「じゃ、まずアタシを抱きしめて!」

「えぇっ!!」

 

 

カップルゲーム (vol.3)

written by tomas.

 

「だっ、抱きしめるって、ア、アスカを!!?」

「そうよ! ア、タ、シ、を抱きしめてって今はっきり言ったでしょ!! いまさらペンペン抱きしめてどう

するってのよ!!」

「(、、、カァーッ)」

「なに赤くなってんのよ!! そんな顔されたらこっちが恥ずかしくなってくるじゃないの!!」

「だっ、だって、いきなり抱きしめろだなんてそんなことできるわけないよ!!」

「あんたねえ、よりにもよって眉目秀麗、成績優秀、容姿端麗のこの惣流・アスカ・ラングレー様が抱き

しめてもいいって言ってるのよ!! こともあろうかアンタはそれを断ろうって言うの!!?  もう2度

とこんなチャンスはないかもしれないってのに!!」

 

「、、、」

「アスカを抱きしめる」、、、思えばそんなことを夢見たときもあった。

彼女は自分で自分自身のことを眉目秀麗で容姿端麗、などと言っているが、そのことに関してはシンジ

自身もまったく異存はないのだ。とびっきりの笑顔と誰もが振り返るようなスタイルはひとめ見たときから

シンジの心を虜にした。実際彼は彼女よりも美しい女性を今までに見たこともないし、おそらくこれからも

見ることは出来ないだろうと本当に思っている。ひとつ屋根の下で共に生活をしていても知らず知らずの

うちに彼女に見とれてしまっている自分がいる。真っ赤なバスタオル1枚で部屋の中をうろうろされた日に

はその光景が次の日まで頭から離れることはない。そんな日の夜は深夜まで悶々として眠れず、いろいろ

と妄想をたくましくさせることもあった。それでも明け方近くになってようやく眠りにつくと、やがて夢の中に

あらわれるアスカは妖艶な微笑でささやきかけてくれる。

「バカシンジ!!」

 

そう、バカシンジと、、、

「えっ! バカシンジ?」

その一言で我にかえった僕は、目の前に妖艶な微笑みでささやきかける伝説の鬼の姿を見た。 、、、ん?

 

「アッ、アッ、アスカ!」

「な〜にが『アッ、アッ、アスカ!』よ!! アンタ、アタシを無視するなんていい度胸してるじゃないの!!」

 

「ち、違うよ!」

「何が違うって言うのよ!!!」

「だから、え〜っと、その、、あの、、、」

「(ギロッ!)」

いつのまにかアスカは立ちあがっていて、いつもの両手を腰に当てたポーズでズズッと迫ってきた。凄い迫力だ。

 

「ち、違わない、、、」

僕はアスカの迫力に圧倒されてあっけなく降参してしまっ

 

 

「ホンットに普段からボケボケッとしてるんだから、、、 こんなときくらいビシッと決めなさいよ、ビシッと!!」

そう言うとアスカは僕の目の前までやってきて、あぐらをかいて座っている僕のひざの上にいきなり腰を下ろし

た。しかも、こっち向きで。

 

「えっ!?」

 

あまりに衝撃的な出来事で何がなんだかわからなかった。ひざの上にアスカがいる。手を伸ばせば抱きしめ

られる距離にアスカがいる。目の前20cmの距離にアスカの顔がある。その事実が、そしてその圧倒的な存

在感が背筋に冷やっとした冷たいものを走らせる。「オバケじゃないんだから背筋に冷たいものが走るなんて

、、、」と思われるかもしれないが、そのときの僕は確かにそう感じていた。「身の毛もよだつ」そんな言葉が

ぴったりとくるような妙な感覚に一瞬、襲われた。

 

「、、、」

「、、、」

 

二人の間の空気が一瞬のうちに変わってしまった。僕にはそれがはっきりと感じられた。それはおそらくアス

カも感じているに違いない。そして僕はその空気を読み取るために、また、自分の置かれた状況を正確に把

握するために全力をもって五感の全神経を総動員させはじめた。

 

