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悪魔と天使と
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BY たっちー



第7話 「始まりの日の終わり、終末の始まり」







「同じ事をしてきた・・・」

シンジがテレビを見詰めながらつぶやいた。

「人間はあの怪物と同じことを・・・、もっとひどいことをしてきた。
 そして、してきたことを認識してからもまだしている」

「ちょっと、どういう意味よ?」

シンジの言葉にアスカが反発した。

「そのままの意味だよ。人間のために住む場所を奪われたり、
 食い尽くされたりして絶滅した生物が何種類いると思う?
 それを考えればあの怪物のことを一方的に悪者呼ばわりする権利が人間にあるのかな?」

シンジの言葉をカヲルが引き継いだ。

「それに、人間同士でも結構ひどいことをしているね。
 アフリカや南北アメリカや東南アジアへの侵略、日本(この国)だって朝鮮半島に侵略したりしてるしね。
 それに奴隷売買とかやってたね。今でも人種差別で苦しんでいる人たちがいるよ?」

「それはそうかもしれないけど・・・」

シンジとカヲルの言葉にアスカは言葉に詰まった。

「難しい話しとるところ悪いんやけど」

険悪な雰囲気を何とかしようと思ったのか、トウジが口をはさんだ。

「なんや、化けもんの様子が変やで」

そう言ってテレビを指差した。

そこには全身から煙を噴出しながら降下していくシャムシエルの姿が映っていた。

「ちょっと、あのまま街に落ちるんじゃない?」

ヒカリが事態に気付いてあせった声をあげる。

「・・・まずいね。街に落ちたらひどい被害が出るよ」

シンジがわずかに顔をゆがめながらつぶやいた。

「さっき人間なんかどうなってもいい、何てこと言ってたような気がするけど?」

先ほどのシンジの発言がまだ気に食わないのか皮肉を言うアスカ。

「!。そこまで言ったつもりはないよ・・・」

一瞬アスカに目を向けたが、シンジはすぐ目をそらしてそう言った。

『か、怪物が落ちていきます!第3新東京市の中心からはそれそうですが・・・』

ヘリから中継しているアナウンサーが絶叫する中、シャムシエルはさらに落ちていき、
郊外の小高い丘の上の建物に激突し、爆発した。

「・・・今、怪物が激突した建物に見覚えがないかい?シンジ君」

いつも冷静なはずのカヲルがどこか引きつった声を出した。

「・・・僕の記憶違いでなければ研究所だね」

シンジも呆然とした声で返答した。

シャムシエルが落ちた場所に建っていたのは確かに「ネルフ」の形而上生物学第1研究所、
つまり、シンジ達の職場だった。

「どうしよう?」

シンジの思考力はまだ停止したままらしい。

「どうしようって・・・、とりあえず研究所に向かったら?」

アスカはとりあえずそう提案してみた。

「そらまあ、そのほうがええんやろうけど・・・。
 シンジもカヲルはんもそれほどの責任のある立場やないんやし、
 とりあえず誰か上司に連絡してみたらどないや?」

トウジの言葉にヒカリが賛成する。

「そうね、それがいいと思うわ。
 もう夜も遅いし、どうせ消防や警察や自衛隊で近くにはいけないんじゃないかしら?」

そんなことを話していると、シンジの携帯電話が鳴った。

「はい、碇です。・・・あ、第1部長!・・・はい、・・・はい。あ、渚は今いっしょに居ります。
 わかりました。・・・はい、それでは明朝に。失礼します」

「シンジ君。部長は何て?」

シンジの電話のやりとりに耳をすませていたカヲルが尋ねた。

「うん、とりあえず今は冬月先生と第1部部長の二人だけが研究所に向かうってさ。
 僕たちには明日の朝来てほしい、だって」

シンジの答えを聞いてヒカリがみんなを見回して言った。

「それじゃあさ、もう遅いことだし、そろそろ寝ることにしない?
 もともとアスカは私の部屋に泊まるはずであったんだし、綾波さんも私んちに来ればいいわよね?
 トウジと渚さんはどうする?」

「ワイは自分の家に帰るわ。悪いけど明日は仕事が・・・いや、この状況ではあるかどうかわからんけどな。
 休みやったら連絡するわ。手伝えることがあったら手伝うで」

トウジはそう答えた。

「カヲル君は?」

シンジの問いに、

「僕はこの部屋に泊めてもらいたいと思っているのさ。いいかい?シンジ君」

カヲルはそう答えた。



夜もふけて。

「・・・シンジ君は超能力者だ」

隣で寝ているシンジを起こさないように布団から抜け出し、
リビングのソファに腰をおろすとカヲルはそうつぶやいた。
シンジのマンションには何度も遊びにきて、泊まったこともあり、明かりをつけなくても支障はない。

「冬月先生の家から僕とレイが脱出できたのは僕の力じゃない・・・」
「あの時、外からの力は感じられたけど、自分自身の『力』は感じられなかった・・・」
「でも、超能力者のシンジ君と同じ夢を見ていた僕はいったい・・・」

