朝ご飯

 

written by take-out7

 

 

 

なぜ、葛城ミサトがそのような行動に出たのか、今となってはその理由を知る由はない……。

そのことを追求しようと言う人物が一人もいないのだから……。

 

 

「うーーーーん……。」

 

アスカはベッドの中で一つ大きく伸びをした。

カーテンが閉めてあるため、ベッドの上に直接朝陽が差し込んでいるわけではないが、それでもそのカーテン越しに映える光は、今日一日がアスカにふさわしい快晴で始まろうとしていることを約束していた。

 

「……6時……30分……ね…。」

 

アスカはベッドサイドに置いてある目覚し時計で時間を確認する。

目覚ましタイマーは7時ちょうどにセットしていた。

しかし、昨夜は夢も見ずにぐっすり眠ったようで、予定時間より30分も早くパッチリと目が覚めたのである。

 

「……2度寝、しよっかなーー……。」

 

などと考えていられること自体、頭が冴え始めている証拠であった……。

 

「うん、起きよう。」

誰に言うわけでもなく、アスカは自分にそう宣言すると上半身を起こした。

 

タンクトップにショートパンツ、これが彼女の寝間着であり、いつもこのままの格好で洗面所に向かい顔を洗ったりするのである。

当然、今朝もいつもの朝と同じように部屋の襖を開け、アスカは廊下へ出た。

 

「おっ?」

 

廊下に出たアスカがそこに見たもの……。

 

それは……。

シンジだった……。

 

……何やってんのよ、アイツ……。

 

アスカがそう思ったのも無理はない。

何故ならシンジは、キッチンの入り口に通じる廊下、早い話がアスカが今立っている場所からほんの1、2メートル先でこちらに背を向けて突っ立っていたのだから。

そして彼は、身じろぎもせず、廊下からキッチンの様子を覗っているようなのである。

 

……朝っぱらから、何よ?

 

本来、シンジは毎日アスカより30分は早く起き、アスカとミサトのために朝食を準備する。

今朝も当然彼はそのつもりで起きたのであろう。

従って、アスカとほぼ同時刻に、つまりたった今起きたところだと推測される。

で、キッチンで朝食の準備を始めようとしてここまで歩いて来たに違いない。

 

……何してんのよ?

 

その彼が、まるでキッチンから身を隠すようにして廊下に立っている姿を後ろから見て、アスカはそんな疑問を呈する。

 

だが、あまりにも爽快に目覚めてしまったアスカは、この時ハッキリ言って一年に数度あるかないかの、“上機嫌お目覚めアスカちゃん状態”だったのだ……。

 

イタズラ心が頭をもたげる。

 

……そーーと近づいて、後ろから目隠ししてやろうかしら?

それでもって、「だーーれだ?」何ちゃって、何ちゃって。

そ、それとも有無を言わさず後ろからいきなり抱きついて、アイツの心臓止めてやろうかしら?

……止まるわよね、きっと……。

まずいか…………。

 

などと妙なことを考えながらニヘラニヘラしているアスカ。

…ちょっと気持ち悪いかもしれない。

 

だが、そんな背後の気配に全く気付かないシンジ。

ある意味、とんでもなく無防備である。

アスカがイタズラ心を刺激されたとしても、それはアスカのみのせいにするのは酷というものであろう…。

 

……ま、心臓止まったら、アタシがマッサージしてあげるから、安心しなさい。

 

ほとんど不条理な考えではあるが、アスカは“後ろからいきなり抱きつき”作戦を敢行することとし、足音を忍ばせてシンジの背後に忍び寄った…。

 

あと、三歩……あと、二歩……あと、一歩……。

 

と、いうところまで近づき、今まさにシンジの命、風前の灯か!!と思われたその時、アスカはようやく彼の表情が尋常ならざるのに気付くのであった。

 

彼の表情、そう、シンジの顔は文字通り顔面蒼白、目がテン状態、全身金縛り……そんな言葉の全てがあてはまりそうなものだったのだ。

 

……な、何?

