悪役人生外伝 〜ヤラレ役もまた楽し?!〜
Written by take-out7
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作者注:この作品は、タームさんの傑作『悪役人生』の外伝です。
『悪役人生』を先にお読みください。
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太平洋上に浮かぶミッドウェー島。
人外魔境とも呼べそうな島の真奥部。
そこに…使徒製造基地があった。
「むっふっふっふっふ……。」
大きな洞窟の中に用意された最新科学設備の数々。
だが、なぜかそんな中で灯りと呼べるものはか細い炎を揺らめかせるロウソクであった。
恐らく、誰かの趣味なのだろう…。
誰ったって、それは…その…。
「むっふっふっふっふ……。」
そんなうす暗がりの中、不気味な笑い声が響き渡る。
いや、本来ならこの場所、このシチュエーション…不気味であって然るべきなのだが。
残念ながらその声をよくよく聞いてみると、声の主がかなり若年であることに気づかされる。
しかも、女性の声であるということにも。
加えて言うなら、結構その地声、甲高かったりする。
そんな声の持ち主が、いくら凄みを出そうとして低く笑っても、所詮地が地なのだから限度というものがあるのだ。
「むっふっふっふっふ……。」
だが、彼女は諦めない。
そう、それこそ彼女のステイタス。
“諦めない!”ことこそが。
「むっふっふっふっふ……ゴホッゴホッ…。」
うむ、どうやら無理矢理に低い声を絞り出そうとして、エヘン虫に喉を刺激されたようだ。
だが、彼女は諦めない。
そう、それこそ彼女の(以下略)。
彼女はもう一辺“低い笑い声”にチャレンジしてから、ようやく言葉を発するのである。
「むふふふふふふ……分かる…分かるわよぉ……。」
彼女は得体の知れない実験設備の前に立って、なにやらごそごそしながらほくそ笑む。
まるで理科の実験室、様々な形式・サイズの試験管があっちでごぼごぼ、こっちでコポコポという音やら泡やらを立てながらズラリと並んでいた。
「分かる…アタシにも分かるわよぉ……ふふふふふふふ…。」
それらの試験管を一本一本手にとってはその中の様子を見つめる蒼い瞳。
彼女・“悪の女王アスカ”はそんなことを繰り返しながらあっちへウロウロ、こっちへウロウロを繰り返していた。
やがて彼女はそんな設備のど真ん中で足を止め、洞窟の天井を見上げながら一際高らかな声で言ったのである。
「分かるわ!アタシにもリツコの気持ちが!!
あの実験オタクの気持ち、今となってはよく分かるわ!!
むふふふふふふふ!!
天才の名に相応しい者のみに与えられしこの恍惚感、優越感、勝利感!!!
我が手より産み出されし新たなる息吹!!
この頭脳が産み出した奇蹟の産物!!!
むふふふふふふふ…。
天才アスカ様にかかれば、新たなる使徒を産み出すなどということは……赤子の手を捻るよりも容易いことよ!!!
ふふふふふ…はははははは……あっはははははははははははは!!!」
洞窟にこだまする悪の笑い声。
それを発している本人は、どこからどう見ても“悪”に見えないのがこの際ご愛嬌というものであるが。
そして、そんな馬鹿笑いをする背中を、少し離れた所から冷静に見つめる二人の人物。
悪役・シンジとレイである。
「はあ、何がそんなに楽しいのかなぁ…。」
つぶやくシンジ。
「まったく、この前あんな目に遭わされたってのに…。
性懲りも無く新たな使徒なんて作っちゃって……。
悪役って……結局パターンを繰り返すだけなのにさぁ。」
まるで達観したようなことを言うシンジ。
いや、彼はもはや先のサキエル騒動において、己のこれからの悪役人生の末路を既に見極めていたのかもしれない。
所詮、悪の栄えたためしはない…とかなんとか…。
そんなシンジの隣、それまで黙ってアスカの背中を見ていたレイがぽつっと言う。
「碇君……。」
「ん、何、綾波?」
シンジは隣を振り返る。
レイもまたシンジの顔を見、真摯な瞳でつぶやいた。
「碇君は、私に対するイメージ…守り通してくれるわよね…?」
真摯な瞳で……何を言う?!!
