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エヴァ学園は大騒ぎ!
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BY たっちー



3時間目 「春合宿は大騒ぎ(前編)」






シンジ達が同好会「ネルフ」に入部して――させられてだよ!byシンジ――1週間が経った。


「今週末「ネルフ」恒例の春合宿をやるわよん。雨天決行。おやつは500円まで」

部室の奥の部屋から出てきたミサトはいきなり、そんなことを言い出した。

「バナナはおやつに入るんですか?」

のりのいいケンスケがミサトの言葉にお約束の合いの手を入れる。

「春合宿って・・・。突然ですね。何やるんですか?」

シンジはそんなケンスケをジト目で見ながらミサトに訊いた。

「テニスとバーベキューよん」

あっさりとそう答えるミサト。

なんで、テニスとバーベキューなんだよ・・・?
合宿ってそういうことやるためのものだっけ?
「ネルフ」って、なにをやってる同好会なんだ?

思考能力の低下した頭で堂堂巡りを繰り返すシンジの耳に妙なセリフが飛び込んできた。

「合宿・・・。それは、新人をしごくため。地獄の特訓。そう地獄を見るのね・・・」

「あ、綾波さん?」
「どうしたんだよ綾波?」

突然妙なことを口走り始めたレイをマナとケンスケが呆然と見ていた。
いや、二人だけではない。このとき部室にいた全員が唖然としてレイを見ている。

「? どうしたの?」

みんなの視線に気付いてレイが首をかしげる。

「どうしたのって・・・。自分の発言を思い出してみなさい」

眉をしかめ、こめかみをもみながらそう言ったのはリツコだった。

「・・・。・・・。・・・。別におかしくないわ」

しばらく記憶を探っていたらしいレイだが自分の発言に問題点はないと思っているらしい。

「あのね、綾波さん。「ネルフ」は別にテニス部じゃないから特訓とかはしないんだよ。
 春合宿ってのは部員同士の親睦を深めるってのが目的なんだからさ」

おそらく「ネルフ」一の常識人であろう日向がそう説明した。

「・・・そうなの」

レイはどこかつまらなさそうだった。

「いや、春合宿でテニスとバーベキューっていうのは「ネルフ」発足以来の伝統で・・・」

フォローになっていないフォローを慌てて口走る日向。
それに付け足すようにミサトが日向達も聞いたことがない、ある「伝説」を明かした。

「伝説では大学生だった初代会長が当時中学生だった女の子のハートをこの春合宿でゲットしたと言われてるわ。
 二人はその後結婚したっていう話よ」

皆が胡散臭げな視線をミサトに送る中、一人だけウットリしていたのは伊吹マヤだった。

「すてきな話ね・・・」

胸の前で何かに祈るように手を組み、目をキラキラと輝かせ、あらぬ方向を見ている。
そんなマヤを横目でチラッとみて青葉がつぶやいた。

「そんな与太話信じられ無いッスよ。・・・事実だとしたら初代会長はロリコンだったってことッスね」


「そ、そういえば「ネルフ」って何をやる同好会なんですかぁ?
 この一週間、活動らしい活動してないような気がするんですけど」

妙に停滞した雰囲気を変えようとしたのか、マナが先輩達にそう質問する。
しかし、その質問は新たなる停滞を招いただけだった。

「何をやるって・・・、お前知ってるか、マコト?」

「さあ?気にしたことないからな」

腰に手を当てた格好で日向に問いかける青葉と、こちらは腕を組んで首をひねる日向。

「先輩、何か知ってますぅ?」

「私は何も知らないわ。ミサトに引きずり込まれたんだもの」

口元に指を当てて可愛らしく小首をかしげるマヤと、
白衣のポケットに手を突っ込んだまま無表情に言い放つリツコ。