 

さすがにアスカもこれでは、シンジにじゃれつく訳にはいかない。

彼女自身、表情を引き締め、そっと彼の耳元に顔を近づけた。

 

「……シンジ……。」

 

なるべく相手を刺激しないような小声で、つぶやくようにアスカはシンジの名を呼んだ。

 

「あっ!」

それでもシンジは驚いて振り向く。

本当に、アスカが至近距離に近づいて来ていたことに全く気付かなかったのだ。

 

「しっ……。

どうしたのよ、一体?」

アスカはそんなシンジを制し、小声で話しかける。

シンジも、声を出してしまったことに一瞬慌てたが、声をかけてきたのがアスカだと知ってすぐさま落ち着きを取り戻した。

 

「ア、アスカ、大変だよ……。」

シンジも小声で答える。

 

「何が…?」

「…何って……。まあ、見てみなよ……。」

そう言って彼はアスカと自分の立っている位置を入れ替えた。

 

怪訝な表情でシンジを見、アスカは今まで彼のいた場所に立ってキッチンの方を覗いてみた。

そして……。

 

「……な……な……何ーーーーー?」

 

 

そこには、アスカとシンジ、二人が決して見たくない光景が存在していた。

 

ミサトが、葛城ミサトがキッチンで食事の準備をしていたのだ……………。

 

今度はアスカの方が顔面蒼白、目がテン状態、全身金縛りに陥ってしまっていた。

 

 

「ア、アスカ…しっかりして。」

情けないセリフだとは思いつつも、シンジはこう言うより他に言葉を持たなかった。

だが、アスカはシンジの言葉に反応できず、まだキッチンの方を凝視していた。

 

……な、何なのよ、ミサト……。

そ、その鍋って、もしかして味噌汁?

そ、そっちのフライパンは、何?ハムエッグ……?

あ、包丁を持って、な、何か野菜らしきものを刻み始めたわ……。

電子レンジがチーーーーーンって…………ちゃ、茶碗蒸しもどきのものが……。

 

アスカが来日して今日まで、このような呆けた表情の彼女をシンジは見たことがなかった……。

 

「ア、アスカ…。」

再び声をかけるシンジ。

だが、その声の響きは、アスカを心配しているという以上に、

“僕を一人にしないでよ”的なニュアンスが含まれていたことに、果たして本人は気付いていただろうか……。

 

「はっ…。」

シンジに呼びかけられ、アスカは我に帰った。

そして彼の方を振り返る。

 

「アスカ……。」

「シンジ……。」

 

シチュエーションがシチュエーションなら、ラブシーンの一つも演じたであろう。

だが、今の二人には自らの存亡がかかっているのだ!!

 

「シンジ、何これ?」

アスカが問う。

「分からないんだ…僕には何も。」

答えるシンジ。

「でも、今アタシたち、シンジとアタシが見たものは……。」

「……うん、間違いないよ、アスカ……。」

二人は互いを見詰め合う。

そしてお互いの不幸な境遇を呪うのであった。

 

「何で?!

ミサト、一体何してるのよ?!!」

小声ではあるが、きつい口調でアスカはシンジに再び問う。

だが、シンジには返すべきまっとうな答えなどない。

「何って……どう見ても、朝ご飯の準備にしか見えないよ、僕には。」

「アタシにもそれにしか見えないわよ!

だから、何でなの?って訊いてるの!!」

「……分からない……僕には、何も分からないよ……。」

そう答えて俯いてしまうシンジ。

 

アスカもそんなシンジを見て、一時のパニックから抜け出していた。

 

…そう、今考えるべきことはそんなことじゃない!!

