ねぇ、アスカ?

 なに?

 もし・・・世界が平和になって、エヴァがこの世に必要なくなったとしたら・・・



         ・・・僕等は一体なにをすればいいのかな・・・?






                <時の流れの中で>





 ベランダの手摺に寄りかかりながらシンジが尋ねた。

 星空というものは人を物思いにふけさせるものなのかもしれない。

 夜空を見あげる二人。

 いつもより綺麗な星空といつもと変わらぬネオン街


 「・・・なによ?いきなり?」

 「急に気になったんだ。これからどうしたらいいのか、って・・・。」

 「・・・。」

 「これからどうなるのか、って・・・。」

 ふぅっ、っとため息を吐くアスカ。

 まったくこの男はいきなりなにを言い出すのか・・・。

 「・・・・さぁね〜?」

 「さぁね・・・って・・・。」

 「そりゃ一応最高機密ってやつだろうからね、アレに乗っておいて後々なんの処置もなし
  ってことはないでしょうね。
  ・・・もしかしたら一生ネルフ関係の施設に閉じ込められちゃったりして?」

 ワザと不安を煽り立てるようにして言った、アスカにしてみればそんな話などどうでもよかった、
  これから自分がどうなるかいくら考えてみたところで未来のことなんかわかりはしない。
 それよりもシンジをからかうことの方が彼女にとっては優先だった。

 「えぇっ!?そうなのかな・・・もしそうだとしたら・・・どうしよう・・・」

 外界から隔離された施設に半ば軟禁されている将来の自分の姿を想像するシンジ。

 暗い部屋、生きていくのに最低限必要な家具・・・小さな窓に・・・厳重にロックされた扉。

 その部屋に、たった一人。シンジ一人。

 「あぁ・・・」

 重いため息をつく。僕の人生は終わった・・・。そう彼は悟った。

 「いくらなんでもあんまりだよ・・・。」

 と、その横で笑いを必死にこらえるアスカ。
 アスカにしてみれば面白くってたまらない。   

 『なんでこの男はアタシの思った通りに動いてくれるんだろう?』

 と。

 「アンタ、バカァ?冗談に決まってんじゃない。」

 「で、でもそういう可能性がないとは言い切れないだろ?」

 「そりゃ可能性がないとは言い切れないけど・・・、とにかく!先のことなんか考えたって仕方ないのよ!」

 「う〜ん。」

 なかなかはっきりした態度をとらないシンジにアスカは腰に手を当てて更に言った

 「特にアンタはねっ!ウジウジウジウジ悩むだけじゃない!?」

 「そりゃ、そうかもしれない・・・けど・・・。」

 『アスカには勝てないなぁ・・・』としょんぼりするシンジを尻目にいたずらげに微笑むアスカ
 彼女の頭の回転は速い、シンジのからかい方などほんの数瞬で思いつく。

 無論、シンジが単純だということも大きな要因として挙げられるのだが・・・。

 「ふふふ、なに落ち込んでんのよ?冗談よ、冗談。 ホント、アンタってからかい甲斐があるわね。」

 「ひ、酷いよ!真面目な話をしてたのにさ・・・。」

 「ほらぁ、それくらいで怒らない♪怒らない♪」

 「ちぇっ!」

 「あれれれ?シンちゃん拗ねちゃったのかなぁ〜?」

 「・・・フン・・・。」

 「仕方ないわね、アンタがこれからどうすればいいのか、このアタシが教えてあげようか?」

 「・・・ホント?」

 「まずアンタはこんなところで夜更かしせずに直ぐに寝なさい、そして明日の朝、早起きして
 アタシの分の朝ご飯と、アタシが入るお風呂の準備をすること! これがアンタがするべきことよっ!」

