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悪魔と天使と
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BY たっちー
第11話 「再会、そして別れ」
「じゃ、僕はここで」
シンジはそう言って第2新東京駅より3つ前の駅で降りていった。
「じゃ〜ね、シンジさん。絶対電話してね〜♪」
マナは動き出した電車の窓から上半身を乗り出してシンジに手を振っていた。
しかし、駅のホームが見えなくなったのを確認すると乱暴に腰をおろし、
「さて後はミサト次第・・・か」
わずかに重い口調でマナはそう呟いた。
「でも、ミサトさんが碇さんに何かできるとは思えないわ。だってミサトさんにとって碇さんは弟のようなものだって・・・。
それに・・・」
その続きを言いよどむマユミ。
「それに・・・何?」
マナはわずかに笑みを浮かべながらマユミを見つめた。
『ミサトができないんならあたしが碇シンジを殺ってあげる』
以前、あっけらかんとミサトにそう言い放ったマナだ。しかし、マユミはシンジに会ってからのマナの心境の変化に気付いていた。
「それに、シンジさんはとってもいい人よ。マナもそう思ってるんでしょう?」
シンジに好感を持ったマユミはマナが自分に同意してくれることを願った。
どんな相手だろうとできれば人を殺したくはない。しかし、マナはあっけらかんと、
「まあね。確かに悪い奴じゃないわ。「敵」でなかったら好きになってたかもね」
そう言ってみせた。マナの言葉に一瞬マユミの顔が明るくなる。しかし、続くマナの言葉にその表情が凍りつiいた。
「でも、シンジがどんなにいい奴でもシンジの力は危険。やっぱり何とかしないとネ」
さっきと同じ調子でそう言ってのけるマナ。
「何とかって、何ができるの?伊吹さんの報告は聞いてるでしょ?」
「だからこそ、何とかしなきゃいけないのよ。あの「力」は危険すぎるから」
「だからって碇さんをどうにかしようってのは・・・」
「やさしすぎるわよ、マユミ。あいつを放っておいたら世界が破滅するかもしれないのよ?」
「碇さんはそんなことしない・・・と思う」
「そうかもしれないけど、「ゼーレ」が放っておくわけ無いわ。
ん〜、そうねぇ、シンジがあたしの味方になってくれるんだったら消す必要はなくなるんだけど」
「味方にって・・・、私たちが綾波さんや惣流さん、それにケンスケさんにしたことを碇さんは許してくれるかしら?」
そう言ってマユミは隣に座っているケンスケを痛ましげに見る。ケンスケはマナとマユミの会話にも何の反応も示そない。
無表情のまま濁った目で前方を見ているだけだ。いや、その目には何も映っていないのかもしれない。
「別に許しを請う必要なんか無いのよ。要はシンジが「ゼーレ」と戦う気があるか、私達と共闘する気があるかってことよ。
手を組む気が無いなら消えてもらうだけ。
ついでに言っておけば、こんなことをやったのは赤木親子であってあたしじゃないもの」
一瞬ケンスケに視線を移してそう言うマナ。
「それって、・・・「ゲヒルン」を裏切るつもりなの?」
「あの親子は好きじゃないもの。ミサトと敵対したくは無いけどね。
それに世界を救うのが「ゲヒルン」である必要は無いでしょう?」
平然とそんなセリフをはくマナにマユミをそっとため息をついた。
確かにシンジさんが仲間になってくれれば心強いけど・・・。
碇さんが好きなのは綾波さん。惣流さんのことも気になってるらしい。
その二人、そして親友のケンスケさんをこんな目にあわせている私たちに味方してくれるのかな?
「自分がやったわけじゃない」なんて言い訳、通用するとは思えないよ、マナ。
それにそんなことしてまで「ゼーレ」を倒したとしてもそんな私たちに正義はあるの?
マナ達がシンジへの対応を話し合っていた頃、、シンジは独り神明神社に向かっていた。
そこに待ち受けているのは誰か?綾波はそこにいるのか。
シンジの足取りは重い。
この先に待ち受けるものに対する漠然とした不安。
さらには駅のホームからトウジに連絡を取ったとき、まだカヲルが帰ってきていないこと、
アスカの意識がまだ戻らないことを知らされたということもあった。
アスカの意識はこのまま戻らないのではないか――そんな不安がふと頭をよぎる。
なんでこんな目にあわなきゃいけないんだ?
この「力」のせいか?
女の子一人救えないような力なんか持っていたくなんかないよ!
