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エヴァ学園は大騒ぎ!
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BY たっちー



10時間目 「球技大会で一騒ぎ(前編)」







「ほな、球技大会での参加種目を決めたいと思います〜」

5月中旬のある日、黒板の前に立ったトウジがいささか気だるそうな声でそう言った。
体育祭実行委員に選ばれたことに文句は無いがこういう司会進行役と言うのは苦手だ。

イインチョが代わりにやってくれればええのに・・・。

トウジはそんなことを考えたが、球技大会と体育祭に関してのHRは実行委員であるトウジが司会をやるしかな
い。もっとも、ヒカリは自ら書記を買って出て、トウジの後ろでチョークを構えていた。
必要とあればいつでもトウジをフォローできる構えだ。

「え〜、先ず種目は男女別のバスケ、バレー、女子はバスケ、バレーです。
 あと、男女混合でソフトボールとテニスのダブルスがあります。
 全部に参加するんは人数的に無理やから、まず参加する種目を決めよ思います」

慣れない言葉遣いで進行するトウジ。脇ではまだ教育実習にきているミサトが何故かニヤニヤ笑いながら見てい
た。実習が始まって2、3日後には英語の授業も担当するようになり、担任の老教師がほとんどすべてミサトにま
かせているため、事実上ミサトが1−Aの担任のようになっていた。

話は変わるが、高等部の球技大会の内容はと言うと。
試合はすべてトーナメントで行なわれる。
それぞれの競技で上位に入れば点数が入り、その総合得点で優勝クラスを決めるわけだ。
なお、バスケ部、バレー部およびテニス部に所属する者は自分が所属する部活の種目に参加することが禁じられ
ている。野球部員のソフトボール参加も禁止。部活をやっていない学生との実力差がありすぎるからだ。
そして、このHR以降の10日間は大会が近い部活以外は休止となり、グラウンド、体育館、テニスコートなどは球技
大会の練習に使われることになっていた。

閑話休題

さて1−Aの参加種目はどうなったかというと。
どの種目に参加するかで意見が割れたのだが、最終的にはソフトボールとテニス、さらに男子がバレー、女子がバ
スケという事になった。

「ほな、参加したい種目がある人は手ぇ挙げてください」

トウジのその言葉を聞いて競うように2つの手が挙がる。

「「は〜い、アタシ、テニスに出ま〜す」」

声があがったのはシンジの両隣。つまりはアスカとマナ。

「え、あ、テニスは混合ダブルスだけやからお前ら二人が組んで出るわけにはいかへんで」

「「「あまり前でしょ!!」」」

言わずもがなのことを言ってトウジはアスカとマナの二人に加えてヒカリにまでつっこまれる。

「んなこと言うたかて、男子が誰も出ん、言うたらテニスには参加できへんで」

トウジの言葉に反応するようにマナとアスカは同じ人物の方を見た。
正確に言えばその当人以外の全員の視線がその男子生徒に向いている。

「え、えと、僕は・・・、・・・はい、テニスでいいです」

クラス中の視線を浴びたシンジはそう言っておずおずと手を挙げた。
もちろんシンジ自身はテニスに出たいわけではない。
しかし、この雰囲気の中で「いやだ」と言えるシンジではない。

「ほな、テニスは、・・・どっちがシンジと組むんや?」

一人だけクラスの雰囲気に気付いていない――正確にはそんな余裕が無い――トウジが話を進める。

「「もちろんアタシよね」」

アスカとマナの声がまたも見事にユニゾンする。

「なによ、あんた」

「あなたこそ遠慮してくれない?」

シンジをはさんでにらみ合うアスカとマナ。

「あ〜、どないしたらええんや」

頭を抱えるトウジ。

「シンジが選べばすむ事じゃないか」

トウジが困っているのを見かねたわけでもないだろうがそう提案したのはケンスケだった。
その言葉には多分に呆れている響きが含まれていた。

アスカが転校してきて以来繰り返されてきたシンジをめぐるアスカとマナの争いは激化する一方だった。
特にシンジとアスカがデート(?)してからのこの2、3日はすさまじいものがあった。
一応、アスカはマナが「シンジの彼女」であると口では認めているし、自分のことは「ただの幼馴染」だ。
しかし、その行動を見ていると――少なくともケンスケには――そう考えているようには見えなかった。
まあ、幼馴染が自分の良く知らない女の子に取られるのが嫌なだけという可能性も無いでもないが・・・。
しかし、この状態は身近にいる者にとってはたまったものではない。
特にケンスケはクラスだけでなく同好会でも一緒なわけで、いいかげんうんざりしていたのだ。
そこで、シンジが何か意思表示をしてくれないかとあのような発言をしたのだが――