 

アスカはそのことに思い至ると、シンジの手を取り、自分の部屋に引っ張って行った。

 

 

 

襖を閉め、取り敢えず避難(?)を完了したアスカとシンジ。

 

「うーーーーーん。」

アスカは部屋の中、右手を顎の下に当て、万国共通の“考えてんのよ!!”ポーズで、シンジの前を行ったり来たりしている。

そんな彼女を、なす術もなくただただ目で追うシンジ。

「うーーーーーん。」

頭脳をフル回転させ、事態の打開を計ろうとする才女・アスカ。

 

そんな彼女を、なす術もなくただただ目で追うシンジ、だったが、ふと、自分は今アスカの部屋にいるんだ、という当然と言えば当然のことに思い至る。

 

そして初めて視線をアスカから逸らし、部屋をグルっと見渡してみる。

アスカが来日するまでは、ほんの僅かな間とはいえ、自分の部屋だった場所。

今は、その時の面影はほとんど残っていない。

アスカは決して少女趣味ではないので、ヌイグルミとか、ミーハーなアイドルのポスターなどというものは、一切部屋に飾ってはいない。

けれど、自分がいたころとは明らかに違う雰囲気がこの部屋にはあった。

 

…それはそうであろう。

145歳の少女の個室が、同年代の男子の部屋と同じ雰囲気であろうはずがないのだ。

 

…アスカの部屋に入ったのって、これが初めてだよなぁ……。

 

感慨深げなシンジであった…。

 

 

一方のアスカである。

彼女は、とにかく今のあり得べからざる状況からいかに抜け出すか、ということに意識を集中していた。

 

……ミサトの用意する食べ物……。

……ミサトの作った料理……。

………いやよ、アタシ、まだ人生を降りるには若すぎるわ……。

 

そのセリフ、一度ミサトに面と向かって言ってみたまえ……。

 

 

「とにかく!」

アスカは唐突に話し始めた。

きょろきょろと部屋の中を眺めていたシンジはハッとして彼女のほうを見る。

 

「とにかく、今日、ここで食物を口にするわけにはいかないわ。」

アスカは行ったり来たりしながら話し続ける。

「“脱出”する。これしかないわね。」

 

そう言ってアスカは歩みを止め、シンジを見た。

 

「脱出?」

シンジが訊き返す。

「そう、脱出よ。この、生命存亡の危機からの脱出、それよ!」

「……それって……つまり…。」

「そう、とっとと出かけるのよ、学校へ!!」

 

簡単な答えではある。

だが、シンプル、イズ、ベスト……アスカの提案に逆らう意思はシンジには無い。

 

「うん、そうだね。」

「そうと決まったら、即実行よ!!

今から5分……いえ、10分で良いわ。

支度を整えなさい!そして一緒に出かけるのよ!!」

「……10分…。分かった。じゃあ、10分後に部屋の前で。」

OK。」

 

こうしてシンジはアスカの部屋を後にした。

 

アスカは迷った。

洗面所に行って顔を洗い、髪を梳かすなどしたいのだが、そのためにはキッチンの前の廊下を通らねばならない。

ミサトに気取られるリスクがある。

…どうしたものか……。

 

結局、自分の部屋にある化粧水で顔を拭き、髪もここで梳かすことにした。

本格的に顔を洗うのは学校に着いてからでも出来る。

…賢明な判断である。

 

シンジにいたっては、ハナから顔を洗うことなど断念してしまっていた。

さっさと着替え、カバンを持ち、自分の部屋を出る。

アスカの部屋の前で彼女が出てくるのを待った。

 

きっかり10分後、アスカが襖を開けて出てきた。

 

「……行くわよ、シンジ……。」

「……うん、行こう、アスカ…。」

 

アスカが先に立ち、キッチンの方へと向かう。

そこでは、ミサトがかいがいしく立ち回り、今まさに朝の食卓の準備が整おうとしていた。

 

「おっはよーミサト。」

アスカが大きな声でミサトに挨拶する。

 

「あら、早いのね、おはよう、アスカ。」

流しから振り返りながら挨拶を返すミサト。

そして彼女はアスカの隣りにシンジがいることにも気付く。

「あーーら、シンちゃんも早いわね、おはよう。」

「お、おはようございます……。」

……動揺している……。

正直は美徳ではあるが、あまりにも顔色に出過ぎるシンジであった。

 

