これは「初デート」の番外編、トウジandヒカリバージョンです。
できれば「初デート 〜あいつが初めて誘ってくれた〜」と
「初デート 〜シンジの思い〜」もお読みください。


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初デート 〜トウジとヒカリの事情〜
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BY たっちー







「うん、これでよしっと! 」

洞木ヒカリは口紅を塗ると姿身の前でポーズをとってみた。

「アスカみたいにかわいくはないけど。
 化粧すれば、あたしだってそれなりにいけるわね。うふふ」

今日は鈴原トウジとの初デートだ。
ヒカリが浮かれるのも当然だ。

「まったく、ここまで来るまでにずいぶん時間がかかったわ」


トウジがエヴァンゲリオン参号機に乗せられて怪我をしてから2年数ヶ月が経っていた。
怪我は軽いものではなかったが、初号機を操る碇シンジが上手く戦ってくれたおかげで
左足の複雑骨折だけですんだ。

トウジの怪我を知ったヒカリは毎日のように病院にお見舞いに行き・・・、
しかし、退院まで二人の仲には何の進展もなかった。

ヒカリは、

『委員長として当然のことをしてるまでよ』

と、ことある毎に口にしたし、シンジ以上の鈍感さを誇るトウジは

『ほー。いいんちょいうのも大変やなー』

とその言葉を真に受けていた。

退院後もこれといった進展はなく、トウジとヒカリは
アスカやシンジと同じく第3新東京市立第壱高校に進学した。

高校進学後、ヒカリはかねてからの計画を実行に移した。
その計画とは――

『す、鈴原。あんたお昼いつも購買のパンでしょ?
 こ、今度、あたしがお弁当作ってきてあげる!』

トウジが参号機パイロットに選ばれたために頓挫した「お弁当作戦」だった。

トウジもかつての約束を覚えていたのか、

『ほな、よろしゅうたのむわ。いやー、楽しみやな』

と素直に喜んだ。
喜んでくれたことがヒカリにも嬉しかった。

毎日、嬉々としてお弁当を作っていくヒカリと
それを当然のように受け取り、食べるトウジ。

周囲からは二人は「できてる」とうわさされた。
シンジとアスカも「夫婦漫才」と良く冷やかされたが、
トウジとヒカリも同様の扱いを受けた。
しかし、それでも二人の間にこれといった進展はなかった。

そんなある日、ヒカリはトウジと二人っきりで帰るチャンスを得た。
偶然ではない。
ヒカリの気持ちを知っているアスカが見るに見かねて、
シンジを引き込んでそういう状況をお膳立てしたのだ。
もっともそれでどうにかなるとはアスカも思っていなかったのだが。
ちなみにその日にアスカもシンジにデートに誘われたとか。

『ったく、シンジもケンスケも薄情やのう。とっとと帰ってまうなんて』

トウジは先に帰ってしまったシンジ達への愚痴を口にしていた。
ヒカリはアスカに感謝しながらも何を話せばいいのか、わからないでいた。

『あ、あのさ』

そこまで口にしても続きの言葉が見つからない。

『なんや、いいんちょ。・・・ああ、そや。
 毎日お弁当すまんな。感謝しとるで』

『い、いいのよ。好きでやってることなんだから。
 あ、あの好きでってのは、あの、その』

ここまでくれば普通は女の子の気持ちに気付きそうなものだが、

『どしたんや、いいんちょ。顔が赤いで。風邪でも引いたんか』

鈍感王トウジはまったく気付かなかった。

その鈍感さにヒカリの中の何かが切れた。

『・・・鈴原。ちょっと話があるんだけど。あそこの公園までちょっといいかな』

ヒカリはそう言い捨てるとトウジの返事も聞かずにすたすたと歩き始めた。

『あ、ちょ、ちょっと待ってーな』



『な、なんや。いいんちょ。どうしたんや?』

公園の中で足を止めたヒカリにトウジが問い掛けた。
ヒカリはトウジに背を向けたまま。

『鈴原はあたしのこと、どう思ってるの?』

『どうって・・・』

『あたしは・・・、あたしは鈴原のことが好きなの!
 ずっと、ずっと好きだったの!!』

ヒカリはそう言うとそのまま走り去ろうとしたが、
トウジがその手首をつかんで引き止めた。

『ま、待って―な。いいんちょ。ちょっと、わいの言うことも聴いてんか?
 ・・・わいもな、わいも、いいんちょのことが好きやってん。
 でもいいんちょはしっかりしとるし、かわいいし、わいにはもったいない思てな。
 そんなこと思うと告白できへんかったんや』