自然とみんなの視線が一人の人物に集まる。「会長」葛城ミサトへと。

「楽しけりゃいーじゃん」

ミサトはニッコリ笑うとあっさりとそう言い放った。



その日の夜、碇家

「あのさ、母さん。今度の土日なんだけど・・・」

シンジはおずおずと晩御飯を作っているユイに話しかけた。
今日は火曜日。いきなり今週末に泊り込みで合宿というのは「どうしたものか」な感じなのだ。

「なーに、シンジ?もしかしてデート?土日ってことはいきなりお泊り?シンジもやるわね」

ユイのいきなりの発言に思わずシンジはのけぞった。

「ななな、いきなり何言うんだよ、母さん!」

「なんだ、違うの?シンジにガールフレンドができたって聞いて喜んでたのに」

料理の手を止めてつまらなさそうな顔でユイはシンジを見た。

「そんなこと誰に聞いたんだよ!?」

逆切れシンジにユイはおっとりと、しかしあっさりと、

「葛城さんからよ」

と言った。
ミサトは週3回喫茶店「六分儀」にバイトに来る。
このとき、ユイの耳にご注進に及んだらしい。

「父さんも知ってるの?」

できれば知られていないでほしい。

しかし、シンジの希望は空しく打ち砕かれた。

「当然でしょう?私が伝えたわ」

ユイの言葉にシンジはがっくりと肩を落した。


「それで、今週末がどうしたの?」

ようやく、ユイが話を元に戻す。

「あ、うん。同好会の合宿をやるっていきなりミサトさんが」

「あら、それに参加したいのね」

ユイが納得した表情で頷く。

別に参加したいわけじゃないんだけどね・・・。

シンジは言いかけた言葉を飲み込んだ。
ユイに言ったところで仕方がないし、下手にミサトの耳に入ったりしたらどんなことになるか・・・。
どうせ、合宿に行かなければならないなら余計なことは言わない方がいい。

「いいわよ、行ってらっしゃい」

シンジの気持ちを知ってか知らずかユイはあっさりと許可を出した。

「いいわよって、そんな簡単に・・・」

思わず目を見開くシンジ。

「「彼女」も一緒なんでしょ?がんばりなさいよ」

母の言葉にシンジは喚いた。

「何をがんばれって言うんだよ〜!!」



合宿初日

シンジは集合場所である「ネルフ」部室前にいた。

ミサトを除く部員達は全員そろっている。
それと何故かトウジとヒカリがいた。


トウジは先日ケンスケから「ネルフ」の合宿の話を聞き、

『ええな〜。ワイの入ったサッカー部はその日は練習ないし、行けんもんかいな〜』

と素直にうらやましがった。
トウジの言葉を聞いてケンスケがニヤリと笑う。

『それじゃあ、トウジも来ないか?多分大丈夫だと思うぜ。シンジもそう思うだろ?』

ケンスケの言葉にシンジも同意する。

『そうだね。ミサトさんは「楽しけりゃ何でもアリ」って人だから、
 同好会に入ってようがなかろうが参加人数が多いことは喜ぶんじゃないかな?』

シンジがそんなことを言っているときケンスケはある視線に気付いた。
トウジを見詰めているヒカリに。

トウジだけ誘って委員長に声をかけないっていうのもな・・・。
でも、俺達が声をかけるってのもな〜。

ヒカリの気持ちはクラスの誰でも気付いている。
気付いていないのはシンジだけだ。
いや、より大きな問題として当事者であるトウジが気づいているのかどうか・・・。
それはケンスケにも把握できていないことだった。
ケンスケがそんなことを考えているとを知ってか知らずかマナがヒカリに声をかけた。

『洞木さんも来ない?』

唐突なマナの誘いに驚くヒカリ。

『で、でも私は「ネルフ」の部員じゃないし・・・』

そう言いながらもヒカリはチラッとトウジのほうを見る。
トウジは「ネルフ」の合宿に参加できそうなことにおおはしゃぎでそんなヒカリの視線にはまったく気付いていなかった。
ヒカリは思わずため息をついた。
そんなヒカリの耳元に口を近づけてマナがささやく。