「二人とも座って。すぐに朝ご飯の支度ができ……。」

 

ミサトに皆まで言わせまいと、アスカが声をかぶせる。

「ごっめーーーん、ミサト。言い忘れてたかも知れないけどさ、アタシとシンジ、今週は週番なんだ。

もう、行かなくちゃなんないの。

ホント、ごっめーーんね。」

そう言ってアスカはシンジの手を取り、玄関へと向かう。

 

「ちょ、ちょっと、二人とも…。」

ミサトが慌てて声をかけるが、文字通り一目散に靴を履き、ドアを開けるアスカ。

「いやーーー、週番ってホント、大変よねぇ、シンジ。」

などと、いきなりネタを振る。

「えっ……。そ、そうだよね。ホント、7時前に家を出るなんて、信じられないよ。」

……フォローしたつもりだろうが、全然そうなっていない……。

 

「あ、あのさ、二人とも。せめて、味噌汁くらい……。」

 

再びミサトにしゃべらせまいと、声をかぶせるアスカ。

「じ、じゃあ、行ってくるわね、ミサト。

そうそう、今夜はアタシとシンジ、ちょっと用事があるからさ、晩御飯、外で食べてくるから、そのつもりでいて。」

そしてまた、シンジの手を取って出て行く。

 

「ああ、ちょっと待ちないさってば……。

……行っちゃった……。

ふふ、手ぇなんかつないじゃったりしっちゃって………。」

 

飛び出すように出て行った二人の後ろ姿を見て微笑む、“保護者”葛城ミサトであった…。

 

 

「……でも、どうすんのよ、コレ?」

 

 

 

とりあえず、マンションから逃れることによって最悪の事態は避けることができたアスカとシンジ。

勢い良く出てきたものだから、アスカはまだシンジの手を握ったままだった……。

 

「…………。」

無言で早足で歩き続けるアスカ。

シンジの方はと言えば、アスカに手を掴まれ、引っ張られている状態がずっと続いているため、少々いごこちが悪そうである。

 

「……あのさ、アスカ…。」

ためらいがちに声をかけるシンジ。

「何よ?!」

ぶっきらぼうにアスカは答える。

 

「い、いや……その、さ……。」

「何よ?!」

「……手……。」

「手?!」

 

そこで初めて、アスカは自分がシンジの手を握りっぱなしだったことに気づいた。

 

「!!!」

慌てて乱暴に手を振りほどくアスカ。

 

そして、二人はしばらくその場に立ち止まり、お互いバツが悪そうに視線を逸らしていた。

 

しかし、若い二人の体は正直である。

ほぼ同時に二人の腹の虫がその存在を主張すべく、おおきな唸り声を上げたのだ。

健康な胃袋は、今まさに消化吸収すべき食物を欲していた。

 

幸い、二人が立ち止まっていた場所のすぐ目と鼻の先にコンビニエンスストアがあった。

ここは、かつてユニゾンの訓練の最中にアスカが駆け込んだ、二人にとっては曰く因縁付きの店である。

 

「アスカ。」

「……何よ。」

簡単には素直になれない、それが年頃の乙女心というものか。

 

「あそこで何か、朝ご飯を買って行こうよ。」

シンジはそう言ってコンビニの方を指し示した。

「……そうね…。」

拒む理由もなく、アスカは同意した。

 

 

コンビニでオニギリを数個、お茶も併せて買って、二人は学校目指して歩き出した。

だが、学校に辿り着く随分前に、アスカは歩みを止めた。

 

「どうしたの、アスカ?」

「あそこ…。」

アスカが指差したのは、小さな児童公園だった。

「あそこで食べて行かない?」

 

シンジは一瞬考える。

……今から学校に行けば教室でオニギリを食べることになるだろう。

この時間だから、他には誰もいないとは思う。

けど、週番の子が早めに登校することは充分考えられる。

…………。

 

「うん、そうしようか。」

 