シンジはやり場の無い憤りを感じながらも「敵」が指定した神明神社にたどり着いた。
重い足取りで一段一段石段を昇っていく。
そして昇りきったところで鳥居をくぐり、呼び出した相手がいるであろう拝殿の方に目をやる。
しかし、そこには誰もいなかった。周囲に人の気配も無い。
思わず、周囲を見回すシンジ。すると、
「待っていたわ」
先は誰もいなかったはずの拝殿の方から声がかかった。
慌てて振り返ったシンジの前に立っていたのは黒髪を背中まで伸ばした二十代後半と思われる美女。
「・・・待っていたわ、シンジ君」
来なければ良かったのに・・・。
何故かその女性の心の中の声がシンジには聞こえた。
「ミサトさん・・・」
シンジは言葉を続けることができなかった。
母に死なれ、父に捨てられた自分と子供の頃よく遊んでくれた葛城ミサト。
姉のように慕っていた女性。そして淡い恋心を抱いた初恋の人。
そのミサトが今目の前にいる。それもおそらくは敵として。
シンジは呆然とミサトを見ることしかできなかった。
アスカとレイをさらった相手に会ったなら言ってやりたいことは山ほどあった。
しかし、今は言葉を失って立ち尽くすだけ。
ミサトも言葉が見つからないのか、シンジを見つめるだけ。
どれくらい見詰め合っていただろう。先に口を開いたのはミサトだった。
「シンジ君は・・・、シンジ君の「力」は危険すぎるの。だから・・・、だからここで消えてもらうわ」
「僕が・・・、危険?」
「そうよ、シンジ君のその力はヒトを滅ぼすための力。だから消さなければならないの。「ゼーレ」がその力を利用する前に」
「「ゼーレ」?利用?どういうことなの?僕には全然わからないよ!」
「・・・そうね。シンジ君は何も知らないのね・・・。じゃあ、教えてあげるわ」
シンジ君と話ができるのはこれが最後だから・・・。
「「ゼーレ」は単なる巨大企業じゃないの。その組織の中心にいる連中は太古から続く狂信者の集まりなのよ。
彼らは神を降臨させてその力で堕落したヒトを滅ぼし、彼らが言うところの「浄化された」世界を支配しようとしているの。
多くの宗教で語られている最終戦争に自分達は生き残り、世界を支配できる権利があると信じきっているのよ。
そして、彼らは最終戦争を起こす力、その後の世界を支配するための力を手に入れつつあるの。
それが渚カヲルと綾波レイ、・・・そしてシンジ君」
「どういうことですか!?どうして僕達がそんな・・・」
「渚カヲルと綾波レイは彼らが「創った」天使。シンジ君は・・・、私にもわからない。
私たちが知っている「ゼーレ」の計画にシンジ君は組み込まれていなかったから」
「カヲル君たちが創られた?」
「そうよ。私も詳しくはわからないけど、俗に超能力と言われる「力」を秘めているヒトがいるの。
そして、その力を発現させた者がいわゆる超能力者ってわけよ。
もっともシンジ君たちの持っているけた違いの「力」のレベルはもはや超能力とか言えないレベルだけれど。
私たちはその「力」のもとになるものを「天使の因子」とか「使徒因子」とか呼んでいるわ。
その「力」が本当に天使由来のものなのかは私にはわからないけれどね。
そして、渚カヲルと綾波レイは人為的に「天使の因子」を組み込まれた、「使徒」となるべく創られた存在なの」
「そんなこと信じられるわけが・・・」
シンジが力ない声で否定しようとするがミサトの言葉は止まらない。
「お父さんは形而上生物学の成果だって言ってたわ。そう。その基礎理論を打ち立てたのは私の父なのよ。
そしてヒトの天使化と天使の「力」を研究していたのが惣流・キョウコ・ツェッペリン、赤城ナオコ、冬月コウゾウ、そして碇ユイ」
「母さんや冬月先生がそんなことを・・・。それに・・・、アスカのお母さん?」
「そう。そして、実際に「天使」を作り出そうと実験を繰り返したのが「ゼーレ」の幹部と碇ゲンドウなのよ」
熱に浮かされたようにしゃべるミサトにシンジは圧倒される。
人間を使っての「実験」。それがどのような行為を意味するかは若輩とは言え科学者であるシンジには容易に理解できた。
「何故、何故、そんなことを・・・」
「さっきも言ったように奴らの目的は世界の支配。そのためなら正義とか人道とかは関係ないの。
いえ、彼らにしてみれば神の教えを実践してるつもりなんだろうから自分達が「正義」なんでしょうね。
そして、そんな「ゼーレ」の野望を阻止するために「ゼーレ」を抜けた赤城ナオコ博士が作った組織が私たち「ゲヒルン」」
「ゲヒルン?」
「そう、超能力を発現させた者を中心に結成された組織よ。
そして、私たちの当面の目的が、・・・「ゼーレ」側の能力者の抹殺なの」
最後に苦しそうに顔をしかめるとミサトはシンジから目をそらした。
「それが・・・、僕やカヲル君のこと?・・・!。それじゃ、綾波は!!」
ミサトの言葉から拉致されたレイの運命に気付き、思わずシンジは叫んだ。
そんなシンジから視線を逸らしたままミサトが答える。
「彼女はまだ生きているはずよ。でも、遠からず・・・。
そしてシンジ君を消すために選ばれたのが私・・・」
そんなことはしたくない。でも、しなければ世界が終わるかもしれない。
いや、シンジ君がそんなことをするはずが無い。でも、でも・・・。