ヒカリはそこまで聞くと振り返り、トウジの胸に顔を埋めて泣き始めた。

『すまなんだな。いいんちょ、いや、ヒカリ。おまえの気持ちに気付かんで。
 ほんまは、男のわいの方から告白せなあかんかったのに』

トウジはヒカリの背中をやさしくなでながらそう言った・・・。



「あら、ヒカリ。ずいぶんとオシャレしてるわね」

ヒカリの回想はその言葉で中断された。
いつのまにか姉のコダマと妹のノゾミが後ろに立っていた。

「ふ〜ん。トウジ君とデートね」

コダマのからかいにヒカリは赤くなった。

「あ、あのその、そ、そうだけど・・・」

「よかったね、お姉ちゃん。思いが通じて」

妹のその言葉にヒカリはさらに真っ赤になった。

「ヒカリの話を聞いてるとトウジ君って純情そうだけど。でも男の子だからね。
 強引に迫られても簡単に許しちゃだめよ。それじゃ、がんばってね」

それだけ言って、コダマとノゾミは出て行った。

「まったく、お姉ちゃんたら。って、もうこんな時間?
 早く行かなきゃ!!」

ヒカリはもう一度服装をチェックすると手作りのお弁当を持って家を飛び出した。



ヒカリが待ち合わせ場所に行くと案の定、トウジはまだ来ていなかった。


「待たせてすまんかったな。ヒカリ」

しばらくするとトウジが走ってきた。

「ううん。あたしも今来たところだから」

トウジが鈍感なのはわかってるけど、せっかくオシャレしてきたんだから。
できれば誉めてほしいな。

「なんや、ヒカリ。えろうおめかししとんな。
 わいにはもったいないくらいかわいいわ」

トウジはちょっと赤くなりながら、ヒカリが期待していたことを言ってくれた。

ヒカリは赤くなりながら、

「あ、ありがと」

としか言えなかった。

「ほな、映画見に行こか」

今日の予定は、映画を見て、近くの公園でヒカリの作ってきたお弁当を食べて、
最後に水族館というコースだ。

その日、映画館で上映されていたのは、

『鉄拳のドラゴン』

というカンフーアクション物だった。

ヒカリはあまり興味のない映画だが、トウジはどうしても見たかったらしい。

「ごっつうおもろかったわ」

「そう、良かった」

そんなことを話しながら映画館を出るとちょうどお昼時だった。

「それじゃ、公園に行ってお昼にしましょ」

「おう。実はこれを一番楽しみにしとったんや!」

公園につくと二人は早速ヒカリ手作りのお弁当を広げて食べ始めた。

「いつ食うてもヒカリのお弁当はほんま、うまいわ。
 わいは幸せもんや!!」

そう言いながらお弁当を平らげていくトウジ。

ヒカリは幸せそうにそれを見ていた。

「ああ、食うた食うた。満足や」

お弁当を食べ終わりしばらく他愛無いおしゃべりをした。

「ほな、ぶらぶら歩いて水族館行こか」

ということになって歩いていくと、とあるオープンカフェに見知った姿があった。

「おい、あれって、センセと惣流ちゃうか?」

「あれ、ほんとだ」

何となく遠巻きに見ていると、

ひょい、ぱく。

アスカがシンジのほっぺのクリームを指先で取ると自分の口に運んだ。

「あ、あいつら、なんちゅうことを!?」

トウジは初め唖然としていたが、何か思いついたのかこっそりと二人に近づいていった。

「ちょ、ちょっと鈴原?何考えてんのよ?」

そう言いながらもトウジについていくヒカリ。

そんな二人に気付かないアスカとシンジ。
アスカはスプーンで自分のパフェをひょいッとすくってシンジの口元に近づけた。

「シ〜ンジ。あ〜ん」

「え、ええ〜!?」

シンジは真っ赤になりながらも、口を開けた。

トウジとヒカリはこの甘い雰囲気に耐え切れなかった。
自分たちがさっきまで同じくらい甘い雰囲気を醸し出していたことは頭になかった。

「あーんやて?デートか?デートなんか!?」
「アスカ?いつの間にシンジ君とそんな仲に?ふ、不潔よー(いやんいやん)」

「ト、トウジと委員長!?どうしてここに」

シンジは思い切り慌てたようだ。

「こ、これは、その、勉強を教えてもらったお礼に映画を見に行くだけで。
 デ、デートとかじゃ!」

シンジのその慌てぶりにトウジは落ち着きを取り戻したらしい。
ニヤニヤ笑いながら、

「ふーん。センセ、こないだのテストずいぶんええ点取ったと思っとったら、
 嫁さんに教えてもらったんか。さすが、夫婦仲がええのー」

と言った。
アスカは怒りと恥ずかしさに拳を震わせていたが、何か気付いたのか、

「ヒトのこと、どーこー言ってるけど、あんたたちはどーなのよ?
 あんたたちこそデートしてるんじゃないの?」

そう反撃してきた。
思わぬ反撃にトウジの口撃がピタッと止まった。
次の瞬間、ボンッという音が聞こえそうなほどに
トウジとヒカリは真っ赤になって沈黙した。


二人が気が付くとシンジとアスカはいなくなっていた。

「あ、あいつら〜。学校中に言いふらしたろかな」

