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悪魔と天使と
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BY たっちー



第6話 「覚醒」






「シンジ君は超能力者かもしれないね」

カヲルは何げなくそうつぶやいた。

「どうして、そう思うの」

「なんとなくさ。・・・それより飲みなおしたいね」

「じゃ、グラス持ってくるわ」

そう言ってレイはキッチンにグラスを取りに行った。

そんな会話をしているカヲルとレイは気付かなかった。
冬月家を取り巻くようにして淡く輝く無数の触手が地面からでていることに。


「グラス、持ってきたわ」

レイが新しいグラスを持ってリビングに戻ってきた。

「どうぞ」

グラスにワインを注いでカヲルに渡す。

「ワインはいいね。ヒトの生み出した文化の極みだよ」

さっきと同じ言葉をつぶやいてカヲルはグラスに口をつけた。

「渚さんと飲むお酒はおいしい・・・」

レイもそう言ってグラスに口をつける。

その時、


ゴゴゴゴゴゴ


「地震?」

レイはグラスから口をはなして天井を見上げた。

確かに部屋がゆれている。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


「かなり大きいわ」

「違う・・・」

カヲルが俯いたままつぶやいた。

「え?」

「・・・いる」

カヲルが顔を上げた。
その額にはびっしりと汗が浮いていた。


ズズズズズズ


「・・・怪物が、・・・外だ」

「怪物?」

「・・・いや、・・・地底(した)だ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


「レイ、逃げよう。地底(した)に怪物がいる」


ビリビリビリ

窓ガラスが振動しヒビが入った。

「逃げようって・・・」

下から突き上げるような振動が襲ってきた・・・。



ゴゴゴゴゴゴ

「地震?」

トウジの後からシンジの部屋に入ってきたヒカリが地響きを感じてつぶやいた。

その時、左手を押さえていたシンジが虚空を見詰めて叫んだ。

「カヲル君!」

シンジには何故かカヲルの危険が感じられた。

「シンジ?」

「どないしたんや、シンジ?」

シンジには呼びかけるアスカとトウジの声が聞こえなかったようだ。

「使徒・・・」

シンジのそのつぶやきはアスカにだけ聞こえた。

「・・・怪物だ。先生の家が・・・」

「シン・・・」

「カヲル君!!」



ドドドドド

ビキビキビキ


冬月家の周囲の地面に亀裂が入った。
地底から何かが頭を出した。
光球が光った・・・。



「きゃあ!」

崩れ落ちてくる天井にレイが悲鳴を上げた。

そのときカヲルはシンジの意識を感じた。

「シンジ君?」


ゴゴゴゴゴゴ


カヲルはレイを抱きかかえた。

次の瞬間――

カヲルとレイはシンジの部屋にいた。

「ここは?」

カヲルに抱かれたままレイが周囲を見回す。

「碇さん?・・・どうして?」

「シンジ君・・・。君が僕を呼んだ。」

カヲルがシンジを見詰めながらそう言った。

「来たのはカヲル君だ・・・」

シンジも見詰め返しながらつぶやいた。

「テレポーテーション・・・。すごいわ」

アスカが呆然としながらそうつぶやいた。

「私の家はどうなったのかしら?」

レイが乾いた声でつぶやいた。

「なんや、何が起こったんや?」

トウジのわめき声にカヲルが律儀に答えた。

「冬月先生の家の地底から怪物が現れてね。先生の家が崩れ落ちたんだ。
 次の瞬間、僕とレイは何故かここにいたというわけさ」

「なんや、それは?怪物が現れたやて?・・・シンジ、それってあの化けもんとちゃうか?
 ・・・そや、テレビ、テレビでやっとらんかな」

トウジはそう言ってテレビをつけた。

「ついさっきの出来事がテレビでやっているわけ無いでしょ。せいぜい地震情報くらいよ」