……はあ…こっちはこっちで…いつまでもそんなことを……。
口には出せずにそう思うシンジ。
この時、彼はようやく気付いたのだ。
前世でも一緒にいたし、現世に戻ってからもこうして一緒にいるのに、今になってようやく気付いたのだ。
……綾波って……結構……しつこい…。
でしょ、でしょ?!!
「手下一号!同二号!!こっちへ来なさい!!!」
その時アスカが二人を振り返って叫んだ。
「だ、誰が手下だよ?!!」
思わず反論するシンジ。だが、彼とて分かっていた。前世から分かっていたのだ。
こういうのが“虚しい反論”ってやつだってことを。
「アンタたちでしょうが?!!
他の誰がいるってーーのっ?!!
さっさと来る、来る!!!」
……いつの世に生まれ代わったって、仕切るんだもんなぁ…。
頭の中でぶつぶつとつぶやきながらアスカに近づくシンジ。
……イメージよ、イメージ…分かってるわね、レイ…大切なのは自分自身がこれまで培って来た……汗と涙とお笑いで作り上げてきたイメージよ……って…?
……何故?!!何故私がお笑いでイメージを作り上げなければならないの?!!
……ニンニクラーメンチャーシュー抜きって、そんなに可笑しいの?!!
……いいえ!!!
……それは食べた事の無い人の、食わず嫌いってものだわ!!
……とてもとても美味しいものなのに……。
レイの意識はすでにトリップしており、機械的に足だけを運んでいるようなものであった…。
そんな二人の思惑など関係なく、アスカは近寄ってきた彼らに誇らしげに胸を張りながら宣言する。
「出来たわよ!!第四使徒・シャムシエルが!!」
だが、シンジはアスカの背後に存在しているのであろう使徒などには目もくれず、ただ一点を見つめて思うのであった。
……やっぱりアスカって…十四歳のくせに、形いい胸してるよなあ…。
……こればっかりは綾波も絶対勝てないもんなあ……。
この度生まれ変わって、ますます緊張感というものと疎遠になったようだね、シンジ君…。
それは君にとって幸福なのか不幸なのか…。
「使徒はあっちよ!!
どこ見てんの、シンジ?!!」
「…胸……。」
アスカの問いかけに答えたのは、無論シンジではない。
レイである。
「な、な、な…!!!」
「な、なんてこと言うんだよ、綾波ぃ?!!!」
二人同時に大声を張り上げるアスカとシンジ。
もっとも、その声をぶつける先はそれぞれ違い、アスカはシンジに、シンジはレイにではあったが。
「いえ、隠す事無いわ、碇君。
いくらなんでもそんな風に“ほれほれ、これをご覧!”という感じでさも自慢げに胸を突き出されてしまえば、誰だってそちらの方に視線が向くというものよ。
私だって、今はそちらを見ているのですもの。
……半分…いえ、三分の一でいいわ…分けてもらえないかしら……。」
「な、な、な…!!!」
同じ言葉を繰り返す真っ赤っかアスカ。
だが、今回その言葉を向けた相手は勿論レイである。
「あ、綾波…!
さっき自分で、イ、イメージがどうたらこうたら……。」
シンジのその言葉に、思わずはっとなるレイ。
「はっ…!!!
私…何を言ってるの…?!!!
…私、泣いてるの?」
「泣いてなーーーーいっ!!!」
それはアスカとシンジから同時に発せられた言葉であったと思っていただきたい。
まあ、若いんだから仕方がない。
色々あるさ、うんうん。
と、いうことで。
「これよっ!!!第四使徒・シャムシエル!!」
改めてアスカが、二人にたった今出来あがったばかりの新使徒を指し示す。
……はあ、僕、シャムシエルってあんまり好きじゃないんだよなぁ…。
……あのクネクネした感じが何とも……。
そんなことを溜息交じりに考えながら、シンジは視線を上げた。
レイも黙って使徒を見上げる。
「…………。」
「…………。」
しばらく、二人とも黙して語らなかった。
「むっふふふふふふふ…!!
二人ともアタシの凄腕に言葉を失ったようね!!!当然よっ!!!