二人は公園のベンチに並んで腰を降ろし、今買ったばかりのオニギリを食べることにした。

「はい。」

「ありがと。」

シンジがオニギリを一つアスカに差し出し、アスカはそれを受け取る。

二人の間には缶入りのお茶が二本。

 

パクリ。

 

ほぼ同時に二人は手にしたオニギリを頬張る。

 

ムシャムシャ……。

 

無言でオニギリを口の中に押し込む二人……。

 

犬を連れて朝の散歩に来ているお爺さんが、二人の座っているベンチの前を通り過ぎる。

 

ムシャムシャ……。

 

無言で最初のオニギリを食べ終える二人……。

 

ゴクゴク……。

 

またしてもほとんど同時にお茶を手に取り、飲む二人。

 

何とも形容しがたい沈黙が二人の間を支配する。

 

ガサゴソ…。

 

次のオニギリを取り出し、アスカに手渡すシンジ。

 

「……はい…。」

「……ありがと…。」

 

パクリ。

 

またしても、同時にオニギリを頬張る二人……・だったが…。

 

「ああーーーっ!」

 

アスカが場違いな大声を上げた。

 

「ど、どうしたの、アスカ?」

シンジも慌ててオニギリを口元から離して問いかける。

 

「これ、納豆巻きじゃない!!」

アスカはシンジの方を見て不服そうに言う。

 

「そ、そう?」

「そうよ!!

これは、納豆巻きよ!!」

断言するアスカ。

 

「だ、だから……?」

シンジはまだ事態を把握できていない。

「だから、じゃないでしょう、だから、じゃ!!

アタシ、納豆苦手なの!!知ってるでしょ、アンタ!!!」

 

…ハテ、そうだったっけ…?

などと考えている余裕など、シンジには与えられないのだ。

 

「アンタのそれ、何?!」

アスカはシンジが手にしているかじりかけのオニギリの見て言う。

「こ、これ?」

「そう、それ!」

「コレは……ウインナー巻き……。」

 

アスカの目が、キラリと光ったと、後にシンジは語っている。

 

 

「……ドイツはバイエルンのウインナー巻き……。

シンジ、交換しなさい……。」

 

「……へ……?」

彼には、アスカが何を言っているのか分からなかった。

 

「ア・タ・シ・の・納・豆・の・と・」

一言一言を区切って話すアスカ。

「……の・と?」

オウムになってしまったシンジ…。

「アンタのを交換しろっての!!」

 

言うが早いか、アスカは空いているほうの手でシンジの手からオニギリをふんだくり、あっという間に自らの口に放り込んでしまったのである。

 

…普通そんなことをすれば、ご飯が喉に詰まる……。

それは、14歳にして飛び級で大学を卒業してしまっている天才少女・アスカとて、例外ではない……。

 

「ゴホッ、ゴホッ」

 

案の定。

アスカは気管にオニギリを詰まらせ、むせんでしまった。

 

あきれた顔をして、シンジがその背中をさすってやる。

「大丈夫、アスカ?」

そう言いつつ、まんざらでもない表情で優しくアスカの背中をさすり続ける。

 

……ぜーー、ぜーーー。

 

お茶を飲み、どうやら、一息つくことが出来たアスカ。

しかし、目尻にはまだ涙が溜まっている……。

 

「もう、あわてんぼうだな、アスカは。」

などと、結構優越感に浸りつつ言い放つシンジ。

そして彼は余裕をもってオニギリを口にした。

 

そのオニギリは、さっきアスカが一口だけ頬張り、無理やりシンジのモノと交換した納豆巻きであった。

 

気付くのが遅い……。

口に入れてからそのことに思い至ったシンジは

“ア、アスカと、か、間接キス………”

 

………健全な男子中学生としては無理からぬこと。

 

今度は、彼が思いっきりむせ返る番であった。

 

 

アスカがシンジのことを「ホントにバカね」などと言いながら、それでもやさしく背中を叩いてやったのは言うまでも無い。

 

 