「え? え、あ、いや、その」

マナを見、アスカの様子をうかがい、周囲の視線に萎縮し・・・。シンジに意思を示せというのは無理な話であった。

「シンジ、わたしと出るよね?」

「何言ってんのよ、シンジはアタシと組むに決まってるじゃない」

結局、言い争いを始めるマナとアスカ。

「あ〜、どないしたらええんや」

再び頭を抱えるトウジ。

「ここはジャンケンかなんかで・・・」

仕方なく事態の収拾を図ろうとするヒカリ。しかし、彼女の言葉は途中でミサトに遮られた。

「ちょっと待って、洞木さん。ここはやっぱ勝負して決めたらどうかしらん?」

「勝負?」

「そ。アスカとマナちゃんがテニスで勝負して勝ったほうがシンジ君のパートナーってことでどう?」

「葛城先生がそう言うなら・・・」
「まあ、ワイはかまいまへんけど・・・」

そう言ってヒカリとトウジはチラリとアスカとマナのほうを見やった。

「いいわよ、やってやろうじゃない」

「私もかまいません」

二人とも自信に溢れている様子を見てトウジは何故か溜息をつきたくなった。

「ほな、勝ったほうがシンジと組むってことで・・・」

トウジが話をまとめようとしたときだった。

「ちょっと、待った〜!!」

まるで、一昔前の合コン番組のような言葉とともに立ち上がった男子がいた。
クラスの視線がその褐色の肌の男子に注目する。

ムサシ・リー・ストラスバーグ

シンジたちの入学と時を同じくしてやってきた留学生である。

「俺もテニスに出たいぞ。中学生のときやってたしな」

妙に流暢な日本語でそう言って胸を張るムサシに、

「別にテニスに二組出ても問題はあらへんけど、自分のパートナーはどうするんや?」

「女子は二人やるって言ってるじゃないか」

「まあ、せやけど。ほな、どっちか・・・、霧島と惣流の負けた方と組むってことでええか?」

「いや、どうせならこっちも勝負しようぜ。男女それぞれで勝った者同士が組むってことでどうだ?」

「まあ、ワイはかまへ「「ちょっと待って!」」

トウジの言葉は途中でマナとアスカの声によって遮られた。

「あんた、何勝手なこと言ってんのよ? アタシはシンジと組むの!」

「シンジとペアになるのはわたしです!」

「なんですって〜!!」

声をそろえてムサシに異議を唱えたアスカとマナだが、またすぐに言い争いを始める。

「ああ、もう、ええ加減にしてくれ・・・」

嘆きまくるトウジ。ケンスケをはじめ、あきれ返るクラスメート。
ニヤニヤ笑っているミサト。
ムサシは渋い表情を浮かべて頬を掻き。
もちろん、シンジはどうしていいかわからずおろおろしていた。

事態の収拾がつかなくなったその時、

「二人ともいいかげんにして!!」

ついに委員長・ヒカリがキレた。

「そんなこと言ってたんじゃ話が進まないでしょ! 男女それぞれ勝負して勝った者同士・負けた者同士がが組む。
 それでいいわね!?」

「「でも、ヒカリ」」

「デモも、ストもないわ! 二人ともわかった!?」

「「・・・わかったわよ」」

ヒカリのあまりの剣幕にマナもアスカもしぶしぶ頷いた。

「ん〜、でも霧島も惣流もシンジと組みたいわけだから、それって何か変じゃないか?」

せっかくまとまりかけた話をのほほ〜んとした声でかき乱したのはもちろんというべきかケンスケだった。

「じゃあ、どうしろっていうの?」

そう言うヒカリの声は結構怖かった。少なくともシンジとトウジの二人にとっては。
しかし、ケンスケはそんなヒカリの様子に気付いているのかいないのか、平然とある提案をした。

