僕ならやろうと思えば目をつぶってでもリンゴの皮むきくらいできるのに。

えっ?そんなの無理だって? 、、、よし、やってやろうじゃないか!

たとえ目をつぶってたとしても、こうやって包丁じゃなくてリンゴの方を動かすようにすれば、、、

親指で皮を押し出すような感じかな?

ほら、、、できるもんでしょ。

 

あと、最後の1週。もうちょっとだ。

 

 

 

、、、イテッ!

 

やっちゃった。

 

 

 

長すぎる今日。 (第二話)

written by tomas.

 

 

僕は今、食べ終えたあとの食器を片付けて、それを洗っているところだ。

普段ならこんな時間はないんだけど、今日はアスカが割とあっさり起きてくれたので時間が余っている。

いつもより10分強も余裕がある。

という事は逆にいえば、普段はアスカを起こすのにそれだけの時間がかかってるってこと。

僕の苦労がわかってもらえたかな。

 

当のアスカはというとこちらも時間が余っているようで、リビングでゆっくりとテレビを見たりしている。

ほら、アスカもちょっと早起きするだけでこんなにゆっくりできるっていうのに、、、

ときおり、テレビの音が僕のほうにも聞こえてくる。

『、、、今日は全国的に晴れ間が広がり、穏やかな1日を過ごすことができそうです、、、』

5月だけに五月晴れというヤツかな。

いや、年中夏だから関係ないか。

傘は必要なさそうだな。

 

 

 

、、、よし、これが最後の一枚っと。

僕が最後のお皿を洗い上げたのと同時にアスカの呼ぶ声が聞こえてきた。

「シンジー! そろそろ学校行くわよぉ! アンタも早く来なさいよー!」

「うん、今行くー。」

そう答えた僕はエプロンを脱ぎながら、かばんを取りに行ってそれからアスカの待つ玄関へ。

!ん!?

ああっ、テレビがつけっぱなしだ!

もう! アスカってば頭はいいんだけど、どこか抜けてるんだよな!

 

そう思いながら、テレビを消すときに目に入った画面の右肩には8時05分の表示が。

結局いつも通りの時間ってことか。

 

「おまたせー」

「ったく! もうちょっとさっさと、、、」

アスカがなにやらブツブツ言っている。

 

今日も気分は、、、わりと上々。

なにかいいこと、あればいいな。

 

 

 

 

 

今はアスカと登校中。

1年前には10歩前を歩いていたアスカが今では僕の半歩ななめ前を歩いていく。

1年かかって縮めた距離が9歩と半分。

普通に会話をするのにそんなにおかしくない距離にまでなってきた。

これが二人の今の関係。

たぶん僕らの今の関係。

二人肩を並べて歩くのも、そんなに遠い日のことではない、、、と思う。

 

 

ふとアスカが僕に話し掛けてきた。

「指、どうしたの?」

「えっ?」

「だから、その、、、、左手の指。」

半歩前を歩くアスカが振り返りもせずにそう言う。

どうやら今気づいたわけではないらしい。

僕のことを気にかけてくれていたのだろうか。

なんだかちょっと、、、、、、いや、なんでもない。

 

「ああ、これね。 今朝リンゴむいてるときに切っちゃったんだ。」

「ふ〜ん。アンタでもそんなことあるんだ、、、それなら少しくらいアタシが切ったとしてもしょうがないってことか。」

ああ、あのことか。

内心僕はすぐに洞木さんの言ってた事を思い出したが、口には出さなかった。

 

が、違う言葉が勝手に口からこぼれていた。

「なに?心配してくれてたの?」

「!、、、バカ。」

ビクッと肩を震わせたかと思うと、そう言ってアスカは歩みを速めていってしまった。

 

照れてるってことは図星ってことか。

なんだかちょっと、、、、、、やっぱり、うれしい。

 

「ねえ、アスカ待ってよぉ!」

僕も早足でアスカを追いかけた。

 

 

 

 

 

学校の下駄箱では今日もいつもの日課が繰り返される。

「ああ、もう、毎日毎日うっとうしいったらありゃしない!!」

そう言ってアスカは下駄箱から流れ落ちる山のようなラブレターを踏みつける。

 

僕は靴を履き替えながら、アスカのそのしぐさを横目で見て一言。

「きっとこれ1枚書くのだってみんな相当思い悩んで書いたんだと思うよ。ちょっとくらい読んであげれば良いのに、、、」

嘘だ。

僕は心にもないこと言ってる。

ホントは読んで欲しくないくせに。

アスカのしぐさにホッとしているくせに。

、、、こんな自分が時々いやになる。

 

 

アスカはそんな僕の心のうちを知るはずもないのだろう。

 

「いいの、いいの。それよりシンジあとよろしく!」

そう一言残すとつま先で床をコンコンとけったあと、先に教室へ行ってしまった。

 

残された僕は後始末をする。

複雑な気持ちで後始末をする。

 

つづく


マナ:アスカでも早起きすることあるんだ。

アスカ:アタシだって、目覚めのいい時くらいあるわよ。

マナ:いつもちゃんと起きたらいいのに。

アスカ:昨日は寝つきが良かったのよ。

マナ:昨日はって・・・、いつも寝る前に何してるのよ?

アスカ:ほっといてよ。

マナ:怪しいなぁ。

アスカ:うっさいわねっ!

マナ:まぁいいけど・・・。それよりさぁ、シンジに後始末させるなんて、ひどいんじゃない?

アスカ:どうしてよ。

マナ:どうしてって・・・普通さぁ。

アスカ:シンジ、嫌だなんて言ったこと無いわよ?

マナ:シンジに来たラブレターを渡されたら、どう思うの?

アスカ:決まってるでしょ。

マナ:なに?

アスカ:出した女全員に、ビンタをお見舞いしてあげるわっ!

マナ:聞いたわたしが悪かったわ・・・。
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