タームさん、600万ヒットおめでとうございます。


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恋しくて・・・
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BY たっちー








「シンジの気持ちは嬉しいけど・・・、でもだめね」

「アスカ・・・」

「傷つけあった時期が長すぎたのよ。いまさら、付き合うことなんてできないわ」

こうして僕の告白は失敗に終わった。



戦略自衛隊の「ネルフ」侵攻を撃退し、サードインパクトを阻止してから半年が経っていた。
アスカと僕はあいかわらず葛城家で同居していたし、疎開していたクラスメートも、一人、また一人と帰ってきた。
そんな中で僕のアスカへの思いはどんどん大きくなっていった。
そして、中学3年の12月4日、アスカの誕生日に僕はアスカに告白し、・・・見事に振られたのだった。

それから、一ヵ月後、アスカはコンフォート17を出て一人暮らしを始めた。
アスカが出て行くことを知ったのはそのわずか3日前のことだった。

「どうして出て行くんだよ!?」

思わず食ってかかる僕にアスカはこう言った。

「エヴァに乗る必要がなくなってあたしってなんだろうって思ったのよ。
 生きていく目的がなくなったっていうのかな?だから自分を見詰めなおしてみたいの、独りで。
 ここにいると家事とかシンジに任せきりになりそうだしね。
 ・・・それにシンジといっしょにいると、またシンジのこと傷つけそうだから」

そしてアスカはコンフォート17を出て行った。

使徒との戦いの間、確かに僕たちは傷つけあってきた。
僕はアスカのエースパイロットとしてのプライドを。
アスカは毎日のように僕を馬鹿にすることで。

それから約2ヵ月後、中学卒業と同時に僕は一人暮らしを始めた。
別にコンフォート17を出て行ったわけじゃない。
ミサトさんのほうが、実は生きていた加持さんと結婚して出て行ったのだ。

「今までありがとうね、シンジ君」

「御礼を言うのはこっちの方ですよ、ミサトさん」

「そんなことないわ。たまには遊びに来るから」

そして、コンフォート17の住人は僕だけになった。



そして、僕は第3新東京市立第壱高校に進学した。
僕だけじゃない。
アスカも、綾波も、疎開先から帰ってきたトウジやケンスケや洞木さんもだ。
アスカとは同じクラスになったけど、前みたいに会話をすることもお弁当を作っていくこともなくなっていた。



それから8ヶ月、一時期よりはアスカと会話をするようになったけど、
あのころのように「夫婦漫才」とか言われることはなくなっていた。

でも、僕はアスカのことが恋しくて、せつなくて、眠れない日もあった。

そして、2学期の終業式の後、僕はトウジの家に遊びに行った。もちろんケンスケもいっしょだ。

「しかし、センセもあきらめが悪いやっちゃな」

他愛無いおしゃべりをしているとトウジがいきなりそう言い出した。

「な、なんのことだよ?」

僕には一瞬何を言われているのかわからなかった。

「なにって、まだ惣流のことがあきらめきれていないんだろう?」

ケンスケがトウジの言葉を引き継いでそう言った。

「それは・・・」

僕が言葉に詰まっていると、

「ええかげん、あきらめた方がええんとちゃうか?」

「そういえば、霧島が熱い目でシンジのこと見てるぜ?」

二人は好き勝手なことを言ってきた。
トウジは高校入学と同時に洞木さんと付き合いだしたからいいだろうけどさ。
ヒトのことはほっといてくれよ。

そして、僕とケンスケは日付が変わる前に帰ることにした。
翌日、トウジが洞木さんとデートする約束をしていたからだ。

「友情より、恋愛かよ・・・」

トウジの家の玄関を出たとたん、ケンスケがそんなことをつぶやくのが聞こえた。



コンフォート17に帰ると留守電が入っていた。

『もしもし、シンジ?あたしよ。なーに、どっか遊びに行ってるの?
 んーっと、明日ヒマなんだけど、どっか遊びに連れてってくれないかな?
 電話待ってるわよ。それじゃね。
 ピ。20ジ35フンデス。ピー』

アスカからだった。

もしかして、デートのお誘い?まさかね・・・。

でも、僕は何となく嬉しくなってどこに遊びに行こうかとか考えて、眠れなくなってしまった。

翌朝、アスカが起きたころを見計らって、ミサトさんが出て行くときに教えてくれたアスカの携帯に電話を掛けてみた。

「もしもし、碇だけど」

『シンジ?昨日はどうしたのよ?』

「あ、いや。トウジの家に遊びに行ってて・・・」

『・・・ふーん。ま、いいわ。電話してきたから許してあげる。で、どこに連れてってくれるの?』

「え、えーと、水族館なんかどうかな?」

『OK。それでいいわよ。じゃ、1時に駅前でいいわね?』

「うん、いいよ」

なんでこんなにすんなりデートできることになったんだろう?
悪い冗談じゃないよね?

