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エヴァ学園は大騒ぎ!
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BY たっちー



9時間目 「これも一つの初デート?」







シンジ。起きてよ、シンジ。

「ん〜、もうちょっと寝かせて(ムニャムニャ)」

「ちょっと、シンジ」

「ん、もうちょっと、もうちょっとだけ・・・」

もう、しょうがないな。
でも、シンジの寝顔って可愛い。

「え〜、そうかな〜(ムニャムニャ)」

キスしちゃおっかな?

「え、マナ、ちょっと、恥ずかしいよ」

「な〜にが、『マナ、ちょっと、恥ずかしいよ』よ!!」

その声とともに掛け布団がすごい勢いで剥ぎ取られた。
惰眠をむさぼっていたシンジもさすがに目を覚ます。

「え、ア、アスカ!?」

シンジが周囲を見回すと枕もとに立っているのはアスカ。
マナの姿はない。どうやら、マナの声は夢の中のものだったらしい。

「ま〜ったく、彼女の夢を見てるとは幸せな奴ね。でも、日曜日だからっていつまで寝て・・・」

そこで急にアスカの言葉が途切れた。
不審に思ったシンジがアスカの視線を追うとそこは見事なテントを張った自分の股間だったりする。

「キャー!!エッチ!バカ!ヘンタイ!信じらんな〜い!!」

パッチ〜ン!!

次の瞬間、シンジは顔を真っ赤に染めたアスカの強烈なビンタを喰らった。

「仕方ないだろ、朝なんだから!それに大体なんでアスカが僕の部屋にいるんだよ!?」

手形の付いた頬を抑えながらシンジが反論する。

「うっさ〜い!!とにかく、あたしは出てるからさっさと着替えて起きてくること。いいわね!」

そう言い捨ててアスカはシンジの部屋を出て行った。

「まったく、なんなんだよ、いったい・・・」

枕もとの時計に目を移すと時刻はすでに午前9時。
ブツブツと文句を言いながらもシンジはパジャマから普段着に着替えてリビングに下りていった。
リビングにはアスカとゲンドウがいた。ゲンドウは例によって新聞を読んでいて、その表情は見えない。
ユイはキッチンで洗い物をしているようだ。と、そのユイの声がキッチンから聞こえてきた。

「ほら、シンジ、さっさと顔洗ってご飯食べなさい。せっかく、アスカちゃんが迎えにきてくれたんだから。
 ゲンドウさん、あなたもいいかげん新聞を読むのはやめてお店の準備をしてくださいね」

「ああ、わかってるよ、ユイ」

そう答えながらもゲンドウは新聞から目を離さない。まあ、いつものことなのでシンジは大して気にも止めなかった。
それより、母の言葉の方が気になった。

「迎えにって?」

シンジにはアスカが自分の家に来ている理由がわからなかった。ユイがアスカが来るのは当然という態度を取ってい
る事も理解できない。
それに迎えに来たと言うが、今日は日曜日。別に外出する予定は無い。もちろんアスカとの約束など無い。
まあ、アスカが引っ越してきた家は先日引越しセンターのトラックが停まっていたところ、つまりはシンジの家の隣のわ
けで、シンジの母ユイとアスカの母キョウコが古くからの友人ということであればアスカがこうして遊びにきていても不
思議ではないのだが。