あっははははははははははは!!」
再び腰に手を当て、胸を反り返らせて笑うアスカ。
ひっくり返るなよ……。
「これって…。」
ようやく言葉を搾り出すシンジ。
レイの方は、“イメージを損なわないように”何も言わぬ決心をしたようだ。
ただ、そのこめかみを一筋、つつーっと汗が滴り落ちて行くのを彼女自身止める術をもたなかった。
「これってさぁ…アスカぁ…?」
何とかそこまで言って彼はアスカを振り返った。
それまで胸を張って高笑いしていたアスカが、慌てて
「いやん。」
とかなんとか言いながら両手で胸を隠す仕草をして身をくねらす。
「な、何やってんだよ?!!
と、とにかく、アスカ。
これってさぁ……。」
そんなアスカの反応に自分まで赤くなりながら、もう一度視線を使徒に向け直すシンジであった。
「これって…どう見てもシャムシエルには…見えないんだけど…。
どっから見ても、前回…サキエルがぽこぽこ吐き出したお猿さん…その巨大バージョンにしか…僕には見えないんだけど……?」
その通り。
三人の前にそそり立っている第四使徒・シャムシエル。
それはどこから見てもぬいぐるみ然とした巨大なお猿さんであったのだ!!
自信満々に答えるアスカ。
「そうよ!!
前にも言ったでしょ!!
アタシは、前世からお猿さんが好きだったんだもん!!」
「辞める…。」
ポツリとレイが言う。
「辞める…絶対に辞める…。
私、辞めるわ。
辞める。
辞めてやる。
辞めてやるーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
絶叫である。
先ほどの、イメージを守ろうという決心はどこへやら。
「アスカ!!!
あなたったら、あなたったら、あなたったら、あなたったら、あなたったら!!!
どーーーして、もっとこう、まともな物が造れないの?!!!
デッサン力ないんじゃない?!!!
それともそれ以前に創造力と想像力が欠落しているの?!!!
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで?!!!」
いきなりのレイの大声にびっくりしたシンジとアスカは、思わずひしっと抱き合って目を白黒させて彼女の方を見ていた。
「なんで、なんで、なんで、なんで?!!
なんでまた…!!!
また前回と同じものなのよっ!!!!
どうしてお猿さんの毛並みまでこげ茶色で全く同じなの?!!!
どうして今回は黒にしようとか思いつかないの?!!
どうしてせめて色設定くらい変更できないの?!!!
そうよ、いっそのこと、緑とか、桃色とか、橙色とか、紫とか…!!!
もっとこう、奇抜な色は思いつかないの?!!!!」
レイの興奮はまだ収まらない。
それに気圧された形で抱き合ったままのシンジとアスカ。
だが、前世以上に緊張感をなくしてしまったシンジは思っていた。
……やっぱりアスカって…いい形の胸…だよなぁ…。
お互いプラグスーツ姿である。
ぴったりくっ付け合った体の感触がもろに伝わってしまう。
……こればっかりは綾波も勝てないよなぁ…。
そうだった。
前世で彼はレイの胸をその手に掴んでしまっていた、そう言えば。
あれは、まあ不可抗力ではあったけれど。
で…今の場合もそう言えるかどうか……?
「そうよ!!!
アスカ、あなたにはその方面の才能がないのよ!!!
もしそれがあれば、こんな事にはならないはずだもの!!!
こんなもの、単なるリテイクじゃないの!!!
これでどうしようって言うのよ?!!!」
はあはあと肩を震わせながらレイは言った。
シンジはレイの言葉が途絶えたのを見計らって静かに言う。
「綾波……だから…イメージ、イメージ……。」
そう言われて、はっと我に帰るレイ。
「はっ…!!!
私…何を言ってるの…?!!!
…私、泣いてるの?」
「泣いてなーーーーいっ!!!」
それはアスカとシンジから同時に発せられた言葉であったと思っていただきたい。
まあ、若いんだから仕方がない。
色々あるさ、うんうん。
と、いうことで。
「見た目が問題なのではないわ!
中身で勝負よ!!!」
自信有り気なアスカである。
「アタシにかかれば不可能はない!!!
神様が悪役に強力な武器を許可してくれないのだったら、自分で工夫して努力して研究して、新たに作り上げるだけのことよ!!!」
「おおーーっ!!」
そう言って歓声を上げながらパチパチと手を叩く手下一号、同二号。
「凄いや、アスカ!!やっぱり君は天才の名に恥じない人だよ!!