かっとなって思わずそんなことを言うトウジ。

「やめなさいよ、鈴原」

シンジとアスカの気持ちに気付いていたヒカリはそう言ってトウジを止めた。

「ヒ、ヒカリがそう言うんやったら、しゃーないな」

「それより、早く水族館行きましょ」

「せやな」



水族館はガラスのトンネルの中を進んでいくような感じで、
壁だけでなく天井でも魚が泳いでいるのが見えた。

「へー、きれいね」

そんなことを言いながら見て回っていると、
5歳くらいの女の子が独りで泣いているのに気付いた。

「どないしたんや、嬢ちゃん?お母はんとはぐれたんか?」

トウジはそう言うと女の子をあやし始めた。

やっぱり鈴原ってやさしいよね。

トウジのそんな姿を見ながらヒカリはそう思った。

しばらくして、

「あ、こんなところにいたのね!」

女の子の母親らしい人物がやってきた。

「どうもすみませんでした」

そう頭を下げる母親。

「良かったな、嬢ちゃん。お母はんが見つかって」

トウジはそう言って女の子の頭をなでた。

女の子が母親に手を引かれながら立ち去るのを見送っていると、

「み・て・た・わよ。鈴原君」

後ろからいきなり声がかかった。

「えっ、ミ、ミサトさんでっか?」

そこにいたのは葛城ミサトと加持リョウジだった。

「鈴原君って、意外とやさしいところあるのね」

何故かとても感心しているようすを見せるミサト

「い、いやー、そうでっか?なんか照れますわ」

ミサトの前ででれでれするトウジが気に入らないヒカリ。
思わずトウジのお尻をつねったりする。

「何でれでれしてんのよ!」

「い、痛いがな、ヒカリ」

そんな二人をとりなすように加持が言った。

「悪いね、デートの邪魔しちゃって」

「え、デ、デートだなんてそんな・・・」

思わず照れるトウジとヒカリ。

「何言ってるの。お似合いよん」

「そうだな。なんていうのかな。
 長年連れ添ったパートナーみたいだよ」

ミサトと加持の言葉にさらに照れる二人。

「長年連れ添ったパートナーみたいって。
 それはミサトさん達の方こそそんな感じですよ」

ヒカリのその言葉に過剰な反応を示したのはミサトだった。

「や、やめてよ。な、なんでこいつと夫婦みたいなこと言われるわけ〜?」

「おいおい、葛城。そこまで力入れて否定しないで欲しいな。
 ま、あまりお邪魔しても悪いからこれで失礼するよ」

加持はそういうとミサトの手をとって去っていった。

なんちゅーか、加持さんてかっこええなー。
わいもあんな男になりたいわ。

歩み去るミサトと加持を見ながらトウジはそんなことを思った。


水族館を出ると日が暮れかかっていた。

「ほな、そろそろ帰ろか」

「そうね・・・」

ヒカリはもうしばらくいっしょに居たかったが、
帰って晩御飯を作らなければならない。

「今日は楽しかったわ、鈴原」

「さっきから言おう言おう思っとったんやけど。
 ええかげん、その『鈴原』ってのやめてんか、ヒカリ」

トウジは腕を組んでそう言った。

「あ、ご、ごめん。すず、じゃなくて、トウジ」

「わかってくれたらええんや」

トウジはそう言ってニカッと笑った。

「ほな、帰るで、ヒカリ!」

「うん、帰ろ、トウジ」

そう言うと二人は手をつないで歩き始めた。










Fin



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後書き

どーも、たっち―です。

「初デート 〜トウジとヒカリの事情〜」をお届けします。
とりあえず、「初デート」シリーズはこれで終わりです。
「甘い」世界を堪能していただけたでしょうか?
初めてのLHTで上手く書けたか不安です。
トウジのやさしさが上手く表現できているといいのですが。
皆さんの感想をお待ちしています。

それでは。

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マナ:2人、上手くいってるみたいで良かったんじゃない?

アスカ:ヒカリったら、うまく餌付けに成功したみたいね。

マナ:餌付けって・・・。

アスカ:ミサトと変なところで出くわさなかったら完璧だったのに。

マナ:鈴原くん、葛城さんには弱いから。

アスカ:これからは、ヒカリも首根っこ押さえとかなきゃ。

マナ:大丈夫よ。なんだかんだ言って、鈴原くんって洞木さんのこと好きだから。

アスカ:シンジがアタシのこと好きみたいにね。

マナ:それは、勘違いっ。
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ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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