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エヴァ学園は大騒ぎ!
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BY たっちー
8時間目 「転校生で大騒ぎ」
「しかし、ミサトさんが教育実習生としてくるとはな」
ゴールデンウィーク直後の月曜日、下校途中でケンスケがそんな話をシンジとトウジにしていた。
この日は部活もなく、マナはヒカリと一緒に帰ったようだ。
「なんや、ケンスケも知らんかったんかいな。シンジもか?」
「うん、そうなんだ」
この日の朝のホームルームで担任の老教師とともにスーツ姿のミサトが入ってきたのを見てシンジは驚いた。
グラビアアイドル並の美女の登場に男子生徒がどよめく。
『今日から教育実習生として来た葛城ミサトさんです。とりあえず今日から葛城さんに朝と夕方のホームルームをやってもらいます』
『葛城ミサトです。・・・。よろしくねん♪』
そして、ミサトはシンジと目が会うとウインクしてみせた。
次の瞬間、男子生徒の嫉妬の混じった視線がシンジに集中した。
やめてよ、ミサトさん・・・。
シンジはそんなミサトを恨んだものだ。
『なんか大変なことになりそうだね、シンジ』
隣の席からマナが顔を寄せてきて囁いた。
『ほんとにね・・・』
シンジが答えた次の瞬間、
『ほら、そこの二人。付き合ってるからって人前でイチャイチャしない』
ミサトの言葉にまたしても男子生徒の嫉妬の混じった視線がシンジに集中する。
いいかげんにしてよ、ミサトさん・・・。
シンジはミサトが教育実習生として来る間の学園生活のことを思うと暗澹たる思いにとらわれた。
「話は変わるけど、ついに明日、転校生が来るらしいで」
トウジの言葉に回想から覚めるシンジ。
「ふ〜ん。ようやくだね」
入学式翌日の席換え以来シンジの右隣の席が空いていた。
担任の老教師の話では、
”ドイツから帰国する生徒が一緒に入学する予定だったが手続きが遅れていてまだ帰国できていない”
ということだったのだが、ようやく手続きが終わったらしい。
だから正確には転校生という表現は正しくないのだろうが、トウジたちにはそんな些細なことはどうでもいいことだった。
「どんなのが来るンやろな〜。かわいい子やったらええな〜」
鼻の下を伸ばしながらそんなことを言うトウジ。
「トウジには委員長がいるじゃないか」
呆れた顔をしながらケンスケがつっこみを入れる。
「は?それはどういう意味や?」
首を傾げるトウジにケンスケは思いっきり呆れた。
「どういう意味って・・・、ゴールデンウィーク中に委員長とデートしたって聞いたぞ?」
実際には聞いたのではなくその目で見ているのだが。
それを言えばシンジのデートを邪魔しようとしたことがばれてしまうかも知れないので慎重に発言する。
「なんでみんなそう言うんや?あれはただ荷物持ちで行っただけや」
平然とそう言うトウジ。あきれ返ったのか、ケンスケは何も言わなくなった。
「それより、シンジこそ霧島とデートしてたやんか。どうや、上手くいったんか?」
トウジがシンジに話を振る。別に話題を逸らそうとかいう意図がないのはその表情を見ればわかる。
トウジがここまで鈍いと洞木さんも大変だな・・・。
自分の鈍さを棚に上げてそんなことを考えるシンジ。
さすがの鈍感王シンジもヒカリの思いに気付いていた。というか、マナに教えられて初めて知ったのだが。
「なんや、シンジ。ヒトの顔、じ〜っと見てからに」
「あ、ごめん。・・・なんの話だったっけ?」