僕は尊敬しちゃうな!!」
なんだか歯の浮くようなセリフを臆面もなく口にするシンジ。
いや、彼としては。
ついさっきまでアスカと抱き合ってその胸の感触を堪能していたのだが、さすがにバツが悪くなったというか間が悪くなったというか。
その照れ隠しの意味もあってついつい大袈裟な行動・言動に出てしまっているのである。
前世と比べて緊張感を失ったとはいえ、決して羞恥心まで失ったわけではない。
それは彼にとって僥倖と言うべきであろう。
「で、どんなワザを?!!!」
シンジがニコニコ顔でアスカに尋ねる。
「こういうのはどう?!!
相手の肩に手をかけて“寂しいの?”って問いかけるの!!
で、直後にぬいぐるみがポンって割れちゃうの!!
それで相手は戦意喪失っていうのは?!!!」
得意満面のアスカであった。
ニコニコ顔のまま、叩いていた手をはたと止めてしまうシンジ、あーーんど、レイ。
「…暗くない…?
僕は暗いと思います…。」
シンジの一言。
「私…決して暗いというのがイメージなのではなくてよ…。」
レイの意味不明(?)の一言。
「あら?駄目?
じゃあ、じゃあさ、こういうのはどう?!」
だが、アスカは二人の拒絶をさして気にもとめずに言う。
「なんだ、さすがだね、アスカ。
やっぱりちゃんとしたワザを用意してるんだね、凄いやぁ。」
そう言って再びパチパチと手を叩くシンジ、あーーんど、レイ。
「こういうのはどう?!!
相手に一旦その手をお腹に突っ込まさせておいて、直後にお腹を閉じてその手首をチョッキン!!
で、そのまま飛び上がって“ただいま”って言うのよ!!!
それで相手は戦意喪失っていうのは?!!」
得意満面のアスカであった。
ニコニコ顔のまま、叩いていた手を再びはたと止めてしまうシンジ、あーーんど、レイ。
「…暗いわ…。
果てしもなく、暗いと思うわ…。」
レイの一言。
「僕だって…決して暗いというだけのイメージなんじゃないはずなんだよね…。」
シンジの意味不明(?)の一言。
「あら?駄目?
じゃあ、じゃあさ、こういうのはどう?!」
だがしかし、アスカは二人の再びの拒絶をさして気にもとめず更に言う。
「……アスカ…。
もう拍手はしないよ…。
まず考えを聞かせて……。」
シンジはそれでも、作り笑顔だけはなんとか保ちながらそう言った。
日頃の努力の賜物である。
「こういうのはどう?!!
もう後手に部屋のロックなんかしちゃって!!
そいでもってイケナイことなんかしちゃって!!
で、最後に“最低だ、俺って”っていうのよ!!!
それで相手は戦意喪失っていうのは?!!」
得意満面のアスカであった。
次の瞬間、洞窟の片隅で壁に向かって膝を抱えてうずくまっている少年の姿があった。
「……いいんだ、いいんだ…どうせ僕って…最低のヤツなんだもん…いじいじ……。」
あらま。
そんなシンジの背後に立って、意外と明るい声をかけるアスカ。
「あっらーーー。気にしちゃったぁ、シンジぃ?!!
あはははははは、ごめんごめーーん!!
別にアタシ、もうそんな前世のことなんか気にしてないから!!
なーーーんとも、気にしてないからさぁ!!!
あはははは、全然気にしてなんかいないのよぉっ!!!」
思いっきり人が悪い……。
「そうだよ、そうだよ…僕って最低さぁ……しくしくぅ…。」
「あはははははは、冗談だってばさぁ!!!
いえ、ホントの事言うとさぁ!!
一度はアノ件でアンタのことギャフンと言わしてやりたかったのよぉ!!!
だからさ、一回限り、一回限りだからぁ!!!
もう機嫌直してよ、ね、ね?!!!」
「最低だよぉ…僕なんて最低なんだぁ…いじいじしくしくぅ…。」
「これこれぇっ、暗いぞぉ!!
前世のことなんかもういいじゃん!!!
アタシもホント、もう気になんかしてないからさ!!!
ほれほれ、こっち向いて!!
シンちゃーーん、こっち向いてぇ!!!」
「だってだって……ううう…。
ホント?ホントに気にしてない……?」
「ホントだってば!!!
さもなきゃ、さっきだってアンタに胸押し当てられて黙ってるわけないでしょうが!!!