僕のふくらはぎのあたりにちょうどアスカのお尻の感触を感じる。心地よい重さとその弾力がしっかりと僕の

触覚を刺激する。さっき洗ったばかりの乾きかけの髪からはアスカ専用のシャンプーの香りがかすかにただ

よってきて僕の鼻腔をくすぐる。そしてわずかに上気して頬を染めながら上目遣いで僕を見つめるアスカの

いつにない表情が僕の目を引き付けてやまない。聞こえてくるのは大きく高鳴った自分の心臓の鼓動だけだ。

緊張のあまり口の中にはどこかしょっぱいような妙な味の唾液がこみ上げてくる。僕は無意識に(いや、ある

いは意識的だったかもしれないが)それをゴクリと飲みこんだ。

 

「いいんだね。」

そう一言だけアスカに告げると僕はアスカの返事も聞かずに恐る恐る手を伸ばし始めた。

 

僕は両腕をゆっくり広げると、それをそのままアスカの背中の方にまわした。

すぐには抱きしめてしまうこともできずに、両腕がそれぞれアスカの背中と腰に触れるか触れないかという

ぎりぎりのところで震えている。やっとアスカを抱きしめる決心がついたと思っていたのに、いざ行動に出よ

うとするとそれでもなお戸惑っている自分に嫌気が差した。しかも今は尋常な状況ではないのだ。それこそ

自分と同世代の全ての男が泣いて喜ぶであろう状況にいるというのに、自分はまだ踏ん切りがつかないで

いる。このときほど自分の性格を恨めしく思ったときはなかった。

 

そうした僕の心の中の葛藤を知ってか知らずかおもむろにアスカが動き始めた。ゆっくりと僕のほうに体を

傾けるとそのまま額を僕の肩の辺りにうずめた。たったそれだけのことだったが、僕の心拍数は一瞬跳ね

上がった。この状態ではアスカの表情は窺い知ることは出来ない。でもアスカが今、心の中で何を考えてい

るのかは僕のうすいTシャツをとおして伝わってきたような気がした。『グズグズしてないで早くアタシを抱き

しめなさいよ』と。

 

アスカのその行動に後押しされるように、僕はアスカの背中の方にまわしていた手に力を入れ始めた。ゆっ

くりと僕の両腕がアスカの腰に触れる。背中に触れる。髪に触れる。壊れ物をそっと包み込むようにアスカ

の体を自分の腕のうちに収めた。そこまできて僕は一瞬腕の動きを止めた。しかし、すぐに次の欲求が僕

のなかに生まれてくる。もっと強くアスカを抱きしめたい。もっとアスカを感じたい。もっとこうギュッと、、、、

 

つづく

 


アスカ:もうっ! シンジったら、ボケボケっとしてんだからっ! じれったいわねぇ。

マナ:嫌がってるのよ。(ぼそっ)

アスカ:なんですってぇっ! そんなわけないでしょっ!

マナ:そんなシンジを無理矢理・・・かわいそうに。

アスカ:か、かわいそうとは何よっ! 失礼しちゃうわねっ!

マナ:だって、アスカを抱きしめた時、シンジったら鳥肌立ってたわよ?

アスカ:ム、ムカーっ! そんなわけないでしょうがっ!

マナ:だいたいねぇっ! いつもいつも、あなた強引よっ!?

アスカ:いいのよっ!

マナ:開き直ったわねっ。

アスカ:シンジにはそれくらいが丁度いいのよっ。

マナ:それは確かに。

アスカ:わかったぁ?

マナ:よーしっ! わたしも、強引に誘惑しちゃおっと。

アスカ:余計なことするなっ!

マナ:あら? あなたが、強引にしないと駄目だって言ったのよ? わたしも見習うわ。

アスカ:・・・余計な知恵を付けてしまったわ・・・(ーー;;;
作者"tomas."様へのメール/小説の感想はこちら。
YIX11642@nifty.ne.jp

感想は新たな作品を作り出す原動力です。1行の感想でも結構
ですので、ぜひとも作者の方に感想メールを送って下さい。

inserted by FC2 system