「だ・か・ら〜、霧島とのデートは上手く行ったんかって訊いとるんや!」
シンジのボケにトウジが切れる。
いつもならトウジに同調するケンスケだが、この件では下手に口を出すとやぶ蛇になりかねないので、おとなしくしていた。
「デートねぇ・・・」
シンジが首をひねる。皆が「あれはデートだ」と言うので、そうだったのか〜、とか考え出したのだが、完全には理解しきれていない。
「ん〜、何か変な人たちにからまれたんだよね」
若干ずれた返事をするシンジだが、その言葉を聞いた途端、ケンスケの身体が一瞬ビクッと硬直する。
「なんやそれ?」
「いや、だからさ・・・」
トウジに先日のデートの時に起こったことを話すシンジ。ケンスケはできる限り、平静を装おうとしていた。
「ほ〜、それは大変やったのう。そう言えば、シンジが来る前に霧島が変な外人に絡まれとったしな。
ま、あの日は運が悪かったんやろ。な、ケンスケ?」
「あ、ああ、そうだな」
いきなり話を振られてケンスケは狼狽したが、できる限り平静に答える。
ケンスケの態度に違和感を感じたシンジだが、特につっこもうとはしなかった。
「そ、そう言えば、ちょっと用事があったんだ。またな、シンジ、トウジ」
鈍感コンビ、シンジとトウジでなければ何か隠していることがもろバレな態度でそう言ってケンスケはその場から逃げて行った。
「なんや、あれは?」
「さあ?」
ケンスケの後姿を呆然と見送るシンジとトウジだった。
その後、トウジとも別れて自宅に向かうシンジ。と、喫茶店「六分儀」の隣に一台のトラックが止まっているのに気づいた。
通り過ぎるとき、そのトラックを見ると描かれていたのは帽子をかぶり、ダンボールを抱えた猿。
CMなんかでも良く見かける引越しセンターのマークだ。
「誰か引っ越してきたんだな」
シンジの関心はその程度のものだった。
翌朝
「あ〜あ、何で寝過ごしちゃったかな」
シンジはぼやきながらエヴァ学園への通学路を走っていた。
別に夜更かしをしたとかいうわけではない。5時頃、妙な夢を見て目が覚めてしまい、それから二度寝してしまったからだ。
もっとも、その夢の内容は覚えていない。自分とレイともう一人誰かが出てきたような気がするのだが。
シンジが妙に気になるその夢の内容を思い出そうとしながら走っていると、後ろから女の子の喚く声が聞こえてきた。
「あ〜、もう!ママも何で起こしてくれないのよ!転校初日から遅刻なんてカッコ悪いじゃん!!」
あれ、この声、どっかで・・・。
振り返ろうとしたシンジの足がもつれる。
「あわわ!」
「きゃあ〜!!」
シンジはそのまま後ろから走ってきた女の子を巻き込んで転倒してしまった。
「いった〜い!!」
自分の下から聞こえる女の子の声にシンジは慌てて体を起こした。
「あ、ご、ごめん!!」
その時シンジは左手に妙な感触を感じた。
妙にやわらかい感触。
シンジは自分が女の子の胸をわしづかみにしていることに気付いた。
恐る恐る視線を女の子の顔に移す。胸を掴んだまま。
シンジが見たのは怒りに顔を真っ赤に染めた青い瞳の少女だった。
もしかしてこの娘、この間の・・・。
「キャー!!エッチ!バカ!ヘンタイ!信じらんな〜い!!」
パァ〜ン!!
強烈なビンタに吹っ飛ぶシンジ。
「あ〜、もう!さいって〜!!って遅刻、遅刻〜!!」
女の子はそう言うとそのまま走り去った。
「いててててて・・・」
シンジがようやく上半身を起こしたときには少女の姿はすでに見えなくなっていた。
「あれって、マナとショッピングに行ったときにぶつかった娘だよな・・・」
2度も同じような事態になるとは・・・。なんか変な縁でもあるのか?
