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悪魔と天使と
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BY たっちー



第5話 「最初の覚醒」






ヒカリの部屋の前での(主にアスカとトウジの)言い争いはしばらく続いた。
シンジが、

「あまり騒ぐと近所の迷惑になるから」

と言って、ようやくその場を治めた。

そして、なぜかヒカリの部屋でシンジ、アスカ、トウジ、ヒカリの4人で晩御飯を
食べることになった。

「なんでこいつといっしょにご飯食べなきゃいけないのよ!」

アスカがトウジを指差しながら吼えた。

「なんやと?お前が勝手に来たんやろが!」

負けじとトウジが言い返す。

「や、やめてよ、二人とも」

シンジが何とか二人を静めようとする。
ヒカリは4人分の料理に忙しく喧嘩の仲裁どころではない。

これなら、僕も料理していた方が良かったよ・・・。

シンジは内心大いにぼやいていた。



ようやく料理ができ4人はテーブルを囲んだ。

「いつ食うてもヒカリの作ってくれる料理はほんま、うまいわ。
 わいは幸せもんや!!」

そう言いながら、料理を平らげていくトウジ。
ヒカリがそれを嬉しそうに見ている。

ふーん。この二人ほんとの付き合ってるのね。

その様子を見ながら、アスカはそんなことを考えていた。

「洞木さんって、ほんとに料理が上手いんだね。
 トウジもいい彼女を見つけたなー」

シンジはお気楽にそんなことを言っている。

「な、なに言っとるんや、センセ。
 センセかてヒカリに負けんくらい料理上手いで」

トウジのその言葉にシンジは頭を掻いた。

「そ、そうかな」

ふーん。こいつも料理上手なんだ。

そんなことを考えながらアスカはしげしげとシンジを眺めた。

こいつって「ネルフ」の研究員やってるくらいだから頭もいいんだろうし、
ちょっと線は細いけどまあ、美形と言える顔だし。
性格も悪くなさそうだし。
これで家事もこなせるのなら結構買いかも。

「なんや、惣流。シンジの顔じっと見詰めて。さては、惚れたか?」

アスカがボーっとシンジを見ているのに気付いて、トウジが茶々を入れた。

「え、な、ち、違うわよ」

考えていたことを見透かされたようでアスカは泡を食った。

「ふーん、ま、ええけどな」

トウジはそう言って再び食べることに集中した。

「・・・ところでさ、アスカ」

「な、なに?」

いきなりシンジに話しかけられてアスカは慌てた。

「後でちょっと話があるんだけど・・・。
 車の中で話してたことの続きなんだけど」

シンジの声が暗くなっていた。

「なんや、話って。」

横からトウジが口を出した。

「うん。この間トウジたちが見たっていう怪物をさっき僕達も見たんだ。
 アスカは何かそういうことに知識があるみたいだからもう少し話を聞きたいと思って・・・」

「なんやて!?お前もあれみたんか?」

トウジの問いにシンジはしぶしぶ答えた。

「・・・うん。実はトウジ達があれを見た日にも見ていたんだ。・・・夢でだけど」

「そうやったんか・・・。そういえば、前にも変な夢を見るとか言うとったな」

「うん、あの夢の続きかどうかはわからないんだけど」

そこで、ヒカリが口をはさんだ。

「夢って何のこと?」

「ああ、シンジの奴な、前から変な夢を見とったらしいんや。
 ワイらがこいつの夢ん中に出てきてな。なんや変なことを言うらしいんや」

「ふーん、変な話ね」

トウジとヒカリがそんなことを話している間にアスカがシンジに答えた。

「いいわよ。話を聴こうじゃない。
 なんか、あんたの話がママのことに関係しているような気がするのよね」



晩御飯も食べ終わって、シンジとアスカはシンジの部屋に移った。

「さてと、話を聴きましょうか」

アスカの言葉にシンジは俯いた。

「いや、話ってほどのことじゃないんだけど」

『私と1つになりたくない?心も身体も1つになりたくない?
 それはとてもとても気持ちのいいことなのよ』

今朝の夢の中の言葉が脳裏によみがえる。

「何黙ってるのよ?」

アスカの言葉にシンジは我に返った。

「いや、あのさ。僕はどうしてあんな夢を見たんだろう?
 あの『使徒』ってのは何者なのかな?そもそもあれは生物なのかな?」

「ちょ、ちょっと。そんなに一度に言われても困るのよねー」

「あ、ごめん」

アスカは腕を組み言葉を選びながら話し始めた。

「夢の件はどうかしらね。あたしのことの夢ってのは、予知夢かもしれないけど。
 『使徒』ってのが夢の中だけの存在じゃない以上、それまでの夢ってのも、
 何らかの現実を表しているのかもしれないわ」

