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悪魔と天使と
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BY たっちー



第1話 「悪夢の始まり」






ガタンゴトン、ガタンゴトン。

気が付くと僕は電車に揺られていた。
夕方なのだろうか?窓から差し込む光は夕焼けを感じさせる。
僕が乗っている車両には、僕以外誰も乗っていない。
いや、自分以外の人の気配がまったく感じられなかった。
それに良く見れば窓からは何も見えていない。淡い光が差し込んでいるだけ。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

座ったまま振り返り自分の背後の窓から外を眺めてみる。
やはり、何も見えない。いや、なにもない。淡い光が差し込んでくるだけ。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

線路さえないような気がした。
何もない空間を進む電車だ。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

ふと、何者かの気配を感じる。
視線を正面に戻す。
いた。
少年が一人、僕の向かいのシートに座っていた。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

黒い髪、黒い瞳。
どこか、線の細そうな顔立ち。
すぐにわかった。僕だ。
ただし今から10年前、14歳の。
なぜか正確に年齢までがわかった。

「君は誰だ?」

尋ねてすぐに我ながらバカな質問だとおもった。
答えは予想どおり、

「僕は碇シンジ。つまり君さ」

そう答えて少年、いや、もう一人の僕が微笑んだ。
その笑顔に何か違和感を覚える。
僕はこんな人を馬鹿にしたような笑みを浮かべているのだろうか?

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

「正確には君の心の一部、あるいは君の中のもう一人の碇シンジだけどね」

僕の内心の疑問を無視してもう一人の僕は話を進める。

「もう一人の僕?」

「そう、あるいは君の本質」
「そして今、僕は目覚めようとしている」

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

「目覚める?」

「そう、君は目覚める。自分の本当の能力に」
「君の本当の姿に」
「そう、君は(僕は)神になるんだ」

神になるんだ―そう言ったときの彼の(僕の)顔が悪魔のそれに見えて僕は
思わず目を閉じた・・・。



ゆっくりと目を開ける。
見えたのは見慣れた天井。
自分のマンションの寝室の天井。

「また、あの夢か・・・」

そう、今のは夢だったのだ。
そして、僕はもう1ヶ月近くも同じような夢を見ていた。
もっとも、自分自身が出てきたのは初めてで、これまでに語りかけてきた相手
はさまざまだった。

中学生のときからの友人、鈴原トウジ、相田ケンスケ。
研究所の先輩、日向マコト、青葉シゲル。
子供のころよく遊んでくれた隣の家のお姉さん、葛城ミサト。
大学時代の恩師であり、今は研究所の上司である、冬月コウゾウ。
冬月先生の養女、綾波レイ。
大学時代からの親友であり研究所の同僚、渚カヲル。
父、碇ゲンドウ。
そして・・・、記憶にないブロンドの髪に青い瞳の少女。

見た目は今現在のものだったり、子供のころのものだったりとさまざまだが、
彼らの言うことはみな同じ。

『君はもうすぐ目覚める。そして神になるんだ』

そして、最後に浮かべる悪魔のような笑み。

今朝はついに自分自身から同じセリフを聞かされた。

なぜ、こんな夢を毎晩見るのだろう?思い当たる節は何もない。

手探りで枕もとの目覚し時計を探し、目の前にかざしてみる。
午前5時ちょうど。起きるにはまだ早い。
しかし、目がさえて眠れそうにない。
いや、眠ってしまうとまた「あの夢」を見そうで怖い。

「冬月先生に相談してみるか・・・」

そうつぶやいて、僕はシャワーを浴びようと起き上がった。





結局、その日シンジはいつもより早くマンションを出た。
起床が早すぎたため、シャワーを浴び、食事を済ませた後にすることが無くなって、
マンションと同じ第3新東京市にある会社に向かうことにしたのだ。

超巨大多国籍企業「ゼーレ」の系列にある総合研究組織「ネルフ」。
その中の「形而上生物学第1研究所」がシンジの職場だ。

もっとも、早く出社することにしたのは必ずしもすることがなくなったからだけではなかった。
自分が研究所に着くころには、所長である冬月コウゾウがすでに出勤しているとわかっていたからだ。
冬月は始業時間の1時間前には出社しているのが常だった。―30分は話をする時間があるはずだ。

シンジと冬月の関係は3年前に始まる。出会ったときシンジは第3新東京大学の学生であり、冬月は定年間際の大学教授だった。
シンジが配属された研究室の教授が冬月だった。
シンジが飛び級で大学院を卒業したとき、冬月は退官して「ネルフ」に招聘された。
その時、冬月が、

『自分のところで働いてみる気はないか』

とシンジを誘いシンジはそれを受けて、「ネルフ」に入社したのだった。
もっとも、すんなりと「ネルフ」入社を決めたわけではなかった。
それというのも父であるゲンドウが「ネルフ」の社長兼「ゼーレ」の取締役であり、そしてシンジは父が嫌いだった。
幼いころに母を亡くした自分を叔父夫婦に預けたまま見向きもしなかった父。
その父が社長をしている会社に入るのには少なからぬ抵抗があった。冬月の強い勧誘があって入社を決意したのだった。

