悪役人生外伝U 〜悪役、侵入?!〜

 

Written by take-out7

 

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 作者注:この作品は、タームさんの傑作『悪役人生』の外伝です。

 『悪役人生』を先にお読みください。
 また、『悪役人生』には外伝としてAyameさんの傑作『悪役人生外伝 〜悪徳商売ぼろ儲けの巻〜 』
があります。そちらもお読みください。

 付記:なお、今ストーリーはAyameさんの傑作『悪役人生外伝 〜悪徳商売ぼろ儲けの巻〜 』とは、
微妙に設定が違っております。こちらではまだ、悪役三人は現世のチルドレンの正体(?)を知りません。
 
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太平洋上に浮かぶミッドウェー島。

人外魔境とも呼べそうな島の真奥部。

そこに…使徒製造基地があった。

 

「うむぅ……。」

 

大きな洞窟の中に用意された最新科学設備の数々。

だが、なぜかそんな中で灯りと呼べるものはか細い炎を揺らめかせるロウソクであった。

恐らく、誰かの趣味なのだろう…。

誰ったって、それは…その…。

 

「うむぅ……。」

 

そんなうす暗がりの中、搾り出すような呻き声が聞こえる。

その声の主とは……今更何をか言わんや。

 

「うむぅ……。」

 

それは、我らが“悪の女王”アスカ。

前世で、ひどい、ひっどーーーい目に遭わしてくれたこの世の中とネルフ、ゼーレに対して復讐を誓った天才美少女である。

 

「うむぅ……アタシとしたことが……。

何か…何かを見落としているわ……。

何かを…何か重要なことを……。

うむぅ……。」

 

最新式近代設備を誇る使徒製造工場。

で、ありながら。

何故かあちこちが欠けた木のテーブルにロウソク一本…そんな状態を前にして腕組をし、じっと考え込んでいるアスカ。

 

その背中を、少し離れた所から冷静に見つめる二人の人物。

それが誰かって…今更何をか言わんや。

 

悪役・シンジとレイである。

 

「はあ…何唸ってるんだろうなぁ…。」

つぶやくシンジ。

「まったく、この前あんな目に遭わされたってのに…。

どうせまた、良からぬことを企んでいるんだろうなぁ…。

はあ……。」

溜息を吐き出すシンジであった。

 

隣のレイがポツリと言った。

「良からぬことを企むって…碇君…。

あなた、何を言っているの?

私たちは悪役よ…。

良からぬ企みを捻り出すことが、お仕事じゃないの…。」

 

「そりゃそうだけどさぁ……。

綾波ぃ…?

いつからそんな風に割り切っちゃったんだい?

イメージを大切にしていた君が……。」

 

シンジの言葉に、ぴくぴくと肩を震わせるレイ。

 

「だ、だから…。

だから、だから…。

もう、善人役には戻れないのなら……。

せめて、せめて悪役としてであっても…私は私のイメージを……。

この手で守ろうって決めたのよ…。

誰の手も借りないわ。私は私で自分のイメージを守るの。

それには、善人も悪人も関係ないことですもの…。」

 

恐らく、この決心をするまでには様々な葛藤があったんだろうなぁ……。

などと、他人事ゆえお気楽に考えるシンジ。

そう、彼は前世以上に緊張感を失ってしまっていたのだ。

彼は、レイの横顔を見つめながら一言言った。

 

「綾波……まず自分自身を良く見つめ直すことって…必要な事だと思うよ…。」

 

レイ、シンジの隣で“ムンクの叫び”状態。

だが、声は出さなかった。

…その方が、より不気味だったりして……。

 

「うむぅ……。」

そんな背後の小コントなどお構いなく、思いあぐねるアスカ。

 

だが!!

彼女は天才であった!!

前世でも現世でも、彼女は天才だったのだ!!

彼女は複雑に絡みあった思念の糸を、ものの見事に解きほぐしたのだ!!

 

「はっ!!!

そうか!!

そうだった!!!

そういうことだったのねぇーーー!!!

あっはははははははははは!!!

そうだったのねぇーーーーっ!!!