そんなことを考えてしまうシンジだが、すぐに現実に戻る。
「まずい!このままじゃ遅刻しちゃうよ!!」
ほこりを払うのももどかしくシンジは学校に向かって走り出した。
「ふ〜。ぎりぎりセーフ」
シンジが教室の戸を開けたのはホームルーム開始3分前。
「シンジ、おはようさん。遅かったな。今日はどないしたんや。・・・そのほっぺたどないしたんや?」
教室に入ってきたシンジに声をかけてきたのはトウジだ。トウジと話していたケンスケもシンジの顔を見て、
「うわっ、見事な紅葉だね」
と驚いている。
「うん、登校途中で女の子とぶつかっちゃってさ」
「なるほど、それでビンタを喰らった、と」
「うん」
「かぁ〜〜、凶暴なやっちゃな〜」
3バカがそんなことを話しているとマナが近寄ってきた。
「シンジ、おはよ。どうしたの、そのほっぺた?」
「あ、え〜と、登校途中で女の子とぶつかっちゃってさ」
思わず、マナから視線を逸らすシンジ。
シンジのその態度にマナは何かに気付いたらしい。女の勘という奴だ。
「ほんとにぶつかっただけ?」
マナの鋭い視線がシンジに突き刺さる。
「え、も、もちろん」
疑ってくれ、と言わんばかりのシンジの態度にマナだけでなくケンスケ、さらにトウジでさえも疑いの目を向ける。
「「ほんと(ま)か、シンジ?」」
「シンジ、あたしの目を見て答えてくれる?」
マナが顔を寄せてくる。
「あわわわわわ・・・」
パニックになったシンジはごまかしの言葉が思いつかない。その時、
キーンコーンカーンコーン
チャイムに救われたシンジであった。
「喜べ、男子〜!今日は噂の転校生を紹介するー!」
昨日からホームルームを任されているミサト「先生」は今日も朝からハイテンションだった。
案外、こんな仕事が向いてるのかもね・・・。
ミサトを見ながらそんなことを考えていたシンジは教室に入ってきた転校生を見て凍りついた。
ブロンドの髪。青い瞳。白い肌。とびっきりの美少女がそこにいた。
「おお〜〜!!」
男子生徒だけでなく、女子さえもその姿に見とれる。
カッカッカッカ
黒板に自分の名前を書いた少女が振り返る。
「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく」
そう言ってウインクしてみせる転校生アスカ。
さらにどよめく男子生徒。女子生徒の何人かはそんな男子生徒を睨みつける。
もちろん、どよめきの中心にはトウジがいたわけで、ヒカリはそんなトウジを睨みつけていた。
そんな男子生徒達の反応を満足げに見ていたアスカの視線が一点で止まった。一人硬直しているシンジに。
「あ〜!!あんた、今朝のチカン!!!」
シンジをビシッと指差して叫ぶアスカ。
「ううっ・・・」
わざとではないにしてもやったことがやったことなので反論できないシンジ。
「何言ってんのよ!シンジに変な言いがかりつけないでくれる!?」
そんなシンジに代わってマナが思わず立ち上がってアスカに食ってかかる。
「事実を言ったまでよ!それより、何よアンタ!すぐにそいつ庇っちゃってさ。そいつとできてるわけ?」
「そうよ!何か文句ある!?」
売り言葉に買い言葉。もはやシンジの存在を無視して言い争いを続けるアスカとマナ。
ヒカリの制止しようとする声は誰の耳にも届かず、ミサトはアスカとマナの言い争いをニヤニヤ笑いながら見ていた。
トウジやケンスケを含め、その他の生徒は見た目とは裏腹のアスカの性格に目を丸くしている。
「・・・ふ〜ん。そう言えば、そいつどっかで見たことあると思ったら、この間あたしのスカートに頭突っ込んできた奴じゃない!!」
