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エヴァ学園は大騒ぎ!
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BY たっちー



2時間目 「女の子達は大騒ぎ」






入学式翌日

この日も授業は昼まで。
というか、各種委員を選べば終わり。シンジ達のクラス、高等部1−Aでは――

「それではまずクラス委員を決めましょう」

シンジ達のクラスの担任である老教師がずり落ちかけた眼鏡を直しながらそう言った。

「委員長はやっぱ、イインチョがやらな!」

トウジがいきなりそう発言する。

「「「???」」」

シンジ達、第3新東京市立第壱中学校卒業の者以外の生徒達が困惑する。

「つまり、中学校でクラス委員の経験がある洞木さんにクラス委員をやってもらいたいってことだよ。
 そうだよな、トウジ?」

しょーがねぇなー、と内心つぶやきつつケンスケがトウジの発言を補完する。

「ちょ、ちょっと待ってよ!?」

ヒカリが立ち上がってトウジとケンスケをかわるがわるにらむ。
しかし、

「ふーん、経験者がいるんならそれでいいんじゃないの?」

「そうそう、面倒が無くていいよ」

クラス委員などやりたくない生徒達の圧倒的多数意見で(やはり)ヒカリがクラス委員をやることになった。

トウジ、洞木さんが委員長になったらまた叱られるだろうに。
いや、もしかして洞木さんに叱られたいのか?もしかして、トウジってM?

