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悪魔と天使と
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BY たっちー



第3話 「出会い」






冬月の家に行こうという日の早朝、シンジはまた夢を見た。
何度も夢に出てくるブロンドの髪に青い瞳の少女。

「まだ、目覚めていないのね・・・。
 でも、大丈夫。私が目覚めさせてあげるんだから」

少女は何時の間にかその姿を変えていた。
シンジと同い年くらいの妙齢の美女。
服は消えてその輝く肢体があらわになっていた。

「私と1つになりたくない?心も身体も1つになりたくない?
 それはとてもとても気持ちのいいことなのよ」

そう言うとその女性はシンジに覆い被さってきた・・・。



ガバッ。

「夢か・・・。でもいつものとちょっと違ってたな」

シンジの夢に出てくる中で唯一あったこともない女性。
今までは、十代半ばの少女の姿で現れただけだった。
それにその言葉。
「目覚めるさせてあげる」―どういうことだろう?
今までのセリフと何か違っているような気がするけど?

近いうちに何かコトが起こりそうな予感がした。



冬月の家に着いたのは午後2時ごろ。

車を停めると玄関のインターホンを押す。

「・・・はい」

「あ、綾波?碇だけど」

「どうぞ。話は聞いてるわ」

話は聞いてる、か。先生はどこまで話したんだろう?
とりあえず、先生と話してみよう。

シンジは冬月家に入っていった。
玄関では猫を抱いた蒼い髪と赤い瞳を持つ女性がシンジを出迎えた。

えーと、この猫はカスパーだよな。

冬月家には3匹の猫が飼われていて、その名をメルキオール、バルタザール、
そして、カスパーという。

「久しぶりだね、綾波」

「・・・そうね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「そ、そういえば、カヲル君も来るはずなんだけど。
 聞いてる?」

「渚さんからは電話があったから。多分そろそろ来るわ」

普段は表情を変えないレイだがカヲルのことを話すときだけ、
ほんのわずかうれしそうな顔になる。

シンジとレイとの会話はいつもこんな感じだった。
会話らしい会話は成立しない。カヲルのことを除いては。
シンジにはそれが切なかった。

「それじゃあ、僕は先生と話があるから」

シンジは逃げるようにレイに背を向けて、冬月の書斎に向かった。
だから、レイが何か言おうとしたことに気付かなかった。



「先生、碇です。失礼します」

そう言って部屋のドアを開ける。
部屋には先客がいた。
冬月に向かい合ってソファに座っていたが、シンジの声を聞いて、ドアの方に振り返っていた。

次の瞬間―
シンジは驚いた。今朝見た夢の女性が目の前にいたのだ。
ブロンドの髪に青い瞳。まちがいない。
この1ヶ月の間、何度も夢に出てきた少女が成長した姿。

『私と1つになりたくない?心も身体も1つになりたくない?
 それはとてもとても気持ちのいいことなのよ』

次の瞬間、夢の中での彼女の言葉(と肢体)を思い出して、

「し、失礼しました。お客様でしたか。ま、また、後で来ます」

シンジは真っ赤になった顔を見られたくなくて、回れ右をして部屋から出ていこうとした。

「ちょっと待ちたまえ、シンジ君。すまんな、急な来客でな。
 ・・・ああ、せっかくだから紹介しておこう」

冬月のわずかに笑いを含んだ声に足を止めてシンジは振り返った。

「惣流・アスカ・ラングレーさんだ。名前くらい聞いたことはあるだろう?」

惣流・アスカ・ラングレー――名前だけはシンジでも知っている。
14才でドイツの大学を卒業したという才媛だ。
生物工学で博士号を取ったとか聞いた覚えがあるから、同業といえば同業だが、何故、冬月先生の所に?
シンジの内心の疑問に答えるように冬月が話し始めた。

「実は彼女のお母さんの惣流キョウコ君は私の教え子でな。
 君のお母さんといっしょに私の研究室にいたのだよ。
 実はキョウコ君が1年程前から行方不明になっていてな・・・。
 今回はその関係で日本に来たとか」

冬月先生の教え子の娘さんなのか。
確か、お母さんの惣流キョウコさんもけっこう有名な科学者だよな。
先生の教え子だったとは知らなかったけど。

「碇シンジです。よろしくお願いします、惣流さん」

アスカは値踏みするような目でシンジを見ていたが、

「惣流・アスカ・ラングレーよ。よろしくね!」

元気良く日本語でそう挨拶した。

「日本語お上手ですね」

「そりゃまあ、お母さんはこっちの人だし」

惣流さんか・・・。夢では何度も見てたけどやっぱりきれいな人だよな。
シンジはアスカと握手をしながらそんなことを考えていた。

「アスカさんとの話はちょうど終わりかけてたところなのでな。
 よろしいかね?アスカさん。シンジ君と話があるのだが」

冬月が二人の間に割り込むようにそう話しかけてきた。

「はい、かまいません。用事があるところを急に押しかけてすみませんでした」

「いや、それはかまわんのだが。・・・ところでこれはどうするね?」

冬月はそう言うとテーブルの上の仮面のような物を手にとった。
その表面には逆三角形に7つの目を配した図が彫りこまれていた。

シンジはその仮面から異様な気配を感じた。

なんだろう、この感じ。気持ち悪い。

「そうですね・・・。数少ない母の手がかりですから。
 できれば、自分で持っていたいのですが」

アスカはそう言うと何も感じないのか、その仮面を受け取った。



その後の冬月とシンジの話には何も得るところがなかった。
シンジが夢に見た怪物を別の人間も見た、ということに冬月は興味を示したが、
それに対処する術はないようだった。