「えっとね、アスカちゃんがお買い物に行くのにシンジに付き合ってほしいんですって」

シンジの前にご飯と味噌汁、焼き魚を置きながらユイがそう答えた。

「ふ〜ん。いただきます」

気の無い返事をしてご飯を食べ始めるシンジだった。



シンジがもそもそと朝食を食べていると、

「シンジ、今日ヒマよね?」

いつのまにか向かいの席に座ったアスカがそう尋ねてきた。尋ねると言うよりは既定の事実を確認しているような感じ
だった。

「え、うん、まあ」

シンジの曖昧な返事を無視してアスカは話を続ける。

「じゃあさ、ちょっと買い物に付き合いなさいよね。引っ越してきたばっかりでいろいろと足りないものがあるからさ」

「あ、うん、いいよ」

特に深く考えることもなくあっさり請合うシンジ。
シンジが食べ終えるまでアスカはユイが入れたお茶を飲みながらシンジにいろいろと話しかけていた。


「「それじゃ、いってきま〜す」」

シンジとアスカがそろってお買い物に出て行くと、

「あの二人、仲がいいわね」

見送ったユイがゲンドウに話しかける。

「ああ、そうだな」

ゲンドウ、やはり新聞から目を離さない。

「でも、いいのかしらねえ?」

「む?」

「マナちゃんっていう彼女がいるのにアスカちゃんと二人きりで出かけちゃって」

口ではそう言いながらも全然心配しているようには見えないユイ。

「フ、問題ない」

ゲンドウのこの発言はあるいはやぶ蛇だったかもしれない。ユイは表面上はにこやかに、

「そうね。あなたも昔は私とナオコさんの二股かけてた時期がありましたものね」

一瞬、ユイに顔を向けたゲンドウだったが慌てて新聞に顔を伏せる。

「そ、そんなこともあったかな?」

そういうゲンドウの声は震えていた。新聞を持つ手も。
こういうときのユイの笑顔ほど怖いものは無いのだ、と後にゲンドウは冬月に語ったという。




「それでアスカ。今日は何を買うつもりなの?」

「え〜と、いろいろ♪」

一方こちらはショッピングに向かうアスカとシンジ。
どうやら、アスカはお買い物が大好きらしい。上機嫌で今にもスキップしそうなほどだ。

アスカ、楽しそうだな。

シンジもそんなアスカを見て思わず微笑んでいた。

しかし、そのまま楽しくショッピングに行けるわけがなかった。
まず、二人の前に立ちはだかったのは綾波レイ。

突然目の前に現れたレイの姿にアスカの頬が引きつる。

「・・・お兄ちゃんをどこに連れて行くつもり?」

レイの静かな、それでいて怒りが篭もっている声にアスカは一歩後退った。
もちろん偶然会ったわけではない。かつてミサトがシンジの持ち物(カバン、携帯、etc、etc)にしかけた盗聴機はまだ
生きており、レイはそれでシンジの行動を見張っていたのだ。もちろん、シンジは自分の行動が監視されていることに
は未だに気付いていない。

「いや、あの、ちょっとお買い物に付き合ってもらうだけなんだけど・・・」

普段の強気な態度は影を潜め、どことなく気弱な態度でレイの質問に答えるアスカ。

「独りで行けばいいのに何故お兄ちゃんを連れ出したの?・・・やっぱりお兄ちゃんを誘惑するつもりなのね」

「そ、そんなわけ無いでしょう!?た、ただの荷物持ちよ、荷物持ち」

どもりながらも必死で反論する。しかし、

「どうしてそんなことでお兄ちゃんを連れ出すの?お兄ちゃんはあなたの下僕じゃないわ」

レイの言葉に絶句してしまう。

別に下僕とかそんなつもりじゃ・・・。なんでそんな風に受け取るわけぇ〜〜!?

ここでようやくそれまでおろおろとレイとアスカのやりとりを見ていたシンジが口をはさむ。

「レイ、そんなこと言っちゃ駄目だよ。アスカも日本に帰ってきたばかりで知り合いも少ないんだから。
 幼馴染としてできるだけ助けてあげなきゃ」

シンジの言葉にレイはしぶしぶ頷いた。しかし、

「・・・それなら、私も一緒に行くわ」

レイのその発言にアスカは心の底から嫌そうな顔をした。しかし、

「そうだね。それじゃ、一緒に行こうか」

シンジにそう言われてはしぶしぶ頷くしかなかった。


そんなこんなで再びデパートに向かう3人。
楽しそうに話しながら(楽しそうにというのはあくまでシンジの主観に過ぎないのだが)歩く3人を目撃した者があった。
それはシンジの家に遊びに行くつもりでいた2バカ、トウジとケンスケである。

「おい、トウジ、隠れろ」

「なんや、ケンスケ?おや?あれは・・・、シンジと惣流と綾波やな」

「もしかしてデートなのか?」

「デートなら3人いう事はないやろ?それにシンジには霧島がおるやんか。シンジは浮気するタイプやないと思うんや
 けどな」

「いや、この一週間の様子を見てるとそれはどうかな」

「・・・そやな」

アスカが転校してきてからというもの、シンジとマナの仲は必ずしも上手くいっていなかった。
アスカが盛んにシンジに話し掛け、シンジもアスカの話に付き合ってしまうからだ。
話の内容を聞いていると実に他愛無い話で、周囲が考えるような仲ではないのだが。
例えそうだとわかっていても自分の彼氏が他の女子――しかもかなりの美人――と親しげに話しているのはマナでな
くても気持ちのいいことではないだろう。
その結果、マナの機嫌は常に悪く、シンジに対する態度もきついものになっていた。
そんなマナ、アスカ、シンジの様子をトウジ、ケンスケ、ヒカリは心配していたのだが。