アスカの言葉にシンジは頭を抱えた。そんなシンジにまたもや男子生徒の嫉妬の混じった視線が突き刺さる。
「あ、あれは単なる事故よ!!」
その場に居合わせていたマナはわずかに動揺を見せながらも必死に反論する。
「何であんたがそんなこと知っているわけ!?」
「その時シンジとデートしていたからよ!」
マナの言葉に再び男子生徒の嫉妬の混じった視線がシンジに突き刺さる。
やめてよ、マナ。転校生。恥ずかしいよ。それになんかみんなの視線が痛いし。
頭を抱えるシンジの思考は完全に停止した。
「まったく、シンジ、シンジってアンタは・・・。ん?・・・シンジ?」
マナと言い争いを続けていたアスカが突然口をつぐむ。マナが怪訝な表情で見ているとアスカは壇上から降りて、
つかつかとシンジに歩み寄った。
思考停止していたシンジだが、しばらくして急に教室が静まり返ったことに気付いた。
頭を上げてみるとシンジの目に飛び込んできたのは腰に手を当てて間近から自分の顔をマジマジと覗き込むアスカの顔。
「わ!?」
シンジが驚くのもかまわず、シンジを見つめるアスカ。マナでさえその真剣なまなざしに口をはさむことができない。
ミサトも固唾をのんで見守っている。
「シンジ?」
「はい!!」
アスカの声にシンジは思わず立ち上がり背筋を伸ばす。
次の瞬間、アスカは満面の笑顔を浮かべるとシンジに抱きついた。
「やっぱりシンジだ〜♪ひっさしぶり〜!!」
抱きつかれたシンジは完全に硬直し、マナは呆然と目の前の情景を眺めていた。
「いや〜んな感じ!!」
ケンスケとトウジは久々に間抜けなセリフと間抜けなポーズをとっていた。
数瞬の後、真っ先に我に帰ったのはマナだった。
「ちょ、ちょっと!何、シンジに抱きついてるのよ!!」
そしてシンジから強引にアスカを引き剥がす。
「ちょっと!感動の再開を邪魔しないでくれる〜!」
「感動してるのはあなた独りよ!」
再び口ゲンカを始めるマナとアスカ。
そこにケンスケが割って入った。シュタッと手を挙げて、
「転校生に質問!」
「何よ?」
アスカは不機嫌な表情でケンスケに視線を移す。
「転校生とシンジの関係は?」
タジタジになりながらもみんなが知りたがっているであろう質問をするケンスケ。
「あたしには惣流・アスカ・ラングレーっていうちゃんとした名前があるんだから転校生、転校生って呼ばないでくれる?
それと、あたしとシンジの関係は・・・」
アスカはここでわざとらしく一瞬言葉を区切り、マナに視線を移してニヤリと笑うと、
「フィアンセよ!!」
と言い放った。
「「「何〜〜!!!」」」
アスカの爆弾発言にそれまで固唾を飲んで見守っていたクラスが爆発したかのように騒然となる。
マナが怒りで真っ赤になった顔で何か言おうとした瞬間、アスカが妙に明るい声でその気勢を削いだ。
「・・・な〜んてね♪」
「「へ?」」
クラス中の生徒の目が再び点になる。
「こ〜んな奴、フィアンセのわけないじゃん。ただの幼馴染よ、ただの」
そう言ってパタパタと手をふって見せるアスカ。
「おさななじみ?」
半ば呆然としたまま平板な声でそう呟いたのはマナ。
「そうよ。あたしがドイツに引っ越したのが幼稚園のときだから十数年ぶりね。
まさか同じ高校の同じクラスにいるとは思わなかったけど」
妙に余裕のある態度でそう言うアスカにマナはいらだった。
「ただの幼馴染なら何でシンジに抱きついたりするのよ!」
「ドイツじゃあれくらい普通よ、普通」
「ここはドイツじゃな〜い!大体においてアンタの言ってることほんとなの?