僕の心配は杞憂に終わった。
僕が駅前に行くとアスカがすでに来て、僕のことを待ってくれていたからだ。

「よーし、時間どおり来たわね。じゃ、行くわよ」

そうして、僕たちは水族館に向かった。

年末だというのに水族館にはかなりの人がいた。

「すごい人ね・・・」

「気をつけないとはぐれちゃうよ」

一瞬、アスカがニヤリと笑ったようにみえた。
声は聞こえなかったけど、「チャ〜ンス」と口が動いたような気がする。

「こーすれば、はぐれないですむでしょ?」

そう言ってアスカが腕を組んできた。

「ア、アスカ?」

「なーに、シンジ?」

「い、いや、別に・・・」

「それじゃ行きましょうか」

こうして、僕たちは水族館を見て回ったんだけど、僕は腕に感じるアスカの感触が気になって、
何を見たのか全然頭に残らなかった。

水族館から出た後、僕たちは喫茶店に入った。

「今日は楽しかったわ」

「そう、よかった」

そんなことを話しているとアスカがなにか訴えるような目をした。

「な、なにかな?」

「え、えーと、そ、そうよ。あんたの携帯の番号教えなさいよ」

アスカが言いたかったことと何か違うような気はしたんだけど、
僕は深く突っ込まずに素直に携帯の番号を教えることにした。

別れ際、アスカはまた、なにか訴えるような目をした。

「な、なに?」

「・・・なんでもない。それじゃ、またね」

またね、か。アスカどういうつもりだったんだろう?



年も明けて、冬休みも終わりに近づいたある日。
アスカから、携帯に電話がかかってきた。

『シンジ、明日ヒマ?』

「あ、うん。特に予定はないけど・・・」

『じゃあさ、ミサトに子供生まれたじゃない。
 そのプレゼント買おうと思ってるんだけどいっしょに買いに行かない?』

そういえば、大晦日にミサトさんに子供が生まれたとかいう話だったよな。

「そうだね。いっしょに買いに行こうか」

「それじゃあ・・・・・・」

こんな感じでそれから何回かアスカとデート(?)をした。

たいていはアスカから誘いの電話がかかってきた。
僕から誘おうと思うんだけど、振られたときのことを思い出すと電話をかける勇気が湧かなかった。

そんな春も近づいたある金曜日、僕はアスカと一緒に帰るチャンスを得た。

逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ。

僕は自分に言い聞かせてアスカに声をかけた。

「ア、アスカ、明日、ヒマ?」

「え、あ、うん。特に予定はないけど」

「じゃあ、いっしょに映画見に行かない?」

「う、うん。いいわよ」

そして翌日、僕たちは映画を見に行った。
映画の内容なんか覚えていない。いや、どうでも良かった。
この後どうアスカに告白するか、それしか僕の頭にはなかった。

「ア、アスカ、ちょっとウチによっていかない?」

僕がそう声を掛けると、

「そうね、いいわよ」

アスカはあっさりとそう答えた。



「なんか、なつかしいわね」
コンフォート17について僕が紅茶を入れて持っていくとアスカが部屋を見回しながらそう言った。

「そうだね。アスカが出て行ってもう一年になるんだね」

ここで、なんとなく会話が途切れてしまった。

「そ、そういえばこの間、トウジの家に遊びに行ったときケンスケがね・・・」

僕はとりあえず先日の出来事を話し始めた。
それから、しばらく僕たちは他愛無いおしゃべりをした。

「しっかし、あんたたち3バカトリオも仲がいいわよね」

アスカがそんなことを言ってきた。

「『類は友を呼ぶ』ってやつかな?」

僕がおどけてそんなことを言うと、

「自分でそんなこと言う?」

そう言ってアスカはクスクス笑った。
そして、含み笑いを浮かべながら、

「最近あたしとシンジも仲がいいけどこれはどうなのかな?」

ア、アスカ、僕の口から何を言わせたいんだ?

