悪役人生外伝One More Final 〜まごころを、悪役に?!〜

 

Written by take-out7

 

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 作者注:この作品は、タームさんの傑作『悪役人生』の外伝です。

 『悪役人生』を先にお読みください。

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太平洋上に浮かぶミッドウェー島。

人外魔境とも呼べそうな島の真奥部。

そこに…使徒製造基地があった。

 

「むっきーーーっ!!!。」

 

大きな洞窟の中に用意された最新科学設備の数々。

だが、なぜかそんな中で灯りと呼べるものはか細い炎を揺らめかせるロウソクであった。

恐らく、誰かの趣味なのだろう…。

誰ったって、それは…その…。

 

「むっきーーーっ!!!。」

 

そんなうす暗がりの中、甲高い金切り声が響き渡る。

 

「むむうっ!!!冗談じゃないわよっ!!!」

 

怒り心頭に発しているのは、無論我らがアスカ、その人である。

 

「冗談じゃないわ!!!

何が、“The Final”よっ!!!

なんであんなファイナルがあるってえのよっ!!!」

 

髪を振り乱して地団太踏んで…それはそれは怖いまでの怒りようである。

 

「なんでいきなり、あんな“ほのぼの”したお話になっちゃうのよっ?!!!

これは『悪役人生』よっ!!!

その『外伝』よっ!!!

アタシたち三人は、世の中に、ネルフに、ゼーレに復讐するために今生に舞い戻って来たのよ!!!

それが!!

それが何であんなファイナルになっちゃうのよっ?!!!」

 

もう、椅子をひっくり返し、机を蹴り上げ、それはそれは怖いまでの怒りようである。

 

「あ、アスカ…お、落ち着いて……。」

恐々…そんな感じで声をかけるのは、これまた無論のことシンジ、その人である。

 

「やかましーーーっ!!!

シンジっ!!!アンタだってそう思うでしょ?!!

なんでこのお話があんな“爽やかーーぁ”な終わり方しなくちゃなんないのよっ?!!

そう思うでしょ!!!」

アスカは目を爛々と輝かせてシンジに詰め寄る。

 

「あうう……。

そ、それほど“爽やかーーぁ”なお話でも…なかったと…思いますが…。」

たらーり、たらーりと汗を流しつつ、いちおう反論めいたものを口にするシンジであった。

 

「おだまりっ!!!

アタシは納得いかないの!!!冗談じゃないってぇのよっ!!!」

 

そう言って、テーブルのコーヒーポットを床にひっくり返すアスカ…それはそれは怖いまでの怒りようである。

 

ん…?

なんでコーヒーポットなんて小道具がここに…?

 

「大体!!

あんなお笑いすらない中途半端なお話で、一体誰が納得するってえのよ!!

アタシ、シンジの“イケナイ病室”ネタをぶちかませなかったじゃないのっ!!!」

「ぶ、ぶちかまっすって…アスカぁ…。」

「ファーストだってそうよ!!

“私、泣いてるの?”ネタがまるっきり影も見えなかったわよ!!!

それで納得してるの、ファースト?!!」

「……しているわけがないわ…。」

「でしょ、でしょーーーっ?!!!

ふん!!

どうせお笑いネタが尽きたってんでしょうけど、それならそれで構わないわ!!!

だが、しかぁしっ!!!

悪役の悪役たるを見失ってどうするかぁ!!!

アタシたちは悪役として、堂々とネルフに勝負を挑んでこそなのよ!!!」

 

堂々と勝負を挑む悪役……?

そんなもん、聞いた事ないぞ…。

 

「あんなもんで終わられちゃあ、何のためにアタシたちが現世に戻って来たのか?!

それもわざわざ“悪役”になってまで戻って来たのか、分からないじゃないの?!!

アタシは認めないわっ!!!」

「み、認めないったって……。

あ、あれはあれでまあ…『悪役人生外伝』の一つの終局ということで…。」

「お・だ・ま・り・っ!!!

あんなんで終局なんて言われちゃあ、悪役の名が廃るってもんよっ!!!

舐めんじゃないわよっ!!!」

 

マジで怒ってるよ、この人……。

 

「シンジっ!!ファーストっ!!

攻めるわよっ!!!

総攻撃よっ!!!

小細工なんか要らないわ!!!

真っ向勝負よっ!!!