テレビのチャンネルを次々と変えるトウジの後ろからヒカリがそう言った。

「ほしたら、直接行ったほうが早いわ。行くで、シンジ!!」



ゴゴゴゴゴゴ
フイフイフイフイ


冬月家の地下から現れた怪物――シンジが見ればそれが使徒「シャムシエル」とわかっただろう――
はその光る触手をヒラヒラと漂わせながら宙に浮き上がった・・・。


フイフイフイフイ



『あなたの家から怪物が現れましたよ、所長』

「私の家から怪物が?どういうことかね?・・・わかった。」

碇家では冬月が「誰か」からかかってきた電話を受けていた。

電話を切ると冬月は振り返った。

「またでたぞ、碇」

「また、あなたの家ですか」

「カヲルとレイがあそこにいる。・・・行くかね?」

「いや。・・・それで死ぬような器なら役には立たん」

冬月はゲンドウの言葉を背に碇家を出て、車に乗り込んだ。



「これはひどいわ、なんや、これは?」

冬月家――元冬月家というべきか――の惨状を目にしてトウジが大声をあげた。

「・・・奇跡ね。生きているのが不思議だわ」

レイが崩れ落ちた我が家をみて抑揚の無い声でそう言った。

「穴の深さは10メートルといったところだね」

カヲルは冬月家の跡を覗き込みながらそう推測した。

「そうだね」

シンジもカヲルに同意した。

シンジとカヲルが言わんとしていることにアスカは気付いた。

「それって、つまり・・・」

「そう」

アスカの言葉にシンジが頷く。

「あいつは・・・」

シンジは上空に浮遊しているシャムシエルを見上げた。
使徒の周囲をヘリコプターが囲い始めていた。

「あいつは地底から現れたんじゃない。たまたま地底に現れたんだ」



「映画ではないんです!怪獣が現れた、それ!って攻撃するわけにもいかんでしょう?」

「しかし、ならばどうせよと言うのか!?」

「周辺市町村の非難はどうなっている?」

第3新東京市に設けられた「未確認生物」対策本部では怒号が飛び交っていた。

「いったい、何のための自衛隊か?」

「とにかく怪物の進行方向の市町村に・・・」

「怪物が南西に進路を変えました!」

「そっちには発電所があるぞ!」


「生物学の権威」ということで対策本部に呼ばれた冬月は喚いている連中に背を向けて
部屋から出て行こうとした。

「どうですか、先生」

後ろから知り合いである市長が声をかけてきた。

「なにがかね?」

冬月は苛立ちを感じたが無視するわけにもいかずそう答えた。

「先生はアレをどうすべきと考えておられるのですか?」

「どうしようもないのではないかね?」

冬月は市長に哀れむような笑みを見せた。

「だいいち、アレがなんなのかわかってもいないのだろう?」

私にはわかっているがな――内心でそう付け加える。

「生物であるかどうかさえわかっていないのだ。
 なんなのかわからないものをわからないままなんとかできるというのはヒトの傲慢ではないかね?」



『第3新東京市郊外に突如現れた怪物は現在第3新東京市上空をゆっくり飛行しており・・・』

いったん、コンフォート17に戻ったシンジ達はシンジの部屋のリビングでテレビを見ていた。
第3新東京市全域に緊急避難命令がでていたが、シンジとカヲルは何故か落ち着いていた。
これ以上の被害は出ない・・・何故かシンジにはそれがわかった。

「綾波、先生から電話だよ」

かかってきた電話の応対に出たシンジはレイに声をかけるとキッチンに入った。
6人――シンジ、アスカ、カヲル、レイ、トウジ、ヒカリ――分の夜食をヒカリと二人で作っていたからだ。

「・・・ええ、・・・はい、・・・わかったわ」

そう言ってレイは電話を切った。

「先生は何て言ってきたんだい?」

カヲルがレイに問い掛けた。

話し相手がいないアスカはそんなカヲルを見ながら、いけすかない奴ね、などと考えていた。
こいつよりシンジの方が――ちょっと頼りないけど――よっぽどマシだわ。
この綾波って女も何考えているんだかよくわかんないわ。