あははははははははははははははは!!!!」

高らかに笑い声を上げるアスカ。

それは洞窟内に響き渡り、数多くのこだまとなって三人の頭上に降り注ぐ。

 

椅子を押し倒して立ちあがり、天井に向かって馬鹿笑いを続けるアスカの背中を見ながら、シンジはポツッと独り言ちる。

「また…始まるのか……。」

 

諦めなって、シンジ君……。

 

「手下一号、同二号、来なさい!!!」

 

ひとしきり笑い終えた後、アスカは二人を振り返ってそう叫ぶ。

 

「はいはいはい……。」

もはや抵抗の意思すら見せぬシンジであった。

 

「…手下って…私のイメージに合うのかしら……?

……どうかしら……?

うう…ううう……うううう……わ、分からない…。」

頭を抱えながら寄ってくるレイ。

結局彼女もアスカに従ってる事には変わりがない。

 

「アタシとしたことが!!!

なんて迂闊だったのかしら!!

こんな簡単で、かつ重大な事を見落としていたなんて!!!」

そんな反省の言葉とは裏腹に、満面に“自信満々のア・タ・シ!!”という文字を張りつけんばかりに得意顔のアスカ。

 

「何事、アスカぁ?」

のほほんと質問するシンジ。

いや、まったく緊張感を失ったようだね。

それは君にとって幸福なのか、不幸なのか……。

 

「よくお聞き!!」

大声張り上げるアスカである。

「聞いてますよぉ。」

余計な一言のシンジである。

 

「サキエル、シャムシエル…この二体の使徒の失敗は何?!!」

 

あら、まさかここでそんな事を聞かれるなんて、という表情で顔を見合わせるシンジとレイ。だが、すぐにシンジはアスカに向かって答える。

「それは、アスカの発明したメカがへっぽこだったから…。」

レイも同調するように言う。

「それに、命令出してるアスカもへっぽこだったから…。」

 

「違うわいっ!!!!」

目を吊り上げて怒鳴りつけるアスカ。

 

だが、元は同じチルドレン、二人も負けてはいない。

二人して顔を見合わせてうんうんと頷きながら言うのであった。

「違わないよねぇ、綾波ぃ?」

「ええ、違わないわ、碇君。私と碇君はよくやったと思うもの。」

「そうだよね、前世でも僕らはよくやったよね。」

「そうよ。殊に私なんて、あなたたちの尻拭いばかりさせられて、それでも健気に頑張っていたもの。」

「綾波…だからね…。

君も自分のイメージを大切にしたいって言うんだったら…“尻”なんて言葉は…その…。」

「あら…私、何を言ってるの?

…私、泣い…。」

 

「じゃかわしーーーーわっ!!!!」

今生に生まれ変わってアスカ……ちょっと下品になってない…?

いえ、気のせい、気のせい……と。

 

ともかく、アスカの一喝でぴたっと口を閉じるシンジ、あーーんど、レイ。

だが、せっかくのキメ台詞を途中で遮られたため、レイは見るからに不満たらたら。

 

「…何よ、何よ…。

せっかくこの私がボケかまして…あなたたちにツッコミの機会をあげようとしたのに……こんな中途半端なところでカットするなんて……酷いわ、酷いわ……。

まるでこれじゃあ、肝心のセリフが入る直前にCMが割り込んじゃう深夜枠の映画放送みたいじゃないの……まったく、やっていられないわ…ぶつぶつぶつ……。」

よっぽど、タイマー録画かなんかしていて嫌な目に遭ったことがあるのだろう…。

その気持ち、分からんでもないぞ。

 

「ファースト!!何ぶつぶつ言ってんの?!!!

アタシの話を聞きなさーーい!!」

アスカ、そんなブチブチレイにもう一喝。

 

「まったくアンタたちはぁ!!」

ようやく静かになったレイと、ぼおっとしているシンジを前に思わずこぼすアスカであった。

 

「違うでしょうが!!

サキエルとシャムシエルの失敗!!

それは、相手のことを知らなさ過ぎたのよ!!!」

 

「はい?」

シンジ、目がテン。

 

……確かに、サキエルの時は…向うにエヴァが三機も揃ってるなんてこと予想もせずに押しかけちゃったもんなぁ…。

 

押しかけるって…ご飯を食べさせてもらいに行ったんじゃないぞ、シンジ君…。

 

……でも、シャムシエルの場合は…あれは、向うのことを知らなさ過ぎたというよりも……己のことを知らなさ過ぎたって言うか、何て言うか…。

……そういうことじゃなかったっけ…。

 

多分、君は正しいよ、シンジ君…。

だが、それをアスカに向かって言える勇気、ある?