 「・・・・。」

 勝ち誇った顔をしているアスカを見てシンジは思った。

 『・・・アスカには一生勝てないのかなぁ・・・。』

 と。

 「なによ・・・?文句あるっての?」

 「・・・だってそれっていつも僕がしてることじゃないか?」

 「いつもやってるなら明日もやるべきでしょ!?」

 「・・・少しは真面目な話をしてたのに、結局こうなるのか・・・。」

 「そう、それがアンタの運命よっ!」

 「はぁぁぁ・・・。オヤスミ、アスカ。アスカもあまり夜更かしてないで寝たら?」

 「ハンっ!こんな気持ちのいい夜に早く寝る奴なんてバカよ、バカ!」

             ・・・・・・。

 『それじゃ僕はバカかよ?だいたいアスカが早く寝ろって言うから・・・』

 と口からでかかったシンジだが、

 『ここでアスカに口ごたえしてアスカの機嫌を損ねる奴こそ真のバカだ。』 

 自分にバカの烙印を押されるのも嫌な気がしたが、せっかく上機嫌でいるアスカの
 機嫌を損ねることに比べれば・・・。

 『僕も利口になったもんだなぁ・・・。』

 そう悟るとシンジは部屋の中に入っていった。

 一人、ベランダに残ったアスカ。

 風が吹く

 虫の声

 今夜はホントにいい夜だ。

 手摺に寄りかかって夜空を仰ぎ、満点の星空が迎える。

 「あ〜、ホント気持ちいいわね。こんな良い夜に早く寝なきゃいけないシンジが不憫でしょうがないわ。」

 寝なきゃいけない・・・この言い回しから察するに彼女にとってシンジが風呂や食事の準備をするのは
 当然の事なのだろう。

 なぜか?

    今までずっとそうだったのだから・・・。そうこれからも。


 そういえば、アイツ。なんて言ってたんだっけ? これからなにをすればいいのか? だっけ?

 「・・・なにをすればいいのか・・・か。」

 なにをすればいいのか・・・実際彼女はそんなことを一度も考えたこともなかった。

 今はエヴァに乗って、そして使徒を倒して・・・そして・・・

 その後・・・

 その後・・・

 ・・・・・・

 ・・・その後ぉ?

 「・・・わかんないわよ、そんなこと」

 物思いにふけるにはとても良い夜だった。・・・そう、思わず夜更かししてしまうくらい・・・。




 一方、言われた通りに部屋に戻ってシンジはベットに寝転んでいた

 「・・・何をすればいいのか、か。」

 特にやりたいことがあるわけじゃないよな・・・

 ・・・。 

 これからのことか・・・

 アスカは『先のことなんか考えても仕方ない』って言ってたけど・・・

 考えたことないのかな?

 『先のことなんか』・・・か。

 先のこと・・・将来のことか・・・。

 ・・・これからの運命ってやつかな。

 そういえばさっきアスカは僕がアスカのお風呂の準備をしたり、食事の準備をすることが
 僕の運命だって言ってたな。

 ・・・アスカの身の回りのお世話が僕の運命かよ・・・

 もちろん冗談なんだろうけど・・・。

 ・・・。

 冗談だよね・・・? 

 ・・・なんか冗談に感じられなくなってきたな・・・。

 アスカと出会ってからずっとだな・・・。お風呂や、食事や、お弁当。
 洗濯や買い物まで僕がやってるんだし・・・。

 まさか、これが僕の運命!?

 ・・・なわけないか。 

 けど

 ホント、アスカの世話は今までよくやったよなぁ。
 色々手を焼いたこともあったな、まったく。
 僕に文句ばっかり言うんだもんなぁ。

 たぶんこれからも・・・。

 ・・・。

 これから?

 これからって・・・いつまで?     

 ・・・流石に一生ってことはないよな・・・。

 ・・・。

 ・・・ないよね?