『鈴原君に近づくチャンスよ』

その言葉にヒカリは耳まで真っ赤になって俯いた。

『わ、私は別にそんな・・・』

『いいじゃない、隠さなくても。洞木さんも参加することにけって〜い!!』

ヒカリの返事も聞かないまま、そう決めてしまうマナであった。


「遅いね、ミサトさん」

シンジは隣に座っているマナだけに聞こえるような声でポツリとつぶやいた。
集合時間からはすでに30分が経とうとしていた。

「そうね」

マナもポツリと答える。

「葛城会長だもの」

シンジの声が聞こえたのか妙に納得できる言葉を口にしたのはレイだった。
レイのその言葉を肯定するかのようにリツコ達先輩グループは平然としている。

そして、集合時間から一時間近くが経ってようやくミサトが姿をあらわした。
ミサトの後ろからシンジ達が見たことも無い無精髭を生やし髪を後ろで縛った男が歩いてくる。
その男の姿を見たとき日向の身体が一瞬こわばったことに気付いたのは青葉とリツコだけだ。

「よーし、みんなそろってるわね」

満足げに頷くミサトにシンジが食ってかかった。

「なにが「みんなそろってるわね」ですか!一時間も遅れてきて!」

シンジの言葉に頷いたのはマナとレイ、ヒカリの女性3人だけ。
マヤは下唇に指を当てて小首を傾げ、リツコと青葉は肩をすくめて見せただけ。
日向はシンジの言葉が耳に届いていないようだ。

「あら、「ネルフ」時間ではちょうど集合時間よ」

平然とそう言うミサトに怒ることも忘れて呆然とするシンジ達。

「なんですかぁ、その「ネルフ」時間て?」

マナの問いにミサトは、

「決めた一時間後までは時間内とみなされるのよ」

と言い切った。
シンジ達はため息をつくことしかできなかった。

「葛城、あまりいいかげんなことを言ってるとまたせっかくの部員が逃げるぞ」

そう言ったのはミサトといっしょにやってきた無精髭の男。

「君たちが今年「ネルフ」に入った高等部の学生だね?
 ・・・ああ、自己紹介が遅れたな。俺は加持リョウジ。
 この3月まで「ネルフ」にいた男さ。いわゆるOBって奴だな」