シンジ一人がそんなどこか壊れたことを考えていた。

クラス委員に選ばれてしまったヒカリが仕方なく黒板の前に立つ。

「クラス委員に選ばれた洞木ヒカリです。選出された以上全力を尽くしますのでよろしくお願いします」

パチパチパチ

クラス全員が拍手する中、

「よっ、頼むで、イインチョ!」

余計な茶々を入れるトウジ。

「鈴原、静かにして!」

さっそくヒカリの叱責を浴びてトウジは首をすくめた。

この瞬間から「トウジはヒカリの尻にしかれている」ことは公然の秘密となった。

この後の各種委員の選出でトウジは体育祭の実行委員に選ばれた。
シンジとケンスケは特に何の役もなし。

委員選出の後は待望(?)の席換えである。
入学式があった昨日はとりあえず出席番号順(男女混合)に座っていた。

席の選び方でいささかもめたが、最終的に決まった席は、

ケンスケが窓際の一番後ろ、その斜め前がシンジ。
トウジは廊下側の前から3番目、偶然か必然かトウジの隣はヒカリになった。

そして、シンジの隣、ケンスケの前の席に来たのは――

「えーと、碇君だったよね?」

隣の席に移ってきた茶色いショートヘアの女の子にいきなり話しかけられてシンジは驚いた。

「う、うん・・・。え、えっと君は?」

「あたしは霧島マナ。よろしくネ」

そう言ってその少女――霧島マナは右手を差し出した。

「う、うん。よろしく・・・」

半ば呆然としたまま――わずかに顔を赤くして――握手するシンジ。

シンジの言葉にマナはにっこり笑って、いきなり声高らかに宣言した。

「本日、わたくし霧島マナは碇シンジ君のために午前6時に起きて登校してまいりました!
 よろしくネ!」

「おー、やったやんか、シンジ!うらやましいのう」

離れた席からさっそくそうからかいの声をかけてくるトウジ。
一方ケンスケは、

「くそう、何で俺じゃなくてシンジなんだ?世の中不公平だ」

ブツブツとつぶやいていた。

「きゃー、すごい!いきなりの熱愛宣言よ!」
「やるじゃない。あたしも負けてられないわ!」

マナの言葉に騒然となるクラス。

「ちょっと、みんな静かにして!」

委員長ヒカリの言葉も女子生徒たちの声にかき消されてしまった。



その日の放課後。

とりあえず「ネルフ」に顔を出すだけ出そうと席を立ったシンジにマナが声をかけた。

「ねえねえねえ、シンジ君は何か部活とかやるつもりなの?」

「あ、うん」

シンジがチラリとケンスケのほうを見るがケンスケはシンジを無視するかのように
振り返らずに教室を出て行くところだった。

「どうしたの?」

マナが顔を寄せてくる。

「え、いや、なんでもないよ。あ、あのね、部活じゃないけど同好会に入ることになっちゃったんだ」

迫ってくるマナの顔にどぎまぎしながら答えるシンジ。

「へー。どんな同好会?」

「え、いや、あの何をやってるのか良くわからないんだ」

わずかにのけぞりながらシンジが答える。

「なにそれ?おもしろそー。あたしも連れてって」

そう言ってマナはニコニコと笑う。

「や、やめたほうがいいんじゃないかと思うけど・・・」

「何でー?あ、やっぱりあたしって迷惑だったかな?」

ちょっと涙目になるマナ。

「ちょっと、碇君が霧島さん泣かしたわよ(ひそひそ)」
「やーね。もうフっちゃったの(ひそひそ)」

離れたところから聞こえる女子の声にシンジは脂汗を流した。

「め、迷惑なんかじゃないよ!」

思い切りあせった声をあげるシンジ。マナは上目遣いにシンジを見て、

「ほんと?」

まだ目が潤んでいる。

うっ、結構かわいいかも。
陥落しそうになるシンジ。

「ほんとだよ」

「ほんとにほんと?」

うるうる。

「ほんとにほんとだってば」

「えへへ〜。それじゃ、いっしょに行こ!」

先ほどまでの泣き出しそうな気配はどこへやら、マナはシンジの手首をつかむと元気良く教室を出て行った。

教室を出て行く振りをして隠れて二人の様子を見ていたケンスケがつぶやく。

「あの程度の演技を見抜けないとは・・・。まだまだ甘いな、シンジ」

彼の手にはしっかりとデジタルカメラが握られていた。



シンジ達の教室から「ネルフ」の部室までは結構距離がある。
高等部の校舎からは中等部の前を抜けて体育館(中等部用)のさらに向こう。

「あ、あの、手、離してくれないかな」

中等部の校舎の前まで来たところでシンジはようやくそれだけの言葉を口にできた。

「え〜、何で〜」

不満そうに頬を膨らませるマナ。

「い、いやその、恥ずかしいから・・・」

ちょっと赤くなりながら、俯いてそういうシンジ。

「え〜。これくらいで〜」

さらに頬を膨らませるマナ。

「ご、ごめん」

反射的に謝るシンジ。

「も〜、しょうがないなー。・・・それじゃ手は離してあげるから腕組んでもいい?」

マナの言葉にシンジは大慌て。

「い、いや、そ、それはその」

「いやなの?」

うるうる。
本日2度目の涙目攻撃。

「い、いや、あ、いやっていうのは嫌なわけじゃなくて、そのまだ早いというか・・・」

しどろもどろになって意味不明のことを口にするシンジ。

「フウ、しょうがないわね」

ため息をつくマナ。
とりあえず開放されそうな気配にホッとするシンジ。

「でも、何時かは腕を組んで歩いてよね!」

ニコ。

マナの笑顔から目を離せないまま、シンジは無意識の内に頷いた。

「う、うん、がんばるよ」