エヴァだろうが、ネルフだろうが、ヒゲオヤジだろうが知ったこっちゃないわ!!!

一大攻勢に出るわよっ!!!」

アスカ、倒れた椅子に片足をかけて握り拳を振るわせながら遂に断言。

 

「まどろっこしい真似は止めよ!!

力押しに押しまくる!!!」

 

その迫力に、思わずパチパチと拍手するシンジ、あーーんど、レイ。

 

「おおっ!!

そこまで言い切るなんて!!

何か、何か秘策があるんだね、アスカ!!!」

 

シンジのそんな声に対し、足元の椅子を踏み潰してアスカは叫ぶ。

「秘策ぅっ?!!

そんなもん、要らん!!!」

 

「へっ?!!」

シンジとレイ、目がテン。

 

「今も言った通り、力押しに押すのよ!!!

これをご覧!!!」

そして彼女は自身の背後を指差すのであった。

 

「うおおっ!!

こ、これはぁーーーっ?!!!」

シンジが驚きの声を上げる。

無理もない。

アスカの背後に居並ぶのは、第五使徒以下、十三体の使徒たちであった。

 

もう、前世で彼らが戦った使徒たちの原形などどこにもとどめていない、アスカ完全おりじなーーるっ!!!

一々ここでそれらを説明している暇はないので割愛するが、とにかく十三体の使徒たちなのだ!!!

何がいったいどんな風体、なんて聞かないで、お願いだから!!!

 

「そもそも!!!

なんでアタシたちが、馬鹿正直に使徒を一体ずつ切り離して送り込まなくちゃなんないのよっ?!!

そんなヘボいやり方は前世の話よっ!!

こいつら十三体、まとめて大挙して徒党を組んで一斉に、第三新東京市へ送り込むのよ!!!」

 

「おおーーっ!!!」

その迫力に、思わずパチパチと拍手するシンジ、あーーんど、レイ。

 

「あっははははははは!!!

ここまでの大量の使徒を一度に送り込めば、エヴァのパイロットが誰だろうが知ったこっちゃない!!

アタシたちの完全勝利よっ!!!

あははははははははははっ!!!」

そう言ってアスカは洞窟中にこだまを響かせて笑うのであった。

 

だが、前世以上に緊張感を無くしてしまっているシンジは、そんなアスカに向かって平然と問う。

「完全勝利…ねぇ…。

アスカぁ…悪が栄えたためしはないって……今時小学生でもしってる慣用句だよ…。」

 

そんなシンジを、迫力ある目つきでギロリと一瞥するアスカ。

シンジは思わず縮み上がる。

 

「ふん!!!

何、しょうもないこと言ってんのよ!!

アタシが今ここで、アンタたちに正しい日本語を教えてあげるわ!!!」

 

……アスカから日本語の講義を聞くはめなるとは思わなかったなぁ…。

シンジは心内で思わず呟くのであった。

 

「“悪が栄えたためしはない”ーーーーっ?!!!

なるほど、それは当然よっ!!!」

ところがアスカは、シンジの言葉をあっさりと肯定したのである。

 

「はい?」

シンジ、そしてレイはまたしても目がテン状態でアスカの顔を見る。

「…アスカ…あなた、自分で何を言っているか分かっているの…?」

レイがアスカにそう尋ねた。

 

「当ったり前よっ!!!

よくお聞き、二人とも!!!

“悪が栄えたためしはない”!!

それはもう、その通りよ!!!

シンジっ!!

俗世間では、“最後に”何が勝つって言うのかしら?!!!」

 

アスカに問われ、シンジは躊躇せずに答えた。

 

「最後に正義が勝つ……って…そんなところかな…?」

「その通り!!!

これが答えよっ!!!」

自身満々に言い放つアスカ。

 

それを聞いて、顔を見合わせて考え込むシンジとレイ。

 

やがてポツリとシンジが言う。

「…つまり……現時点での正義だの、悪だのに関係なく……。

最後に勝った方こそが正義だって…そういうことを言いたいの、アスカ?」

 

「ああん、惜しい!!!」

シンジの声に、とてもとても残念そうな言葉を返すアスカ。

それは、心底シンジの答えを残念がっているようであった。

 

「お、惜しい?」

シンジはアスカの言う意味が理解できず、ただ鸚鵡返しに訊き返すのみ。

 

「そう、惜しいわ、シンジ!!!