「その加持さんがどうしてここにいるんですか?」

シンジの言葉に加持は男くさい笑みを浮かべた。

「なんだ、聞いてないのか?葛城から今日の運転手役を仰せつかったのさ」

加持の言葉にシンジは先日のやりとりを思い出した。


合宿には日向、青葉が車を出すことになっていたのだが、トウジたちが参加することになって車が2台では足りなくなったのだ。
ここでミサトが、

『それじゃ、ま、あたしが車を・・・』

と言い出したのだが、リツコが途中でさえぎった。

『却下』

『え〜。何でよ、リツコ〜?』

ミサトは思い切り不満そうだったが、彼女に味方する者はいなかった。

『『『???』』』

頭の上に?マークを浮かべているシンジたちに青葉が説明する。
普段こういう役をやる羽目になる日向はミサトをなだめるのに必死だった。

『葛城さんの運転は凄過ぎてね。ノーダメージで乗っていられる人間はいないんだ』

シンジには妙に納得できる話だった。
結局、

『車を出すとお酒が飲めませんよ』

日向のその言葉がとどめとなり、ミサトは愛車を出すことを断念したのだった。

『しゃ〜ないわね。ま、もう一人のドライバーはあたしが用意するわ』

ミサトのその言葉で危機は回避されたはずだった。


シンジがそんなことを思い出していると、

「よっ、リッちゃん久しぶり。お、マヤちゃん相変わらずかわいいね。
 君たちは・・・、マナちゃんにヒカリちゃんにレイちゃんか。
 みんなよろしくな」

女の子みんなに声をかける加持の声が聞こえてきた。

何なんだこの人は・・・。
まともな人かと思ったけどやっぱり「ネルフ」のOBだな。

そんなことを考えてしまうシンジだった。

なんだかんだでようやく出発。

加持の1BOXカーにミサト、シンジ、マナ、レイ。
日向のランドクルーザーにトウジ、ケンスケ、ヒカリ。
青葉のスポーツカーにリツコ、マヤが乗車した。


「それでは、発進!!」

すでにエビチュを握っているミサトの号令で3台の車は第3新東京市近郊の高原に向けて出発した。




そのころ、喫茶店「六分儀」では。

コポコポコポ

カウンターの中でゲンドウがコーヒーを入れていた。
カウンター席にはやせぎすの初老の男。
他に客は一人もいない。

ゲンドウが無言でコーヒーを入れたカップを客の前に差し出す。
男はブラックのままコーヒーを口にして、

「あいかわらず、お前が入れたコーヒーはうまいな」

と満足げに頷く。この男が店内に入ってきて初めてしゃべった言葉だった。

「冬月先生にそう言ってもらえるとは光栄です」

ゲンドウは無表情のままそう答えた。

暫しの沈黙。

「シンジ君が「ネルフ」に入ったそうだな」

冬月はコーヒーを一口飲むとつぶやくようにそう言った。

「ええ」

言葉少なに肯定するゲンドウ。

「シンジ君にレイ君、リツコ君にミサト君か・・・。「血」というものかね?」

冬月の言葉にゲンドウは何の反応も示さなかった。

「まさか、キョウコ君の娘まで「ネルフ」に入ることはないだろうな?」

そう言ったのは冬月。

「彼女達は今ドイツです。それは無いでしょう」

ゲンドウの返答は相変わらず簡潔だった。

「で、シンジ君は今日はどうしているのかね?」

冬月の言葉にゲンドウの表情がわずかに動く。
何かを懐かしんでいるような顔だということはほとんどの人間にはわからないだろう。

「春合宿に行っています」

冬月がわずかにその細い目を見開いた。

「春合宿?「ネルフ」のかね?」

「はい」

「そうか・・・。お前がユイ君の心をつかんだあの春合宿にな・・・」







続く



次回予告

春合宿でテニスに興じるシンジたち
ミサト達はシンジとマナの仲を進めようと画策する
その状況に危機感を感じるレイ
はたして、シンジとマナの仲は進展するのか?

4時間目 「春合宿は大騒ぎ(後編)」

この次もサービスしちゃうわよん

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後書き

加持「おいおいおい、いいのか、これで?」
冬月「どうしたのかね、加持君?」
加持「いや、アスカもまだ出てないのに俺なんか出してどうする気かと・・・」
冬月「ふむ・・・。私は長編となるとそれなりの役がもらえることになっているようだから気にしていなかったが」
加持「それからこれはある筋から入手した情報なんですが・・・」
冬月「なんだね?」
加持「「自分はLAS人でも、この作品がLASである必要は無い、か・・・。なるほど」とか、
   この駄作者が繰り返しつぶやいているとか」
冬月「確かな情報かね?」
加持「残念ながらまだ未確認です」
レイ「そう・・・。この話はLRSなのね・・・(クスクス)」
加持「いや、それは違うんじゃないかな・・・」

どーも、たっち―です。

前回の予告とは違う内容になってしまいました。
というか、出発までだけでこれだけの量になると思ってませんでした。
我ながら自分の力量の無さが恨めしいです。
今回LMS色は控えめです。でも周囲の状況がそういう方向に進んでます(笑)
アスカ登場までにどこまで進んでいるのでしょう?

次回で春合宿編は終わり・・・になるといいな(汗)

それでは。

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マナ:ほんと、ネルフって何の同好会なんだろう?

アスカ:楽しけりゃなんでもいいって感じね。

マナ:綾波さんは、しごきを期待してたみたいだけど。

アスカ:ファーストの考えることは、いつもわかんないのよ。

マナ:目的はなんでもいいわ。シンジと1つ屋根の下ぁ〜楽しみねっ。

アスカ:寝込みを襲ったりしたら承知しないわよっ!

マナ:そんなことしなくっても、寝る前に2人はもうラブラブよぉっ! 葛城さんも味方みたいだしぃ。

アスカ:ここは、なんとしてもファーストにシンジを守らせなきゃ。ミサトのヤツめ・・・(ーー#
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