 

……ない。

 

大変良く出来ました。

 

「何ぼおっとしてんのよ!!シンジ!!!

また、アタシの胸に見惚れてんの?!!!」

 

ご、ご冗談を、と言えないのがシンジの辛い所…。

 

「つまり!!

敵を知り己を知れば百戦危うからずってね!!!」

アスカ、拳を振り上げて断言。

 

「おおっ!!」

思わず歓声を上げてパチパチと拍手するシンジ、あーーんど、レイ。

 

「凄いや、アスカ!!どこでそんな立派な日本語を?!!

僕、尊敬しちゃうなぁ!!」

 

やっぱ…胸、見てたんだね、シンジ君……。

 

だが、そんな二人の反応など気にも留めず更に続けるアスカであった。

「でぇ!!アタシたちはもう己を充分に知り尽くしているから、後者は置いとくとして!!」

 

そこで、はたと拍手を止めてしまうシンジとレイ。

「…己を…知ってるって…今アスカ…そう言った・・の、かな…?」

レイの耳元に口を寄せて囁くように尋ねるシンジ。

「…私には…そう聞こえたわ、碇君。」

レイも囁くように答える。

 

「はあ…今度、アスカのために辞書買ってくるよ。」

「…で、どうするの、碇君?」

「机の上にさりげなく置いておく…“み”のページを開いて…。」

「…“み”……?」

「そう…“み”……分かる、綾波…?」

「み…み……み………?」

 

しばらく頬に手をあてがって考え込むレイ。

しかし、すぐに両手をポンッと叩いて納得顔になる。

彼女はシンジに向かって答えた。

 

「分かったわ、碇君!

その“み”のページにはこういう項目があるのね!!!

“身の程知らず”!!!」

「わーーい、さすが綾波だぁ!!!

ノーヒントじゃないか!!凄いなぁ!!!」

「そりゃあ、私、前世では本の虫だったのですもの!!」

「そうだったね!!ここは昔のイメージにピッタリだよ、綾波!!」

「本当?!!ホントにそう思う、碇君?!!!」

「本当だよ、良かったね、綾波ぃ!!」

「有難う、碇君!!!」

 

「こらーーーっ、二人して何を盛り上がっとるのかぁーーーーっ!!!」

 

アスカ、怒号。

 

 

まあ、若いんだから仕方がない。

色々あるさ、うんうん。

と、いうことで。

 

「で、敵を知らねばならないのよ、アタシたちは!!!

一体誰がエヴァに搭乗しているのか?!!

それは、どんな輩なのか?!!」

「や、輩って…アスカぁ…。」

「おだまり!!!

元々はアタシたちが乗っていたエヴァよ!!

それに我物顔で納まっているヤツらなんて、輩よ、ヤ・カ・ラ!!!」

 

この一言、妙に二人を納得させた。

 

それを見て、アスカはニヤリと笑った。

 

「…ここよ…。

アタシたちが見落としていた重要なポイントは…。」

 

「え…?」

キョトンとするシンジ、あーーんど、レイ。

 

「良く考えてみなさい。

アタシたち、前世ではエヴァに乗っていたのよね?」

アスカに念を押されて、こくこくと頷くシンジとレイ。

シンジは若干の不快感を交えながらつぶやく。

「そうだよ、それで酷い目にあって…もう、思い出したくも無いような目に…お互い…。

それで…。」

「それで、天国であの知った風なことを言う神様に頼んだったんだわよね?

悪役でもいいから、もう一度人生やり直させろって!!」

「悪役でもいい…って言ったのはアスカだけど…。」

「それでアタシたち、悪役として現世に戻って来たのよね?!!