ねえ、シンジ、あの女があんなこと言ってるけどどうなのよ?」
「あの女とは何よー」
「どうなの、シンジ?・・・シンジ?」
ここでマナはようやく気付いた。シンジがアスカに抱きつかれたときから硬直していたことに。
「ちょっとシンジ!シンジってば!」
肩を掴んだマナがシンジの体を思いっきり揺する。それでようやくシンジの意識が現実に戻ってきた。
「あ、な、何、マナ?」
「だ・か・ら〜、あの女が自分とシンジが幼馴染だって言ってるのよ!」
苛立ちをそのままシンジにぶつけるマナ。シンジはそんなマナに戸惑うばかりだ。
「え、え〜と・・・」
キョトキョトと目を動かすシンジとアスカの目が合った。
「え〜と、どこかで合ったかな?」
あまりに間抜けなシンジの言葉に思わずずっこけるクラスメート。
ただ独りアスカだけが目を吊り上げる。
「何よ〜、こんな可愛い幼馴染を忘れたって言うの!?信じらんな〜い!アスカよ、アスカ。惣流・アスカ・ラングレー!」
自分だってさっきまで気付いてなかったくせに、とケンスケは思ったのだが、賢明にも口には出さなかった。
「アスカ?・・・。・・・。・・・。」
シンジがじっとアスカの顔を見る。
なによ、そんな真剣な目で見られたら恥ずかしくなってくるじゃない・・・。
アスカがそんなことを考えていることを知ってか知らずか、アスカを見つめつづけるシンジ。
そんな状況が気に入らないマナが何か言おうとしたとき、
「あ〜、アスカ!?思い出した!」
思わずぽんと手を打つシンジ。
「ようやく思い出した?」
笑みを浮かべるアスカ。そんなアスカをマナは思わず睨みつける。
「そんな目で見ないでくれる?別にアンタからシンジをとろうとかいう訳じゃないんだからさ」
腰に手を当てたアスカがマナを睨み返す。アスカとマナの間で火花が散った。
「は〜い、そこまで」
パンパンと手を叩きながら、それまで事の成り行きを面白そうに見ていたミサトが割って入った。
「「邪魔しないでよ(ください)!!」」
アスカとマナの怒鳴り声が期せずしてユニゾンする。
しかし、妙に教師という立場が気に入っているのか、ミサト「先生」はひるまない。
「わたしももう少し見ていたかったんだけどね〜。一時間目の授業の先生がもう来ちゃってるのよね〜」
ミサトの言葉にマナ、アスカ、シンジに集中していたクラスメートがハッと振り返る。
教室の前の戸のところで痩せぎすで眼鏡をかけた中年男性教師がプルプルと拳を震わせていた。
「シンジ〜、お昼一緒に食べよ」
4時間目の授業が終わるとマナが早速右隣の席のシンジに声をかけた。
普段はシンジはトウジ・ケンスケと、マナはヒカリ達と一緒にお昼を食べているのだが。
この日は、
「シンジ〜、教科書持ってないから見せて」
「シンジ〜、消しゴム忘れちゃった。貸して」
とアスカがシンジに話しかけることが続き、マナは対抗意識を燃やしていたのだった。
「あたしも一緒に食べる」
そんなマナの神経を逆なでするようにアスカが会話に割り込んできた。
「・・・勝手にすれば」
マナがアスカを睨む。アスカはそんなマナの視線を受け流した。
「なんや、シンジ。今日は霧島と一緒に飯食うんか?」
シンジと一緒にお昼にしようと近寄ってきたトウジががっかりしたような声を出す。
ケンスケは目の前で繰り広げられていたシンジをめぐる争いを面白がってみていたのだが、
延々と続くアスカとマナの争いに嫌気が差してきて、この場を逃げ出すように購買にパンを買いに行ってしまった。
ちなみにトウジは3時間目が終わったときに速攻でパンを買ってきたようだ。
「あ、うん、そうなったみたい。・・・そうだ、トウジも一緒に食べようよ」
そう言ってシンジはマナに目配せをする。マナはシンジの意図することにすぐ気付いて、
「ヒカリも一緒に食べよ?」
こちらはマナと一緒にお昼を食べようと近づいてきていたヒカリに声をかける。