「どないする、ケンスケ?」

「ほっとくわけにもいかないだろ?とりあえず、後をつけようぜ」

「そやな」

さらに――

「おや、あれはシンジ君じゃないか?」

「そうみたいね」

駅ビル内の大型デパート――シンジがマナとのデートで行った所だ――に行くことにしたシンジたちを見かけたのは、
加持とリツコだった。

「隣にいる娘はレイちゃんと・・・、もう一人は知らないな。結構可愛い娘だが」

「最近転校してきて「ネルフ」に入った娘よ。シンジ君の同級生でシンジ君とレイの幼馴染の惣流・アスカ・ラングレー」

「ほぉ・・・。しかし、二股とは・・・、いや二股どころじゃないか。シンジ君もやるな」

「加持君ほどではないでしょう?」

「ははは、まいったな」

おもわず頭を掻く加持。
彼は先日浮気がばれてミサトに口も利いてもらえない状態にあった。
いや口を利いてもらえないどころでは無い。顔を合わせるたびに言い訳するヒマも無く即座に殲滅されていたのだ。
この日はミサトとの仲を仲裁してもらおうと共通の友人であるリツコを呼び出したところだった。

「で、どうするの?」

「ほっとくわけにもいかないだろ?相手の娘にも興味あるしな」

この男は結局それか。ミサトもなんでこんなのがいいのかしらねぇ?

ため息をつきながらも加持とともにシンジの尾行を始めるリツコだった。



自分達を尾行する二組にも気付かず、シンジ達はデパートに到着した。

「どこから行こうか?」

「とりあえず夏服ね。こっちはドイツより暑いって話だし」

「わかった。それじゃこっちだ」

そして、アスカが選んだのはかなりラフなものばかり数点。
特にタンクトップやホットパンツが目立つ。
アスカがお買い物に満足するころにはちょうどお昼時になっていた。
とりあえず、何か食べようということになり、駅ビル内の適当な店に入るシンジ達。

「そういえば、アスカ。ずいぶんラフなものばかり買ってたような気がするんだけど?」

女性用品売り場ということで居心地が悪くてその場では何も言わなかったシンジだが、アスカの買った服が多少気に
はなっていたらしい。
注文して店員がメニューを持って立ち去るとさっそくアスカにそんなことを尋ねた。

「まあ、半分は部屋着だからね〜。ところで、あんたにそんな文句言われる筋合いは無いと思うんけど?」

「いや、別に文句を言ってるわけじゃないんだけど・・・。ただ、アスカってもっとオシャレなものを買いそうな気がしてた
 からさ」

「そういうのはドイツにいたときから結構持ってるから。それに学校に行くのにそんなオシャレな服ばっか着てくのもバ
 カみたいじゃん。ま、そこまでしたくなるほどのかっこいい奴でもいれば別だけどさ。
 あのクラスって大したのいないじゃない。なんせ、シンジが一番マシに見えるくらいだもんね」

アスカの言葉に対して敏感に反応したのはレイだった。

「・・・やっぱりそういう目でお兄ちゃんを見ていたのね」

一瞬、レイの発言の意味がわからなかったアスカだが、次の瞬間、自分の発言の不味さに気付いた。

他の連中に聞かれるならまだしもレイの前で今の発言はやばかった。
普通なら先ほどのアスカの発言で「アスカはシンジのことが好きだ」とは受け取らないだろう。
まあ、ケンスケやミサトならからかいのネタくらいにはするかもしれないが。
しかし、「お兄ちゃんに言い寄る女」としてアスカを敵視するレイの前で今みたいな発言をすると・・・。

アスカが冷や汗を流している一方シンジはお気楽にも、

そうかな〜。僕よりかっこいい男子って結構いると思うけどな。トウジとかもある意味「いい漢」だと思うんだけど・・・。
まあ、さすがに僕もケンスケには負けてないと思うけどね。

などと考えていた。

「そ、それでシンジと霧島さんの仲は最近どうなのよ?」

やはりレイに攻撃されるのは嫌なのでなんとか話題を換えて逃れようとするアスカ。

「え?あ、いやそれはその・・・」

いきなり話を振られたシンジだが、にわかに表情が暗くなる。

「なんかさ、最近マナの機嫌が悪いんだ。どうしてだと思う?」

「さあ?あたしに訊かれてもね〜。何か機嫌損ねるようなことでも言っちゃったんじゃないの?」

本気でマナの心情に気付いていないとしか思えないシンジとアスカのやりとりにさすがのレイもあきれ返った。

あなた達が仲良くしているから怒ってるのに気付かないの?