悪役人生を全うするために!!!違う?!!」

「…違わない…。」

 

アスカはここで一旦言葉を切ると、二人の顔を代わる代わる見つめる。

その口元には会心の笑みが浮かんでいた。

 

どうしっちゃったんだろう、アスカ…?と、シンジが思った時、アスカはニヤリと笑って言った。

その表情は、まさに小悪魔と呼ぶに相応しいものであった。

 

「ふっふっふっふっふ……神様は、とんでもないミスを犯したわね…。

アタシが気付いたのはそれよ!」

「ミス…?神様がミスを……?」

何のことかさっぱり分からないシンジは鸚鵡返しに尋ねた。

 

「そうよ!!!

そして、アタシたちはそのミスに乗じて勝負に出るのよ!!」

両手でガッツポーズを作りながら瞳を燃え滾らせるアスカ。

 

「シンジ!!!それにファースト!!!

なんでアタシたち、前世のことを覚えているの?!!!」

 

「は…?」

「へ…?」

キョトンとする手下二人。

 

「今生に生まれ変わるのなら!!!

前世から現世に生まれ変わってくるのなら!!

前世のことを覚えていないのが普通でしょうが!!!

前世のことをさっぱり忘れてこの世に生まれ変わってくるんでしょう?!!!

それが!!

アタシたちは三人とも前世のことを完璧に覚えているわ!!!

神様ったら、アタシたちの前世の記憶を消すのをすっかり忘れていたのよ!!

ファースト、あんたシンジを守るために、シンジをかばうために自爆しちゃったこと、しっかり覚えているでしょう?!!!」

 

そう言われて、思わず俯きつつも、こくっと頷くレイ。

 

「シンジ!!あんただって!!

あんただって浅間山で、アタシのためにマグマに飛び込んでくれた事、覚えているでしょう?!!」

 

レイ同様、黙って頷くシンジ。

 

「そうよ!!

アタシだって覚えてる!!!

シンジがアタシの病室へやって来て、部屋にロックなんかしちゃって!!

そいでもってイケナイことしちゃって!!!

そいでもってそいでもって“最低だ、俺って”ってやっちゃったの覚えてるもん!!!」

 

次の瞬間、洞窟の片隅で壁に向かって膝を抱えてうずくまっている少年の姿があった。

 

「……いいんだ、いいんだ…どうせ僕って…最低のヤツなんだもん…いじいじ……。」

あらま。

 

そんなシンジの背後に立って、意外と明るい声をかけるアスカ。

 

「あっらーーー。気にしちゃったぁ、シンジぃ?!!

あはははははは、ごめんごめーーん!!

別にアタシ、もうそんな前世のことなんか気にしてないから!!

なーーーんとも、気にしてないからさぁ!!!

あはははは、全然気にしてなんかいないのよぉっ!!!」

 

思いっきり人が悪い……。

 

「嘘つきぃ…アスカの嘘つきぃ……。一回限り…一回限りってそう言ったじゃないかぁ…。

いじいじしくしくぅ…。」

「あはははははは、ごめんごめん!!

いえ、ホントの事言うとさぁ!!

一度はアノ件でアンタのことギャフンと言わしてやりたかったわけでしょお!!!

で、この前ギャフンと言わしてやったわけだけどさぁ!!!

それって結構面白かったもんだからさぁ!!!

それで今回限りのリターンマッチってやつぅ?!!!

あはははははは、ごめんごめん!!!

だからさ、今回限り、今回限りだからぁ!!!

もう機嫌直してよ、ね、ね?!!!」

「最低だよぉ…僕って最低なんだぁ…ううう…いじいじ…。」

「これこれ、暗い暗いーーっ!!

こっち向いて、シンちゃーん、こっち向いてぇーーっ!!!

あははははは、シンちゃんてばさーーーっ!!!」

「僕なんて、僕なんてぇ…しくしく。」

「おーーい!!

アタシはもう何にも気にしてないってばーーーっ!!

だから機嫌直してこっち向いてよーー、シンちゃーーん!!!」

「ううう…ホント…?ホントに気にしてない…?」

「ホントだってば!!

さ、さ、こっち向いて向いて!!」

「う、うん…。」

で、シンジはアスカを振り向いた。

そこにはあっけらかんとした笑顔のアスカがいて、自分を見ていた。

 

……はあ、笑ってるよ、アスカ……。

 

「さあ、立って、立って!!!

これはもう今回限りだからさぁ!!!