その後は、二人とも笑いながら、ああでもない、こうでもないとにぎやかな朝ご飯の時を過ごした。

全て食べ終わり、シンジがゴミをコンビニの袋にまとめている間、アスカは鼻歌でもでてきそうなくらい上機嫌で、空を見上げていた。

 

「ねぇ、シンジ。」

公園を出て学校に向かう途中、アスカが話しかける。

「うん?」

「たまにはこんな、ピクニックみたいは朝ご飯もいいわね。」

彼女の上機嫌はまだ続いていた。

シンジは微笑を浮かべ、答えた。

「そうだね。

でもさ……。」

「でも、何?」

「朝早くにさ、公園のベンチでコンビニのオニギリを頬張るのってさ…。」

「頬張るのって?」

「ピクニックて言うより……。」

「言うより……?」

「朝帰りって感じかな…?」

 

繊細なくせに、時としてとんでもなく大胆なことを口にしてしまう少年、碇シンジ。

 

アスカの顔は瞬く間に真っ赤になってしまった。

 

そんなアスカを見て、自らの失言に今更ながら気付くシンジ。

そして、アスカからの“アンタ、バカァ?!”というお決まりの罵声を浴びることを覚悟したのだが……。

 

…………アスカは顔を真っ赤にしたまま何も言わず、二人はそのまま学校まで無言で歩いたという………。

 

 

 

 

 

さて、そもそも今回の事の発端は、葛城ミサトがとった行動にある。

なぜ彼女があのような暴挙に出たのか?

本来なら、アスカとシンジはこの日マンションに戻った後、ミサトにそのことを追及すべきであったろう。

しかし、朝ご飯の一件で、妙な雰囲気になってしまった二人には、他人の行動を斟酌する余裕など無かったと言える。

しかも、偶然にもミサトは急にこの夜から4日間、松代への出張が入り、家を空けてしまったため、そのことを話すタイミングも逸してしまったのだ。

 

随分と後になって、あの日の前夜、ミサトは加持と遅くまで飲んでいたらしいと言う噂を、アスカとシンジはさる確実な情報源(=リツコ)から聞き及ぶ。

その時、加持はミサトに対し何かこんこんと説教らしきことをしていたらしい。

そして翌朝のミサトのあの行動…………。

 

このことを知った時、アスカは遠くを見るような目をして一言つぶやいたという…。

 

「……加持さん………アタシたちを殺す気……?」

 

 

Fin


マナ:take-out7さん、お早い2作目の投稿ありがとうございましたぁ。

アスカ:ミサトったら、何考えてるのよ! 保護者ならアタシ達の健康を害することは止めてほしいわ!

マナ:あっらぁ、折角朝ご飯を作ってもらってるのにぃ。ひっどいこと言うのねぇ。

アスカ:アンタもミサトの料理を食べたことあるでしょうが! あれがどんなものか知って、そんなことよく言うわね。

マナ:あら? 最近ミサトさんも、料理を習ってかなり美味しくなったって噂よ。

アスカ:う、うっそーーー。あのミサトが?

マナ:食べもしないで、学校へ行くなんて・・・それを食わず嫌いって言うのよ。

アスカ:なんだか・・・信じられないわねぇ。あのミサトの料理が・・・うーーん。

マナ:だって最近ミサトさんが、加持さんに手料理を食べさせてるって話だし・・・。

アスカ:そう言えば、今回のことは加持さんが言い出したことよねぇ。加持さんが、アタシ達を殺そうとするはずないし・・・。

マナ:でしょーー。今度食べてみたら? ものすごく美味しいって話よ。そうそう、今度シンジが夜の戦闘訓練で居ない時にで、ミサトさんに作ってもらったらいいんじゃない?

アスカ:そうね、そうしてみようかしら。今回は悪いことしたわねぇ。早速ミサトに話してみよっと。

マナ:まんまと信じて行ったわね・・・フフフ・・・これで、アスカも・・・フフフフフフフフフフ。オーーーホッホッホッホッホッホッホッホッホ!!(鬼)
感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
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