レイは何か馬鹿馬鹿しくなって席を立った。

「あれ?レイ、どこ行くの?」

「トイレ」



「どうや、ケンスケ?何か聞こえるか?」

「いや、よく聞こえないな。こんなときに限ってリツコさん特製の超高性能集音マイクを忘れちゃったしな」

こちらはシンジ達をつけているトウジとケンスケ。
とりあえずシンジ達からは死角にある席に落ち着き3人の様子をうかがっているのだが。

「綾波がいないときにあの二人がどういう会話をしてるのかが重要なんだがな・・・」

ケンスケは思わずそんなことを呟いたが・・・。
このときアスカがシンジに何を話していたかといえばレイに対する愚痴のオンパレードだったりする。
さて、何とかシンジ達の会話を聞き取ろうと必死になっているトウジたちは当然周囲に対する注意が散漫になっていた
りするわけで。

「・・・何やってるの?」

いきなり後ろから声をかけられて2バカは飛び上がらんばかりに驚いた。
おそるおそる振り返るとそこにいたのは案の定というべきか、レイだ。

「何やってるの?」

例によって無表情で繰り返し尋ねるレイにケンスケが狼狽しながらも弁解を試みる。

「お、俺達は二人で遊びに来ただけだ。たまたまシンジの姿を見かけたんで何をやってるのかな〜、と」

「・・・そう。わたし達を尾行していたのね」

ケンスケの言い訳などまったく無視して真実を言い当てるレイ。

「わかっとるんやったらはじめから訊くな・・・」

トウジのぼやきも無視してレイは言葉を続ける。

「私に協力してもらうわ」

「へ?」

唐突なレイの言葉にトウジとケンスケはきょとんとした表情になる。
レイの考えに先に気付いたのはやはりというべきかケンスケだった。

「つまり、シンジと惣流の邪魔をしろ、ということか?」

こくん、とレイが頷く。

「いや、ワイはそういう真似は好きやない」

トウジは拒否したが、

「そう。「写真」のこと、洞木さんやアスカに話してもいいのね?」

レイはケンスケが今も続けている隠し撮りをネタに二人に協力を迫った。
隠し撮りのことがばれたりすれば写真が売れなくなるだけではすまないだろう。
綾波の言葉にケンスケは高くなりそうになる声を抑えるのに苦労しながら答えた。

「ま、待て、綾波。わかった。お前に協力するからそれだけは勘弁してくれ」

頭を下げて頼み込むケンスケにトウジは呆れた。

「なんや、ケンスケ。お前、まだそんなことやっとったんか」

トウジも中学生のときはケンスケと組んで隠し撮りした写真を売っては小遣いを稼いでいたのだが。
それがヒカリにばれてこっぴどく叱られたことがあった。
しかもヒカリは先生達には黙っていてくれたのだ。それ以来、トウジは写真の密売からは手を引いた。

「とにかくワイはこの件からは降ろさせてもらうわ。
 浮気やとか二股やとかいうことは嫌いやからシンジには後でガツンと言うたるつもりやけどな。
 もちろんコソコソと後つけ回し取ったこと謝ってからな」

トウジはそう言うとその場から去っていった。

ト、トウジ、俺を置いていかないでくれ・・・。

その後姿を呆然と見送ったケンスケだが、レイの視線がまだ自分に突き刺さっていることには気付いていた。

くそ!それもこれもシンジのせいだ!シンジが浮気なんかするのが悪いんだ!シンジが俺よりもてるのがいけないん
だ!

責任をシンジに転嫁したケンスケは綾波に向き直ると気持ち悪くなるほどさわやかな笑みを浮かべた。

「で、俺は何をすればいい?」





なんだかんだで昼食を食べ終わったシンジ達はデパート内をぶらぶらと歩いていた。
買いたいものはほぼ買い終えたアスカだったが、せっかくのお買い物だ。

荷物は全部シンジが持ってくれてるし、こんな楽しく過ごしたのはいつ以来かな?
これでレイさえいなければ最高なんだけど。

そんなことを考えているアスカの目がとある場所に止まった。

「あ〜!!」

デパートのフロアにアスカの嬉しそうな声が響いた。

「どうしたの?」

「ねえねえ、あのワンピース、素敵だと思わない?」

アスカが指差したのは壁に飾られている胸元にリボンをあしらったグリーンのワンピース。

「え?あ、うん、そうだね。アスカに似合うかも」

ほんとに似合うかどうかなどセンスの無いシンジには想像もつかなかったが、なんとなくアスカが喜びそうなことを言っ
てみたりする。女の子が喜びそうなことを何気なく言葉にできるようになったのはマナの教育の賜物か?
それとも今でもネルフに顔を出す加持の影響か?