その答えは、真実に八割、いえ九割方近づいているのに…最後の詰めが甘ーーいっ!!」

そう言ってアスカはシンジから今度はレイに視線を移す。

 

「…最後に正義が勝つ…と、いうのではなく…。

最後に勝ったものが正義を名乗れる……と、いうのもまた真実を言い得ていない…。

それは…つまり……?」

レイは改めて言葉に出してそう反芻しながら考える。

だが、やはり有効解答は得られないようだった。

 

アスカは、二人を前にして力を込めて言った。

「よろしい!!

教えてあげるわ!!!

正義だから最後に勝つんじゃない!!!

そして、最後に勝ったものが正義ってことでもない!!!

唯一絶対の真実は!!!」

 

ごくっと喉を鳴らしてシンジがアスカの言葉を待つ。

レイも同様に真剣な眼差しで彼女の顔を見つめていた。

 

「唯一絶対の真実とは!!!

アタシが勝つ!!!

アタシたちが勝つ!!!

アタシたちが勝つこと、それが正義なの!!!

他の誰が最初に勝とうが、最後に勝とうが知ったこっちゃないわ!!!

アタシこと惣流・アスカ・ラングレーが勝つということ、イコール正義なのよっ!!!

それ以外に、正義の定義はなーーーーいっ!!!!」

 

シーーーン…。

 

静まり返る洞窟内。

もはや、恍惚とした瞳で己の理論(?)に陶酔しているアスカと、そんな彼女をぼおっとした面持ちで見つめているシンジ、レイ。

 

が、やがて。

 

ぱち…ぱち…ぱち、ぱち、ぱち…。

レイが手を叩き始める。

つられてシンジも。

 

「凄いわ…アスカって……。

これこそ、独善者の鏡……。」

「綾波……。

前世ではアスカが君のことを、そう呼んだような気が……。」

ぼそぼそ言いながらも拍手を続けるシンジ、あーーんど、レイ。

 

「悪役だろうとなんだろうと!!!

アタシが勝ってこそ、それが正義よっ!!!

この大前提の前に、瑣末な事柄など何の意味も持たないわ!!

欲するのは勝利!!これ一つのーーーーみっ!!!」

アスカはそう断言するのであった。

 

「うん…うん、うん!!!

な、何か無茶苦茶な気もするけど…!!

うん!!アスカの言葉を聞いているとそんな気がして来たよ!!!

そうだよね!!今の僕たちが求めるものはただ一つ、勝利だぁ!!!」

何だか、完全にアスカに乗せられたようなシンジである。

 

「碇君……それで、いいの?」

レイはまだ冷静さを失ってはいないようだ。

とは言え、彼女もまたパチパチと拍手する手を止める気は毛頭ないようなのだが。

 

「いいんだよ、綾波!!

僕ら三人は今の世に生まれ変わってきた悪役さ!!!

神様の前で、悪役でもいいからもう一度人生をやり直させろって言ったアスカに従って、ここへやって来たんだ!!!

だったら、この世においては、ずっとずっとアスカに付いて行くのが当然なんだよ!!!

そして、アスカが勝つことが正義だっていうんだったら…。

勝った時点で僕らは悪役じゃなくなるんだっ!!!

アスカぁっ!!

僕は、僕は一生君について行くよぉっ!!!」

 

おいおいおい…。

何か、勘違いしてないか?

 

「へ?

シンジ…?!

い、今、何て…?!!」

たった今まで自らの言葉に酔いしれていたアスカも、シンジのトンでもない一言に思わず我に帰ってしまったようである。

 

「一生、君について行くっていったのさぁっ、アスカぁっ!!」

どうもまだ、自分の言っている言葉のその重大さに気付いていないようなシンジ。

 

そんなシンジの元へつかつかと歩み寄るアスカ。

 

で。

 

ゴチンッ!!

 

シンジの脳天にアスカの拳骨が落ちた。

 

「な、な、何寝ぼけたこと言ってんのよっ!!

こ、この馬鹿シンジっ!!!」

大声でまくし立てるアスカなのだが、その顔は怒りのためか、或いはそれ以外の理由によるものなのか…真っ赤っかのリンゴちゃん状態であった。

 

「いててててて…。」

あまりにも強烈な一撃だったがゆえに、己の頭を抱え込んでその場にしゃがみ込んでしまうシンジ。

「あうううう……な、何すんだよ、アスカぁ…?」

一転して情けない声を上げるシンジである。

 

「お、お黙り、この馬鹿シンジ!!!