「それは超心理学というか、超能力の分野と言うべきことかも知れんね。
 私にはどうしようもないよ」

冬月のその言葉が締めくくりになった。

「そうですか・・・」

「すまんな。力になれなくて」

「いえ、話を聞いていただいてありがとうございました。
 少し気が晴れました」

思ったよりも時間が経っていた。もう日が暮れかかっていた。
シンジが冬月の書斎から出てくるとリビングにはアスカが独り、
所在なげに座っていた。

「あれ、惣流さん。えっと、綾波はどうしたんですか?」

シンジがそう尋ねると、

「あの娘ならナギサとかいう男が来ていっしょに出て行っちゃたわ」

と言う返事が返ってきた。

そうか・・・、綾波はカヲル君とデートか・・・。
あれ、でも思ったよりショックを感じないな?
どうしてだろう?

シンジがそんなことを考えていると

「ねえ、あんたこれからヒマ?」

アスカがそんなことを聞いてきた。

「え。あ、うん。話は終わったからもう帰るつもりだけど」

「ふーん・・・。じゃあ、ちょっとあたし送ってってくれないかな?」

「別にかまいませんけど・・・。どちらまで送ればいいの?
 あ、近くにホテルでもとってあるんですか?」

「昔、ドイツのあたしの家にホームステイに来てた娘がいてね。
 日本に来るなら泊めてくれるって言うのよ。そこに厄介になるつもり」

「へー、そうなんですか」

二人は冬月に挨拶すると家を出た。

庭では2匹の猫がじゃれあっていた。

「この家って猫が多いわね。あの無愛想な娘も抱いてたけど」

「この2匹はメルキオールとバルタザールっていうんだ。
 綾波が抱いてたのはカスパーだね」

「それはまた変わった名前を付けたものねー」

ごく自然に会話ができてる。何となくいい雰囲気だよな。
シンジはそんなことを思った。

その時、メルキオールとバルタザールの様子が変わった。
身を縮め、何かに飛びかかろうとするように体勢を低くする。

「シャ、シャー!」

「どうしたんだい?メルキオール、バルタザール」

シンジは2匹の猫の視線の先に目を移すとそこにいたのは・・・。

髑髏のような顔が胸の真中に張り付いた異形のもの。
使徒「サキエル」。

身長3メートルほどのそれがシンジとアスカに向かって突き進んできた。

「う、うわぁぁぁぁ!!!」

シンジが驚いて手をかざすと、「サキエル」は1メートルほど手前のところで
爆散、消滅した。

二人は呆然として声も出なかった。


「・・・な、何だ。今のは?」

しばらくしてシンジはようやく声が出せるようになった。
名前はわかっている。
使徒「サキエル」。
しかし、なぜ今、目の前に現れ、急に消えたのか?

「昔はいくらでもいたわ・・・」

アスカが地の底から響くような声で聞こえた。

「昔はいくらでもいたわ。デーモンとかデビルとか呼ばれた存在が。
 いろいろなモンスターが」

「で、でも、それって伝説や神話の話だろう?」

シンジが自信なげに反論する。
ただ、今見たものの存在を否定したいがために。

「今のを見たでしょ!?これは幻覚とかじゃないわ!
 それについ先日も同じような気配を感じさせるモンスターを見たわ!」

アスカの声が高くなる。

「!?」

アスカのその言葉にシンジは目に見えて狼狽した。
その「モンスター」がここ数日の夢で見た怪物のどれかであることは
間違いなさそうだった。

「何よ?何か知ってるのね!?」

シンジの露骨な狼狽はアスカに疑念を抱かせるに充分だった。

「・・・と、とりあえず、送っていくからさ。詳しくは車の中で話すよ」

シンジは苦しそうにそう言った。

「・・・わかったわ。納得いくように説明してもらうわよ」

「うん・・・」

二人はそう言葉を交わして車に乗り込んだ。

そんな二人を冬月が家の中から見守っていたことを二人は知らない・・・。




続く



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後書き

どーも、たっち―です。

ようやくアスカと綾波の登場です。まあ、綾波は顔見世程度ですが。
キャラクターの性格は基本的に原作のままです。
アスカがおとなしかったのは社会人としてそれなりの礼儀は心得ているということで。


しかし、ようやく序章とも言うべき話が終わり本編突入です。
次回は大量にキャラクターが登場する予定。
ますますわけのわからない世界になっていくかもしれませんが。

これからもご愛読くださいますようお願い申し上げます。

ではまた。
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レイ:希望。そう。私の希望・・・。

マナ:希望ってなにかあるの?

レイ:ホモは嫌。

マナ:このままじゃ渚くんとくっつきそうだもんね。

レイ:今回アスカが出てきちゃったわ。

マナ:それが?

レイ:気持ちが私に向いている間に碇君と1つになりたい。

マナ:うーん。設定上難しいみたいだけど。

レイ:そう・・・。ATフィールドを使って、たっちーさんを説得してみるわ。

マナ:ATフィールドを使った説得って・・・何をするつもりかしら。(ーー;
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