「ネルフ」に入ってもうすぐ1年経つのか―シンジは会社に向かう車の中でふとそんなことを考えていた。
この3年間、冬月先生は公私にわたって自分の良き相談相手であった。
その冬月に対してでも夢のことを相談するのは抵抗があった。自分が「神になる」という託宣を受けるような夢を。
しかし、同じような夢を1ヵ月も続けて見るようでは誰かに相談するしかない。
そして相談相手には冬月が最適だった。
夢を見始めたころ、友人たち―トウジやケンスケに酒の席で冗談交じりに話したことがあったが、

『それは御大層な夢やな』
『そいつはいい。毎晩ちゃんと眠っている証拠だぜ』

と笑われただけだった。


気付くと車は何時の間にか研究所の敷地内に入っていた。
案の定、所長室の電気がついており、冬月が出社していることを示している。
他に電気がついている部屋はなさそうだ。駐車場に留まっている車もない。
もっとも「ネルフ」はいくつかの研究所に分散されているため、
この小さな(敷地だけは異常なほど広い)研究所に勤めているのはせいぜい20人ほどしかいなかった。

「とにかく冬月先生に相談してみよう」

自分に割り当てられた駐車スペースに車を停めるとシンジは所長室に向かって歩き始めた・・・。





「ふむ、なかなか興味深い夢だね」

シンジの話を一通り聞くと冬月はそう言った。

「興味深いって、先生・・・。冗談で言ってるわけじゃないんですよ」

冬月の反応に思わずシンジは声を尖らせてしまう。そんなシンジに冬月は思わず苦笑した。

「いや、すまんすまん。・・・しかし、いいかげんその『先生』というのはやめてくれんかね?」

「あ、はい。すみません、所長」

なんとなく話をそらされたような気もするが―『先生』と呼ぶのはいいかげん直さないとな、とシンジは思った。

「まあ、それはそれとして・・・、毎晩のようにそんな夢を見るのは困ったものだね」

冬月は苦笑を収めて真剣な表情になった。

「どうしてそんな夢を見るようになったか、思い当たる節はないのかね?」

「いえ、何も。別に怪しげな宗教にハマッたりしてませんし」

我ながらくだらない答えだと思いながら、シンジはそう答えた。
しかし、冬月は笑いもせず、

「ふむ・・・。疲れているのではないかね?日向君と青葉君が出向中で、今、君のいる部門にいるのは君と渚君だけだろう?」

「確かに忙しいのは忙しいですけれど、それほど疲れているとは・・・」

「いや、シンジ君が気付いていないだけかも知れんよ。どうかね、一度医者にみてもらっては?いい医者を紹介するよ?」

「いずれ、お願いするかも知れませんが、今は・・・」

「まあ、無理はせんでくれよ。今、君に倒れられては困るからな」
「近いうちに一度、私の家に遊びに来ないかね?ここではあまり相談に乗ってやれる時間もないし・・・。
 シンジ君が来てくれれば娘も喜ぶ」

冬月先生の娘・・・、綾波か―その神秘的な青い髪と赤い瞳を持つ少女の姿を思い浮かべると、シンジの胸はときめく。
綾波レイがどういう経緯で冬月の養女となったか、シンジは知らない。
ただ、学生のころから何度か冬月に呼ばれて家に行ったことがあり、そのうちにシンジはレイに心引かれ始めたのだった。
もっとも、レイの心はシンジではなく渚カヲルの方に―カヲルもシンジといっしょに冬月の家に遊びに行ったことがあった―向いていたし、シンジもそのことは気付いていた。

「そうですね、近いうちに」

そろそろ、始業時間だった。シンジは相談に乗ってくれたことの礼を言って所長室を後にした。
シンジがいなくなったのを確認して冬月はどこかに電話をかけた。

「うむ。どうやらシンジ君は能力に目覚め始めているらしい。・・・いや、渚の方はまだわからん。
 ・・・しかし、本当にいいのか?碇」



続く



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後書き

はじめまして、新米作家たっち―と申します。

一応LAS的な話にするつもりなんですが・・・。
結局、第1章ではシンジと冬月しか出せませんでした。
アスカを始め、その他のキャラクターの登場はいつになるのでしょう(^^;)
ていうか冬月に重要な役あたえてよかったかなあ?。


今後ともよろしくお願いします。

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マナ:たっちーさんっ! 投稿ありがとーっ!\(^ー^)/

アスカ:シンジが神様になって、アタシが女神になる話ね。

マナ:シンジはともかく、あなたのことは書いてないでしょっ!

アスカ:副司令が重要な役みたいね。

マナ:だんだん、シリアスな展開になりそうで恐いわ・・・。

アスカ:夢のこともあるしね。

マナ:シンジが神様になるのかしら?

アスカ:神様ってなんだろう?

マナ:なんだか、ものすごく意味有り気な夢よねぇ。

アスカ:やっぱり、意味あるのかな?

マナ:そりゃぁ、1ヶ月も見続けるんだもん。これは何かあるわっ!

アスカ:あら。アタシなんか、シンジとラブラブデートしてる夢、1年も見てるわよ?

マナ:アンタは、色ボケなだけでしょっ!!!(ーー#
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