カヲルはしばらく一人で悩んでいた。
自分の弱い姿――悩んでいるところや苦しんでいる姿――は決して他人には見せないカヲルだった。

あの「使徒」が現れたのは多分シンジ君の「力」によるものだ・・・。
シンジ君と同じ超能力者ならば僕にも「使徒」が呼べるはずだ・・・。

いや、今それよりも問題なのは、シンジ君に近寄るあの女・・・。

「シンジ君はあのアスカとかいう女を夢で見たんだろうか?」
「僕は何故かあの女が好きになれない・・・」


空が白んできた。

シンジ君が起きる前に布団に戻っておかないと・・・。

カヲルはソファから立ち上がるとダイニングを抜けてシンジの部屋に戻ろうとした。

「あれは?」

カヲルはダイニングテーブルの上に置かれた仮面に気付いた。
アスカがシンジに預けていったあの仮面だ。

「わたしはまた、玉座と四つの生き物の間、長老達の間に、屠られたような子羊が立っているのを見た。
 子羊には七つの角と七つの目が合った。
 この七つの目は、全地に遣わされている神の七つの霊である、か・・・」

カヲルは仮面を手にとり、その文様を見ると「ヨハネの黙示録」の一節をつぶやいた。

その瞬間、仮面が輝き始めた。

「これは!?」

カヲルはとっさに仮面を放り出そうとしたが、一瞬遅かった。
仮面が強力な光を放つ。光が消えたとき仮面も消滅していた。
そして、カヲルの右の掌にはシンジの左手と同じく仮面の文様が描かれていた。

「これは?・・・感じる、感じるよ、シンジ君。あのときの君と同じ『力』を、この右手から・・・」

カヲルはそうつぶやくと声を立てずに笑った。



レイは一人の部屋なかなか寝付けないでいた。
3人同じ部屋で寝ることをヒカリは提案したが、レイは空いている部屋で一人で寝させてもらうことにした。
人と一緒にいると眠れない性質だった。

今日の出来事は一体なんだったのかしら?
渚さんと碇さんが関係しているようだけど・・・。

レイはなれない布団で寝返りをうっていたが、やがてとろとろとまどろみ始めた。
そして――

なに、この感触。
体が宙に浮いている感じ。
夢、そうここは夢の中・・・。
見える、私の足元に何かが見える・・・。


電車の中の碇さん。どこに向かってるの?
隣で碇さんに楽しそうに話しかけてるショートカットの茶色い髪の女の人。
その人誰?その人誰?


悲しげな表情で銃を持っている人。無造作に束ねた髪と無精髭。あなた誰?あなた誰?
その人の前で長い黒髪の女性を抱きかかえている碇さん・・・。その女の人誰?その人誰?
なぜ、碇さんは泣いてるの?


首のない死体。
あれは、碇さん・・・。そう、碇さん。


『アスカはシンジのことが好きなんでしょ?
 もっとも、シンジが好きなのは私だけどね。
 でも、私が好きなのはカヲル』

そう言ってクスクス笑っているのは私。私でない私。でも、それも私。


「僕はお父さんとは呼びませんよ」

碇さんのお父さんにそう言っているのは渚さん。
あなた、なに言ってるの?なに言ってるの?


瓦礫の山と化した街。それは第3新東京市。
その上空で殴りあう紫の悪魔と白い6枚の羽を持つ天使。
その顔は、その顔は――



「ううっ」

レイは目を覚ました。
寝汗で体がぐっしょりと濡れていた。

「何か、いやな夢を見ていた気がする。でも、どんな夢だったか思い出せない・・・」








続く



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後書き

どーも、たっち―です。

シンジたちにとっても、筆者にとっても、長い長い一日がようやく終わりました。
結局、第3話から今回まで同じ日の内の出来事になっちゃいました。

シンジとカヲルが夢を見て、そして今回ついに綾波も。
これは何を暗示しているのでしょう?

しかし、なんかキャラクターの性格が悪くなっていってるし。

それにアスカがだんだんと脇役になっていってますね。
彼女の見せ場はあるのでしょうか?

それと極悪な発言だけを残してその後出番の無いマナの再登場はいつ?

それでは。

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マナ:考えてみたら人ってずいぶん酷いことしてきたわよね。

アスカ:反省しても反省しても、同じこと繰り返してさ。

マナ:神様が怒ったって仕方ないわよね。

アスカ:でも、だからって滅ぼされるわけにはいかないのよ。

マナ:やけに力説するわね。

アスカ:このまま影が薄いキャラのままで滅びるなんて許せないわっ!

マナ:それを言うなら、わたしだって極悪女のままじゃ嫌。

アスカ:アンタの場合、このまま滅んだ方がマシだったりして・・・。

マナ:そんなことないもんっ! 絶対フォローがあるはずだもんっ! 実は可愛いマナちゃんよねっ。>たっちーさん
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