さあさあ、こっち向いて向いて、シンちゃーーん!!!」
「うげ……ばれてぇらぁ……。」
何のことはない、戯言である。
その間、レイは数少ない己の身の回りのものをかき集め、荷造りをしていた。
「お暇(いとま)を頂きます…。」
そうつぶやきながら。
まあ、若いんだから仕方がない。
色々あるさ、うんうん。
と、いうことで。
「シャムシエルの武器は、前回のサキエル同様、ミニミニお猿さんよ!!
そして、そのミニミニお猿さんの全員にこれを持たせているの!!!」
そう言ってアスカは、何とも間が悪そうな顔をしているシンジと、とっと出て行こうとして行きそびれてしまい、不機嫌そうなレイの二人にモニターを指し示す。
「…これ…て…?」
思わず真顔になるシンジ。
そうだろう。
彼としてはあまり思い出したくないシロモノがそこには映っていたのだから。
だが、その思い出したくないシロモノ、アスカも同様のはずなのだが…。
「そうよ!!ミニミニロンちゃん!!
これを全ミニミニお猿さんに完全装備よ!!!」
「ミニミニロンちゃん……。
つまりこれは、ロンギヌスの槍…だよね…アスカ?」
若干の不快感を交えてそう言うシンジ。
「そう!!!前世でこのアタシを突っついた憎っくきロンギヌスの槍よ!!!
これさえあればエヴァなんてイチコロよぉっ!!!」
握り拳を固めて断言するアスカ。
そんな彼女を少し眩しげに見ながらシンジは言う。
「…確かにそうだけど……よくこれを作る気に…なったね…アスカ…?」
「何言ってんのよ!!!
アタシはもう前世のことなんて気にしていないってさっきも言ったでしょ?!!
問題は、今の、現世のこの悪役人生をいかに華麗に、いかに華々しく生きるかってことよ!!!
そのためには、ロンギヌスの槍だろうと白エヴァだろうと、何だって利用してやるのよっ!!!」
なるほど…彼女には悪役人生こそ相応しいのかもしれない…。
……やっぱりアスカって凄いんだね…。
……うん…僕もたとえ悪役だろうとなんだろうと、そんな君ともう一度一緒に人生を送る事が出来るのは……。
……素敵な事なのかもしれない……。
この日、碇シンジめでたく手下一号に正式就任。
「行くわよっ!!!」
悪役三人組が行く。
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「使徒接近!!」
「了解!!直ちにエヴァ各機発進!!」
第三新東京市。
第四使徒接近の報を受け、ネルフから三機のエヴァが迎撃に出た。
「出た出た!!エヴァのお出ましよぉ!!!」
シャムシエルの中、操縦席の上席にふんぞり返って座っているアスカが言う。
その前のコクピット席の二つに、シンジとレイが座っている。
さすがに今回は準備万端でアスカが用意したシャムシエルだけあって、前回のような自転車操業家内製手工業人力稼動張りぼてタイプ使徒ではなかった。
ちゃんと動力源を有して動いている。
どこからそんなものを手に入れたの、とか、どうやってそんな知識を、とか考えてはいけないのだ、間違っても。
悪に不可能はない。
…そうかな…?
展開を終えたエヴァ三機に対し、アスカは先制攻撃をかけるようシンジに命じる。
「シンジ!!面倒な前哨戦は無意味よ!!
とっととミニミニお猿さんたちを繰り出して、ミニミニロンちゃんで即断即決よ!!!」
即断即決は、ちと意味が違うけど…ま、アスカはドイツにんだからしょうがないか、などとシンジが考えながら攻撃ボタンに手を伸ばす。
その時、レイが前を向いたままシンジにポツンとつぶやいた。
「碇君は、私に対するイメージ…守り通してくれるわよね…?」
「綾波……まず自分自身を良く見つめ直すことって…必要な事だと思うよ…。」
それがシンジの答えだった。
レイ、コクピット席で“ムンクの叫び”状態。
だが、声は出さなかった。
…その方が、より不気味だったりして……。
「攻撃、開始ーーーーーーっ!!!」
アスカ、怒号!!
今まさに闘いの火蓋は切って落された!!
ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん……。
巨大お猿さんシャムシエルの口から次々に飛び出すミニミニお猿さん軍団。
「なんやぁ?またあれかいな?」
エヴァの中、チルドレン・トウジがそれを見て呆れたような声を上げる。
「いえ……少し…違うわね…。」
モニターでその様子を見ていた発令所のミサトが目を凝らした。
その隣、同様にモニターを凝視していたリツコがやがて驚きの声を上げた。
「あれは…あれは…あのミニミニお猿さんたちが銘々各自手にしているのは……あれはロンギヌスの槍ミニミニバージョンの…ミニミニロンちゃん!!!」
それを聞いてミサトが思わず親友の顔を振り仰ぐ。
「どうして?!!!なんてこと?!!!
なんで、あなたがそのネーミングを知ってるの?!!!」
そういう問題か…?
いや、確かにそうなのだが…。
リツコは自信を持ってそれに答えた。
「だって、これは勧善懲悪お笑いバラエティだもの!!!」
おいおい…違うよぉ…。
大して違わない…か…。
さて、司令部のそんな大混乱(?)などに関係なく、エヴァに向けて進軍するミニミニお猿さん軍団。
その手には、不気味に光るミニミニロンちゃんことロンギヌスの槍!!
ああ、ついにアスカたちの念願が叶う時が来たのか?!!
前世で、なーーんもええことなしで儚く散った彼女たちに、神は、いや悪魔は勝利の女神を、あ、いや、魔女を差し向けてくれたのか?!!!
何しろ世間では、青菜に塩、エヴァにロンギヌスの槍、猫に小判という交通標語があるくらいなのだ!!!
無いわい!!!
と、とにかく、ミニミニお猿さん軍団の着実な一歩一歩が、アスカたち悪役三人組に勝利をもたらしてくれるのだ!!!
「むっふっふっふっふ…!!
行け、行けぇーーーっ!!!」
コクピット上席から大声を張り上げるアスカ。
その表情は生気に満ち溢れ、輝かんばかりに溌剌としていた。
つられてついつい表情が明るくなるシンジとレイ。
「勝てば官軍って言うしね!!」
おいおいシンジ君、それでいいのか?
「この程度でなんとかなるのなら…私のイメージも損なわれないわ…。」
君にはそれだけかい、レイ?
だが、三人の思惑は今一致した。
かつて地上最強(?)と謳われた強力トリオの意思が今一つになったのだ。
もはや、この世に敵はいない!!!
この際、正義も悪もその事実の前では些細な事に過ぎないのだ!!!
強い者が勝つ!!弱肉強食の世界に彼らはいるのだ!!!!
「あっははははははは!!!
世界がアタシたちにひれ伏すのよぉっ!!!!!」
アスカの勝利宣言が高らかに響いた…。
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「はあ…はあ…はあ……。
こら、シンジ!!もっとしっかり足を動かしなさいよ!!!」
アスカの罵声が飛ぶ。
「…そんな…こと…言ったって……僕は…元々…前世でも……泳ぎは苦手だったんだから……はあ…はあ…。」
ぜいぜい言いながらシンジはやっとの思いで答えた。
「嫌…もう嫌……私の…私のイメージは……どこ……?
私の何が……いけないの……?」
半べそ掻きながらレイがつぶやく。
ここは太平洋上。
悪役三人組は、一枚のボロボロのパネルにしがみつきながら、ばたばたと足を蹴って、バタ足状態で海上を進んでいた。
彼ら自身もボロボロである。
「はあはあ…こら、ファースト!!しっかり足を動かせっつってんでしょうが!!」
ともすれば動きが緩慢になりがちなレイに向かって、そう声を浴びせ掛けるアスカ。
「…前も似たような目に遭った気が……。
私の何が……いけないの……?」
ぶつぶつ言いながらもバタ足を続けるレイ。
「何ぶつぶつ言ってんのよ!!!
って…あら、シンジは…?」
再びレイを見てそう言った時、隣にいるはずのシンジの姿が見えない事に気付く。
「あらぁ…?
どこ、シンジぃ?
……ありゃ……?」
アスカは後方に目をやった。
どうやら力尽きてパネルから手を離し、今まさに沈み行こうとしているシンジの姿が見える。
「こら、こらぁーーーっ!!!
何やってんのよっ!!!」
慌てて彼のプラグスーツの襟元を引っ掴み、ぐいっと引き上げるアスカ。
ザバッという水音とともにシンジの首が水上へ引っ張り出される。
「ぶはああぁ…苦しかったぁ…。」
パネルにしがみついてそう言うシンジ。
「アンタ、何、タイタニックやってんのよ?!!