「やっぱりそう思うでしょ?それじゃ、行くわよ!」

「行くわよって・・・。わ、アスカ、引っ張らないでよ!」

シンジはそのままアスカにそのワンピースが飾られている一角へと引きずられて行った。


二人がいなくなった後にはレイが一人、ポツンと立ち尽くしていた。
普段ならば即座にシンジの手を掴んだアスカの邪魔をしていただろう。

しかし、このときはケンスケという手駒を得た油断からか一瞬反応が遅れた。
そして、レイが手を出すひまも無くシンジは引きずられていってしまった。
二人の後姿を無表情で見ていたレイだったが、しばらくしてようやくシンジ達の後を追っていく。

「どう、シンジ?似合う?」

レイが二人に追いついたときにはアスカはもう件のワンピースを手にとり自分の身体に当ててシンジに見せたりしてい
た。

「う、うん。似合うと思うよ」

あまりのアスカのはしゃぎぶりに思わず一歩引くシンジ。それでもアスカの機嫌を損ねないよう相槌を打つ。
そこに横からレイが口をはさんだ。

「でも、アスカにはきつ過ぎるんじゃないかしら?この辺が」

クスクス笑いながらそう言って自分の腰のあたりを摘んでみせる。

「な!?何言ってんのよ!スタイル抜群のこのアタシに向かって!
 ・・・そうだ。そこまで言うんだったら試着して見せてあげるから待ってなさい!!シンジもそこで待ってんのよ!!」

そう言うとアスカは返事も聞かず、試着室に入ってしまった。

「あ〜あ、アスカ怒ってるよ。レイ、何でいつもアスカを眼の敵にするのさ?」

アスカの機嫌が悪くなったのを見てシンジは思わずため息をついた。
とりあえず両手に下げていた紙袋を床に下ろしてアスカが出てくるのを待つ体勢に入る。

「だって、敵だもの」

そんなシンジの嘆きなど意に介さず淡々とそう答えるレイ。
もっとも心の中では別のことを考えていた。

ここまでは計画通り。後はあのヘンタイオタクが計画通りの行動をとってくれれば・・・。クスクス。

そう、ケンスケはシンジ達の後を追ってきていた。
リツコ発明の「変身スーツ改Ver.2.0」をステルスモードにして。つまり、周囲から彼の姿は見えなくなっているわけ。
そんな真似ができるなら初めからそうすればいいと思うのだが、トウジという相棒がいては自分だけ姿を隠しても意味
が無いと思ったのだろう。そして、レイとケンスケが極短い間に打ち合わせた計画、それはアスカの隙を突いてケンス
ケがシンジを拉致、レイが、

『お兄ちゃんはあなたの自分勝手な行動に呆れて帰ってしまったわ』

とアスカに言い放つことで二人の仲を悪くしようというものだった。
そして、アスカは今、試着室の中。シンジを拉致するには絶好の機会といえた。

クックック、シンジ。お前ばっかりもてるからいけないんだ。俺を恨むな。

気味の悪い笑みを浮かべて――透明になってるから誰にも見えないが――じりじりとシンジに近づくケンスケ。
しかし、彼はもう一組の尾行者のことを忘れていた。いや、気付いていなかった。
その尾行者――リツコと加持はさすがにケンスケ達のようにレイに見つかるような真似はしなかった。
シンジたちとは適当に距離を取り、時には先回りして巧みに後をつけてきていた。

「相田君たちの姿が消えたな」

もちろん、この二人はトウジとケンスケがシンジ達を尾行していることにも気付いていたわけで。

「シンジ君たちに巻かれた・・・わけがないな。全然気付いてなかったようだし」

独り言を呟いているかのように装ってリツコに話し掛ける加持だが、リツコはそんな加持を完全に無視していた。
そんな状態がずっと続いていたのだが、アスカが試着室に入ったのと時を同じくして突然リツコが立ち止まり懐から携
帯電話のようなものを取り出し、何やら操作し始める。

「リッちゃん、それはなんだい?」

この質問にはリツコも答える。

「まあ言ってみれば一種のレーダーみたいな物よ。
 いろいろな機能があるのだけど今は近くに私の発明品が存在していると知らせてくれたわけ」

本人は淡々と説明しているつもりなのかもしれないが、自分の発明を自慢しているような響きが含まれていた。

「何でそんなもの作ったんだ?」

加持はふと思い浮かんだ疑問を口にする。それに対するリツコの答えは、

「だって、とんでもなく危険なものもあるもの。そんな危険なものの接近に気付かないでいる状況なんて考えただけで
 もゾッとするわ」

だった。

自分でも近づきたくないような危険なものを作るな。

そう言いかけて加持は慌てて口を押さえた。自分の発明品について少しでも批判めいたことを言われたらリツコがど
んな反応を示すか。
付き合いが長い加持には嫌になるほどよくわかっていた。