もう言わないから!!!

あはははははははは、ホントに困ったシンちゃんねーーーっ!!」

 

アスカに促され、バツの悪そうな顔をしつつも頷いて立ち上がるシンジであった。

 

何のことはない、戯言である。

 

いや、しかし。

 

女の涙に騙される男は、決して恥ずべき者ではない。

むしろ男としては当然のことであろう。

勲章が一つ増えた、くらいに思っても良いのだ。

だが。

女の笑顔に騙される男は。

ただの馬鹿である。

 

シンジ君、今回限りなんて言葉、信じてはいけない!!

いけないのだ!!!

 

 

まあ、若いんだから仕方がない。

色々あるさ、うんうん。

と、いうことで。

 

「つまーーり!!

アタシたちは前世の記憶の全てを持ち合わせているのよ!!!

ネルフのこともエヴァのことも!!!

知らないのはパイロットのことだけ!!!

だから、こっちからネルフへ出向いて行って、パイロットがどんなヤツらなのか、探るのよ!!!」

 

「おおーーっ!!」

思わず歓声を上げてパチパチと拍手するシンジ、あーーんど、レイ。

 

「アタシたちはネルフの構造を熟知しているわ!!

潜入なんてチョロイもんよ!!!

そしてパイロットがどんなヤツらかを調べ上げる!!!

その上で次の対策を練るのよ!!

どう?!!!」

 

「凄いや、アスカ!!!

この手はいけるよ!!そんな気がする!!うんうん!!」

「そんな気がするぅ?!!!

そんないい加減なことでどうすんのよ!!!

成功間違いなし、これよ!!!」

そう言って高々と拳を天に向けて突き出すアスカ。

 

やんややんやの拍手と歓声を送るシンジとレイ。

 

何なんだ、この子どもたちは…?

 

「あっはっはっはっはっはっは!!!

神様ーーーーーーーーっ!!!

素敵な忘れ物、有難うございましたぁーーーっと!!!」

 

普通、神様に感謝する悪役なんていないってば。

 

「行くわよ!!」

 

悪役三人組が行く。

 

 

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第三新東京市。

ネルフ本部。

 

さて、ミッドウェー島からどうやって三人がここまでやって来たか、などということは。

考えてはいけない、決して。

いけないのだ。

 

悪に不可能はない。

 

「こっちこっち…。」

あっちの物陰、こっちの柱の脇、そっちのゴミ箱の中…巧みに身を隠しつつネルフ本部内をウロチョロする悪役三人組。

 

こういう時には前世の記憶ってとてもとても便利なものだったりするのだ。

 

「えーーと、この時間帯は職員たちは交代制で休憩時間だからっと…。」

そんなことをつぶやきつつも、ネルフ中枢へと着実に近づいていくアスカ、シンジそしてレイ。

 

ああ、ついにアスカたちの念願が叶うの時が来たのか?!!

前世で、なーーんもええことなしで儚く散った彼女たちに、神は、いや悪魔は勝利の女神を、あ、いや、魔女を差し向けてくれたのか?!!!

ネルフの、そしてエヴァのことを誰よりも知り尽くしている三人が、そのパイロットの詳細までをも手に入れれば、まさに鬼に金棒、グランドに鉄棒、火事には消防である!

そういう交通標語があるくらいなのだ!!!

無いわい!!!

と、とにかく、彼女たち三人自身の着実な一歩一歩が、悪役三人組に勝利をもたらしてくれるのだ!!!

 

やがて、アスカが小声で言う。

「第一発令所…よ…。」

ゴミ箱を三つ前に立て、その後にかがみ込んだ三人。

 

箱の一つから空き缶がコロコロと転げ落ちるたんびに、手を伸ばしてそれを掴んでは箱の中へ戻す、そんなことを繰り返しているシンジ。

「まったく、前世と変わらずに適当に突っ込んでるから…。

もっとちゃんと入れればこんな風に溢れ出たりしないのに…ぶつぶつ…。」

などとつぶやきながら。

 

ポカン。

アスカが拳をシンジの脳天に落下させる。

 

「あたたたた……。」

「こんな時になにやってんの、アンタは?!」

「環境保全…。」

 

答えたのはシンジではない。レイであった。

彼女は彼女で、ゴミ箱の中の“燃えるゴミ”と“燃えないゴミ”の分別にいそしんでいた。

「どうしてこう、いい加減なのかしら…。

ああ、またこんな風にお茶の紙パックとお弁当のプラスチックケースを一つ袋に入れて捨てている人がいる……。

自分さえ良ければいいのかしら?