 ・・・・・・・・。

 ・・・うん、流石にないだろう。

 いつか僕はアスカにお風呂を準備したり、食事の準備をしたりしなくなるんだろうな・・・。 

 ・・・。

 ・・・。

 もういいや、今日は早く寝よう。明日もお風呂と朝ご飯、それにお弁当の準備が僕を待ってる。




          明日はアスカに何を食べさせようかな・・・。 





 朝、シンジは既に食事の準備や風呂の用意等の『朝の日課』を済ませイスに座っていた。


 「・・・毎朝早く起きて、ご飯を作ってお風呂を入れて・・・。なんでこんなことしてるんだろ?」

 自分のことなのにわからないってのはおかしな話だな。

 「・・・この天井ももう見慣れたな・・・でもいつまでこの天井を見ていられるかわからないんだよな。」

 きっと、いや必ずここを出て行く日が来るだろうから・・・。

 ・・・いつになるかわからないけど、ミサトさんやアスカとも会わなくなるんだろうな・・・。

 そんなことをシンジが考えている最中

 スッと襖が開きアスカがでてきた、少し不機嫌そうな顔をして・・・。

 「おはよう、アスカ。」

 「・・・。」

 「どうしたの?」

 「寝不足よ、ね・ぶ・そ・くっ!!」

 「だから早く寝たほうが・・・」

 「アンタのせいよっ!!」

 「ぼ、僕のせい?」

 「アンタが昨日の晩余計な事言うからあのことが気になって眠れなかったじゃないのよっ!?」

 「そんなこと言われても・・・。」

 どうやら結局アスカの機嫌を損ねてしまったらしい・・・。

 『アスカのために早く寝て、アスカのために早く起きて、アスカのためにご飯を作り、
  アスカのためにお風呂を入れて・・・そしてアスカに怒られて・・・。』

 『あぁ・・・あんな質問するんじゃなかった。』

 『でも、大切なことのような気がする。将来のことがまったくわからないなんて深刻な問題だよ。』

 『いや・・・。』

 『アスカの機嫌を損ねてしまうことのほうが余程深刻な問題か・・・。』

 シンジはしばらく将来どうするのか? 

 ということより  

 アスカの機嫌を損ねないためにはどうすればいいのか?

 ということを考えることになった。

 ・・・。 

 否、考えざるを得なくなった。

 ・・・。

 ・・・無論、答えなど見つかるはずもないのだが・・・。







 その日、学校では将来のことを考える授業なんてのがあった。

 自分の将来について考えてることを作文にして・・・

 どうするかな・・・。書けないよ、そんなこと。

 始まって5分ほどで鉛筆が止まってしまう。

 ふと周りを見ると皆真剣に原稿用紙に向っている。いつもはお調子者のトウジも
 真面目な顔をして黙々と鉛筆を滑らせている。

 ・・・皆将来のこと考えてるんだな・・・僕だけか、何も考えてないのは・・・

 結局シンジは当たり障りのない文章で原稿用紙を埋めて提出することにした。

 「ケンスケ。」

 「ん?どうした?」

 「さっきの授業の作文のことなんだけど、書けた?」

 「そりゃ一応はな、シンジは?」

 「それが全然書けなかったよ・・・皆ちゃんと将来のこととか考えてるんだね
  ・・・僕だけか、まるで考えてなかったのは・・・。」

 なぜだか慣れ親しんできたクラスメイト達が急に遠くに感じられた
 悩みなんて無い様に談笑する彼らも本当は自分の将来に悩み、考えてるんだと感じた。

 「そんな真剣に悩むなよ、どうせ将来のことを考えなきゃいけない時なんてまだまだ先のことだろ?」

 「でも皆はわかってるのに僕だけわからないのはやっぱおかしいと思う。」

 「気にするなって、やりたいことなんてすぐに見つかるさ。今はわからないだけで。」

 「・・・そうだね、ありがとう。ケンスケ。」

 「そんなことより飯にしようぜ。」

 「あ、そうだね。ちょっと待って、アスカにお弁当渡しておかないと。アスカぁ?」

 「あ、そこに、アタシの机に置いといて。」

 「わかったよ。」

 アスカの机に弁当を置き、シンジはケンスケやトウジと屋上に行った。

 「しかしシンジも大変だな?」

 「なにが?」

 「だって毎日惣流の分の弁当まで用意してるんだろ?」

 「そうなんだよな、アスカは僕のこと家来かなんかと勘違いしてるんじゃないかと思うよ、まったく。」

 「今のうちから尻に敷かれてるようじゃ先が思いやられるなぁ〜?」

 「これじゃ夫婦喧嘩もできへんやろぉ?」

 「な、なにいってんだよ!?もぅ!からかうなよな!?」

 ハハハ、と笑いながら3人は屋上への階段を昇った。

 その後何事もなく学校は放課となり、(アスカとシンジの痴話喧嘩程度はあったようだが・・・。)
 家に着いたシンジはまず弁当の容器を洗い、次に夕食の準備をして、更に・・・。
 家に着いたアスカはまずゴロゴロして、次にゴロゴロして、更に・・・まぁつまりシンジは家事を行い
 アスカはゴロゴロする、これが普段の葛城家の日常なのだろう。