あ、アンタ、自分で何言ってるか分かってんでしょうねっ?!!」

そんな彼に向かって、両手に腰を当て、両足を肩幅強に開いて立ち、見下ろすようにしてアスカはたたみ掛ける。

 

「あ痛たたたたぁ……。な、何って?」

いまだ頭を擦りつつ、アスカを見上げるシンジ。

 

「な、何って…?!!

アンタ、このアタシの口から言わせる気ぃ?!!

アタシの口から言ったが最後、アンタ自分がどうなるか分かってんでしょうねぇっ?!!!」

まだまだ真っ赤なアスカ、それでも攻勢の手だけは緩めようとはしないのがさすがである。

 

「アンタ!!!

今、言ったわね?!!

い、い、い…一生、ア、アタシに…つ、つ、ついて行くって…そ、そう言ったわね?!!!」

 

アスカにしては珍しく、つっかえつっかえしながらも、何とかそこまで言うのであった。

 

「へ……?

へ………?

へ…………?!」

シンジもようやく、アスカが何を言わんとしているのかに気付いたのである。

 

前世と比べて緊張感を失ったとはいえ、決して洞察力まで失ったわけではない。

それは彼にとって僥倖と言うべきであろう。

 

「は…。

あ……。

あ、いや……。

あの、アスカ…その……それは、つまり…。」

何とも弁解がましい口調になり始めるシンジ。

 

だが、アスカとしても。

せっかくネギをしょって出てきたようなこの鴨を、この場で優しく見逃してやるほどには、まだ人生経験が豊かではない!!

ないのだっ!!

 

「馬鹿シンジの分際でっ!!!

このアタシに向かって言ったわねぇっ?!!

一生アタシについて行くって言ったわねぇっ?!!!」

言葉は相変わらずキツイが、それ以上にその蒼い両目は、絶対に取り逃がす事などあり得ない獲物を捉えたがごとき、一種獰猛な光を宿していた!!

 

「あ、いや…いやだから…それは、その…!

あ、あくまで…て、て、て、手下として……その……。

ずっとずっと…ア、アスカのお、お伴をさせて頂きますって………。

そういう意味で…ございまして……そ、その…何も……私と、致しましては……その…。

決して左様な……お、お、畏れ多きことを…も、申し上げたのでは、ご、ございませんでありますんだすです…はい。」

そんなシドロモドロな言葉を口にしながら、座り込んだままじりじりと後退をし始めるシンジ。

 

しかしアスカも同様に、ジリジリとシンジに詰め寄る。

腰に手を当てたまま、上の方から睨み付けるようにしてジリジリと詰め寄る。

 

「ほ、ホント……た、他意があっての…ことではございません…はい…。

あくまで、あくまで…て、手下、手下としてのことで……はははは…。」

もう、情けない繰言にしか聞こえないような言い訳を口にしつつ、ずるずるとお尻を引き摺って後退し続けるシンジだった。

 

だが、所詮は洞窟の中。

限度というものがある。

 

シンジは到々、壁を背にしてその動きを封じられてしまった。

 

「シンジぃーーーーっ!!!」

 

覆い被さるようにしてアスカがシンジの名を呼ぶ。

その迫力たるや、使徒なんか無くったって彼女一人でエヴァの三機や四機、蹴散らせるのではないかと思わせるほどある。

 

「は、はい…。」

一方、今にも泣き出しそうな顔でご返事するシンジ。

その情けなさたるや、たとえエヴァに乗っていようが使徒を操っていようが、彼一人では縦のものを横にすることすら、とても出来そうにないのではないかと思わせるほどである。

 

「おりゃあっ!!」

掛け声とともに。

アスカがシンジの首に手をかけようとする!!

 

……ひえっ!!し、絞められるうっ!!!