「今はその言葉で満足しておくわね。じゃ、部室に行きましょ」

「あ、そうだね」

シンジとマナが並んで歩き出そうとしたとき、シンジは腰のあたりに抵抗を感じた。
誰かが、服のすそを引っ張っているような・・・。

シンジが振り返ってみるとそこにいたのは上目遣いで自分を見る蒼い髪と赤い瞳の少女。

「その女の人、誰?」

無表情にそう尋ねてくる。

「あ、レイ?」

驚くシンジの耳元に口を寄せてマナが尋ねた。

「この子、誰?シンジの知り合い?」

何時の間にか呼び方が「碇君」から「シンジ君」へ、
さらに「シンジ」に変わっていることに気付かないまま小声で答えるシンジ。

「えと、従妹の綾波レイ。確か一つ下だから中等部の3年生」

ふ〜ん、シンジの従妹かー。

今度はマナを見詰めてレイが口を開く。

「あなた誰?お兄ちゃんの何?」

相変わらずの無表情。しかし、微妙な口調の違いからかなり不機嫌なことにシンジは気付いた。

「あたしは霧島マナ。碇君のクラスメートよ。よろしくネ、綾波レイさん」

にこやかに笑ってレイに挨拶するマナ。

「よ、よろしく」

わずかに戸惑いながら挨拶を返すレイ。

なにかしら、この感じ。この人嫌いじゃない。
どこか、私と似てる。そう、声が似てるのね・・・。
でも、はっきりさせておかないといけないことがある。

「何で、お兄ちゃんと一緒にいるの?」

シンジを「お兄ちゃん」と呼ぶレイに違和感を覚えながらもマナは明るく答えた。

「え〜とね、シンジ君と同じ同好会に入ろうと思って。
 それとね、あたし、シンジのことが好きになっちゃったみたいだから」

何のためらいも無くそう言い切るマナにレイはわずかに目を見開く。
シンジは完全に茹でダコになっていた。

そう、この人もお兄ちゃんが好きなのね。
わたしからお兄ちゃんを奪おうとする人は敵。
でも、何故か嫌いじゃない。

「・・・わたしもその同好会に入るわ」

しばらく考え込んでいたレイは口を開くといきなりそう言った。

「ちょ、ちょっと待ってよ、レイ」

その言葉で頭から湯気を出して固まっていたシンジは再起動を果たした。

「高等部からエヴァ学園に入った僕と違ってレイは初等部からここにいるんだよね?
 なら、同好会「ネルフ」の噂くらい聞いてるだろ?」

今日、登校してからシンジが聞き込んだ「ネルフ」の噂はろくなものではなかったのだ。

他の部活の備品をくすねているとか。
何人もの生徒がさらわれて人体実験をされたとか。
各種イベントが「ネルフ」のためにつぶれたとか。
etc、etc・・・。

「私には関係無いわ」

もちろん、レイも耳にしたことはある。しかし、ほとんど関心の無いことだった。

「いや、あの・・・」

「シンジ〜。あたしのこと忘れてない?」

シンジの肘を引っ張りながらそう言ったのはもちろんマナだ。

「あ、霧島さん・・・」

シンジはまともにマナの顔を見ることができなかった。

女の子にあんなこと言われたの、初めてだ。
告白したことも無いけど。けど、どうしてあんなあっけらかんと言えるんだ?

思考のループに落ち込みそうになったシンジを現実に引き戻したのはマナだった。

「もぉ、マナって呼んでくれないの?」

「あ、それはその、まだ知り合ったばかりだし」

「それじゃ、その内に「マナ」って呼んでくれる?」

「う、うん」

お兄ちゃん、弱すぎるわ・・・。

完全にマナのペースで話が進むのを見てレイは心の中でつぶやいた。

「早く部室に行きましょ」

かすかな嫉妬を覚えたレイはそう言って二人の間に割って入った。



「シンジの従妹か・・・」

3人が立ち去った後、後者の影から姿をあらわしたのはもちろん相田ケンスケ。
右手にはまたもデジタルカメラ。

「やれやれ、修羅場が見れそうだね〜。シンジもかわいそうに」

内容とは裏腹に相変わらずのんきな口調でそんな独り言を言う。

「ま、俺には関係ないな。それより、霧島もシンジの従妹もいい値で売れそうだ」

中学時代もやっていた隠し撮り写真の密売を高校でもやるつもりなのか。

「ミサトさんもこの計画は乗り気だからな。いい写真をとるぞ」

昨日シンジが帰った後、ケンスケは独りミサトと話をした。
同好会にはもちろん学園からは部費は出ない。
長い歴史を誇る「ネルフ」でもこの点は他の同好会と変わらない。
つまり、常に金欠状態にあるのだ。
これまではリツコの発明品――ミサト曰くガラクタ――を売って何とかしてきたが、効率が悪い。
材料費が結構かかるからだ。
何か手っ取り早く金を稼ぐ方法はないものか――ミサトがケンスケに持ちかけた相談はそれだった。
これをシンジではなくケンスケに持ちかけたのは、ある意味ミサトに人を見る目があると言うことだろう。
ケンスケが考え出したのが中学時代に自分の小遣いを稼ぎ出した方法、写真の密売だった。
ミサトがこの計画に乗り気になったのは、

『ミサトさんの写真を売ればかなりの値段で売れますよ』

というケンスケの一言が効いたからだ。

写真に性格は写らないものね。

ミサトと一緒にケンスケの話を聞いていたリツコの頭にはそんな言葉が思い浮かんだが、
あえて、口にしなかった。
部費を稼ぐためのくだらないものを作っている時間を、より「高尚」な研究に使えるからだ。


「さてと、のんびりとはしていられないぞ。
 シンジより先に部屋を出たはずの俺が部室にいないのもおかしいからな。
 ・・・しかし、何で俺じゃなくてシンジがもてるんだ?」

