じったって、見劣りしないだけの貫禄はあった。 でも、これは、そんなレベルの話じゃない。そう、たとえ世界中どこを探したとしてもこ れ以上の演奏をできる人なんていないだろう。 その響き。 その艶やかさ。 心の琴線を掻き鳴らす、表現力。 誰だろう?私は駆け出していた。 (シン、ジ・・・?) 私は信じられない思いで見慣れているはずの光景を見つめていた。 夕日をバックにチェロを弾くシンジ。だけど、あれがシンジ? ”人と呼ぶには余りにも神々しい”、それが今のシンジ。 まるで、彼自身から淡い光が湧き出ているかのような・・・ 演奏が止まった。 「アスカ、だね?」 振り向いたシンジ。その顔は余りにも綺麗で、私は声を出すことも忘れて見とれていた。 「良かった・・・、お母さんと仲直りできたんだね・・・」 「う、うん!それも、シンジのおかげよ!!そ、それでね、ママが」 シンジが話しかけてくれたことでようやく動き出した私の口が、彼の表情を見て止まった。 嬉しそう。でも・・・寂しそう。 (どうして?) 私の疑問に答えるように、シンジが重い口を開く。 「アスカ・・・。僕は、行かなきゃならない。」 「?」 「もう、こういう形で君と会うことはできないんだ。」 「 !!! それってどういう・・・、!?」 私の目の前に、信じられない光景が広がっていた。 二対の光り輝く純白の翼が、シンジの細い体から広がっている。 大きく広がったその翼はこれ以上は考えられないほどの優美な曲線をたたえ、私に向かっ てさみしそうに微笑む彼の体は、青く輝く燐光によって包み込まれていた。 彼の体を取り巻く青い光と夕日の光が混じり合い、溶け合う。白い翼に夕日の色が映えて、 微妙な陰影を描き出す。それら全てを背景にして、少年は目を閉じて天空を見上げた。 (綺麗・・・) その美しさに、私は何も言うことができなくなった。 シンジが目を閉じたままで声を発する。その声の響き。私にはそれ自身が美しい一楽章 の旋律であるかのように思えた。 「・・・これが僕の本当の姿。天界第九位天使、大天使シンジ」 「てん、し・・・?」 「僕ら大天使の役割は啓示―つまり困っている人や悩んでいる人に助言を与えて導くこと なんだ。そして僕は・・・、君を導くためにこの世界に光臨した。君の闇に塗り込められ そうだった魂を救済するために」 「・・・」 「そして、君は正しい道を歩み己の闇をぬぐい去った。」 目を開き、こちらに向かって微笑いかける。暖かな微笑み。でも、何かが・・・ 「僕の役目は終わった。だから・・・帰らないといけな、い・・・」 絞り出すような声。 「ま、待ってよ!何で、どうして帰るなんて言うのよ!?このまま、ここにいれば」 「・・・天使はね、必要以上に人との関わりを持ってはならないんだ。人との関わりを持 ちすぎた天使は、現世での存在を保つことが難しくなる。」 「そして僕の体はもう半分は現世での形を保てなくなってる。・・・今日は僕に残された最後の日。 だから、君におわか・・・!?」 シンジの唇から紡ぎ出される言葉に耐えきれない。・・・気がつくと私は彼の首にすがり ついていた。 「何よっ!なにが天使よっ!!!いきなり訳のわかんないこといってんじゃないわよ、馬 鹿シンジィッ!!!」 彼の胸はいつものように暖かくて 「アス、カ」 私の心を優しく締め付ける 私は、背中に腕を回されるのを感じた。純白の大きな羽が柔らかく私達を包み込む。 彼は、私の顎をつまみ上げて。そして、唇を、寄せた。 肩越しに見える夕日 頬にふれる柔らかな翼 唇越しに伝わってくる温もり シンジの、温もり ・・・私を抱きすくめる手の感触が、少しずつ弱まってくる。 目を開けた私は、シンジが少しずつ透明になっていくのを見て愕然とした。 「シンジッ!ねぇ、シンジ!?」 「本当に、お別れみたいだ。僕はもうこの姿を保っていられない。」 「でも、忘れないよ。君を。一緒に過ごしてた日々を。・・・目に見えなくても、僕は君 を見ているから。きっとそばにいるから」 どんどん薄くなる彼を、その温もりを、私は必死に抱きしめた。 だけど、彼の体はもうほとんど見えなくなっていた。 さよなら その言葉を残して、彼は消えた。夜の闇が迫ってくる川原に残されたのは私ひとり。 唇に触れてみる。そこにはまだ暖かみが、シンジが、残っているような気がしたから。 「・・・何が、天使よ・・・」 熱いものが私の視界を奪いさった。 「大天使シンジ、ただいま戻りました。」 一面に白い大理石が敷き詰められたようなけがれのない空間。ひざまずくシンジ。その前 で、六対の翼を持つ銀髪の少年のような天使が頬をゆるめて彼を見下ろしていた。 「ご苦労様、シンジ君。おかげさまで、彼女の心の闇は消え去ったよ。」 「はい・・・」 うつむいたままのシンジに、銀髪の少年が優しい口調で語りかける。 「・・・シンジ君、君の悪い癖だね。君はいつもヒトと深い関わりを持ってしまう。