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悪魔と天使と
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BY たっちー



第4話 「胎動」






日も暮れて外食を済ませたレイがカヲルとともに冬月家に帰ってきたとき、
ちょうど冬月が出かけようとしていた。

「ああ、レイ、カヲル君。急に碇に呼ばれてな・・・。
 ちょっと出かけてくるよ」

冬月はそう言い残すと車で出て行った。

「こんな時間にどうしたんだろうね?」

「わたしにはわからないわ。でも・・・」

「でも、なんだい?」

「お義父さん、最近碇君のお父さんとよく会っているわ」

「そうなのかい?でも、それって普通にあることじゃないかな」

ゲンドウと冬月は「ネルフ」の社長と研究所の所長。
確かに仕事上の打ち合わせで会うのは不思議ではない。

「・・・でも何かが違う気がするわ・・・」







「どうやら、シンジ君が『適格者』として目覚めつつあるようだな」

冬月はゲンドウに会うと先ずそう言った。それに対してゲンドウは、

「ああ、そうだな」

とだけ答えた。

「しかし、碇。どうするつもりだ?『ゼーレ』の老人たちの言う通り、
 世界の破壊と再生を行なうつもりのか?」

「彼らの思い通りにことを運ぶつもりはない。
 おそらく、渚の方も遠くないうちに目覚めるはずだ。
 全てはそれからだ」

「そう上手くいけば良いがな・・・。
 しかし、キョウコ君の娘がドイツから来るとはな。
 まったく、予定外のできごとだ」

「問題ない。彼女が持ってきた仮面は『神の目』だ。
 探していたものが向こうからやってくるとは。
 むしろ、計画を促進してくれるだろう」

ゲンドウは顔の前で組んだ手の下でニヤリと笑った。

「・・・キョウコ君のようなことにならないと良いのだがな・・・」

冬月はどこか沈んだ調子でつぶやいた。





「どうやら『適格者』が目覚めかけているみたいよ」

髪を金色に染めた女性が冷静な声で突然そう言った。

「目覚めかけてるって、良く平然と口にできるわね」

黒髪ロングの女性が半ば呆れ、半ば憤ったような声をあげる。

「見たままを言ったまでよ」

金髪の女性――赤木リツコは淡々と答えた。

「見たって、どこ?それと『適格者』は誰?」

黒髪の女性――葛城ミサトが問う。

「見たのは冬月の家よ。あそこを見張っていたのは正解だったわ」

リツコは相変わらず冷静な声でそう言う。
彼女は猫と感覚を共有できる「能力者」だ。
「見た」のも自分の目ではなく、冬月家に飼われている猫、
メルキオール、バルタザール、カスパーのどれかの視覚を借りてのことだ。

「『適格者』は使徒を召還してみせたわ。不安定みたいですぐ消えちゃったけど。
 その『適格者』の名は・・・。ミサト、あなたの知り合いよ。碇シンジ」

リツコの言葉にミサトの顔がゆがむ。

小さいころ、弟のようにかわいがっていたシンジ君が「適格者」だったなんて。

「・・・それでどうするの?」

ミサトは沈んだ声で尋ねた。

「それを決めるのは私たちじゃないわ。とりあえず母さんに報告しましょう」

リツコの母とは新興宗教団体を名乗る「ゲヒルン」代表の赤木ナオコのことだ。
「ゲヒルン」の実態は超能力を持つ女性の集団だった。
代表であるナオコはかつて「ネルフ」に籍をおいており、
ゲンドウと肉体関係もあったのだが、ゲンドウおよび「ゼーレ」の実態を知り、
その「目論見」を知ってからは「ネルフ」を離れ、「ゲヒルン」を創設した。
そして、自分の娘リツコを含む「能力者」を集めてゲンドウらに対抗しようとしていた。
「ゼーレ」の実態、それは数千年に渡って歴史の影で暗躍してきた宗教結社だった。
そしてその「目論見」――それは「適格者」の能力を目覚めさせ、
その力で一度世界を破壊し、再興後の世界を「適格者」の「神の力」で支配しようというもの。
もっとも、その「適格者」が一人だけなのか、その「力」がどの程度のものなのかは、
誰にもわからなかった。