 そしてしばらくして家事を終えたシンジは部屋に戻り、アスカは・・・いつもなら未だにゴロゴロ。
 たまにシンジに『暇ぁ〜』と絡む程度。だが今日は少し違った。


 「ちょっと、シンジ!?」

 部屋の外からアスカの声がする、シンジが襖を開けるとアスカが仁王立ちしていた。

 「このカメラ壊れちゃったみたいなのよ、ちょっと見てくれない?」

 といって一台のデジカメを差し出すアスカ。つい最近アスカが買ったものだ。
 アスカが言うには電池を取り替えたのに電源が入らないらしい。

 「じゃあ、ちょっと貸してくれる?」

 「あ・・・だ、駄目よっ!」

 「・・・へ?そんなこと言ったって手にとって見なきゃなんとも・・・。」

 「駄目だっていってるでしょっ!?他に方法を考えなさいよっ!」

 「んな無茶な・・・大体なんで見ちゃいけないんだよ?」

 「加持さんとの写真が入ってるの!それをアンタに見られるのは恥ずかしいのよっ!」

 ・・・。 

 ・・・なんだそれ?

 そんな理由かよ・・・。

 「・・・じゃ無理だよ。」

 「え?」

 「手に取ってみないと僕にはわからないし、・・・大体アスカのカメラだろ?」

 「なんですって!?」

 「アスカと加持さんの写真なら・・・アスカが自分で直せばいいじゃないかっ!?そんなこと
 僕に頼むなよっ!!」

 「・・・!!もういいわよっ!バカ!!」

 バン!とシンジの部屋の襖を閉めるアスカ


 シンジは自室のベットに再度寝転ぶ、どうもイライラして仕方が無い。

 「くそ、なんで加持さんとアスカの写真のために僕が直してあげなきゃいけないんだよ・・・」

 大体アスカはワガママ過ぎるんだ、触りもしないで治せだなんて。そんなことできるわけないじゃないか。

 ・・・。

 ・・・でも、あんな風に言うことなかったかな・・・ 

 大体、なんであんなにイライラしたんだろう・・・。

 ・・・・・。

 アスカのワガママのせい?

 いや、・・・それはいつものことか・・・。

 じゃあどうして・・・。

 ・・・・。

 ・・・・。

 ・・・・。 

 加持さんとアスカの写真だから・・・?