僕た ち天使は彼らとは異なる存在。最期に別れることになるのはわかっているだろ?」 「・・・」 「でもまあ、それが君の好意に値する点ではあるんだけどね・・・」 シンジはうつむいたまま、胸に走る痛みをこらえていた。 (何故だろう?こんなにも胸が苦しい。切ない) (ここから姿を見ることはできる。・・・でも彼女と会うことも、話すことも、ふれるこ とも、出来はしない) (こんなことを考える僕は、天使として失格かもしれない。・・・でも、それでいい。こ の想いを殺すことが天使に求められるものならば、僕はそんなものでいたくない) (・・・逢いたい・・・アスカ・・・) そんなシンジを見て、銀髪の天使は処置なし、といった様子で肩をすくめた。 (まったく・・・、今度ばかりはシンジ君もあきらめられないようだね。あの女の子のど こに惹かれたのかはわからないけど、困ったものだ) その時、二人の横に蒼い髪をした一人の少女が姿を現した。 「!?君は」 何か言いかけた銀髪の天使を制して、彼女はシンジに声を掛けた。 「大天使シンジ・・・」 弾かれたように顔を上げたシンジは、目の前の少女を見て慌てて向き直った。 そんなシンジに、彼女は無表情にある言葉を与えた・・・ 銀色の月。曇りのない漆黒の空に浮かぶ三日月が、辺り一面に不思議な透明感を与えてい る。 私は、この場所から動かずにいた。動きたくなかった。 シンジの残した椅子に座り、あのチェロにもたれかかって、ただぼんやりと川を見つめて いる。 何度口にしたかわからない、あの言葉を呟く。 「シンジ」 とたんに私の脳裏にいくつもの映像が結ばれる。 出逢ったときの気弱そうな少年の顔。 泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれた少年の顔。 純白の翼を広げて輝く少年の顔。 私の唇を奪い、消えていった少年の顔・・・ 「・・・馬鹿。乙女のファーストキスを奪っておいて、そのままさよなら?勝手なのよ、 あんたは・・・」 弾く主のいなくなってしまったチェロを軽くたたく。 「・・・馬鹿なんだから・・・ホントに・・・」 「・・・ゴメンよ」 振り返った私の前に立っていたのは いつもと変わらぬ気弱そうな微笑みを浮かべた少年 私の、シンジ 抱きしめていた。 確かな温もりを。シャツを通して感じられる鼓動を。 二度と、離さない。離しはしない。 「はは、天使をクビになっちゃってさ。・・・『天使が人の心を闇に落とすことは許され ない』だって・・・、人になったんだ、なれたんだ、僕」 「じゃあ」 「うん・・・ずっと君のそばにいるよ、アスカ・・・」 私達は強く抱き合った。呼吸が止まるくらいに。そして、今日二度目の口づけをかわした。 再会と、誓いのキスを・・・ 「・・・よかった」 「・・・レイ・・・、シンジ君を人にするなんて・・・」 「じゃあ、あのままにしておくつもりだったの?」 「ちぇ、わかってるよ、あの二人がたがいを必要としていることくらい。たとえ相手が異なる存在だ ったとしても、あの二人は・・・」 「そう。だからかれを・・・」 「人にした。・・・そうだね。これでよかったんだろうな。これで」 「「お幸せに、シンジ君・・・」」 これからの私のそばには いつも彼がいてくれる 一緒に生きていける きっと シンジ 私だけの天使 いつのひにも、ふたりで 【あとがき】 こんにちは、旅人です。 「二人で」編はいかがでしたか?こちらは「喪失」編で高まった私の中の切なさが書かせ たもう一つの『夏の日』です。 文章表現がくどいのはどうかご容赦下さい。頭の中に生まれたイメージを言葉にしきれな くて・・・、やっぱ駄目ですね、私。 ここままでつきあっていたただいた読者の皆様、本当に有り難うございます。まだ読んで ない方は、是非「喪失」編も読んで下さいね。 それでは。 旅人


マナ:シンジって大天使だったのね。

アスカ:ミカエルだったのかしら?

マナ:じゃ、あなたったら、ミカエルを人間にしちゃったのよ?

アスカ:いいもん。アタシが幸せなら。(*^^*

マナ:あなたねぇ・・・。

アスカ:シンジがミカエルなら、あのホモはルシファってとこかしら? ファーストは何でしょうねぇ。

マナ:そんなことよりさ、天使は人を不幸にしちゃいけないのよねぇ。

アスカ:らしいわね。

マナ:あなたとシンジがくっついたら、わたしが不幸になるわ。だから、わたしもシンジと仲良くしていいでしょ?

アスカ:アンタバカぁ?

マナ:どうしてよ。当然の権利でしょ。

アスカ:ざーんねんでした。もうシンジは天使じゃないから、人を不幸にしてもいいのよっ! アタシとだけ幸せならいいのっ!

マナ:うっ・・・。そういう言い方もあるわね。(ーー;;;
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