冗談ではないわ、因果は巡るのよ。

そういう考えをする人に限って、終末処理場でゴミに埋もれてその生を終わる、なんてことになりかねないのよ。

それとも、それを望んでいるの?

だったら、そう言いなさい。

私がこの手で…ふふふふふふふふふ…。」

なにやら、一種恍惚とした光を瞳に宿らせ、一心に分別を続けるレイ。

 

そんな彼女を見ながら、たらーーっと汗を一筋、二筋流すシンジとアスカ。

 

だが、勇気を振り絞る…それは時として男の子の役目であったりする。

シンジは恐る恐るレイに声をかける。

 

「あ…綾波…?

綾波ぃ……?

綾波…さん……?」

「ふふふふふふふふふふ……。

黒いビニール袋がお好みかしら?

それとも炭酸カルシウムを含んだ市指定のゴミ袋?

まさか、スーパーの買い物ビニール袋って言うのではないでしょうね?

小さすぎて入らないわよ…ふふふふふふふふ…。」

「あ、綾波ぃ…。

綾波…レイ…さーーーん……。」

 

シンジに声をかけられていることにようやく気付くレイ。

彼女は顔を上げてシンジを、そしてアスカを見る。

 

「綾波……。

前世でも現世でも……今のはかつてないイメージチェンジ…だと…思うけど…。」

 

シンジに言われ、はっと我に帰るレイ。

 

「はっ…!!!

私…何を言ってるの…?!!!

…私、泣いてるの?」

 

「泣いてなーーーーいっ!!!」

それはアスカとシンジから同時に発せられた言葉であったと思っていただきたい。

 

だが、二人にツッコミを入れられた時、何故かレイの顔が嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか…。

 

 

 

まあ、若いんだから仕方がない。

色々あるさ、うんうん。

と、いうことで。

 

三人はゴミの分別も無事に終わり、発令所入り口にまで接近していた。

ゴミ箱の陰から首を伸ばして中の様子を探る三人。

 

そんな彼らの耳に、発令所内の会話が聞こえてくる。

かつて、前世において聞きなれた懐かしい声であった。

 

「うん、三人ともシンクロテスト、良好ね。」

葛城ミサトである。

 

キラリ。

音を立ててアスカの蒼い瞳が光る。

……シンクロテスト!!

……チルドレンのデータを手に入れる、ちゃーーーーんす!!!

 

そして、シンジに何事かを命令しようとして彼を振り向いた時。

 

「み、ミサトさんだぁ……。」

 

そこに、何とも締まりの無い顔をしたシンジを見たのである。

 

「ちょ、ちょっと、シンジ?」

「ああ、ミサトさんだぁ、間違いないや……。

元気そうだなぁ……。

やっぱり格好いいよなぁ……。

後姿なんて、颯爽としてるもんな……。

…ああ、ちゃんとご飯食べてるかなぁ…?

また、スナックとコンビニ弁当とビールだけ、なんて食事になっちゃってるんじゃないだろうな…?

栄養バランスが悪いって、いつもいつもあれだけ言ったのに…なかなかやめてくれなかったもんな…。

また、一人暮しなのかなぁ?

誰か食事の面倒みてあげる人、いないのかなぁ…?

そうだ。

今度僕が行って何か作ってあげようかな…。

そうだよな、うんうん。

僕がいなきゃ、何にも出来ない人だったもんなぁ…。

そうだ、そうだよ。

僕が行かなきゃ。行ってあげてお掃除とか、お料理とか、お洗濯とかしてあげなくっちゃ。

いくら何でも住み込みってわけにはいかなくなっちゃったから、そうだな……週二回の通いの“家政夫”さんってことで雇ってもらって…。

それからそれから…。」

 

ゴチンッ!!!

 

強烈な拳固がシンジの脳天に突き刺さった。

 

「夢見とんのかいっ?!!おのれはっ!!!」

 

アスカが耳元で金切り声を上げた。

 

「はっ!!