 ・・・・。

 ・・・・とりあえずアスカに謝ろう。あんな言い方した僕も悪いんだし。

 アスカから謝ってくるなんてことはないからなぁ、はぁ・・・。



           ホントにワガママだよな、アスカって。



 ベットから起き上がり襖を開けリビングに呼びかけてみる。  

 「アスカぁ?」

 まだ怒ってるんだろうな・・・。

 「・・・アスカぁ?」

 恐る恐るもう一度。

 ・・・。

 が返事はない。

 いくら不機嫌であっても呼べばそれ相応の返事が帰ってくるはずだった。
『うっさいわねぇ、なによっ!?』 と、いうような感じのものが。


 「居ないのかな?」

 部屋から完全に出てアスカを探すシンジ。リビングの方に足を向ける。

 「なんだ、寝てるじゃないか・・・。」

 テレビの前のクッションの上にうつ伏せになって眠っているアスカ。
 すやすやと心地よさそうな寝息が聞こえてくる

 「ちぇ・・・さっきのことなんて全然気にしてないのかな?一人で深刻に考えてた僕が馬鹿みたいだよ。」

 アスカの傍に置いてあったカメラを手にするシンジ。電源を入れてみようとするが、なるほどたしかに
 電源が入らない。

 「なんでかな?・・・なんだ・・・電池のプラス、マイナスが逆になってるだけじゃないか・・・。」

 電池を入れ替えてスイッチを入れる、今度はちゃんと機能するようだ。

 「まったく、電池が逆に入ってただけなのに人騒がせだよなぁ。」

 カメラを元の場所に置こうとするシンジ 

 が、

 「・・・どんな写真が入ってるんだろう?」

 気になる。

 シンジ自身どうしてこんなに気になるのかわからなかった。

 ・・・ばれないよね。

 こっそりと中の画像を見てみる

 「・・・・あれ?」

 シンジは驚いた。加持の写真なんて一枚も入っていなかったから・・・。

 入っていたのはアスカと友達の女の子が映ってるものや、風景画。それに・・・

 「これは・・・。」

 シンジを特に驚かせた一枚の画像

 腕組をし、唇を尖らせたアスカと、トホホな表情のシンジ。

 二人が、シンジとアスカが一緒に写っている写真だった。

 それはアスカ曰く『試し撮り』の写真だった。

 それはアスカ曰く『すぐに消す』・・・はずの写真だった。

 ・・・。 

 そう、このデジカメを買ってきた日・・・



 『ねぇねぇ、ミサト?試し撮りしたいからちょっと写真撮ってくれない?』

 『いいわよ、じゃアスカ、こっち向いて。』

 『あ、ちょっと待って。・・・シンジ!』

 『なに?』

 『アンタもこっちにきて写りなさいよっ!』

 『なんで?』

 『アンタバカァ?試し撮りに決まってるじゃない!?』

 『だからって僕も写ることないと思うけど・・・。』

 『いちいち細かいこと気にするんじゃないわよっ!さっさとこっちに来ればいいのよっ!』

 『イテテテ!?わかったよ、わかったから耳を引っ張らないでよ。』

 『ほら、もっとシャキッとしなさいよ。』

 『いいじゃないか、細かいこと気にしなくても・・・。イテテっ!?わかったよ、わかったってば!?
  ・・・もぅ乱暴なんだから、アスカは・・・』

 『ふんっ!そりゃすぐに消すけど・・・気持ちの問題よっ!』  

 『もう夫婦喧嘩も終わったかしらん? さ、二人とも、撮るわよ?』



 ・・・・。

 すぐ消すって言ってたくせに・・・。

 この画像を僕に見られるのが恥ずかしかったから、あんな嘘を・・・?

 ・・・・。

 腕を組んでいかにも不機嫌そうに写っているアスカ。その頬がうっすらと赤く染まっているのは
 不機嫌さからだろうか? 

 シンジはカメラの電池をまた逆にして入れ、元置いてあった場所に戻した。

 その横でアスカは静かに寝息を立てている。

 数分前、謝ろうかどうするか悩むアスカが容易に想像できる。悩んでるうちに疲れて寝てしまったのだろう。

 寝ているアスカにそっと毛布をかけるシンジ。

 その寝顔からは何を考えているのか汲み取ることは難しい。
 だがシンジは・・・少しだけ・・・アスカのことと、そして自分のことがわかった気がした。

 これからのことも・・・。ほんの少しだけだけど。




 天井を見上げる。

 いつの間にか見慣れてしまった天井。

 決して自分の意志で来たわけじゃなかった。

 でも・・・

 これからは違う。

 今は自分の意志でここに居たいと思う。




               そう、このワガママなお姫様の傍に・・・。




























                  〜〜〜そして時は流れて〜〜〜
                             <おバカなチョウチンアンコウと哀れな小魚>


 「ねぇ?後悔してない?」

 ウエディングドレスを纏った女性が問う。

 「なにを?」

 その傍らに立つ青年。

 「・・・アタシと結婚すること。」

 「僕が後悔してると思う?」

 青年は優しく微笑む

 「でも、アタシって・・・ワガママだよ?」

 「ハハ、そんなこと僕はよぉ〜く知ってるから安心しなよ。」

 そりゃ10年近く一緒に居ればね、今更多少のワガママ程度で僕が驚くはずないだろ?