シンジの意識ににミサトの葛藤が流れ込んでくる。
「ごめんね、シンジ君」
シンジに向けられたミサトの手の中に拳銃が現れる。
その銃口がゆっくりとシンジの額に向けられた。
逃げて、シンジ君。私が撃つ前に。
誰も、「ゼーレ」の力も「ゲヒルン」の力も及ばないところへ。
しかし、シンジは動くことができなかった。
ミサトの心が流れ込んでくるが故に。
もし、僕の「力」がヒトを滅ぼすために授けられたものならそんなものはいらない。
そんなことをするくらいなら、いっそのことここでミサトさんに・・・。
静かに目を閉じ、全身の力を抜くシンジ。
一瞬の静寂。
銃声。
しかし、シンジは痛みを感じなかった。
そして誰かが倒れる音。
目を開いたシンジが見たものは倒れ伏したミサトだった。
「ミサトさん!!」
慌ててミサトに駆け寄り抱き上げる。
しかし、もはやミサトはピクリとも動かなかった。
「ミサトさん、ミサトさん!!」
シンジは必死でミサトに呼びかける。
そんなシンジの背中に声をかける者がいた。
「危なかったな、シンジ君」
背を向けたままのシンジにはその男の姿は見えないはずなのだが。
シンジはその男の姿を脳裏に浮かべることができた。
髪を無造作に後ろで縛り、無精髭を生やした男。
加持リョウジ。ゼーレ調査部主任。
そしてミサトの昔の恋人。
これまで存在さえ知らなかった男に関する情報がシンジの頭に流れ込んでくる。
「危ないところだったな、シンジ君。もう少しで殺られるところだったよ?」
笑いを含んだ声で話し掛けてくる加持。
「・・・殺されても、・・・ミサトさんになら殺されても良かったんだ」
「おいおい、自分が何を言ってるかわかってるのかい?
ま、どう思おうと勝手だが、あっさり君に死なれたのでは俺が困るのでね」
笑みを浮かべたまま、肩をすくめる加持。その態度がシンジの逆鱗に触れた。
「よくも、よくもミサトさんを!ミサトさんはあなたの恋人だったんでしょう!?」
ミサトを抱きしめたまま、シンジが振り返り叫ぶ。
「・・・昔のことさ。残念ながらこれが今の俺の仕事でね。しかし、俺とミサトの関係を知っているとは。
俺の記憶でも読んだのかい?大した「力」だな」
加持は悪びれた様子も見せず、軽く肩をすくめて見せただけだった。
「・・・ゆるさない。ゆるさない、あなたも、「ゼーレ」も、父さんも!」
シンジが叫ぶ。
そしてシンジの言葉に呼応するかのようにシンジの頭上の空気が揺らいだかと思うと、そこにゼブラ模様の球体が現れた。
加持が呆然と見上げる中、その球体の「影」が伸び加持の影と重なる。
次の瞬間、加持の足が地面に、影の中に沈みこんだ。
「う?な、なんだ!?」
それまで常に余裕のある態度を見せていた加持が初めて動揺した。
半ばパニック状態で足元に向かって銃を撃つ。
3発。
何の反応も無い。
目標を変え、シンジの頭上に浮かぶ球体を撃つ。
しかし、銃弾があたったかと思った瞬間その球体は消失し、次の瞬間、今度は加持の頭上に現れた。
加持の体はすでに腰まで沈み込んでいた。
加持は一瞬躊躇った後、暗い目で自分を見つめるシンジに銃口を向けた。
最後の一発。
しかし、その銃弾はシンジに届くことなく、シンジの前に現れた赤い光の壁に弾かれる。
「それは・・・、天使が持つというATフィールド!?。・・・やれやれ、だな」
一瞬の驚愕の後、加持は苦笑を浮かべると弾が切れた銃を放り投げた。影の中に落ちた銃がそのまま沈んでいく。
「ついてないな。「神の怒り」に触れたというところか。まぁ、それも仕方ないか。
・・・すまなかったな、葛城。こんな形でお前と決着をつけることになるとは思ってもいなかったよ。
あの世とやらであったら一緒に酒でも飲もうか。ま、お前は俺を許してくれないかもしれないけどな。
シンジ君もがんばってくれ。俺も世界が滅びるなんてことには実はあまり賛成してなかったんでね。
健闘を祈ってるよ」
その言葉を最後に「ゼーレの男」加持は笑みを浮かべたままわざとらしくおおげさな一礼すると「レリエル」に飲み込まれ、その姿を消した。
続く
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後書き
どーも、たっち―です。
暗いよ〜、重いよ〜。自分で書いておいて言うのもなんですが、どんどん話が重くなっていってしまう。
カヲルとレイちゃんの秘密が明らかになるし(まだあるんですが)、ミサトと加持はようやく登場したと思ったら即退場?だし。
特にこのままじゃ加持の扱い悪すぎるな。これじゃほとんど小悪党だよ。
めずらしくミサトもシリアスだったのに。
そういえば、マナちゃんはあいかわらず極悪だし。
まあ、ゼーレやゲンドウ、赤木親子に比べればマシだけど・・・。あ、比べる対照が間違ってるかも(^_^;
それに今回もレイもトウジもさらにはアスカさんまでまったく出番なし。
実は次回も出てこないんですが。
それでは。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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