こ、ここはどこ?」

ホントに夢見心地だったのね、シンジ君…。

 

「しっかりしなさい、シンジ!!

今のアタシたちは、ミサトとは赤の他人!!敵と味方!!右と左に泣き別れよ!!!」

「ああ……そうだった……そうだったね、アスカ。」

 

そう答えるシンジがどこか寂しそうである。

 

……ちっ、アタシとしたことが!!!

……これはマズったかしら?!!

……シンジにとってミサトは、言わば憧れの対象!!!

……必要以上に美化したイメージを持ってるわ!!!

……それが、こんな感じでいきなり再会させちまった日にゃあ!!!

……里心がついちゃうわね!!!

 

「シンジ!!!よく聞きなさい!!!

アンタとミサトはそりゃあ、前世では家族同然で暮らしてたかも知れないけど!!!

アンタはそれを覚えていても、向うは何も覚えちゃいないのよ!!

いえ、覚えているどころか、知りもしないのよ!!!

今のミサトにとってアタシらは、憎っくき使徒を操る“敵”なんだからね!!」

シンジの両肩をがっしりと抑えて、そう諭すアスカ。

そんなアスカの瞳を見つめながら、シンジもようやくここへ乗り込んできた目的を思い出したようだ。

 

「う、うん……。

分かってる、分かってるよ、アスカ。」

シンジのその言葉を聞いて、アスカは再び発令所の様子を窺うために振り返る。

 

そして仰天した。

レイが、とっとっとっと歩いて発令所入り口まで行き、そこからぼおっと中を見渡していたのだ。

 

「うぎゃーーーっ!!!」

脱兎の如く駈け出したアスカは、レイを小脇に抱えると飛び出した時以上の速さでシンジの元へ駆け込む。

 

「な、な、なーーにやってんのよっ!!!ファースト!!!!」

レイに罵声を浴びせるアスカ。

だが、そんなアスカの声など耳に届かぬものの如く、レイは遠い目をしてつぶやくのであった。

 

「碇司令……お変わりなく……。」

「こらこらーーーーーっ!!!

そうじゃなくってぇーーーーっ!!!」

「やっぱり…ミサトさん……格好いいよなぁ…。」

「あ、こらこらシンジ!!

巻き戻るんじゃなーーい!!」

「今でも私には…微笑みかけてくれるかしら…。」

「おーーい、ファーストーーーっ!!!

ちょっとアブナイぞーーーっ!!」

「ミサトさん…“帰ったら続きをしましょ”って言ってくれたもんなぁ…。

覚えてないかなぁ…。」

「こら、こらーーっ!!シンジぃっ!!!

つ、つ、つ、続きって、続きってなによぉーーーっ?!!!」

「碇司令…。」

「ミサトさーーん……てへへへ。」

「し、シンジ!!!てへへってなによぉーーっ、てへへってぇ?!!!」

 

じたばたごそごそ。

ゴミ箱の脇ですったもんだの悪役三人組。

 

そこを男が一人通りかかった。

思わず両手でシンジ、そしてレイの口を塞ぐアスカ。

そしてその人物をやり過ごそうとする。

さすがにじっとして身を潜める三人。

 

「んん?なんだ?

今日はやけにでかい生ゴミが捨ててあるなぁ…。」

 

男はゴミ箱を一瞥してそうつぶやくと、廊下の角を曲がって消えて行った。

 

その時、アスカは思わず立ちあがって甲高い声を上げた。

 

「か、加持さんだーーっ!!きゃいーーーーんっ!!!」

 

ボカッドカッ!!

 

シンジ、あーーんど、レイ、無言でリーダーをどつく。

 

 

さて。

 

シンジとレイの挟撃にあって、とっととアスカが気を失ってしまったため、今作戦はこれにて中断。

悪役三人は得るものもなく、むなしくミッドウェー島への帰途につくのであった。

 

どうやって来たかは聞かないでいただきたいが、帰る方については別に構わない。

三人並んで木切れに掴まっての、太平洋横断バタ足大会である。

 

「アスカ…。」

ふうふう言いながら、シンジが隣で憮然とした表情でバタバタと足を動かしているアスカに声をかける。

 

「…何よ……。」

どうも、思いっきり機嫌が悪いらしい。

 

「あ、あはははは…また、またの機会ってものが…あるから…さ。」

なんとかその場の雰囲気を取り繕おうとするシンジ。

 

きっ!!