 勝ち誇ったような笑顔を見せる青年。

 「じゃぁ・・・。」

 花嫁は頬を赤らめて言う。 

 「アタシ・・・達さ、もう結婚するんだし・・・その・・・お互いに『我慢』はよくないと思うの。」

 「?そうだね。」

 我慢?今までそんなことしてたっけ?
 特に君は・・・我慢どころか本能のまま行動されてきたような気が・・・。
 それを十年ちかく耐え続けてきた自分は我ながら凄いと思うけどね・・・。

 「だから、アタシ・・・手加減しないよ?」

 「へ?」

 「だ・か・ら!もう我慢はしたくないって言ってるのっ!」

 「う、うん。そりゃそうだよね、せっかく結婚するんだもの。」

 「よしっ!アタシはもう『我慢』しないわっ!アタシの本性はまだまだこんなもんじゃないんだからねっ!
  アンタはしっかり『我慢』して一生アタシについてくるのよっ!」

 ・・・な、なにを言ってるんだ・・・。

 ・・・幻聴か?

 ・・・本性?

 ・・・こんなもんじゃない・・・?

 ・・・『我慢』はよくない?

 ・・・でも僕は『我慢』??

 あぁ・・・。

 目眩がするよ・・・。

 「あ、あのさ・・・一つ聞いていい?今まで手加減してたの?その、自分のワガママを通すことを・・・。」

 「アンタバカァ?そんなのあったりまえじゃないっ!」

 あ、あれで・・・。

 うなだれる青年の横で花嫁は勝ち誇ったように笑う。

 タタタ、と青年に駆け寄る花嫁。

 その腕に絡みつく。

 「幸せになろうね?シンジっ!?ねっ?もう逃げようったって遅いんだからっ!」

 「うん。わかってるよ。」

 「あぁ〜、こうして結婚が決まるまで猫を被ってるのは辛かったわ〜。
 どう?チョウチンアンコウに騙された小魚の気分でしょ?」 

 もう一度勝ち誇ったように笑う。

 「そうだね、僕はチョウチンアンコウに騙された哀れな小魚かぁ・・・。これから食べられちゃうんだ。」

 『ふふ、こんなおバカなチョウチンアンコウに騙されるのは僕くらいだよ。』

 チョウチンアンコウという魚は本来雌のみが持つ特殊な触角を巧みに使い獲物を呼び寄せるものだ。
 おそらく彼女は、女が男に本性を隠したまま結婚までもっていくことを
 小魚をだまして捕食するチョウチンアンコウに例えているのだろう。 

 特に『巧みに』獲物を騙す部分がよく似ていると言いたいのだろう・・・。

 だが・・・この青年の腕に巻きついているチョウチンアンコウはとても『巧み』に使ったとは思えない。

 まぁ、そんなものに呼び寄せられた獲物もいるようだが・・・。


 「えへへ〜、覚悟しなさいよ♪」

 より強く腕に絡みつくチョウチンアンコウ、『もう逃がさないぞ!』 と言わんばかりに。 

 そして青年は思ったのだった。

 『やっぱアスカには勝てないね。』

 と。



                      <完>









                    〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜

               ここまでお付き合いただきありがとうございます。
                今回は将来のことについて悩むシンジの話です。
              時の流れの中に生きる二人、常に移り変わり行く世の中。
        立ち止まることも、後戻りすることも許されない中でシンジは何を思うのでしょうか?
                   そして何を決意したのでしょうか?




           まぁ、シンジ如きが何を考えていようと結果は変わらない気がしますが・・・
                なんたって相手があのアスカですから・・・(笑)           
                   では、彼等の幸せを祈って。


             しかしチョウチンアンコウは例えとして不味かったかな(^^;


マナ:チョウチンアンコウ、アスカにぴったりねっ!(^^v

アスカ:もうちょっと、かーいい喩えがあるでしょうにっ!(ーー)

マナ:チョウチンアンコウに騙されて、シンジは一生下僕として暮らすのかしら?

アスカ:シンジはアタシのために生まれてきたのよっ!

マナ:・・・可愛そう。

アスカ:いいの、いいの。アタシと結婚できることが、なによりも幸せなことなんだから。

マナ:その自信・・・どこから来るわけ?

アスカ:モチっ! アタシが世界1だからよっ!

マナ:はぁー。シンジぃ、いつでもわたしのところに来ていいからねぇ。
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