「え、うん」
トウジと一緒にお昼を食べることになったヒカリは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった。
アスカは目と目で会話するシンジとマナをどこか面白くなさそうな目で見ていた。
そんなことを話している間にケンスケもパンを買って戻ってきて結局、シンジ、マナ、トウジ、ヒカリ、ケンスケ、そしてアスカが
一緒にお昼を食べることになったのだった。
その場でアスカとヒカリは意気投合し急速に仲良くなった。
そして放課後。
「シ〜ンジ、「ネルフ」行こ」
ホームルームを終えたミサトが教室から出て行くのを待ってマナがシンジにそう声をかけた。
「あ、うん、そうだね」
教科書をカバンに詰め終わったシンジがそう言って、立ち上がる。
「な〜に、シンジ?クラブかなんかやってるの?」
シンジとマナのやりとりを耳にはさんで今度はアスカがシンジに話しかけてきた。
「うん。クラブっていうか同好会なんだけどね」
「ドウコウカイ?」
「えっと、公式には学校に認められていないクラブっていうか、同じ趣味を持ったものの集まりというか、
そういうのを同好会っていうんだ」
アスカの問いにシンジが素直に答える。アスカとの会話を始めてしまったシンジをマナが睨む。
アスカはそんなマナに気付いているのかいないのか、
「ふ〜ん。それで、シンジの同好会ってどんな同好会なの?」
ある意味でシンジが一番困る質問をした。
「え〜と・・・。「ネルフ」っていう何が目的か良くわからない同好会なんだ」
「???なにそれ???」
頭の上に?マークがいくつも浮いていそうな表情になるアスカ。
なんか、マナとの会話も最初はこんな感じだったような・・・。
ってことはもしかして・・・。
思わず、入学式翌日のマナとの会話を思い出してしまうシンジ。そして、全てはシンジの予想通りの展開を示した。
「ふ〜ん。で、シンジとシンジの彼女はその同好会に入ってるってわけね。面白そうジャン。あたしも連れてって」
アスカの言葉にシンジは自分でも理由がわからないが思わずため息をついた。
「ふーん、ここが「ネルフ」とかいうところの部室ね」
アスカはネルフ部室前で腰に手を当てて不適な笑みを浮かべた。
「何やる気になってるんだよ?」
さすがのシンジも思わず呆れたような声をあげる。
「うるさい!とにかく入るわよ!」
そう言って、アスカは部室のドアを勢いよく開けた。
次の瞬間――
「ほーら!あたしの言った通り来たでしょ〜♪」
ミサトの勝ち誇った声が部室に響き渡った。
さすがのアスカもドアを開けた格好で硬直してしまう。
素早く立ち直ったのはいいかげんミサトの行動には慣れ、さらにアスカの陰にいてミサトの声の直撃を受けなかったシンジだった。
「・・・ミサトさん。何でここにいるんです?教育実習生なんだから職員室に行かなきゃいけないんじゃないですか?」
ホームルームが終わってすぐやってきたシンジ達より早く部室に来ようと思ったらまっすぐ部室に来るしかない筈だ。
もっとも、シンジにはミサトの返事を予想できていた。そして、
「細かいことは気にしない、気にしない」
予想通りの返事が返ってきた。
「細かいことなんスかね?」
青葉がぼそっと呟いたが、ミサトの耳には届かなかったようだ。
ビシッとアスカを指差すと、
「「ネルフ」に入部するのね?するんでしょ!?するって決めた!ようこそ「ネルフ」へ!!」
と決め付けた。
さすがのアスカも呆然とするしかない。シンジはそんなアスカを見ながら、
僕もこうやって強引に入部させられたんだよな・・・。
思わず回想に耽ってしまった。
アスカが気を取り直すまでに少し時間がかかった。
「一応、入部するつもりできたんだけどねぇ・・・」
アスカは部室内を見回しながら呟いた。考え直した方がいいかも、とか考え始めたらしい。