「いや、勝負すること自体はいいんだけどさ、男子の方が先にやったらシンジが勝ったか負けたかはあらかじめ
 勝負する前に二人にわかっちまうわけだろ? だから勝負は先に女子の方がやること。あと、俺としては女の
 子の希望を優先すべきだと思うんだな。どうやら霧島も惣流も自信満々のようだからな。勝った方とシンジが
 ペアになれる確率が高くなるようにムサシにはハンデを付けたい。それでどうだ?」

「どうだって言われても・・・、鈴原はどう思う?」

どう答えていいのかわからず、ヒカリはトウジに話を振った。

「どう思うって言われてもやな〜。まあ、女子からやるっちゅうんは文句無いけど、ハンデつけるんは不公平や
 無いか?」

「じゃあ、こういうのはどうだ? このクラスの雰囲気の中、あえてテニスに出るということはそれだけ自信が
 あるんだろ? なら、シンジに負けたら何か罰ゲームをってことでどうだ?」

そう言ってケンスケはニヤリと笑った。
理屈になっていないのはケンスケ自身わかっていたが、こうでもしないと面白くない。

「罰ゲームなあ」

なお渋るトウジだったが、当事者であるムサシはあっさりと、

「罰ゲーム? いいよ。受けてやろうじゃないか」

と受けてみせた。

「まあ、本人がそう言うんやったら、ワイはかまへんけどな。それでどんな罰ゲームやってくれるんや?」

「俺に訊くなよ。誰か決めてくれ」

苦笑したのはムサシ。罰ゲームを受ける側の彼に罰ゲームの内容を決められるわけがない。

「それはもう考えてあるぜ。負けたら、同好会「ネルフ」に入ってもらうってのはどうだ?」

そう言ったケンスケではあるが、本気ではなかった。というより完全に冗談のつもりで言ったのだ。
ただでさえ、シンジをはさんで霧島と惣流がいがみ合っていて、さらに「ネルフ」に行けばそこに綾波までが加わる
わけで。これ以上騒ぎを大きくさせるような人物に入部してほしくはない。ケンスケにしてみればこんなバカらしい
罰ゲームは拒否されるに決まっているからその時に自分の考えていた本当の罰ゲーム案をあかすつもりだった
のだ。その方が意見が通しやすい。しかし、ケンスケはある人物の存在を忘れていた。

「いいじゃない、それ。それで行きましょ♪」

そう言ってはしゃいだのはミサト。
「ネルフ」現会長としては部員が増えることは大歓迎だ。もちろん、酒の肴になる程度のトラブルが増えることも。
つい先日までシンジの「浮気」を怒っていたくせに自分が加持と仲直りした途端、これである。勝手なものだ。

「それでいいなら俺はかまわんよ」

ムサシはそう言うと肩をすくめた。





「・・・さて、帰るか」

そう呟いてシンジは重い腰を上げた。
その後の話し合いでシンジとムサシ、アスカとマナの勝負は3日後の土曜日と決まった。
シンジの勝ち目はまず無い。
アスカやマナの期待が大きいだけにシンジの気は重かった。

と、立ち上がったシンジの両脇に人影が。

ガシッ!