「さて、私の可愛い子猫ちゃんはどこにいるのかしらね」

加持の反応を無視してリツコはそんなことを呟きながら手元の装置の操作に集中する。

「おや、この反応は・・・」

そんな独り言をもらすとリツコは胸ポケットからサングラスをとりだした。

「ウフフ、見つけたわよ」

サングラスをかけて周囲を見回していたリツコはある方向に視線を向けるとそう呟き、肩にかけていた筒状の物を降ろ
すと筒先をそちらに向けてかまえた。どうやら、リツコが取り出したものはただのサングラスではないらしい。そして、銃
か何かのように構えられた筒。
加持はその形状からその筒は丸めた設計図か何かを運ぶためのケースだと思い込んでいたのだが、この様子を見る
とどうやら違うらしい。
そして、加持はあることに気付いた。リツコが筒先を向けた先。そこにはシンジがボーっと立っていた。
何やら危険な雰囲気に思わず逃げたくなった加持だが、勝手に走り出しそうになる足を懸命に押さえながら震える声
でリツコに尋ねる。

「どうしたんだ?何があった?」

「相田君がいるのよ。私の発明品「変身スーツ改Ver.2.0」で姿を隠してね。じわじわと試着室に近づいていってるわ。
 覗きをするつもりね。私の発明品をそんなチンケな犯罪に使うなんて許せないわ。制裁を加えないとね」

そう言うリツコの顔には実にマッドな笑いが浮かべられているわけで。

本当は手に持っている発明品を試したいだけだろう?

加持のそんな内心の呟きが聞こえたかのようにリツコは勝手に自分の持つ発明品の解説を始めた。

「加持君、これはね、超小型リニアレールガンの開発のために作ったモックなの。加速用の円環部はついてないけど
 ね。本物程の威力はもちろん無いけど、こんなこともあろうかと弾を発射できるようにはしておいたのよ、ウフフ」

「お、おい、こんなところでヒトを撃ったりしたらやばいだろう!?」

加持のあせりまくる声にリツコは楽しそうに答える。

「大丈夫よ。弾は軟式野球のボールだから。たぶん(残念ながら)死なないわ」

ピントのずれた返事をしてリツコは無造作に(加持には見えない)ケンスケに向けてボールを撃ち出した。
もっとも自分の行為がどのような結果を生み出すかなどリツコは考えてもいなかった。
ケンスケはまさにシンジに掴みかかろうとしていたのだがリツコには標的のケンスケしか見えておらず、シンジの姿は
視界に入っていなかった。そして撃ち出されたボールの破壊力はリツコの計算以上であり、後頭部を一撃されて弾き
飛ばされたケンスケはその延長線上にいたシンジに激突、ケンスケに突き飛ばされた形になったシンジはさらにその
延長線上に存在していた試着室へと。そしてその試着室の中には――

「キャーーーーーーーー!!!!!」

今まさにワンピースを試着しようと服を脱いだアスカがいたわけで。
シンジは試着室のカーテンを引きちぎり、下着姿のアスカを押し倒してその上に覆い被さってしまった。

「キャー!!エッチ!バカ!ヘンタイ!信じらんな〜い!!」

パッチ〜ン!!

次の瞬間、シンジは顔を真っ赤に染めたアスカの強烈なビンタを喰らった。
もっとも、幸か不幸かシンジは試着室に飛び込んだ時点で気を失っていたのだが。





「いいかげん許してよ、アスカ〜」

両手にアスカの買った衣類その他の入った紙袋を下げ、両頬にくっきりと手形の跡をつけたシンジが3歩前を行くアス
カに情けない声をかけた。
結局、意識を取り戻したところでもう一発ビンタを喰らい、さらに件のワンピースはシンジが代金を払うことになってしま
ったわけだが、それだけでアスカの機嫌が直るわけも無かった。

「だから、あれは誰かに突き飛ばされたんだってば」

シンジがいいかげん飽きてきたとわかる口調で弁解を繰り返す。意識が戻ってデパートを出てくるまで何度も繰り返し
てきた言葉だ。それに対し、アスカも繰り返してきた返事を返す。

「だ〜か〜ら〜、あんたを突き飛ばした奴の姿なんて無かったじゃないの!!」

確かにケンスケはステルス状態でいたわけだからその姿が見えるわけも無い。
どうでもいいことだが、シンジと激突した時点で気絶していたケンスケはどうなったかというと。
そのまま放っておくわけにも行かないので加持とリツコが回収していたりする。
といっても抱えていても邪魔なだけのでデパート裏の路地に放り出して捨てて行ったのだが。
もちろん加持たちはシンジたちの尾行を続行していた。