…………。

……そ、そうだよね…。

……前世では、二度も君の首を絞めた僕だもん…。

……そんな僕は…君に絞められて…当然だよ……。

……こんな僕に…一生ついて行くなんて言われたって…迷惑なだけだよ…ね。

 

前世と比べて緊張感を失ったとはいえ、決して反省心まで失ったわけではない。

それは彼にとって僥倖と(以下略)。

 

彼は覚悟して待った。

アスカのその細い指が、十本の指が自分に首に絡みつき、満身の力とともに握り込まれるのを待った。

覚悟して目を閉じ、彼は待った……。

 

……最後に君に言う言葉は…やっぱり…“ごめんよ、アスカ”…みたいだね…。

 

 

だが。

 

彼の首にかかるはずのアスカの両手は。

そのまま彼の首を素通りし。

優しく彼の頭に巻きつけられるのであった。

 

そして聞こえる甘い声。

吐息とともに聞こえるアスカの声。

 

「……今更なことを……言うんじゃないの……。

この…馬鹿シンジ……。」

 

アスカはシンジの顔にその頬を寄せてそう呟いた。

 

「…え……?」

思わず目を開いたシンジは、何が何だか分からないといった風情で茫然としていた。

 

「アンタが…このアタシに一生ついて来るってのは……。

この世にアタシたちが舞い戻った時から…決まってることなのよ…。」

アスカはシンジの顔を見ようともせずに、その耳に向かって静かに呟き続ける。

 

「決まってることなの……。

でも…。

でも……。

それでも…。

それでもさ……。

そうして、ちゃんと言葉にして…言ってくれたんだね…シンジ…。

ふふふ…ぜ、前世では…そんなセリフ…どう転んだって言ってくれそうになかったのにさ…。

ちゃんと…言葉に出して……言ってくれたね、今…。」

「アスカ…。」

「アンタが手下としてこのアタシにずっとついて来る……。

当然よ…。

ずっと、ずっと…よそ見せずに、脇見せずに…ちゃんとついて来るのよ…。

そうしたら…。

そうしたら……。

そうしたらいつの日か…。

アンタのこと……手下から一段上に昇格させて…あげるわ……。」

「…………。」

 

ようやくアスカは頬を離し、シンジの顔を両手に挟むようにして見つめる。

真っ赤なことに変わりは無いが、その顔にはシンジがかつて見たことがないような素敵な笑みが広がっていた。

恐らくアスカ自身、このような笑顔を他人に見せたことはこれまでにも一度か二度くらいのことではないだろうか。

 

「アタシに一生ついて来るってのは…並大抵の覚悟じゃ済まないわよ?

いいわね?」

「…うん…分かってる…。」

「よろしい……。

その心構えを忘れなければ……手下から昇格する日も…案外、そう遠い事じゃ…ないかも、ね……。」

「…有難いね…それは……。」

「シンジ……。」

「アスカ……。」

 

そして二人の顔は引き寄せられるように少しずつ、少しずつその距離を埋めて行った。

 

そして……。

 

 

「…いつまで…やっているの、二人とも…?」

 

闇を切り裂く冷静な声。

その声の主は。

勿論、待ってましたのご登場、レイである。

 

「へ…?

あ、あら…?!

あ、あらら、ふ、ファースト…あんた…い、いつからそこに…?」

慌てて顔を上げてそう言うアスカの顔は、再び真っ赤っかのトマトちゃん状態。

 

「…何を馬鹿なことを言っているの?

私、最初からここにいたわ……。」

あくまで冷静なレイの声。

 

「え…?

そ、そうだったっけ…?」

ますますバツが悪そうな声を上げるのはシンジである。

 

「そうよ…何を言っているの、碇君…。

……いつまでアスカの背中に手を回しているつもり…?」

冷静に指摘するレイ。

 

言われて、アスカはシンジの手を振り解いてパッと飛びのく。

その距離、二メートルと四十センチ。

 

「あ、いや…その…。

あははははははははっ!!

つまり!!!

あ、アタシが勝つことが正義よっ!!!」

 

いきなりそこまで戻るか…?

 

「…まったくあなたたち二人は……。

放っておくとロクでも無いことをしでかしそうね…。

やっぱり私、あなたたちを影に日に見守るというイメージそのままに、今生での生を全うすべきなのかしら…?」

レイはそう言いながらこめかみをポリポリと掻くのであった。

 

「…綾波…前世ではそんなポーズ……イメージには無かったよ……。」

ついつい言ってしまうシンジ。

 

「そう……?

そうかもしれない……。」

 

そっちへ振ったか、レイ……。

 

「あ、あはははははははははっ!!

と、とにかく!!!

要はそういうことよ!!!