もっともミサトが入部希望者を逃がすわけがない。
「な〜に〜?ここ迄きて逃げるの〜?シンちゃんも何か言ってやりなさいよ」
ミサトは素早くアスカの性格を見抜き、負けず嫌いであるところを突く。
「なにそれ!わ〜ったわよ。入れば良いんでしょ、入れば!!」
そして、ミサトの手の上で踊らされたアスカは同好会「ネルフ」への入部を決めたのだった。
と、不意に部室の奥のほうから淡々とした声が聞こえてきた。
「惣流・アスカ・ラングレー。12月4日生まれ。エヴァ学園高等部一年生。
父。ミハエル・フォン・ラングレー。ドイツ出身。エヴァ学園卒業生。同好会「ネルフ」OB。
母。惣流キョウコ。同じくエヴァ学園卒業生。やはり同好会「ネルフ」OB」
そう言ったのは、部室の奥でパソコンに向かっていたリツコだった。
「ちょっと!何でそんなこと知ってるのよ!?」
アスカの疑問にわずかに得意げにリツコは答えた。
「学園のホストコンピューターをハックすればこの程度の情報は簡単に引き出せるわ」
「そういう問題じゃないでしょう!何でそんなことするのよ!!」
アスカが怒るがリツコは意に介しない。
「最近、「ネルフ」の関係者にどんな連中がいるか調べたの。その中の関係者のような気がしたから」
もちろん、そんなことをやろうと思い立ったのは自分を含めて「ネルフ」OBの子供が今現在多数在籍していることがわかったからだ。
「だからって!!」
アスカがさらに何かいおうとした瞬間、レイが部室に入ってきた。そして、アスカの姿を見て立ち尽くす。
「どうしたの、レイちゃん?」
それまでアスカを面白くなさそうに見ていたマナがレイに声をかける。
すでにレイは敵ではないと見ているのかレイに対する態度は気安いものになっていた。
しかし、レイはマナの言葉に何の反応も示さず、黙ってアスカの後姿を見つめていた。
むしろ、アスカのほうがマナの声に振り返った。そして、アスカとレイの目が合う。
次の瞬間、レイがボソッと呟いた。
「何しに来たの?」
レイの言葉にその場にいた全員が首をかしげる。まるで、アスカの事を知っているかのような・・・。
「何しに来たの?」
そう繰り返すレイの声は冷たく、目はアスカに対する敵対心に燃えていた。
と、アスカが顔をしかめて一歩後退った。
「ゲッ。綾波レイ?あんた、何でここにいるのよ?」
しかし、レイはアスカの問いには答えず、睨みつけたままだ。
代わって答えたのは例によって人のいい日向だった。
「綾波さんはエヴァ学園の学生で「ネルフ」の一員だからここにいるんだけど。もしかして知り合い?」
それにはレイが答える。
「この女は昔お兄ちゃんを誘惑したの」
「シンジ君を?」
「ってそれ、いつの話よ!?幼稚園の頃の話でしょ!いつまで根に持ってるのよ!!」
レイの言葉にアスカが喚く。
「ちょっと、シンジ。どういうことよ?」
にらみ合うアスカとレイ――体勢的にレイの方が優位だったが――を横目で見ながらマナがシンジに小声で尋ねた。
その声は結構怖くて、
「あ、いや、僕は何も知らな・・・。あ」
シンジは一瞬うろたえたのだが、何かを思い出したらしい。
「どうしたの、シンジ?」
マナの声がさらに冷たくなる。シンジはごまかすこともできず、素直に白状してしまった。
「いや、その、え〜と、アスカに昔『結婚しよう』って言われたことが・・・」
「なっ!!」
大声をあげそうになったマナの口をシンジが慌てて抑える。
「だから、まだ小学校に上がる前の子供の頃の話なんだってば。今は、何もないよ」
必死で弁解するシンジ。その声が聞こえるほど近くにいたケンスケは、
まるで浮気がばれて必死に弁解する亭主みたいだな。あ、似たようのものか。
などということを考えていた。
もっとも、シンジが黙っていたことがある。それは、今朝見た夢が「そのとき」のことだったのを思い出したことだ。
『ねえ、シンジ』
『な〜に、アスカ?』