「現実って・・・」

「あの、『使徒』は突然現れたり、消えたりする以上、生物とは考えられないわ。
 誰かのイマジネーションが生み出した幻覚とも考えられるわね」

アスカのその言葉にシンジは叫んだ。

「それじゃ、僕があの怪物を生み出したとでもいうのかい!?」

アスカは冷静な、少し沈んだ声で答えた。

「可能性は否定できないわ」

「そんな・・・」



「ところでさ、これ、預かっててくれないかな」

シンジが落ち込んでいるのを見てアスカは励ますようにできるだけ明るい声で
そう言うと7つの眼が掘り込まれた仮面を取り出した。

「え、いいの?これはお母さんの行方を探す手がかりじゃないの?」

数少ない手がかり――アスカは冬月にそう言ったのをシンジは覚えていた。

「そうなんだけど。でも肌身はなさず持ち歩くわけにもいけないでしょ?
 あんたのこと、信頼して言ってんだから期待にこたえてよね」

「・・・そうだね。それじゃあ、大事に預かっておくよ」

シンジはそう言ってアスカから仮面を受け取ろうとした。

その瞬間。

仮面に掘り込まれた眼が光り始めた。

「「な、何(だ)!?」」

一瞬の間を置いて光が受け取ろうとシンジが伸ばした左の手のひらに吸い込まれた。

「う、うわああああああ!!!」

シンジは左手に強烈な灼熱感を感じた。


洞気家

フ!

トウジとヒカリは何かを感じた。

「な、何?」

「シ、シンジか?」



碇家

ブ!

密談中だったゲンドウと冬月も何かを感じた。

「シンジか?」

「シンジ君が・・・」



ゲヒルン本部

フ!

集まっていた「能力者」達が何かを感じた。

「な、何?この感じ?」

「ま、まさか、シンジ君が覚醒したの?」

できれば気のせいであってほしい――ミサトはそう思った。



そして、冬月家

レイとカヲルはワインを飲んでいた。

「ワインはいいね。ヒトの生み出した文化の極みだよ」

カヲルがそんなことをつぶやいた次の瞬間。

バチ!!

カヲルが持っていたワイングラスが砕け散った。

そして、カヲルの頭の中にシンジの意識が流れ込んできた。

レイもシンジを感じた。

「碇さん?」



「ああ・・・」

仮面から放たれていた光は唐突に消えた。
それと同時に仮面は床に落ちた。

「な、何よ、今のは」

アスカが呆然とした声でつぶやいた。

「ねえ、シンジ、大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫・・・って、あれ?」

シンジは左手の手のひらに違和感を感じた。

右手で左手を支えるようにして左手の手のひらを見る。

「な、なんだよ、これ」

左手には仮面に掘り込まれていた図柄――逆三角形に7つの目――が
そのまま描かれていた。

「な、なんだよ、これ?消えないよ!」

シンジは手のひらをこすってみたが、その図柄は消えそうに無かった。

「どうしたのよ?」

アスカがシンジの手を覗き込んだ。

「なに、これ」

アスカもシンジの手を見て呆然とした。

「今の現象って、何?あんたの意識が直接頭の中に入ってきたわよ?
 テレパシーって奴?」

「そんなこと、僕にもわからないよ」

その時、トウジが部屋に駆け込んできた。

「シ、シンジ、今のはなんや?何が起きたんや?」

「何って・・・、トウジも感じたの?」

シンジは唖然とした。隣室にいたトウジは僕の「意識」を感じた。

他の誰かも僕の意識を感じたんだろうか?



「なんだったんだろうね、さっきのは」

カヲルはグラスの破片を拾い集めながらつぶやいた。

「碇さんの意識が頭の中に飛び込んできたわ」

隣でグラスの破片を拾い集めているレイが答えた。

「テレパシーって奴かな」

「わからないわ」

そんな会話をしているうちに全ての破片を集め終わった。

「シンジ君は超能力者かもしれないね」

カヲルは何げなくそうつぶやいた。

「どうして、そう思うの」

「なんとなくさ。・・・それより飲みなおしたいね」

「じゃ、グラス持ってくるわ」

そう言ってレイはキッチンにグラスを取りに行った。

そんな会話をしているカヲルとレイは気付かなかった。
冬月家を取り巻くようにして淡く輝く無数の触手が地面からでていることに。







続く



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後書き

どーも、たっち―です。

「悪魔と天使と」も第5話に突入です。
でも、第3話から第5話まで一日の内の出来事です。
第6話も同じ日のうちに起こる出来事を描く予定。
い、一日が長すぎる。
ストーリーは急展開(?)をみせてるんですがねえ。
カヲルとレイの運命や如何に?ってとこですね。


それでは

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マナ:いよいよシンジが覚醒したわね。

アスカ:ここからが本番ってとこかしら。

マナ:何かが起ころうとしているのは確かよね。

アスカ:シンジの意識はしっかりしてるみたいだけど、何が起こるんだろう?

マナ:何に目覚めたのかが重要よ。

アスカ:それがわかれば、苦労しないわ。

マナ:フッ。甘いわね。

アスカ:アンタにわかるわけ?

マナ:決まってるでしょ? マナちゃんへの恋心よ。

アスカ:(ドカッ!)・・・バカはほっといて、うーん、これからどうなるんだろう?

マナ:(沈黙)
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