アタシが勝ってこその正義!!!」

 

無理矢理話をまとめようとするアスカ。

だがその笑い声に、いつもの力強さは見られなかった。

 

 

 

まあ、若いんだから仕方がない。

色々あるさ、うんうん。

と、いうことで。

 

「シンジ、ファースト、準備はいい?!!」

 

アスカが二人に声をかける。

今、アスカ、シンジ、レイの三人はそれぞれが使徒の中に乗り込み、出撃準備に入っていた。

 

「いつでもいいわ…。」

レイが答える。

「僕も!!」

妙に元気の良いシンジの返事。

 

「よろしい!!

じゃあ…。」

そしてアスカは号令する。

 

「行くわよ!!」

 

悪役三人組が行く。

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

「……ちょっと待ちなさいって…。」

「何、アスカぁ…?」

「…………?」

「だから、最初に言った通り……。

何で…?何でこんな終わり方なのよっ?!!!」

「何でったって…。」

「…………。」

「これは『悪役人生』だっつうの!!

その『外伝』だってば!!!

何なのよ、この中途半端なラブラブ(きゃいーーん!シンジぃ!!)な終わり方は?!!」

「ら、ラブラブ(てへへ…ア、アスカぁ…)な終わり方って…。

しょうがないじゃん、こうでもしなけりゃ、延々と続いちゃいそうなんだもん、この話…。」

「……(二人とも…何を臆面もなく“ラブラブ”なんて言ってるのよ…。

自分たちのことでしょ、自分たちの)……。」

「だから!!

最後にアタシたちが大勝利を収めて、それで大団円ってことにすればそれでいいのよ!!!」

「…そうは言っても…ねえ、綾波…?」

「……そうね…。それは所詮、無理な相談というものよ…アスカ…。」

「なんでよっ?!!」

「アスカぁ、落ち着いて…。」

「……私たちが勝って…そしてアスカ、あなたの言う通り本当にそれが正義だったってことになってしまったら…。

それのどこが『悪役人生』なのよ…。」

「そういう細かいことはいいのっ!!!

この世に悪も正義もなーーいっ!!

強いものが勝つのよっ!!!」

「勝てば官軍って言うしね…。」

「碇君…あなたはそれしかないの…?

二人とも……。

悪役は悪役として…最後の最後までずっと悪役のままで…勝つことなく戦い続けるのよ…。」

「か、か、勝つことなくぅ?!!!

ファースト!!何てこと言うのよっ?!!!」

「そ、そうだよ、綾波?!!

いくら何でも…それは酷いよ…酷すぎる人生だ……。」

「何を言ってるの…?

それが『悪役人生』ってものよ。

それに……。

悪役なればこそ……ネタは永遠に尽きないもの…。

いつまで経っても私たち、ずっとずっと主役でいられるわ…。」

「ず、ずっとずっと、主役ぅ…?!!

そ、そうなの、ファーストぉ?!!!」

「落ち着いてってば、アスカぁ…。

綾波…何を根拠にそんな……そんなことを…?」

「私、前世では本の虫だったのよ…。

こんな詩歌があるの……。

 

“浜の真砂は尽きるとも、世に悪役のネタは尽きまじ”……。」

 

 

Fin

 

 

「…それも言うなら、“世に盗人の種は尽きまじ”…じゃないの…?」

 

 

ホントにFin

 


マナ:こ、これで・・・本当に完結? アスカ? 何してるのよぉぉ。

アスカ:何って、ラブラブモード突入よ。

マナ:わたしが、全然出ないまま終わっちゃったじゃないのよぉ。

アスカ:そんなの知らないわよ。

マナ:あなたも、最後に勝つってあれだけ言ってたんなら、どうして攻め込んで来ないのよ?

アスカ:あぁ、ちょっと言い方が悪かったかもね。

マナ:言い方?

アスカ:勝とうが負けようが、どうでもいいのよ。

マナ:はぁ?

アスカ:悪役だろうが、正義だろうが、どうでもいいのよ。

マナ:はぁ?

アスカ:早い話、アタシが楽しけりゃ・・・アタシの思う通りに人生進めば、なんだっていいのよぉぉぉ!(^O^)

マナ:・・・・・・あなたねぇ。

アスカ:なによ?

マナ:折角正義の味方になったのに・・・。わたしの立場はどうなるのよーーっ!

アスカ:所詮は、アタシの人生って道に転がる1つの石ころってとこね。

マナ:わたしの人生を返せーーーーーっ!!!!
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