しっかりしなさい!!!」
「…いっぺん、やってみたかったんだ……。」
「このアホっ!!!」
さて、何故三人はここに?
疑問はごもっとも。
だが、理由は簡単である。
悪の天才・アスカにも盲点がたった一つだけあったのだ。
たった一つだけ。
ミニミニお猿さんのミニミニロンちゃんは、確かにエヴァに対して絶対的に有効な武器であった。
それを知っているからこそ、ネルフは、スタッフたちは、そしてパイロットたちは戦慄を禁じ得なかった。
どんどんと進軍するミニミニお猿さん軍団。
だが、たった一つだけ。
悪の天才・アスカにも盲点がたった一つだけあったのだ。
ロンギヌスの槍は、それはもうエヴァのコアやら、目やら(!)、喉やら(!)に突き立ててしまえばそれでエヴァは一巻の終わり。
だが。
そこまで近づけなければどうなるの?
アスカの盲点はその一点だった。
彼女は巨大お猿さんシャムシエルにミニミニお猿さん軍団を装備した。
ミニミニお猿さんにミニミニロンちゃんを装備した。
完璧だった。
ここまでは。
でも、他に武器は?
ミニミニお猿さんたちがエヴァに接近するまで、彼らを守る武器は?
そしてシャムシエル自身を守る武器は?
…………。
「忘れてた。」
その時、彼女は一言そう言ったという。
無防備にエヴァに近づいて行ったミニミニお猿さんたちは、パチン、パチンと三機のエヴァに踏み潰されてしまっていったのである。
合掌。
で。
全部のミニミニお猿さんたちが平面化し、儚い三次元での生を終えた時、丸裸の巨大お猿さんシャムシエルだけが残った。
後は前回同様、
「「「やなかんじーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」」」
である。
彼らにとっては見慣れたものともいえるポジトロンライフルの閃光とともに、三人は遥か洋上へと空中散歩。
そして、今に至る。
「ぜえぜえぜえ……。」
「はあはあはあ……。」
「私の、何がいけないの……。」
アジトたるミッドウェー島を目指してひたすらバタ足を繰り返す三人。
しかしやがて、アスカの顔に満面の笑みが広がり始める。
それを横目で見たシンジが尋ねる。
「…どうしたの、アスカ…?
なんか……笑ってるみたい、だけど…?」
その声に、レイも振り向いてアスカの方を見る。
「ふふふふふふ…あははははは…。
ねえ、二人とも!
これはこれで楽しくない?!!
あははははは!」
突然何を言い出すんだ、この娘は…。
そんな感じで顔を見合わせるシンジとレイ。
「な、何が楽しいのさ?!
あんな酷い目にあわされて、けちょんけちょんに負けちゃって…!!
そいでもって、こんな肉体労働を強いられてるのに!!
どうして楽しいのさ?!!」
シンジの抗議の声に、うんうんと頷くレイ。
「あははははは、確かにけちょんけちょんだったわね!!!
でも、それも今回までよ!!次はきっちりと決めてやるわよ!!!
アタシが言ってるのはそういうことじゃなくて!!」
……次……。
……とほほほ…アスカぁ…。
……次も…やるの…?
シンジのこの思い。
時と場所を誤てば、結構意味深なセリフだぞ……。
「こういうさあ、青空の下でさぁ!!
だだっ広い海をさぁ!!!
三人でこうやってバシャバシャやって泳いで帰って行くなんてさぁ!!!
前には想像もつかなかった世界よ!!
結構、脳天気で健康的じゃん!!!
あははははははは、気持ちいいーーーっ!!!
これは悪役でなきゃあ、経験できそうもないことだわ!!!
あははははは!!」
あっけらかんとそう言って、アスカは大声上げて笑った。
そう言えば、とシンジも思う。
前と比べてみると、今のアスカはよく笑う。
それも明るく爽快によく笑う。
その表情もなんだか、吹っ切れたような感じがする明るさを見せる。
「健康的…か…。」
そうつぶやくシンジの口元にも、いつしか笑みが広がり始めていた。
けれど。
「…私は笑わないわよ…イメージというものがあるから…。」
そう言う者、約一名。
「あははははははは、悪役人生かぁ!!!
これはこれで楽しいかもね!!!
クセになりそう!!!!」
Fin
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構 ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。 |