「対策本部に寝泊りするそうよ」

アスカが考えていることにまったく気付かずレイはカヲルにそう答えた。

「ふーん。それじゃレイは今晩どこに泊まるんだい?」

カヲルの問いにレイは薄く頬を染めた。

「渚さんのところ・・・」

カヲルは微笑を浮かべながらも首を横に振った。

「それはまずいよ。それならここで雑魚寝でもしたほうがいいね」

「綾波さんも私の部屋にくれば?」

夜食を運んできたヒカリがそう声をかけた。

「そうした方がいいんじゃないかな?」

シンジもヒカリの意見に賛成した。

「そんなことよりとりあえず飯にしようや」

トウジの言葉がとりあえずの締めくくりになった。



「・・・こわいな」

テレビに映る「シャムシエル」や避難する住民を見ながらシンジはそうつぶやいた。

「たかが一匹の怪物が現れただけでこの騒ぎだよ・・・。
 この騒ぎに巻き込まれたあれだけの人達は何を思っているんだろう?」

「なにをって・・・。ま、恐怖や無いか?あとは不安、怒りに憎しみってとこやろ」

トウジがから揚げをほおばりながらシンジの疑問に答える。

「そうか、あれだけの人達の怒りや憎しみをあの怪物は今、身に受けているわけだね。
 ただ存在したというだけで」

シンジの言わんとするところに気付いてカヲルがそう言った。

「確かに、怖いね」

「あたりまえでしょ?」

カヲルの発言にアスカは反発した。

「あの人達は、あの怪物に平和な暮らしを奪われたわけでしょ?
 憎む正当な理由があるわ」

「同じ事をしてきた・・・」

シンジがテレビを見詰めながらつぶやいた。

「人間はあの怪物と同じことを・・・、もっとひどいことをしてきた。
 そして、してきたことを認識してからもまだしている」








続く



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後書き

どーも、たっち―です。

「悪魔と天使と」もようやく第6話です。
シンジに続いてカヲルも「能力」に目覚め始めました。
しかし、伏線張りまくりで収集がつくのでしょうか?

今回から登場人物にコメントをいただくことにしました。
先ずは主人公であるシンジ君とカヲル君です。

カヲル「ひどい目にあわせてくれたね」
シンジ「そうだよ。カヲル君と綾波のいる冬月先生の家を壊すなんて」
カヲル「まあ、シンジ君のおかげで助かったけどね」
シンジ「カヲル君の「力」だろ?」
カヲル「そうなのかい。僕にはよくわからないのさ」
シンジ「話は変わるけど冬月先生に電話をかけてきたのって誰だろう?」
カヲル「まだ、名前さえ出ていない人らしいよ。こういうことをやりそうなのは
    「あの人」だけじゃないのかい?」
シンジ「やっぱり加○さん?」
カヲル「今後出番があるかわからないけどね」
カヲル「しかし、冬月先生も渋い役をこなしているね」
シンジ「なんか父さんと悪巧みもしてるみたいだけどね」
カヲル「今回はゲヒルンの人たちの出番が無かったね」
シンジ「これからどうなるんだろう?」


それでは。

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アスカ:シャムシェルが現れて、大騒ぎになっちゃったけど・・・この騒ぎ収まるのかしら?

マナ:渚くんも覚醒し始めたみたいだし、みんなで協力すれば。きっと大丈夫よ。

アスカ:うまくみんなが協力できればいいんだけどさ。

マナ:何か気になるの?

アスカ:なんか最後のシンジがねぇ。

マナ:確かに、意味深ね。

アスカ:いったいシャムシェルは何の為に出てきたのか・・・奥が深そうよ?

マナ:アスカが出てくるよりは、歓迎できるけど・・・。

アスカ:とことん喧嘩売るわね。(ーー#
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