『大きくなったらあたしをシンジのお嫁さんにしてくれる?』
『アスカを?』
『そうよ』
『いいよ。アスカが僕のお嫁さんになってくれるならこんな嬉しいことはないよ』
こんなやりとりを二人はよりによってレイの目の前でやったのだった。
そして、それ以来レイはアスカを目の敵にするようになり、アスカはその鋭い攻撃にレイを苦手にするようになったのだった。
そんな間にもレイとアスカのやりとりは続いていた。
「だから〜、今はシンジのこと何とも思ってないんだったら!!」
もっとも、アスカは防戦一方だ。
「ほんと?」
レイは相変わらず冷たい目でアスカを睨んでいる。
「ほんとだったら。だいたい、今シンジの近くにいるのはあの女だからあたしに構ってないであいつを何とかしなさいよ!」
レイの攻撃を逸らそうとアスカはそう言ってマナを指差した。
レイは一瞬マナに視線を移したが、すぐにアスカに視線を戻した。
レイ自身理由はわからないが、何故かレイはマナが苦手だった。
その天真爛漫で素直に自分の気持ちを口にできるところをうらやましく思っているのかもしれない。
「な、なによ〜!?」
アスカが嫌そうに顔をしかめながらも反論しようとする。
「は〜い、それまで」
しかし、そこでミサトが間に入った。
「部員同士、仲違いしちゃダメよん。仲良く仲良くね。はい、握手。
・・・うんうん、仲のいいのはいいことよ。あっはっはっはっは」
ミサトも葛城博士に似てきたわね。
高笑いするミサトを見やってリツコは思わずため息をついた。
握手をしながらもにらみ合っているアスカとレイを見てシンジもため息をついた。
それはこれから自分の周りで起こるであろうアスカ、レイ、そしてマナの壮絶な争いを感じ取ってのことだったのかもしれない。
続く
次回予告
シンジの予想通りアスカは「ネルフ」に入部した
さらにアスカの家が喫茶店「六分儀」の隣だったことに驚きを隠せないシンジとマナ
そしてアスカは転校後最初の日曜日、シンジをお買い物の荷物持ちに連れ出す
これもいわゆる一つの初デートなのか?
そしてシンジ達を待ち受けるハプニングとは?
9時間目
「これも一つの初デート?」
この次もサービス、サービスゥ
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後書き
葛城博士「ブワッハッハッハッハ、再びコメント係として登場の葛城博士じゃ!」
ミサト「ハア(ため息)。まさかお父さんとコメント係をすることになるなんて」
葛城「良いことではないか、うんうん」
ミサト「しかし、教育実習生にしてまであたしに教師役をやらせたいのかしら?
っていうか、ようやくアスカが出てきたと思ったら、今回の話ってさあ」
葛城「もろにアレじゃな」
ミサト「パクられたってレイが怒るんじゃないかしら?」
葛城「怒ると言えばこの展開に怒るのはマナ君じゃろう」
ミサト「確かに。でも、このアスカって「今のところ」シンちゃんのこと幼馴染としか見てないようだけど?」
葛城「・・・アスカ君も怒るかもな。レイ君に一方的に押されておったし」
ミサト「みんなを敵に回すなんて作者もバカな展開にしちゃったわね〜」
葛城「・・・その作者が逃げようとしているんじゃが?」
ミサト「おっと、逃がさないわよ!!」
たっちー「た、頼む!見逃してくれ!」
ミサト「ま、アスカとマナちゃんに頭下げてみれば〜?無駄だと思うけど」
葛城「自業自得、じゃ」
たっちー「お慈悲を〜!!」
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感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構 ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。 |