さて、アスカとシンジの言い争いを黙って見ているレイはというと、

計画通りとは行かなかったけれど、この二人の仲は悪くなったみたいだから良しとしましょう。

などと考えていた。
そんなレイの考えなど気付くはずもなく、アスカとシンジはなおも言い争う。

「でも・・・」

なおも言い募るシンジにくるりと振り向いたアスカが指を突きつける。

「あ〜、うっさい!!いつまでもうだうだ言ってんじゃないわよ!アタシの裸が見たかったんでしょ!?
 あきらめて認めなさいよ!!」

「だから、突き飛ばされたんだってば!それに試着室に飛び込む前に意識がなくなってたからアスカの裸は見てない
 よ!!」

「なんですって〜!?アタシの裸なんか見たくもないって言うの〜〜!!」

「そんなこと言ってないだろ!!」

「なら、見たかったって認めなさいよ!!」

「だから、それは違うって・・・」

「なんですって〜!?やっぱりアタシの裸なんか見たくもないって言うの〜〜!!」

「そんなこと言ってないだろ!!・・・って、なんでそういう話になるの?」

急に冷静になったシンジの一言にアスカは直前の自分の発言を思い返してみる。

『あたしの裸なんか見たくもないって言うの〜〜!!』

ボンッ。

アスカの顔が瞬時に真っ赤に染まった。

べ、別に見てもらいたいわけじゃないわよ!!

何か言い返そうとするが適当な言葉が見つからない。

「あ、え、えと、あの、あんたバカ〜!?」

「何だよ、それ!」

「だ、だから、その、あんたバカ〜!?」

そう言って、プイッと横を向く。このままシンジと向き合っていることが恥ずかしかったからだ。
と、そのアスカの目がとある人影を捉えた。

「ねえ、あれってミサトじゃない?」

シンジから視線を逸らしたアスカの目に留まったのは細い路地からフラフラとでてくる二人組だった。
二人とも足元がおぼつかない、というよりは泥酔状態の女性を、肩を貸した男性が懸命に支えているといった感じだ。

なし崩し的に休戦したシンジ達が呆然と見守る中、その女性――葛城ミサトは酔っ払い特有の大声で喚き始めた。

「加持の大バカヤロー!!あんの浮気ものがーー!!!」

「ちょ、ちょっと葛城さん。おちついてくださいよ。もう日は高く上ってるんですよ!!」

そんなミサトに肩を貸した日向が懸命になだめる。

なんで、こんなことになったんだ、トホホ。

思わず心の中で嘆く日向マコト。ミサトに誘われて喜んで飲みにでたとき(土曜日の夕方)は青葉シゲルと伊吹マヤも
一緒だった。しかし、自棄酒をあおり喚き始めたミサトの様子に青葉とマヤは早々に逃げ出していた。
日向もさすがにこのミサトからは逃げたかったのだが、他の二人が先に逃げ出したことで逃げるに逃げられなくなって
今に至っている。

うう、徹夜どころか、翌日の昼過ぎまで呑みつづけることになるとはな〜。
あの店のマスターも閉めたがってたのに葛城さんが閉めさせないんだものな。
もう、あそこには行けないな。結構気に入ってたのに。

「ミサトさん、もう、朝どころか昼なんですよ〜」

「それがどうしたー!あのバカは昼だろうと夜だろうと関係なく女を口説きまわってるのよー!!」

「だ、だから、もう少し声を落してくださいよ。みんなジロジロ見てるじゃないですか〜〜」

もちろん、そんな声はシンジ達をつけていた加持とリツコにも聞こえていたわけで。

「・・・無様ね」

「悪ぃ。リッちゃん、俺逃げるわ」

酒徒化したミサトの怖さを誰よりも知っている加持は一言そう言ってその場から走り去ろうとした。
しかし、不幸にも彼の判断は一瞬遅かった。

「あ〜〜〜!!!加持〜〜!!!こんなところでリツコと何してんのよ!この浮気ものが〜〜〜!!!」

加持の姿を見つけたミサトは日向を突き飛ばし、先ほどまでの足取りからは想像もできない速さで一瞬の内に加持と
の距離を詰める。

「この〜〜〜!!!」

ドゴッ!!

鈍い音とともにミサトの掌底がみごとに加持の鳩尾に決まった。

「ぐえっ」

一言うめいて加持の体が崩れ落ちる。そんな加持の襟首を掴んだミサトの首だけがくるりと動いてシンジ達を視界に
捕らえる。その爬虫類じみた動きに恐怖して動けなくなるシンジ、アスカ、そしてレイ。
アスカはドイツで友人に見せられた古いホラー映画「エクソシスト」を思わず思い出してしまった。