いきなり両腕を拘束されるシンジ。

「「シンジ! 今から特訓よ!!」」

もちろんシンジの腕を掴んでいるのはマナとアスカの二人なわけで。

「え? ええ!? ちょ、ちょっと・・・」

そして、シンジはそのままズルズルと引きずられていった。


「・・・やれやれ」

他のクラスメート同様、その光景を呆然と見ていたケンスケは3人の姿が見えなくなってしばらくしてからようやく
再起動を果たした。トウジは未だに呆然としたままだ。

「やれやれ、まるで米軍に捕まったグレイ型宇宙人みたいだったな」

一般人には良くわからない感想を呟くと、ケンスケは席を立ってムサシに近寄っていった。

「ちょっといいか?」

そして、ケンスケが近寄っていったことに気付かなかったのか、気付かないふりをしているのか、さっさと帰ろうとし
ているムサシに声をかけた。

「ん? 何か用か?」

「ああ、さっきの罰ゲームの話なんだが・・・。ホントにあんなので良かったのか?」

「良かったのかって・・・、提案したのは相田じゃないか」

「冗談のつもりだったんだよ。ミサトさんがいるのを忘れてたんだ」

「まあ、どうでもいいさ。負けることはないだろ」

お気楽な調子で答えるムサシにケンスケはちょっと眉をしかめた。

「甘いな。俺がこんなことを言うのもなんだが、ミサトさんは部員を獲得するためなら手段を選ばない人だぞ」

「・・・噂には聞いてるがそんなにすごいのか?」

「まあな。まあ、お前さんは霧島の近くにいる時間が増えるから仮に負けたとしてもそれはそれでいいんだろうが」

ケンスケの言葉にムサシが初めて動揺を見せた。

「な! なんでそれを・・・」

「俺をトウジやシンジといっしょにするな」

ケンスケはそう言うとニヤリと笑った。
その言葉にムサシはわずかに赤くなりながら肩をすくめた。

「ばれてるのなら仕方ない。でも、実はな・・・・・・」





シンジを引っ張ってテニスコートにやってきたアスカとマナは呆然としていた。
高等部用のテニスコートは球技大会にむけて各クラスへの割り当てがすでに決まっていた。
そして、シンジたち1−Aが練習に使えるのは来週の月曜日。つまり、マナとアスカの勝負が終わった後だ。
中等部はテニス部の大会が近いためコートを解放していないし、大学はテニス関係の部活や同好会が乱立してい
るため、常に予約でいっぱいだ。シンジを特訓するためのスペースなど校内にはまったくなかったのだった。
ちなみに、勝負を行なう予定の土曜日はコートは自由に使えるはずだった。

「む〜〜!! やめた! アタシ、帰る!」

キレたアスカはそう言うとシンジとマナを残してさっさと帰ってしまった。

「・・・困ったね、シンジ」

「・・・そうだね」

曖昧に笑うしかないマナとシンジだった。



その頃、ミサトはというと、

「ねえ、リツコ。運動能力を上げるような薬ってちょちょいとできないかしら?」

同好会「ネルフ」部室の地下にある秘密の実験室で何かやっていたリツコにそんなことを尋ねていた。

「・・・ミサト? そんなもの、そう簡単にできると思ってるの?」

こめかみを指先で抑えながら、リツコは眉をしかめてそう答えた。
作ろうと思えば作れないことはない。いや、探せば棚のどこかに試作品が眠っているはずだ。
しかし、ミサトにそれを渡した場合、どのような事態が起こるのか。
嫌な予感がしてならないリツコだった。

「ん〜、ちょっち、必要なのよ。実はね、かくかくしかじかなわけ」

ミサトは部員を増やせるかもしれない、と事情を話した。
普通にやってもシンジの勝ち目は薄い。ドーピングすればシンジが勝てるかもしれない、と。

「それにリツコだって自分の作った薬の効果、人間で試したくはないの?」

ミサトのこの一言が効いた。リツコとて人体実験はやってみたい。
しかも、何かあっても責任はミサトに押し付けることができるかもしれない。
一瞬でそう計算したリツコは、内心嬉々としながらも表面上は渋々と、

「仕方ないわね。明日までに用意しておくわ」

と約束したのだった。







続く


次回予告

テニスの混合ダブルスで誰と誰がペアになるかを決める勝負がついに始まった
互角の勝負を繰り広げるアスカとマナ
そして、ついにシンジはムサシと対決する
果たしてシンジはムサシに勝つことができるのか?
そしてシンジとペアになるのはどっち?

11時間目

「球技大会で一騒ぎ(後編)」

シンちゃん、部員獲得のためにも頑張ってねん♪

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後書き

どーも、たっち―です。
話が長くなってしまったので前後編に分けることにしました。ご了承ください。
あと、今回登場したムサシ君ですが、性格はオリジナルです。
というか、鋼鉄中の性格ってわからないし。
ま、それはさておき。
ついにアスカとマナの全面抗争が勃発しました(^^)
さてさてどうなりますやら。

それでは。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

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マナ:幼馴染だけのくせに、なんででしゃばんのよっ!

アスカ:あーら。へたっぴのアンタが出るつもり? やめてほしいのよねっ!

マナ:わたしは、カ・レ・シのシンジとペアを組みたいだけよっ!

アスカ:そーんな浮ついた気持ちで、出て欲しくないのよっ!

マナ:じゃー、あなたはどういうつもりよっ!?

アスカ:モチっ! 勝つつもりよっ!

マナ:それじゃぁ、ムサシくんと組んだらぁ?

アスカ:シンジと出なきゃ意味ないでしょうがっ!

マナ:ほーら。やっぱ、そういうつもりじゃない。

アスカ:くっ! この決着は、テニスでつけてあげるわっ!

マナ:望むところよっ!
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