トウジにさえ委員長がいるっていうのに・・・。
そんなことを考えながらシンジより先に部室にたどり着くべくケンスケは走り去った。



「こんちわー」

「こんにちわ」

「・・・」

シンジ達が部室にたどり着くと昨日会った3人とケンスケのほかに見知らぬ顔があった。

「シンちゃ〜ん、良くきたわね。・・・その子達は?」

出迎えたミサトが首をかしげる。

「あ、えーと・・・」

どう説明しようかシンジは迷ったが、すぐにマナが自己紹介を始めた。

「シンジのガールフレンドの霧島マナです。「ネルフ」に入れてもらいたくて来ました!」

「あらあら、シンちゃんのガールフレンドなら大歓迎よ。
 ・・・シンちゃん、やるじゃない。早速ガールフレンドを作るなんて」

ミサトの後半の言葉はシンジに耳元でささやいたものである。

「・・・綾波レイです」

狼狽するシンジを無視するようにレイが名乗った。

「あら、彼女もシンジ君のガールフレンドかしら?」

そういったことに興味を持たなそうなリツコが尋ねてくる。

「いえ、従妹です」

シンジの言葉にレイは少し寂しそうな顔になる。
ミサトはその一瞬を見逃さなかった。

おやおや、これは・・・。面白いことになりそうね。

「じゃ、あたし達も自己紹介しておきましょうか」

そう言うミサト、リツコ、日向に続いて昨日はいなかった二人が自己紹介する。

「青葉っス。趣味は見ての通りギター。それでは早速歓迎の曲を一発・・・」

ジャーン

いきなりギターをかき鳴らすロン毛、皮ジャンの男。
もっとも、すぐに日向に取り押さえられたが。

「な、何をする、マコト」

「ああ、また今度にしてくれ!」

呆然と見ているシンジとマナに日向は青葉を引きずっていきながら愛想笑いをした。
やっぱり「いい人」なのかな、日向さんて。でも昨日の格好がなー。

そんなことを考えているシンジの前にフリルのいっぱいついた服を来た女性が立った。

「あなたがシンジ君ね。私は伊吹マヤ。大学3年生。よろしくネ」

そう言ってにっこりと笑う。

「よろしくお願いします」

大学3年って・・・。僕達と同じくらいの年にしか見えないけどなー。それにあの服はちょっと。

シンジはそんなことを考えながらも愛想笑いを浮かべて挨拶する。

その横顔をマナとレイがにらんでいた。








続く



次回予告

同好会「ネルフ」に入部させられたシンジと彼について入部したマナとレイ
彼らは「ネルフ」恒例の春合宿に参加する
はたして、シンジとマナの仲は進展するのか?
そして、レイの口撃に精神汚染の危機にさらされる部員達
果たして彼らに未来はあるのか?

3時間目 「春合宿は大騒ぎ」

この次もサービス、サービスゥ



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後書き

日向「よし、第1話から登場できたぞ」
青葉「それはよかったな(どうせ俺は2話からだよ)」
日向「この話ではミサトさんに近いところにいるみたいだし。チャンスだ」
青葉「(無理だと思うぞ)」
レイ「どうせあなた達は端役よ(クスクス)」
日向・青葉「気にしていることを・・・」
レイ「(日向を指差して)あなたはミサトの下僕(クスクス)」
レイ「(青葉を指差して)あなたに彼女なんかできないわ(クスクス)」
日向・青葉「ほっといてくれ〜〜!!」


どーも、たっち―です。

今回はマナが大活躍です。
別に以前落とし穴に落されてマナさんにLMSを書けと脅迫されたからではありません(汗)。
いや、これがLMSと言えるかどうかはわかりませんが。
それと綾波の設定は迷ったんですけど、今回登場したような性格になりました。
(最初は後書きのコメント係みたく「一人目」みたいな性格にするつもりでした)
もちろん、LAS人であるたっちーです。このままでは終わりません。
でも、アスカの登場はいつになるかなー。できるだけ早くするつもりですが。

ご感想、ご意見をお待ちしています。

それでは。

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マナ:たっちーさーんっ! なんていい人なのかしらぁぁぁっ!(*^^*)

アスカ:この展開はナニっ!?(ーー#

マナ:おもいっきり、LMSでいい感じじゃなーい。

アスカ:しかも、アタシの登場の目処がまだ立ってないですってぇぇぇっ!(ーー#

マナ:こんな赤毛ほっといて、どんどんラブラブな展開にしてくださいねぇっ!(*^^*)

アスカ:LAS人であるって、あとがきにあるでしょうがっ!

マナ:たっちーさんは、LAS人でも、この作品はLASじゃないのよ。

アスカ:なんでそーなんのよっ!

マナ:LMS展開を続けてくれたら、アスカの等身大フィギュアをたっちーさんにプレゼントしちゃうわよっ!

アスカ:勝手に人の人形を賄賂にしないでーーーっ!

マナ:うーん、今日はとっても気持ちよく寝れそう。(*^^*)
作者"たっちー"様へのメール/小説の感想はこちら。
tachiy@sannet.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

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