そんな音がしそうな勢いでシンジを睨むアスカ。

 

「…ごぼごぼぉ……。」

口を海面に押し当てて泡立ててしまうシンジ。

これでも逃げ隠れしているつもりなのだ。

 

「…また…これなの……?」

レイ、いつもの不平不満。

 

「……シンジ……。

この際、はっきりさせようじゃないの…。」

アスカがボソッと言った。

 

その声は恐らく、シンジがかつて聞いた中でも最大級の部類に入るくらいの不気味さを漂わせていた。

真っ青になりながら、それでも笑顔を張りつける事だけは忘れないシンジ。

 

「ははは…な、なにぃ…アスカぁ……?」

 

前世と比べて緊張感を失ったとはいえ、決して恐怖心まで失ったわけではない。

それは彼にとって僥倖と言うべきであろう。

 

「アンタ……前世で……ミサトと……何したのよ?!!!」

 

「うぐぅっ!!!」

思わず息を飲み込むシンジ。

 

「何したのよっ?!!!

つ、つ、続きって…続きって何よ?何のことよぉっ?!!!!」

そう言うなり掴まっていた木切れから両手を離し、シンジの首を絞め上げるアスカ。

 

「ぐわぁ…ぐ、ぐるじいぜずびょお……。」

「この、裏切り者ーーーーーーーーっ!!!」

「私の…どこがいけないの…?」

「じ、じずびばずよ、あじゅがじゃん…、

て、てぇはなじでまぶがら…じずびばずよ…。」

「沈もうが沈まいが知ったことかーーーーっ!!!

この、最低男ぉーーーーっ!!!」

「私のイメージって…どこ…?」

「もう…もうじまじぇん、もうじまじぇんから…あじゅがじゃん…。」

「当たり前じゃーーーっ!!

まだ、する気やったんかいっーーーー!!!」

「ああ、そうなのね、私のイメージって、きっとこの広い広い海の底に沈んでいるんだわ……。それとも、あの青い青い空の彼方にあるのかしら……。」

「ぐえええぇ……しむう…。」

「アホッ!!!悪役はそう簡単には死なないのっ!!!!」

 

Fin

 

 

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マナ:「悪役人生」シリーズもとうとう4作目ですねぇ。take-out7さんありがとうございましたぁ。

アスカ:また、これなのぉぉぉっ!? どうなってるのよぉっ!

マナ:どうでもいいけど、あなたはやっぱりへっぽこね。

アスカ:何がよっ!

マナ:チルドレンの顔を拝みにきておいて、どうしてわたしの所まで辿り着かないのよっ!

アスカ:手下一号、同二号が、しくじったからよっ!

マナ:前世の記憶があるんだったら、シンジがわたしの顔を見たらきっと・・・。(ぽっ)

アスカ:うっ・・・。ミサトであの状態だからねぇ。でも、シンジは今更アンタのことなんか何とも思って無いわよっ!

マナ:じゃぁ、試してみたらぁ?(正義の味方を一緒にしましょうって言えば・・・今なら・・・ふふふ)

レイ:(ぬぼーーーっ)

アスカ:きゃーーーーーっ! その登場の仕方やめなさいよねっ! びっくりしたぁぁぁ。

レイ:なんだか、イメージがおかしくなるどころか、危ない女の子になってる・・・。しくしく。

アスカ:一心不乱にゴミの整理なんかするからよっ!

レイ:ゴミの分別は大事ですもの・・・。

アスカ:しかも、アンタねぇ。どんどん漫才のボケ役にはまっていってるでしょ?

レイ:う・・・。はっ! 私、泣いてるの?

アスカ:(無視)

マナ:(無視)

レイ:ガーーーーーーンっ!

アスカ:寒い娘が来たから、帰りましょうか。

マナ:そうね。今回は、これでお開きね。それじゃ、ばいばい。

アスカ:ばーーーい。

レイ:いじいじ・・・。
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