「シンちゃ〜ん?何してるのかしら〜?」

「え、えーと、アスカのお買い物の荷物持ちに・・・」

震える声で答えるシンジ。

逃げなきゃ駄目だ、逃げなきゃ駄目だ、逃げなきゃ駄目だ、逃げなきゃ駄目だ、逃げなきゃ駄目だ・・・。

心の中で繰り返し呟くシンジ。言ってみればライオンに遭遇したインパラの心境とでもいうか。
しかし、シンジの意思に反して硬直した足は動かない。まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
そしてシンジの発した言葉はアルコール漬けのミサトの脳にはこう伝わった。

『アスカと二人で楽しくデートしてたんです』

「シンちゃ〜ん!浮気は駄目なのよ〜!!」

う、浮気って、別にそんなつもりは・・・。

もはや恐怖のあまり声も出せなくなったシンジ。
例え声が出ても無駄だったとは思うが・・・。

ピクリとも動かなくなった加持の身体をズルズルと引きずりながらミサトはシンジに近づくとその左耳をつねり上げた。

「い、痛いですよ、ミサトさん!!」

あまりの痛みに硬直が解け、シンジは思わず声をあげた。
しかし、ミサトはその手を離そうとはしなかった。

「シンちゃ〜ん?浮気は駄目なのよ〜?」

「う、浮気ってそんなつもりは・・・」

「言い訳無用!!ほら、シンちゃん、行くわよ!」

「行くわよって、痛た、どこに行くんですか!?」

「もちろん、マナちゃんのところよ!きっちり、説明してもらいますからね!」

そうしてミサトはシンジを連行していった。片手で加持を引きずりながら。
なお耳をひっぱられながらもシンジは両手に下げた紙袋を手放そうとはしなかったことを付け加えておく。



そして、シンジと加持がミサトに連行されていった後には女性3人と男一人が呆然と立ち尽くしていた。

「・・・何なのよ、いったい?」

「・・・(お兄ちゃんとアスカのデートは阻止できたわ。でも何か違う気がする)」

「・・・あれが酒徒・・・」

「・・・無様ね」







続く


次回予告

エヴァ学園の恒例行事の一つ「クラス対抗球技大会」
マナはシンジとペアでテニスの混合ダブルスにエントリーしようと企てる
しかし、それに待ったをかける存在が
「霧島のパートナーには俺の方がふさわしい!」
そう言いきる男の正体とは?シンジに恋のライバルの登場か?
そして、アスカはどう動く?

10時間目

「球技大会で一騒ぎ」

次もサービスしちゃうわよん


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後書き

ミサト「シンちゃ〜ん、浮気は駄目なのよ〜〜!!!」
リツコ「ミサト、あなたまだ酔ってるの?」
ミサト「何よ〜、何か文句ある?加持が悪いのよ、加持が!」
リツコ「だからってシンジ君にあたるのは・・・」
ミサト「うるさ〜い!浮気してる点ではシンちゃんも加持と同罪よ!!」
リツコ「シンジ君にそういう意識は無いんじゃないの?それにシンジ君とマナちゃんの仲ってなんか曖昧なのよね」
ミサト「どこが?どう見ても付き合ってるように見えるけど?」
リツコ「それにミサト、あなた前回はアスカとマナちゃんの争いを煽ってたような気がするんだけど?」
ミサト「浮気は駄目なのよ、浮気は」
リツコ「・・・自分が浮気されたからってシンジ君に八つ当たりするなんて。はっきり言って無様ね」
ミサト「よ、余計なお世話よ!!」


どーも、たっちーです。
アスカとシンジをデートさせるつもりが・・・。何故こんな風になってしまったのでしょう?
最初は普通にデートさせるつもりだったんですよ。
ところが書き始めた途端、レイちゃんが「そんなの認めない」とか言ってくるし。
ミサトはいつのまにか加持に浮気されたと見えて「シンちゃ〜ん、浮気は駄目なのよ〜!!」とか喚いてるし。
ストーリーが私の手を離れて暴走してしまいました。
シンジとマナが付き合っていることは何時の間にか既成事実になってしまっているし。状況はアスカさん極めて不利。
もっとも今回はマナちゃんはシンジ君の夢にしか登場しませんでしたが。
次回はマナちゃん出ます。
しかしこのままではLMSのまま終わってしまいますね。なんとかせねば。

それでは。

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マナ:人の旦那を寝取るなんて、いい度胸してるじゃない。

アスカ:な、なんて表現するのよっ。

マナ:やってることは同じでしょっ!(怒)

アスカ:シンジがアタシに惹かれるのは仕方ないことなのよ。

マナ:なにが仕方ないってのっ。

アスカ:女の魅力の差って、やつかしらん?

マナ:とうとうあなたは、マナちゃんを本気で怒らせたわ。

アスカ:フッ。シンジはアタシのものって、わからせてあげる。

マナ:全面対決ねっ!(▼▼)

アスカ:望むところよっ!(▼▼)
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