「・・・そういうわけで、『適格者』が目覚めつつあると考えます」

リツコの報告を聞いてナオコはしばし考え込んだ。


「・・・主だった者を集めてちょうだい」

ようやくナオコはそれだけの言葉を口にした。


そうして集められたのは、

赤木リツコ
葛城ミサト
伊吹マヤ
霧島マナ
山岸マユミ

だった。
「ゲヒルン」の中でも特に強い「能力者」達だ。

「『適格者』が目覚めようとしています。これを見過ごすことはできません。
 その『能力』を封印するか、でなければ抹殺するか・・・」

ナオコのその言葉にミサトは思わず声を荒げた。

「抹殺だなんて、そんな!!」

「「私もそう言うのはあまり・・・」」

マヤとマユミがミサトの言葉に頷く。

「わかってるわ、葛城さん、マヤ、マユミ。抹殺は最後の手段です・・・。
 しかし、『適格者』が完全に目覚めれば我々の『力』では対抗できません。
 今の内に何とかしておかないと。
 では、これからそれぞれの役割を伝えます」

それぞれに与えられた役割とは、

リツコ、マヤは他に「適格者」がいないかさらに「ネルフ」を見張る。
マヤは「ネルフ」に職員として潜り込んでいた。

ミサトとマナはシンジと接触。その「能力」を見極め、封印できるならばよし。
できなければ抹殺する。

マユミはミサトとマナのバックアップを担当することになった。

シンジの抹殺――ミサトには辛い役目だった。

「だいじょーぶよ、ミサト。いざとなればあたしがやってあげるから」

マナは平然としてミサトにそう言った。






「えーっと、とりあえず、どこまで送ればいいか教えてくれるかな?」

シンジはアスカを車に乗せるとそう尋ねた。

「コンフォート17ってマンションだけどわかるかしら?」

アスカの返事にシンジは驚いた。
自分の住んでいるマンションだったからだ。

「それって僕の住んでるマンションなんだけど・・・」

「あら、ちょうどいいじゃない。
 ・・・さて、さっきの件を納得いくように説明してもらうわよ」



「・・・ふーん、そんな夢を見ていたの・・・」

シンジはここ1ヶ月以上見つづけている夢のことを簡単に話した。
さすがに今朝見た夢だけは省略したが。

「その『ガギエル』とかいうのが多分あたしの見た奴ね」

「そうだね。でもね、惣流さん」

「アスカでいいわ」

「わかったよ。そ、・・・アスカ。僕には現れた怪物が悪魔じゃなくて、
 『使徒』つまり、神の使いと感じられるんだ」

シンジのその言葉にアスカは少し考え込んだ。

「・・・別にそう感じてもおかしくないんじゃない?
 悪魔なんてのはたいてい異教徒の崇めていた神が基になってるんだし。
 天使にだって結構、異形のものもいるのよ。千の眼を持ってるとか。
 つまり、それが天使か悪魔かなんてのは見る人によって違ってくるわけよ」

「そうかもしれないけど。でも、僕が何でそんな夢を見るのか、
 何故それが目の前に現れたのか。
 それにその前に見ていた夢とかの説明がつかないよ。
 特に会ったこともないアスカが夢に出てきたのかとか」

「それは、あたしと会うことを予知したんじゃないかしら?
 いわゆる予知夢って奴よ。
 そんな夢を見るってことは、あんた、超能力者かもね」

不安そうなシンジに対してアスカは平然とそう言った。

「超能力者ってそんな簡単に言ってくれるけど。信じられないよ!」

シンジの言葉にアスカは少し沈んだ声で答えた。

「少し前ならあたしも信じなかったわ・・・。
 でも、最近ママの書斎を調べてたらたくさんの超能力の本とか、
 神秘学や神学の本とかが出てきたの。
 ママはそういったものを研究していたみたいなのよ」