「・・・やっぱり『類は友を呼ぶ』ってやつかな?」

「類友って、あたしとあんたのどこが似てるのよ?」

口調は怒っているけどアスカの顔は笑っていた。でも、眼だけは何か真剣だ。
アスカにもわかっているはずだよ。僕達が似ていることに。
寂しがりやなところ、人に誉めてもらいたいところ、人に見ていてもらいたいところ・・・。

「・・・ところでさ、シンジにとってあたしは『友達』なわけ?」

今度は一転、冗談めかした口調だけど・・・、アスカの目は真剣だった。

「いや、恋人かな」

僕の口からは自分でも信じられないくらいすんなりとそんな言葉が飛び出した。

「え”っ?」

アスカはそう言ってオーバーに一歩引いてみせた。でもその眼は嬉しそうに笑っている。

「それってどういう・・・?」

「はっきりいわなきゃだめかな?」

「言ってほしいな」

「僕はアスカが好きだ。・・・つきあってください」

「うれしい。・・・あたし、ずっと待ってたのよ」

アスカは恥ずかしそうに俯いた。



「・・・1年前シンジに告白されたときは嬉しかったのよ。あたしもシンジのこと気になってたから」

アスカは僕の肩にもたれかかりながら語り始めた。

「ほんとはあの時OKって言いたかったんだけど、それまでお互いに傷つけあってきたから。
 付き合っても長くは続かないと思って。だから、シンジの気持ちに答えられなかった」

「今は?」

「今でも、長く付き合っていける自信はないわ。でも、この1年間ずっとシンジのことが好きだったし。
 だからシンジをデートに誘ったのよ。一度振っておいて自分勝手なことはわかってたんだけど。
 付き合わないで後悔するよりは、付き合って後悔する方がマシだと思うようになったから」

「アスカらしいな。・・・でも、アスカに後悔はさせないつもりだよ」

「ありがと。期待してるわよ」


こうして僕達の新しい日々が始まったのだった。








Fin



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後書き

たっちー「どーも、たっち―です。タームさん、600万ヒットおめでとうございます」
トウジ  「おめでとさんです」
ケンスケ「おめでとうございます」
たっちー「お祝いとしてSS書かせていただきました」
トウジ  「書いたはええんやけど。内容がな」
ケンスケ「そうだよ、なんだよ、このシンジは」
トウジ  「まったくや。告白までのお膳立てを全部惣流にやってもらっとるやんか」
ケンスケ「ここまでやってもらってやっと告白できるなんてな」
トウジ  「まあ、シンジらしいとは言えるわな」
ヒカリ  「・・・自分からは告白できずにあたしから告白させたのは誰だったかしら?」
トウジ  「ヒ、ヒカリ?そ、それはその、なんや・・・」
ケンスケ「なんだ、情けない奴」
トウジ  「彼女をつくれん奴に言われたないわ」
ケンスケ「ほっといてくれよ。ところでなんでこのSSのタイトルが『恋しくて・・・』なんだ?」
たっちー「タイトルはBGMに使った曲からいただきました」
ヒカリ  「アスカがほんとはシンジのことが恋しかったから、という意味もあるんじゃない?」
たっちー「まあ、そうですね」
たっちー「このような駄作に付き合っていただきありがとうございました」
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アスカ:600万HIT記念作品ねっ! ハッピーエンドで素敵っ!

マナ:わたし、名前だけちらっと出てきて・・・出番も無く振られてるしぃ。

アスカ:記念のおめでたい作品なんだから、ひがまないひがまない。

マナ:あなたも、シンジにアプローチするなら、家出て行かなきゃいいのに。

アスカ:1人になってみて、初めてわかることもあるんじゃない?

マナ:そーかもしれないけど・・・。でも、あなた1人で生活できるの?

アスカ:ミサトみたいに生活無能者じゃないもんっ。

マナ:どーかしら?

アスカ:花嫁修業もばっちりしたから、いつでも来いって感じよっ!

マナ:何が来るの?

アスカ:シンジが花婿さんになってくるのよぉっ!

マナ:まだ、高校生でしょ。(ーー)
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