「つまり、お母さんが信じていたから信じるってこと?」

シンジの質問を馬鹿にされたと受け取ったのかアスカの声がわずかに尖った。

「なによ、馬鹿にしてるの?
 ママほどの科学者が本気で研究していたんだもの。
 まったく無いとは言えないわ」

「ごめん、別に馬鹿にしたわけじゃないんだ。
 ・・・それに、あの化け物をこの目で見たわけだしね」

シンジは素直に謝った。

「わかればいいのよ、わかれば」

シンジの態度にアスカは機嫌を直した。

「それにしてもあんた、なかなか興味深いわ」

「ヒトをモルモットのように言わないでほしいな。
 ・・・ああ、着いたよ。ここがコンフォート17だよ」

シンジは車をマンションの駐車場に止めた。

「ふーん。立派なものじゃない。
 ・・・部屋の前まで送ってくれるんでしょうね?」

アスカの言葉にシンジは苦笑した。

「わかりましたよ、姫様。
 ・・・それで、その友達の部屋ってのは何号室なのかな?」

「11−A−3号室よ」

アスカの言葉にシンジは再び驚いた。

「どうしたのよ?」

「それって僕の隣の部屋だ」

11−A−3号室――それは親友鈴原トウジの恋人、洞木ヒカリの部屋だ。

今日もトウジが居たりして・・・。

そんなことを考えながらシンジはアスカといっしょにエレベーターに乗った。



そしてコンフォート17の11階。
アスカが11−A−3号室のドアのチャイムを押した。

『はい?』

「あ、ヒカリ?アスカよ」

『ア、アスカ?ちょ、ちょっと待ってね』

ヒカリの慌てぶりからしてどうやらシンジの予想があたったらしい。

しばらくしてドアが開いた。

「ひさしぶりね、アスカ」

「そうね、ヒカリ」

「こんばんわ、洞木さん」

アスカと並んでシンジがいることにヒカリは驚いた。

「え!?え、えと、碇さんでしたっけ?どうしてアスカと?」

シンジが答える前に横からアスカが答えた。

「ちょっとしたことから知り合ってね。
 ここまでつれてきてもらったの」

ヒカリの声が聞こえたのか、部屋の中からひょっこりとトウジが顔を出した。

「なんや、シンジ。どないしたんや?
 ・・・これはまた、えらい別嬪さんを連れてきよったな。
 なんや、お前のコレか?」

トウジの言葉にシンジとアスカの顔が赤くなった。
もっともアスカが赤くなったのは多分に怒りによるものだったが。

「ちょっと、シンジ。こいつ知り合い?
 ヒカリ、この男は何者よ?」

アスカの剣幕にシンジもヒカリもおろおろするばかりだった。
その中でただ一人、トウジだけがアスカに食ってかかった。

「何者とはなんじゃい!」

「だ・か・ら、あんたがヒカリやシンジとどういう関係があるのか訊いてるのよ」

ここでようやくシンジが口をはさんだ。

「彼は僕の友達の鈴原トウジって言うんだ。
 トウジが何で洞木さんの部屋に居るのかっていうと・・・、
 トウジと洞木さんがステディな仲ってことかな」

シンジの言葉にアスカは思い切り呆れた顔になった。

「ヒカリー。あんた趣味悪いわよ」

「「よけいなおせわよ(じゃい)!」」

トウジとヒカリの叫びがユニゾンした。








続く



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後書き

どーも、たっち―です。

話があっちこっちに飛んでしまいました。
キャラもいっぱい出てきました。
最後はどたばたになってしまいました。
次回はどたばたが続くのか?それともシリアスになるのか?

えーと、あ、綾波さん。ATフィールドは勘弁してください(ToT)
私としてもナルシスホモとくっつけたいわけではないのです。くっつけてるけど。

それと、ひどい役を割り振ってしまったマナさんにも謝っておきます m(_ _)m
ゆるしてください、一応、シンジとのからみはありますから。


それでは。

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マナ:いやーーーーーーっ! なにこの役回りっ!

アスカ:今度と言う今度は許さないわよっ! アンタっ!

マナ:だ、だって、わたしは、そんな・・・いやぁぁぁっ!

アスカ:敵ねっ!

マナ:どうして、わたしがシンジの敵役なのぉ?

アスカ:そもそもアンタはシンジをたぶらかしたスパイでしょうがっ!

マナ:だって、あれはぁ。しくしく。

アスカ:敵役が適役よ。なんちって。あはははは。(^O^)

マナ:そんな冗談、全然おもしろくなーーーいっ!(ーー#
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